透析シャント狭窄の早期発見|血流モニタリングと自己管理のポイント

透析シャント狭窄の早期発見|血流モニタリングと自己管理のポイント

透析治療を継続する患者さんにとって、シャントは日々の治療を支える命綱とも言える存在です。

しかし、長期間の使用により、血管が細くなる狭窄や、それに伴う血流低下といったトラブルが起きることがあり、透析効率を下げ、体調不良や合併症を起こす大きな要因となります。

この記事では、医療機関で行う専門的なモニタリングの重要性から、患者さん自身が自宅で実践できる観察と自己管理の方法までを網羅的に解説します。

目次

透析シャント狭窄と血流低下が及ぼす影響

血液透析を円滑に行うためには、短時間で大量の血液を循環させるために作製されるのがシャントですが、長年の使用や様々な要因によって血管内部が狭くなり、血液の流れが悪くなる現象が起き、シャント狭窄と呼びます。

狭窄が進行すると、透析に必要な血流量を確保できなくなるだけでなく、全身の健康状態にも悪影響を及ぼします。

シャント狭窄が起こる原因と血管壁の状態変化

シャント狭窄は、主に血管の内側が厚くなる内膜肥厚や、血管全体が硬くなる動脈硬化によって起き、透析では毎回太い針を穿刺するため、血管壁には物理的なダメージが蓄積されます。

血管は傷ついた部分を修復しようとしますが、その過程で細胞が過剰に増殖し、血管の内腔を狭めてしまうことがあり、これが内膜肥厚と呼ばれる現象であり、特に吻合部付近や穿刺を繰り返す部位で多く見られます。

また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの基礎疾患を持っている場合、血管の石灰化や動脈硬化が進行しやすくなり、硬くなった血管は柔軟性を失い、狭くなりやすいです。

一度狭窄が始まると、その部分で血液の流れが乱れ、さらに血管壁を刺激し、狭窄を加速させるという悪循環に陥ることがあります。正常な血管と狭窄が進んだ血管では、血液の流れるスピードや圧力のかかり方に大きな違いが生じるのです。

血管の状態による血流特性の違い

血管の状態血流の流れ方血管壁への負担
正常なシャント抵抗がなくスムーズに流れる圧力が均等にかかり安定している
軽度の狭窄狭い部分で流速が上がり乱れる乱流による刺激で内膜増殖が進む
高度の狭窄流量が激減し抵抗が極端に増す非常に高い圧力がかかり損傷リスク増

血流低下が進むと現れる身体的サイン

シャントの血流が低下すると、身体には目に見えるサインや体感できる症状が現れ、代表的な症状が、シャント肢の腫れや浮腫です。

血液が心臓に戻る際の通り道が狭くなっているため、腕に血液が鬱滞し、重だるさや腫れぼったさを感じることがあり、また、狭窄部位より末梢側では血行不良となり、指先が冷たく感じたり、皮膚の色が蒼白になったりすることもあります。

透析治療中においては、静脈圧の上昇が顕著なサインとなり、血液を体に戻す際の抵抗が高まるため、装置のアラームが頻繁に鳴るようになります。

さらに、十分な除水ができなくなることで、透析終了後も目標体重まで下がりきらなかったり、血圧が不安定になったりすることも、血流低下が起こす弊害です。

止血に時間がかかるようになるのも、静脈圧が高まっている証拠です。

放置することで生じる透析効率への重大なリスク

狭窄を放置し、十分な血流量が確保できない状態が続くと、透析そのものの質が低下します。

本来除去すべき尿毒素や余分な水分が体内に残り続けることになり、食欲不振、全身の倦怠感、皮膚の強いかゆみ、不眠といった尿毒症の症状が悪化します。

また、水分除去不足は心臓への負担を増大させ、心不全や肺水腫といった命に関わる合併症のリスクを高めることにつながります。

最も避けるべき事態は、狭窄が進行し血管が完全に詰まってしまう閉塞で、閉塞すると、緊急で血栓を除去する処置や、シャントを作り直す手術が必要です。

新しいシャントが使用可能になるまでの間、首や鼠径部からカテーテルを挿入して透析を行うことになり、患者さんの身体的苦痛や感染症リスクは計り知れません。

長期的に安定した透析生活を維持するためには、狭窄の兆候を見逃さず、閉塞に至る前に対処することが極めて重要です。

日常生活で気づくシャント音とスリルの変化

医療機関での定期検査はもちろん大切ですが、毎日ご自身の血管と向き合う患者さんによる観察こそが、異常の早期発見に最も貢献します。

特別な機器を使わなくとも、耳で音を聞き、指で触れて振動を確かめるだけで、血管の状態に関する多くの情報を得ることができます。

聴診器を使わずに確認できる血管の振動の意味

シャントの状態を確認する上で最も手軽かつ有効な方法は、血管に直接触れて振動(スリル)を確認することです。

正常に機能しているシャントであれば、動脈から静脈へ勢いよく血液が流れ込んでいるため、血管の上から指を軽く添えると、ザーザーという細かい振動を感じ取ることができます。

振動は、血液が滞りなく流れている証で、吻合部から少しずつ心臓側へ指を移動させ、振動が途切れていないか、強弱の変化がないかを確認します。

もし、この振動が以前に比べて弱くなっていたり、ドクンドクンという強い拍動だけを感じるようになったりした場合は警戒が必要です。

拍動が強いということは、その先で血管が狭くなり、血液がせき止められている可能性があり、振動が全く感じられない場合は、血管が詰まっている可能性が高いため、緊急の対応が求められます。

狭窄リスクを高める患者背景と要因

  • 透析治療歴が長く血管への穿刺回数が多い
  • 糖尿病の合併症により血管が脆くなっている
  • 透析中や日常生活で低血圧を頻繁に起こす
  • シャント肢を圧迫する癖や習慣がある
  • 脱水傾向にあり血液が濃縮されやすい

シャント音が高音や異常音に変化した場合の解釈

シャントに耳を近づける、あるいは聴診器を使用して血流音(シャント音)を聞くことも、非常に重要な観察ポイントです。

正常なシャント音は、低く連続したゴーゴーという音で、太い川を水が流れるような音がしますが、血管の一部が狭くなると、そこを通過する血液の流速が急激に上がり、音の高さや質が変化します。

狭窄が始まると、音は次第に高くなり、ヒューヒューという風を切るような音や、キーンという金属的な高い音に変わることがあり、これはホースの口を指でつぶすと水流が強くなり、音が高くなる現象と同じ理屈です。

音が甲高く、短く途切れるように聞こえる場合は、狭窄が進行している可能性が高いため、早めに医療機関でエコー検査などを受けてください。

音が聞こえにくくなった時の緊急度と対処

シャント音が普段よりも小さくなったり、耳を澄まさないと聞こえないほど微弱になったりした場合は、血流量が著しく低下している危険な状態です。

音がほとんど聞こえない、あるいは全く聞こえない場合は、血管内で血液が固まり、閉塞しているか、閉塞寸前の状態であることが疑われ、一刻を争う緊急事態です。

特に起床時や、汗を多くかいて脱水気味の時、血圧が下がっている時に音が弱くなる傾向があります。このような変化に気づいた際は、すぐに透析施設へ連絡し、指示を仰いでください。

早期発見であれば、血栓溶解剤やカテーテル治療で回復できる可能性が高まりますが、時間が経過すると外科的な手術が必要になることもあります。

医療機関で行う血流モニタリング検査

患者さん自身の感覚による観察に加え、医療機関ではより客観的な数値や画像データを得るために、様々なモニタリング検査を実施します。

超音波エコー検査による血管径と血流量の測定

超音波エコー検査は、痛みや放射線被曝の心配がなく、シャントの形態と機能を同時に評価できる非常に有用な検査法です。プローブを腕に当てるだけで、血管の太さ、走行、狭窄部位の深さや形状、血栓の有無などをリアルタイムで観察できます。

さらに、ドプラ機能を用いることで、実際に血管内を流れる血液の量(血流量)や流速を数値化することが可能です。

一般的に、安定した透析を行うために必要な血流量が確保できているか、狭窄部分で流速が異常に上昇していないかなどを評価します。

定期的にエコー検査を行うことで、経時的な変化をグラフのように追うことができ、狭窄の進行スピードを予測することもできます。

モニタリング検査ごとの特徴と目的

検査方法測定・観察項目患者負担得られる情報の質
超音波エコー検査血管径、血流量、狭窄部位なし非侵襲的かつ詳細な機能評価が可能
静脈圧測定透析回路内の圧力推移なし透析ごとの連続的な変化を監視できる
シャント造影検査血管全体の走行、側副血行路造影剤使用血管の形や狭窄位置を鮮明に可視化

透析中の静脈圧監視と脱血不良の確認

透析治療中も、常にシャントの機能評価は継続されていて、指標の一つが静脈圧です。

静脈圧は、透析回路を通ってきれいになった血液が体に戻る際にかかる圧力を示していて、返血側の血管に狭窄があると、血液がスムーズに戻らず、回路内の圧力が上昇します。

定期的に静脈圧の平均値を確認し、以前に比べて上昇傾向にある場合は、返血部付近の狭窄を疑います。

また、脱血不良も重要なサインで、透析器へと血液を引き出す際に、ポンプの設定流量に対して十分な量が引けなくなる現象です。

回路内の圧力が過度に低下して陰圧が強くなる場合、脱血側の血管が細くなっているか、針の位置が適切でない可能性があります。臨床工学技士や看護師はこれらの数値を常に監視し、異常があればアラーム対応とともに原因究明を行います。

シャント造影検査で見る血管の走行と狭窄部位

エコー検査での判断が難しい場合や、PTA(血管拡張術)や手術などの治療を前提とする場合には、シャント造影検査が行われます。シャント血管に造影剤を注入し、レントゲン撮影を行うことで、血管の走行や形状をくっきりと映し出す検査です。

造影検査の最大の利点は、血管の全体像を一目で把握できることです。狭窄が起きている正確な位置、狭窄区間の長さ、狭窄の程度、さらには主要な血管が詰まった際に血液が迂回して流れる側副血行路の状態まで詳細に確認できます。

ただし、造影剤アレルギーがある場合は実施できないこともあるため、事前の問診が重要です。

狭窄を予防するための生活習慣と自己管理

シャントの寿命を延ばすためには、医療者によるケアだけでなく、患者さん自身の日常生活における管理が極めて大切です。何気ない動作や習慣が血管に負担をかけ、狭窄や閉塞の原因となっていることがあります。

腕の圧迫を避けるための日常生活の工夫

シャント肢を圧迫することは、血流を遮断し、血栓形成や狭窄を招く大きな要因で、日常生活の中で無意識に腕を締め付けていないか、見直すことが大事です。

腕時計やブレスレットなどの装飾品は、シャント肢には着用しないようにし、また、買い物袋を腕にかけたり、重い鞄をシャント側の肩にかけたりすることも避けてください。

衣類の選び方にも配慮が必要で、袖口のゴムがきつい服や、締め付けの強い下着は血流を妨げます。ゆったりとしたサイズの服を選び、特に冬場の重ね着では腕周りが窮屈にならないよう注意しましょう。

寝時の姿勢も重要で、シャント肢を下にして寝てしまうと、長時間体重がかかり血流が停滞するので、抱き枕などを活用し、腕が圧迫されない楽な体勢を工夫します。

避けるべき行動と推奨される対策

生活場面血管に悪影響な行動推奨される具体的対策
外出・買い物重い荷物をシャント肢で持つリュックの使用や反対の手で持つ
就寝時シャント肢を下にして横向き寝仰向けやクッションを活用した体位
衣服選び袖口が狭くきつい服の着用伸縮性があり袖にゆとりのある服

感染症を防ぐための皮膚の清潔保持

シャント部分は、透析のたびに太い針を刺すため、細菌が侵入しやすい脆弱な状態にあります。感染を起こすと血管炎や敗血症などの重篤な状態に陥るだけでなく、感染部位の血管がダメージを受け、狭窄や閉塞の直接的な原因となります。

日頃からシャント肢、特に穿刺部位周辺の皮膚を清潔に保つことが非常に大切です。

入浴時は、石鹸をよく泡立てて優しく洗い、皮脂や汚れを落としますが、ゴシゴシと強くこすると皮膚を傷つける恐れがあるため、柔らかいタオルや素手で洗うのが良いでしょう。

また、かゆみがある場合でも、爪を立ててかきむしることは厳禁です。傷口から細菌が入り込むのを防ぐため、保湿クリームを塗って乾燥を防ぎ、かゆみをコントロールするケアを行います。

穿刺部にかさぶたがある場合は、無理に剥がさず自然に脱落するのを待ちましょう。

血圧管理と水分調整が血管に与える影響

全身の血圧管理は、シャントの状態に直結します。

血圧が低すぎるとシャント内の血流速度が落ち、血栓ができやすくなり、高血圧が続くと血管壁に常に高い圧力がかかることで、動脈硬化や内膜肥厚を進行させます。

処方された降圧薬を正しく服用し、家庭でも血圧を測定して安定した状態を保つよう努めます。

また、水分管理、つまり体重管理も欠かせません。透析間の体重増加(水分摂取量)が多いと、透析での除水量が増え、急激な血圧低下を起こしやすいです。

急激な血圧低下はシャント血流を一気に停滞させ、閉塞の引き金となることが多々あります。塩分制限を守り、水分の摂りすぎに注意することで、透析中の血圧変動を穏やかにし、シャントへの負担を減らすことができます。

シャント肢の異常を感じた際の対応と受診の目安

どんなに注意深く生活していても、シャントトラブルが突然発生することはあります。大切なのは、異常を感じた時に様子を見ようと放置せず、迅速かつ適切に行動することです。

腫れや痛みが出た場合の初期対応

シャント肢全体が急に腫れたり、特定の部分に痛みを感じたりした場合は、感染や皮下出血、あるいは静脈圧の上昇による鬱滞が考えられます。

まず、患部に熱感があるかどうかを確認します。赤く腫れて熱を持っている場合は感染の疑いがあるため、冷やしすぎない程度にタオルで包んだ保冷剤などでクーリングを行い、すぐに病院へ連絡します。

痛みが強く、ズキズキとする場合も自己判断は危険です。透析直後に穿刺部が腫れて痛む場合は、止血が不十分で皮下に出血が広がっている可能性があるので、清潔なガーゼの上から軽く圧迫し、腫れが拡大しないか確認します。

それでも痛みが治まらない、あるいは腫れがひどくなるようであれば、夜間や休日であっても医療機関に相談することが大切です。

迷わず受診すべき緊急性の高い症状

  • シャント音が完全に消失している
  • 血管に触れてもスリル(振動)を感じない
  • シャント肢が冷たく、色が青白くなっている
  • 穿刺部からの出血が圧迫しても止まらない
  • 突然の激しい痛みや強い腫れが生じた

出血や変色が起きた時の処置方法

日常生活の中で、穿刺部から再出血してしまった場合は、慌てずに清潔なタオルやガーゼで出血点をしっかりと押さえます。

この時、指先だけで点として押さえるのではなく、出血点を含めた少し広い範囲を、親指の腹を使って垂直に圧迫するのがコツです。

心臓よりも高い位置に腕を上げることで、出血を止めやすくなります。15分以上圧迫しても止まらない場合は、病院へ連絡してください。

また、シャント肢の指先が紫色や青白く変色している場合、血流が末梢まで十分に届いていない可能性があり、これはスチール症候群や血管の閉塞を示唆するサインです。

痛みや冷感、しびれを伴うことが多く、放置すると組織が壊死する恐れもあるので、変色に気づいたら、温めたりマッサージしたりする前に、まずは主治医に状態を伝え、指示を仰ぐようにしてください。

専門医に相談すべき具体的なタイミング

緊急性が高い症状以外でも、専門医に相談すべきタイミングはいくつかあります。

なんとなく音が変わった気がする、透析の針を刺すのが難しくなったと言われた、透析中の静脈圧アラームが頻繁に鳴るといった些細な変化も、狭窄が進行している重要な兆候です。

次回の定期診察まで待たず、透析施設であれば、透析を行うたびにスタッフと顔を合わせる機会があります。気になったことはその日のうちに看護師や臨床工学技士に伝えましょう。

また、自宅での血圧測定でエラーが頻発する場合も、シャント側の血流障害が影響している可能性があり、小さな違和感を医療チームと共有することが、大きなトラブルを防ぐための第一歩です。

透析効率を維持するための定期検査の重要性

シャント狭窄は徐々に進行するため、毎日の自己チェックだけでは捉えきれない微細な変化もあります。そこで重要になるのが、医療機関で定期的に行われる詳細な検査です。

定期的なエコー検査が早期発見につながる理由

定期的なシャントエコー検査は、狭窄の早期発見における要です。多くの施設では、数ヶ月に1回程度の頻度でルーチンの検査を行っていて、自覚症状が出る前の隠れた狭窄を見つけることができます。

血管の内腔がわずかに狭くなり始めていても、血流量自体は保たれている段階であれば、音や振動の変化としては現れにくいものです。

しかし、エコー画像であれば血管壁の肥厚具合や、血流速度の局所的な上昇を視覚的に捉えられます。この段階で発見できれば、PTAなどの治療を計画的に行うことができ、緊急手術やカテーテル挿入といった事態を避けることが可能です。

検査データから読み取る異常の兆候

検査データ項目数値異常が示す意味想定される医療的対応
再循環率浄化後の血液が再び吸われている穿刺位置の変更やPTAの検討
尿素窒素除去率透析による毒素除去が不十分血流量設定の見直しや機材変更
静脈圧推移返血時の抵抗が増大しているエコー検査での狭窄部位特定

血液検査データから読み取る再循環の兆候

血液検査の結果からも、シャントの状態を推測することができ、特に注目されるのが、透析効率を表す指標であるKt/Vなどの低下です。透析条件を変えていないにもかかわらず、透析効率が下がっている場合、再循環が疑われます。

再循環とは、浄化されて体に戻されたきれいな血液が、全身を巡ることなく、すぐにまた脱血側の針から吸い込まれてしまう現象です。

これは、シャント狭窄によって血流が滞り、血液が逆流したり渦を巻いたりすることで起こり、再循環が起きると、同じ血液ばかりをきれいにしていることになり、全身の浄化効率は著しく落ちます。

血液データで浄化不足の傾向が見られた場合、シャント狭窄が原因ではないかと疑い、エコー検査などで詳しく調べることが、適切な治療への近道です。

シャント狭窄に対する治療法の選択肢

検査の結果、治療が必要なレベルの狭窄が見つかった場合、いくつかの治療法が検討されます。現在は、患者さんの身体への負担が少ないカテーテル治療が主流ですが、状況によっては外科手術が選択されることもあります。

経皮的血管形成術(VAIVT)の基本と流れ

現在、シャント狭窄の第一選択となる治療法は、経皮的血管形成術(VAIVT)です。一般的にバルーン拡張術やPTAとも呼ばれ、皮膚を数ミリ切開し、そこから細い管であるカテーテルを血管内に挿入します。

カテーテルの先端には折りたたまれた風船が付いており、狭くなっている部分まで進めてから風船を高圧で膨らませ、内側から血管を押し広げます。

局所麻酔で行うことができ、治療時間も短時間で済むため、日帰りや短期間の入院で実施可能です。治療後はすぐに透析に使用できることが多く、シャントそのものを温存できるという大きなメリットがあります。

ただし、風船で血管を広げる際に血管が引き伸ばされる痛みを伴うことがあるため、鎮痛剤を使用しながら行います。

VAIVTと外科的手術の特徴比較

比較項目経皮的血管形成術(VAIVT)外科的手術(シャント再建術等)
身体への侵襲針穴程度で負担が少ない皮膚切開が必要で負担が大きい
入院期間日帰りまたは短期入院抜糸や観察のため比較的長い
シャント温存今の血管をそのまま使える新しい血管につなぎ変える

外科的手術が必要になるケースの判断基準

VAIVTは優れた治療法ですが、すべての狭窄に対応できるわけではありません。狭窄している範囲が非常に長い場合や、石灰化が強く血管が硬すぎてバルーンでは広がらない場合などは、外科的手術が必要になることがあります。

また、VAIVTを繰り返しても数ヶ月以内にすぐに狭窄が再発してしまう頻回再狭窄の症例も、手術の検討対象です。

手術には、狭くなっている部分を切除してつなぎ直す方法や、自分の血管の代わりに人工血管を移植する方法、あるいは別の場所に新しくシャントを作り直す方法などがあります。

どの方法を選択するかは、患者さんの血管の状態、心機能、年齢、生活背景などを総合的に考慮して、医師が慎重に判断します。

手術はVAIVTに比べて身体への負担は大きくなりますが、根本的な解決を図ることで、その後の通院や治療頻度を減らせる可能性があります。

治療後の再狭窄を防ぐためのアフターケア

VAIVTや手術を受けて血流が改善しても、それで終わりではなく、シャント血管は、治療による刺激や透析での使用継続により、再び狭くなる再狭窄のリスクを常に持っています。

治療後の良好な状態をできるだけ長く維持するためには、アフターケアと継続的な管理が大切です。

治療直後は、皮下出血や腫れがないかを確認し、感染予防に努め、これまで以上に日常生活での腕の保護を徹底します。また、定期的なエコー検査を継続し、再狭窄の兆候がないかを見守ります。

もし早期に再狭窄が見つかれば、完全に詰まる前に再度VAIVTを行うことで、シャントを使い続けることができます。

治療後に心がけるべき観察ポイント

  • 治療部位に新たな腫れや熱感が生じていないか
  • シャント音やスリルの強さが維持されているか
  • 処方された抗血小板薬などを忘れずに服用する
  • 次回の検査予定日を把握し確実に受診する
  • 指先の冷感やしびれが再発していないか

よくある質問

シャントの音が毎日少し違う気がしますが大丈夫でしょうか

音の聞こえ方は血圧や体調によって多少変化するため、直ちに異常とは限りません。血圧が高い時や運動直後は音が強く聞こえ、逆に血圧が低い時や脱水気味の時は弱く聞こえることがあります。

ただし、急に高音になった、音が極端に小さくなった、途切れ途切れに聞こえるといった明らかな変化が持続する場合は、狭窄や閉塞の疑いがあります。

数日間続くようであれば、次回の透析時を待たずに医療機関へ相談してください。

バルーン治療は痛いと聞きましたが本当ですか

血管を広げる際に痛みを感じることがありますが、麻酔や鎮痛剤でコントロール可能です。血管には痛みを感じる神経が通っているため、バルーンで圧力をかけて広げる瞬間に鈍痛や張り裂けるような痛みを感じる方がいます。

しかし、現在は局所麻酔を十分に行い、必要に応じて鎮静剤や鎮痛剤を使用することで、苦痛を最小限に抑える工夫がされています。

シャントを長持ちさせるために食事で気をつけることはありますか

動脈硬化を防ぐ食事と適切な水分管理がシャントの寿命を延ばします。直接的にシャントを強くする食べ物はありませんが、血管の大敵である動脈硬化を進行させないことが重要です。

塩分を控えて高血圧を防ぎ、リンやカリウムの管理を徹底して血管の石灰化を予防することが、シャントを守ることにつながります。

また、透析間の体重増加を適切に抑えることで、急激な血圧低下によるシャント閉塞のリスクを減らすことができます。

一度狭窄を治療すればもう安心ですか

残念ながら再発する可能性があるため、治療後も継続的なチェックが必要です。シャント血管は透析で使用し続ける限り、常に負担がかかっています。

バルーン治療で広げた場所は、血管の修復反応によって再び組織が増殖し、狭くなりやすい傾向があります。

治療は修理であって新品交換ではないため、定期的なモニタリングと日々の自己管理を続け、再狭窄の兆候を早期に捉えていくことが、長くシャントを使い続ける秘訣です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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