特別養護老人ホーム(特養)に入所中にご家族の病状が進行したり、予期せぬ病気によって医療処置が必要になったりした際、十分な医療ケアが受けらるのかと不安を抱く方は非常に多くいらっしゃいます。
特養は生活施設であるため、病院のような常時の医療体制は整っていませが、そこで注目されるのが、外部の訪問看護サービスの活用です。
本記事では、特養で訪問看護を利用するための複雑な条件、医療保険が適用される特例、導入によるメリット、そして実際に利用を開始するための手順について、制度の背景から実践的なノウハウまでを解説します。
特別養護老人ホームの医療体制と訪問看護導入の壁
特別養護老人ホーム(特養)は、介護保険制度上、介護老人福祉施設と位置づけられており、あくまで生活の場であることが前提です。
しかし、近年の入所者の重度化や医療ニーズの高まりにより、施設内で提供されるべきケアの範囲と、実際に提供できる医療的ケアのギャップが課題となっています。
特養における看護師の役割と配置基準の限界
特養には、法令により看護職員の配置が義務付けられていて、入所定員100名の施設であれば、常勤換算で3名以上の看護職員を配置することが標準的な基準です。
しかし、この配置基準には限界もあり、多くの施設では、夜間の看護職員配置が義務付けられておらず、夜間は介護職員のみが常駐し、看護師は自宅等でのオンコール(電話待機)体制をとっていることが一般的です。
そのため、夜間に痰の吸引が頻回に必要な場合や、急変時の即座な医療処置が必要な場合、施設スタッフだけでは対応しきれないという現実があります。
また、日中であっても、少人数の看護師で多数の入所者を見守るため、一人の入所者に長時間つきっきりで処置を行うことは業務遂行上、非常に困難な状況にあります。
こうした施設側のリソース不足を補うために外部サービスを利用したいと考えるのは自然な流れですが、そこには介護保険制度特有のルールが立ちはだかります。
高齢者施設ごとの医療・看護体制の比較
| 施設種別 | 看護師の配置基準 | 夜間の体制 | 医療的ケアの許容範囲 |
| 特別養護老人ホーム(特養) | 入所者100名に対し3名以上 | オンコール対応が主流(義務なし) | 日常的な健康管理が中心 |
| 介護老人保健施設(老健) | 入所者100名に対し9名以上 | 看護師の夜勤配置が必須 | 在宅復帰に向けた医療ケアが可能 |
| 介護医療院 | 老健よりも手厚い配置 | 医師・看護師が24時間常駐 | 長期療養と高度医療に対応 |
マルメと呼ばれる包括報酬制度の壁
特養で外部の訪問看護を利用する際の最大の障壁となるのが、介護報酬における包括報酬(マルメ)という考え方です。
特養の施設サービス費には、住居や介護にかかる費用だけでなく、施設内で行われる一般的な医療処置や看護にかかる費用もあらかじめ含まれています。
このため、通常の状態である入所者に対して、外部の訪問看護ステーションが訪問し、介護保険や医療保険を使ってサービスを提供することはサービスの重複にあたり、原則として認められません。
もし外部の訪問看護を利用したいのであれば、保険適用外(全額自己負担)となってしまい、現実的な費用負担ではなくなってしまいます。
しかし、入所者の生命を守るため、あるいは著しい苦痛を緩和するために、施設の機能を超えた専門的なケアが必要だと国が認めた場合に限り、包括報酬の枠を超えて医療保険を適用できる道が残されています。
ユニット型と従来型によるケア環境の違い
特養の建物構造やケアの提供体制には、従来型(多床室)とユニット型(個室)の2種類があり、制度上の訪問看護利用のルールはどちらも同じですが、実際に外部サービスを受け入れる際の物理的・心理的環境には差が生じることがあります。
ユニット型は、10名前後を一つの生活単位(ユニット)とし、全室個室でプライバシーが守られた環境です。外部の看護師が出入りしても他の入所者の目に触れにくく、マンツーマンでの処置や家族を交えた説明が行いやすいという利点があります。
従来型は4人部屋などが中心であり、ベッドサイドでの処置中に他の入所者への配慮が必要になるなど、環境調整に工夫が必要です。
特例1 末期の悪性腫瘍(がん)における訪問看護利用
原則利用不可の特養における訪問看護ですが、最も利用頻度が高く、かつ緊急性が高いのが末期の悪性腫瘍(がん)と診断されたケースです。
厚生労働大臣は末期がんの患者さんに対して、特養入所中であっても医療保険による訪問看護の利用を認めています。
末期の定義と医師による診断の重み
ここで言う末期の悪性腫瘍とは、単にがんであるというだけでなく、医師が治癒を望めない状態であり、概ね余命が6ヶ月程度以内と判断した場合です。
診断が下されると、医師から訪問看護ステーションに対して訪問看護指示書が発行され、指示書における病名や状態の記載が、医療保険適用の根拠となります。
特養に入所している高齢者の場合、がんの積極的治療(手術や抗がん剤治療など)を希望せず、苦痛の緩和(緩和ケア)を中心とした療養方針を選択することが多くあります。
このようなフェーズに入ると、日々の病状変化が激しくなり、痛みや呼吸困難などの症状コントロールが非常に重要です。
施設の看護師だけでは、頻繁な鎮痛剤の調整や、夜間の突発的な痛みの訴えに対応しきれない場合があるため、緩和ケアの専門知識を持つ訪問看護師の介入が強く推奨されます。
緩和ケア(パリアティブケア)の具体的実践
末期がんの利用者に対して訪問看護師が行うケアは、身体的な苦痛の除去だけにとどまりません。医師の指示に基づいた麻薬(モルヒネなど)の持続点滴管理、座薬によるレスキュー対応、リンパ浮腫のケア、口腔ケアなども行われます。
また、死期が近づくと、訪問看護師は、ケアの時間を通じてご本人の話に耳を傾け、手を握り、そばにいることで安心感を提供します。
こうした精神的ケアは、忙しい施設業務の合間には十分に行えないことも多く、外部の看護師が時間を確保して関わることの大きな意義です。
さらに、ご家族に対しても、これから起こりうる身体の変化や、お別れの時に向けた心の準備について丁寧に説明を行い、後悔のない看取りができるよう支えます。
末期がん患者さんに対して行われる主な看護ケア
| ケアカテゴリー | 具体的な処置・対応内容 | 期待される効果 |
| 疼痛・症状コントロール | 医療用麻薬の管理、鎮痛剤の調整、酸素投与 | 安楽な時間を増やし、QOLを維持する |
| 日常生活援助 | 清拭、洗髪、安楽な体位への変換、排泄介助 | 清潔保持とリフレッシュ、褥瘡予防 |
| 精神的サポート | 傾聴、タッチング、不安の表出支援 | 孤独感の軽減、精神的安定 |
特例2 難病および厚生労働大臣が定める疾病等の特例
末期がんと並んで、医療保険での訪問看護利用が認められる重要なカテゴリーが、難病などの特定の疾病(厚生労働大臣が定める疾病等)です。
別表7と呼ばれるリストに該当する疾患を持っている場合、特養入所中であっても医療保険の対象となります。
対象となる主な疾患と別表7の理解
別表7には、主に難病指定を受けている疾患や、重度の障害を伴う状態が含まれます。
代表的なものは、多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、進行性筋ジストロフィー症、パーキンソン病関連疾患などです。
また、頚髄損傷や人工呼吸器を使用している状態もこれに含まれます。
このような病気は、年単位、月単位で身体機能が低下していくことが多く、嚥下機能障害や呼吸障害を併発するリスクが高まります。
例えばALSの患者さんの場合、病状が進行すると自発呼吸が困難になり、人工呼吸器の装着が必要になることがあります。
人工呼吸器の管理や、頻回な気管内吸引は、24時間体制での見守りと専門的なスキルを要するため、施設のスタッフに加え、訪問看護師による定期的なチェックとケアが不可欠となるのです。
進行性疾患に対する専門的アプローチ
難病患者さんへのケアは、単に生命を維持するだけでなく、残された機能を最大限に活用し、その人らしい生活を維持するためのリハビリテーション的な視点も重要です。
訪問看護師は、理学療法士や作業療法士とも連携しながら、拘縮予防のためのマッサージや可動域訓練、コミュニケーションツールの導入支援なども行います。
また、神経難病の患者様は、意識は清明であるにもかかわらず体が動かないことへのストレスや、将来への不安を強く抱えています。
訪問看護師は、病気特有の苦しみを理解した上で、患者さんの言葉にならない訴えを汲み取り、安楽な姿勢の工夫や、食事形態の調整など、きめ細やかな生活支援を提案します。
別表7に含まれる代表的な疾病とケアのポイント
| 疾患名 | 主な症状・特徴 | 訪問看護に求められる役割 |
| 筋萎縮性側索硬化症(ALS) | 全身の筋力低下、呼吸筋麻痺 | 呼吸器管理、吸引、コミュニケーション支援 |
| パーキンソン病(重度) | 振戦、固縮、姿勢反射障害 | 服薬調整の助言、転倒予防、嚥下ケア |
| 脊髄小脳変性症 | 運動失調、構音障害、嚥下障害 | 転倒リスク管理、リハビリ、食事環境調整 |
| 人工呼吸器装着者 | 自発呼吸困難 | 回路交換、機器設定確認、トラブル対応 |
気管カニューレや経管栄養の管理
難病が進行すると、口から食事をとることが難しくなり、胃ろうや経鼻経管栄養を造設するケースが増え、また、誤嚥性肺炎を繰り返すことで気管切開を行い、カニューレ(管)を留置することもあります。
訪問看護師は、カニューレの定期的な交換や、刺入部(皮膚に管が入っている部分)の皮膚状態の観察、消毒処置を行い、胃ろうの場合も、ろう孔周囲のスキントラブル(ただれや肉芽形成)がないかを確認し、適切な処置を行います。
施設職員だけでは判断に迷うような皮膚の変化や、軽微なトラブルの兆候を早期に発見し、重症化する前に医師に報告して対応策を講じることで、入院リスクを大幅に下げることが可能です。
特例3 急性増悪等による特別訪問看護指示書の活用
がんでも難病でもないけれど、急に具合が悪くなったという場合にも、特養で訪問看護を利用できる道があり、それが特別訪問看護指示書の発行による一時的な利用です。
特別訪問看護指示書が発行される条件と期間
主治医が急性増悪等により一時的に頻回な訪問看護が必要であると判断した場合、通常の指示書とは別に特別訪問看護指示書を発行します。
指示書が発行されると、発効日から14日間に限り、医療保険を使って訪問看護を利用することができ、この期間中は、介護保険ではなく医療保険が優先されるため、特養の包括報酬のルールに関わらず介入が可能です。
特別訪問看護指示書は、原則として月に1回のみ発行可能ですが、気管カニューレを使用している状態や真皮を超える褥瘡がある状態など、特定の条件を満たす場合には月に2回まで発行できる例外規定もあります。
この制度をうまく活用することで、体調を崩した際にすぐに入院させるのではなく、慣れ親しんだ施設で集中的な治療やケアを行い、回復を目指すことができます。
14日間で集中して行う医療的介入
特別訪問看護指示書が出ている期間は、文字通り集中ケア期間となり、通常は週に数回の訪問であっても、この期間中は毎日、あるいは必要に応じて1日に複数回の訪問が可能です。
例えば、肺炎で高熱が出て食事が摂れない場合、朝と夕方に訪問して点滴を行い、脱水を防ぎながら抗生剤を投与するといった対応がとられます。
また、重度の褥瘡(床ずれ)が悪化してしまった場合にも、指示書が活用され、壊死組織の除去や、特殊な被覆材の使用、体位変換の指導などを連日行い、短期間で一気に治癒に向けた環境を整えます。
急性増悪時に想定されるタイムライン例(肺炎の場合)
| 経過日数 | 患者の状態 | 訪問看護師の主なアクション |
| 1日目(発症) | 高熱、酸素飽和度低下 | 特別指示書発行依頼、点滴ルート確保、抗生剤開始 |
| 2〜5日目 | 食欲不振、咳嗽強い | 連日の点滴(補液・抗生剤)、頻回な喀痰吸引、肺理学療法 |
| 6〜10日目 | 解熱傾向、経口摂取開始 | 点滴終了、食事介助の評価、バイタル観察継続 |
| 11〜14日目 | 回復期 | 全身状態の最終評価、通常ケアへの移行準備 |
施設での看取り(ターミナルケア)への移行
急性増悪を経て回復する場合もあれば、そのまま老衰や病状の進行により、お看取りの段階へ移行することもあります。
特別訪問看護指示書は、このような回復するのか、看取りになるのかという瀬戸際の状態において、強力な支援ツールです。
もし回復が難しいと判断された場合は、末期の悪性腫瘍や難病に該当しなければ医療保険の継続利用は難しくなりますが、看取りの直前(死亡日前後)にはターミナルケア加算や看取り看護加算などの枠組みで対応する方法も検討されます。
費用構造の理解と経済的な注意点
特養で訪問看護を利用する場合の費用は、全て医療保険の適用となりますが、介護保険の訪問看護とは計算方法や負担割合が異なるため、事前のシミュレーションが重要です。
医療保険の自己負担割合と算定項目
費用は、国民健康保険や後期高齢者医療保険などの公的医療保険を使って支払い、自己負担割合は年齢や所得によって決まっています。
- **1割負担:**75歳以上の一般所得者
- **2割負担:**75歳以上の一定以上所得者、または70歳〜74歳の一般所得者
- **3割負担:**現役並み所得者(70歳以上でも該当する場合あり)、または70歳未満の方
料金は基本療養費(訪問すること自体の料金)と管理療養費(計画作成や管理の料金)に加えて、加算がつきます。
特養への訪問の場合、同一建物に複数の利用者がいる場合などは減算される規定もありますが、基本的には週3日訪問看護に入った場合、1ヶ月で数万円といった単位で費用が発生します。
高額療養費制度による上限設定
医療費が高額になった場合のセーフティネットとして高額療養費制度があり、1ヶ月(1日〜末日)にかかった医療費の自己負担額が、所得に応じた一定の上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。
後期高齢者(75歳以上)の一般所得区分の方であれば、外来(在宅医療含む)の上限額は月額18,000円(年間上限144,000円)といった設定があります(※制度改正により変動するため最新情報の確認が必要)。
訪問看護以外にも、病院への通院や薬局での薬代なども合算できるため、これらを合計して上限を超えれば、それ以上の負担は実質発生しません。
長期的に訪問看護を利用する場合は、必ず限度額適用認定証を申請し、ステーションに提示することで、窓口での支払いを最初から上限額までに抑えることができます。
自己負担額の目安(所得区分による月額上限例)
| 所得区分 | 自己負担の上限額(目安) | 備考 |
| 現役並み所得者 | 約80,000円〜 + α | 年収約370万円以上 |
| 一般所得者(75歳以上) | 18,000円(個人ごと) | 年金収入等 |
| 低所得者Ⅱ(住民税非課税) | 8,000円 | 世帯全員が非課税 |
| 低所得者Ⅰ(年金収入80万円以下等) | 8,000円 | さらに所得が低い世帯 |
保険外費用の発生(交通費など)
意外と見落としがちなのが、保険適用外の費用で、最も一般的なのが交通費です。訪問看護ステーションの規定により、訪問1回につき数百円〜の交通費を請求される場合があります。
また、お亡くなりになった後のエンゼルケア(死後の処置)は医療保険の対象外となり、5,000円〜15,000円程度の自費料金が設定されていることが一般的です。
契約の際には、重要事項説明書をよく読み、保険外でどのような費用がかかるのかを確認しておきましょう。
連携の要となるプロセスと関係構築
特養での訪問看護利用を成功させる鍵は、関係者間の密接な連携にあります。利用者一人を中心として、施設スタッフ、訪問看護師、主治医、そして家族がチームとして機能しなければ、良いケアは提供できません。
施設側との調整と合意形成
訪問看護の利用を希望する場合、最初に相談すべきは施設の生活相談員やケアマネジャーですが、施設によっては外部サービスを入れる前例がない、管理が煩雑になるといった理由で難色を示すこともあります。
ご家族は、以下のポイントを伝えて説得を試みることが重要です。
- なぜ訪問看護が必要なのか(医師の判断や家族の強い希望)。
- 費用は家族が負担すること。
- 施設スタッフの指示に従い、業務の邪魔をしないこと。
- 緊急時の対応力が上がり、施設側のメリットにもなること。
施設側が利用者のためになるならと合意してくれれば、導入準備に入ります。この段階で、施設看護師と訪問看護師が直接話し合う場(顔合わせ)を設けることが理想的です。
役割分担の明確化(誰が何をやるか)
トラブルの元になりやすいのが、誰がやると思ったという思い込みによる処置の漏れや重複です。これを防ぐために、事前に詳細な役割分担表を作成することが推奨されます。
朝の薬は施設職員、昼の点滴は訪問看護師、入浴介助は施設、入浴後の褥瘡処置は訪問看護師といった具合です。
また、物品の管理についても取り決めが必要で、訪問看護で使うガーゼや点滴セット、注射器などは誰が用意しどこに保管するのか、医療廃棄物は誰が持ち帰るのか、運用ルールをあらかじめ決めておくことで、現場の混乱を防ぐことができます。
関係機関の主な役割と連携内容
| 担当機関 | 主な役割 | 連携における注意点 |
| 特養(施設) | 日常生活支援、基本情報の提供 | 日々の変化を訪問看護へ確実に伝達する |
| 訪問看護ST | 専門的医療処置、医師との連携 | 処置後の経過や注意点を施設へフィードバックする |
| 主治医 | 指示書発行、医学的判断 | 双方からの報告を統合し、治療方針を決定する |
| ご家族 | 意思決定、費用負担 | キーパーソンとしての方針統一 |
ICTツールの活用と情報共有の効率化
近年では、多職種連携専用のICTツール(MCS(メディカルケアステーション)などの医療介護専用SNS)を導入するケースが増えていて、電話やFAXを使わなくても、スマホやタブレットでリアルタイムに情報を共有できます。
訪問看護師が処置した患部の写真をアップロードし、主治医と施設看護師がそれを確認するといった使い方が可能です。ご家族もこのグループに参加できる設定にすれば、離れていてもケアの状況が手に取るように分かり、安心感が倍増します。
利用開始までの完全ガイド(ステップ別)
最後に、実際に特養で訪問看護を利用開始するための具体的な手順をステップ形式で整理します。これから動き出すご家族にとってのロードマップとしてご活用ください。
1. 施設および主治医への相談・確認
まずは、特養の相談員に訪問看護を入れたいと相談すると同時に、主治医に対し今の病状で訪問看護指示書を書いてもらえるか、医療保険の適用要件(末期がんや難病等)を満たしているかを確認します。
2. 訪問看護ステーションの選定・依頼
施設に出入り可能な訪問看護ステーションを探す時は、施設から紹介されることもあれば、ご家族が地域で探すこともあります。選ぶ際は、がんの緩和ケアが得意、難病の経験が豊富、施設の近くにあるなどの条件を加味して数社を比較します。
必ず担当者と面談し、施設のルールを守れるか、柔軟な対応ができるかを確認しましょう。
ステーション選定時に確認すべき重要項目リスト
- 24時間対応体制加算を算定しているか(夜間対応の可否)。
- 特養への訪問実績があるか(施設の勝手を理解しているか)。
- 医師との連携実績や、信頼関係があるか。
- 土日祝日の定期訪問が可能か。
- 看取り(ターミナルケア)の対応実績数。
3. 書類の手配と契約手続き
利用するステーションが決まったら、主治医に正式に訪問看護指示書の発行を依頼し(通常はステーションから医師へ依頼書を送ります)、ご家族とステーションの間で利用契約を結びます。
その時、重要事項説明書、個人情報使用同意書などの説明を受け、署名捺印します。
4. 担当者会議(サービス担当者会議)の開催
サービス開始前に、施設スタッフ、ケアマネジャー、訪問看護師、ご家族(可能なら本人も)が集まり、担当者会議を開きます。
ここでケアプランの中に訪問看護の位置づけを明確にし、具体的な訪問曜日、時間、処置内容、緊急時の連絡ルートを最終決定します。
5. 利用開始とモニタリング
いよいよ訪問看護がスタートしますが、最初のうちは、施設スタッフも訪問看護師もお互いに手探りの部分があるかもしれません。ご家族は、定期的に報告を受け、何か問題があればすぐにケアマネジャーや責任者に相談して調整を行います。
状況に合わせて訪問回数を増減させながら、最適なケア体制を作り上げていきます。
よくある質問
ここでは、特養での訪問看護利用について、ご家族やケアマネジャーから寄せられる質問にお答えします。
- 医療保険ではなく介護保険で利用できる例外はありませんか?
-
特養に入所している間は、いかなる場合でも介護保険を使った訪問看護は利用できません。これは法律で定められた給付調整のルールです。
利用する場合は必ず医療保険となり、適用要件(末期がん、難病、特別指示書など)を満たす必要があります。
- 施設が提携しているステーション以外を使うことはできますか?
-
制度上は、利用者が自由に訪問看護ステーションを選ぶ権利がありますので、提携外のステーションを利用することは可能です。
しかし、現実的な運用としては、施設の構造やルール、スタッフとの連携のしやすさを考慮し、施設が推奨するステーションを利用した方がスムーズに進むことが多いです。
どうしても別のステーションを使いたい(例えば、入所前から付き合いがあり信頼している等)場合は、施設側によく事情を説明し、協力体制が築けるかを確認する必要があります。
- 訪問看護師は、入浴介助や食事介助もしてくれますか?
-
医療保険での訪問看護は、基本的に医療的処置やそのための観察・管理が主目的となり、単なる保清(体を洗うこと)や食事介助のみを目的とした訪問は認められにくい傾向にあります。
ただし、状態観察を兼ねて清拭を行ったり、嚥下機能を評価しながら食事介助を行ったりすることは、看護業務の一環として可能です。あくまで医療的な必要性に基づいたケアであることが前提となります。
- 特養のショートステイ利用中も訪問看護は使えますか?
-
ショートステイ(短期入所生活介護)利用中の場合も、基本的には特養入所中と同じルールが適用されます。
原則としては利用できませんが、末期の悪性腫瘍や特別訪問看護指示書が出ている場合などに限り、医療保険での訪問看護が利用可能です。
ただし、ショートステイは在宅扱いですので、条件によっては介護保険での利用ができる例外も一部ありますが、非常に複雑なため、必ずケアマネジャーに詳細を確認してください。
以上
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