透析導入後に尿が止まってしまうのではないかという不安は、多くの患者さんが抱える共通の悩みですが、実際には透析を開始しても残存腎機能によって、しばらくは尿が出続けるケースが一般的です。
この残された機能は、水分管理の容易さや合併症の予防において、機械による透析を補完する極めて重要な役割を果たします。
本記事では、透析導入後の尿量の推移や、尿を出し続けるための生活習慣、透析手法による違い、そして将来的に尿が減少した際の向き合い方まで、解説します。
透析導入後の尿量の変化と患者さんが抱える不安の正体
透析導入にあたって尿の消失を恐れるのは、自己管理の厳格化や身体の衰えを象徴するように感じるためです。しかし、実際には導入直後に尿が止まることは稀であり、管理次第で数年以上にわたり尿を維持できることも少なくありません。
透析を始めた瞬間に尿がパタリと止まるわけではない事実
血液透析を導入しても、腎臓の濾過機能がゼロになるまでには通常、数ヶ月から数年の猶予があります。初期は体内の余分な水分が透析で除去されるため、心臓への負担が減り、腎臓への血流が一時的に改善して尿量が増えることさえあります。
この現象は心不全の改善による腎血流量の増加がもたらすもので、適切な透析治療がいかに身体全体の循環を整えるかを物語っています。
尿が出ているうちは、飲水の自由度が比較的高く、体調管理もしやすいため、この状態をいかに維持するかが生活の質に直結するので、ボーナスタイムを無駄にせず、腎臓を労わる習慣を確立することが何よりも大切です。
この時期の尿は、単なる水分の排出だけでなく、機械の透析では取りきれない小さな尿毒症物質を常に排出し続けてくれる、いわば天然の浄化装置なのです。
患者様の中には、透析を始めたのだからもう腎臓は休ませていいと考えてしまう方もいますが、それは大きな誤解で、自分の腎臓が少しでも働いている限り、高性能なバックアップ装置として機能し続けてくれます。
腎細胞一つひとつが老廃物を排泄しようとする力を最大限に尊重し、透析と自分の腎臓の共同作業という意識を持つことが、導入期を乗り越える鍵となります。
尿が出なくなるスピードには個人差がある理由
尿が減少する速さは、原因疾患によって大きく異なり、例えば、糖尿病性腎症の場合は、血管障害が全身に及んでいることが多いため、比較的早く減少する傾向にあります。
一方で慢性腎炎などの場合は、導入後5年以上尿を維持できる方も珍しくありません。これは、疾患の進行スピードや、腎臓内の毛細血管が受けている炎症の質、そして糸球体の硬化具合が患者様一人ひとりで異なるためです。
また、透析中の急激な除水による血圧低下は、残っている腎組織に致命的なダメージを与え、尿の消失を劇的に早めます。1回の透析で何キログラムも体重を減らそうとする行為は、腎臓の寿命を縮めていると言っても過言ではありません。
急激な循環血液量の変化は、腎臓を虚血状態(血液が足りない状態)に陥らせ、細胞の壊死を招きます。これを医学的には虚血再灌流障害の繰り返しと捉え、透析治療そのものが腎臓にとってのストレス因子にならないよう細心の注意が必要です。
医師と綿密に相談し、無理のない除水計画を立てることが、結果として尿量を長持ちさせることに繋がります。自分の身体の耐性を知り、急がず焦らず管理を進めていく意識が必要です。
特に導入から1年間の管理、特にドライウェイト(DW)への到達プロセスの慎重さが、その後の尿量維持の期間を決定づけると言っても過言ではありません。
残存腎機能が維持されている期間のメリット
自力で水分やカリウムを排出できることは、透析治療を補完する大きな助けとなります。除水量を少なく抑えられるため、透析中の血圧が安定し、終了後のぐったりとした疲労感も劇的に軽減されます。
これは、透析間の体重増加が抑えられることで、心臓への過度な負荷(心不全リスクや心肥大)を回避できることを意味し、尿量が多い患者さんほど、透析中の低血圧や足のつりなどのトラブルが少ない傾向にあるのはこのためです。
さらに、最新の研究では、自前の腎臓が分泌するホルモンや中分子物質の除去能力が、心血管疾患の予防に寄与していることが明らかになっています。機械のフィルターでは真似できない、生体ならではの繊細な働きがそこにはあります。
例えば、造血に関わるエリスロポエチンの産生能が一部維持されることで、貧血の程度が軽くなり、高価な造血剤の使用量を減らせるという経済的なメリットも付随します。
尿が出る期間が長ければ長いほど、食事制限のストレスも緩和されます。これはメンタルヘルスの観点からも極めて重要で、社会復帰や趣味の継続に対する意欲を支える強力な基盤となります。
「自分で出せる」という感覚は、自己効力感を高め、自分の身体をコントロールできているという自信に繋がります。この精神的な安定こそが、長期にわたる療養生活を成功させるために重要です。
尿量の維持がもたらす生活のゆとり
| メリットの項目 | 具体的な内容 | 生活への影響 |
|---|---|---|
| 水分制限の緩和 | 1日の尿量分だけ多く水分を摂取可能 | 夏場の喉の渇きに対するストレスが激減し、会食等も楽しみやすくなる。 |
| カリウム排泄の補助 | 自力で一定量のカリウムを捨てられる | 果物や生野菜を完全に諦めなくて済み、食卓の彩りや栄養バランスが向上する。 |
| 透析後疲労の軽減 | 急激な除水が必要なくなるため | 透析直後の倦怠感が軽減し、透析のない日に活動的に動ける時間が増える。 |
| ホルモン産生維持 | 造血ホルモンなどの分泌が継続 | 貧血の改善がスムーズになり、立ちくらみや息切れなどの症状が軽減される。 |
血液透析と腹膜透析で異なる尿量の推移と残存腎機能への影響
透析手法の選択は、残存腎機能の寿命に多大な影響を及ぼします。週3回の通院で集中的に行う血液透析と、24時間かけて緩やかに浄化する腹膜透析では、腎臓にかかる負荷の質が根本から異なるためです。
腹膜透析が尿量を維持しやすいと言われる医学的背景
腹膜透析(PD)は、自分の腹膜をフィルターとして利用し、24時間365日休みなく、緩やかに毒素や水分を排出する仕組みです。血液透析のように週3回という断続的で急激な処置を行わないことが、腎臓保護の観点から高く評価されています。
これは、腎臓が最も嫌う急激な体液シフトと血圧変動がほぼ発生しないためです。腎臓の血管は非常に繊細で、一定の血流が保たれることを好みます。
常に一定の体液量が維持されるため、腎臓へ送られる血液が途切れることがなく、腎細胞が死滅するペースを大幅に遅らせることができ、導入後5年が経過しても、毎日1リットル以上の尿が出ている患者さんもこの手法に多いです。
この持続的浄化こそが、生体本来の腎機能に近い環境を再現しています。PDでは、透析液の浸透圧を利用して水分を抜くため、血液透析のような「血管内脱水」が起こりにくいのも大きな特徴です。
また、自宅で行う治療であるため、通院のストレスが少なく、リラックスした環境が自律神経を介して腎血流を良好に保つ効果も期待できます。
生活の自由度を最優先したい方、特に仕事を続けている方にとっては、身体的・精神的な安定が尿量維持のプラス要因として働きます。
さらに、PDを先行して行うPDラストという治療選択も、残存腎機能を最大限に活用する戦略として近年注目されています。
血液透析における尿量減少の主な要因と対策
血液透析(HD)では、わずか4時間という短い間に、数日分溜まった老廃物と水分を一気に取り除きます。
このプロセスで血管内の血液量が急激に減少すると、身体は生命維持に不可欠な脳や心臓へ血流を優先し、腎臓への血流をカットしてしまいます。
一時的な虚血の繰り返しが、腎臓の組織を徐々に線維化させていき、特に除水速度が速すぎる場合、腎臓への酸素供給が不足し、細胞のダメージが不可逆的なものとなります。
対策として、透析間の体重増加をドライウェイトの3%以内に抑えるよう、日々の食生活を徹底することが不可欠です。増え幅が少なければ除水速度を低く設定でき、腎臓へのダメージを最小限に抑えられます。
臨床現場では、透析液のナトリウム濃度を調整したり、透析中の食事(血圧低下を招くため)を控えたりする工夫が行われています。また、冷たい透析液を使用することで血管を収縮させ、血圧の維持を図る手法も有効です。
さらに、透析の回数を増やすオーバーナイト透析や在宅血液透析などの頻回透析は、1回あたりの除水負荷を減らせるため、血液透析であっても尿量を維持しやすいという報告もあります。
血液透析であっても、緩やかな管理を追求することで、腎臓の寿命を延ばすことは十分に可能です。技術の進歩により、近年ではオンラインHDFなど、より生体に優しい透析モードも普及しつつあります。
どちらの透析方法を選んでも共通する注意点
透析の方法にかかわらず、腎臓は非常にデリケートな臓器です。風邪をひいた際の高熱や脱水、あるいは歯科治療や整形外科での安易な痛み止めの使用が、一晩で尿を止めてしまうこともあります。
特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腎血流を著しく低下させるため、安易な自己判断での服用は厳禁で、痛みが必要な場合は、アセトアミノフェンなど腎臓への影響が少ない薬剤を選択するのが定石です。
他科を受診する際は、必ず透析中であることを伝え、腎臓に負担の少ない薬を処方してもらうよう徹底してください。また、CT検査などで用いる造影剤も、残存腎機能があるうちは最大限の慎重さが求められます。
造影剤は直接的に腎不全を悪化させるリスクがあるため、検査のメリットとデメリットを主治医とよく相談しましょう。やむを得ず使用する場合は、透析のタイミングを調整するなどの対策が取られます。
さらに、便秘は尿量維持の隠れた敵です。腸内に老廃物が溜まると、有害な窒素化合物(尿毒症毒素)が腸管から再吸収され、それを排出しようとする腎臓への負担を間接的に強め、また、便秘によるいきみは血圧変動を招きます。
適切な下剤の使用や食物繊維の摂取、発酵食品の活用などで腸内環境を整える腸腎連関のケアも、尿量を守るためには欠かせない視点です。
尿を出し続けるための生活習慣と水分管理のポイント
尿を出し続けるためには、腎臓に余計な仕事をさせず、かつ血液をスムーズに送り続けるという、繊細なバランス維持が求められます。特に塩分と水分の管理は、透析患者様にとって最も基本的で、かつ最も強力な腎機能保護の手法です。
塩分摂取を控えることが尿量維持に直結する理由
塩分を摂りすぎると、体内の浸透圧が上昇し、細胞から水分が引き出され、激しい喉の渇きを引き起こし、我慢できないほどの飲水欲求を生みます。その結果、透析での除水量が増え、腎臓が壊死する悪循環に陥ります。
塩分管理は、単なる数値の目標ではなく、水分制限の苦しみを根本から断ち切るための最も合理的で賢い戦略です。塩分を控えることで、自然と喉が渇きにくくなり、無理のない管理が可能になります。
1日の塩分摂取量を6g未満に抑えることは、血圧を安定させるだけでなく、腎臓の微小な毛細血管を守るために不可欠です。
香辛料(カレー粉、七味)や香味野菜(生姜、ネギ、大葉)、酸味(レモン、酢)を多用することで、塩分を減らしても料理の満足度を維持できます。
また、醤油やソースは「かける」のではなく、小皿に出して「つける」習慣に変えるだけで、1日あたり1〜2gの減塩が期待できます。
外食時には、漬物や汁物を残す、ドレッシングを別添えにしてもらうといったアクションを徹底しましょう。また、加工食品(かまぼこ、ハム、インスタント食品)には驚くほどの隠れ塩分が含まれています。
購入前にパッケージの栄養成分表示を確認し、食塩相当量を計算する癖をつけることが、腎臓を救います。
適正体重(ドライウェイト)を守る意識の大切さ
ドライウェイト(DW)は、身体の中に余分な水分がなく、心臓や腎臓への血流が最も理想的な状態にある目標体重です。数値を無視して過剰な水分を保持し続けると、心臓が肥大し、結果としてポンプ機能が低下して腎臓への循環が悪化します。
心不全の状態になると腎血流は著しく低下し、一気に尿量が減少してしまいます。DWを守ることは、全身の血管系を健康に保ち、腎臓に十分な酸素を届けるために不可欠です。
逆に、DWを厳しく設定しすぎて常に脱水気味になっても、腎臓への血液供給が途絶えて尿が止まります。特に高齢の患者様の場合、DWが低すぎると立ちくらみや転倒のリスクも高まります。
自分の体調をスタッフに細かく伝え、むくみの有無や血圧の傾向を観察しながら、適宜DWを見直す柔軟さが求められます。DWは一度決めたら不変のものではなく、筋肉量や脂肪量の変化に合わせて育てるものだと考えてください。
季節の変わり目や、食欲の変化に応じてDWは変動します。毎日の体重測定を習慣化し、自分の増え方のパターンを知ることで、「昨日は食べすぎたから今日は控えよう」といったセルフコントロールが可能になります。
体重計に乗ることを、自分へのご褒美(管理ができている証拠)として楽しむマインドセットが、管理の精度を格段に高め、腎機能を守る強力な武器となります。
軽い運動が腎臓の血流を改善させる効果
かつての医療では安静が推奨されていましたが、現在の腎臓リハビリテーションでは、適度な運動が残存腎機能の保護に有効であることが証明されています。
1日20分程度のウォーキングは、全身の血流を改善し、末梢血管の抵抗を減らすことで腎血流を増加させます。運動によって血流が良くなると、腎臓の毛細血管が開きやすくなり、老廃物の濾過効率が高まることが期待できます。
運動によってふくらはぎの筋肉を動かすと、第二の心臓として血液の還流を助け、透析中の急激な血圧低下を防ぐ強靭な血管を作ることができます。
また、運動はインスリンの効きを良くし、尿量減少の大きな原因である糖尿病のコントロールを容易にします。激しい運動である必要はなく、隣の人と会話ができる程度の強度での運動が、腎臓にとっても最も優しい刺激となります。
ただし、透析直後の激しい運動や、真夏の屋外での活動は脱水を招くため厳禁です。室内の快適な環境で、軽く汗をかく程度のスクワットやストレッチから始めてみてください。
運動を習慣にすることで、睡眠の質が向上し、ストレスの解消にも繋がります。
残存腎機能維持のためのチェックリスト
- 塩分は1日6g未満、毎食2g以下を厳守しているか
- 透析間の体重増加は、DWの3%〜5%以内に収まっているか
- 1日3000歩を目安に、無理のない範囲で身体を動かしているか
- 血圧を朝晩測定し、収縮期血圧(上の血圧)が目標値内に安定しているか
- 市販の風邪薬や痛み止めを飲む前に、必ず透析医に相談しているか
残存腎機能が低下して尿が出なくなった時の心構えと対処法
透析年数が経過し、尿が減少・消失することは、疾患の自然な経過であり、決してあなたの管理が悪かったわけではありません。尿が出なくなった段階では、管理の焦点を「維持」から「適応」へとシフトさせる必要があります。
尿が出なくなった後の水分制限を乗り切る工夫
尿が完全に止まると、飲んだ水分は100%透析で取り除かなければなりません。これまで以上に厳密な管理が求められますが、根性論で喉の渇きに耐えるのは長続きしません。まず、生活環境を整えることから始めましょう。
口腔内が乾燥すると喉が渇きやすいため、うがいを頻繁にする、あるいは少量の水で口をゆすぐことが有効です。また、冷たい水で口をすすぐだけでも、喉の渇き中枢が一時的に満足し、飲水欲求が抑えられることが知られています。
喉が渇きにくい工夫を徹底しましょう。辛いものや刺激物を避ける、レモン果汁を入れた冷水で口をすすぐ、飴をなめるといった小技が効果を発揮します。
また、空調を整えて皮膚からの不感蒸泄(汗として意識されない水分の蒸発)をコントロールすることも有効です。冬場の暖房の効きすぎや、夏場の過度な発汗は脱水を招き、逆に喉を渇かせます。
適度な湿度を保つ加湿器の利用も、喉のイガイガ感を防ぎ、水分の過剰摂取を抑える一助となります。
1日の配分を決め、お気に入りのカップで少しずつ楽しむ。小さな氷をゆっくり口の中で溶かす。こうした小さな工夫を楽しむ管理の達人になることで、精神的な自由を手に入れることができます。
体重管理の基準が変化することへの理解
無尿期において、透析間の体重増加はドライウェイトの3%から5%以内に抑えることが国際的な推奨基準です。1日あたり1kg程度の増加であれば、心臓への負担を最小限に抑えられます。
週末など中2日空く場合は、活動量が減る一方で食事機会が増えるため、特に注意が必要です。週末の体重管理を制する者が、透析生活を制すると言っても過言ではありません。
体重増加が多すぎると、透析中の除水速度を上げざるを得ず、それが全身の血管を傷める原因になります。
もし週末に3kg以上増えてしまうと、透析中の除水スピードが血管の回復力を上回り、血圧低下やこむら返りを引き起こします。この苦痛を避けることが、長期療養の継続において最も重要です。
増えすぎてしまった際は、早めにクリニックへ相談し、透析時間の延長や追加透析を検討してください。無理に短時間で抜こうとせず、時間をかけてゆっくり抜くことで、心臓や脳への負担を和らげることができます。
数字の管理は、自分を縛る鎖ではなく、自分の身体を守るためのナビゲーションシステムです。朝起きた直後と寝る前の体重測定を定点観測し、何を食べた時に増えやすかったかを日記感覚で把握しましょう。
自分の身体の癖をデータとして持つことで、外食や旅行などのイベント時にも「これくらいなら調整できる」という安心感が生まれます。早め早めの微調整こそが、合併症を遠ざける最大の防御策です。
心のケアと周囲のサポートを活用する重要性
尿が出なくなるという変化は、しばしば「自分の身体が以前とは違う」という喪失感を伴いすが、現代の透析医療は、無尿の状態でも毒素を取り除くことで、健常者と遜色のない寿命と活力を維持できる技術を既に確立しています。
尿が出なくなったからといって、人生の価値や楽しみが損なわれるわけでは決してありません。
大切なのは、家族やパートナーに現在の自分の状況(制限の理由や、特有の辛さ)を正しく共有することです。味付けを薄くしてもらう代わりに素材の質を上げてもらう、一緒にウォーキングを楽しむなど、協力を仰ぐことで孤独感を解消できます。
一人で抱え込まず、周囲にサポーターを増やすことも管理の一部で、クリニックのスタッフもその有力なサポーターで、不安な気持ちを吐露することで、解決のヒントが得られることも多いです。
同じクリニックの患者会などに参加し、無尿期を乗り越えて元気に過ごしている先達の話を聞くのも良いでしょう。「尿が出なくなってから10年経つけど、毎日ゲートボールを楽しんでいるよ」といった実体験は、何よりの励みになります。
一歩先を行く人の姿を見ることで、漠然とした不安は具体的な適応へのステップへと変わります。新しいステージでの楽しみ、新しい自分らしい生き方を見つけることが、前向きな療養生活を続けるための最大の秘訣です。
無尿期を前向きに過ごすための指針
| 悩み | 解決のアイデア | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 喉が渇いて眠れない | 加湿器を使用し、枕元に冷たいお茶をスプレーボトルで置く | 少量の水分噴霧で口腔内の渇きが癒え、睡眠の質が向上する。 |
| 外食で水分が増えてしまう | 麺類は避けるか、スープを絶対に飲まない。氷入りの飲み物を控える。 | 500ml以上の不要な水分摂取を防ぎ、翌日の透析が楽になる。 |
| 食事の楽しみがない | ハーブ、スパイス、酸味を多用し、盛り付けの彩りにこだわる。 | 塩分が少なくても視覚と味覚が刺激され、満足感を得られる。 |
| 孤独感を感じる | 患者会やコミュニティに参加し、経験を共有する。 | 同じ悩みを持つ仲間と繋がることで、精神的な支えが得られる。 |
透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )
よくある質問
- 透析導入後も尿が出ているうちは、カリウムや水分の制限を完全に無視しても大丈夫ですか?
-
完全に無視することはできません。尿が出ていることは大きなアドバンテージですが、腎臓の濾過能力は健常時の数パーセント程度にまで低下しています。
制限を無視して暴飲暴食を続けると、残された腎細胞に過剰な負担(過剰濾過)がかかり、尿が止まる時期を早めてしまいます。
尿があるからこそ、その機能を長持ちさせるために、腹八分目の適切な管理を継続することが長期的な自由への近道です。
- 透析中に血圧が下がると尿が止まりやすいと聞きましたが、防ぐ方法はありますか?
-
血圧低下を防ぐ最も有効な対策は、透析間の体重増加を抑えることです。除水量が少なければ血圧は安定しやすく、腎臓への血流も維持されます。
また、透析開始前に血圧を下げる薬の服用時間を調整したり、透析中に頭を少し低くして休むなどの工夫も有効です。
少しでも気分が悪くなったらすぐにスタッフへ伝え、除水スピードを落としてもらう勇気を持つことが、あなたの腎臓を救うことに繋がります。
- 腹膜透析の方が尿が長持ちすると聞きましたが本当ですか?
-
本当です。腹膜透析は血液透析のような急激な血圧変動や、血管内脱水が起こりにくいため、腎臓への血液供給が安定して保たれます。
このため、統計的にも腹膜透析の方が尿量を数年長く維持できる傾向があります。尿量を維持して生活の質を高く保ちたい、という希望がある場合は、導入前に腹膜透析という選択肢を主治医とよく相談することをお勧めします。
- 透析中の血圧低下が尿に悪いのはなぜですか?
-
腎臓は血液を濾過する臓器であり、常に大量の血液を必要とします。透析中に除水が急激すぎて血圧が下がると、身体は脳や心臓を守るために腎臓への血流をカットしてしまいます。
この「一時的な虚血」を透析のたびに繰り返すと、腎臓の組織はダメージを受け、回復不可能な状態(線維化)へと陥ります。尿を守るためには、透析中の血圧を安定させることが何よりも重要なのです。
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