プロトピック軟膏は、肌がかゆみで日常生活に支障をもたらす、アトピー性皮膚炎の患者さんに有効な薬の一つです。
この軟膏は、炎症を和らげるタクロリムスという有効成分が配合されており、症状の緩和に貢献します。
ここでは、プロトピック軟膏の特徴や効果について詳しくご解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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プロトピック軟膏の有効成分と作用機序、効果
有効成分
プロトピック軟膏の主な有効成分は「タクロリムス」で、濃度が2種類あり、タクロリムス0.1%配合は12歳以上から、0.03%配合は2歳以上からです。
主に移植患者の拒絶反応の予防や治療に使用される薬物ですが、アトピー性皮膚炎の治療にも効果が認められています1)。
作用機序
アトピー性皮膚炎の病態にはT細胞の過活動が指摘されています。タクロリムスは、T細胞の活性化および増殖を抑制することで、免疫応答を調整する役割が2)。
そのため、T細胞の活性を抑制するタクロリムスが、アトピー性皮膚炎の症状の改善に寄与すると考えられています。
効果
プロトピック軟膏を塗布すると、多くの患者さんで悪化のサイクルを改善する次のような効果が観察されます。
- 炎症の軽減
- 皮膚の赤みやかゆみの緩和
- 皮膚の乾燥の改善(バリア機能の改善)
他の薬と比べてプロトピック軟膏で特記すべき特徴は、分子量の大きさです。ヒトの皮膚には「500ダルトンルール」があり、500ダルトンを超える分子量のものは健常な皮膚からはほとんど吸収されないと言われています3)。
プロトピック軟膏の分子量は800ダルトンで、健常な皮膚からの吸収は難しい一方で、アトピー性皮膚炎の炎症部位は、皮膚のバリア機能が低下しているため、軟膏の成分が効率よく浸透し効果を発揮。
つまり必要なところのみに効かせることができるという点がプロトピックのメリットの一つです。
また、プロトピック軟膏の使用により、ステロイド外用薬の使用量を減少させることが可能となり、長期使用に関連する潜在的な副作用のリスクを低減できるとの報告があります4)。
参考文献
執筆の根拠にした論文等
1) Martin JC, et al. Topical tacrolimus for atopic dermatitis. Cochrane Database Syst Rev. 2015; 2015(7).
2) Sakuma S.et al., Tacrolimus suppressed the production of cytokines involved in atopic dermatitis by direct stimulation of human PBMC system. Int Immunopharmacol. 2001; 1 (6): 1219-1226.
3) Bos JD, et al. The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol. 2000; 9(3):165-169.
4) 日本皮膚科学会ガイドライン アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
プロトピック軟膏の使用方法と注意点
使用方法
プロトピック軟膏は、通常1日1~2回の塗布が推奨され、1回に使用する量の上限は5gです。使用する際は、適量を指先にとり、炎症のある部位に均一に塗布するよう心がけてください。
注意点
- 太陽の直射や紫外線に注意:使用する部位は、直射日光や紫外線から皮膚を保護。塗布した部位に日焼け止めを使用、または衣服で覆い紫外線を避ける。
- 他の薬との併用:他の外用薬との併用は禁忌ではありませんが、副作用のリスクを高める可能性があるため推奨はされておらず、医師や薬剤師の指示通りに使用。
- 妊娠・授乳中の使用:妊娠中や授乳中の場合は治療における有益性が危険性を上回る場合に限り、処方するケースも5)。妊娠中・授乳中の方は治療を開始する前に主治医に相談。
- 適切な保存方法:高温や直射日光を避け冷暗所に保存。また、開封後の使用期限に注意し、期限が過ぎたものは使用しない。
参考文献
5) 添付文書 医療用医薬品 プロトピック 9. 特定の背景を有する患者に関する注意
適応対象となる患者さん
プロトピック軟膏は、すべてのアトピー性皮膚炎の患者さんにおすすめできるわけではありません。ここでは、どのような患者さんが治療に向いているか解説しましょう。
・年齢による適応: プロトピック軟膏0.1%は12歳以上、プロトピック軟膏0.03%は2歳以上から使用することができます。安全性について不明であるため、2歳未満の乳幼児への使用は推奨されていません6)。
・重症度による適応: プロトピック軟膏は炎症を抑える効果がStrongクラスのステロイド外用と同程度と考えられています(0.03%の場合はmediumクラスと同程度)。
そのため、著明な炎症所見を認めるようなケースではプロトピック軟膏のみでの改善は難しい場合が。Very Strong以上のステロイド外用薬でまずは症状の改善を図り、その後プロトピック軟膏に切り替えることが多いです。
・範囲による適応:1回の塗布量は5gまでとされています。5gでカバーできる範囲はおよそ大腿部から下腿部までと、全身をカバーできるわけではありません。
そのような場合は、からだにはステロイド外用薬、顔や首はプロトピック軟膏(顔と首は合わせて1回塗布量は1g程度)というように部位によって使い分けるのが一般的です。
・特定の部位に対する適応: ステロイド外用薬は副作用による皮膚の萎縮や毛細血管拡張を認めやすく、使用を慎重にする必要があるので、顔や首にはプロトピック軟膏を使用することが推奨されます7)。
・他の治療法との併用:プロトピック軟膏は、他の治療法との併用が可能8)なので、内服薬や注射薬と一緒に使用し症状の改善を図ります。
参考文献
6) FK506 軟膏研究会.アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏 0.1%および 0.03%の使用ガイダンス.臨皮.2003; 57: 1217-1234.
7) Hanifin JM, et al. Tacrolimus ointment for the treatment of atopic dermatitis in adult patients: part I, efficacy. J Am Acad Dermatol. 2001;44(1 Suppl):S28-38.
8) Leung DY, et al. New insights into atopic dermatitis. J Clin Invest. 2004;113(5):651-657.
お子さま、ご高齢の方への使用
プロトピック軟膏はお子さまやご高齢の方への使用には、いくつか注意が必要となります。
お子さまへの使用
お子さまの肌は敏感で薬剤の吸収率が高いため、プロトピック軟膏は、2歳〜15歳のお子さまには0.03%のプロトピック軟膏が適応です。
0.03%であっても小児のアトピー性皮膚炎への有効性は報告されています9)。薬の安全性と効果に関するデータは、2歳未満のお子さまには十分に確立されていないのが現状です。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方は皮膚が薄くなり、バリア機能が低下していることが多いです。このためプロトピック軟膏の吸収が増加し、結果として副作用のリスクが高まる可能性があります。
また、ご高齢の方は他の疾患を抱えていることが多く、他の薬と服用が重なることも多いです。複数の薬を併用による薬物相互作用に注意が必要となります。
参考文献
9) Reitamo S, et al. 0.03% Tacrolimus ointment applied once or twice daily is more efficacious than 1% hydrocortisone acetate in children with moderate to severe atopic dermatitis: results of a randomized double-blind controlled trial. Br J Dermatol. 2004 ;150(3):554-62
プロトピック軟膏の治療期間
アトピー性皮膚炎は再発を繰り返す慢性炎症疾患であるため、症状の改善や増悪を繰り返すことが一般的です。プロトピック軟膏を適切に用いることで、症状の再発を抑える効果が期待できます。
増悪時の使用
プロトピック軟膏の抗炎症効果は、Strongクラスのステロイド外用薬と同等であり、効き目はややマイルドです。
中等度~重度のアトピー性皮膚炎には、3週間のプロトピック軟膏の塗布で改善効果が見られるとの報告があります10)。
しかし、急に症状が悪化した際や、炎症を早期に鎮静させる必要がある場合Very Strong以上のステロイド外用薬が選択されるケースが多いです。
寛解維持期の使用
プロトピック軟膏は、ステロイド外用薬のような長期使用時の副作用の懸念が少ないです。そのためステロイドで症状が軽減した後でプロトピック軟膏へ切り替えることが推奨されています。
保湿剤との併用
アトピー性皮膚炎の管理には「プロアクティブ療法」が推奨されています。これは症状が改善しても保湿剤をうまく使いながらプロトピック軟膏を継続して使用することです。
再発を予防するアプローチとして重要だと考えられています11)。プロアクティブ療法にプロトピック軟膏を適切に取り入れることにより、再発を予防しつつ、ステロイド外用薬の副作用のリスクも低減。
参考文献
10) Ruzicka T, et al. A short-term trial of tacrolimus ointment for atopic dermatitis. European Journal of Dermatology. 1997;337(12):816-819.
11) Wollenberg A, Reitamo S, Atzori F, et al. Proactive treatment of atopic dermatitis in adults with 0.1% tacrolimus ointment. Allergy. 2008;63(7):742-750.
プロトピック軟膏の副作用と対処法
プロトピック軟膏は比較的安全性の高い薬ですが、使用時に副作用を認める場合があります。
主な副作用
報告されているプロトピック軟膏の副作用は、以下の通りです12)。
副作用 | 詳細 |
---|---|
皮膚の刺激感 | 軟膏を塗布した直後、塗布部位に燃えるような感じやピリピリとした痛みを感じることが |
皮膚の炎症 | 使用部位に赤み、腫れ、かゆみなどの症状が現れることも |
皮膚感染 | 免疫を抑える効果により、伝染性膿痂疹や毛嚢炎のような感染症のリスクが増加する可能性 |
副作用への対処方法
特に頻度の高い副作用は灼熱感やピリピリとした刺激感です。このような皮膚の刺激感は入浴時に増強することがあります。
通常刺激感は一過性で、皮疹が改善するとともに消えますが、使用している期間中症状が持続することもあり、その際は休薬もしくは中止することも。
刺激感は炎症が強くじゅくじゅくした状態や、かき壊してしまったような部位では特に強く感じる傾向があるため、そのような状況では、ステロイド外用薬が推奨されることが多いです。
発がんのリスク
プロトピック軟膏は免疫抑制作用により発がんリスクがあると言われているものの、国内外の研究では発がんリスクの上昇は認められなかったと報告されています13)14)。
本剤を使用の際には、専門医や薬剤師とよく相談したうえで治療を受けてください。
参考文献
12) 添付文書 医療用医薬品 プロトピック 11. 副作用
13) Devasenapathy N, et al. Cancer risk with topical calcineurin inhibitors, pimecrolimus and tacrolimus, for atopic dermatitis: a systematic review and meta-analysis. Lancet Child Adolesc Health. 2023 ;7(1):13-25.
14) Paller AS, et al. No evidence of increased cancer incidence in children using topical tacrolimus for atopic dermatitis. J Am Acad Dermatol. 2020;83 (2):375-381.
プロトピック軟膏で効果がなかった場合の対応
ここでは、プロトピック軟膏が効果を示さない場合や、患者さんの体質・症状に合わない場合の対応について解説していきます。
ステロイド外用薬への変更
最も簡単なのはステロイド外用薬への変更です。プロトピック軟膏だけではアトピー性皮膚炎の炎症を十分に抑えきれないこともあります。
その場合は、Very Strong以上のステロイド外用薬を最初に用いて早期の炎症改善を15)。
ただし、ステロイド外用薬を長期間また強いものを過度に使用することで、皮膚が薄くなるなどの副作用のリスクがあるので、医師の指示に従って、適切な使用を心掛ける必要があります。
他の免疫抑制外用薬への変更
プロトピック軟膏が副作用によって使えない場合、他の免疫抑制薬(デルゴシチニブやジファミラスト)に変更することがあります。
プロトピック軟膏使用時にしばしば報告される刺激感は、これらの薬では感じにくいため、比較的使いやすいお薬です。どうしても刺激が強い場合は主治医に相談してください。
内服薬・注射薬の追加や変更
外用薬のみで改善が難しい重度なケースでは、免疫抑制薬(シクロスポリン:ネオラール)やウパダシチニブ(リンヴォック)、バリシチニブ(オルミエント)などのJAK阻害薬といった内服薬が用いられることもあります。
さらに、デュピルマブ(デュピクセント)といった生物学的製剤の導入も検討。これらは皮膚の炎症を抑える効果があり、特に中等度〜重度のアトピー性皮膚炎に対して効果的とされています。
参考文献
15) Eichenfield LF, et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis: section 2. Management and treatment of atopic dermatitis with topical therapies. J Am Acad Dermatol. 2014;71(1):116-32.
他の治療薬との併用禁忌
プロトピック軟膏を使用中の患者さんが光治療(PUVAやUVB療法など)を受ける際には、注意が必要です16)。
タクロリムスの成分は、皮膚が光に対して敏感になる可能性があるため、光治療を受ける際は塗布しないようにしてください。また、照射後の日焼けや紫外線への曝露にも注意が必要です。
参考文献
16) 添付文書 医療用医薬品 プロトピック 10. 相互作用
保険適用について
日本ではプロトピック軟膏が保険適用となる皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎のみとなります。0.1%の軟膏は15歳以上、0.03%は2歳以上の患者さんに対して使用が可能です。
薬価は、プロトピック軟膏0.1%は74.7円/g、プロトピック軟膏0.03%は83.8円/g。
薬価に基づくそれぞれの価格は以下の通りです(薬剤費のみ)。
タイプ | 薬価に基づく薬の価格 |
---|---|
プロトピック軟膏0.1% | 5g/本:373.5円(3割負担で約112円) |
プロトピック軟膏0.03% | 5g/本:419円(3割負担で125.7円) |
保険の適応を受けるためには専門医による診療や診断が必要です。この他、初診料あるいは再診療、処置代などがかかります。
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