アゼライン酸は、ニキビ・毛穴の悩み・色素沈着・肌の赤みなど幅広い肌トラブルに対応できるスキンケア成分として、近年注目を集めています。穀物や皮膚の常在菌にも含まれる天然由来の有機酸で、海外では80カ国以上で医薬品として承認されてきた実績があります。
日本では医薬品としての承認を受けていませんが、化粧品成分として配合された製品が増えており、美容液やクリーム、化粧水、パックなど選択肢も広がってきました。
この記事では、皮膚科専門医がアゼライン酸の効果や正しい使い方、他の成分との併用、副作用のリスクについて詳しく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
アゼライン酸とは|穀物由来の天然ジカルボン酸
アゼライン酸(Azelaic Acid)は、炭素数9の飽和ジカルボン酸に分類される有機化合物です。小麦・大麦・ライ麦などの穀物に天然に含まれるほか、人間の皮膚に常在するマラセチア菌(Malassezia furfur)も産生しています。
つまり、私たちの肌のうえにもともと存在する物質であり、体にとってまったく異質な成分ではありません。そうした背景から安全性への評価が高く、慢性毒性や催奇形性を示すデータも報告されていないことが特徴です。
アゼライン酸の化学的な特徴と歴史
化学式はHOOC(CH₂)₇COOHで表される白色粉末の物質です。工業的にはオレイン酸のオゾン分解によって製造され、もともとは美白成分としてチロシナーゼ阻害作用が研究対象となっていました。
研究を重ねるなかで抗炎症作用や殺菌作用が見出され、1980年代以降、欧米の皮膚科領域で広く使われるようになった経緯があります。米国では2003年に15%濃度のジェルが酒さ(しゅさ)治療薬としてFDAに承認され、のちに20%クリームがニキビ治療にも承認されました。
日本における規制上の位置づけ
日本ではアゼライン酸は医薬品として承認されておらず、医薬部外品の有効成分としても認可を受けていません。化粧品成分表示名称としては「アゼライン酸」で登録されていますが、その法的な位置づけにはやや曖昧な面が残っています。
| 項目 | 日本 | 米国 |
|---|---|---|
| 医薬品承認 | 未承認 | 承認済み(15%・20%) |
| 医薬部外品 | 有効成分として未認可 | ― |
| 化粧品配合 | 配合製品あり | OTC製品あり |
化粧品成分としてのアゼライン酸の広がり
近年は国内外のブランドからアゼライン酸配合の化粧品が次々と登場し、美容液、化粧水、クリーム、パック、クレンジングなどさまざまな剤型で手に入るようになりました。皮膚科で取り扱われるドクターズコスメにも高濃度で配合されるケースが増えています。
市販品に配合される濃度は製品によって幅があり、海外製品では10~15%程度のものも見られます。一方で、日本の一般化粧品に配合される濃度は低めに設定されている場合が多いでしょう。

アゼライン酸に期待できる効果|ニキビ・美白・毛穴に多角的にアプローチ
アゼライン酸が注目される最大の理由は、1つの成分でニキビ・色素沈着・毛穴・赤みなど複数の肌悩みに同時に働きかけられる多機能性にあります。
単一の作用にとどまらず、抗菌・角質調整・抗炎症・メラニン抑制と複数の経路で肌にアプローチする点が皮膚科医からも評価されています。
ニキビ・毛穴をケアする抗菌・角質調整作用
アゼライン酸はニキビの原因菌であるアクネ菌(Cutibacterium acnes)や表皮ブドウ球菌に対して静菌作用を発揮します。抗生物質とは異なり、細菌の細胞内pHを低下させることで増殖を抑えるため、耐性菌を生みにくいとされています。
さらに毛穴の角栓形成にかかわる角質細胞のターンオーバーを正常化する作用も確認されており、毛穴の詰まり(コメド)を防ぐ効果が期待できます。20%濃度のアゼライン酸は、過酸化ベンゾイル5%やトレチノイン0.05%と同等の有効性を示したとする比較研究も報告されています。
色素沈着やシミに対する美白作用
アゼライン酸にはチロシナーゼ阻害作用があり、メラニン色素の生成を抑制する働きが認められています。チロシナーゼとは、メラニンをつくるときに欠かせない酵素のことです。
とくに肝斑(かんぱん)やニキビ跡の炎症後色素沈着に対して効果を示すデータが複数報告されており、20%アゼライン酸と4%ハイドロキノンが同程度の改善をもたらしたという二重盲検試験の結果もあります。ハイドロキノンのような重篤な副作用リスクが低い点は、大きなメリットといえるでしょう。
赤みや肌荒れを落ち着かせる抗炎症・抗酸化作用
好中球(白血球の一種)が放出する活性酸素種(ROS)の産生を抑制し、炎症性サイトカインの発現にも干渉するため、肌の赤みや炎症を鎮める効果が期待できます。この抗炎症作用が、酒さ(赤ら顔)の治療薬として米国で承認された根拠の1つです。
加えて抗酸化作用により、紫外線や大気汚染などの外的ストレスから肌を守る働きもあると考えられています。炎症と酸化ストレスの両方に対応できるため、敏感肌や肌荒れを起こしやすい方にも取り入れやすい成分でしょう。
アゼライン酸の主な作用と対象の肌悩み
| 作用 | 対象の肌悩み | 働き方 |
|---|---|---|
| 抗菌作用 | ニキビ | アクネ菌の増殖を抑制 |
| 角質調整 | 毛穴の詰まり | 異常な角化を正常化 |
| チロシナーゼ阻害 | シミ・色素沈着 | メラニン生成を抑える |
| 抗炎症 | 赤み・酒さ | 活性酸素やサイトカインを抑制 |
| 抗酸化 | 肌老化の予防 | フリーラジカルを中和 |

アゼライン酸の使い方とスキンケアへの取り入れ方
アゼライン酸の効果を引き出すには、毎日継続して使い続けることが大切です。効果を実感するまでには4週間から数カ月かかるケースが多いため、焦らず根気よくスキンケアに組み込んでいきましょう。
どんな化粧品に配合されている?
アゼライン酸はさまざまな剤型の化粧品に配合されています。もっとも一般的なのは美容液(セラム)タイプで、高濃度配合の製品が見つけやすいカテゴリです。
そのほかクリーム、化粧水(トナー)、パック(シートマスク)、さらにはクレンジングオイルに配合された製品まで登場しています。ドラッグストアで手に入る手頃なものから、皮膚科で取り扱うドクターズコスメまで選択肢は幅広く、自分の肌質や目的に合わせて選ぶことができるでしょう。
朝と夜のどちらに使うべきか|効果的な塗り方
アゼライン酸は光毒性(紫外線で成分が変質して肌に害を与える性質)をもたないため、朝のスキンケアにも夜のスキンケアにも使用可能です。毎日2回の使用がもっとも効果的とされていますが、初めて使う場合は1日1回、夜のみからスタートするのがおすすめです。
塗る順番は化粧水のあと、乳液やクリームの前が基本的な目安となります。美容液タイプであれば化粧水→アゼライン酸美容液→乳液の順に重ねてください。クリームタイプの場合は乳液の代わりに使えるものもあるので、製品の説明を確認しましょう。
薄く均一に伸ばすのがポイントで、ゴシゴシとこすらず、顔全体にやさしくなじませるように塗布します。目のまわりなど皮膚が薄い部分は避けるか、ごく少量にとどめてください。
| タイミング | 使い方のポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| 朝 | 化粧水後、日焼け止めの前に使用 | 必ず日焼け止めを重ねる |
| 夜 | 洗顔・化粧水後に塗布 | レチノール併用時は交互使用も検討 |
| 初期 | 1日1回・夜のみで様子を見る | 赤みが出たら頻度を落とす |
相性のよい成分と避けたい組み合わせ
アゼライン酸は比較的ほかの成分と併用しやすい点も魅力です。とくにレチノール(ビタミンA誘導体)との組み合わせは、ニキビや色素沈着に対して相乗効果が期待できるとされています。レチノールが角質のターンオーバーを促進し、アゼライン酸が抗菌・美白に働くことで、異なる経路から肌にアプローチできるからです。
ビタミンC誘導体やナイアシンアミドとの併用も問題ないケースが多く、美白やバリア機能の強化を同時に目指せます。ただし、レチノールとアゼライン酸を初めて併用するときは同時に塗るのではなく、朝にアゼライン酸・夜にレチノール、あるいは日ごとに交互に使うなど段階的に取り入れるのが安心です。
一方で、ピーリング系の酸(グリコール酸・サリチル酸など)との重ね使いは刺激が強まる場合があります。同じタイミングでの使用は控え、どちらか一方にとどめるか、朝・夜に分けるとよいでしょう。

アゼライン酸を使う際に知っておきたい注意点
比較的マイルドな成分ではあるものの、アゼライン酸にも使い始めの刺激感や合わない肌質が存在します。正しい知識をもったうえで使用すれば、トラブルのリスクを大きく下げることができます。
使い始めに起こりやすいピリピリ感やかゆみ
アゼライン酸の使用初期に、軽いヒリヒリ感・ピリピリ感・かゆみ・乾燥を感じることがあります。報告によっては使用者の約10%が何らかの刺激を経験するとされ、多くの場合は2~4週間で自然に落ち着いていきます。
こうした一時的な反応は成分が肌に作用している証拠ともいえますが、赤みや痛みがひどい場合は無理に使い続けず、使用頻度を落とすか中断してください。洗顔後のアルコール系化粧品やピーリング製品との併用は、刺激を増幅させる恐れがあるため控えましょう。
アゼライン酸が合わないかもしれない人
アゼライン酸は多くの肌タイプに使える成分ですが、極度の敏感肌で日常的にバリア機能が低下している方は注意が必要です。アトピー性皮膚炎の活動期や、肌荒れがひどいときに使用すると刺激を感じやすくなることがあります。
また、肌の色が濃い方(いわゆるスキンタイプが高い方)では、高濃度のアゼライン酸を長期間使うことで色素脱失(白くなる)のリスクがゼロではないと報告されています。必ずパッチテストを行い、少量から開始するのが望ましい方法です。
化粧品と皮膚科で処方される製品はどう違う?
化粧品に配合されるアゼライン酸は、あくまで「肌を整える」目的で低~中程度の濃度にとどまるのが一般的です。一方、皮膚科で取り扱われるドクターズコスメには20%前後の高濃度製品も存在します。
海外では15~20%濃度が処方薬として流通しているのに対し、日本では医薬品としての承認がないため、同等の濃度でもあくまで化粧品の扱いになります。濃度が高いほど効果は期待しやすい反面、刺激のリスクも上がるので、肌の状態に不安がある方は皮膚科で相談のうえ製品を選ぶのが安心です。
市販の化粧品と皮膚科の製品の違い
- 市販の化粧品は数%~10%程度の濃度で、ドラッグストアや通販で購入できる
- 皮膚科のドクターズコスメは15~20%前後の高濃度で、窓口や公式通販での取り扱い
- 高濃度品ほど効果が期待しやすいが、刺激を感じるリスクも上がる
アゼライン酸と似た成分はどう違う?比較で選び方がわかる
美白やニキビケアの成分は数多く存在し、アゼライン酸と比較されることが多い成分もいくつかあります。それぞれの特性を把握することで、自分の肌悩みに合った成分を選びやすくなります。
アゼライン酸とレチノールの違い
レチノール(ビタミンA誘導体)はターンオーバー促進やコラーゲン産生促進に優れた成分で、エイジングケア全般に広く使われています。アゼライン酸は抗菌・美白に強く、レチノールほどの刺激が出にくいのが特徴です。
両者は作用経路が異なるため併用が可能であり、ニキビケアと色素沈着ケアを同時に進めたい場合に相性がよいとされています。ただし併用の初期は肌が敏感になりやすいので、交互に使うか朝夜で分けるなどの工夫が大切です。
アゼライン酸とビタミンC誘導体の違い
ビタミンC誘導体もチロシナーゼ阻害作用をもつ美白成分であり、抗酸化作用にも優れています。アゼライン酸との大きな違いは、ビタミンC誘導体が安定性に課題を抱えやすい点です。製品の品質や保管方法によって効果にばらつきが出ることがあります。
アゼライン酸は安定性が比較的高く、光や熱による劣化が起きにくい傾向があります。併用しても相性がよいため、朝にビタミンC誘導体、夜にアゼライン酸という使い分けを取り入れている方も少なくありません。
| 比較項目 | アゼライン酸 | レチノール |
|---|---|---|
| 主な作用 | 抗菌・美白・抗炎症 | ターンオーバー促進・抗シワ |
| 刺激の強さ | 比較的おだやか | やや強い(皮むけが出る場合も) |
| 朝の使用 | 可能 | 夜の使用が推奨される |
| 併用の相性 | レチノールと好相性 | アゼライン酸と好相性 |
アゼライン酸とハイドロキノンの違い
ハイドロキノンは美白効果の高さで知られる一方、かぶれや白斑(色が抜けすぎる現象)のリスクが指摘されてきました。アゼライン酸はハイドロキノンほどの即効性はないものの、重篤な副作用が少なく、長期使用しやすい点が大きな利点です。
実際に肝斑を対象とした比較試験では、20%アゼライン酸と4%ハイドロキノンが同等の改善率を示し、副作用の頻度はアゼライン酸のほうが低かったという報告があります。安全性を重視しながら美白ケアに取り組みたい方にはアゼライン酸が向いているかもしれません。
まとめ|アゼライン酸は多機能なスキンケア成分
アゼライン酸は1つの成分でニキビ・美白・毛穴・抗炎症と複数の肌悩みにアプローチできる、めずらしい多機能成分です。日本ではまだ医薬品として承認されていませんが、海外での豊富なエビデンスと臨床実績から、皮膚科医の間でも評価が高まっています。
- 穀物や皮膚常在菌にも含まれる天然由来の有機酸で、安全性が高い
- チロシナーゼ阻害によるメラニン抑制で色素沈着の改善が期待できる
- アクネ菌への静菌作用と角質調整作用でニキビ・毛穴ケアに有効とされる
- レチノールやビタミンC誘導体との併用で相乗効果が見込める
- 使い始めにピリピリ感が出ることがあるが、多くは一時的なもの
ニキビや色素沈着など気になる症状が続く場合は、自己判断で長期間スキンケアだけに頼るのではなく、皮膚科を受診して専門医のアドバイスを受けてください。
よくある質問
参考文献
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