壊死性筋膜炎

壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis)とは、皮下脂肪と筋膜の間で細菌が猛スピードで増殖し、生きた組織を壊死させながら全身へ毒素を放つ重篤な感染症です。

発症からわずか数時間で血行動態が破綻し、ショックや多臓器不全へ進むケースも珍しくありません。

初期にはほかの軽い皮膚感染症(蜂窩織炎など)と区別しづらく診断が難しいため、約半数以上で見逃されるとも報告されています。

治療は緊急の外科手術と強力な抗菌薬が中心で、治療が遅れるほど死亡リスクが飛躍的に上昇するため、外科的緊急疾患として早期対応が必要になります。

この記事の執筆者

臼井 大記(日本整形外科学会認定専門医)

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

壊死性筋膜炎の病型

壊死性筋膜炎は起因菌や患者背景によって大きく4つの病型に分けられます。

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病型主な起因菌好発部位進行速度背景疾患・状況
Type I混合菌会陰・腹壁中等度糖尿病、肥満、末梢動脈疾患
Type IIA群β溶血性レンサ球菌四肢非常に速い健常者、外傷歴
Type IIIビブリオ属下肢速い肝硬変、海水曝露
Type IVCandida, Mucor任意緩徐強力な免疫抑制

病態生理

壊死性筋膜炎では、筋膜や皮下組織で菌が急増し、炎症性サイトカインと溶血毒素が血流に放出されます。

毒素が血管内皮を傷つけると血管透過性が高まり、血漿が漏出して組織の浮腫が悪化します。

この浮腫が毛細血管の血流をさらに妨げ、好中球や抗菌薬が病巣に届きにくくなる負のスパイラルが形成されます。

その結果、組織は酸素欠乏に陥り、広範囲な壊死を引き起こします。

この連鎖を断ち切るには、早期の切除によって毒素を物理的に取り除き、抗菌薬の効果を確保しつつ、循環動態をサポートして微小循環を改善させることが重要です。

Type I(複数菌の混合感染)

複数の好気性菌と嫌気性菌が混在し、組織内で相乗的に毒素を放出するタイプで、壊死性筋膜炎全体の7〜8割を占める最も多い型(Ⅰ型)です。

糖尿病や末梢動脈疾患によって血流が低下した部位に発症しやすく、腹壁や会陰部の広範囲に及ぶケースも少なくありません。

治療では、ガス壊疽との鑑別を念頭に置きつつ、術野を拡大しすぎないよう血行が良好な縁まで切除します。

初回のデブリドマン後に創部を十分に洗浄し、嫌気的な条件を排除すると、その後の追加切除量を減らせるとの報告もあります。

混合菌型では、嫌気性菌が産生する酪酸などによってpHが低下し、それが好気性菌の発育をさらに促進する悪循環が生じます。

そのため、創部を開放して排膿を促し、十分な酸素を供給することが治療戦略です。

Type II(単独菌型)

A群β溶血性レンサ球菌による単独感染が典型的で、基礎疾患のない健常者にも突如として発症するのが特徴です。

毒素が筋膜に沿って一気に拡散するため進行が非常に速く、わずか数時間のうちに四肢全周が紫黒色に変色する症例も少なくありません。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)を併発した場合、抗菌薬の投与開始後であっても、サイトカインストーム(免疫の暴走)によって血圧が急激に低下します。

そのため、サイトカイン吸着療法や高用量免疫グロブリン(IVIG)を組み合わせ、循環動態の安定化を図る高度な全身管理が求められます。

原因となるレンサ球菌は、M蛋白やストレプトリジンOといった病原性因子を産生します。

これらが白血球を溶解させ、生体の防御反応をすり抜けながら、局所の炎症をさらに増悪させていきます。

Type III(海水関連型)

沿岸部での外傷や魚介類の取り扱いがきっかけになり、ビブリオ・バルニフィカスや腸炎ビブリオが侵入して発症します。

特に肝硬変などで鉄過剰状態にある患者さんでは、菌が鉄を利用して爆発的に増殖し、重症化しやすいのが特徴です。

病変部には血疱(けっぽう)や出血性水疱が多発し、皮膚の色が鮮やかな赤から暗褐色へと非常に速いスピードで変化するため、患者さん自身でも異変に気づきやすいタイプです。

海水型で重症ショックを起こした場合の生存率は約50%とされていますが、発症から12時間以内に初回手術を行うことができれば、生存率は80%近くまで向上するとの報告があります。

Type IV(真菌型)

高血糖状態や広域抗菌薬の長期投与により真菌が優位になって発症し、カンジダ(Candida)やムコール(Mucor)が主な原因です。

リスク群としては、免疫抑制薬を内服している臓器移植後の患者さんや、血液悪性腫瘍で好中球減少が続いている方などが挙げられます。

真菌型は経過が比較的緩やかで、初期は痛みが乏しく、病変が深部に進むまで目立った皮膚所見が現れない場合があります。

診断においては、組織生検で真菌糸を確認する必要があり、アムホテリシンBなどの抗真菌薬を用いた治療を行います。

壊死性筋膜炎の症状

壊死性筋膜炎は症状の進行が早いため、初期症状を見落とすと短時間で致命的な転帰に至ります。

痛みと見た目のギャップが大きい点が判断の手がかりです。

初期症状

壊死性筋膜炎の初期には、局所の症状が蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの普通の皮膚感染症に似ています。

患部の皮膚に発赤(赤み)と腫れ、熱感、圧痛が生じ、外見上はそれほど重篤に見えないケースもあります。しかし、痛みの程度が見た目に比べて異常に強い(見かけ以上の激痛)ことが本症を疑うサインです。

インフルエンザ様の全身症状(倦怠感や筋肉痛、発熱など)が出る場合もあります。

まだこの段階では、皮膚の感覚は保たれていて柔らかいです。

中期症状

感染が進行すると水疱(水ぶくれ)や血性の水疱が現れ、皮膚の一部に壊死が生じます。

皮下組織では膿の滲み出しが増え、皮膚は光沢を帯びて腫脹し、触れるとブヨブヨした感じになる場合があります。

また、炎症が筋膜深くまで及ぶことで、小血管の血栓や神経の障害が起こり始め、患部の知覚が鈍くなるケースも少なくありません。

そのため、症状が進行すると逆に痛みが軽減してしまう場合があり、症状の深刻さを過小評価してしまうおそれがあります。

後期症状

さらに進行すると皮膚には血疱(出血を伴う大きな水疱)が多数出現し、皮下に細菌が発するガスが溜まることで、皮膚を押すとブチブチとした握雪感を触れるようになります。

皮膚や皮下組織は灰色や紫黒色に変色・壊死し、大量の悪臭を放つ膿性の排液が出ます。

この膿はdishwater(皿洗いした水)とも形容され、薄い血色~灰色で水っぽく、細菌の酵素で組織が融解したものです。

原因菌(大腸菌、クレブシエラ、ブドウ球菌、溶連菌などが出す毒素や酵素によって組織破壊が加速し、腐敗臭を出します。

全身症状

局所の壊死が進むにつれ、発熱(高熱)、頻脈、低血圧、意識混濁など全身性の症状が現れてきます。

適切な治療中であっても感染が制御できていなければ、皮膚の発赤範囲が時間単位で急速に拡大し続けます。

このように、抗菌薬投与下でも患部の腫れ・発赤が拡がる場合は壊死性筋膜炎を強く疑わせる所見であり、早期手術の重要なサインです。

治療がさらに遅れると敗血性ショックから多臓器不全へ進行し、生命が危険にさらされます。

壊死性筋膜炎の原因

原因を知ると、なぜ“たかが切り傷”が命に関わる感染へ進むのかを理解できます。

外傷と体の状態、環境が重なり合うと、発症リスクが跳ね上がります。

菌種分類毒素臨床特徴
A群β溶血性レンサ球菌グラム陽性球菌ストレプトリジンO急速なショック、四肢に多い
ビブリオ・バルニフィカスグラム陰性桿菌ヘモリシン海水曝露後の水疱、多発性出血
クロストリジウム・パーフリンゲンス嫌気性グラム陽性桿菌α毒素ガス壊疽、捻髪感
Candida albicans真菌免疫抑制下、慢性経過

起因菌

直接の原因は細菌感染で、溶血性連鎖球菌(A群溶連菌)、ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌、MRSAを含む)、連鎖球菌(腸球菌)、大腸菌、クレブシエラ、クロストリジウム属の細菌など、壊死性筋膜炎を引き起こす細菌は多岐にわたります。

1つの種類の細菌(単一菌)で起こる場合もありますが(タイプII、典型例はA群レンサ球菌)、多くは複数の細菌が混合して感染を成立させます(タイプI)。

混合感染の場合でも、実際には溶連菌(A群レンサ球菌)が含まれる例が多く、この菌は筋膜や脂肪組織を破壊する毒素を産生するため特に危険です。

感染経路

これらの細菌は皮膚の傷口などから体内に侵入して発症します。

小さな切り傷、擦り傷、火傷、手術創、褥瘡(床ずれ)、虫刺されや注射の跡など、ごくわずかな皮膚の破綻部位からでも細菌が入り込む契機となります。

外傷が明らかでない場合でも、筋肉の打撲傷や捻挫部位から発症した例も報告されています。

また、水中の細菌(先述のビブリオ菌など)が海水浴や釣りでの小傷から感染し、壊死性筋膜炎を起こす場合もあります。

こうした海水由来の感染は全体から見るとまれですが、夏場の海水や生の魚介類を介した感染例が時々報告されています。

危険因子

皮膚から細菌が侵入しても、健康な人では通常ここまで重症な感染症に至るケースはまれです。

壊死性筋膜炎を発症しやすいリスク因子として、糖尿病、肝硬化などの慢性肝疾患、腎不全などの慢性腎疾患、自己免疫疾患、ステロイドや免疫抑制剤の長期使用、悪性腫瘍(がん)、HIV感染、低栄養状態、肥満、静脈注射薬物乱用、大きな外傷や手術後、熱傷などが知られています。

これらの基礎疾患や状態があると免疫力や血行が低下し、重度の軟部組織感染が起こりやすくなります。

また、産後や妊娠中に発症する劇症型溶連菌感染症(産褥熱の一種)もあり、産科領域も注意が必要です。

まれに明らかな傷や持病がない健康な人にも突然発症しますが、それでも上述のリスク因子を持つ人々は発症率・死亡率が高いため特に注意しなければなりません。

日常生活でできる予防策

  • 入浴前後に小さな切り傷を確認し、流水と石けんで洗う
  • 釣りや海水浴をする際は創部を防水テープで保護する
  • 糖尿病の人は血糖コントロールを維持する
  • アルコール摂取量を“節度ある適量”に抑える
  • 足の感覚が鈍い人は綿棒で皮膚刺激をチェックする
  • 肥満指数(BMI)を25未満に保ち、皮膚間擦を減らす
  • 海ではビーチサンダルではなく、つま先を覆うマリンシューズを選ぶ

壊死性筋膜炎の検査・チェック方法

壊死性筋膜炎が疑われる場合、症状と身体所見に加えて複数の検査・評価法を実施し、早期診断に努めます。

いずれの検査も単独では決め手に欠けるため、総合的な判断が重要です。

指診(フィンガーテスト)

局所麻酔下で患部の皮膚に約2cmの小切開を入れ、指先で皮下組織と筋膜の間を剥離してみる簡易手術検査です。

正常な組織では筋膜と皮下は強く癒着していますが、壊死性筋膜炎では感染で組織が破壊されているため、指で容易に筋膜と皮下が剥がれます。

また、創部から出血が見られず、悪臭のある薄い排液(dish water)が出てきたり、筋肉の収縮力が低下したりしているときは壊死性筋膜炎を強く示唆します。

指診が陽性であれば直ちに本格的な外科的デブリードマン(壊死組織の切除手術)に移行します。

血液検査とスコアリング

炎症や感染の程度を調べるため血液検査を行います。

典型的には白血球数の上昇やCRP値の高度上昇、電解質異常(ナトリウム低下など)や腎機能悪化、血糖上昇などが見られます。

これらの所見を総合し、壊死性筋膜炎の可能性を数値化するLRINECスコア(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis)という採点法も提案されています。

CRP、白血球、ヘモグロビン、血清ナトリウム、クレアチニン、血糖の6項目から点数化し、合計6点以上で92%の陽性的中率との報告があります。

ただし、LRINECスコアが低いことでは壊死性筋膜炎を否定できないため(感度に限界がある)、あくまで補助的な参考指標です。

画像検査

X線検査(レントゲン)

X線検査(レントゲン)は初期には非特異的変化しか写らず有用ではありません。

一部の患者しか軟部組織内にガス像(空気の気泡)を呈さないため、X線だけでの診断は推奨されません。

CT検査(コンピュータ断層撮影)

筋膜の肥厚や皮下脂肪の不鮮明化、筋膜下の微細なガス像など壊死性筋膜炎を強く示唆する所見を描出できます。

特に緊急の診断補助としてCTは第一選択となります。

超音波検査(エコー)

その場で迅速に行え、皮下の肥厚や液体貯留、気体の混入を確認できます。

筋膜下に2mm以上の液体層が認められれば、約72.7%の精度で壊死性筋膜炎を示唆するとの報告があります

MRI検査(磁気共鳴画像)

軟部組織の描出に優れ、感度90~100%と非常に見逃しが少ない検査です。

深部筋膜の肥厚や液体貯留を明瞭に描出できるため、蜂窩織炎との鑑別にも有用です。

ただし、MRIは撮像に時間がかかるため、緊急時はまずCTを行い、患者の安定期にMRIを追加するといった使い分けが推奨されています。

外科的切除と病理検査

上記の検査で疑いが高ければ、手術による病変部の除去(デブリードマン)が最も確実な診断法となります。

手術で患部を開いてみると、筋膜が灰色に変色して壊死し、皮下組織と筋膜・筋肉が容易に剥離する所見(指診と同じ所見)、筋膜の腫脹、さらには筋膜や皮下から膿が滲出する様子などが観察されます。

切除した組織を迅速病理検査(組織生検)に回して顕微鏡で確認すると、広範な組織壊死と激しい炎症細胞浸潤が認められ、これで確定診断が得られます。

細菌培養検査

手術時には創部から十分な量の組織や浸出液を採取して培養し、原因菌を特定します。

複数回の手術のたびに毎回培養検体を提出し、経過中に新たな菌が出現していないかを確認することも重要です。

培養結果から得られた薬剤感受性の情報をもとに、使用する抗菌薬を適宜調整します。

壊死性筋膜炎の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間

壊死性筋膜炎の治療は、早期の外科的処置と適切な抗菌薬治療を柱に、必要に応じて集中治療および補助療法を組み合わせて行います。

治療開始の遅れは致命的となるため、「疑わしい場合はすぐ手術」が原則です。

外科的デブリードマン(壊死組織の除去手術)

最も重要な治療であり、診断がついたら直ちに手術で死んだ組織を取り除きます。

初回の切開では壊死した皮膚・皮下組織・筋膜を広範囲に切除し、膿や毒素の排出と血流の改善を図ります。

その後も24~48時間ごとに患部を再度手術で洗浄・追加切除し、感染が収まるまで複数回の手術を要するのが一般的です。

平均で2~4回程度の手術が必要になるとの報告もあります(感染範囲によっては四肢の切断が避けられない場合もあります)。

入院期間は重症度によりますが、ICU管理から創部閉鎖まで数週間に及ぶケースも珍しくありません。

抗菌薬治療

手術と並行して早期から抗生物質の全身投与を行います。最初は原因菌を特定できないため、広域スペクトルの抗菌薬を組み合わせて治療を開始します。

典型的には「グラム陽性菌・陰性菌・嫌気性菌のすべてをカバーする薬」+「毒素産生を抑える薬」+「耐性菌(MRSA)をカバーする薬」の3剤併用が推奨されています。

具体例としては、メロペネムやピペラシリン/タゾバクタムなどの広域βラクタム系抗生剤に、バンコマイシン(MRSAを想定)とクリンダマイシン(溶連菌などの毒素産生抑制を期待)を加えるレジメンなどです。

培養検査で原因菌が判明したら、例えば溶連菌単独であればペニシリン系に絞るなど、レジメンを速やかに狭域スペクトルに切り替えていきます。

抗菌薬の投与期間は明確なエビデンスは少ないものの、一般には最終手術から7~14日間程度の継続が推奨されます。

少なくとも感染制御ができ患者の全身状態が改善し、手術が不要となってから48~72時間が経過するまでは抗菌薬を継続することが推奨されています。

重症感染であるため抗菌薬は点滴静注で開始し、十分改善した段階で経口薬に切り替えて退院後も含め治療を行います。

集中治療(ICUでの全身管理)

壊死性筋膜炎患者の多くは敗血症を呈し、血圧低下や呼吸不全などの症状が出ます。

ICUでは十分な輸液による循環管理、昇圧薬(血圧維持薬)の投与、人工呼吸管理、腎不全に対する透析、DIC(播種性血管内凝固)に対する血液製剤投与など、患者の状態に応じた集中的治療が行われます。

また、高栄養状態を維持するため静脈栄養や経腸栄養でカロリー・蛋白補給を行い、免疫力と創傷治癒力の低下を防ぎます。

特に重症患者では多くの臓器管理が並行するため、多職種チームによる総合的なICUでのケアが不可欠です。

補助療法

上記以外に、いくつかの補助的な治療法が用いられることがあります。

高気圧酸素療法 (HBOT)

高圧環境下で100%酸素を吸入することで血中および組織への溶解酸素量を増やし、嫌気性菌の増殖抑制や白血球の殺菌能向上を図る治療です。

壊死性軟部組織感染症に対する併用療法として50年以上前から報告がありますが、確立したエビデンスは未だ十分ではありません。

ただし、近年の大規模後ろ向き研究では、HBOTの併用により院内死亡率の低下(調整オッズ比0.22)や切断率の低下が認められたとの報告があります。

一方で入院期間が平均1.6日延び、費用も増加するデメリットもあります。

免疫グロブリン療法 (IVIG)

ガンマグロブリン製剤の点滴静注により、溶連菌などが産生するスーパー抗原毒素を中和して全身炎症反応(Toxic Shock様症状)を和らげる目的で用いられる場合があります。

IVIG併用療法は一部の劇症型溶連菌感染症で有効性が示唆されてきましたが、壊死性筋膜炎単独に限ると死亡率や入院期間を有意に改善しないとの報告もあり、ルーチンな使用には議論があります。

現状では溶連菌やブドウ球菌による中毒性ショックが疑われる重症例で、他の治療を尽くしたうえで生命予後改善を狙って投与するケースが多いです。

一般的には2日間程度かけて総量2g/kgのIVIGを点滴するレジメンなどが用いられます。

その他の補助療法

感染局所の陰圧閉鎖療法(VAC療法)による創傷管理、持続的な血液浄化療法によるサイトカイン除去、ステロイド大量投与による炎症制御(ただし早期ステロイドは感染の進行徴候をマスクする恐れがあり慎重に判断)など、症例に応じて検討します。

ただし、これらの補助的手段はいずれも十分な根拠がある標準治療ではなく、医師によるリスク・ベネフィット評価のうえで行います。

リハビリテーション

循環動態が安定した段階で、理学療法士の介入のもと、まずは寝たまま行える足関節の底背屈運動(足首の曲げ伸ばし)から開始します。これにより、関節の拘縮や筋萎縮を最小限に抑えます。

壊死部位が足底(足の裏)に及ぶ場合は、患部への過度な圧迫を避けるため、ほかの部位への荷重分散を考慮した立位バランス訓練をセットで進めていきます。

また、切断による義足の適合が必要になるケースでは、早期から義肢装具士がチームに加わり、スムーズな義肢作製をサポートします。

リハビリテーションの代表的なステップ

時期訓練内容の目安
術後1日目ベッド上での関節可動域訓練(ROM訓練)
術後3日目座位保持の訓練、および上肢の筋力トレーニング
術後5日目立位訓練、歩行補助具(歩行器など)を用いた練習
術後10日目歩行距離の拡大、および階段昇降の練習

多職種連携

壊死性筋膜炎の治療は非常に複雑であり、外科医、救急医、感染症専門医、形成外科医、集中治療医といった医師陣に加え、多くの専門職による連携が不可欠です。

  • 管理栄養士: 高タンパク・高カロリーな栄養計画を立案し、窒素収支の評価を行いながら、組織の修復(創傷治癒)を栄養面から強力にサポートします。
  • 理学療法士・義肢装具士: 早期の機能回復と離床を担います。
  • 臨床心理士: 疾患による身体的・精神的なショックに対するメンタルケアを行います。
  • ソーシャルワーカー: 退院後の介護保険の利用や障害年金の申請手続きなどを支援し、在宅復帰への不安を解消します。

治癒期間と予後

デブリドマン(壊死組織の切除)の回数は平均2〜4回ですが、Type II(単一菌型)などで発見が遅れると、5回以上の処置が必要になる場合もあります。

無事に退院したあとも、装具を用いたリハビリや継続的な創部ケアが必要となり、発症前のような完全な社会復帰を果たすまでには半年程度を要するケースも珍しくありません。

薬の副作用や治療のデメリット

強力な治療は救命率を大きく向上させる一方で、副作用や合併症のリスクも伴います。

区分具体例主な対応・対策
薬剤偽膜性大腸炎経口バンコマイシン、整腸剤の投与、薬剤変更の検討
手術再出血・瘢痕拘縮止血・再縫合、早期からの専門的な理学療法
ICUせん妄早期離床、昼夜のメリハリをつける環境調整
心理抑うつ・不安継続的なカウンセリング、適切な薬物療法

抗菌薬の副作用

広域βラクタム系抗菌薬は、腸内細菌叢(お腹の菌のバランス)を乱し、Clostridioides difficileによる偽膜性大腸炎を招くおそれがあります。

また、毒素抑制効果を持つクリンダマイシンは、吐き気や下痢などの消化器症状が強く出やすい側面があります。

症状が長引く場合は、無理をせず薬剤の変更を検討することが重要です。

外科的合併症

広範囲の筋膜切除後は、大きな組織欠損が残り、四肢では骨や腱が露出する場合もあります。

形成外科医は、機能の温存と見た目(審美性)のバランスを考慮して遊離皮弁移植や穿通枝皮弁などの再建術を検討します。

ただし、複数回の再建手術が必要な場合は入院期間やコストも増加します。

ICU管理による影響

長時間の深い鎮静は人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクを高め、ステロイドの併用は筋萎縮を進行させます。

集中治療医は、可能な限り早期の覚醒と離床を目指すプロトコルを導入し、自発呼吸を促すトライアルを毎日行い、早期の人工呼吸器離脱を図ります。

心理社会面へのサポート

創部の見た目の変化や切断は、患者さんのセルフイメージに深刻な影響を及ぼします。

臨床心理士によるカウンセリングや認知行動療法を行い、必要に応じて抗うつ薬などの処方も検討します。

また、復職に際しては産業医と連携し、勤務時間や業務内容を段階的に拡大するなどの具体的な支援を提案します。

創部ケアのポイント

  • ドレッシング交換時は創部を無駄に乾燥させず、適切な湿潤環境を保つ
  • アルコール綿の刺激が強い場合は非アルコール性洗浄液を選ぶ
  • NPWTのチューブ閉塞を毎日確認し、警報が出たらすぐ医療スタッフへ連絡する
  • 創部の写真を定期的に撮影し、治癒過程を可視化してモチベーションを保つ

リスク低減のための対策

  • 抗菌薬投与中は腎機能検査を週2回行い、早期に腎機能障害を検出する
  • せん妄予防として昼夜の照明を調整し、睡眠リズムを保つ
  • NPWT装着部の圧迫を避け、装置の動作音を周囲へ伝えて装着忘れを防ぐ
  • 心理的負担を軽減するため、家族を含めたカンファレンスで治療目標を共有する

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

壊死性筋膜炎は命を守るための侵襲的な治療と長期の入院が必要となるため、総医療費は高額になります。

しかし、公的保険と高額療養費制度を正しく利用すれば、自己負担額を大幅に抑えられる可能性があります。

保険制度の概要

日本の診療報酬制度では、外科手術、ICU管理、抗菌薬、高用量免疫グロブリン(IVIG)、陰圧閉鎖療法(NPWT)など、主要な治療のすべてに保険が適用されます。

自己負担割合は、現役世代の方は3割、70〜74歳の方は2割、75歳以上や一定の障害を持つ方は1割です。

想定費用モデルケース

40歳・会社員(自己負担3割)の方が、デブリドマン2回、ICU5日間、一般病棟30日間、NPWT14日間などの治療を受けた場合の概算です。

区分内訳病院請求額(10割)自己負担額(3割)
手術デブリドマン × 2回1,200,000円360,000円
ICU管理集中治療室 5日間800,000円240,000円
病棟入院一般病棟 30日間700,000円210,000円
薬剤抗菌薬、IVIG投与など650,000円195,000円
NPWT陰圧閉鎖療法 14日間200,000円60,000円
リハビリ35日間200,000円60,000円
検査画像・血液検査など300,000円90,000円
合計4,050,000円1,215,000円

高額療養費制度による負担軽減

限度額適用認定証を入院前(または入院中早めに)に取得して窓口に提示すれば、ひと月あたりの支払上限額を超えた分を支払う必要はありません。

例えば、一般的な所得層(区分ウ:年収約370万〜770万円)の場合、ひと月の自己負担上限は約8万〜9万円です。

治療が数か月に及ぶ場合でも、月ごとの精算となるため、家計への負担を大幅に軽減できます。

※上限額は所得区分によって異なり、年収約370万円未満(区分エ)なら月57,600円、年収約1,160万円以上(区分ア)なら252 600円+(医療費−842 000)×1%になります。

民間保険と医療費控除

  • 民間保険: 入院・手術給付金に加え、義足が必要になった際は後遺障害給付金の対象になる可能性があります。早めに保険会社へ相談しましょう。
  • 医療費控除: 1年間に支払った医療費(交通費や装具代を含む)が10万円(または所得の5%)を超えた場合、確定申告で税金の還付や住民税の減額が受けられます。領収書は大切に保管しておいてください。

収入のサポート(傷病手当金)

会社員などの被用者保険加入者が長期休職する場合、連続する3日間の待機期間を経て、最長1年6か月の間、標準報酬日額の約3分の2相当が傷病手当金として支給されます。

退院後の生活支援

退院後も外来リハビリや装具の購入費などがかかる場合があります。

  • 自治体の助成: 身体障害者日常生活用具給付などを利用すると、義足や弾性ストッキングの費用負担を軽減できる場合があります。
  • 生活福祉資金: 社会福祉協議会による低利・無利子の貸付制度もあり、一時的な所得減少を補えます。

退院前にソーシャルワーカー(MSW)と相談し、利用可能な制度を洗い出しておくと、スムーズな社会復帰につながります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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