人工透析を始める前の手術(アクセス作製)と透析の原理について

人工透析を始める前の手術(アクセス作製)と透析の原理について

腎臓の機能が低下し、医師から人工透析の必要性を伝えられたとき、多くの患者さんは大きな不安を感じますが、未知の治療に対する恐怖心は当然のことです。

しかし、透析療法は体内に溜まった老廃物を取り除き、生命を維持し、より良い体調を取り戻すための前向きな治療手段なので、治療への理解を深めることで、不安は少しずつ解消へと向かいます。

本記事では、透析を始める前に必要となる手術の理由やその内容、そして血液透析がどのようにして血液をきれいにするのかという原理について、詳しく解説します。

目次

腎臓の働きと機能低下がもたらす身体への影響

腎臓は沈黙の臓器と呼ばれ、自覚症状が出にくいのが特徴ですが、生命維持において非常に多くの役割を担っています。

透析が必要となる背景を知るためには、まず健康な腎臓が普段どのような働きをしているのか、そしてその機能が失われるとどうなるのかを正しく理解することが大切です。

腎臓が担っている主な役割と老廃物の排泄

腎臓は、背中側の腰の高さに左右一つずつある握りこぶし大の臓器で、最もよく知られている機能は尿を作ることですが、その本質は血液の浄化です。

心臓から送り出された血液は腎臓へと流れ込み、糸球体という微細なフィルターを通してろ過を行います。この過程で、体にとって不要な老廃物や毒素、余分な水分が血液から取り除かれ、尿として体外へ排出するのです。

また、体内環境を一定に保つホメオスタシスの維持も重要な役割で、体液の量やイオンバランス(ナトリウムやカリウムなど)を調整し、血液を弱アルカリ性に保つことで、細胞が正常に活動できる環境を整えています。

末期腎不全に至る経過と自覚症状の変化

慢性腎臓病(CKD)が進行し、腎臓の機能が健康な状態の15パーセント未満になると、末期腎不全と呼ばれる状態になり、この段階になると、腎臓はもはや自分の力だけで体内の環境を維持することが難しくなります。

初期にはほとんど症状がありませんが、進行するにつれて尿毒症症状が現れ始めます。

全身の倦怠感、食欲不振、吐き気、頭痛、動悸、息切れ、手足のむくみなどが生じ、体内に老廃物や水分が蓄積することで起こる中毒症状のようなものです。

放置すれば心不全や肺水腫、重篤な不整脈を起こし、生命に危険が及ぶため、腎臓の代わりとなる治療が必要となります。

腎代替療法の選択が必要となるタイミング

腎機能の低下が進行し、薬物療法や食事療法だけでは尿毒症症状をコントロールできなくなったとき、医師は腎代替療法を提案します。

一般的には、糸球体ろ過量(eGFR)などの数値を基準にしつつ、患者さんの自覚症状や日常生活への支障度合いを総合的に判断して決定します。

透析導入のタイミングが遅れると、全身状態が悪化し、治療を開始しても体力の回復に時間がかかることがあるため、適切な時期に準備を始め、計画的に治療へ移行することが重要です。

腎臓の機能と不全時の症状対比

腎臓の主な機能機能低下時の症状身体へのリスク
老廃物の排泄食欲不振、吐き気、頭痛尿毒症、意識障害
水分の調節むくみ、息切れ、高血圧心不全、肺水腫
電解質の調節手足のしびれ、脱力感不整脈、心停止

血液透析が血液をきれいにする基本原理

血液透析は、機能しなくなった腎臓の代わりに、ダイアライザと呼ばれる人工腎臓を使って血液を浄化する治療法です。ここでは、血液透析 原理の中核をなす拡散と限外ろ過という2つの仕組みについて詳しく見ていきます。

半透膜を介した拡散による物質移動

透析の最も基本的な原理は拡散現象で、濃度の高い方から低い方へと物質が移動し、均一になろうとする性質を利用したものです。

ダイアライザの中には、半透膜という微細な穴の空いた膜が無数に入っていて、この膜を境にして、片側に患者さんの血液を、もう片側に透析液を流します。

血液中には老廃物(尿素窒素やクレアチニンなど)や過剰な電解質(カリウムなど)が高濃度で含まれていますが、透析液にはこれらは含まれていません。

濃度勾配に従って、老廃物は血液側から透析液側へと膜を通り抜けて移動する一方で、赤血球やタンパク質などの体に必要な大きな物質は膜の穴を通れないため、血液中に留まります。

限外ろ過による余分な水分の除去

拡散だけでは、体内に溜まった余分な水分を効率よく取り除くことは困難で、そこで利用されるのが限外ろ過という原理です。

これは、血液側に圧力をかけたり、透析液側から陰圧(引っ張る力)をかけたりすることで、半透膜を通して強制的に水分を絞り出す仕組みです。コーヒーフィルターに圧力をかけてコーヒーを抽出する様子を想像すると分かりやすいでしょう。

腎不全の患者さんは尿が出にくく、体内に水分が溜まりやすいため、限外ろ過機能を使って、増えた体重分の水分を透析中に計画的に除去します(除水)。

ダイアライザ(人工腎臓)の構造と役割

ダイアライザは、プラスチックの筒の中に、ストロー状の細い繊維(中空糸)が約1万本束ねられた構造をしていて、中糸の内側を血液が流れ、外側を透析液が逆方向に流れます。

向流配置により、血液と透析液の濃度差が常に維持され、効率的に老廃物の除去が行われるよう設計されているのです。

ダイアライザには様々な種類があり、膜の素材や穴の大きさによって、小分子の除去に優れているものや、より大きな分子量の老廃物まで除去できるものなどがあります。

拡散と限外ろ過の役割の違い

原理主な駆動力除去されるもの
拡散濃度の差尿素窒素、クレアチニン、カリウム、リンなどの小分子毒素
限外ろ過圧力の差体内に蓄積した過剰な水分
吸着(一部の膜)膜への付着β2ミクログロブリンなどの中分子タンパク質

人工透析を始める前に手術が必要な理由

透析治療を受けるためには、単に機械があれば良いわけではなく、機械と体をつなぐための出入り口が必要となります。ここでは、透析特有の条件と、それに伴う手術の重要性について解説します。

透析に必要な血液量と静脈の関係

血液透析では、短時間(通常4時間程度)で体全体の血液をきれいにしなくてはなりません。そのためには、1分間に約200mlから250mlという大量の血液を体から取り出し、ダイアライザへ送り、再び体へ戻すことが必要です。

普段目にする皮膚の表面にある静脈は、壁が薄く、流れる血液の量も勢いも少ないため、透析に必要なこれだけの大流量を確保することができず、そのまま針を刺しても、十分な血液が吸い出せず、すぐに血管が潰れてしまいます。

バスキュラーアクセスの役割と重要性

そこで必要となるのが、バスキュラーアクセスと呼ばれる血液の出入り口で、一般的にはシャントと呼ばれます。手術によって、手首などの近くにある動脈と静脈をつなぎ合わせます。

動脈は心臓からの強い圧力で大量の血液が流れているので、動脈の血液を直接静脈に流し込むことで、静脈に動脈並みの豊富な血液が流れるようになります。

こうして発達した太く強い静脈を作ることで、太い針を刺しても十分な血液量を安定して確保できるようになるのです。

手術を行う時期と透析導入の計画

シャントを作製する手術(内シャント造設術)は、透析が必要になる直前に行うわけではありません。手術直後の静脈はまだ細く、壁も薄いため、すぐに透析に使えるわけではないからです。

動脈血の強い圧力を受けて静脈が太く丈夫に発達するまでには、少なくとも2週間から4週間程度の期間が必要なので、成熟期間を見越して、透析導入が予想される時期の数ヶ月前から手術を計画します。

早めに作製しておくことで、緊急透析のような身体への負担が大きい処置を避け、スムーズに維持透析へ移行することが可能になります。

バスキュラーアクセスが必要な理由

  • 1分間に200ml以上の大量の血液を循環させる必要があるため
  • 通常の静脈では血流が不足し透析機器が停止してしまうため
  • 毎回太い針を刺すことに耐えられる丈夫な血管が必要なため
  • 4時間の治療を安定して継続するための安全な回路が必要なため
  • 緊急時のカテーテル留置による感染リスクを避けるため

バスキュラーアクセスの種類とそれぞれの特徴

バスキュラーアクセスにはいくつかの種類があり、患者さんの血管の状態や心機能、全身状態によって最適な方法が選択されます。

自己血管内シャント(AVF)の特徴

最も一般的で、第一選択となるのが自己血管内シャント(AVF)で、患者さん自身の動脈と静脈を直接つなぎ合わせる方法です。自分の血管を使用するため、感染症のリスクが低く、閉塞などのトラブルも比較的少ないのが最大の特徴です。

一度作製して良好に発達すれば、10年以上にわたって使い続けられることも珍しくありません。ただし、手術を行ってから実際に使用できるようになるまで血管が育つのを待つ必要があり、血管が細い方や高齢の方では発達が悪い場合もあります。

人工血管内シャント(AVG)の選択

ご自身の血管が細すぎる場合や、過去に何度もシャント手術を受けて血管が潰れてしまっている場合などは、人工血管内シャント(AVG)が選択されます。

これは、動脈と静脈の間をポリウレタンなどの合成素材でできた人工血管でバイパスする方法で、自己血管に比べて手術後比較的早期に使用可能となり、穿刺(針を刺すこと)が容易であるというメリットがあります。

一方で、異物を体内に入れることになるため、細菌感染のリスクが高く、血栓ができて詰まりやすいというデメリットもあり、日々の管理と定期的なメンテナンスがより重要です。

動脈表在化とカテーテル留置

心臓への負担が懸念される場合や、シャントを作れる血管がどうしても見つからない場合は、動脈表在化という手術を行うことがあり、深い位置にある動脈を皮膚の浅い位置へ移動させ、直接動脈に針を刺す方法です。

シャントのように心臓への還流血量が増えないため、心不全の患者さんに適していてます。

また、緊急で透析が必要な場合や、シャントのトラブルで一時的に使えない場合は、首や太ももの太い静脈にカテーテルという管を挿入して透析を行います。

あくまで一時的な手段であることが多いですが、長期留置用のカテーテルを使用するケースもあります。

主なアクセスの比較

種類メリットデメリット
自己血管内シャント感染しにくい、長持ちする使えるまで時間がかかる
人工血管内シャント血管が細くても作れる感染・血栓のリスクが高い
長期留置カテーテル針を刺す痛みがない入浴制限がある、感染リスク

実際の手術の流れと術後の経過

手術というと大掛かりなイメージを持つかもしれませんが、内シャント造設術は局所麻酔で行われることが多く、比較的短時間で終了します。ここでは、手術前から実際に透析で使えるようになるまでの流れを解説します。

術前検査と血管のマッピング

手術の成功率を高め、長持ちするシャントを作るためには、事前の検査が非常に重要です。超音波(エコー)検査を行い、動脈の状態(動脈硬化の有無や血流)と静脈の状態(太さや走行)を詳細に確認します(血管マッピング)。

利き手ではない側の手首付近で作ることが基本ですが、血管の状態によっては肘や上腕、あるいは利き手側を選択することもあります。医師は検査結果をもとに、どの血管とどの血管をつなぐのがベストかを慎重に判断します。

手術当日の手順と所要時間

手術は通常、局所麻酔で行われます。手術室に入り、腕を消毒した後、麻酔の注射をします。この時チクリとした痛みはありますが、手術中に鋭い痛みを感じることはありません。

執刀医は皮膚を数センチ切開し、動脈と静脈を露出させ、丁寧に縫い合わせます(吻合)。

手術時間は血管の状態にもよりますが、順調にいけば1時間から1時間半程度で終了し、入院が必要な場合もありますが、施設や患者さんの状態によっては日帰りで行われることもあります。

術後の成熟と穿刺開始のタイミング

手術が終わると、静脈に動脈の血液が流れ込み、「ザーザー」という音が聞こえたり、触れると「ビリビリ」とした振動(スリル)を感じたりするようになり、これがシャントが機能している証拠です。

しかし、すぐには使えず、血流の刺激によって静脈の壁が厚くなり、太く育つのを待ち、この期間を成熟期間と呼びます。

一般的に自己血管の場合は2週間から4週間後、人工血管の場合は腫れが引いた2週間後くらいから実際に針を刺しての透析(穿刺)を開始し、この期間中は、軽い運動(ボール握り運動など)を行い、血管の発達を促すこともあります。

手術から透析開始までの目安

段階期間・時期内容
術前評価手術の数日前超音波検査で血管選定
手術当日局所麻酔下で1時間程度
成熟期間術後2〜4週間血管を育て、傷を治す
穿刺開始成熟確認後初めての透析治療開始

シャントを長持ちさせるための日常管理

作製したシャントは、透析患者さんにとって生命線です。トラブルなく長く使い続けるためには、医療者によるチェックだけでなく、患者さん自身による日々の観察とケアが大切です。

毎日の観察ポイント(スリルとシャント音)

毎朝起きた時や、一日の決まった時間にシャントの状態を確認する習慣をつけましょう。まず、シャント部分に手を当てて「ビリビリ」あるいは「ザワザワ」という振動(スリル)があるかを確認します。

次に、耳を近づけるか聴診器を使って「ザーザー」「ゴーゴー」という音が連続して聞こえるかを確認します。

もし、振動が弱くなっていたり、音が「ヒューヒュー」と高い音に変わっていたり、あるいは全く音が聞こえない場合は、血管が細くなったり詰まったりしている可能性があります。

その場合は、次回の透析を待たずに直ちに病院へ連絡することが必要です。

シャント肢(手術した腕)の保護

シャントを作った腕(シャント肢)は、血流が特殊な状態になっており、圧迫や感染に弱くなっているため、日常生活ではいくつかの制限があります。

まず、シャント肢での血圧測定や採血は原則行わず、また、腕時計やきつい袖口の服、重い買い物袋を腕にかけるなど、血管を圧迫する行為は避けます。寝る時も、シャント肢を下にして長時間圧迫しないよう注意が必要です。

圧迫されると血流が滞り、血栓ができて血管が詰まる原因になります。

感染予防と皮膚のケア

シャント部分は毎回太い針を刺す場所であるため、皮膚を清潔に保つことが感染予防において重要です。透析前には必ず腕を石鹸で洗いましょう。

穿刺した場所がかゆくなることがありますが、爪を立ててかきむしると傷ができ、そこから細菌が入って感染を起こすことがあります。かゆみが強い場合は、保冷剤で冷やしたり、医師に相談してかゆみ止めを処方してもらったりして対処します。

もし、シャント部分が赤く腫れたり、熱を持ったり、痛みが出たりした場合は感染の兆候ですので、早急な受診が必要です。

日常のチェックリスト

  • シャント音(ザーザー音)は聞こえるか
  • スリル(ビリビリする振動)は触れるか
  • シャント部分に赤みや腫れはないか
  • 手先が冷たくなったり青白くないか
  • 穿刺した傷口から出血や膿はないか

起こりうる合併症とその対策

注意深く管理していても、シャントにはいくつかの合併症が起こる可能性があります。早期に発見し対処することで、シャントを失わずに済むことも多いため、代表的なトラブルについて知っておくことが重要です。

狭窄と閉塞(血管が細くなる・詰まる)

最も多いトラブルが狭窄で、繰り返しの穿刺や血流の乱れにより、血管の内膜が厚くなり、通り道が狭くなってしまう状態です。狭窄が進むと透析効率が落ちたり、完全に詰まってしまう閉塞に至ったりします。

狭窄の段階で発見できれば、カテーテル治療(VAIVT)によって、風船(バルーン)で狭い部分を内側から広げる処置が可能です。

完全に閉塞してしまうと、血栓を除去する手術や、新たな場所にシャントを作り直す手術が必要になることがあるため、日々の音と振動のチェックで異変に早く気づくことが大切です。

スチール症候群(手の血行不良)

シャントを作ると、動脈から指先へ行くはずだった血液の多くが、抵抗の少ないシャント(静脈)の方へ流れてしまいます。

指先への血流が不足し、手が冷たく感じたり、しびれたり、色が青白くなったり、ひどい場合には痛みや潰瘍が生じたりすることがあります(スチール症候群)。

症状が軽ければ保温や運動で経過を見ますが、痛みが強い場合や皮膚に異常が出る場合は、シャントの血流量を制限する手術や、シャントを閉鎖する手術が必要です。

静脈高血圧症と動脈瘤

シャントの血流が強すぎたり、心臓へ戻る血管の途中に狭窄があったりすると、血液がスムーズに戻れず、腕全体がひどく腫れ上がることがあります(静脈高血圧症)。

また、同じ場所に繰り返し針を刺し続けることで、血管壁が弱くなり、こぶのように膨らんでしまうことがあり、これを動脈瘤(仮性動脈瘤)と呼びます。

こぶが大きくなりすぎると破裂の危険があるため、穿刺する場所を変えたり、手術で修復したりする対策が重要です。

主な合併症のサイン

合併症主な自覚症状対応策
狭窄・閉塞音が変わる・消える、止血しにくいカテーテル治療(VAIVT)
スチール症候群手が冷たい、指先が痛い、色が悪い血流制御手術、保温
感染赤み、熱感、痛み、膿が出る抗生剤投与、排膿処置

透析生活における食事と生活の工夫

手術を終え、透析が始まると、生活のリズムや食事の内容を見直す必要があります。

透析は腎臓の働きを完全に代行できるわけではなく、健康な腎臓の1割程度の働きしかできないため、透析と透析の間に体内に溜まる毒素や水分をできるだけ少なく抑える自己管理が、元気に長生きするための鍵です。

水分と塩分のコントロール

腎機能が低下すると尿が出なくなるため、摂取した水分はそのまま体内に溜まり、水分が増えすぎると心臓に負担がかかり、高血圧や心不全の原因となります。しかし、単に水を我慢するのは困難で、重要なのは塩分制限です。

塩分を摂りすぎると喉が渇き、どうしても水分を摂ってしまいます。1日の塩分摂取量を6g未満に抑えることで、自然と飲水量も減らすことができます。

中2日(透析のない日が2日続く期間)明けの体重増加を、ドライウェイト(基準体重)の3%から5%以内に抑えることが目標です。

カリウムとリンの管理の重要性

カリウムは野菜や果物に多く含まれていますが、透析患者さんはこれを尿から排泄できません。血中のカリウム濃度が高くなりすぎると、不整脈を起こし、最悪の場合は心停止に至る危険があります。

野菜は茹でこぼす、水にさらすなどの調理でカリウムを減らす工夫が必要です。また、リンは乳製品や加工食品に多く含まれています。リンが蓄積すると、骨がもろくなったり、血管の石灰化(動脈硬化)が進行したりします。

薬によるコントロールに加え、リンの多い食品を控える意識を持つことが、長期的な合併症予防につながります。

適切なエネルギー確保と運動

食事制限というと「減らす」ことばかりに目が行きがちですが、十分なエネルギー(カロリー)を摂ることも同じくらい重要です。

エネルギー不足になると、体は筋肉を分解してエネルギーを作り出そうとするので、筋肉量が減少し、体力が低下するフレイルという状態に陥りやすくなり、また、筋肉の分解に伴って老廃物も増えてしまいます。

主食や良質な油でエネルギーを確保しつつ、医師の許可の範囲内で適度な運動を行い、筋肉と体力を維持することが、質の高い透析生活を送る土台です。

カリウムを多く含む食品例

  • バナナ、メロン、キウイなどの果物類
  • ほうれん草、かぼちゃ、イモ類などの野菜
  • アボカド、ドライフルーツ
  • インスタントコーヒー、玉露などの濃いお茶
  • 100%フルーツジュース、青汁

食事管理のまとめ

栄養素管理の目的注意点
水分・塩分心不全・高血圧予防塩分を控えて喉の渇きを防ぐ
カリウム心停止・不整脈予防生野菜や果物の過剰摂取を避ける
リン骨折・動脈硬化予防加工食品や乳製品を控える

人工透析に関するよくある質問

ここでは、これから透析を始める患者さんやご家族から寄せられることの多い疑問についてお答えします。

毎回の透析の針を刺す痛みはどれくらいですか?

透析で使用する針は通常の採血針よりも太いため、刺す瞬間の痛みは伴いますが、軽減する対策があります。

多くの施設ではペンレステープやエムラクリームといった局所麻酔薬(貼り薬や塗り薬)を穿刺の約1時間前に使用し、麻酔効果により、皮膚の感覚が鈍くなり、チクッとする痛みを大幅に和らげることが可能です。

透析にかかる時間は短縮できませんか?

基本的には、1回4時間、週3回の治療が必要で、これは、尿毒症物質を十分に除去し、体内の水分バランスを安全に整えるために必要な物理的な時間です。

時間を短くすると、急激に水分を引くことになり血圧低下を起こしたり、毒素が取りきれずに体調不良の原因になったりします。

時間をかけてゆっくり透析を行う方が体への負担は少なく、長期的には予後が良いとされています。仕事などの事情がある場合は、夜間透析や在宅血液透析などの選択肢について主治医に相談することをお勧めします。

作ったシャントは一生使えますか?

一生使える場合もありますが、メンテナンスや再手術が必要になることもあります。

自己血管内シャントの場合、適切な管理と手術が行われていれば、10年、20年と使い続けられる方も少なくありませんが、血管の質や体質によっては、途中で狭くなったり詰まったりすることがあります。

その場合は、カテーテル治療で広げたり、別の場所に作り直したりします。

透析をしていてもお風呂やプールに入れますか?

入浴は問題ありませんが、プールは条件付きとなります。入浴については、透析当日は穿刺部の止血確認後であればシャワーは可能ですが、湯船に浸かるのは翌日が望ましいとされることが多いです。

非透析日は通常通り入浴できます。プールに関しては、不特定多数が利用する公共のプールでは穿刺部からの感染リスクが懸念されます。

完全に傷が塞がっている非透析日に、防水保護フィルムなどで穿刺部を厳重に保護すれば可能な場合もありますが、必ず主治医に確認と許可を得てから行うようにしてください。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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