ペースメーカーを導入した後の生活では、心臓の働きを機械が補うため、日々の脈拍管理や機器への影響を正しく把握することが大切です。
訪問看護では、専門家が定期的に体調を評価し、合併症の兆候を早期に見つけることで、自宅での安心した暮らしを強力にサポートします。
この記事では、脈拍の測り方や植え込み部位のケア、電磁波を避ける工夫など、観察ポイントと日常生活の注意点を解説します。
訪問看護で重点的にチェックするペースメーカー植え込み後の体調変化
訪問看護師がご自宅を訪れる際、最も優先するのはデバイスが正常に作動しているか、そして体に悪影響が出ていないかの確認です。心機能の安定を維持しつつ、不整脈や心不全の兆候を早期に察知することで、再入院などのリスクを最小限に抑えます。
毎日決まった時間に脈拍を測定してリズムの乱れを察知する
ペースメーカーは設定された最低拍動数を維持する役割があるため、脈拍がその数値を下回っていないかを確認することが基本です。訪問看護では、看護師が実際に手首で脈を触れ、リズムが一定であるか、脈が飛んでいないかを詳しく評価します。
もし脈拍が設定値(通常は1分間に60回前後)を大きく下回る場合、リード線のズレや電池の消耗といった機器トラブルの可能性があります。異常を早期に見つけるため、患者さん本人やご家族にも正しい脈拍の測り方を指導します。
脈拍測定は、安静時に行うことが重要であり、毎朝の起床時など決まったタイミングで実施するのが望ましい方法です。看護師は訪問のたびにその記録を確認し、わずかな変化も見逃さないよう、主治医と密に連携しながら経過を追い続けます。
また、脈拍数だけでなく、強さの変化にも注目します。脈が弱くなっている場合は、心臓のポンプ機能そのものが低下している恐れがあるため、聴診器を用いて心音の確認も併せて行い、総合的な循環状態を判断していきます。
植え込み部位の皮膚に赤みや熱感がないかを念入りに確認する
ペースメーカー本体を収めている胸のポケット部分は、皮膚が薄くなりやすく、感染症や炎症が起きやすい繊細な場所です。訪問時には、必ず衣類をずらして傷跡の状態を直接観察し、皮膚の赤み、腫れ、あるいは熱を持っていないかを細かく確認します。
術後から時間が経過していても、皮膚の摩擦や圧迫によって内部の機械が露出してしまうリスクはゼロではありません。特に痩せ型の患者さんの場合は、デバイスの形が浮き出て皮膚が突っ張ることが多いため、保湿ケアや保護方法についても助言します。
万が一、傷口から浸出液が出ていたり、痛みが強まっていたりする場合は、速やかに病院へ連絡する体制を整えています。感染症は放置すると全身に波及する恐れがあるため、看護師による週に数回のチェックは、非常に大きな安心感を生みます。
皮膚の観察と同時に、植え込んだ側の肩の動きも確認します。痛みを恐れて腕を動かさないでいると、関節が固まってしまう「凍結肩」になるリスクがあるため、無理のない範囲で日常動作が行えているかを評価し、適切なリハビリも併用します。
呼吸困難やむくみの出現から心機能の低下を予測する
ペースメーカーが入っていても、心臓自体の筋力が衰えることで心不全を併発するケースは少なくありません。看護師は、足の甲や脛を指で押し、むくみ(浮腫)が残らないかを確認することで、体内の水分が適切に排出されているかを判断します。
また、階段の上り下りで以前より息切れがしやすくなっていないか、夜間に苦しくて目が覚めないかといった問診も行います。これらの症状は心臓の負荷が高まっているサインであり、放置すると命に関わるため、日々の体重測定と併せて厳重に管理します。
体重が短期間で数キロ増加している場合は、体内に水分が貯留している可能性が高いため、食事の塩分制限が守られているかも聞き取ります。看護師は生活リズム全般を把握した上で、適切な休息と活動のバランスについて、寄り添った指導を継続します。
肺に水が溜まっていないかを音で確認することも、訪問看護の大切な役割です。呼吸音がゼーゼーと鳴っていないか、呼吸の回数が異常に増えていないかをチェックし、心機能の低下を未然に防ぐためのアセスメントを徹底しています。
植え込み後の身体的観察指標
| 観察項目 | チェック内容 | 注意すべき兆候 |
|---|---|---|
| 脈拍の状態 | 1分間の回数とリズム | 設定値未満の徐脈や不整 |
| 手術部位(胸部) | 皮膚の色、温度、腫れ | 発赤、熱感、機械の露出 |
| 全身状態 | 呼吸、むくみ、体重変化 | 安静時の息切れ、下腿浮腫 |
日常生活で気をつけたい電磁干渉を避けるための工夫
ペースメーカーは精密な電子機器であるため、強い磁力や電磁波を発生する製品に近づくと誤作動を起こす可能性があります。家電製品の多くは安全に使用できますが、正しい距離感や扱い方を知ることで、生活の質を下げずにリスクを回避できます。
スマートフォンや携帯電話を使用する際の安全な距離を保つ
現代生活に欠かせないスマートフォンですが、ペースメーカーの植え込み部位からは15センチメートル以上離して使用するのが原則です。通話をする際は、植え込んでいる側とは反対の耳で受けるように心がけ、無意識に胸に近づけない習慣を身につけます。
また、端末を胸ポケットに入れて持ち運ぶことは、最も避けるべき行為の一つです。訪問看護では、実際に使用しているスマートフォンの操作方法を確認し、カバンの中や腰のホルダーなど、安全な持ち運び場所を一緒に検討して提案します。
混雑した電車内など、他人のスマートフォンが至近距離に来る場面も不安を感じやすいものです。基本的には15センチメートル離れていれば問題ありませんが、念のため優先席付近では電源を切る、あるいは距離を取るといったマナーを再確認しておくことが、自身の安心に繋がります。
さらに、スマートフォンの充電中に発生する微弱な電磁波についても質問をいただくことがありますが、通常の使用範囲であれば影響はありません。寝る時に枕元に置く場合は、やはり15センチメートル以上の距離を保つように指導しています。
IH調理器や電子レンジなどの家電製品との付き合い方
IHクッキングヒーターやIH炊飯器は、強い磁力を発生させるため、使用中は植え込み部位を天板や本体に近づけすぎないよう注意が必要です。調理中に鍋を覗き込むように身を乗り出す姿勢は、デバイスとの距離を縮めてしまうため、意識的に避けましょう。
電子レンジについては、作動中に窓のすぐそばに顔を近づけない限りは安全に使用可能です。訪問看護師はキッチンの動線を確認し、調理中に無理な姿勢になっていないか、安全な立ち位置はどこかをアドバイスして、家事の不安を取り除きます。
また、電気シェーバーやドライヤーなどの小型家電も、植え込み部位の直上で長時間使用しなければ問題ありません。基本的には、どの家電製品も腕の長さ程度の距離を保っていれば安全です。
低周波治療器や電気風呂の使用は絶対に避ける
肩こりや腰痛の緩和に使われる低周波治療器は、体に直接電流を流す仕組みのため、ペースメーカーに誤作動を起こす恐れがあります。デバイスが「心臓が動いている」と誤認し、電気刺激を止めてしまう危険があるため、絶対に使用してはいけません。
同様に、銭湯や温泉にある「電気風呂」も非常に危険です。水を通じても電流がデバイスに影響を与えるため、脱衣所の掲示などをよく確認し、決して入らないように徹底してください。看護師は、患者さんの趣味や習慣を聞き取り、安全な代替案を提示します。
磁気治療器(磁石のついたネックレスや絆創膏など)も、植え込み部位に直接当てるとペースメーカーが点検モードに切り替わってしまうことがあります。一時的な反応であることが多いですが、心臓の保護機能に影響するため、上半身への使用は控えてください。
エステサロンで使用される電気刺激を用いた美顔器や、EMSと呼ばれる筋肉トレーニング機器も同様のリスクを含んでいます。新しい健康器具を購入する前には、必ず主治医や訪問看護師に相談し、安全性を確認しましょう。
家庭内での電磁波対策ガイド
| 家電の種類 | 安全性の目安 | 具体的な対策 |
|---|---|---|
| スマホ・携帯電話 | 注意が必要 | 植え込み部から15cm離す |
| IHクッキングヒーター | 十分な注意が必要 | 使用中に身を乗り出さない |
| 電子レンジ | 比較的安全 | 作動中に顔を近づけない |
外出先や公共施設で遭遇する特殊な装置への対処方法
社会生活を送る上で、店舗の入り口や駅、空港などには、自分ではコントロールできない強力な磁場を発生する装置があります。完全に避けることは困難ですが、どのような場所にリスクが潜んでいるかを知り、適切な行動をとることが自己防衛に繋がります。
店舗の盗難防止ゲートは立ち止まらずに速やかに通過する
CDショップやドラッグストアの出入り口に設置されている盗難防止ゲートは、常に電磁波を発信して商品のタグを監視しています。ゲートの間で立ち止まったり、商品を手に取って悩んだりしていると、ペースメーカーの動作を抑制してしまう可能性があります。
通過する際は、ゲートの真ん中を意識して歩き、止まらずにサッと通り抜けるように心がけてください。訪問看護では、外出時の不安を解消するため、実際の買い物の動線をシミュレーションし、どのような行動が安全かを具体的にレクチャーします。
ゲートによっては非常に強力なタイプもあるため、看護師は地域の店舗情報を把握し、特定の場所での注意喚起を行うこともあります。日常生活の行動範囲を狭めないよう、安全な振る舞いを身につけることが、活動的な暮らしを維持する鍵です。
空港の保安検査や医療機関での検査前に手帳を提示する
空港の保安検査場にある金属探知ゲートは、ペースメーカーの金属に反応するだけでなく、磁気による影響を与えることがあります。搭乗前には必ず係員にペースメーカー手帳を提示し、ゲートを通らない「パットダウン検査(手荷物検査)」を依頼してください。
医療機関を受診する際も同様で、特にMRI検査は強力な磁石を使用するため、対応機種でない限りは絶対に受けられません。看護師は、患者さんが常に手帳をカバンに入れているかを確認し、緊急時でも周囲に情報が伝わるような工夫をサポートします。
また、電気メスやレーザー治療器を使用する手術を受ける場合も、事前にペースメーカーの設定変更が必要になることがあります。どの病院を受診する際も、「自分はペースメーカーを入れている」という一言を添えることが、安全を確保する第一歩です。
スマートキーシステムを搭載した車の乗り降りで注意する点
最近の自動車に普及しているスマートキーシステムは、車体から常に微弱な電波を発信して鍵を探しています。アンテナが設置されている場所に植え込み部位を近づけると、一時的にデバイスに影響を及ぼすことが稀に報告されています。
車内にアンテナがある場合、座る位置によっては20センチメートル以内の距離になることがあるため、メーカーやディーラーにアンテナの位置を確認しておきましょう。
また、車の乗り降りでは、植え込んだ側の腕でドアを無理に開閉しないよう、注意が必要です。リード線の固定を助けるため、特に術後1ヶ月程度は、助手席に座る際もシートベルトの締め付けが傷口に当たらないようタオルを挟む工夫を伝えます。
運転についても、主治医から許可が出るまでは控えるのが一般的です。視力や反射神経だけでなく、突然のめまいが起きた際のリスクを考慮する必要があるため、看護師は主治医の判断を患者さんに伝え、無理な再開を思いとどまるよう対話を重ねます。
外出先での主な注意箇所
- 空港の保安検査場:金属探知機は避け、手帳を提示して手作業の検査を受けます。
- 店舗の万引き防止ゲート:中央を速やかに通り抜け、ゲートのそばで立ち止まりません。
- 工事現場の溶接機:強力な電磁波が発生するため、作業中の場所には近づきません。
急なトラブルを防ぐための緊急連絡網と自己管理の徹底
ペースメーカーの不具合や体調の急変は、予測できないタイミングで起こるものです。万が一の事態に備え、迅速に対応できる連絡体制を整えておくことが、ご本人だけでなくご家族にとっても最大の安心材料となります。
めまいや失神などの自覚症状が出た時の初動対応を決めておく
ペースメーカーが一時的に停止したり、設定された脈拍を維持できなくなったりすると、脳への血流が不足し、強烈なめまいや失神を引き起こします。このような症状を感じた際は、直ちに安全な場所に座るか、横になって転倒を防ぐことが最優先です。
看護師は、症状が出た際にどの病院の何番へ電話すべきかを記した緊急連絡カードを作成し、電話機の横や財布の中に備え付けるお手伝いをします。パニックにならずに次のアクションを起こせるよう、日頃からシミュレーションを行うことが大切です。
また、一人暮らしの患者さんの場合は、民間の緊急通報システムや自治体の見守りサービスの導入を提案することもあります。
電池交換の時期を把握するために定期検診の結果を共有する
ペースメーカーの電池寿命は通常6年から10年程度ですが、使用頻度によって寿命は異なります。定期的にプログラマーチェックと呼ばれる精密検査を受けることで、電池の残量を1%刻みで把握し、計画的な交換手術を行うことが可能です。
訪問看護では、通院のたびに検診結果を記録し、次回の電池交換が予想される時期を看護記録に明記します。電池残量が少なくなると、デバイスが警告サインとして脈拍数を一定の値に固定することがあるため、看護師は変化を日々のバイタルチェックで察知します。
電池交換が近づいてくると不安が強まる患者さんも多いため、交換手術がいかに短時間で安全に行われるかを解説し、精神的な準備を支えます。また、交換時期に合わせて生活環境の見直しを行い、術後の療養がスムーズに進むよう、準備を進めていきます。
最新の機種では、自宅にいながらデータを送信できる遠隔モニタリング機能が備わっているものもあります。看護師は機器の接続設定が正しく行われているか、送信エラーが出ていないかを確認し、医療機関との24時間体制の繋がりをバックアップします。
家族や周囲の人にもペースメーカーの特性を理解してもらう
患者さん本人が注意していても、同居するご家族が不用意に磁気製品を近づけてしまう事故は意外と多いものです。家族が良かれと思って買った磁気健康枕や、肩こり解消の磁気パッチを患者さんの胸元に置いてしまうことがないよう、正しい知識を共有します。
訪問看護師は、ご家族を含めたミニ勉強会を開催し、「やってはいけないこと」と「安心していいこと」を整理して伝えます。家族が過剰に心配して活動を制限してしまうのも逆効果なため、適度な見守りの距離感をアドバイスして、家庭内のストレスを軽減します。
万が一、家族が患者さんの異常に気づいた際、心臓マッサージやAEDの使用が可能かどうかも重要な論点です。基本的にはペースメーカー利用者にもAEDは使用可能ですが、パッドを貼る位置に工夫が必要なため、手順を看護師がレクチャーして備えます。
緊急時に備えた準備リスト
| 準備物・項目 | 確認内容 | 保管場所 |
|---|---|---|
| ペースメーカー手帳 | 機種名、設定値、最新の検診日 | お薬手帳と一緒に携帯 |
| 緊急連絡先カード | 病院、ステーション、家族の番号 | 電話の横や財布の中 |
| 体温計・血圧計 | 毎日のバイタル測定に使用 | 居間の決まった場所 |
リハビリテーションと適度な運動を取り入れる際の基準
ペースメーカーを導入したからといって、安静のみの生活を続けるのは健康維持の観点から望ましくありません。適度な運動は心臓の筋肉を鍛え、全身の血流を改善しますが、デバイスやリード線に負担をかけないためのさじ加減を知ることが重要です。
術後初期の肩の可動域制限とリード線の安定を待つ期間
植え込み手術の直後から約1ヶ月間は、リード線が心臓内の壁にしっかり根を下ろすための大事な期間です。この間に、植え込んだ側の腕を肩より上に高く上げたり、後ろへ大きく回したりすると、リード線が抜けてしまうリスクが高まります。
訪問看護では、着替えや洗顔、食事などの日常動作で、腕をどの程度まで動かして良いかを実演を交えて指導します。痛みがなくても無理は禁物ですが、全く動かさないと肩の関節が固まってしまうため、看護師の管理のもとで適切な範囲のストレッチを実施します。
重い荷物(目安として2キロ以上)を持つことも、術後初期は避けるべきです。買い物やゴミ出しなど、生活に直結する家事についても、ご家族の協力や外部サービスの利用を調整し、身体的な負担が最小限になるような療養環境を整えるお手伝いをします。
1ヶ月が経過し、主治医から「リード線の安定」が告げられれば、徐々に腕の動きを戻していきます。
息が切れない程度のウォーキングで体力を維持する工夫
心機能を維持するためには、1日15分から30分程度のウォーキングが理想的です。ただし、歩き始めに心拍数がスムーズに上がるかどうかは、デバイスの設定(レートレスポンス機能)によって個人差があるため、自分に合ったペースを見つける必要があります。
看護師は散歩に同行し、歩行中や歩行直後の脈拍、血圧、酸素飽和度を測定します。会話をしながら歩ける程度の強度が中等度の目安であり、これを超えて息が上がるようならば負荷が強すぎます。その日の体調に合わせた最適な歩行プランを提案します。
夏場の暑い時期や冬の寒暖差は心臓に大きなストレスを与えるため、屋内でできる軽い体操や、椅子に座ったままの筋力トレーニングも伝えます。運動は単なる体力作りだけでなく、気分のリフレッシュにもなるため、無理なく楽しく続けられる方法を共に考えます。
ゴルフや水泳など趣味のスポーツを再開するための条件
ゴルフのスイングや水泳のクロールなどは、胸の筋肉(大胸筋)を強く動かすため、デバイス本体に圧迫がかかったり、リード線が擦れたりすることがあります。趣味を再開したい場合は、必ず主治医の許可を得た上で、フォームの調整が必要です。
訪問看護師は、患者さんがどのようなスポーツを愛好しているかを詳しく伺い、実際の動作がデバイスに与える影響を検討します。例えばゴルフであれば、肩の回し方やクラブの重量などについて理学療法士とも相談し、安全なフォームの習得を支援します。
一方で、ラグビーや柔道のように胸部への直接的な衝撃が予想されるコンタクトスポーツは、デバイスの破損や出血のリスクが高いため、原則として推奨されません。
スポーツ中の水分補給も重要なポイントです。心機能の状態によっては、水分の取りすぎが心不全を悪化させることもあるため、1日の水分摂取制限がある場合は、範囲内でどのように補給するかを指導し、安全に趣味を楽しめる体調管理を徹底します。
運動強度の目安と注意点
| 運動の種類 | 推奨度 | アドバイス |
|---|---|---|
| 散歩・軽い体操 | 推奨 | 会話ができる程度の速さで |
| ジョギング | 主治医と相談 | 脈拍の上がり具合を確認 |
| 接触を伴うスポーツ | 控えるべき | 胸部への衝撃を避ける |
精神的な不安やストレスを軽減するための心のケア
体に異物が入っているという感覚や、機械に命を預けているというプレッシャーは、想像以上に大きな心理的負担です。訪問看護では、身体の管理と同じくらい患者さんの心の声に耳を傾け、精神的な自立と安定を支えるケアを重視しています。
機械に依存しているという不安感を言葉にして解消する
「この機械が止まったらどうしよう」という不安は、ペースメーカーを利用する多くの方が抱く自然な感情です。訪問看護師は、そのような不安を否定せず、時間をかけてお話を伺うことで、心の中に溜まったストレスを外に吐き出すお手伝いをします。
デバイスがいかに高度な信頼性を持っており、万が一の故障に備えたバックアップ機能が何重にも施されているかを解説します。正しい知識を持つことは、漠然とした恐怖を「正当な注意」に変える力があるため、分かりやすい言葉で繰り返し説明を行います。
夜間の不眠や抑うつ状態を早期に発見して専門職へつなぐ
術後、将来への不安や生活の制限がストレスとなり、眠れなくなったり、何事にも意欲が湧かなくなったりする抑うつ状態に陥るケースがあります。看護師は訪問時の表情の変化、言葉のトーン、食欲の有無などを観察し、心のSOSサインを早期にキャッチします。
もし気分の落ち込みが深刻であれば、早めに主治医に相談し、カウンセリングや薬物療法を検討するよう橋渡しを行います。生活のリズムを整えるための環境調整や、趣味を通じた社会参加の促進など、多角的なアプローチで心の健康を取り戻すサポートをします。
不眠については、寝る前のスマートフォンの使用を控える、室温を適切に保つなど、睡眠環境の改善案を提示します。夜間に不安が強くなる場合は、枕元に緊急連絡先を置いておくなどの安心の仕掛けを施し、ぐっすり眠れる環境作りを一緒に行います。
同じ悩みを持つ仲間や家族会などの情報を提供して孤独を防ぐ
自分一人だけが特別な状況にあると感じると、孤独感が深まりやすくなります。地域にあるペースメーカー友の会や、信頼できるオンラインの交流コミュニティなどの情報を提供することで、同じ経験を持つ仲間との繋がりを作るきっかけを提供します。
他の利用者の方がどのように生活を工夫しているか、旅行やスポーツをどのように楽しんでいるかという体験談を聞くことは、何よりの励ましです。看護師は、患者さんの性格や興味に合わせたリソースを紹介し、社会との結びつきを再構築するお手伝いをします。
また、役所での障害者手帳の申請手続きや、利用できる福祉サービスの紹介も、看護師が窓口となってサポートします。
孤独を防ぐための心のヒント
- 「話す」は「放す」:不安なことは溜め込まず、誰かに話して手放しましょう。
- スモールステップ:今日できた小さなことを数えて、自分を褒める習慣をつけます。
- 外の空気:短時間でもベランダに出たり庭を歩いたりして、季節を感じることが大切です。
Q&A
- 心臓ペースメーカーを入れた後に旅行へ行くことは可能ですか?
-
主治医の許可があれば旅行へ行くことは十分に可能で、旅行先でもしものことがあった際に対応できるよう、旅先の近くにペースメーカー外来がある病院があるかを事前に調べておくと安心です。
移動の際は必ずペースメーカー手帳を携帯し、航空機を利用する場合は空港の保安検査場で手帳を提示して、金属探知機を通らない検査を依頼してください。
- 心臓ペースメーカー利用者が電子レンジを使っても大丈夫ですか?
-
一般的な家庭用電子レンジであれば、通常の使用範囲内で影響を受けることはほとんどありません。
ただし、レンジの作動中に覗き窓に顔を近づけて中をのぞき込んだり、本体に密着したりすることは避けてください。万が一、使用中にめまいや動悸を感じた場合は、すぐにスイッチを切ってその場から離れるようにしてください。
基本的には1メートル程度の距離を保っていれば電磁波の影響は無視できるレベルですので、過度に心配せず毎日の家事にご活用いただけます。
- 心臓ペースメーカーの植え込み部位を洗う時に注意点はありますか?
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抜糸が終わり、傷口が完全に塞がっていれば、石鹸をつけて普通に洗っても問題ありません。
ただし、ナイロンタオルなどでゴシゴシと強くこすりすぎるのは避けてください。植え込み部位の皮膚は薄くなっていることが多く、強い摩擦は皮膚の損傷や感染の原因になる可能性があるため、手で優しくなでるように洗うのが理想です。
- 心臓ペースメーカーを入れている場合、電気毛布やホットカーペットは使えますか?
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家庭用の電気毛布やホットカーペットから発生する電磁波は非常に微弱であり、ペースメーカーの動作に影響を与えることはまずありません。ただし、温度調節のコントローラー部分を植え込み部位のすぐ上に置いて眠るのは避けてください。
もしどうしても不安な場合は、就寝前に布団を温めておき、寝る時にスイッチを切るという方法をとることで、安心感を得ながら快適に眠ることができます。
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