精神科訪問看護を利用する際に適用される保険は、年齢や疾患に関係なく原則として「医療保険」です。介護保険の認定を受けている方でも、精神科の訪問看護については医療保険が優先されるケースがほとんどであり、この点は一般的な訪問看護とは大きく異なります。
自立支援医療(精神通院医療)を併用すると、自己負担は原則1割まで軽減できます。高額療養費制度の対象にもなるため、経済的な負担を抑えながら継続的にケアを受けることが可能です。
この記事では、精神科訪問看護における医療保険と介護保険の使い分けや優先順位、対象疾患、自己負担を減らす方法、利用開始までの具体的な流れまで、解説します。
精神科訪問看護は原則として医療保険で利用する
精神科訪問看護は、年齢を問わず医療保険の適用を受けるのが原則です。一般的な訪問看護では65歳以上の方に介護保険が優先されるルールがありますが、精神疾患を主な理由とする訪問看護は例外として扱われます。
精神科の主治医が発行する「精神科訪問看護指示書」に基づいて行われる看護であれば、国民健康保険・社会保険・後期高齢者医療制度のいずれでも医療保険として給付を受けることができます。
| 項目 | 精神科訪問看護 | 一般の訪問看護 |
|---|---|---|
| 適用保険 | 原則:医療保険 | 65歳以上は介護保険優先 |
| 指示書 | 精神科訪問看護指示書 | 訪問看護指示書 |
| 訪問回数 | 原則 週3回まで | 制限は保険種別による |
医療保険が適用される対象者の条件
医療保険の適用を受けるには、精神科または心療内科の主治医から「精神科訪問看護指示書」が発行されていることが前提となります。年齢の制限はなく、10代の方から高齢の方まで幅広く利用できる点が特徴です。
健康保険や国民健康保険、後期高齢者医療制度など、加入している医療保険の種類を問わず対象になります。生活保護を受給中の方も、医療扶助として精神科訪問看護を利用できる場合があります。
精神科訪問看護指示書がすべての起点になる
精神科訪問看護を開始するためには、主治医が「精神科訪問看護指示書」を訪問看護ステーションへ交付する必要があります。この指示書には、病名・症状・看護上の注意点・訪問頻度の目安などが記載されており、有効期間は原則6か月です。
指示書がなければ訪問看護ステーションはサービスを開始できません。受診中の主治医に「訪問看護を利用したい」と希望を伝えることが、手続きの第一歩になります。
週3回まで・1回30分が基本の訪問ルール
医療保険による精神科訪問看護は、原則として週3回までの訪問が認められています。1回あたりの訪問時間は30分が基本で、病状が不安定な時期には主治医の特別指示により回数や時間を増やせる仕組みもあります。
退院直後など状態が安定しない期間には、週5回までの訪問が認められる「特別訪問看護指示書」が発行されることもあるでしょう。こうした柔軟な対応が可能な点も、医療保険での利用ならではの特徴です。
介護保険で精神科訪問看護を受けられるケースはあるのか?
「介護保険の認定を持っていれば、すべての訪問看護が介護保険で受けられる」と思われがちですが、精神科訪問看護に関しては必ずしもそうではありません。精神疾患を理由とする訪問看護は、介護保険の認定があっても医療保険での給付が優先されることがほとんどです。
65歳以上で要介護認定を受けている場合の扱い
65歳以上の方が要介護認定(要支援を含む)を受けている場合でも、精神科訪問看護指示書に基づく訪問看護は医療保険での給付となります。精神科の訪問看護が「厚生労働大臣が定める疾病等」の対象外でも、指示書の種別によって保険区分が分かれる仕組みになっているためです。
介護保険のケアプランに一般の訪問看護を位置づけつつ、精神科の訪問看護は医療保険で別途利用するという併用パターンも実際には存在します。
40歳から64歳の特定疾病に該当するとき
40歳以上65歳未満の方は、がんや関節リウマチなど16種類の特定疾病に該当する場合に限り、介護保険の第2号被保険者として要介護認定を受けられます。ただし精神疾患(統合失調症やうつ病など)は特定疾病に含まれていないため、医療保険が適用されるのが通常です。
認知症の一部(初老期における認知症)は特定疾病に含まれますが、その場合でも精神科訪問看護指示書が出ていれば医療保険での扱いとなります。
介護保険の認定があっても医療保険が優先される例外
訪問看護の世界では「介護保険が使える方には介護保険を優先する」という大原則がありますが、精神科訪問看護はその例外に位置づけられています。根拠は厚生労働省が定めた告示で、精神科訪問看護指示書による訪問看護は医療保険の給付とすることが明記されています。
この例外規定があるおかげで、介護保険の支給限度額を訪問看護で消費してしまう心配がなく、ほかの介護サービスと自由に組み合わせることも可能です。ケアマネジャーと訪問看護ステーションの双方に、精神科訪問看護が医療保険扱いである点を共有しておくとスムーズでしょう。
医療保険と介護保険が重なるときの優先順位
両方の保険に該当し得る場面では、「介護保険の認定がある人には介護保険を優先する」のが訪問看護の原則です。しかし精神科訪問看護はこの原則の例外にあたり、医療保険が優先です。この例外を知らないまま手続きを進めると、支給限度額を圧迫してしまうことがあります。
原則は「介護保険が優先」だが精神科は例外になる
通常の訪問看護では、要介護認定を受けた方の訪問看護は介護保険で算定するのが基本です。医療保険が優先されるのは、「厚生労働大臣が定める疾病等」(末期がん、ALS、多発性硬化症など)に該当する場合や、急性増悪時に特別訪問看護指示書が出された場合に限られます。
精神科訪問看護はこれらとは別の根拠で医療保険が適用されるため、覚えておくと安心です。
厚生労働省の告示が定める医療保険優先の根拠
精神科訪問看護が医療保険で給付される直接的な根拠は、健康保険法および関連告示にあります。精神科訪問看護指示書に基づく訪問看護は、介護保険における「訪問看護費」の算定対象から除外されているため、結果として医療保険で算定するという構造です。
制度上の位置づけがやや複雑に見えるかもしれませんが、利用者の立場で覚えるべきポイントはシンプルです。「精神科の主治医から指示書が出ていれば、保険は医療保険になる」、これだけ押さえておけば十分でしょう。
医療保険と介護保険を同時に使えるパターン
精神疾患と身体疾患を併せ持つ方の場合、精神科訪問看護を医療保険で、身体面の訪問看護や訪問介護を介護保険でそれぞれ利用するという併用が認められるケースがあります。両方のサービスを組み合わせることで、心身の両面をバランスよくサポートできます。
ただし、同一日に同じ訪問看護ステーションから医療保険と介護保険の両方で訪問を受けることには制限があるため、具体的な組み合わせはケアマネジャーや訪問看護ステーションに確認してください。
精神科訪問看護の自己負担と負担を軽くする公的制度
医療保険で精神科訪問看護を利用する場合の自己負担割合は、通常の医療費と同じく1〜3割です。ただし、自立支援医療(精神通院医療)を申請すれば自己負担を1割に軽減でき、さらに高額療養費制度と組み合わせることで月ごとの上限額を設けることもできます。
医療保険での自己負担割合と費用の目安
70歳未満の現役世代の方は原則3割負担、70〜74歳は2割(現役並み所得者は3割)、75歳以上は1割(同3割)です。精神科訪問看護基本療養費は1回あたり5,800円程度で、3割負担の場合は約1,740円の窓口負担となります。
週3回、月12回の訪問を受けたとすると、3割負担で月約20,000円前後が自己負担の目安になるでしょう。加算項目によって金額は変わりますが、おおよその目安として参考にしてください。
自立支援医療(精神通院医療)で1割負担に抑えられる
自立支援医療制度は、精神疾患の治療にかかる医療費の自己負担を原則1割に軽減する公的制度です。通院だけでなく、精神科訪問看護の費用もこの制度の対象に含まれます。申請はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行い、主治医の診断書が必要です。
世帯の所得に応じて月額の自己負担上限額(2,500円・5,000円・10,000円・20,000円)も設定されるため、家計への影響を最小限に抑えながら治療を続けることが可能です。
自立支援医療の自己負担上限額の目安
| 所得区分 | 月額上限 |
|---|---|
| 生活保護世帯 | 0円 |
| 低所得1(住民税非課税・本人収入80万円以下) | 2,500円 |
| 低所得2(住民税非課税・上記以外) | 5,000円 |
| 中間所得(住民税課税・所得割3万3千円未満) | 5,000円 |
| 中間所得(住民税課税・所得割23万5千円未満) | 10,000円 |
| 一定所得以上 | 20,000円 |
高額療養費制度を活用して月ごとの上限を設定する
自立支援医療を申請していない場合でも、1か月の医療費が一定額を超えたときには高額療養費制度を利用できます。所得区分に応じた自己負担限度額を超えた分が、あとから払い戻される仕組みです。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、医療機関の窓口で限度額までの支払いで済むため、立て替えの負担も軽くなります。加入先の健康保険組合や市区町村の国保窓口で手続きできるので、訪問看護の開始前に確認しておくと安心でしょう。
精神科訪問看護の対象となる疾患と利用できる人
「自分の病名は精神科訪問看護の対象になるのだろうか」と不安に思う方は少なくありません。精神疾患を有する方であれば診断名を問わず利用を検討でき、主治医が「訪問看護が必要」と判断する臨床的な理由があれば、疾患の種類だけで利用を制限されることは基本的にありません。
統合失調症・うつ病・双極性障害など主な対象疾患
精神科訪問看護を利用する方のなかで特に多いのが、統合失調症、うつ病(大うつ病性障害)、双極性障害の3疾患です。いずれも症状の波があり、服薬の継続や生活リズムの維持に専門的なサポートが求められる疾患になります。
そのほかにも、不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、発達障害、てんかん、アルコール依存症、薬物依存症なども対象に含まれます。
- 統合失調症・統合失調感情障害
- うつ病・双極性障害(躁うつ病)
- 不安障害・パニック障害・強迫性障害
- PTSD・適応障害
- 発達障害(ASD・ADHD)・てんかん
- アルコール依存症・薬物関連障害
認知症は保険の種類が変わる分かれ道
認知症の方が訪問看護を受ける場合、保険の取り扱いはやや複雑です。主治医が精神科訪問看護指示書を発行した場合は医療保険扱いとなりますが、一般の訪問看護指示書であれば要介護認定を受けた方は介護保険で利用することになります。
認知症の種類や重症度、主治医の診療科によって対応が分かれることがあるため、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談するのが確実です。
ご家族への支援も精神科訪問看護に含まれる
精神科訪問看護では、利用者本人だけでなくご家族への相談支援も看護の一部として行われます。家族が疾患や症状への対応方法を学ぶことで、本人の回復を支える環境づくりにつながります。
たとえば、本人の症状が悪化したときの対処法や、服薬管理のサポートの仕方、家族自身のストレスケアについてもアドバイスを受けられます。「本人が訪問を嫌がっている」という場合でも、まずは家族だけで看護師に相談することも可能です。
精神科訪問看護を始めるまでの流れと相談先
利用開始までの道のりは、大きく分けると「主治医への相談→指示書の発行→ステーション選び→初回訪問」という順番で進みます。手続き自体は比較的シンプルで、主治医が指示書を出してくれれば早ければ1〜2週間で訪問を開始できるケースもあります。
まずは主治医に相談して訪問看護指示書を受け取る
精神科訪問看護を始めたいと思ったら、最初に行うのは主治医への相談です。「自宅での生活で困っていること」「服薬の管理に不安があること」など、訪問看護を希望する理由を伝えてください。主治医が訪問看護の必要性を認めれば、精神科訪問看護指示書を発行してもらえます。
ご本人が受診に同行できない場合は、ご家族が代わりに主治医へ相談することもできます。指示書の発行まで1〜2週間ほどかかる場合があるため、早めに動き出すのがよいでしょう。
訪問看護ステーションの探し方と選ぶポイント
訪問看護ステーションを探す方法としては、主治医からの紹介、地域の保健所や精神保健福祉センターへの問い合わせ、自治体のウェブサイトでの検索などがあります。精神科訪問看護に対応しているかどうかはステーションによって異なるため、事前の確認が大切です。
選ぶ際のポイントとしては、精神科の経験が豊富なスタッフが在籍しているか、自宅からの距離は通いやすいか、対応時間帯が生活スタイルに合っているかなどを確認するとよいでしょう。
初回訪問から定期ケアへの移行
訪問看護ステーションが決まると、まずは看護師が自宅を訪問して生活状況や体調を確認するところから始まります。初回訪問では、本人やご家族の希望を聞き取りながら、具体的なケアの内容と訪問スケジュールを一緒に組み立てていきます。
2回目以降は計画に沿って定期的な訪問が行われ、服薬の確認、症状の観察、生活リズムのサポート、対人関係の相談などを幅広く担います。訪問のたびにケアの内容を見直すため、状態の変化にも柔軟に対応できる体制です。
訪問看護の利用を途中でやめたくなった場合も、無理に継続する必要はありません。主治医やステーションと相談のうえ、回数を減らしたり、一時的に中断したりといった調整が可能です。
地域包括支援センターや保健所も心強い窓口
精神科訪問看護について「どこに相談すればよいかわからない」と感じたときは、地域包括支援センターや市区町村の保健所・保健センターに問い合わせてみてください。精神保健福祉士や保健師が相談に応じてくれます。
精神保健福祉センター(こころの健康センター)でも、精神科の医療サービスに関する情報提供や利用支援を行っています。どの窓口でも無料で相談できるため、ひとりで抱え込まずに気軽に連絡してみましょう。
| 相談先 | 主な対応内容 |
|---|---|
| 主治医(精神科・心療内科) | 指示書の発行、治療方針の相談 |
| 地域包括支援センター | 介護・福祉サービスの総合案内 |
| 保健所・保健センター | 精神保健に関する相談と情報提供 |
| 精神保健福祉センター | 専門的な精神保健の相談支援 |
よくある質問
- 精神科訪問看護は何歳から利用できますか?
-
精神科訪問看護には年齢の下限がなく、小児期から高齢の方まで幅広くご利用いただけます。医療保険が適用されるため、介護保険の加入年齢に達していない若い世代でも問題ありません。主治医が精神科訪問看護指示書を発行すれば、どなたでもサービスの対象となります。
- 精神科訪問看護を利用するために入院歴は必要ですか?
-
入院歴は必要ありません。外来通院中の方でも、主治医が訪問看護の必要性を認めれば精神科訪問看護指示書を受け取ることができます。退院後だけでなく、通院を続けながら在宅生活を支えてほしいという場合にも利用できます。
- 精神科訪問看護と一般の訪問看護を同時に利用できますか?
-
精神疾患と身体疾患を併せ持つ方は、精神科訪問看護と一般の訪問看護を併用できるケースがあります。たとえば、精神科訪問看護を医療保険で、身体面の訪問看護を介護保険でそれぞれ利用するといった組み合わせが認められることがあります。具体的な併用の可否は主治医やケアマネジャーに確認してください。
- 精神科訪問看護の費用を自立支援医療で軽減するにはどうすればよいですか?
-
お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で自立支援医療(精神通院医療)の申請を行います。申請には主治医の診断書、健康保険証、マイナンバーの確認書類などが必要です。認定を受けると、精神科訪問看護を含む精神科の医療費の自己負担を原則1割まで軽減できます。
申請から認定まで1〜2か月ほどかかる場合があるため、訪問看護の開始が決まった時点で早めに手続きを進めておくとよいでしょう。
- 精神科訪問看護ではどのようなケアを受けられますか?
-
精神科訪問看護で提供されるケアは多岐にわたります。服薬状況の確認と助言、精神症状の観察と主治医への報告、生活リズムや睡眠の管理支援、対人関係や社会参加に向けた相談などが代表的な内容です。
また、ご家族への介護指導やストレス対処法のアドバイスなども行われます。看護師や作業療法士といった専門職が自宅を訪問するため、病院では話しにくい日常生活のちょっとした困りごとも相談しやすい環境が整います。
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