乳酸は、AHA(α-ヒドロキシ酸)と呼ばれる酸の一種で、古い角質をやさしく取り除くピーリング作用に加え、美白や保湿にも関わるスキンケア成分です。古代エジプトではクレオパトラがサワーミルク風呂で肌を整えていたという逸話もあり、人類の美容史においてとても長い歴史を持っています。
一方で「乳酸ピーリングって肌に刺激はないの?」「グリコール酸とどう違うの?」といった疑問を感じる方も少なくありません。この記事では、乳酸の基本情報から期待できる効果、正しい使い方、注意点まで、皮膚科専門医の監修のもとでわかりやすく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
乳酸とは ― 古代エジプトから愛されてきたスキンケア成分
乳酸(Lactic Acid)は、自然界にもっとも広く存在する有機酸の一つで、ヒトの皮膚にもともと含まれる天然保湿因子(NMF)の構成成分でもあります。分子量が90.08と比較的小さいため肌への浸透性に優れ、穏やかなピーリング作用と保湿力を併せ持つ成分として化粧品に幅広く配合されています。
乳酸はどこから生まれた?化学的な分類と古い歴史
乳酸の化学式はC₃H₆O₃で、AHA(α-ヒドロキシ酸)に分類されます。牛乳の発酵過程で発見されたのが名前の由来で、現在ではトウモロコシやサトウキビなどの糖質を乳酸菌で発酵させて工業的に生産するのが一般的です。
美容への利用は非常に古く、古代エジプトのクレオパトラが酸味のあるミルクで入浴していたという記録が残っています。近代的な皮膚科学の分野では1970年代からAHAの研究が本格化し、角質除去や光老化の改善に有用であることが確認されてきました。
医薬部外品の有効成分として認められている?
乳酸そのものは、日本では医薬部外品の有効成分としての承認は受けていません。化粧品成分としてピーリングや保湿を目的に配合されるケースが大半です。ただし、pH調整剤や製品の安定化を目的として幅広い化粧品に使われているため、成分表示で目にする機会は多いでしょう。
乳酸の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 化学名 | 2-ヒドロキシプロパン酸 |
| 化学式 | C₃H₆O₃ |
| 分子量 | 90.08 |
| 分類 | AHA(α-ヒドロキシ酸) |
| 化粧品表示名称 | 乳酸 |
| おもな由来 | トウモロコシ・サトウキビの発酵 |
化粧品の成分表示名称を確認しよう
日本の化粧品では「乳酸」の名称で成分表示されます。また、中和した形である「乳酸Na(乳酸ナトリウム)」として配合される場合もあり、こちらは保湿成分としての用途が中心です。
海外製品では「Lactic Acid」や「Sodium Lactate」と表記されるため、輸入コスメを選ぶ際の参考にしてみてください。
乳酸ピーリングで肌はどう変わる?期待できる3つの効果
乳酸には、角質ケア・色ムラの改善・保湿という3つの効果が期待されており、複数の研究でそのはたらきが報告されています。グリコール酸と比べて分子量がやや大きいため、肌への浸透がゆるやかで刺激を感じにくいという特徴もあります。
古い角質をやさしくオフする角質ケア
乳酸はAHAの一種として、角質細胞同士をつなぐ「デスモソーム」の結合を弱め、古い角質の自然な剥離を促します。簡単にいえば、肌表面にたまった不要な角質をやさしく取り除き、ターンオーバーを整えるはたらきです。
Smith(1996)の研究では、5%の乳酸を3か月間塗布したグループで肌のなめらかさが有意に改善し、12%濃度では表皮だけでなく真皮の厚みや弾力にも変化が確認されました。濃度によって作用する深さが異なる点は、成分選びで覚えておきたいポイントといえます。
色ムラやくすみに働きかける美白サポート
乳酸には、メラニンの生成に関わる酵素「チロシナーゼ」の活性を抑制する作用があると報告されています。加えて、角質のターンオーバーを促進することで基底層にたまったメラニンの排出をサポートし、肌全体のトーンを明るく整える効果が期待できます。
Sharquieら(2005)の臨床研究では、肝斑(かんぱん)の患者に乳酸ピーリングを施したところ、MASI(肝斑面積重症度指標)スコアが有意に改善したと報告されています。ただし、これは高濃度の医療用ピーリングでの結果であり、市販化粧品の濃度ではよりおだやかな作用にとどまるでしょう。
セラミド合成を促して肌のうるおいを守る保湿効果
乳酸のユニークな特徴として、角質細胞でのセラミド合成を促進する作用があります。Rawlingsら(1996)の研究では、L-乳酸がケラチノサイト(角化細胞)のセラミド産生を約300%増加させ、角質層のバリア機能を改善したと報告されました。
セラミドは角質層の細胞間脂質の主成分で、肌の水分蒸散を防ぐ「バリア機能」に深く関わっています。乳酸が単なる角質除去剤ではなく、肌のうるおいを内側から支える成分でもあるという点は、あまり知られていないかもしれません。
| 効果 | おもな作用 | 根拠 |
|---|---|---|
| 角質ケア | デスモソーム結合を弱め角質剥離を促進 | Smith (1996) |
| 美白サポート | チロシナーゼ活性抑制・メラニン排出促進 | Sharquie et al. (2005) |
| 保湿 | セラミド合成促進・バリア機能向上 | Rawlings et al. (1996) |
乳酸化粧品の正しい使い方と賢い取り入れ方
乳酸入りの化粧品は、使い方次第で効果の実感が大きく変わります。配合アイテムの選び方から塗るタイミング、相性の良い成分まで、日々のスキンケアに取り入れるうえで押さえておきたい情報をまとめました。
どんな化粧品に配合されている?
乳酸は、ピーリング化粧水・美容液・ナイトクリーム・洗い流すタイプのピーリングジェルなど、多様なアイテムに配合されています。なかでも「拭き取り化粧水」や「ピーリング美容液」に含まれることが多く、洗顔後のファーストケアとして取り入れるスタイルが一般的です。
また、乳酸ナトリウム(乳酸Na)の形で保湿クリームや乳液に配合されるケースもあります。この場合はピーリング目的ではなく、NMFの補給による保湿を狙った処方です。パッケージや成分表をチェックし、自分の目的に合ったタイプを選びましょう。
朝と夜、いつ使うのが正解?
乳酸配合の化粧品は、基本的に夜のスキンケアで使用するのがおすすめです。AHAには角質を薄くする作用があるため、塗布直後の肌は紫外線の影響を受けやすくなります。朝に使用する場合はSPF30以上の日焼け止めを必ず併用してください。
使用頻度は、初めのうちは週2〜3回程度からスタートし、肌が慣れてきたら徐々に毎日使いへ移行するのが安全な進め方です。拭き取り化粧水なら洗顔直後にコットンで、美容液タイプなら化粧水の後に少量をなじませましょう。
| 使用タイミング | ポイント |
|---|---|
| 夜(推奨) | 洗顔後すぐに使い、その後の保湿ケアを重ねる |
| 朝 | 日焼け止め(SPF30以上)の併用が必須 |
| 初期 | 週2〜3回から始めて肌の様子を確認 |
| 慣れてきたら | 毎日の使用も可能(刺激がなければ) |
相性の良い成分・避けたい組み合わせ
乳酸と好相性なのは、ヒアルロン酸やセラミドなどの保湿成分です。


ピーリング後の肌はうるおいが逃げやすいため、保湿成分を重ねることで乾燥を防ぎつつ角質ケアの効果を引き出せます。
ナイアシンアミドとの併用もバリア機能の強化が期待でき、相性が良い組み合わせです。

一方、レチノール(ビタミンA誘導体)やほかのAHA・BHA製品との同時使用は避けたほうが無難でしょう。どちらも角質に作用する成分のため、重ねると刺激が強くなりすぎるおそれがあります。使いたい場合は「乳酸は夜、レチノールは翌朝」のように日を分けるか、曜日で交互に使う方法が安心です。
乳酸を使う前に知っておきたい注意点
乳酸はAHAのなかでも比較的おだやかな成分ですが、すべての肌に合うわけではありません。副作用のリスクや使用を控えたほうがよい場合について確認しておきましょう。
赤みやヒリつきなど副作用に注意
乳酸配合の化粧品では、使い始めに軽い赤み・ヒリつき・かゆみといった反応が出ることがあります。多くの場合は一時的なもので、肌が慣れるにつれて落ち着くとされています。ただし、赤みが長引く場合やかぶれのような症状が出た場合は使用を中止し、皮膚科を受診してください。
初めて使うアイテムは、二の腕の内側など目立たない場所でパッチテストを行い、2〜3日間異常がないことを確認してから顔に塗るのが安心です。
使用を控えたほうがよい人
以下のような方は、乳酸配合の化粧品の使用を避けるか、皮膚科医に相談してからお使いください。肌荒れがひどい状態や炎症ニキビが多発している時期は、角質ケア成分が刺激源になりかねません。
日焼け直後で肌が赤くなっている場合も、バリア機能が低下しているため使用は控えましょう。妊娠中・授乳中の方は、成分の安全性データが限られている場合もあるため、かかりつけ医に確認するのが安心です。
化粧品と医療機関で受けるピーリングの違い
市販の化粧品に配合される乳酸の濃度は、一般的に2〜10%程度の低濃度に設定されています。肌への作用はおだやかで、日常的なケアとして安全に使えるよう設計されています。
一方、皮膚科やクリニックで行う乳酸ピーリングでは、30〜92%といった高濃度の製剤が使われることがあります。高濃度のピーリングは肝斑やニキビ跡などに対する効果が期待できますが、施術後のダウンタイムや副作用のリスクも高まるため、必ず医師の管理下で行うことが大切です。
- 市販化粧品の乳酸濃度は2〜10%程度で、日常使いを想定した処方
- 医療用ピーリングは30〜92%と高濃度で、医師の管理が必要
- 濃度が高いほど効果は強いが、刺激・副作用のリスクも比例して上がる
- 肌に異常を感じたら自己判断せず皮膚科を受診する
グリコール酸やサリチル酸とはここが違う!乳酸との比較
乳酸と比較されることが多いのは、同じAHA仲間のグリコール酸と、BHA(β-ヒドロキシ酸)のサリチル酸です。それぞれの特徴を理解しておくと、自分の肌悩みに合った成分を選びやすくなります。
グリコール酸との違い
グリコール酸はAHAのなかで分子量がもっとも小さく(76.03)、肌への浸透力が高い反面、刺激も強くなりやすい傾向があります。乳酸は分子量が90.08とやや大きいため、浸透がゆるやかで敏感肌の方にも比較的使いやすいとされています。
Yamamotoら(2006)の研究では、グリコール酸と乳酸の両方が基底層のメラニン色素を減少させ、コラーゲン合成を促進したと報告されました。効果の方向性は似ていますが、刺激の感じ方に個人差があるため、肌質に合わせて選ぶことが大切です。
サリチル酸との違い
サリチル酸はBHAに分類され、脂溶性のため毛穴の中まで浸透しやすい特徴があります。ニキビや毛穴の黒ずみが気になる方には向いていますが、乾燥しやすいのがデメリットです。

| 成分 | 分類 | 特徴 |
|---|---|---|
| 乳酸 | AHA | 保湿力が高くマイルド。敏感肌向き |
| グリコール酸 | AHA | 浸透力が高く即効性あり。やや刺激強め |
| サリチル酸 | BHA | 毛穴に浸透。ニキビ肌向きだが乾燥しやすい |
| 乳酸Na | 塩(NMF成分) | 保湿目的で配合。ピーリング作用はない |
乳酸ナトリウム(乳酸Na)との混同に注意
化粧品の成分表示で「乳酸Na」と書かれている場合、それは乳酸を中和した塩であり、ピーリング作用はほとんどありません。肌の天然保湿因子を補う目的で保湿クリームや化粧水に配合されるため、角質ケアを期待して選ぶと想定と違う結果になることがあります。
「乳酸」と「乳酸Na」は一字違いですが用途がまったく異なるため、成分表示をよく確認しましょう。
まとめ ― 乳酸をスキンケアに活かすために押さえておきたいこと
乳酸は、穏やかな角質ケア・美白サポート・保湿という3つの効果を備えた、バランスの良いスキンケア成分です。敏感肌の方でも取り入れやすい一方、使い方を間違えると刺激になるおそれがあるため、正しい知識を持ったうえで活用してください。
- 乳酸はAHAの一種で、穏やかなピーリング作用と保湿効果を兼ね備えている
- セラミド合成を促進してバリア機能をサポートする点が、他のAHAにはない強み
- 市販品は2〜10%の低濃度が主流で、夜のケアで使い始めるのが安全
- レチノールや他のAHA/BHAとの併用は刺激リスクが高いため日を分ける
- 赤みやヒリつきが続く場合は使用を中止し、皮膚科を受診する
気になる肌トラブルや症状がある場合は、自己判断でスキンケアを続けず、お近くの皮膚科を受診してください。
よくある質問
- 乳酸は敏感肌でも使える?
-
乳酸はAHAのなかでは比較的マイルドな成分で、敏感肌の方にも使いやすいとされています。グリコール酸より分子量が大きく、肌への浸透がゆるやかなため刺激を感じにくい傾向があります。
ただし「敏感肌なら安心」とは言い切れません。初めて使う場合はパッチテストを行い、低濃度の製品から試すのがおすすめです。赤みやかゆみが出た場合は使用を中止してください。
- 乳酸とグリコール酸はどちらを選ぶべき?
-
肌質や目的によって向き不向きがあります。乾燥肌や敏感肌の方は、保湿力が高くマイルドな乳酸のほうが合いやすいでしょう。一方、脂性肌で角質の厚みが気になる方には、浸透力の高いグリコール酸が適している場合があります。
どちらも光老化の改善やターンオーバー促進といった効果が報告されていますが、刺激の感じ方には個人差があるため、まずは低濃度から試して肌の反応をみるのが大切です。
- 乳酸配合の化粧品は毎日使っても問題ない?
-
低濃度(2〜5%程度)の乳酸化粧品であれば、肌が慣れた後に毎日使用しても大きな問題は少ないと考えられます。ただし、使い始めは週2〜3回にとどめ、肌に赤みやヒリつきが出ないか様子をみてから頻度を上げてください。
ピーリング効果のある化粧品を使う日は、レチノールなど他の刺激成分との併用を避け、保湿ケアと紫外線対策を入念に行うことが重要です。
- 乳酸ピーリング後に日焼け止めは必須?
-
はい、乳酸を含むAHA製品を使った後は日焼け止めが欠かせません。角質が薄くなった状態の肌は紫外線のダメージを受けやすく、色素沈着のリスクが高まるためです。
SPF30以上・PA++以上の日焼け止めを朝のスキンケアの仕上げに塗り、2〜3時間おきに塗り直すのが理想的な使い方です。乳酸に限らず、AHAやBHAを日常的に使う方は紫外線対策を習慣にしてください。
- 乳酸と乳酸Naは同じ成分?
-
名前は似ていますが、乳酸と乳酸Na(乳酸ナトリウム)は性質も用途もまったく異なります。乳酸は酸性のピーリング成分で古い角質を除去する作用があるのに対し、乳酸Naは中和された塩で、天然保湿因子の一部として肌のうるおいを補う保湿目的で配合されます。
化粧品を選ぶ際は、ピーリング効果を求めるなら「乳酸」、保湿効果を重視するなら「乳酸Na」が含まれているかを成分表示で確認するとよいでしょう。
参考文献
Smith, W. P. (1996). Epidermal and dermal effects of topical lactic acid. Journal of the American Academy of Dermatology, 35(3 Pt 1), 388–391. https://doi.org/10.1016/s0190-9622(96)90602-7
Rawlings, A. V., Davies, A., Carlomusto, M., Pillai, S., Zhang, K., Kosturko, R., Verdejo, P., Feinberg, C., Nguyen, L., & Chandar, P. (1996). Effect of lactic acid isomers on keratinocyte ceramide synthesis, stratum corneum lipid levels and stratum corneum barrier function. Archives of Dermatological Research, 288(7), 383–390. https://doi.org/10.1007/BF02507107
Stiller, M. J., Bartolone, J., Stern, R., Smith, S., Kollias, N., Gillies, R., & Drake, L. A. (1996). Topical 8% glycolic acid and 8% L-lactic acid creams for the treatment of photodamaged skin: A double-blind vehicle-controlled clinical trial. Archives of Dermatology, 132(6), 631–636. https://doi.org/10.1001/archderm.1996.03890300039006
Sharquie, K. E., Al-Tikreety, M. M., & Al-Mashhadani, S. A. (2005). Lactic acid as a new therapeutic peeling agent in melasma. Dermatologic Surgery, 31(2), 149–154. https://doi.org/10.1111/j.1524-4725.2005.31035
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