高齢者の腎機能低下|原因・症状と治療、加齢による変化

高齢者の腎機能低下|原因・症状と治療、加齢による変化

年齢を重ねるにつれて体には様々な変化が現れ、腎臓も例外ではなく、加齢とともにその機能は徐々に低下していく傾向にあります。健康診断で腎機能の数値が少し低いと指摘され、不安を感じている方も少なくないでしょう。

腎臓は沈黙の臓器とも呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどなく、放置すれば透析治療が必要になる状態まで進行することもあります。

この記事では、高齢者の腎機能が低下する主な原因や理由、現れる症状、治療の考え方や日常生活での注意点について、解説していきます。

目次

高齢者の腎機能が低下する自然な変化とは

腎臓は、背中側に左右一つずつある、そら豆のような形をした臓器です。

血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排出する、いわば体のフィルターの役割を担っていて、他の臓器と同様に、年齢を重ねるごとに少しずつ低下していきます。

加齢に伴う腎臓の構造的な変化

腎臓の中で実際に血液のろ過を行っているのは、糸球体と呼ばれる微細な血管の塊です。

糸球体と尿細管がセットになったネフロンという構造が、左右の腎臓合わせて約200万個ありますが、ネフロンの数は、40歳代頃から徐々に減少し始め、高齢になると、若い頃に比べて大幅に減少してしまうことがあります。

ネフロンが減るということは、それだけ血液をろ過するフィルターの数が減ることを意味し、腎臓全体の機能低下につながり、また、腎臓のサイズ自体も加齢とともにやや小さくなる傾向があり、これを腎萎縮と呼びます。

腎血流量と糸球体濾過量の減少

腎臓が十分に働くためには、心臓から送り出される血液の約4分の1という大量の血液が必要で、腎臓へ流れ込む血液量(腎血流量)も、加齢とともに減少していきます。

これは、加齢に伴って全身の動脈硬化が進み、血管が狭くなったり硬くなったりすることで、腎臓への血流がスムーズにいかなくなるためです。腎血流量が減ると、糸球体でろ過される血液の量、すなわち糸球体濾過量(GFR)も低下します。

尿を濃縮する力の低下と夜間頻尿

腎臓は、血液からろ過した原尿(尿のもと)から、体に必要な水分や電解質を再吸収し、最終的に濃縮された尿を作り、尿を濃縮する能力も、加齢とともに低くなります。

尿を濃縮する力が弱まると、薄い尿が大量に作られることになり、夜間は、抗利尿ホルモンの分泌が変化する影響も加わり、尿量が増えやすくなり、夜間頻尿の症状が現れます。

多くの高齢者が経験する夜間頻尿は、前立腺肥大症などの他の原因もありますが、加齢による腎臓の濃縮力低下も大きな要因の一つです。

加齢による腎臓の主な変化と影響

変化の種類具体的な変化内容腎機能への影響
構造的変化ネフロン(糸球体)数の減少、腎萎縮ろ過機能全体の容量が低下する
血流の変化腎血流量の減少、動脈硬化糸球体濾過量(GFR)が低下する
機能的変化尿濃縮力の低下、ホルモン分泌の変化尿量調整が難しくなり、夜間頻尿などを招く

年のせいだけではない腎機能低下の主な理由

加齢による自然な変化は誰にでも起こりますが、それだけで急速に腎機能が低下することは稀です。高齢者の腎機能が低下する背景には、年のせいだけでは片付けられない、他の病気や生活習慣が深く関わっていることが少なくありません。

高血圧と糖尿病による血管へのダメージ

高齢者の腎機能低下の原因として、最も多いのが高血圧と糖尿病です。腎臓は細い血管の塊のような臓器であるため、血圧が高い状態が続くと、腎臓内の糸球体の血管に常に強い圧力がかかり、血管が傷んで硬くなってしまいます(腎硬化症)。

また、糖尿病によって血糖値が高い状態が続くと、血管がダメージを受け、同様に糸球体のろ過機能が破壊されていき、これが糖尿病性腎症です。

二つの疾患は、自覚症状が乏しいまま進行し、気づかないうちに腎臓に取り返しのつかない損傷を与えてしまうため、特に注意が必要です。

動脈硬化による腎硬化症の進行

加齢そのものが動脈硬化のリスク因子ですが、そこに高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症など)、喫煙、肥満などの要素が加わると、全身の動脈硬化はさらに加速します。

心臓の冠動脈や脳の血管と同じように、腎臓の血管でも動脈硬化が進行し、腎臓へ血液を送る腎動脈が狭くなったり(腎動脈狭窄症)、腎臓内部の細い血管が硬くなったりすることで血流が悪化し、腎臓の組織が酸素不足や栄養不足に陥ります。

その結果、腎臓の細胞が徐々に壊れ、機能が低下していき、良性腎硬化症とも呼ばれ、高齢者の慢性腎臓病(CKD)の大きな原因です。

薬剤の使用による腎臓への負担

高齢者は複数の持病を抱え、多くの種類の薬を服用しているケースが少なくありません。薬の多くは腎臓で代謝・排泄されるため、服用する薬の種類や量が増えれば、それだけ腎臓への負担も大きくなります。

特に、痛み止めとして頻繁に使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一部や、特定の抗菌薬、造影剤などは、腎機能に影響を与える可能性があるため注意が必要です。

腎機能が低下している高齢者の場合、薬の成分が体内に蓄積しやすく、副作用が出やすくなるリスクもあります。医師は腎機能に合わせて薬の量を調整しますが、自己判断で市販薬などを安易に追加することは避けなければなりません。

脱水や尿路感染症などの急性要因

慢性的な変化だけでなく、急激な変化によって一時的に腎機能が大きく低下することもあります。

高齢者は喉の渇きを感じにくく、体内の水分量も減少しているため、容易に脱水状態に陥りやすい傾向があり、脱水になると腎臓への血流が減少し、機能が急激に悪化します(急性腎障害)。

また、前立腺肥大症や膀胱の機能低下により尿の流れが滞ると、細菌が繁殖しやすくなり、尿路感染症や腎盂腎炎を起こすリスクが高まり、感染症も腎機能に悪影響を及ぼします。

腎機能低下を招きやすい主な生活習慣病と要因

  • 高血圧症
  • 糖尿病
  • 脂質異常症(高脂血症)
  • 高尿酸血症(痛風)
  • 喫煙習慣

自覚症状が乏しい腎機能低下のサイン

腎臓は非常に我慢強い臓器で、機能が大幅に低下するまで明確な症状を出すことは稀で、沈黙の臓器と呼ばれる所以です。症状が現れたときには、すでに病気がかなり進行してしまっている場合も少なくありません。

初期にはほとんど症状が現れない特徴

腎機能が正常の半分程度まで低下したとしても、体はまだバランスを保とうとするため、自覚できるような症状はほとんど現れません。

初期段階で腎機能の低下に気づくためには、定期的な血液検査や尿検査を受けることが必要です。特に、高血圧や糖尿病などの持病がある高齢者は、主治医と相談し、定期的に腎機能をチェックする機会を持つことが大切になります。

進行すると現れるむくみや倦怠感

腎機能の低下がある程度進行してくると、体内の水分や塩分の調節がうまくいかなくなり、余分な水分が体に溜まって、むくみ(浮腫)が現れます。

夕方になると足やすねがむくむ、靴がきつく感じる、朝起きたときに顔やまぶたが腫れぼったいといった症状が起こりやすいです。

また、老廃物が体内に蓄積することで、全身のだるさ(倦怠感)、疲れやすさ、食欲不振、吐き気、皮膚のかゆみといった尿毒症の症状が出始めることもあります。

夜間のトイレ回数が増える夜間頻尿

加齢による腎臓の濃縮力低下によっても夜間頻尿は起こりますが、腎機能障害が進行することでも、症状は顕著になります。腎臓が尿を濃くすることができず、薄い尿が多量に作られるため、夜中に何度もトイレに起きるようになります。

高齢者の場合、睡眠障害や転倒のリスクにもつながるため、生活の質(QOL)を大きく低下させる原因となります。

以前よりも夜中のトイレの回数が増えたと感じたら、泌尿器科的な問題だけでなく、内科的な腎機能の問題も疑ってみることが必要です。

貧血や骨がもろくなる合併症

腎臓は尿を作るだけでなく、造血ホルモン(エリスロポエチン)を分泌して赤血球の生成を促したり、ビタミンDを活性化して骨を丈夫に保つ働きもしています。

腎機能が低下すると、このような働きも弱まるため、腎性貧血と呼ばれる貧血になり、動悸や息切れ、めまいなどの症状が現れます。また、カルシウムの吸収が悪くなり、骨がもろくなって骨折しやすくなる骨粗鬆症のリスクも高まります。

腎臓とは関係ないように思えるかもしれませんが、腎機能低下に伴う重要な合併症です。

腎機能低下が進行した際に現れる可能性のある主な症状

症状のカテゴリー具体的な症状例
体液バランスの異常足や顔のむくみ、体重増加、高血圧
老廃物の蓄積(尿毒症症状)全身の倦怠感、疲労感、食欲不振、吐き気、皮膚のかゆみ
尿の異常夜間頻尿、尿量の変化(多尿または減少)、泡立ちのある尿
合併症による症状貧血による動悸・息切れ、骨がもろくなることによる骨折

高齢者の腎機能を確認する検査と診断基準

腎機能の状態を正確に把握するためには、病院での検査が不可欠で、自覚症状が乏しい初期段階から発見するためにも、定期的な検査が重要です。

血液検査で見るクレアチニンとeGFR

血液検査では、主に血清クレアチニン値を測定します。

クレアチニンは、筋肉が活動した後に生じる老廃物の一種で、通常は腎臓でろ過されて尿中に排泄されますが、腎機能が低下すると、尿へ排泄しきれなくなり、血液中のクレアチニン濃度が上昇します。

ただし、クレアチニン値は筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が少ない高齢女性などでは、腎機能が低下していても数値が基準範囲内に収まってしまうことがあります。

そこで、より正確に腎機能を評価するために、血清クレアチニン値に加え、年齢と性別を考慮して計算される推算糸球体濾過量(eGFR)という指標が用いられます。

eGFRは腎臓が1分間にどれくらいの血液をろ過できるかを示す値で、腎臓の能力を%(パーセント)で表したようなイメージです。

eGFRが60であれば、腎臓の機能が健康な状態の約60%程度であると推測でき、値が低いほど、腎機能が低下していることを意味します。

尿検査で確認するタンパク尿と血尿

尿検査は、腎臓のフィルター機能に異常がないかを直接調べる重要な検査です。健康な状態であれば、血液中の大切な成分であるタンパク質や赤血球は、糸球体のフィルターを通過せず、尿にはほとんど漏れ出ません。

しかし、腎臓に何らかの障害があると、フィルターの網目が傷つき、尿中にタンパク質(タンパク尿)や血液(血尿)が混じるようになります。

持続するタンパク尿は、腎臓病が進行している重要なサインであり、将来的に腎機能が悪化するリスクが高いことを示唆しています。高齢者では、糖尿病性腎症や腎硬化症の初期段階を発見するために欠かせない検査です。

慢性腎臓病(CKD)のステージ分類

慢性腎臓病(CKD)とは、腎機能低下を示す所見が慢性的に続いている状態の総称です。

尿検査異常(特にタンパク尿)などの腎障害を示す所見、eGFRが60mL/分/1.73㎡未満、のいずれか(または両方)が3ヶ月以上持続する場合にCKDと診断され、CKDは、eGFRの値に基づいて重症度が6つのステージ(病期)に分類されます。

ステージが進むにつれて腎機能は低下しており、透析治療や心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞)のリスクが高まります。

高齢者の場合、加齢による自然な低下もあるため、eGFRが60未満だからといってすぐに重篤な状態というわけではありませんが、ステージG3a以降は注意深い管理が必要です。

CKD(慢性腎臓病)の重症度ステージ分類

ステージeGFR値 (mL/分/1.73㎡)腎機能の状態と解説
G190以上腎機能は正常または高値。ただしタンパク尿などの腎障害がある状態。
G260〜89腎機能が軽度に低下。タンパク尿などの腎障害がある状態。
G3a45〜59腎機能が軽度〜中等度に低下。自覚症状はほとんどない。
G3b30〜44腎機能が中等度〜高度に低下。この段階から注意が必要。
G415〜29腎機能が高度に低下。透析導入を視野に入れた準備が必要な時期。
G515未満末期腎不全。透析療法や腎移植などの腎代替療法が必要な状態。

高齢者の腎機能低下に対する治療の考え方

一度失われた腎臓の機能(ネフロンの数)は、元に戻すことはできないので、高齢者の腎機能低下に対する治療の最大の目標は、腎機能を回復させることではなく、現在の機能を維持し、低下のスピードをできるだけ緩やかにすることです。

原疾患の治療と生活習慣の改善が基本

腎機能低下の原因が、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病である場合、まずは原疾患をコントロールすることが治療の基本です。

血圧、血糖値、コレステロール値などを管理目標の範囲内に保つことで、腎臓へのさらなるダメージを抑制します。禁煙は必須であり、肥満の解消も腎臓の負担軽減につながります。

高齢者の場合、厳格すぎるコントロールがかえって体調不良(低血圧によるふらつきや低血糖など)を招くこともあるため、個々の体力や状態に合わせた目標設定が重要です。

食事療法による腎臓への負担軽減

食事療法は腎臓病治療の要ですが、高齢者の場合は特に注意が必要です。基本は減塩によって血圧を管理し腎臓の負担を減らすこと、そして進行度に応じてタンパク質制限やカリウム・リンの制限を行います。

ただし、高齢者が厳格な食事制限を行うと、食事量全体が減ってしまい、エネルギー不足や低栄養(フレイル)に陥るリスクが高まり、低栄養は筋肉量の減少や免疫力の低下を招き、かえって健康寿命を縮めてしまう可能性があります。

高齢者の食事療法では、腎機能を守ることと栄養状態を維持することのバランスを慎重にとる必要があります。自己流の制限は危険ですので、必ず医師や管理栄養士の指導のもとで行いましょう。

薬物療法による進行の抑制と合併症対策

生活習慣の改善や食事療法だけでは不十分な場合、薬物療法を実施します。降圧薬の中には、血圧を下げるだけでなく、腎臓を保護する作用を持つタイプ(レニン・アンジオテンシン系阻害薬など)があり、積極的に使用されます。

また、糖尿病がある場合は、血糖値をコントロールするだけでなく、心臓や腎臓を守る効果も期待できるSGLT2阻害薬などが選択肢です。

その他、貧血に対する造血ホルモン製剤や鉄剤、骨の異常に対する治療薬、体内の老廃物を吸着して排泄する薬(球形吸着炭)など、合併症に対する治療も並行して行います。

腎機能を守るための治療アプローチの柱

  • 生活習慣の修正: 禁煙、適正体重の維持、適度な運動。
  • 食事療法: 適切な減塩、エネルギー確保、個々の状態に応じた栄養管理。
  • 原疾患の管理: 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの適切な治療。
  • 薬物療法: 腎保護作用のある降圧薬などの使用、合併症の治療。

腎機能を守るための日常生活での注意点

腎機能の低下を防ぎ、現在の機能を維持するためには、病院での治療だけでなく、日常生活の中でのちょっとした心がけが大きな意味を持ちます。

適切な水分補給と脱水予防の重要性

高齢者にとって脱水は、急性腎障害を起こす大きなリスク要因です。高齢になると喉の渇きを感じにくくなる上、夜間のトイレを気にして水分を控えてしまう方が少なくありませんが、水分不足は血液を濃縮させ、腎臓への血流を悪化させます。

特に夏場や入浴前後、起床時などは意識的に水分を摂るようにしましょう。ただし、心臓や腎臓の状態によっては水分の摂りすぎが負担になる場合もあるため、主治医に適切な1日の水分摂取量の目安を確認しておくことが大切です。

減塩を中心とした食事管理のポイント

食事における最大のポイントは減塩です。塩分の摂りすぎは高血圧を招き、腎臓に直接的なダメージを与えます。日本人の食事は塩分が多くなりがちなので、薄味を心がけることが基本です。

出汁や酸味(酢、レモン)、香辛料を上手く利用して味にメリハリをつける、麺類の汁は残す、漬物や加工食品を控えるといった工夫で、無理なく塩分を減らしていきましょう。

また、食事量が減って低栄養にならないよう、バランスよく食べて十分なエネルギーを確保することも、高齢者の腎臓ケアには欠かせません。

無理のない運動習慣と感染症対策

適度な運動は、血圧や血糖値を改善し、体力を維持するために有効で、腎臓を守ることにつながります。激しい運動である必要はなく、散歩やラジオ体操、家事など、体に過度な負担がかからない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。

また、高齢者は免疫力が低下しているため、インフルエンザや肺炎などの感染症にかかると重症化しやすく、それがきっかけで腎機能が急激に悪化することがあります。

手洗い・うがいの励行、人混みを避ける、必要な予防接種を受けるなどの基本的な感染症対策を徹底することが、腎臓を守ることにもつながります。

市販薬やサプリメント服用の注意

ドラッグストアなどで手軽に購入できる市販薬やサプリメントの中にも、腎臓に負担をかける成分が含まれている場合があります。

風邪薬や解熱鎮痛薬に使われるNSAIDsは、長期連用や脱水時の服用で腎機能を悪化させるリスクがあり、また、一部のサプリメントや健康食品も、腎機能が低下している方には推奨できないものがあります。

普段服用している処方薬との飲み合わせの問題もありますので、自己判断で新しい薬やサプリメントを飲み始める前に、必ずかかりつけ医や薬剤師に相談する習慣をつけましょう。

日常生活で心がけたい腎臓ケアの習慣

  • こまめな水分補給: 喉が渇く前に少しずつ飲む。脱水を避ける。
  • うす味の習慣: 減塩を意識し、加工食品や外食を控える。
  • 感染予防: 手洗い、マスク、ワクチン接種で体調を崩さない。
  • お薬手帳の活用: 市販薬も含め、服用している全ての薬を医師・薬剤師に伝える。

よくある質問(FAQ)

ここでは、高齢者の腎機能について、患者さんやご家族からよく寄せられる疑問にお答えします。

健康診断で腎機能が低下気味と言われました。すぐに病院へ行くべきですか?

まずは一度、かかりつけ医や内科で相談することをお勧めします。低下気味の程度にもよりますが、eGFRの値が60未満であれば慢性腎臓病(CKD)の疑いがあります。

高齢者の場合、加齢による自然な変化の可能性もありますが、背後に高血圧や糖尿病などの病気が隠れていて、知らぬ間に進行しているケースも少なくありません。

早期に原因を特定し適切な対策を始めることで、その後の経過が大きく変わるので、自己判断で放置せず、専門家の評価を受けることが大切です。

高齢者でも食事制限は必要ですか?低栄養にならないか心配です。

腎機能を守るための食事療法は必要ですが、高齢者の場合は低栄養(フレイル)にならないよう、慎重なバランス調整が重要です。

一律に厳しい制限を行うのではなく、個々の腎機能の段階や栄養状態、合併症の有無に合わせて内容を調整します。基本は適切な減塩ですが、タンパク質制限などは、厳格すぎると筋肉量が落ちて体力が低下するリスクがあります。

自己流の制限は危険ですので、必ず医師や管理栄養士の指導を受け、腎臓ケアと栄養維持の両立を目指しましょう。

腎機能が低下したら、必ず透析治療になるのでしょうか?

腎機能低下の発見が早く、適切な治療や生活習慣の改善を行うことで、機能の低下を食い止めたり、進行を非常に緩やかにしたりすることは十分に可能です。

多くの高齢者は、透析を必要としない状態で生涯を過ごすことができますが、放置して発見が遅れた場合や、糖尿病などの管理が不十分な場合は、透析が必要になるリスクが高まります。定期的な検査と早期の対応が鍵となります。

腎臓に良い食べ物や、回復させる方法はありますか?

一度失われた腎機能を元通りに回復させる特効薬や特定の食べ物はなく、腎臓のためにできる最善のことは、腎臓に負担をかけないことです。

塩分やタンパク質の摂りすぎを控える、暴飲暴食を避ける、脱水を防ぐ、血糖値や血圧を適切に管理する、といった日々の積み重ねが最も効果的な対策となります。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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