在宅での人工呼吸器管理は、本人や家族にとって大きな安心と同時に不安を伴うものです。
訪問看護師は、呼吸器の適切な動作確認やトラブル予防だけでなく、日常生活を支えるための専門的な医療的ケアと心の支援を並行して提供します。
本記事では、訪問看護が担う具体的なケア役割、停電や故障といった緊急時への備え、そして住み慣れた家で安全に過ごし続けるための環境整備について詳しく解説します。
在宅人工呼吸器管理を支える訪問看護の役割
訪問看護師は、機器の管理だけでなく全身状態を細かく観察し、合併症を未然に防ぎ、24時間体制で本人と家族を支え、医療と生活をつなぐ要として多職種と連携を深めます。
呼吸状態の観察と全身管理
訪問看護師が真っ先に行うのは、本人の呼吸状態が安定しているかの確認です。バイタルサインの測定に加え、呼吸音の異常や胸郭の動きを注意深く観察します。
人工呼吸器の数値が設定通りであっても、体調によって換気効率が低下する場合があるためで、皮膚の色や意識レベルの変化も、重要な判断基準となります。
特に酸素飽和度の変動や脈拍の上昇は、呼吸苦や分泌物の貯留を示すサインです。看護師はいろいろな指標を総合的に判断し、必要であれば主治医に報告を行います。
肺の全野を聴診し、副雑音の有無から肺炎の兆候を早期に察知し、また、呼吸器と本人の呼吸が同調しているか、ファイティングがないかも確認します。
さらに長期的な管理において重要となる栄養状態や排泄状況も把握し、睡眠の質についても情報を収集し、全身の健康維持を多角的にサポートします。
加えて、尿量やむくみの状態から心負荷の増大を予測する場合もあります。呼吸機能の低下は全身の循環不全に直結するため、わずかな変化も見逃さない観察力が必要です。
訪問看護が提供する基本的な支援項目
| 支援カテゴリー | 具体的な内容 | 目的・効果 |
|---|---|---|
| アセスメント | 肺音・浮腫・酸素飽和度の確認 | 体調変化の早期発見と肺炎予防 |
| 機器メンテナンス | 回路交換・フィルター清掃・バッテリー点検 | 機器トラブルの防止と安全確保 |
| 家族支援 | 手技の練習・介護相談・精神的支え | 介護負担の軽減と在宅継続の安定 |
人工呼吸器の動作確認と回路の管理
生命維持に直結する人工呼吸器が正しく機能しているかの確認は、訪問看護の基本業務です。電源の接続状況やバッテリーの残量を毎回確実に点検します。
設定値に狂いがないかを確認し、回路内の結露も取り除き、接続部の緩みをチェックする細かな配慮が、回路の外れによる事故を防ぐことにつながります。
加湿器内の蒸留水の残量や、ウォータートラップに溜まった水の破棄も重要です。回路内に水が溜まりすぎると、本人の呼吸を妨げ、誤嚥の原因にもなり得ます。
不衛生な状態は感染症のリスクを高めるため、回路や加湿器の清掃時期を管理し、看護師はメーカーの推奨に基づき、定期的なメンテナンスを確実に実施します。
フィルターの目詰まりは換気量の低下を招くため、汚れ具合を毎回目視で確認し、予備の回路がいつでも使える状態で保管されているかも、点検の対象です。
家族が日常的に行うべき簡易点検の方法についても助言を行い、家庭内での管理能力を高める支援を繰り返し、安全な環境を共に作り上げます。
家族への技術指導と精神的ケア
在宅生活を維持するためには、家族による日々のケアが欠かせません。訪問看護師は、吸引の方法やカニューレの固定手順を、家族が自信を持てるまで指導します。
専門用語を避け、実際の操作を見せながら、それぞれの家庭に合った方法を一緒に考え、緊急時の連絡手順についても、迷いが生じないよう明確に伝えます。
特に夜間のトラブル対応は家族に大きな不安を与えるので、看護師は「もしも」の場面を想定したシミュレーションを一緒に行い、心の準備をサポートします。
家族自身の健康状態や疲労度も、訪問看護師が気にかける重要なポイントです。介護者が孤立せず、休息をとれるような社会資源の活用を具体的にアドバイスします。
日々のケアにおける気道管理と吸引のポイント
自力で痰を排出することが難しい方にとって、気道の確保は生命維持の絶対条件です。適切な吸引技術と加湿管理を組み合わせ、感染症や窒息のリスクを最小限に抑えます。
適切なタイミングでの吸引実施
吸引は本人に負担をかける処置であるため、回数は必要最小限に留めるのが基本です。
看護師は呼吸音の変化や酸素飽和度の低下を瞬時に読み取り、表情や合図から、必要なタイミングを見極めて介入します。不必要な吸引は気道粘膜を傷つけ、かえって痰の量を増やしたり出血を招いたりするためです。
一方で、痰が奥に詰まってしまうと肺炎を起こす恐れがあり、溜まっている兆候があるときは迅速に対応し、短時間で効率よく除去する技術を提供します。
吸引時にはカテーテルの挿入深さを適切に保ち、気管分岐部を刺激しすぎないよう注意し、1回の吸引時間は10秒から15秒以内が目安です。
吸引前後に十分な換気を行うことで、一過性の低酸素状態を防ぐ配慮も欠かせません。看護師は本人の苦痛を最小限に抑えるよう、熟練した手技で対応します。
吸引後の心拍数や呼吸状態の回復も忘れずに確認し、身体への侵襲を最小限に抑えつつ、スムーズな呼吸を維持できるよう細心の注意を払います。
加湿管理と水分摂取の調整
人工呼吸器を通る空気は乾燥しているため、適切な加湿がなされないと痰が粘り気を増し、これがカニューレの閉塞を起こす大きな要因です。
訪問看護師は加湿器の温度設定や水の量を確認し、季節に応じた調整を行い、室温の変化による結露の発生にも注意し、回路の走行を整えます。
不適切な加湿環境は、直接的に肺内感染を起こすリスクとなるため、加湿チャンバー内に水垢やカビが発生していないかも厳重にチェックすることが重要です。
体内の水分バランスも大切で、本人の水分摂取量が不足していないかを確認し、痰が硬くなるのを防ぐための全身的なアプローチを検討します。
また、心機能や腎機能との兼ね合いを考えながら、主治医と連携して最適な水分量を調整します。脱水は痰の粘稠度を上げ、過剰な水分は心負荷を強めてしまいます。
ネブライザーによる吸入療法が必要な場合は、実施をサポートし、薬液が効果的に気道へ届よう姿勢を整え、呼吸の質を高めるケアを継続します。
効果的な排痰を支えるケアの工夫
| ケアの種類 | 実施の工夫 | 注意点 |
|---|---|---|
| 加湿器の管理 | 室温に合わせた温度設定の調整 | 水の入れすぎや空焚きに注意 |
| 体位変換 | 2時間から4時間おきの姿勢変更 | 回路の引っかかりや屈曲を確認 |
| スクイージング | 呼吸に合わせて優しく胸部を圧迫 | 骨折や痛みの有無を事前に確認 |
体位排痰法と呼吸リハビリテーション
寝たきりの状態が続くと、肺の深部に痰が溜まりやすくなるので、訪問看護師は重力を利用して痰を動かす体位排痰法をケアの中に取り入れます。
横向きやうつ伏せに近い姿勢など、本人が苦しくない範囲で定期的に姿勢を変え、痰を中枢側の気道まで移動させ、排出を促します。
特に側臥位で下側の肺を膨らませるなどの工夫は、換気血流比の改善にも役立ちます。これは、肺全体のガス交換効率を高めるための積極的なアプローチです。
徒手的に胸郭を圧迫して呼気を助けるスクイージングも有効な手段で、吸引カテーテルが届かない部位の痰も、この技術によって出しやすくなります。
さらに、拘縮が進むと呼吸そのものが浅くなり、悪循環に陥るリスクが高まるので、肋間筋や横隔膜などの呼吸筋をほぐすストレッチを行い、胸郭の柔軟性を維持することが大切です。
また、肺の膨らみを維持するためのリハビリテーションも並行して実施します。
人工呼吸器のアラーム対応とトラブルシューティング
アラームは命を守る警告ですが、その音は不安を増大させます。原因を迅速に特定し、冷静に対処するための知識を持つことが、在宅生活の安心感を支えます。
高圧アラームの原因特定と対処
高圧アラームは、空気を送り込む際に一定以上の抵抗がかかったときに発生し、主な原因は痰による気道の閉塞や、回路の折れ曲がりです。
本人の咳き込みによって一時的に鳴る場合もあるので、看護師は即座に呼吸音を確認し、必要であれば吸引を実施して速やかに気道を確保します。
カニューレの先が気管壁に当たっている場合も圧が上昇し、このときはクッションなどでカニューレの角度を微調整し、刺激を取り除く対応を行います。
家族には、まず落ち着いて回路の走行を確認するよう伝え、折れがないか、本人が回路を噛んでいないかを目視でチェックすることが基本の行動です。
また、結露の水が回路内に溜まって抵抗になっているケースもあるので、ウォータートラップ以外にも、回路が弛んでいる部分に水が溜まっていないか確認します。
吸引を行っても音が消えない場合の判断基準を明確にしておき、機械的な故障なのか身体的な変化なのかを切り分ける方法を、繰り返し練習します。
アラームの種類と主なチェック項目
| アラーム名 | 考えられる原因 | 確認すべき場所 |
|---|---|---|
| 高圧アラーム | 痰の詰まり、回路の折れ、咳 | 喉元の吸引、回路の走行 |
| 低圧・断路 | 回路の外れ、カフの漏れ | 接続部、カフ圧の確認 |
| 電源アラーム | コンセント脱落、停電 | 電源プラグ、ブレーカー |
低圧・断路アラームへの迅速な行動
低圧アラームは設定した圧力がかかっていない状態を示します。空気がどこかで漏れているか、回路が外れている可能性が高く、緊急の対応が必要です。
カニューレと回路の接続部や、加湿器のキャップを瞬時に点検します。接続が緩んでいないかを確認するだけで解決する場合も少なくありません。
カフ付きのカニューレを使用している場合は、カフの圧力が抜けていないかを確認し、カフ圧計を用いて適正な範囲に空気を補充し、漏れを防ぎます。
看護師は、回路の接続を強化するための工夫を施し、外れやすい箇所に目印をつけるなど、未然に防ぐための予防策を家族と共に講じます。
また、回路に亀裂が入っていないかを目視と耳で確認します。「シュー」という漏れ音が聞こえる場合は、予備の回路へ速やかに交換する判断が必要です。
接続を直してもアラームが鳴り止まないときは、直ちに手動換気へ切り替え、アンビューバッグの使用を躊躇しないよう、判断のタイミングを伝えます。
バッテリー異常と電源トラブルの回避
電源コードの脱落や停電が発生すると電源アラームが作動します。人工呼吸器には内蔵バッテリーがありますが、駆動時間には限りがあるため注意が必要です。
訪問看護師は、コンセントが確実に差し込まれているかを毎回チェックし、他の家電製品によるブレーカー落ちを防ぐため、専用コンセントの確保を勧めます。
冬場の電気ストーブや夏場のエアコンなどは、同一回路での使用を避ける工夫が必要で、電源の安定供給は、機器の寿命を延ばすことにもつながります。
タコ足配線を避けるといった細かな環境調整も、トラブル回避に有効です。バッテリーの劣化状況を定期的に点検し、フル充電の状態を常に維持します。
内部バッテリーの駆動時間を把握しておくことで、移動や入浴時の時間管理が容易になります。寿命が近いバッテリーは、早めに交換を手配します。
停電が予想される場合には、予備バッテリーの準備状況を再確認し、常に複数の電源確保手段を持つことが、在宅での安全な療養を支える基盤です。
災害時や停電時における緊急時対応マニュアル
自然災害による停電は生命に直結する事態です。各家庭の状況に合わせた防災計画を作成し、緊急時の行動をシミュレーションしておくことが命を救う鍵となります。
アンビューバッグによる手動換気の習得
機器が完全に停止した際、最後の砦となるのがアンビューバッグで、訪問看護師は、家族が操作を迷わず行えるよう、実技研修を定期的に実施します。
適切なリズムや押し込む強さを、体感として覚えてもらうことが重要です。胸の上がり具合を確認し、十分な換気ができているかを判断する技術を伝えます。
通常は1分間に12回から15回程度、本人のいつもの呼吸リズムに合わせてバッグを押します。強く押しすぎると肺損傷のリスクがあるため、適度な力加減を教えます。
バッグはベッドサイドのすぐに手に取れる場所に常備し、破損や汚れがないか、看護師が訪問のたびに点検し、いつでも使える状態を保ちます。
また、酸素ボンベが併用されている場合は、バッグと酸素を接続する方法も指導します。高濃度の酸素を送り込むことで、緊急時の心負荷を軽減できます。
緊急時に備えて用意すべき防災セット
| アイテム名 | 用途・必要性 | 保管のポイント |
|---|---|---|
| アンビューバッグ | 停電・故障時の手動換気 | 枕元に常備、動作確認済み |
| 予備バッテリー | 長時間の停電対策 | 常に満充電、期限確認 |
| 手動式吸引器 | 停電時の痰除去 | 操作方法を家族で共有 |
外部バッテリーと予備電源の確保
長時間の停電に備え、ポータブル発電機や外部バッテリーの準備を推奨し、看護師は機器の消費電力を計算し、必要な容量について助言を行います。
いざという時にバッテリーが上がっていないか、充放電テストもサポートし、自治体のバッテリー貸出制度などの情報を提供し、申請を支援します。
医療機関での優先供給枠への登録など、制度的なセーフティネットの活用も進めます。個人での備えだけでなく、公的な支援を組み合わせることが重要です。
車のシガーソケットから電源を取るインバーターの用意も有効な手段で、複数のバックアップを組み合わせ、どのような状況でも電源を絶やさない工夫をします。
また、太陽光パネル付きの蓄電池など、災害に強い最新の電源設備についても情報提供を行います。
避難経路と緊急連絡網の整備
災害時にどの避難所へ向かうのか、電源の有無を含めて事前に調査し、訪問看護師はハザードマップを確認し、安全な移動ルートを家族と共有することが不可欠です。
人工呼吸器を使用している方は福祉避難所への移動が推奨されます。受け入れ態勢や医療従事者の配置状況を事前に把握しておくことが安心につながります。
緊急連絡網は紙に書き出し、見やすい場所に掲示することが大切で、主治医やメーカー、電力会社など、必要な連絡先を網羅してパニックを防ぎます。
また、スマートフォンが使えなくなった場合の備えとして、公衆電話の場所を確認しておくことも重要です。
災害用伝言ダイヤルの活用方法についても、事前に周知を行い、電話がつながりにくい状況でも、情報の孤立を防ぐための準備を整えておきます。
皮膚トラブルと褥瘡を予防するためのスキンケア
機器の固定による圧迫や、長時間の同一姿勢は皮膚に大きな負担をかけます。専門的な視点で観察と除圧を行い、痛みのない快適な療養生活を維持します。
カニューレ周囲とマスク接触面の保護
カニューレを固定するホルダーによる首周りの摩擦には、細心の注意が必要です。看護師は皮膚の赤みを毎日確認し、適切な保護材を導入します。
シリコン製の保護パッドや、低刺激のドレッシング材を用いて、物理的な圧迫を分散させ、特に瘻孔(ろうこう)の周囲は痰による浸軟が起きやすいため、清潔を保ちます。
固定紐の締め具合は、指が1、2本入る程度の余裕を持たせます。きつすぎると血流を妨げ、ゆるすぎるとカニューレの脱落を招くため、調整が重要です。
鼻マスクを使用する場合、鼻根部や頬への圧迫が強くなりすぎないよう管理し、マスクのサイズが合っているかを確認し、皮膚の洗浄と保湿を徹底します。
また、夜間だけマスクを外せる時間帯がある場合は、その間に徹底したスキンケアを行います。皮膚を休ませる時間を意図的に作ることが、潰瘍の予防に役立ちます。
汗による蒸れは皮膚炎の原因となるため、こまめな清拭が大切で、常に清潔で乾燥した状態を保てるよう、介助のポイントを家族に伝えます。
皮膚トラブルを防ぐためのチェック項目
- マスクやホルダーの接触部に赤みや腫れがないか確認します。
- エアマットレスの圧設定が適切で底付きしていないか点検します。
- 汗をかきやすい部位の清拭と保湿を1日1回以上実施します。
- 食事摂取量が低下していないか、便性や尿量を把握します。
体位変換と体圧分散寝具の活用
呼吸を楽にするために頭側を上げた姿勢を続けると、お尻に圧力が集中するので、看護師は体圧分散効果の高いマットレスの導入をサポートします。
本人の体重や姿勢に合わせて設定を細かく調整し、底付きを防ぎ、自動体位変換機能付きのベッドを検討するなど、家族の負担軽減も同時に図ります。
30度側臥位など、効果的に圧を分散させるポジショニングを家族に伝授し、大きな枕やクッションを使い、身体の面で支える工夫を凝らします。
クッションを用いて圧力を逃がすポジショニング技術も共有します。関節の拘縮がある場合は骨が突出した部分を保護し、局所的な圧迫を回避することが大事です。
踵や肘など、小さな面積で支えている部位の赤みも見逃しません。こうした細部への配慮が、重症化しやすい部位の褥瘡を未然に防ぐことになります。
栄養状態の改善による皮膚の抵抗力維持
皮膚トラブルの予防には、体内からのアプローチも極めて重要です。栄養不足は皮膚を弱くし、傷ができた際の回復を遅らせる原因となります。
看護師は食事の摂取量や水分バランスを観察し、必要に応じて栄養補助を提案し、特にアルブミン値の低下は褥瘡リスクを高めるため、注意が必要です。
低タンパク状態にならないよう、食事内容の工夫を共に考えます。少量で高カロリー・高タンパクを摂取できる補助食品の試供品を提供することもあります。
経管栄養を使用している場合は、注入速度や内容が適切かを確認し、下痢や嘔吐などの随伴症状にも注意し、全身のコンディションを整えます。
皮膚のバリア機能を保つために、亜鉛やビタミン類などの微量元素の不足がないかも主治医と確認し、また、口腔内の清潔も全身の健康維持に直結するため、専門的なケアを提供します。
住環境の整備と多職種連携によるサポート体制
安全な療養環境は、物理的な設備と人のネットワークの両方で成り立ちます。他職種と連携して生活動線を整え、本人と家族が安心して過ごせる場を創出します。
医療機器の配置と生活動線の確保
在宅療養には多くの機器が必要となるため、生活の邪魔にならない配置を考え、緊急時にすぐ操作できる位置に機器を置くことが重要です。
ベッドの周囲360度に動線を確保し、どこからでもケアができるように配置し、介助者がスムーズに動けることが、事故防止の第一歩です。
看護師はコンセントの数を確認し、コードによる転倒リスクを排除し、吸引や処置をスムーズに行うためのスペースを確保し、動線を整理します。
加湿器への注水がしやすいよう、水道からの距離や動線も考慮し、衛生的な物品管理ができるよう、収納棚の配置なども提案します。夜間の観察に必要な照明環境が整っているかも、大切なチェックポイントです。
安全な在宅療養のための環境整備ポイント
- 機器の周囲に十分な放熱スペースと作業空間を確保します。
- 停電に備え、懐中電灯や予備バッテリーを定位置に置きます。
- 物品の在庫管理表を作成し、不足がないようチェックします。
- 緊急連絡先一覧を電話機の横など目立つ場所に掲示します。
停電・災害への備えと地域ネットワーク
環境整備には地域の見守り体制というソフト面も含まれます。看護師は、人工呼吸器の使用を地域の消防署や自治体に届け出るよう勧めます。
緊急通報時に、救急隊が呼吸器使用者であることを事前に把握でき、これは、到着後のスムーズな医療処置につなげるための重要なステップです。
登録することにより、広域災害時でも優先的な救助対象となる可能性が高まります。
近隣住民との良好な関係作りも、非常時の大きな支えとなるので、民生委員や地域の防災担当者にも、必要に応じて患者さんの状況を伝えておきます。災害時に誰が真っ先に駆けつけるか、顔の見える関係を作っておきます。
ケアマネジャーやメーカーとの円滑な連携
人工呼吸器の管理には、医師やエンジニアなど多くの専門家が関わり、訪問看護師は、日々の変化を迅速に各所へ伝達する窓口です。
定期的な機器メンテナンスのスケジュールをメーカーと共有し、実施を立ち会い、専門的な質問をメーカーへ投げかけ、より安全な設定を探ります。
機器の不調があればメーカーへ、生活環境の不備はケアマネジャーへ相談し、この橋渡しが、トラブルを未然に防ぐのに重要です。
リハビリスタッフとも目標を共有し、呼吸器の設定に合わせた運動負荷を検討し、チーム全体が一貫した方針で動けるよう、看護師が情報を集約します。
サービス担当者会議では、医療的な視点からQOL向上のための提案を行い、患者さんの「外出したい」という願いを叶えるための体制を具体化します。
Q&A
- 在宅人工呼吸器を使用しながらお風呂に入ることはできますか?
-
多くの場合でお風呂に入ることが可能です。ただし、お湯が気管切開部や回路に入らないよう徹底した対策が求められます。訪問看護師が立ち会い、呼吸状態や血圧の変化を注意深く見守りながら入浴をサポートします。
長時間の入浴は体力を消耗するため、体調に合わせてシャワー浴に切り替えるなど柔軟な対応が必要です。入浴前後で機器の設定を確認し、適切に痰を吸引することで、リラックスできる時間を安全に提供します。
- 夜間のアラームが怖くて家族が眠れないときはどうすればよいですか?
-
アラームへの不安は、多くのご家族が抱える切実な問題です。まずは訪問看護師と共にアラームの音の意味を正しく理解し、対処法を身につけることから始めます。誤作動を減らすための細かな調整も可能です。
また、夜間対応の訪問看護やヘルパーを利用し、ご家族がしっかりと睡眠をとれるようなケアプランを再検討します。
- 旅行や外出をすることは可能でしょうか?
-
十分な準備を整えれば、外出や旅行を楽しむことは十分に可能です。ポータブル型の呼吸器を使用し、予備バッテリーや緊急用機材を揃えた上で計画を立てます。
訪問看護師は、移動中の呼吸管理や外出先でのトラブル対応についてアドバイスを行います。宿泊を伴う場合は、現地の医療機関や訪問看護ステーションとの連携を事前に行うこともあります。
- 痰が急に増えたり色が変わったりした場合はどう対応すべきですか?
-
痰の変化は身体の重要なサインです。量が増えたり黄色く濁ったりした場合は、感染症や気道の乾燥が疑われます。まずはこまめに吸引を行い、加湿の設定や水分摂取量を見直します。
発熱や呼吸数の増加、酸素飽和度の低下を伴う場合は、速やかに主治医や訪問看護師へ連絡してください。看護師が痰の性状を評価し、早急な医学的処置が必要かどうかを判断して、主治医と連携した迅速なケアを提供します。
以上
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