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とびひの治療期間はどのくらい?早く治すためのポイントと完治までの流れ

お子さんの体に水ぶくれやじゅくじゅくした発疹が広がり、とびひ(伝染性膿痂疹)と診断されると、多くの方が、どのくらいで治るのか、いつから登園・登校できるのか、と不安に感じるでしょう。

とびひは、適切な治療とご家庭でのケアを行えば、多くの場合1週間から10日ほどで治癒に向かいます。

この記事では、とびひが治るまでの期間の目安、皮膚科での治療の流れ、治療期間を短縮し早く治すための重要なポイントを詳しく解説します。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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目次

とびひとは?主な症状と原因

とびひは、夏場にお子さんを中心によく見られる皮膚の感染症です。特徴的な広がり方から、とびひと呼ばれますが、正式な病名は伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)といいます。

とびひ(伝染性膿痂疹)の正体

とびひの直接的な原因は、細菌の感染で、主に黄色ブドウ球菌やA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)といった細菌が、皮膚の小さな傷口から入り込むことで発症します。

皮膚には、普段から常在菌が存在することがありますが、皮膚のバリア機能が正常であれば問題は起こりませんが、何らかの理由で皮膚が傷つくと、そこから菌が侵入し、感染症を起こします。

特に、あせもや虫刺され、湿疹などを掻き壊した傷は、菌の絶好の入り口です。

体力や免疫力がまだ十分に発達していないお子さんに多い病気ですが、大人の場合も、アトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下している場合や、疲労が溜まっている場合には発症することがあります。

とびひになりやすい状況

  • あせも、虫刺され、湿疹、アトピー性皮膚炎
  • すり傷、切り傷などの外傷
  • 鼻の穴をいじる癖(鼻の入り口は菌の温床)
  • 皮膚のバリア機能が低下している状態

主な症状の見分け方

とびひには、原因となる細菌や症状の出方によって、大きく二つのタイプがあります。水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)と痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)です。

水疱性膿痂疹は、とびひの多くを占めるタイプで、主に黄色ブドウ球菌が原因で、最初は小さな赤い点や水ぶくれ(水疱)として現れます。水ぶくれは破れやすく、破れると皮膚がめくれて、じゅくじゅくした赤い面(びらん)が露出します。

かゆみを伴うことが多く、この水ぶくれやびらん面を触った手で他の場所を掻くと、そこに新たな水ぶくれができて広がっていきます。

痂皮性膿痂疹は、主にA群β溶血性レンサ球菌が原因で、水ぶくれを作らず、最初にできた赤い発疹が膿を持つようになり(膿疱)、それが破れて厚いかさぶた(痂皮)を形成するのが特徴です。

かゆみよりも痛みを伴うことが多く、発熱やリンパ節の腫れなど、全身の症状が出ることもあります。

水疱性膿痂疹と痂皮性膿痂疹の比較

種類主な原因菌症状の特徴
水疱性膿痂疹(水ぶくれタイプ)黄色ブドウ球菌薄い膜の水ぶくれ、破れてじゅくじゅくする。かゆみを伴うことが多い。
痂皮性膿痂疹(かさぶたタイプ)A群β溶血性レンサ球菌膿を含んだ発疹から厚いかさぶたになる。痛みを伴い、発熱することもある。

なぜ、とびひと呼ばれるの?

とびひと呼ばれる理由は、特徴的な広がり方にあります。水疱性膿痂疹の場合、水ぶくれが破れて出てくる浸出液には、原因となる細菌が大量に含まれています。

お子さんがかゆみのために患部を掻き、その手で体の別の場所を触ると、まるで火事の飛び火のように、あっという間に感染が広がってしまい、この名前が付けられました。

特に夏場は汗をかきやすく、皮膚がふやけてバリア機能が低下しやすいため、菌の増殖と感染拡大が起こりやすい季節です。

とびひの治療期間は平均どのくらい?

とびひの治療を開始するにあたり、保護者の方が最も知りたいのは、とびひが治るまでの期間でしょう。治療期間の目安を知ることは、ご家庭でのケアや登園・登校の計画を立てる上で重要です。

一般的な治療期間の目安

とびひの治療は、原因となっている細菌を退治する抗菌薬(抗生物質)の使用が基本です。

皮膚科で診断を受け、処方された抗菌薬の塗り薬や飲み薬による治療を速やかに開始した場合、多くは治療開始から2~3日で新しい発疹が出るのが止まり、じゅくじゅくしていた部分が乾燥し始めます。

その後も指示通りに治療を続けることで、症状は順調に改善に向かい、治療開始から約5日~1週間で患部はかなり乾燥し、かさぶたが中心となります。全体の治療期間としては、1週間から10日ほどで完治するケースが最も多いです。

水疱性(水ぶくれ)と痂皮性(かさぶた)での期間の違い

二つのタイプ(水疱性・痂皮性)で、治るまでの期間に少し差が出ることがあります。

水疱性膿痂疹(黄色ブドウ球菌)は、症状が広範囲でなければ、塗り薬(外用抗菌薬)だけでも比較的速やかに改善する傾向があります。ただし、広範囲に広がっている場合は、飲み薬(内服抗菌薬)を併用します。

痂皮性膿痂疹(レンサ球菌)の場合は、皮膚の症状だけでなく、体内で菌が増殖している可能性が高いと判断し、ほぼ全例で飲み薬(内服抗菌薬)による治療が必要です。

このタイプの菌は、まれに治療が不十分だと急性糸球体腎炎という腎臓の合併症を起こすことがあります。

皮膚の症状が良くなった後も、合併症予防の目的で、処方された抗菌薬を一定期間(例えば10日間など)しっかりと飲み切ることが非常に重要です。痂皮性の方が水疱性よりも治療期間が少し長くなる(約10日~14日)傾向にあります。

とびひの種類別 治療期間の目安

種類主な治療法治癒までの目安
水疱性膿痂疹外用抗菌薬(軽度)、内服抗菌薬(広範囲)約1週間~10日
痂皮性膿痂疹内服抗菌薬(必須)約10日~14日(症状改善後も飲み切る)

治療が長引くケースとは?

治療を開始してもなかなか治らない、あるいは治療期間が長引いてしまう場合には、いくつかの理由が考えられ、最も多いのは、かゆみに負けて患部を掻き壊し続け、感染が次々と広がってしまうケースです。

また、処方された抗菌薬が効きにくい薬剤耐性菌(MRSAなど)が原因である可能性も考慮します。アトピー性皮膚炎などの基礎疾患があり、皮膚のバリア機能が慢性的に低下している場合も、治癒までに時間がかかることがあります。

さらに、症状が少し良くなったからといって、保護者の方の判断で薬の使用(特に飲み薬)を中断してしまうと、生き残った菌が再び増殖し、症状がぶり返すことがあり、治療期間を長引かせる大きな原因の一つです。

皮膚科で行う、とびひ治療の流れ

とびひの治療を求めて皮膚科を受診した場合、どのような診察と治療が行われるのでしょうか。診断から完治の判断までの一般的な流れを知っておくと、安心して治療に臨むことができます。

皮膚科受診の目安

  • 体に水ぶくれができ、それが破れてじゅくじゅくしている
  • かゆみの強い発疹が、体のあちこちに広がっていく
  • 厚いかさぶたを伴う発疹ができた
  • 家族(特に子供)がとびひと診断された

診断(視診と検査)

まず、医師が患者さんの皮膚の状態を詳しく観察し、どのような発疹(水ぶくれか、かさぶたか)が、体のどこに、どの程度広がっているかを確認します。典型的なとびひの症状であれば、多くの場合、視診だけで診断がつきます。

ただし、症状が非定型的である場合や、治療が長引いている場合、あるいは痂皮性膿痂疹が疑われる場合には、原因菌を正確に特定するために検査を行うことがあります。

患部の浸出液や膿を綿棒でこすり取り、培養して菌の種類を調べる細菌培養検査や、どの抗菌薬が効くかを調べる薬剤感受性検査を行い、結果が出るまでには数日かかります。

治療方針の決定(処方)

診断と検査結果(あるいは視診による推定)に基づき、治療方針を決定し、とびひ治療の柱は、原因菌をたたく抗菌薬です。

症状が軽く、範囲も狭い水疱性膿痂疹であれば、抗菌薬の塗り薬(外用薬)のみで治療を開始します。

発疹が広範囲に及ぶ場合、かゆみが非常に強い場合、あるいは痂皮性膿痂疹(レンサ球菌疑い)の場合は、抗菌薬の飲み薬(内服薬)を処方します。

また、とびひは強いかゆみを伴うことが多いため、掻き壊しを防ぐ目的で、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬の飲み薬も併せて処方することが一般的です。

主な治療薬の種類

薬剤の種類使用目的具体例(成分名など)
外用抗菌薬(塗り薬)患部の細菌増殖を直接抑えるフシジン酸ナトリウム、ムピロシン、ナジフロキサシンなど
内服抗菌薬(飲み薬)体の中から細菌を攻撃する(広範囲・重症・痂皮性)セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系など
抗ヒスタミン薬(飲み薬)強いかゆみを抑え、掻き壊しを防ぐフェキソフェナジン、ロラタジン、セチリジンなど

処置とスキンケア指導

クリニックでは、必要に応じて患部の処置を行うことがあり、大きな水ぶくれがあれば、清潔な針で内容液を排出したり、古いかさぶたを除去したりすることもあります(医師の判断によります)。

最も重要なのは、ご家庭での正しいスキンケア方法の指導で、とびひの治療では、薬を塗るだけではなく、患部をいかに清潔に保つかが治癒への鍵です。

経過観察と完治の判断

治療開始後は、医師の指示に従って通院し、経過を診てもらい、治療が順調に進んでいるか、薬が効いているか、副作用は出ていないかなどを確認します。

完治の判断は、自己判断ではなく、必ず医師が行います。新しい発疹が出なくなり、じゅくじゅくしていた部分が完全に乾燥し、かさぶたが自然に取れてきれいな皮膚に戻った状態をもって完治とします。

痂皮性膿痂疹の場合は、皮膚がきれいになっても、合併症予防のために飲み薬を最後まで続けるよう指示され、医師が、もう大丈夫です、と言うまでが、とびひ治療の期間です。

とびひを早く治すための5つの重要ポイント

とびひが治る期間をできるだけ短くし、早く治すためには、皮膚科での治療と並行して、ご家庭でのケアが非常に重要です。医師の指示を守り、以下の5つのポイントを徹底することが、早期治癒への近道となります。

ポイント1 患部を清潔に保つ(洗い方)

とびひの患部は、一見痛々しく触るのが怖いかもしれませんが、細菌や浸出液を洗い流すことが治療の第一歩です。

入浴時は、抗菌成分の入っていない普通の石鹸(低刺激性のもの)をしっかりと泡立て、その泡で、患部をゴシゴシこするのではなく、泡をクッションにして優しくなでるように洗います。

その後、シャワーで泡が残らないよう、十分に洗い流し、洗った後は、清潔なタオルで軽く押さえるようにして水分を拭き取ってください。

ポイント2 処方された薬を正しく使う

医師から処方された薬は、指示された用法・用量を厳密に守ってください。特に抗菌薬の飲み薬は、症状が改善してきたように見えても、処方された日数分を必ず飲み切ることが大切です。

途中でやめると、生き残った菌が再び増殖してぶり返したり、薬の効かない耐性菌が生まれる原因になったりします。

塗り薬も、清潔な手で、患部よりも少し広めの範囲に優しく塗布し、すり込むのではなく、皮膚の上にそっと置くようなイメージで塗ると良いでしょう。

塗り薬の正しい塗り方

  • 薬を塗る前と後に、手をしっかり洗う
  • 患部を清潔にした後(入浴後など)に塗る
  • 患部だけでなく、その周囲(赤みがある部分など)にも広めに塗る
  • チューブから直接塗らず、清潔な綿棒や指先に適量を取って塗る

ポイント3 患部を掻かない・触らない

とびひの治療期間を長引かせる最大の敵は掻き壊しです。かゆくても絶対に掻かない、触らないことを徹底します。掻くことで皮膚のバリアがさらに壊れ、浸出液に含まれる菌が爪や指を介して他の場所へ運ばれ、まさに飛び火してしまいます。

お子さんの場合は、爪を短く切り、丸く整えておくことが重要です。夜間など無意識に掻いてしまう場合は、患部をガーゼで覆ったり、かゆみが強いことを医師に伝えて抗ヒスタミン薬を処方してもらったりするなどの対策をしましょう。

ポイント4 患部の適切な保護

患部を掻かないようにするため、また、浸出液が他の場所や衣類につかないようにするために、患部を保護することが推奨され、塗り薬を塗った後、通気性の良いガーゼで患部を覆い、テープや包帯で固定します。

ただし、テープでかぶれることもあるため、皮膚の状態を見ながら行うことが大事です。

注意点として、絆創膏などで密封(密閉)してしまうと、かえって菌が増殖しやすい環境を作ってしまうことがあります。どのように保護するのが良いか、医師や看護師の指導に従ってください。

じゅくじゅくが乾いてかさぶたになってきたら、無理に覆う必要はありません。

ポイント5 タオルや衣類の共用を避ける

とびひは、患部や浸出液に触れることで他人にうつる接触感染の病気なので、家族内での感染を防ぐため、とびひが治るまでは、感染対策を徹底することが必要です。

タオルやバスタオルは、患者さん専用のものを用意し、絶対に共用しないでください。使用後のタオルは毎日交換し、洗濯し、また、衣類や寝具もこまめに洗濯し、日光でよく乾かすと殺菌効果が期待できます。

洗濯物自体を家族と分ける必要まではありませんが、洗濯前後に手洗いをしっかり行うことが大切です。

家庭内感染予防のチェックリスト

項目具体的な対策目的
タオル・バスタオル個人専用にし、毎日交換するタオルの湿気を介した菌の伝播を防ぐ
衣類・寝具こまめに洗濯し、よく乾かす(日光消毒推奨)衣類に付着した菌を除去する
入浴シャワーのみにし、患者が最後に入る湯船のお湯を介した感染を防ぐ

とびひが治るまでの日常生活と注意点

とびひの治療中は、早く治すためのケアと同時に、他人にうつさないための配慮も必要です。登園・登校や入浴など、日常生活で気をつけるべき点について解説します。

登園・登校(プール)の目安

とびひは、学校保健安全法において学校感染症(第三種)に分類され、これは、学校において流行を広げる可能性がある伝染病の一つという意味です。

とびひと診断された場合、基本的には他のお子さんへの感染を防ぐために、登園・登校は控える必要があります。

登園・登校を再開できる目安は、医師の許可が出た時点です。

患部がじゅくじゅくしておらず、乾燥しているか、あるいはかさぶたになっていること、そして、患部をガーゼや包帯などで適切に覆うことができ、浸出液が外に漏れ出ない状態であること、が条件となることが多いです。

ただし、プールや水遊びに関しては、治癒するまで参加できません。水の中では患部を確実に保護することが難しく、プールの水を介して感染を広げる可能性があるためです。

登園・登校の判断基準

患部の状態登園・登校プール・水遊び
水ぶくれ・じゅくじゅくしている原則不可(医師の許可が必要)不可
ガーゼ等で確実に覆える(漏れない)医師の許可が出れば可能不可
乾燥・かさぶたになった医師の許可が出れば可能完治するまで不可

入浴の方法と順番

とびひの治療中も、皮膚を清潔に保つためにシャワー浴は毎日行うべきですが、湯船(浴槽)に浸かるのは避けましょう。湯船のお湯に菌が広がり、家族に感染させたり、自分自身の他の部位に感染を広げたりするリスクがあるからです。

シャワー浴の際は、石鹸をよく泡立てて優しく洗い、ご家族と一緒に入浴する場合、とびひの患者さんは最後に入り、使用したバスタオルは共用しないでください。

食事や栄養面での配慮

とびひの治療において、特定の食べ物が治りを早くしたり、悪化させたりするという直接的な証拠はありませんが、皮膚の健康を維持し、傷の修復を助けるためには、バランスの取れた食事が重要です。

皮膚や粘膜の健康を保つビタミンB群、皮膚の再生を助けるタンパク質、免疫機能の維持に関わるビタミンCやビタミンAなどを意識して摂取してください。

ジャンクフードや糖分の多いお菓子ばかりでなく、肉、魚、卵、大豆製品、野菜、果物などをバランスよく取り入れた食事を心がけ、体の内側からも治癒をサポートしましょう。

皮膚の健康をサポートする栄養素

  • ビタミンB群(豚肉、レバー、うなぎ、納豆など)
  • ビタミンC(ピーマン、ブロッコリー、キウイ、柑橘類など)
  • ビタミンA(緑黄色野菜、レバー、うなぎなど)
  • タンパク質(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品)
  • 亜鉛(牡蠣、牛肉、レバー、チーズなど)

大人と子供のとびひの違い

とびひは圧倒的に子供に多い病気ですが、大人がかかることもあります。

大人がとびひを発症する場合、アトピー性皮膚炎や糖尿病などの基礎疾患を持っていたり、過労、ストレス、睡眠不足などで免疫力が低下しているケースが多く、子供よりも治りが悪く、治療期間が長引く傾向が見られます。

治療の基本は子供と同じで、抗菌薬による治療とスキンケアですが、背景にある基礎疾患の管理や、生活習慣の見直し(十分な休息をとるなど)も同時に行うことが、早期治癒と再発予防のために重要です。

とびひ治療における抗菌薬(抗生物質)の役割

とびひ治療の中心となるのが抗菌薬(抗生物質)です。ここでは、抗菌剤の必要性、そしてどのように使われるのかを説明します。

なぜ抗菌薬が必要なのか

とびひの原因はウイルスやカビではなく、細菌(ブドウ球菌やレンサ球菌)なので、細菌を殺すか、増殖を抑える力を持つ抗菌薬が治療の第一選択です。

軽症のとびひであれば、人間の免疫力とスキンケアだけで治癒することもあるかもしれませんが、とびひの菌は増殖力が強く、感染力も高いため、放置するとあっという間に全身に広がってしまいます。

また、痂皮性膿痂疹の原因となるレンサ球菌は、腎炎などの重い合併症を引き起こすリスクもはらんでいます。

とびひと診断された場合は、感染の拡大を防ぎ、合併症を予防し、そして治療期間を短縮するために、抗菌薬による積極的な治療が必要です。

塗り薬(外用薬)と飲み薬(内服薬)の使い分け

抗菌薬には、患部に直接塗る塗り薬(外用薬)と、体の中から効かせる飲み薬(内服薬)があり、とびひのタイプと重症度によって使い分けます。

水疱性膿痂疹で、発疹の数が少なく範囲が限定的な場合は、塗り薬のみで治療を開始することがあります。患部を清潔にした後に塗り薬を塗布することで、皮膚表面の菌を効率よく退治できます。

発疹が広範囲に広がっている場合、次々と新しい発疹が増えていく勢いのある場合、あるいは痂皮性膿痂疹(レンサ球菌)が疑われる場合は、塗り薬だけでは追いつきません。

この場合は、飲み薬を使用し、体の内部(血流)から全身の皮膚に薬を届け、細菌の増殖を強力に抑え込むことが重要です。

抗菌薬の使い分け目安

塗り薬(外用薬)飲み薬(内服薬)
対象となる症状症状が軽度・範囲が限定的症状が広範囲・重度・痂皮性
薬の作用患部の菌を直接攻撃する体の中から全身の菌を攻撃する

飲み薬を処方通りに飲み切る重要性

飲み薬の抗菌薬で治療を始めると、2~3日で劇的に症状が改善することがあります。かゆみが減り、じゅくじゅくが乾いてくると、もう治ったと安心して、薬を飲むのをやめてしまう方がいますが、非常に危険な行為です。

症状が改善しても、体内の菌が完全にゼロになったわけではなく、生き残ったわずかな菌が、薬の服用中止によって再び増殖を始め、症状がぶり返すことがあります。

さらに深刻なのは、中途半端な抗菌薬の使用が、その薬が効かない薬剤耐性菌を生み出す原因となることです。

痂皮性膿痂疹(レンサ球菌)の場合、症状が消えた後も菌が体内に潜伏し、約2~4週間後に腎炎を発症させることがあります。これを防ぐため、医師は安全を見越して10日間などの長めの期間、抗菌薬を処方します。

処方された抗菌薬は、必ず最後まで飲み切ってください。

薬剤耐性菌(MRSA)と治療

近年、通常の抗菌薬が効きにくいMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による水疱性膿痂疹が増加傾向です。

治療を開始して数日経っても症状が一向に改善しない、あるいは悪化する場合は、MRSAが原因である可能性を疑います。その場合、培養検査でMRSAの存在を確認し、MRSAにも有効な抗菌薬(塗り薬や飲み薬)に変更して治療を続けます。

MRSAが原因の場合、通常のとびひよりも治療期間が長引くことがあります。

とびひ完治のサインと再発予防

つらいとびひの治療も、必ず終わりがきます。ここでは、どのような状態を完治と判断するのか、治療が終わった後に再発させないために、どのような点に注意すべきかを解説します。

どのような状態になれば「完治」か

とびひの完治は、ご家族の自己判断ではなく、必ず医師の診断によって決定し、医師はいくつかの点を確認して完治と判断します。

まず、新しい発疹(水ぶくれや膿疱)が数日間出ていないこと、次に、既存の発疹がすべて乾燥し、じゅくじゅくした、びらん面がなくなっていること、そして、かさぶたが自然に剥がれ落ち、その下の皮膚が再生していることです。

かさぶたが取れた直後は皮膚が赤みを帯びていることがありますが、赤みも引き、正常な皮膚の状態に戻れば完治で、この状態になれば、他人にうつす心配はなくなり、医師から登園・登校やプールの許可が出ます。

完治後のスキンケア

とびひが治った直後の皮膚は、一見きれいに見えても、まだバリア機能が万全ではないデリケートな状態なので、スキンケアを怠ると、再び乾燥や刺激によって皮膚トラブルが起きやすくなります。

治療が終了した後も、引き続き保湿ケアを心がけることが重要です。

入浴後は、刺激の少ない保湿剤(ヘパリン類似物質やワセリンなど、医師から処方されたものや市販の低刺激性ローション)を優しく塗布し、皮膚のバリア機能をサポートしましょう。

とびひの再発を防ぐ日常生活の習慣

とびひは、一度治っても、皮膚のバリア機能が低下したり、傷口ができたりすると、再び発症(再発)することがあります。もともとアトピー性皮膚炎や乾燥肌のお子さんは注意が必要です。

とびひ再発予防のポイント

  • 皮膚を常に清潔に保つ(汗をかいたらシャワーや着替え)
  • 爪を短く切り、掻き壊しによる傷を防ぐ
  • 湿疹、あせも、虫刺されができたら、掻き壊す前に早めに治療する
  • 保湿ケアを継続し、皮膚のバリア機能を健康に保つ
  • 鼻の穴をいじる癖をやめさせる(鼻の菌を皮膚に運ばない)

鼻のケアの重要性

とびひの再発を繰り返すお子さんの中には、鼻の入り口(鼻前庭)に原因菌(特に黄色ブドウ球菌)が常在菌として住み着いているケースが多く見られます。

鼻をいじる癖があると、指に付着した菌が、あせもや虫刺されを掻いた傷口に運ばれ、そこからとびひが発症します。

とびひの治療と同時に、鼻をいじらないように指導すること、アレルギー性鼻炎などで鼻水が多い場合は耳鼻科での治療も検討することが、再発予防に非常に効果的です。必要に応じて、鼻の入り口に塗る抗菌薬が処方されることもあります。

鼻の常在菌と皮膚感染の関係

部位潜む菌(例)対策
鼻の入り口(鼻前庭)黄色ブドウ球菌(常在菌)鼻をいじらない。アレルギー性鼻炎などの治療。
皮膚の傷口(バリア機能低下)鼻を触った手で傷口を触らない。傷の早期治療。

とびひ治療に関するよくある質問(Q&A)

とびひの治療期間や治癒に関して、患者さんやご家族から寄せられることの多い疑問についてお答えします。

とびひは市販薬で治せますか?

市販薬での自己判断は推奨しません。とびひは細菌感染症であり、原因菌に合った抗菌薬が必要です。市販されている薬の中には、とびひに適さない成分(例:ステロイドのみ)が含まれているものもあります。

湿疹やあせも用のステロイド外用薬を誤ってとびひに使用すると、細菌の増殖を助けてしまい、かえって症状を悪化させる危険があります。

とびひが疑われる症状が出たら、まずは皮膚科を受診し、診断と処方を受けることが重要です。

治療を始めても、かゆみが治まらないのはなぜですか?

抗菌薬は細菌を殺す薬であり、すぐにかゆみを直接止める薬ではありません。かゆみは、細菌が出す毒素による炎症や、皮膚が治癒する過程(修復)でも生じることがあります。

抗菌薬が効いてくれば炎症が治まり、かゆみも次第に軽減していきますが、かゆみが強くて眠れない、どうしても掻き壊してしまう場合は、治療の妨げになります。

その際は、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬の飲み薬を併用することが効果的ですので、我慢せずに医師に相談してください。

治ったように見えたのに、ぶり返してしまいました

症状がぶり返す(再燃する)場合、いくつかの理由が考えられます。最も多いのは、処方された抗菌薬(特に飲み薬)を自己判断で中断し、菌が完全に死滅していなかった場合です。

生き残った菌が再び増殖し、症状が再発し、また、鼻の入り口などに常在している菌が、新たな傷口(掻き壊しなど)から再度感染(再感染)した場合も考えられます。

治療は医師が完治と判断するまで続け、完治後も日頃から皮膚の清潔と保湿、掻き壊し防止を心がけることが大切です。

大人にうつると重症化しやすいですか?

必ずしも大人が重症化するわけではありませんが、注意は必要です。大人がとびひを発症する場合、背景にアトピー性皮膚炎や糖尿病などの基礎疾患、あるいは疲労やストレスによる免疫力低下が隠れていることがあります。

子供よりも治りが悪く感じたり、広範囲に広がりやすかったりするケースは見られます。治療は子供と基本的に同じ抗菌薬を用いますが、背景にある基礎疾患の管理や生活習慣の見直しも並行して行うことが大切です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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