急に左腰が痛くなったとき、「ぎっくり腰かな」と思いがちですが、女性の場合は卵巣や子宮などの婦人科臓器が原因であることも少なくありません。腰の左側に急な痛みが出た場合、卵巣茎捻転(ねじれ)などの緊急疾患が隠れている可能性があります。
子宮内膜症や子宮筋腫、骨盤内炎症性疾患(PID)も、左腰の痛みとして現れやすい婦人科疾患です。整形外科的な腰椎疾患との見分け方を理解しておくことで、適切な受診につながります。
本記事では整形外科医が痛みの性質・月経との関係・随伴症状から見分けるポイントをわかりやすくお伝えします。
この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)
日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師
2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。
急に左腰が痛くなった——その痛みが婦人科臓器から来ることがある理由
女性の左腰痛は、腰椎(腰の骨)や筋肉の問題だけでなく、骨盤内に位置する左卵巣・卵管・子宮などの婦人科臓器が原因となっているケースが一定の割合で存在します。整形外科受診でも見逃さないよう、その背景を理解しておくことが大切です。
骨盤内の臓器と腰の神経はひとつのネットワークでつながっている
左卵巣・左卵管などの骨盤内臓器は、腰椎から伸びる自律神経や知覚神経と密接に連絡しています。臓器に炎症や腫れ、ねじれが起きると、その刺激が神経を伝わって「腰が痛い」という感覚として現れることがあります。これを放散痛といいます。
放散痛とは、実際に傷んでいる場所とは離れた部位に感じる痛みのことです。左卵巣は骨盤の左側に位置しているため、卵巣に何かトラブルが起きると左腰から左下腹部にかけて痛みが現れやすくなります。
整形外科疾患との見分けが特に難しい理由
腰椎椎間板ヘルニアや腰椎捻挫などの整形外科的な腰痛でも、左腰に急な強い痛みが出ます。症状だけを聞いたのでは、両者を区別することは容易ではありません。しかし、いくつかの観点から丁寧に問診を行うと、婦人科由来の腰痛を疑う手がかりが得られます。
整形外科的な腰痛は「体を動かしたとき・長時間同じ姿勢でいたとき」に悪化することが多く、安静にすることで多少楽になる傾向があります。一方、婦人科疾患による腰痛は「月経のタイミングに合わせて変化する」「発熱や吐き気を伴う」などの特徴が加わることがあります。
整形外科的腰痛と婦人科由来の腰痛——主な違いの比較
| 比較項目 | 整形外科的腰痛 | 婦人科由来の腰痛 |
|---|---|---|
| 痛みの誘因 | 動作・姿勢に連動しやすい | 月経・排卵のタイミングに連動することがある |
| 随伴症状 | しびれ・下肢への放散が主 | 吐き気・発熱・おりものの変化を伴うことがある |
| 安静時の痛み | 安静でやや改善しやすい | 安静でも強い痛みが持続することがある |
急な左腰痛で今すぐ受診が必要な「危険なサイン」
突然の非常に強い左腰痛・左下腹部痛が出て、吐き気・嘔吐・冷や汗が伴う場合は、卵巣茎捻転などの婦人科的緊急疾患が強く疑われます。このような状況では「様子を見る」のではなく、速やかに医療機関を受診することが必要です。
また、左腰痛とともに38℃以上の発熱・膿性のおりものが見られる場合は、骨盤内炎症性疾患(PID)の可能性もあります。いずれの場合も、救急外来や婦人科への受診を優先してください。
卵巣嚢腫・卵巣茎捻転が起こす急激な左腰痛——婦人科的緊急事態のサイン
卵巣に嚢腫(のうしゅ:液体の入った袋状のもの)ができ、その重みで卵巣ごとねじれてしまう「茎捻転(けいねんてん)」は、突然の強烈な腹痛・腰痛を引き起こす婦人科的な緊急疾患です。放置すると卵巣の血流が絶たれ、組織が壊死する危険があるため、早期発見が非常に重要です。
卵巣が「ねじれる」と激痛が走るしくみ
卵巣は骨盤内の靭帯によって支えられています。卵巣嚢腫が発生して卵巣が大きくなると、重みでバランスを崩し、卵巣ごとねじれてしまうことがあります。これが茎捻転です。ねじれが生じると卵巣への血流が途絶え、強烈な虚血性の痛みが発生します。
左卵巣が捻転した場合は、左腰から左下腹部にかけて激しい痛みが出ます。「立っていられないほどの突然の激痛」と表現される方が多く、以前に似たような痛みを経験したことがない場合は特に注意が必要です。
茎捻転の典型的な症状——整形外科的腰痛とここが違う
茎捻転では、突然始まる強い腹痛・腰痛に加えて、吐き気・嘔吐・顔面蒼白・冷や汗などが伴いやすいことが特徴です。痛みは持続性で、安静にしても楽にならず、体位を変えても変化しないことが多いといえます。
一方、腰椎捻挫やぎっくり腰では、特定の動作(重いものを持った・急に体をひねった)がきっかけとなることがほとんどです。明確なきっかけなく突然の激痛が出た場合、整形外科的な腰痛だけでは説明しにくいことがあります。
婦人科を急いで受診すべき目安となる症状
以下のような症状が重なるときは、急いで婦人科または救急外来を受診してください。子宮卵巣の緊急疾患は、受診が早いほど卵巣を温存できる可能性が高くなります。
- 突然発症した強い左下腹部痛・左腰痛で、なにかきっかけになることがなかった
- 痛みとともに吐き気・嘔吐・冷や汗・顔面蒼白が出ている
- 発熱(38℃以上)を伴う腰痛・下腹部痛がある
- 以前から卵巣嚢腫を指摘されていたことがある
- 安静にしていても痛みが数十分以上続いている
子宮内膜症が「左の坐骨神経痛のような痛み」として現れることがある
子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)は、子宮の内側を覆う組織に似た細胞が子宮の外で増殖する疾患で、日本では生殖年齢の女性の約10%に存在すると言われています。病変の場所によっては、腰の左側から下肢にかけて放散する痛みとして現れることがあります。
子宮内膜症の病変が腰部神経を刺激するしくみ
子宮内膜症の病変が仙骨子宮靭帯(骨盤深部)や腰仙骨神経叢(ようせんこつしんけいそう)の近くに広がると、腰や下肢に放散する痛みを引き起こします。特に左卵巣にチョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症)がある場合、左腰から左大腿部にかけての痛みやしびれを訴えるケースがあります。
こうした症状は坐骨神経痛と非常に似ており、整形外科で「腰椎椎間板ヘルニア」と判断されて治療を受けたにもかかわらず改善しない、というケースも報告されています。
月経と連動する左腰痛——子宮内膜症を疑うサイン
子宮内膜症の痛みで特徴的なのは、月経のタイミングに合わせて強くなる傾向です。「月経が始まると左腰がとりわけ強くひびく」「月経が終わると楽になる」という変動パターンは、整形外科的な腰椎疾患では通常見られません。
また、子宮内膜症は月経痛の悪化・性交時痛・慢性的な下腹部の重だるさなどを伴うことが多く、これらの随伴症状が問診で得られれば、婦人科疾患を疑う重要な根拠になります。
子宮内膜症の腰痛 vs 整形外科的な腰痛——症状の特徴比較
| 特徴 | 子宮内膜症の腰痛 | 整形外科的腰痛(ヘルニアなど) |
|---|---|---|
| 月経との関係 | 月経前・月経中に悪化しやすい | 月経との関連はほぼない |
| 痛みの経過 | 慢性的で周期的に変化する | 特定の動作・姿勢で悪化 |
| 随伴症状 | 月経痛・性交時痛・不妊など | 下肢のしびれ・筋力低下 |
| 画像検査 | 腰椎MRIで異常が見つかりにくい | 腰椎MRIで椎間板変化を確認できる |
整形外科で診断がつきにくく、治療が遅れやすい理由
子宮内膜症に伴う腰痛は、腰椎のX線やMRIでは異常が出ないことがほとんどです。このため整形外科では「筋肉性腰痛」「緊張性腰痛」などと診断されてしまうことがあります。鎮痛薬で一時的な改善はあっても、月経のたびに再燃するという経過が続く場合は、婦人科での精査を強くお勧めします。
欧米の研究では、子宮内膜症の診断に平均7年以上かかるという報告もあります。「痛いのは生理だから仕方ない」と考えず、繰り返す腰痛に月経との関連が疑われる場合は積極的に婦人科を受診してください。
子宮筋腫が腰の左側にひびく鈍痛を生じさせるしくみ
子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)は子宮の筋肉にできる良性の腫瘍で、50歳までに女性の約70〜80%に存在するとされています。多くは無症状ですが、大きくなると周囲の神経や血管を圧迫し、腰の左側に重だるい鈍痛として現れることがあります。
子宮筋腫が腰に痛みを放散させるしくみ
子宮筋腫が増大すると、骨盤内の神経(とくに腰仙骨神経叢)を圧迫します。筋腫が子宮の左側に偏って位置している場合や、子宮の外側(漿膜下)に大きく発育した場合には、左腰部への放散痛が生じやすくなります。
筋腫による腰痛は「重だるい鈍痛」として現れることが多く、姿勢を変えても変わらない持続性の不快感を訴える方が多いといえます。急性の激痛よりも慢性的な腰部の違和感・重さとして感じることが特徴です。
腰椎椎間板ヘルニアと間違えやすい理由
子宮筋腫による腰痛は、腰椎椎間板ヘルニアの症状と重なることがあります。大きな筋腫が仙骨前面の神経を圧迫すると、左腰から大腿部にかけての放散痛やしびれが生じることがあり、整形外科的な腰椎疾患と区別しにくいケースが実際に存在します。
腰椎MRIで「椎間板の変性は軽度で、これほどの症状の説明がつかない」という場合や、「整形外科での治療を続けても改善しない」という場合は、子宮筋腫が原因である可能性を考えることが重要です。
整形外科で「異常なし」と言われても痛みが続くとき
整形外科でX線・MRI検査を受けて腰椎に明らかな異常が見つからないにもかかわらず、左腰の痛みが続く場合、原因が骨盤内の婦人科疾患にある可能性があります。とりわけ以下のような場合は、婦人科への受診を考えるとよいでしょう。
- 月経量が多い・月経痛が強い・月経周期が不規則などの症状がある
- 腰椎の治療を2〜3か月続けても左腰の改善が乏しい
- 下腹部に重さや膨らみを感じる
- 頻尿・排便時の痛みなど、泌尿器・消化器症状も伴っている
骨盤内炎症性疾患(PID)が左腰痛として現れることがある——発熱が伴うときは要注意
骨盤内炎症性疾患(PID:Pelvic Inflammatory Disease)は、子宮・卵管・卵巣などに細菌感染による炎症が起きる疾患です。下腹部痛・腰痛とともに発熱やおりものの変化が現れ、放置すると不妊・慢性骨盤痛などの深刻な後遺症を残すことがあります。
PIDとはどのような疾患か——腰痛として現れることもある
PIDは、クラミジア・淋菌などの性感染症の原因菌が子宮頸管から上行して卵管や卵巣に炎症を引き起こすことで発症します。発症は月経後に多く、性的に活発な若い女性に多い傾向があります。炎症が骨盤内に広がると、腰仙骨部の神経が刺激されて腰痛として現れることがあります。
整形外科受診の動機となる「腰痛・仙骨部の重だるさ」として現れる場合があり、初診の段階で婦人科疾患と気づかれないことも珍しくありません。問診で随伴症状を丁寧に確認することが重要です。
PIDによる腰痛のサイン——整形外科的腰痛と区別する手がかり
PIDを疑うサインとして特に重要なのは、発熱(37〜38℃台)の存在です。整形外科的な腰痛で発熱が伴うことは、化膿性脊椎炎などの感染性脊椎疾患を除けば一般的ではありません。腰痛に発熱が重なる場合は、PIDを含む感染性疾患を除外する必要があります。
PIDを疑うサインのチェックリスト
| 症状・所見 | PIDで見られやすい特徴 |
|---|---|
| 発熱 | 37〜38℃以上の発熱が腰痛・下腹部痛と同時に出る |
| おりものの変化 | 量が増える・黄色や膿性になる |
| 子宮・付属器圧痛 | 下腹部を押すと強い痛みがある |
| 性交時痛 | 最近性交時に痛みを感じるようになった |
| 月経の変化 | 不正出血・月経不順が現れた |
整形外科でPIDを疑う着眼点——問診で見落とさないために
腰痛で整形外科を受診した場合でも、「発熱がある」「おりものに変化がある」「性交時に痛みが出る」といった情報が問診で得られれば、PIDを疑う根拠となります。このような場合は骨盤内感染を除外するために、婦人科への紹介を速やかに行うことが望ましいといえます。
PIDは早期に適切な抗菌薬治療を始めれば、多くの場合は外来での治療が可能です。しかし放置した場合、卵管の損傷・閉塞が起き、不妊や慢性骨盤痛につながることがあります。発熱を伴う腰痛には必ず婦人科の視点を加えることが大切です。
整形外科受診で婦人科疾患の可能性を見抜くための問診と検査のポイント
整形外科を受診した際でも、いくつかの問診項目や検査の読み方に注意することで、婦人科疾患が原因の腰痛に気づく手がかりが得られます。特に女性患者さんの左腰痛では、月経との関係を必ず確認することが重要です。
問診で確認すべき「月経との関連性」と随伴症状
整形外科の問診で「月経の時期と腰痛の変化が一致するか」を確認することは、婦人科疾患を疑う大切な情報になります。月経前・月経中に痛みが強まり、月経が終わると楽になるパターンは、子宮内膜症や子宮筋腫を強く示唆します。
また「発熱・嘔気・おりものの変化・不正出血・性交時痛」といった随伴症状があれば、PIDや卵巣疾患の可能性があります。こうした情報を問診票に組み込むことで、婦人科疾患の見落としを防ぐことができます。
整形外科の画像検査で婦人科疾患が偶然発見されることもある
骨盤部のMRIやCTを腰椎の評価のために撮影したところ、偶然に卵巣嚢腫や子宮筋腫が見つかるケースがあります。このような偶発所見が確認された場合も、婦人科への受診・紹介が必要です。
一方、腰椎MRIの撮影範囲には骨盤内が一部含まれないことも多いため、腰の画像に異常がなかったからといって骨盤内が正常とは限りません。腰椎MRIで「異常なし」でも、痛みが続く場合は骨盤部の専用検査を別途受けることが重要です。
婦人科への紹介が必要なタイミングの判断基準
整形外科的な治療(安静・薬物療法・理学療法)を2〜3か月続けても改善が乏しい場合、月経と痛みの変動が明確に連動している場合、発熱や消化器・泌尿器症状が伴う場合は、婦人科への紹介を積極的に検討します。
婦人科への紹介を検討すべき判断基準
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 月経のたびに左腰痛が悪化する | 子宮内膜症・子宮筋腫などを精査するため婦人科受診を勧める |
| 発熱・膿性おりものを伴う腰痛 | PIDを疑い婦人科へ速やかに紹介 |
| 整形外科的治療が効かない左腰痛 | 骨盤内疾患を除外するため婦人科評価を勧める |
| 腰椎MRI・X線で異常を説明できない強い痛み | 骨盤超音波・婦人科受診を提案 |
| 突然の強い腹痛・腰痛+嘔吐(卵巣茎捻転を疑う場合) | 救急外来または緊急婦人科受診 |
急な左腰痛が出たとき——今日からできる対処と受診の判断
急に左腰が痛くなったとき、どう動けばよいか判断に迷う方は多いはずです。受診先の選び方・痛みの記録の仕方・整形外科と婦人科をうまく活用するための考え方を整理します。
痛みの強さと随伴症状で受診先を見極める
痛みが「立っていられないほどの激痛」「吐き気・嘔吐・発熱を伴う」場合は、救急外来を受診することを最優先にしてください。卵巣茎捻転や急性のPIDは時間との勝負で、対応が遅れると回復が難しくなることがあります。
症状別の推奨受診先の目安
| 症状の特徴 | 推奨する受診先 |
|---|---|
| 突然の激烈な痛み+吐き気・嘔吐・発熱 | 救急外来(婦人科系緊急疾患の可能性) |
| 月経のたびに繰り返す左腰痛 | 婦人科(子宮内膜症・子宮筋腫の精査) |
| 動作・姿勢の変化に連動した腰痛 | 整形外科(腰椎疾患の評価) |
| 発熱+おりもの変化+腰痛 | 婦人科(PIDの評価) |
| 整形外科的治療を続けても改善しない腰痛 | 整形外科+婦人科の両方で評価 |
痛みを記録しておくと診察がスムーズになる
いつ痛みが出たか、月経周期の何日目だったか、随伴症状(吐き気・発熱・おりもの・不正出血など)はあったか——これらをメモしておくと、整形外科・婦人科どちらを受診しても医師への情報提供がスムーズになります。
スマートフォンのカレンダーや市販の生理記録アプリを活用して、痛みの日と月経の日を同時に記録しておく方法が手軽でお勧めです。「痛みがどのタイミングで起きるか」というパターンが見えてくると、原因の絞り込みに大きく役立ちます。
整形外科と婦人科の連携が大切な理由
左腰痛の原因が単一ではなく、整形外科疾患と婦人科疾患が同時に存在するケースもあります。たとえば「腰椎の軽度変性に加えて子宮内膜症がある」「子宮筋腫があるうえで姿勢の問題も腰痛に関係している」といった複合的な状況では、どちらか一方の治療だけでは十分な改善が得られないことがあります。
整形外科と婦人科がそれぞれの専門的な視点から評価を行い、連携することで、女性の腰痛に対してより的確な治療計画を立てることができます。受診の際に「別の科でも診てもらっています」と伝えると、医師間での情報共有がスムーズになります。
整形外科での腰痛評価について詳しくは、慢性腰痛(腰痛症)の原因と治療もあわせてご覧ください。
よくある質問
- 急に起こる左側の腰の痛みは、どのような婦人科疾患から生じることがありますか?
-
急に起こる左側の腰の痛みが婦人科疾患から生じる場合、代表的なものとして卵巣茎捻転・卵巣嚢腫の破裂・骨盤内炎症性疾患(PID)が挙げられます。とりわけ卵巣茎捻転は婦人科的緊急疾患であり、突然の激烈な痛みとともに吐き気・嘔吐が伴う点が特徴です。
慢性的な左腰痛の原因としては子宮内膜症・子宮筋腫がよく知られています。子宮内膜症は骨盤深部の神経を刺激して腰や下肢に放散する痛みを引き起こし、子宮筋腫は大きくなると神経を圧迫して鈍痛を生じさせることがあります。急性か慢性かを問わず、月経との関連・随伴症状を確認することが原因の絞り込みに役立ちます。
- 子宮内膜症による腰痛は、整形外科的な腰痛とどのように見分けることができますか?
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最も大切な見分け方のポイントは「月経との関連性」です。子宮内膜症による腰痛は月経前・月経中に強くなり、月経が終わると改善する傾向があります。一方、腰椎椎間板ヘルニアなど整形外科的な腰痛は月経のタイミングとは無関係に、体を動かすことや同じ姿勢の維持によって悪化するのが一般的です。
また、子宮内膜症では月経痛の悪化・性交時痛・慢性的な下腹部の重だるさなどを伴うことが多い点も整形外科的腰痛との違いです。腰椎のMRIで異常がないにもかかわらず腰痛が月経とともに繰り返される場合は、婦人科を受診して経膣超音波などの専門的な検査を受けることをお勧めします。
- 卵巣茎捻転が疑われる腰痛はどのような特徴がありますか?急いで受診すべき目安を教えてください。
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卵巣茎捻転の腰痛・下腹部痛は「突然始まった非常に強い痛み」が最大の特徴です。立っていられないほどの激痛が急激に発症し、動いても安静にしても楽にならず、吐き気・嘔吐・冷や汗・顔面蒼白を伴うことがほとんどです。以前に似たような経験がない「初めての激痛」として感じることが多いです。
以下のような状況では迷わず救急外来または婦人科を受診してください。
- 突然の強い腹痛・左腰痛があり、きっかけとなる動作がなかった場合
- 吐き気・嘔吐が伴う場合
- 以前から卵巣嚢腫を指摘されていた場合
卵巣茎捻転は受診が早ければ早いほど卵巣を温存できる可能性が高まります。数十分以上、強い痛みが続いている場合は、迷わず受診することが大切です。
- 子宮筋腫が腰の左側に痛みを引き起こすことはありますか?
-
はい、子宮筋腫が腰の左側に痛みを引き起こすことがあります。筋腫が大きくなると骨盤内の神経(腰仙骨神経叢)を圧迫し、腰部への放散痛が生じます。筋腫が子宮の左側寄りに位置している場合や、子宮の外側(漿膜下)に大きく発育した場合は、特に左腰の鈍痛として現れやすくなります。
子宮筋腫による腰痛は「重だるい鈍痛」「慢性的な不快感」として現れることが多く、月経量の増加・月経痛の悪化・下腹部の膨らみを伴うことが一般的です。整形外科で腰椎の検査をして「異常なし」と言われても左腰の痛みが続く場合、月経に関連した随伴症状がある場合は、子宮筋腫を含む婦人科疾患の可能性も考え、婦人科を受診することをお勧めします。
- 左側の腰の痛みがある場合、整形外科と婦人科のどちらに先に相談すればよいですか?
-
突然の激しい痛みで吐き気・嘔吐・発熱を伴う場合は、救急外来または婦人科を優先してください。卵巣茎捻転やPIDなどの婦人科的緊急疾患を除外することが先決です。一方、痛みが慢性的・軽度で、体を動かしたときに出やすいという場合は、まず整形外科を受診して腰椎疾患を評価することが合理的です。
月経のたびに腰の左側が強くなる、月経痛が激しい、おりものに変化があるなど婦人科的な随伴症状が目立つ場合は、整形外科と婦人科のどちらに先に行くかよりも「両方に相談する」という姿勢が大切です。
整形外科を先に受診した際に医師に「月経と痛みの関係」を伝えることで、必要に応じて婦人科への紹介を受けられます。どちらを先に受診すべきか迷う場合はかかりつけ医に相談することも有効な手段です。
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