アトピー性皮膚炎の症状が落ち着いた後に残る肌の黒ずみや色素沈着は、長期間にわたる炎症や、無意識のうちに行ってしまう摩擦によって、肌内部で過剰に生成されたメラニンが蓄積した結果です。
ただし、正しい保湿ケアを行い、肌のバリア機能を整えてターンオーバーを正常化させることで、肌は本来の明るさを取り戻す力を秘めています。
本記事では、アトピー肌特有の黒ずみが発生する原因を説明し、今日から実践できる効果的な保湿剤の選び方と使い方について詳しく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
アトピー肌が黒ずんでしまう原因と肌内部の状態
アトピー性皮膚炎の患者さんが直面する肌の黒ずみは、炎症後色素沈着と呼ばれ、炎症が火種となり、影響が鎮火した後も焼け跡のように色が残ってしまう現象です。
通常であれば、メラニンは肌の生まれ変わりとともに排出されますが、アトピー肌ではバリア機能が低下しているため、炎症が慢性的に繰り返され、肌の奥深くにとどまってしまいます。
炎症の繰り返しが招くメラニンの過剰生成
皮膚に赤みや痒みがある状態は、肌の内部で免疫細胞が戦っているサインです。この戦いが長引くと、サイトカインなどの情報伝達物質が放出され、それがメラノサイトを刺激し続けます。
アトピー性皮膚炎では、この炎症反応が慢性的に続くため、メラニン工場であるメラノサイトが常にフル稼働の状態です。工場で作られすぎたメラニンは、表皮の細胞に受け渡され、肌全体が黒ずんで見えるようになります。
特に首や肘の内側、膝の裏など、皮膚が薄く動きが多い部分は炎症が起きやすく、色素沈着が強く出やすいです。
炎症の状態と色素沈着への移行過程
| 肌の状態 | 外見的な特徴 | 肌内部の状況 |
|---|---|---|
| 急性期の炎症 | 赤み、腫れ、ジュクジュク | 免疫細胞が活発に活動し、メラノサイトへの刺激信号が多発している |
| 慢性期の炎症 | 皮膚が厚くなる、カサカサ | メラニン生成が継続し、表皮内に色素が蓄積し始めている |
| 鎮静後の沈着 | 茶褐色、灰色、ザラつき | 炎症は治まっているが、排出されなかったメラニンが肌に残存している |
掻き壊しによる物理的な刺激の影響
痒みに耐えきれずに肌を掻いてしまう行為は、黒ずみを悪化させる大きな要因です。爪で肌を掻くと、物理的な刺激自体がメラノサイトを刺激し、さらなるメラニン生成を促し、摩擦黒皮症に近い状態と捉えることもできます。
また、掻くことで皮膚のバリアが破壊されると、外部からの刺激物質が侵入しやすくなり、それがまた新たな痒みと炎症を起こすという悪循環に陥ります。悪循環を断ち切るには、爪による強い刺激を肌に与えない工夫が必要です。
バリア機能の低下とターンオーバーの乱れ
健康な肌は、約28日から40日の周期で細胞が生まれ変わるターンオーバーを繰り返していて、代謝機能により、古い角質とともにメラニンも体外へ排出されます。
しかし、アトピー肌の患者さんは、セラミドなどの細胞間脂質が不足しており、角層の水分保持能力が極端に低くなっています。乾燥した肌は代謝のリズムが乱れやすく、古い角質が剥がれ落ちずに肌表面に留まる停滞状態になりがちです。
排出されるべきメラニンも肌の中に閉じ込められ、黒ずみが定着してしまうので、保湿によって角層に潤いを与え、正常な代謝リズムを取り戻すことが、色素沈着改善の鍵を握っています。
黒ずみケアにおける保湿の役割と重要性
色素沈着の改善というと、美白成分の入った化粧品を使うことを想像する患者さんが多いかもしれませんが、アトピー肌の場合、最優先すべきは徹底的な保湿です。
十分な潤いがある肌は、微細な炎症が起きにくくなり、メラニンの過剰生成をストップさせることができます。
外部刺激の侵入を防ぎ炎症を予防する
私たちの皮膚には、細菌やウイルス、花粉、ダニなどの異物が体内に侵入するのを防ぐバリア機能が備わっていて、バリアの主役は、角層細胞とその間を埋める細胞間脂質、表面を覆う皮脂膜です。
アトピー肌ではこれらの成分が不足し、バリアに穴が開いた状態になっていて、保湿剤を塗布することは、この穴を人工的に塞ぎ、擬似的なバリア膜を作ることになります。
外部からの刺激物質が入り込まなければ、免疫反応による炎症も起こらず、炎症が起きなければ、新たなメラニンも作られません。日々の保湿ケアは、単なる乾燥対策ではなく、将来の黒ずみを防ぐための予防医療としての側面を持っています。
保湿がもたらす肌への多面的なメリット
- 角層の水分量を高め、肌の透明感を引き出す土台を作る
- 外部刺激をブロックし、メラノサイトへの刺激信号を遮断する
- 肌の代謝サイクルを整え、蓄積したメラニンの排出を促す
- 皮膚の柔軟性を保ち、衣服との摩擦による刺激を軽減する
- 知覚過敏状態を緩和し、掻きむしりによる新たな傷を防ぐ
ターンオーバーを正常化し排出を促す
黒ずみの正体であるメラニンは、肌のターンオーバーによって自然に排出されますが、乾燥して硬くなった肌では、排出システムが機能不全に陥っています。
保湿剤によって角層に十分な水分と油分が補給されると、角質細胞は柔らかくなり、古くなった細胞がスムーズに剥がれ落ちるようになります。毎日の保湿ケアは、止まっていたベルトコンベアを再び動かすようなものです。
即効性は感じにくいかもしれませんが、継続することで確実に肌は入れ替わっていきます。高価な美白美容液を使うよりも、まずは基本の保湿を徹底することが、アトピー肌の色素沈着改善には効果的です。
痒みの閾値を上げて掻きむしりを減らす
乾燥した肌は、神経線維が表皮の近くまで伸びてきており、わずかな刺激でも強い痒みを感じる過敏な状態になっています。痒みを感じて掻いてしまえば、また黒ずみが悪化するという負のループです。
保湿ケアを十分に行うと、表皮内の水分量が増え、伸びてきた神経線維が鎮まり、痒みの閾値が正常に戻り、些細な刺激では痒みを感じにくくなります。
掻く回数が減れば、肌への物理的ダメージがなくなり、色素沈着が徐々に薄くなる環境が整い、痒みのコントロールこそが、美しい肌を取り戻すための重要課題です。
アトピー肌の色素沈着に有効な成分の選び方
ドラッグストアやクリニックには数多くの保湿剤が並んでおり、どれを選べば良いか迷ってしまう患者さんも少なくありません。
アトピー肌の黒ずみケアにおいて注目すべきは、単に油分で蓋をするだけでなく、肌本来のバリア機能を修復し、炎症を抑える働きのある成分が含まれているかという点です。
バリア機能を再構築するセラミド
セラミドは、角層細胞同士をつなぎ止めるセメントのような役割を果たしている細胞間脂質の主成分です。
アトピー性皮膚炎の患者さんの肌では、セラミドが遺伝的、あるいは体質的に不足していることが分かっているため、外からセラミドを補うことは非常に理にかなったです。
中でもヒト型セラミドと呼ばれる成分は、人間の肌にあるセラミドと構造が極めて近く、浸透力と親和性に優れていて、成分表示には「セラミドNP」「セラミドAP」などと記載されています。
主要な保湿成分と特性
| 成分名 | 主な役割と特徴 | アトピー肌への効果 |
|---|---|---|
| セラミド | 細胞間脂質の主成分で水分を挟み込む | バリア機能を根本から補修し、乾燥と刺激を防ぐ |
| ヘパリン類似物質 | 高い保水力と血行促進作用を持つ | 肌の奥の細胞に働きかけ、乾燥による黒ずみを防ぐ |
| ワセリン | 肌表面に油膜を作り水分の蒸発を防ぐ | 刺激が極めて少なく、傷がある箇所でも保護できる |
| グリチルリチン酸 | 甘草由来の抗炎症成分 | 微弱な炎症を抑え、新たな色素沈着の発生を抑制する |
血行を促進し代謝を高めるヘパリン類似物質
皮膚科で処方される保湿剤の代表格として知られるヘパリン類似物質は、単に水分を保持するだけでなく、血行を促進する作用を持っていて、血流が良くなると、肌の細胞に酸素や栄養が行き渡りやすくなり、ターンオーバーが活性化します。
これは、滞っていたメラニンの排出を促すために非常に有利に働き、また、抗炎症作用も併せ持っているため、くすぶっている慢性的な炎症を鎮める効果も期待できます。
市販の医薬品や医薬部外品にも配合されているものが増えていますので、黒ずみが気になる箇所の集中ケアとして取り入れるのも良い方法です。
ただし、赤みが強く出ている出血部位には使用を控える必要がある場合もあるので、使用感に違和感がある時は医師に相談しましょう。
微弱な炎症を抑える抗炎症成分
見た目には赤みが引いていても、肌の内部では微弱な炎症が続いていることがあり、隠れた炎症が、じわじわとメラニンを作り続けている原因です。
日常使いする保湿剤には、グリチルリチン酸ジカリウムやアラントインといった、穏やかな抗炎症作用を持つ成分が配合されているものがおすすめです。
医薬部外品の有効成分として認められており、副作用のリスクも低く、長期的に使用することができます。
肌状態に合わせた剤形の使い分け
保湿剤には、軟膏、クリーム、ローション、フォームなど様々な形状があり、どれを使うかによって保湿効果や使用感が大きく異なります。重要なのは、その時の肌の状態や季節、塗る部位に合わせて最適な剤形を選ぶことです。
保護力が最も高い軟膏タイプ
ワセリンをベースとした軟膏は、油分が非常に多く、肌表面を覆うカバー力が最強です。水分が蒸発するのを強力に防ぎ、外部からの刺激を物理的にシャットアウトします。
特に、引っ掻き傷がある場合や、皮膚が硬くゴワゴワしている苔癬化(たいせんか)した黒ずみ部分には、軟膏による密閉療法が効果を発揮します。
ベタつきが強いため、日中の使用や衣服に触れる部分には使いにくいと感じることもありますが、就寝前や入浴直後の集中ケアとして活用するのが良いでしょう。手のひらで温めてから押し込むように塗ると、ベタつきを多少抑えることができます。
剤形ごとの特徴と適したシチュエーション
| 剤形の種類 | 油分と水分のバランス | おすすめの使用部位・場面 |
|---|---|---|
| 軟膏 | 油分が主体で水分を含まない | 傷がある箇所、非常に乾燥が強い部分、夜間の集中ケア |
| クリーム | 油分と水分が乳化されている | 乾燥とかさつきがある全身、しっとりさせたい箇所 |
| ローション・乳液 | 水分が多く油分は少なめ | 広範囲の塗布、夏場のケア、頭皮や体毛の多い部分 |
バランスの良いクリームとローション
クリームタイプは、油分と水分のバランスが良く、保湿力と塗りやすさを兼ね備えていて、皮膚への浸透性も良く、ベタつきも軟膏ほどではないため、日常的なケアの主役として活躍します。
黒ずみが気になる手足や胴体など、広い範囲にしっかりと塗りたい場合に重宝します。一方、ローションや乳液タイプは、水分量が多くサラッとした使用感が特徴です。
夏場や汗をかきやすい時期、または朝の忙しい時間帯など、服をすぐに着たい時に便利です。
ただし、保湿の持続時間は軟膏やクリームに劣るため、冬場などの乾燥が激しい時期には、ローションを塗った上からクリームやワセリンを重ね塗りしましょう。
低刺激で添加物の少ないものを選ぶ
アトピー肌は健康な肌に比べてバリア機能が弱いため、化粧品に含まれる微量な添加物にも敏感に反応してしまうことがあります。良かれと思って塗った保湿剤が、かぶれや痒みの原因となり、新たな色素沈着を起こしては本末転倒です。
選ぶ際には、アルコール(エタノール)、合成香料、着色料などが無添加であるかを確認しましょう。また、「オーガニック」や「天然成分」と書かれていても、植物エキスがアレルゲンになる可能性もあります。
初めて使う製品は、二の腕の内側などでパッチテストを行い、赤みや痒みが出ないことを確認してから本格的に使用を開始することをおすすめします。
色素沈着を防ぐ正しい保湿剤の塗り方
どんなに優れた成分が入った保湿剤を選んでも、塗り方が間違っていてはその効果を十分に発揮できず、塗り方そのものが肌への刺激となり、黒ずみを悪化させているケースさえあります。
ここでは、肌に負担をかけずに最大の保湿効果を得るためのテクニックを紹介します。
摩擦を与えない優しいタッチ
色素沈着を改善したい一心で、保湿剤を肌に刷り込むように強く擦ってしまう患者さんがいますが、擦るという行為こそが、摩擦黒皮症の原因となり、黒ずみをより濃くしてしまいます。
保湿剤は、皮膚の溝に優しく乗せるイメージで広げることが大切で、手のひら全体を使って、皮膚が動かない程度の力加減で、滑らせるように塗布します。何度も往復させるのではなく、一方向にスーッと伸ばすのがコツです。
もし伸びが悪いと感じたら、それは力が入りすぎているか、保湿剤の量が足りていないサインです。赤ちゃんの肌に触れるような繊細さで、自分の肌を扱ってください。
肌に負担をかけない塗布手順
- 手をきれいに洗い、清潔な状態にしてから保湿剤を手に取る
- 保湿剤を手のひらで軽く温め、柔らかくして伸びを良くする
- 塗りたい箇所に数カ所、点在させるように保湿剤を置く
- 手のひら全体を使い、皮膚のキメに沿って優しく広げる
- 最後に手のひらで軽く押さえ(ハンドプレス)、馴染ませる
十分な量を塗布するFTUの考え方
保湿剤の効果が出ない原因の多くは、塗布量が少なすぎることにあります。薄く伸ばしすぎると、摩擦が起きやすくなる上に、必要な潤いが肌に届きません。
皮膚科医が推奨する塗布量の目安として、FTU(フィンガーチップユニット)という単位があり、大人の人差し指の先から第一関節まで、チューブから絞り出した量(約0.5g)が、大人の手のひら2枚分の面積を塗る量であるという考え方です。
実際にやってみると、「こんなに塗るの?」と驚く量かもしれません。塗った直後の肌にティッシュが張り付くくらい、あるいは肌がテカテカと光るくらいが、目安です。
入浴後のゴールデンタイムを逃さない
保湿ケアのタイミングも非常に重要です。入浴直後の肌は水分を多く含んで柔らかくなっていますが、タオルで拭いた瞬間から急速に乾燥が始まり、何も塗らないと入浴前よりも水分量が低下してしまいます。
お風呂から上がったら5分以内、できればタオルで水気を拭き取った直後に保湿剤を塗るのが理想です。脱衣所に保湿剤を常備しておき、パジャマを着る前に全身のケアを済ませてしまいましょう。
このタイミングで塗布することで、水分を肌の内側に閉じ込め、角層の潤いを長時間キープすることができます。朝の着替えの際にも、乾燥が気になる部分に重ね塗りをするとより効果的です。
生活習慣と衣服選びで肌を守る
アトピー肌の黒ずみケアは、スキンケアだけで完結するものではありません。私たちが一日の大半を過ごしている衣服や、日中の紫外線、睡眠や食事といった生活習慣も、肌の状態に深く関わっています。
常に肌に触れている衣類の素材選びは、摩擦による色素沈着を防ぐ上で極めて重要です。
刺激の少ない素材を選ぶ重要性
首元や脇、鼠径部(そけいぶ)などの黒ずみがなかなか消えない場合、衣類の摩擦や圧迫が原因である可能性が高いです。
化学繊維であるナイロンやアクリル、あるいはごわついたウールなどは、繊維の断面が鋭利であったり静電気が起きやすかったりするため、アトピー肌には強い刺激となります。
ヒートテックなどの吸湿発熱素材も、肌の水分を奪って乾燥を助長することがあるため注意が必要です。直接肌に触れる下着やインナーは、綿100%やシルクなどの天然素材で、肌触りが滑らかなものを選びましょう。
また、縫い目やタグが肌に当たって痒みを誘発することもあるため、縫い目が外側にある製品やタグがない製品を選んでください。
衣服の素材と肌への影響
| 素材の種類 | 肌への優しさ | 注意点 |
|---|---|---|
| 綿(コットン) | 非常に優しい | 吸水性が良いが、汗をかいたまま放置すると冷えや雑菌繁殖の原因になる |
| シルク | 非常に優しい | 人間の肌成分に近く保湿性が高いが、デリケートで洗濯に注意が必要 |
| ウール・ナイロン | 刺激になりやすい | チクチクとした刺激や静電気が起きやすく、痒みの引き金になる |
紫外線対策でメラニン生成を抑える
紫外線は、健康な肌でも日焼けを起こしますが、バリア機能が低下したアトピー肌にとっては、火傷に近いダメージを与えます。
紫外線を受けると、肌を守るために大量のメラニンが生成されるだけでなく、肌内部に活性酸素が発生し、炎症が悪化する恐れがあり、これが、すでにある黒ずみをさらに濃くしてしまう要因です。
外出時はもちろん、室内にいる時でも窓から紫外線は入ってくるため、低刺激性のサンスクリーン剤を使用することが大切です。
紫外線吸収剤を含まない「ノンケミカル(紫外線散乱剤使用)」と表記されたものや、お湯や石鹸で簡単に落とせるタイプを選ぶと、肌への負担を最小限に抑えられます。日傘や帽子、長袖の羽織りものなども併用しましょう。
食事と睡眠で内側から肌を作る
肌は内臓の鏡とも言われるように、体内の状態がダイレクトに反映され、色素沈着の排出を促すターンオーバーには、十分な栄養と休息が必要です。
食事では、皮膚の原料となるタンパク質を中心に、抗酸化作用のあるビタミンC(野菜、果物)、血行を良くするビタミンE(ナッツ類、魚介類)、皮膚粘膜を健康に保つビタミンA(緑黄色野菜)を意識的に摂取しましょう。
また、成長ホルモンが分泌される睡眠中の時間は、肌の修復タイムで、質の高い睡眠を確保することは、どんな高価な美容液にも勝る肌質改善策です。
やってはいけない行動と注意点
良かれと思って行っている習慣が、アトピー肌の黒ずみを悪化させていることがあります。スキンケアの情報は世の中に溢れていますが、多くは健康な肌を対象としたものであり、アトピー肌には刺激が強すぎる場合があるのです。
ゴシゴシ洗いは黒ずみの元
「黒ずみ=汚れ」と勘違いして、ナイロンタオルやスポンジで強く擦って洗っていませんか?これは絶対に避けるべき行為で、肌の黒ずみは表面の汚れではなく、皮膚内部の色素沈着です。
強く擦ることで摩擦による炎症が起き、メラノサイトが刺激されて黒ずみがさらに濃くなる摩擦黒皮症を起こします。
体を洗う際は、石鹸やボディソープをネットなどで十分に泡立て、その泡をクッションにして手で撫でるように洗うだけで十分です。泡が汚れを包み込んでくれるので、擦る必要はありません。
背中など手が届きにくい場所も、柔らかい綿のタオルを使い、優しく滑らせる程度に留めましょう。
避けるべき日常の行動リスト
- ナイロンタオルでのゴシゴシ洗いやあかすり
- 40度以上の熱いお湯での長時間の入浴やシャワー
- 痒み止めの薬を塗らずに我慢し、結果的に掻いてしまうこと
- 古い化粧品や酸化したオイルを使い続けること
- 自己判断でステロイド外用薬を急に中止すること
熱いお湯と長風呂の危険性
熱いお湯に浸かると、一時的に痒みが和らぐように感じることがありますが、熱による刺激で痒みの信号が麻痺しているだけに過ぎません。実際には、高温のお湯は皮脂膜や細胞間脂質を溶かし出し、お風呂上がりの急激な乾燥を招きます。
また、体温が上がりすぎると、入浴後にヒスタミンという痒み物質が放出されやすくなり、激しい痒みに襲われる原因にもなります。お湯の温度は38度から39度程度のぬるめに設定し、長風呂は避けましょう。
どうしても温まりたい冬場でも、入浴時間を短くするか、保湿効果のある入浴剤を使用するなどして、肌の潤いを逃がさない工夫が必要です。
不適切な自己判断による治療の中断
アトピー性皮膚炎の治療において、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症薬は重要な役割を果たします。
しかし、見た目の赤みが引いたからといって、自己判断で急に薬を止めてしまうと、肌内部に残っていた炎症が再燃(リバウンド)し、以前よりも症状が悪化することがあり、頑固な色素沈着の原因です。
医師の指示に従い、徐々に薬の強さを下げたり、塗る間隔を空けたりするプロアクティブ療法を行うことが、最終的にはきれいな肌への近道です。
アトピーケアにまつわる誤解と真実
| よくある誤解 | 実際の真実 |
|---|---|
| 黒ずみは垢だから擦れば落ちる | 内部の色素沈着であり、擦ると逆に悪化・定着する |
| 保湿剤を塗ると肌が甘えて自力が弱る | 医学的根拠はなく、保湿しないとバリア機能は回復しない |
| 天然成分なら何を使っても安全 | 植物アレルギーのリスクもあり、精製度の高い製品の方が安全な場合も多い |
根気強いケアがもたらす未来
アトピー肌の黒ずみ改善は、一朝一夕に叶うものではありません。肌のターンオーバーは、健康な状態でも約1ヶ月、バリア機能が乱れたアトピー肌や年齢を重ねた肌では、それ以上の時間がかかります。
肌の生まれ変わり周期を理解する
「どれくらいで綺麗になりますか?」という質問をよく受けますが、答えは個人差とケアの継続度合いによります。
一般的に、表皮レベルの色素沈着であれば、ケアを行うことで数ヶ月程度で薄くなることが期待できますが、掻き壊しを繰り返して皮膚が厚く硬くなった苔癬化病変や、真皮にまで及ぶ色素沈着は、改善までに長い時間を要します。
この期間、変化が見えないからといってケアを止めないでください。肌の奥底では、新しい細胞が毎日生まれ、少しずつ表面へと押し上げられているので、焦らずじっくりと向き合う姿勢が大切です。
ターンオーバー周期の目安
| 年齢層・状態 | 周期の目安 | ケアのポイント |
|---|---|---|
| 20代(健康な肌) | 約28日 | 基本的な保湿とUVケアで維持する |
| 30代〜40代 | 約40日〜45日 | 保湿に加え、抗酸化成分などのエイジングケアも意識 |
| アトピー肌・乾燥肌 | 周期が乱れがち | まずは保湿でバリア機能を整え、周期を正常化させる |
アトピー肌の黒ずみ・保湿に関するよくある質問
最後に、診療の現場などで患者さんから頻繁に寄せられる質問についてお答えします。
- 顔と体で保湿剤を使い分けたほうが良いですか?
-
基本的には、顔も体も同じ保湿剤を使用して問題ありませんが、使用感の好みやニキビの出来やすさなどを考慮して使い分けることは有効です。
顔は皮脂腺が多く、油分の多い軟膏やこってりしたクリームを塗るとニキビができることがあるため、ローションタイプや軽い付け心地のクリームが好まれる傾向にあります。
体は皮脂腺が少なく乾燥しやすいため、油分の多いものを選ぶと良いでしょう。重要なのは、どの部位であっても乾燥を感じさせない量を塗布することです。
- 市販の美白化粧品を使っても大丈夫ですか?
-
肌の炎症が完全に治まっている状態であれば、使用を検討しても良いでしょう。ただし、一般的な美白成分(ビタミンC誘導体やアルブチンなど)の中には、刺激を感じやすいものもあります。
炎症がある、あるいは肌が敏感な時期に使用すると、刺激によってかぶれを起こし、かえって黒ずみを悪化させるリスクがあります。まずは敏感肌用と記載されたものを選び、必ずパッチテストを行ってから使用してください。
優先順位としては、高保湿ケアでバリア機能を整えることが先決です。
- ステロイドを塗ると黒ずむというのは本当ですか?
-
ステロイド外用薬自体が色素沈着を起こすことはありません。黒ずみの原因は、ステロイドを塗ったことではなく、アトピー性皮膚炎による炎症そのものが長く続いた結果です。
ステロイドへの恐怖心から使用を控えたり、不十分な量しか塗らなかったりすることで炎症が長引くことの方が、色素沈着のリスクを高めます。
- 保湿剤は1日に何回塗れば良いですか?
-
最低でも朝の洗顔・着替えの時と、夜の入浴後の「1日2回」の塗布をおすすめしますが、肌のバリア機能が低いアトピー肌の場合、時間の経過や衣服との摩擦で保湿剤が取れてしまい、日中に乾燥を感じることがあります。
その場合は、回数に制限はありませんので、乾いたと感じる前にこまめに塗り直してください。手洗い後や汗を拭いた後などは、保湿成分も一緒に落ちているため、必ず塗り直す習慣をつけると良いでしょう。
以上
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