透析中でも運動はできる?効果的な運動療法の内容と注意点

透析中でも運動はできる?効果的な運動療法の内容と注意点

透析治療を受けながらも、体力や生活の質を維持・向上させたいと考える方は多く、透析患者さんにとって運動は、身体機能の維持だけでなく、さまざまな合併症の予防にもつながる大切な取り組みです。

しかし、どのような運動を、いつ、どれくらい行えば良いのか、不安や疑問を持つこともありでしょう。

この記事では、透析中の方が安全かつ効果的に運動療法に取り組むための内容や、運動を行う上での重要な注意点について、解説していきます。

目次

なぜ透析患者に運動が必要なのか

透析治療を受けていると、身体活動量が減少しがちになり、それに伴う体力や筋力の低下が問題となることがあります。運動療法は、こうした課題を克服し、より良い身体状態を保つために重要な役割を果たします。

体力と筋力の維持・向上

透析患者さんは、尿毒症の影響や食事制限、透析による身体への負担などから、筋肉量が減少しやすい状態です。筋肉は体を動かすだけでなく、体温を維持したり、基礎代謝を高めたりする役割も担っています。

運動不足が続くと、筋力低下が進行し、立ち上がりや歩行といった日常生活の基本的な動作も難しくなるサルコペニア(筋肉減少症)やフレイル(虚弱)の状態に陥りやすくなります。

定期的な運動は筋力低下を防ぎ、日常生活を活動的に送るための基盤となる体力を維持・向上させるために必要です。

心血管疾患のリスク軽減

透析患者さんは、高血圧、脂質異常症、動脈硬化といった心血管疾患のリスクが高いことが知られています。これは、腎機能の低下に伴う体液量の増加や、リン・カルシウムの代謝異常、慢性的な炎症などが複合的に関与しているためです。

適度な運動は、血圧を安定させ、脂質代謝を改善し、血管の柔軟性を保つ助けとなり、心臓や血管への負担を減らし、心筋梗塞や脳卒中といった深刻な合併症のリスクを軽減する効果が期待できます。

透析患者における主な心血管リスク因子

リスク因子身体への影響運動による期待
高血圧心臓への持続的な負担、動脈硬化の促進血圧の安定化
脂質異常症悪玉コレステロールの蓄積、動脈硬化の進行脂質代謝の改善
体液量の過剰心臓への容量負荷、高血圧血流改善による除水効率の補助

生活の質(QOL)の向上

体力や筋力が維持されると、これまで困難だった活動ができるようになることがあります。買い物に出かける、趣味を楽しむ、友人や家族と旅行するといった社会的な活動への参加意欲も高まります。

また、運動によって得られる達成感や爽快感は、透析治療という日常的な制約の中で、大きな自信につながります。

身体が動かしやすくなることで、身の回りのことを自分で行える範囲が広がり、精神的な自立にも良い影響を与え、全般的な生活の質の向上に寄与します。

精神的な安定とストレス解消

透析治療は長期間にわたり、食事や水分の管理など多くの制約も伴うため、精神的なストレスを感じやすい状況です。

運動には、不安や抑うつ気分を和らげる効果があることが分かっており、体を動かすことで気分転換になり、脳内の神経伝達物質のバランスが整うことで、精神的な安定が得られやすくなります。

また、運動を通じて心地よい疲労感を得ることは、睡眠の質を高めることにもつながり、心身ともに健やかな状態を保つ助けとなります。

透析運動療法の効果

透析運動療法を継続的に行うことで、身体にはさまざまな良い変化が現れ、単に体力がつくだけでなく、透析治療そのものや合併症の管理にも良い影響を与えることが知られています。

身体機能への良い影響

運動療法は、全身のさまざまな機能に働きかけ、特に、筋力と持久力の向上は顕著です。レジスタンス運動(筋力トレーニング)は筋肉の量と質を高め、有酸素運動は心肺機能を改善します。

相乗効果により、歩行速度が速くなったり、階段の上り下りが楽になったりするなど、日常生活での動作がスムーズになり、また、バランス能力や柔軟性が向上することで、転倒のリスクを減らすことにもつながります。

運動は骨にも適度な刺激を与え、骨密度の維持にも役立ちます。

運動がもたらす主な身体機能の改善

身体機能期待される具体的な改善
筋力立ち上がり、荷物を持つ動作の改善
持久力疲れにくさ、長距離歩行能力の向上
バランス能力ふらつきの減少、転倒予防

血液透析の効果を高める可能性

析中に行う運動は、血液透析の効率にも良い影響を与える可能性が指摘されています。

運動によって全身の血流が促進されると、筋肉などの組織に溜まっていた尿毒素(老廃物)が血液中に移動しやすくなり、ダイアライザ(人工腎臓)で除去できる老廃物の量が増え、透析効率が向上するのではないかと考えられています。

また、透析中に起こりやすい血圧低下の予防にも、下肢の運動が役立つ場合があります。

ただし、運動の強度や方法によっては透析効率に影響しない、あるいは逆に影響を及ぼす可能性もゼロではないため、医療スタッフの指導のもとで行うことが大切です。

合併症の予防と管理

透析患者さんが注意すべき合併症は多岐にわたりますが、運動は多くの合併症の予防と管理に役立ちます。心血管疾患のリスク軽減に加え、運動による血糖コントロールの改善は、糖尿病を合併している患者さんにとって重要です。

また、運動は便通の改善にも役立ち、便秘に悩む方の助けとなることがあり、長期的には、筋肉量の維持が栄養状態の改善につながり、感染症にかかりにくい体づくりにも役立ちます。

運動による合併症管理への寄与

  • 血糖コントロールの改善
  • 血圧の安定化
  • 脂質代謝の改善
  • 便通の改善
  • 睡眠の質の向上

安全に運動を始めるための準備

透析患者さんが運動を始める際は、安全性を最優先に考える必要があります。自己判断で急に運動を始めるのではなく、医療専門家と連携し、ご自身の体の状態を正確に把握することからスタートしましょう。

医師や医療スタッフへの相談

運動を始めたいと思ったら、まずは主治医や透析室の看護師、臨床工学技士に相談することが第一歩です。透析患者さんの運動療法には、個々の病状や合併症、現在の体力レベルに応じた配慮が求められます。

心臓の状態、シャントの状態、貧血の程度、骨や関節の問題などを総合的に評価し、どのような運動が適しているか、どの程度の強度なら安全かを判断してもらうことが必要です。

透析中に運動を行いたい場合は、透析室のスタッフとの連携が必須で、許可なく運動を始めると、思わぬ体調不良や事故につながる危険性があります。

運動前のメディカルチェック

運動を開始する前には、現在の身体状態を詳しく調べるメディカルチェックを受け、運動を行う上での潜在的なリスクを評価することが大切です。

運動開始前の主なメディカルチェック項目

検査項目主な確認内容運動への影響
心電図・心エコー心臓の機能、不整脈、虚血の有無運動強度の設定に直結する
血液検査貧血(ヘモグロビン値)、電解質、栄養状態貧血が強いと運動制限が必要な場合がある
シャントの状態血流、狭窄や閉塞の有無シャント側の腕の運動内容に制限が出る

検査結果に基づき、医師は運動の可否や、運動強度の上限などを判断しますが、必要に応じて、運動負荷試験(心臓に負荷をかけながら心電図などを記録する検査)を追加することもあります。

自分の体力レベルの把握

メディカルチェックで安全性が確認されたら、次はご自身の現在の体力レベルを把握し、運動プログラムを作成する上で重要な基礎情報となります。

専門家(理学療法士や健康運動指導士など)が関わる場合は、6分間歩行テスト(6分間でどれだけ長く歩けるか)や、椅子からの立ち上がりテスト、握力測定などを行い、客観的に体力を評価します。

ご自身で始める場合でも、まずは「疲れを感じずにどれくらい歩けるか」「息切れしないでできる家事は何か」など、日常生活の中での体の状態を意識してみることから始めましょう。

透析運動療法の種類と内容

透析運動療法には、いくつかの種類の運動があり、それぞれ目的が異なり、運動をバランス良く組み合わせることで、総合的な体力向上を目指します。ご自身の体力や好みに合わせて、無理なく続けられるものを選びましょう。

有酸素運動(持久力トレーニング)

有酸素運動は、比較的強度の低い運動をリズミカルに継続して行うもので、心肺機能(持久力)の向上や、血圧・血糖値の改善に効果的です。酸素を体内に多く取り込みながら行う運動で、脂肪燃焼効果も期待できます。

代表的な有酸素運動の例

運動の種類特徴とポイント推奨される頻度・時間
ウォーキング最も手軽で安全性が高い。歩幅をやや広くとり、軽く腕を振る。週3〜5回、1回15〜30分程度から
自転車エルゴメーター関節への負担が少ない。透析中にも行いやすい。週3〜5回、1回15〜30分程度
軽いジョギング体力がある方向け。医師の許可が必要。医師の指導に従う

有酸素運動の強度は、「ややきつい」と感じる手前、「楽である」または「やや楽である」程度が目安です。おしゃべりしながらでも続けられるくらいのペースを心がけましょう。

レジスタンス運動(筋力トレーニング)

レジスタンス運動は、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかけることで筋力を強化する運動です。

透析患者さんに不足しがちな筋肉量を維持・増加させ、基礎代謝を高め、日常生活の動作を楽にする効果があり、自分の体重を利用する自重トレーニングや、軽いおもり、ゴムバンドなどを使います。

自宅や透析中にできる主なレジスタンス運動

  • 椅子からの立ち座り(スクワット)
  • 踵(かかと)の上げ下げ
  • 軽いダンベルや水入りペットボトルでの腕の運動
  • セラバンド(ゴムバンド)を使った運動
  • 透析中のベッド上での足首や膝の曲げ伸ばし

各種目を10回程度、ゆっくりとした動作で行い、それを1〜3セット繰り返すことから始めます。シャント側の腕に過度な負担がかからないよう注意が必要で、重いものを持つ運動は避けてください。

バランス運動と柔軟運動

バランス運動は、ふらつきを減らし転倒を予防するために重要で、また、柔軟運動(ストレッチ)は、筋肉の柔軟性を高め、関節の動く範囲を広げ、運動による怪我の予防やリラクゼーション効果があります。

有酸素運動やレジスタンス運動の前後に行うウォーミングアップやクールダウンとしても大切です。

柔軟性・バランス向上のための運動例

安全に行うため、壁や椅子など、体を支えられるものの近くで行いましょう。

運動の種類目的実施のポイント
片足立ちバランス能力の向上最初は数秒から。無理に長く続けず、左右行う。
アキレス腱伸ばしふくらはぎの柔軟性向上反動をつけず、20〜30秒ゆっくり伸ばす。
太もものストレッチ太もも前後の柔軟性向上椅子に座ったり、壁に手をついたりして行う。

ストレッチは、呼吸を止めずに「気持ち良い」と感じる程度で伸ばすことがコツです。痛みを感じるほど強く行う必要はありません。

運動を行うタイミングと頻度

運動療法の効果を高め、安全に継続するためには、運動を行うタイミングと頻度も重要で、透析患者さんの生活サイクルに合わせて、無理のない計画を立てることが大切です。

透析日(透析中)の運動

透析治療中の時間を利用して運動を行う方法(オンダイアライシス運動)は、時間を有効活用できる点や、医療スタッフの監視下で安全に行える点から、多くの施設で推奨されています。

透析開始から1〜2時間後の、血圧などが安定した時間帯に行うのが一般的です。主に、ベッドサイドで自転車エルゴメーターをこいだり、ゴムバンドや軽いおもりを使って下肢やシャントのない側の上肢の運動を行ったりします。

透析中の運動の主な特徴

メリット注意点
医療スタッフが近くにいて安心実施できる運動の種類が限られる
透析時間を有効に使えるシャント側への負担や穿刺部の状態に注意が必要
透析中の血圧低下予防に役立つ場合がある体調が悪い時や透析開始直後は行わない

透析中の運動は、透析効率の向上にも寄与する可能性があり、積極的に検討したい方法の一つです。ただし、必ず主治医や透析室のスタッフに相談し、許可を得てから行ってください。

透析日(透析前後)の運動

透析当日は、透析治療そのものによる身体的負担も考慮に入れ、透析前に運動を行う場合は、疲労が残らないよう軽めにする必要があります。透析直後は、除水による循環血液量の減少や血圧の変動が起こりやすいため、運動は避けるのが賢明です。

もし透析後に運動を行う場合は、体調が十分に回復し、血圧が安定してから、ウォーキングなどのごく軽い運動にとどめましょう。

透析のない日(非透析日)の運動

透析のない日(非透析日)は、体調が比較的安定しており、まとまった運動時間を確保しやすいため、運動療法を行うのに適していて、有酸素運動は、非透析日に行うことを推奨される場合が多いです。

ウォーキング、軽いジョギング、自宅での固定自転車など、ご自身の体力レベルや好みに合わせて選びましょう。

ただし、非透析日は次の透析までに体重が増加していく時期でもあるため、体液量の増加による心臓への負担も考慮し、運動強度は「楽である」から「ややきつい」の範囲内にとどめることが重要です。

非透析日の運動における配慮

  • 体調が良い日の日中に行う
  • 水分摂取量に注意する(運動による喉の渇き)
  • 次の透析までの体重増加を考慮し、強度を上げすぎない
  • ウォーミングアップとクールダウンを十分に行う

推奨される運動の頻度と時間

運動の効果を得るためには、継続することが最も大切です。最初は無理をせず、短い時間から始めましょう。

有酸素運動は、週に3〜5回程度、1回の運動時間は15分から始め、徐々に延ばして30分程度を目指すのが一般的です。レジスタンス運動は、週に2〜3回、有酸素運動と組み合わせて行うか、別の日に設定します。

いずれの運動も、その日の体調に合わせて無理をしないことが大原則です。運動強度も、息が弾む程度、少し汗ばむ程度を目安にし、決して息切れするほど追い込む必要はありません。

運動療法における重要な注意点

透析患者さんの運動療法は多くの利点がある一方で、特有の注意点があります。安全に運動を続けるために、ご自身の体の状態をよく観察し、リスクを理解しておくことが重要です。

運動を避けるべき体調

体調がすぐれない時に無理して運動を行うと、症状を悪化させたり、重大な事故につながったりする危険があります。以下のような症状がある場合は、運動を中止または延期してください。

運動を中止・延期すべき主なサイン

注意すべき症状考えられるリスク
胸の痛み、圧迫感、動悸心臓への負担(狭心症、不整脈など)
強い息切れ、めまい、ふらつき心不全の悪化、貧血、血圧の異常
著しい体重増加(むくみ)体液過剰による心臓への負担
発熱、関節の強い痛み感染症、炎症の悪化

症状を感じた場合はすぐに運動を中止し、安静にします。症状が続くようであれば、速やかに主治医や医療スタッフに相談し、また、透析後の体調が不安定な時や、睡眠不足の時も無理は禁物です。

シャント側の上肢に関する注意

血液透析に用いるバスキュラーアクセス(シャント)は、透析患者さんにとって非常に大切なものです。シャント側の腕に過度な負担をかける運動は、シャントの血流を妨げたり、狭窄や閉塞の原因となったりする可能性があります。

シャント側の腕で重いものを持つ(ダンベル運動など)、腕立て伏せのように体重をかける、強く腕を圧迫するような運動は避けるべきです。

ウォーキングの際に軽く腕を振る程度は問題ありませんが、レジスタンス運動を行う際は特に注意が必要で、ゴムバンドを使った運動なども、シャントに影響のない範囲で行うよう、医療スタッフの指導を受けてください。

水分と食事の管理

運動を行うと汗をかき、喉が渇きますが、透析患者さんは水分の摂取制限があるため、運動中や運動後に自由に水分を摂ることはできません。運動は、体重増加が少ない透析の翌日などに行うのが望ましいです。

運動による発汗量は、運動強度や環境によって異なりますが、非透析日の運動では、体重増加が管理目標範囲内に収まるよう、水分摂取量を調整する必要があります。

また、運動によってエネルギーが消費されるため、食事(特にタンパク質やエネルギー)が不足しないようにすることも大切です。

栄養状態が悪いと、運動によって筋肉が逆に減ってしまうこともあるので、運動と食事、水分管理はセットで考え、管理栄養士とも相談しましょう。

透析運動療法を継続するコツ

運動療法の最大の効果は、継続することによって得られますが、治療と両立しながら運動を続けることは、時に難しく感じるかもしれません。楽しみながら、無理なく生活の一部として取り入れる工夫が大切です。

無理のない目標設定

最初から高い目標を設定すると、達成できなかった時に挫折感を感じやすくなります。まずは週に2回、10分歩くといった、ご自身にとって確実に達成可能な小さな目標から始めましょう。大切なのは「ゼロ」にしないことです。

体調が優れない日は無理に運動せず、ストレッチだけにするなど、内容を調整する柔軟さも必要です。小さな成功体験を積み重ねることが、運動を続ける自信と意欲につながります。

運動の記録をつける

運動の内容や時間、その日の体調を記録することは、モチベーションの維持に非常に役立ち、記録を見返すことで、自分がどれだけ頑張ってきたかが可視化され、達成感を得られます。

また、体調の変化と運動内容を照らし合わせることで、「こういう運動をした翌日は調子が良い」あるいは「この運動は少し負担が大きかったかもしれない」といった自己管理にも役立ちます。

運動記録(日誌)の項目例

  • 日付と天気
  • 運動の種類(ウォーキング、筋トレなど)
  • 運動の時間や回数、距離
  • 運動中の体調(きつさ、気分)
  • 運動前後の体重や血圧(可能であれば)

専用のノートでなくても、カレンダーに印をつけるだけでも構いません。自分が見やすい方法で記録してみましょう。

家族や友人のサポートを得る

透析治療と運動の両立は、ご本人の努力だけでなく、周囲の理解とサポートがあると、より継続しやすくなります。ご家族に運動の必要性を理解してもらい、可能であれば一緒にウォーキングに出かけるなど、協力をお願いするのも良い方法です。

また、同じ透析患者さん仲間で運動に取り組んでいる方がいれば、情報交換をしたり、励まし合ったりすることも大きな力になります。一人で頑張ろうとせず、周囲のサポートを上手に活用しましょう。

楽しさを見つける工夫

運動として義務のように感じてしまうと、続けるのが苦痛になるので、運動そのものを楽しむ工夫が大切です。ウォーキングであれば、普段通らない道を選んで景色を楽しんだり、好きな音楽やラジオを聴きながら歩いたりするのも良いでしょう。

自宅での運動であれば、好きなテレビ番組を見ながら自転車エルゴメーターをこぐのも一つの方法です。

ご自身が「これなら楽しい」「気分が良い」と感じられる要素を取り入れ、運動時間を生活の中の楽しみな時間として位置づけられるように工夫してみましょう。

透析中の運動に関するよくある質問

最後に、透析中の運動に関して多く寄せられる質問にお答えします。疑問や不安を解消し、安心して運動に取り組むための一助としてください。

運動はどれくらいきついと良いですか?

息切れせず、おしゃべりができる程度の「楽である」から「やや楽である」と感じる強さが目安で、運動の強度は、心拍数や自覚的なきつさ(主観的運動強度)で判断します。

透析患者さんの場合、安全性が最優先されるため、過度にきつい運動は推奨されません。会話ができる程度の余裕を持った強さで、長時間続けられる運動を目指しましょう。

透析の日は疲れているので運動したくありません。

無理に行う必要はありません。体調を最優先してください。透析当日は体への負担が大きいため、疲労を感じるのは自然なことです。そのような日に無理して運動すると、かえって体調を崩す原因にもなりかねません。

運動は、透析のない日(非透析日)の体調が良い時間帯に行うか、透析中でも比較的体調が安定している時間帯に、ごく軽い運動(足首の運動など)にとどめるなど、ご自身の体調とよく相談して調整することが大切です。

運動中に気をつけるべき合併症はありますか?

心臓への負担や血圧の変動、シャントトラブルに注意が必要です。透析患者さんは心血管系の合併症のリスクがあるため、運動中に胸の痛みや強い動悸、めまいを感じた場合は運動を中止し、医療スタッフに連絡してください。

また、運動による血圧の過度な上昇や低下にも注意が必要です。シャント側の腕に負担をかける運動は、シャントの閉塞などを起こす危険があるため避けましょう。

運動すると食欲が増えてしまいますが、大丈夫ですか?

適度な食欲増進は良い兆候ですが、食事制限の範囲内で管理することが重要です。

運動によりエネルギーが消費されると食欲が湧くことがあり、これは体が栄養を必要としているサインであり、体力が向上している証拠です。ただし、透析患者さんはタンパク質、塩分、カリウム、リンなどの摂取制限があります。

食欲が増したからといって、制限を超えて食べてしまうと、体調管理が難しくなります。管理栄養士と相談し、運動量に見合った食事内容と量を守ることが大切です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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