冬の寒さが厳しくなると、かかとの荒れやひび割れに悩む方が急増します。
多くの患者さんは、これを乾燥肌や加齢による変化だと捉え、市販の保湿クリームで対処しようと試みますが、どれだけ保湿をしても改善が見られない、あるいは夏になってもガサガサが続く場合は、乾燥以外の原因を疑う必要があります。
かかとの角質が厚く硬くなる症状の裏には、白癬菌というカビの一種が関与しているケースが非常に多いのです。
本記事では、ただの乾燥とは異なる角質増殖型水虫の特徴や、完治に向けた正しい治療法について詳しく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
かかとのガサガサは乾燥ではなく水虫の可能性が高い理由
多くの方が冬場にかかとの乾燥を感じますが、それが単なる季節性の乾燥なのか、それとも水虫によるものなのかを判断することは難しいです。
通常の乾燥であれば、保湿ケアを入念に行うことで皮膚の状態は柔らかくなり、ひび割れも徐々に修復されていきますが、水虫菌が原因で角質が厚くなっている場合は、保湿剤だけでは根本的な解決には至りません。
治らないひび割れの特徴
一般的な乾燥による肌荒れは、湿度が上がる春から夏にかけて自然と軽快する傾向があります。湿度が上昇することで皮膚の水分量も自然と回復するからですが、角質増殖型水虫の場合は季節を問わず症状が続きます。
特に冬場は空気が乾燥することで、すでに厚くなった角質がさらに物理的に硬化し、深い亀裂が入るあかぎれのような状態を起こします。
亀裂は真皮にまで達することもあり、歩くたびに激しい痛みを伴うことがあり、日常生活に大きな支障をきたすことも珍しくありません。
もし、気温が上がり温かくなってもガサガサが残っていたり、長年にわたって同じような症状を繰り返していたりするなら、乾燥肌ではなく慢性的な真菌感染症であると疑うべきです。
乾燥肌と角質増殖型水虫の違い
| 比較項目 | 一般的な乾燥肌 | 角質増殖型水虫 |
|---|---|---|
| 発症時期 | 主に冬に悪化し夏は改善する | 一年中症状が続き変化が少ない |
| 保湿剤の効果 | 塗ると症状が改善する | 塗っても一時的で治らない |
| 皮膚の状態 | 全体的にカサカサしている | 部分的または全体的に硬く厚い |
保湿クリームを塗っても改善しない原因
市販されている尿素入りのクリームや保湿剤は、硬くなった皮膚を柔らかくする作用はありますが、原因となっている白癬菌を殺す作用はありません。角質増殖型水虫の皮膚では、白癬菌が角質の奥深くまで根を張るように生息しています。
いくら表面を保湿しても、内部で菌が活動し続けている限り、皮膚は厚い角質を作り出し続け、菌にとっては湿り気が増すことで活動しやすくなることさえあります。
保湿ケアは一時的な見た目の改善には役立つかもしれませんが、病気の本体である菌を排除しない限り、いたちごっこが続くことになります。治療には、保湿成分だけでなく、菌そのものを死滅させる抗真菌成分が必要不可欠です。
家族に水虫の人がいる場合のリスク
白癬菌は非常に感染力の強く、もし同居しているご家族の中に、足の指の間がジュクジュクしている方や爪が白く濁っている方がいる場合、家の中に白癬菌がばら撒かれている可能性が高いです。
感染者の足から剥がれ落ちた皮膚(垢)の中に菌は生き続けており、バスマットやスリッパ、床、カーペットなどを介して他の家族の足裏に付着します。
かかとの角質が厚くなっている状態は、菌にとって侵入しやすく、かつ隠れやすい格好の場所となります。
ご自身の症状が乾燥だと信じていても、環境要因として家庭内感染のリスクがある場合は、水虫を強く疑って対処を開始することが必要です。
角質増殖型水虫と他の皮膚トラブルを見分けるポイント
足の裏のトラブルは水虫だけではありません。掌蹠膿疱症や角化症、進行性指掌角皮症、あるいは単なる靴擦れによる肥厚(タコ・ウオノメ)など、似たような症状を示す疾患は複数あります。
自分の足の状態をよく観察し、特徴的なサインを見逃さないことが正しい対処への第一歩です。
かゆみがないからといって油断できない理由
一般的に水虫というと、激しいかゆみを伴うものというイメージが定着していますが、角質増殖型水虫においては、かゆみを感じる患者さんは非常に少ないです。
これは、菌が皮膚の表面近くで急性の炎症を起こすのではなく、角質の奥深くで慢性的に静かに増殖するため、身体の免疫反応としてのかゆみが起こりにくいからです。
かゆみがないため、「ただの肌荒れだろう」「年齢のせいだろう」と思ってしまい、治療を開始するのが数年遅れるというケースが後を絶ちません。
かゆみは病気の重症度とは関係がないことを理解し、無症状であっても見た目の変化に敏感になることが大切です。かゆくないからこそ、放置されやすく、その間に家族へ移してしまうリスクが高まります。
角質増殖型水虫を疑うべきサイン
- かかとを中心に足裏全体が硬く厚くなっている
- 皮膚の溝に沿って白く粉をふいたような状態である
- 入浴時でも足裏の皮膚が水を弾くように硬い
- かゆみはほとんど感じないか全くない
- 家族に水虫治療中の人がいる
皮膚がめくれる症状と粉をふく症状の違い
足の皮がむける症状にも種類があります。汗疱(異汗性湿疹)などの場合は、小さな水ぶくれができて、それが破れて皮がむけるという経過をたどりますが、角質増殖型水虫では、水ぶくれができることは稀です。
その代わりに、皮膚全体が厚くなり、表面が細かくひび割れて、片栗粉のような白い粉をまぶしたようになります。靴下を脱いだ時に、内側に白い粉のような皮膚片がたくさん付着している場合は要注意です。
これは厚くなった角質が剥がれ落ちたものであり、粉の中には大量の白癬菌が含まれています。ポロポロと皮がむけるのではなく、粉っぽく乾燥して厚くなるのがこのタイプの特徴です。
足の指の間や爪の状態も同時にチェックする
かかとの症状だけで判断がつかない場合は、他の部位を確認します。角質増殖型水虫の患者さんの多くは、過去に足の指の間の水虫(趾間型)を患っていたり、現在進行形で爪水虫(爪白癬)を併発していたりします。
爪が白く濁って厚くなっている、あるいは爪がボロボロと欠けるような症状があれば、かかとのガサガサもほぼ間違いなく水虫菌によるものです。
菌は足の中で移動し、指の間から始まり、爪に感染し、最終的に足裏全体の角質を厚くするという経過をたどることが多く、足全体を一つの感染エリアとして捉え、総合的に判断することが重要です。
爪水虫を併発している場合、爪が菌の供給源となり、かかとの治療をしても爪から菌が落ちてくるため、同時に治療する必要があります。
なぜ角質増殖型水虫は治りにくいのか
皮膚科の診療現場でも、角質増殖型水虫は他のタイプの水虫に比べて圧倒的に治療に時間がかかると認識されていて、最大の理由は、物理的な角質の厚さにあります。
通常の皮膚であれば薬が浸透しやすいのに対し、分厚く積み重なった角質は鎧のように薬の侵入を阻みます。さらに、白癬菌はその分厚い角質の最下層、生きた細胞に近い部分に潜んでいます。
厚くなった角質の奥深くに白癬菌が隠れている
皮膚の表面にある角質層は、本来外部の刺激から体を守るバリアの役割を果たしていますが、角質増殖型水虫においては、バリア機能が逆手にとられます。菌は角質の奥深くに逃げ込み、分厚い壁に守られた状態で増殖を続けます。
市販の液体の薬やスプレータイプの薬では、表面で揮発してしまい、奥深くまで成分が到達しないことがよくあるので、治療には単に抗真菌作用があるだけでなく、硬い角質を通過する高い浸透力を持った薬剤が必要です。
また、角質を柔らかくする作用のある尿素などの成分を併用しなければ、薬効が患部に届かないことも、この病気が難治性である理由の一つで、厚い角質を取り除くケアと菌を殺すケアの両立が大切になります。
水虫タイプ別の治療難易度
| 水虫のタイプ | 主な症状 | 治療の難易度と期間目安 |
|---|---|---|
| 趾間型(指の間) | ジュクジュク、皮むけ | 比較的治りやすい(2〜3ヶ月) |
| 小水疱型(土踏まず等) | 小さな水ぶくれ、かゆみ | 中程度(3〜6ヶ月) |
| 角質増殖型(かかと) | ガサガサ、ひび割れ | 治りにくい(6ヶ月〜1年以上) |
ターンオーバーの乱れと菌の増殖の悪循環
健康な皮膚は一定の周期で生まれ変わります(ターンオーバー)、水虫に感染した皮膚ではこのサイクルが乱れます。
菌の刺激によって皮膚は防御反応として急いで角質を作ろうとするため、未熟で剥がれ落ちにくい角質が次々と積み重なっていきます。
古い角質が剥がれ落ちずに溜まっていくことで、菌にとってはさらに住み心地の良い分厚いベッドが提供されることになります。悪循環を断ち切るには、菌を殺すと同時に、正常な皮膚の代謝を取り戻すことが必要です。
ただし、一度厚くなった角質が正常な厚さに戻るまでには、かなりの時間を要し、加齢とともにターンオーバーの速度は遅くなるため、高齢者ほど治療期間が長引く傾向にあります。
自覚症状が少ないために発見が遅れる傾向
痛みやかゆみといった自覚症状は、体が発する警報ですが、角質増殖型にはこの警報がほとんどなく、患者さんが「何かおかしい」と気づいて受診する頃には、すでに症状がかなり進行してしまっていることが大半です。
初期の段階であれば外用薬のみで比較的短期間に治せるものも、角質が極端に肥厚してしまった後では、外用薬だけでは歯が立たず、内服薬(飲み薬)の助けを借りなければならなくなります。
発見の遅れが治療の難易度を上げ、治療期間を延ばすという結果を招いています。
市販薬と処方薬の違いと正しい薬の選び方
市販薬の多くは、かゆみを止める成分や清涼感を与える成分が含まれており、ジュクジュクした水虫や痒みの強い水虫には効果的ですが、分厚い角質への浸透力という点では、医師が処方する医療用医薬品に分があるケースが多いです。
医療機関では、患者さんの皮膚の厚さや合併症の有無に合わせて、角質を柔らかくする薬と菌を殺す薬を組み合わせた処方が行われます。
浸透力が重要になる外用薬の成分特性
角質増殖型水虫の治療薬選びで最も重視すべきは浸透力です。クリームタイプ、軟膏タイプ、液体タイプなど様々な形状がありますが、かかとの分厚い皮膚には、一般的にクリームや軟膏が適しています。
液体タイプは浸透する前にアルコール分が揮発してしまい、奥深くまで成分が到達しないことがよくあります。また、成分としては、尿素やサリチル酸といった角質軟化作用のある成分が含まれているかが重要です。
医師の処方では、抗真菌薬と保湿作用の高いヘパリン類似物質や尿素クリームを重ねて塗る指示が出ることがよくあります。
薬の形状による適性の違い
- クリーム剤:伸びが良く浸透性も高いため、角質増殖型に最も適している。
- 軟膏:刺激が少なく保湿力が高い。ひび割れが痛む場合に適している。
- 液剤:浸透は早いが刺激が強い。ひび割れがある場合はしみるため避ける。
- スプレー剤:広範囲に散布できるが、厚い角質への浸透力はやや劣る。
飲み薬を併用する必要があるケースとは
外用薬だけで改善が見込めない場合、あるいは爪水虫を合併している場合は、飲み薬(内服薬)による治療が検討され、飲み薬は、血液の流れに乗って皮膚の内側から抗真菌成分を届けます。
内側から直接菌を攻撃するため、外用薬が届かないような厚い角質の奥底にいる菌にも効果を発揮します。
ただし、飲み薬(テルビナフィンやイトラコナゾールなど)には肝臓への負担などの副作用のリスクがあるため、定期的な血液検査が必要となります。また、他の薬との飲み合わせにも注意が必要です。
医師は患者さんの全身状態やライフスタイルを考慮し、外用薬のみでいくか、内服薬を併用するかを慎重に判断します。角質増殖型においては、内服薬の併用が完治への鍵となることが多いです。
自己判断での薬選びが招くリスク
自己判断で市販薬を使い続けることには、いくつかのリスクがあり、まず、診断が間違っている場合です。もし水虫ではなく湿疹やかぶれ、掌蹠膿疱症であった場合、抗真菌薬を塗ることでかえって炎症が悪化することがあります。
また、薬の強さや種類が合っていない場合、表面の菌は減っても奥の菌が生き残り、耐性を持ってしまう可能性も否定できません。
さらに、糖尿病などの持病がある方は、足の感覚が鈍くなっていることがあり、合わない薬で皮膚がただれても気づかずに重症化させてしまう恐れがあります。
数週間市販薬を使っても改善しない場合は、迷わず専門家の診断を仰ぐことが、最も早い解決策です。
効果を最大化する外用薬の正しい塗り方とタイミング
どんなに優れた薬であっても、使い方が間違っていれば十分な効果は得られません。角質増殖型水虫の治療では、薬を塗る量、範囲、タイミングが治療の成否を分けます。
白癬菌は目に見える病変部よりも広範囲に潜んでいて、また、硬い角質に成分を浸透させるには、十分な量の薬をすり込む必要があります。
入浴後の皮膚が柔らかい時を狙う重要性
薬を塗るベストなタイミングは、お風呂上がりで、入浴によって皮膚が水分を含んで柔らかくなっている状態は、角質細胞の隙間が広がり、薬の成分が奥へと浸透していくための絶好のチャンスです。
水分をタオルで優しく拭き取ったら、できるだけ時間を空けずに薬を塗布します。
皮膚が乾燥して再び硬くなってからでは、浸透効率が落ちてしまうので、もし入浴できない事情がある場合は、蒸しタオルなどで足を温めて皮膚をふやかしてから塗ると良いでしょう。
また、入浴することで皮膚表面の汚れや古い皮脂が落ち、薬が直接皮膚に触れやすくなるというメリットもあります。
効果的な塗り方の要点
- 片足につき人差し指の第一関節分くらいの量(1FTU)をたっぷりと使う
- 症状があるかかとだけでなく、足の裏全体から指の間まで広く塗る
- ゴシゴシ擦り込むのではなく、優しく円を描くように塗り広げる
- ひび割れが深い場合は、傷口に沁みない軟膏タイプを選ぶ
- 塗った後は靴下を履いて、薬が床につくのを防ぎつつ浸透を促す
患部だけでなく足裏全体に広く塗る理由
患者さんがよく犯す間違いの一つが、ピンポイント塗りです。かかとのガサガサしている部分だけに薬を塗っても、その周辺のきれいな皮膚の下に菌が潜んでいる可能性があります。
白癬菌は逃げ足が速く、薬が塗られた場所から逃げるようにして、薬効の及んでいない部分へと移動するので、防ぐためには、足の裏全体、さらには足の側面や指の間まで、包み込むように広範囲に薬を塗ることが必要です。
アキレス腱から足の指先までを一つのユニットと考え、全体をカバーするように塗布すると、菌の逃げ場をなくし、根絶やしにすることが可能です。見た目が正常な部分にも、顕微鏡で見ると菌がいることは珍しくありません。
症状が消えても塗り続ける期間の目安
治療を開始して数ヶ月が経つと、かかとのガサガサが改善し、きれいな皮膚に戻ったように見える時期が来ますが、ここで治療を止めてはいけません。表面の菌が減っただけで、角質の奥深くにはまだ菌が生き残っています。
この段階で薬をやめると、生き残った菌が再び増殖し、数ヶ月後には元の木阿弥になってしまいます。皮膚科医の多くは、見た目がきれいになってからさらに最低でも1ヶ月、角質増殖型の場合はそれ以上の期間、薬を塗り続けるよう指導します。
完全に菌がいなくなるまで、念には念を入れて塗り続ける根気が、完治への最後の関門で、皮膚の生まれ変わりのサイクルを考慮すれば、見た目が治ってからが本当の治療の仕上げ期間です。
治療中に日常生活で気をつけるべき生活習慣
薬による治療と並行して、日常生活の中で白癬菌が増えにくい環境を作ることも非常に大切です。白癬菌は高温多湿な環境を好み、湿った足裏や靴の中で爆発的に増殖します。
また、剥がれ落ちた角質の中で長期間生き続けるため、自宅の床や足拭きマットは菌の温床になりがちです。ご自身の治療をスムーズに進めるため、ご家族にうつさないために、生活環境の改善は避けて通れません。
浴室の足拭きマットやスリッパの共有について
家庭内感染の最大のルートは、お風呂場の足拭きマットです。湿ったマットは菌にとって最高の繁殖場所であり、足を乗せることで家族全員に菌が移動します。
治療中は、自分専用のマットを用意するか、使い捨てのキッチンペーパーなどで足を拭くことをお勧めします。
また、共用のスリッパも感染源となるので、スリッパも個人専用のものにし、定期的に洗うか除菌スプレーを使用してください。
床の掃除も重要で、掃除機をこまめにかけて、剥がれ落ちた角質(菌を含んだ垢)を取り除くことで、再感染のリスクを大幅に減らすことができます。特に畳やカーペットは菌が残りやすいため、念入りな掃除が必要です。
日常生活での注意点チェックリスト
- 足拭きマットは毎日洗濯し、乾燥させるか共用を避ける
- 室内履きのスリッパは自分専用のものを使用する
- 床や畳はこまめに掃除機をかけ、菌を含んだ垢を除去する
- 靴は毎日同じものを履かず、2〜3足をローテーションして乾燥させる
- 靴下は通気性の良い木綿や麻素材のものを選び毎日交換する
靴や靴下の通気性と清潔さを保つ工夫
長時間靴を履き続ける生活は、足にとって過酷で、革靴やブーツの中は湿度が100%近くになることもあり、菌にとっては天国のような環境です。仕事中可能であれば、通気性の良いサンダルに履き替えるなどの対策が有効です。
それが難しい場合でも、毎日同じ靴を履くのは避けましょう。一日履いた靴は汗を吸っているため、完全に乾くまでには2日ほどかかるので、3足ほどの靴を用意し、ローテーションして履くことで、靴の中の湿度を下げることができます。
また、5本指ソックスは指の間の湿気を吸い取るため、水虫対策として非常に効果的です。靴自体を定期的に天日干ししたり、除菌スプレーを使ったりすることも効果があります。
軽石などで角質を削ることの是非
厚くなったかかとを軽石ややすりで削りたくなる気持ちはわかりますが、これには注意が必要です。無理に削りすぎると、皮膚を傷つけてしまい、菌がさらに奥へと侵入したり、細菌感染を起こしたりする危険があります。
また、皮膚は刺激を受けると、防御反応としてさらに厚くなろうとする性質があり、削ることでかえって角質が厚くなるという皮肉な結果を招きかねません。
もし削る場合は、入浴後の皮膚が柔らかい時に、表面を軽く整える程度にとどめてください。基本的には、薬の力で徐々に皮膚が生まれ変わるのを待つのが、最も安全で確実な方法です。
再発を防ぐために完治までにかかる期間
水虫治療において最も厄介なのは再発です。一度治ったと思っても、翌年また同じ症状に悩まされる方も多く、角質増殖型水虫は、皮膚の構造上、他の水虫よりも治療期間が長くかかります。
数週間で結果が出ると思っていると、なかなか治らないことに焦りや苛立ちを感じてしまうかもしれません。
皮膚が完全に生まれ変わるまでのサイクル
皮膚の最も底にある基底層で生まれた細胞が、形を変えながら表面に押し上げられ、最後は垢となって剥がれ落ちるまでの期間をターンオーバーと言います。
健康な若者の皮膚であれば約28日周期ですが、年齢とともに周期は長くなり、40代以降では45日以上かかることもあります。
角質増殖型水虫の場合、菌に侵された分厚い角質がすべて剥がれ落ち、下から健康な皮膚が完全に入れ替わるまでには、このサイクルの数倍の期間が必要です。
特に爪水虫を併発している場合は、爪が生え変わるのに1年近くかかるため、治療期間も1年程度になります。
根気強い治療のための心構え
| 治療フェーズ | 期間の目安 | 主な状態と心構え |
|---|---|---|
| 初期 | 1〜2ヶ月 | 薬を塗り始めて少し柔らかくなるが、まだ見た目は悪い。焦らず毎日塗る。 |
| 中期 | 3〜5ヶ月 | ひび割れが消え、きれいになってくる。ここで油断してやめないことが重要。 |
| 後期 | 6ヶ月以降 | 見た目は完治。しかし見えない菌を殺すため、あと一息塗り続ける。 |
途中で治療をやめてしまうと再発する理由
症状が消えた時点では、菌の数は大幅に減っていますが、ゼロにはなっていません。生き残った強い菌だけが残っている状態で薬をやめると、菌は薬への抵抗力を持ちながら再び増殖を始めます。
次に症状が出た時には、以前よりも薬が効きにくくなっていることもあり、中途半端な治療の中断と再開を繰り返すことは、治療期間を数年単位に引き伸ばしてしまう原因です。
自己判断での中断を避けることが何よりも大切で、医師が「もう大丈夫」と言うまでは、自己判断での中止は禁物です。
よくある質問(FAQ)
- 忙しくて皮膚科に行けないのですが、市販薬だけで完治させることはできますか?
-
軽度であれば可能ですが、角質が非常に厚い場合は困難です。市販薬でも優れた抗真菌薬は販売されていますが、角質増殖型は薬の浸透が鍵となるため、市販薬では成分が奥まで届かないことが多々あります。
数ヶ月市販薬を使用しても改善しない場合や、範囲が広い場合は、処方薬による治療が必要です。時間を無駄にしないためにも、早めの受診をお勧めします。
- お酢に足を浸けると水虫が治るという民間療法は本当ですか?
-
お勧めできませんし、医学的な根拠も乏しいです。お酢の殺菌効果を期待したものですが、水虫菌を死滅させるほどの濃度でお酢を使用すれば、正常な皮膚まで火傷のようなダメージを受けてしまいます。
皮膚がただれて傷ができると、そこから雑菌が入り、蜂窩織炎などの重篤な感染症を起こすリスクがあります。確実な効果が証明されている医薬品を使用してください。
- 家族に水虫の人がいますが、洗濯物は一緒に洗っても大丈夫ですか?
-
基本的には一緒に洗っても問題ありません。通常の洗濯用洗剤と水流で、衣類についた白癬菌のほとんどは洗い流されます。ただし、すすぎを十分に行うことと、乾燥機や天日干しでしっかりと乾かすことが重要です。
心配な場合や、菌が大量に付着していると思われるバスマットなどは、別洗いをするか、漂白剤を使用するとより安心です。
- かかとのガサガサした皮を無理に剥いてもいいですか?
-
絶対にやめてください。無理に皮を剥くと、健康な皮膚まで傷つけて出血したり、痛みが出たりします。傷口ができると薬がしみて塗れなくなりますし、傷口から二次感染を起こす危険性もあります。
見た目が気になっても、薬を塗り続けることで自然に剥がれ落ちるのを待つのが正しい治療法です。どうしても厚みが気になる場合は、医師に相談してください。
以上
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