透析患者さんが注意すべき感染症|種類・予防策・感染対策の基本

透析患者さんが注意すべき感染症|種類・予防策・感染対策の基本

透析治療は、腎臓の機能を代替する重要な治療法ですが、感染症にかかりやすい状態になることがあります。

これは、透析治療を受ける方の多くが、体の抵抗力、つまり免疫機能が低下傾向にあることや、透析のためのバスキュラーアクセス(シャントやカテーテル)が体外と体内をつなぐ経路となり、細菌などが侵入する入り口になり得るためです。

感染症は、透析治療を安全に続けていく上で大きな課題となり、時として生活の質を大きく損なう原因にもなります。

この記事では、透析治療を受けている方やご家族が知っておくべき感染症の種類、予防策、感染対策の基本について、分かりやすく解説していきます。

目次

なぜ透析患者さんは感染症に注意が必要なのか

透析治療を受けている方が、なぜ特に感染症への注意を払う必要があるのか、背景にはいくつかの複合的な理由があります。ご自身の体の状態を深く理解することは、対策を立てる第一歩です。

免疫機能の低下

透析を必要とする慢性腎不全の状態では、体内に尿毒素と呼ばれる老廃物が蓄積しやすくなり、尿毒素が、体を守る役割を持つ白血球(特に好中球やリンパ球)の働きを弱めてしまうことが分かっています。

白血球は、体内に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃し、排除する重要な役割を担っているので、力が弱まるということは、病原体に対する抵抗力が低下し、感染症が発症しやすくなることを意味します。

また、食事制限や合併症などにより、栄養状態が十分に保てない場合も少なくありません。

特に、タンパク質や亜鉛、セレンといったビタミン、ミネラルなどの栄養素は、免疫細胞が正常に機能するために欠かせないもので、不足すると、免疫機能はさらに低下しやすくなります。

免疫機能に影響を与える主な要因

要因体への影響対策の方向性
尿毒素の蓄積白血球の機能低下を招く適切な透析治療の継続
栄養状態の低下免疫細胞の働きが鈍くなるバランスの取れた食事
加齢全般的な免疫機能の自然な低下総合的な健康管理

体内への細菌の侵入経路

透析治療では血液を体外へ取り出し、きれいにしてから体内に戻す必要があります。そのための血液の出入り口となるのがバスキュラーアクセスで、自己血管内シャント、人工血管グラフト、長期留置カテーテルなどです。

シャントやグラフトの場合、透析のたびに針を刺す穿刺行為が、皮膚本来のバリア機能を破り、細菌の侵入経路となる可能性があります。

皮膚は体を外部の病原体から守る最初の壁ですが、繰り返される穿刺は壁に小さな綻びを生じさせます。

長期留置カテーテルの場合は、カテーテルが皮膚を貫通して血管まで挿入されているため、その出口部(皮膚の刺入部)が常に感染のリスクにさらされることになります。

アクセスルートは、生命線であると同時に、感染の温床にもなり得るため、日々の厳重な管理が重要です。

併存疾患の影響

透析治療を受けている方の多くは、腎不全の原因となった糖尿病や高血圧、心臓疾患などの併存疾患を抱えています。糖尿病は、高血糖状態が白血球の機能をさらに低下させ、血流障害を起こすことで、組織の修復能力も弱めます。

足に小さな傷ができた場合でも、血流が悪いために治りにくく、そこから感染が広がりやすい状態になり、一度感染症にかかると重症化しやすく、治りにくい傾向があります。

また、心臓疾患や呼吸器疾患があると、肺炎などの感染症が体に与える負担がより大きいです。

透析患者さんが特に警戒すべき感染症

免疫機能が低下し、細菌の侵入経路がある透析患者さんは、さまざまな感染症に注意が必要です。中でも、生命に直接関わるものや、透析治療の継続を困難にするものについては、特に警戒しなくてはなりません。

バスキュラーアクセス関連感染症

透析治療の生命線であるバスキュラーアクセスは、最も感染が起こりやすい部位です。シャントやグラフトに感染が起こると、その部分が赤く腫れたり、熱を持ったり、痛みが出たりし、膿が出ることもあります。

悪化すると、感染が血流に乗って全身に広がり、敗血症という危険な状態を引き起こすこともあります。また、感染によってシャントが閉塞し、使えなくなってしまうと、再手術が必要になるなど、治療に大きな影響を及ぼします。

長期留置カテーテルの場合は、出口部感染や、カテーテル内部で細菌が繁殖するカテーテル関連血流感染症のリスクが常に伴います。

バスキュラーアクセスの種類と主な感染リスク

アクセスの種類主な感染症主な症状
内シャント・グラフト穿刺部感染、アクセス感染発赤、腫れ、熱感、痛み、膿
長期留置カテーテル出口部感染、血流感染出口部の異常、原因不明の発熱、悪寒

肺炎

肺炎は、透析患者さんにおける重篤な感染症の一つです。加齢や併存する心臓・肺疾患、栄養状態の低下などがリスクを高め、風邪やインフルエンザをこじらせて発症することも少なくありません。

高齢の方では、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまうことで起こる誤嚥性肺炎にも注意が必要です。

一般的な症状は咳、痰、発熱、呼吸困難などですが、高齢者や免疫力が低下している方では、はっきりとした症状が現れにくいこともあり、発見が遅れることがあります。

なんとなく元気がない、食欲がないといった変化が、肺炎のサインである可能性も考えられます。予防のためには、ワクチン接種や、口腔内を清潔に保つ口腔ケアが大変有効です。

敗血症

敗血症は、シャント感染や肺炎など、体の一部で起きた感染症が原因で、細菌が血液中に入り込み、全身に広がってしまう状態です。

細菌が出す毒素によって、全身の臓器が障害を受け、血圧の低下や意識障害などを起こし、生命に危険が及ぶこともあります。

透析患者さんは、シャントやカテーテルという細菌が血中に入る直接的な経路があるため、敗血症のリスクが高いです。

原因不明の高熱や、強い悪寒、震え、ぐったりして意識がもうろうとするなどの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡し、指示を仰ぐ必要があり、早期の診断と治療開始が極めて重要です。

その他の注意すべき感染症

上記以外にも、注意すべき感染症は数多くあり、冬場に流行するインフルエンザは、肺炎を併発するリスクがあるため、積極的な予防が望まれます。

また、結核は、免疫機能が低下した状態で発症しやすい感染症で、長く続く咳や微熱、体重減少などの症状がある場合は注意が必要です。

その他、皮膚の小さな傷から細菌が侵入して起こる蜂窩織炎や、帯状疱疹、尿路感染症なども、透析患者さんでは重症化しやすい傾向があります。

注意すべきその他の感染症

感染症名主な症状予防のポイント
インフルエンザ高熱、関節痛、倦怠感ワクチン接種、手洗い、マスク
結核長引く咳、微熱、体重減少定期的な胸部X線検査
蜂窩織炎皮膚の発赤、腫れ、熱感、痛み皮膚の清潔、傷の適切な処置

シャント・グラフトの感染対策

透析治療に欠かせないシャントやグラフトを感染から守ることは、治療を安全に継続するための基本です。日常の少しの心がけが、大きなトラブルを防ぐことにつながります。

穿刺前の皮膚の清潔

透析治療で針を刺す(穿刺する)前には、シャント部分の皮膚を清潔にすることが何よりも大切です。透析当日は、自宅でシャントのある腕を石鹸で優しく、丁寧に洗いましょう。

皮膚をゴシゴシと強くこすると、目に見えない小さな傷がつき、かえって感染の原因になることがあるため、よく泡立てた石鹸で包み込むように洗うのがコツです。

皮膚の表面には、目に見えない常在菌がたくさんあります。指の間や爪の周りも忘れずに洗浄しことも大切で、これは、穿刺の際に針と一緒に入り込むのを防ぐためです。

透析施設についてから洗うのではなく、ご自宅で済ませておく習慣をつけることが望ましいです。清潔なタオルで水分を拭き取り、皮膚を傷つけないように注意してください。

日常的なシャントの観察

ご自身のシャントの状態を毎日確認する習慣をつけましょう。朝起きた時や入浴時など、決まった時間に行うと忘れにくくなります。

目で見て、手で触れて、異常がないかチェックし観察することで、感染の初期サインをいち早く見つけることができます。

シャント・グラフトのセルフチェック項目

確認項目正常な状態異常のサイン
見た目(視診)皮膚の色に異常がない赤み、腫れ、傷、水ぶくれ
触感(触診)普段通りの熱感異常な熱っぽさ、痛み、硬さ
音(聴診)ザーザーという連続した音音が弱い、途切れる、音がしない

異常に気づいた場合は、自己判断せず、すぐに透析施設のスタッフに相談してください。特に、痛みや熱感を伴う赤みは、感染を強く疑うサインです。

シャント肢の保護

シャントのある腕(シャント肢)は、日常生活での保護が重要です。シャント血管を圧迫したり、傷つけたりしないように注意しましょう。

  • シャント肢での腕時計やブレスレットの着用
  • シャント肢を強く圧迫する衣類の着用
  • シャント肢での血圧測定や採血
  • シャント肢を枕にして寝ること
  • 重い荷物をシャント肢で持つこと

また、シャント肢の皮膚を掻きむしったり、傷を作ったりしないように注意し、かゆみがある場合は、保湿剤を塗るなどのスキンケアを心がけ、改善しない場合は医師に相談してください。

ガーデニング時の棘や、ペットによるひっかき傷など、日常生活の中のささいな傷が感染の入り口になることもあり、小さな傷でも、そこから細菌が侵入する可能性があります。

長期留置カテーテルの感染対策

首や胸、足の付け根などからカテーテルを留置している場合、シャント以上に厳重な感染管理が必要です。

カテーテルは常に体外と体内が直接つながっている状態であり、感染のリスクが非常に高いため、正しい知識を持って管理することが大切になります。

出口部の清潔保持

カテーテルが皮膚から出ている部分を「出口部」と呼び、出口部を常に清潔で乾燥した状態に保つことが、感染予防の基本中の基本です。

通常、出口部は滅菌されたフィルムやガーゼで保護されていますが、保護材が汚れたり、濡れたり、はがれたりした場合は、速やかに透析施設のスタッフに連絡してください。

自分で貼り替えたり消毒したりすることは、かえって感染のリスクを高めることがあるため、絶対に行わず、日々の観察も欠かせません。

カテーテル出口部の異常サイン

確認ポイント具体的な異常内容
分泌物膿や血液、浸出液が出ている
皮膚の状態赤くなっている、腫れている
感覚痛みや熱っぽさを感じる

このようなサインに一つでも気づいたら、すぐに施設のスタッフに報告が必要です。

カテーテル接続部の管理

カテーテルの先端には、透析回路と接続するためのキャップがついていて、接続部は、透析治療の際に開閉するため、注意深く清潔を保つ必要があります。透析時以外は、接続部には絶対に触れないようにしてください。

また、カテーテル本体を引っ張ったり、ねじったりしないように注意しましょう。衣服に固定するなどして、カテーテルが不意に引っ張られるのを防ぐ工夫も重要です。

入浴時の注意点

長期留置カテーテルを使用している場合、原則として湯船に浸かることはできず、シャワー浴が基本です。

シャワーを浴びる際は、出口部とカテーテル全体を防水性のフィルムで完全に覆い、水に濡れないように厳重に保護する必要があります。

保護の方法については、必ず透析施設のスタッフから指導を受け、万が一、濡れてしまった場合は、シャワー後にすぐに施設のスタッフへ連絡し、処置を受けてください。濡れた状態を放置すると、フィルムの下で細菌が繁殖しやすくなります。

日常生活で心がけたい感染予防の基本

透析治療を受けている、いないにかかわらず、感染予防の基本は同じですが、免疫機能が低下している透析患者さんにとっては、一つ一つの実践がより一層重要です。日々の生活の中に、感染予防の習慣をしっかりと取り入れましょう。

手洗いの徹底

感染対策の基本は、なんと言っても手洗いで、流水と石鹸による正しい手洗いは、手指に付着したウイルスや細菌の大部分を除去することができます。

外出からの帰宅時、食事の前、トイレの後、透析のための準備をする前など、こまめに手洗いを行いましょう。

正しい手洗いの手順

手順ポイント
1. 流水で手を濡らす全体をまんべんなく濡らす
2. 石鹸を泡立てる手のひらで十分に泡を作る
3. 手のひら、手の甲を洗う指を組んでこすり合わせる
4. 指先、爪の間を洗う手のひらの上で指先をこする
5. 親指、手首を洗うねじるようにして洗う
6. 流水で十分にすすぐ泡を完全に洗い流す
7. 清潔なタオルで拭く水分をしっかりと拭き取る

アルコールベースの手指消毒剤も有効ですが、目に見える汚れがある場合は、石鹸と流水での手洗いが優先されます。

適切な栄養と休養

体の抵抗力を維持するためには、バランスの取れた食事と十分な休養が大切です。

透析患者さんは、カリウムやリン、水分などの制限があるため、食事管理が難しい面もありますが、その範囲内で、エネルギー源となる炭水化物や、筋肉や免疫細胞の材料となるタンパク質をしっかりと摂取することが重要になります。

管理栄養士と相談しながら、ご自身に合った食事計画を立てましょう。

また、睡眠不足や過労、精神的なストレスは、免疫機能を低下させる大きな原因となるので、規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠時間を確保し、リラックスできる時間を作ることも大切です。

ワクチン接種の重要性

ワクチン接種は、特定の感染症を予防するための非常に有効な手段です。

透析患者さんが接種を推奨されるワクチンには、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどがあり、接種することで、たとえ感染したとしても、重症化を防ぐ効果が期待できます。

B型肝炎ワクチンも、透析患者さんにとって重要なワクチンの一つです。どのワクチンを、どのタイミングで接種すべきかについては、個人差や健康状態によっても異なりますので、必ず主治医とよく相談してください。

  • インフルエンザワクチン(毎年の接種を推奨)
  • 肺炎球菌ワクチン
  • B型肝炎ワクチン
  • 新型コロナウイルスワクチン
  • 帯状疱疹ワクチン(特に50歳以上の方)

人混みを避ける工夫

風邪やインフルエンザなどが流行している時期は、できるだけ人混みを避けることも有効な予防策です。やむを得ず外出する際には、マスクを着用し、帰宅後は手洗い、うがいを徹底しましょう。

また、体調がすぐれない人との接触は、なるべく避けるように心がけてください。ご家族にも協力をお願いし、家庭内での感染対策を一緒に考えることが大切です。

透析施設における感染対策との連携

透析施設では、患者さんが安心して治療を受けられるように、さまざまな感染対策を実施しています。患者さん自身が感染予防に努めると同時に、施設側の対策を理解し、協力していく姿勢が、より安全な治療環境を作ることにつながります。

施設での基本的な取り組み

透析施設では、透析機器や周辺環境の消毒、スタッフの手指衛生の徹底、医療廃棄物の適正な処理など、標準的な感染予防策が講じられています。

また、B型肝炎やC型肝炎などの血液を介して感染する病気については、感染者と非感染者のベッドを分けるなどの対策が取られています。

空気感染や飛沫感染の可能性がある感染症が疑われる患者さんについては、個室での対応を行うなど、感染拡大を防ぐための体制が整えられています。

患者として協力できること

患者さん自身も、施設内での感染拡大を防ぐために協力できることがあります。透析施設に入室する際の手洗いや手指消毒、施設内でのマスクの着用は基本的なルールです。

また、透析中に使用するベッド周りを清潔に保ち、私物を整理整頓することも大切です。他の患者さんとの不要な接触を避け、大声での会話を控えるなどの配慮も、お互いを守るために重要になります。

海外渡航歴や、感染症が流行している地域への訪問歴がある場合は、スタッフに申し出ることも大切な協力の一つです。

  • 入室時の手指衛生
  • 施設内でのマスク着用
  • ベッド周辺の整理整頓
  • 他の患者さんとの適切な距離

体調不良時の連絡

透析日に、発熱や咳、下痢などの症状がある場合は、施設に到着する前に必ず電話で連絡をしてください。事前に連絡をすることで、施設側は他の患者さんへの感染を防ぐための準備(個室の確保や入室時間の調整など)ができます。

自己判断でいつも通りに来院してしまうと、待合室などで他の免疫機能が低下している患者さんに感染を広げてしまう可能性があります。少しでも体調に変化を感じたら、まずは電話で相談する、ということを徹底しましょう。

感染症を疑うべきサインと早期対応

万が一、感染症にかかってしまった場合でも、サインを早期に察知し迅速に対応することで、重症化を防ぐことができます。日頃からご自身の体調の変化に敏感でいることが大切です。見逃してはいけないサインを知っておきましょう。

全身症状のチェックポイント

普段と違う体調の変化は、感染症の初期サインかもしれず、特に、以下のような全身症状には注意が必要です。透析患者さんでは、典型的な症状が出にくいこともあるため、「なんとなくおかしい」という直感も大切にしてください。

感染症を疑う全身症状

症状の種類具体的な内容特に注意すべきこと
発熱・体温37.5度以上の発熱、悪寒、震え平熱が低い人は微熱でも注意
倦怠感いつもと違うだるさ、ぐったりしている食欲不振を伴うことが多い
呼吸器症状咳、痰、息切れ、のどの痛み肺炎の可能性を考える

シャント・カテーテル出口部の異常

バスキュラーアクセスは、感染の入り口になりやすいため、局所の異常サインは特に重要です。毎日のセルフチェックで、シャントやカテーテル出口部に以下のような変化がないかを確認してください。

全身症状がなくても、局所の異常だけで感染が始まっている可能性があります。

  • シャント部分の赤み、腫れ、痛み、熱感、膿
  • カテーテル出口部の赤み、腫れ、痛み、分泌物

局所的なサインは、感染が全身に広がる前の重要な警告なので、見つけ次第、すぐに透析施設のスタッフに報告してください。

早期に医療機関へ相談する大切さ

感染症が疑われるサインに気づいた場合、最も重要なことは、自己判断で様子を見たり、市販薬で対処したりせず、速やかにかかりつけの透析施設や医療機関に相談することです。

透析患者さんの感染症は進行が早く、急激に重症化することがあり、「これくらい大丈夫だろう」という油断が、深刻な事態を招くこともあります。

早期に診断を受け、抗菌薬の投与などの治療を開始することが、回復への近道であり、生命を守ることにもつながります。夜間や休日であっても、ためらわずに緊急連絡先に連絡してください。

透析と感染症に関するよくある質問

ここでは、透析患者さんやご家族からよく寄せられる感染症に関する質問にお答えします。

インフルエンザや肺炎球菌のワクチンは受けられますか。

透析患者さんは感染症が重症化しやすいため、接種が強く推奨されていて、インフルエンザワクチンは毎年、流行が始まる前の秋頃に接種するのが一般的です。肺炎球菌ワクチンは、ワクチンの種類によって接種間隔が異なります。

いずれのワクチンも、接種の時期や種類について、主治医とよく相談の上で決定してください。

家族が風邪をひいた場合、どうすればよいですか。

家庭内での感染を防ぐために、いくつかの対策を講じることが望ましいく、可能であれば、患者さんと風邪をひいているご家族の部屋を分けましょう。

それが難しい場合は、家の中でもマスクを着用し、こまめな換気を心がけてください。タオルや食器の共用は避け、ご家族にも手洗いを徹底してもらいましょう。

ご自身の体調管理にも一層注意し、十分な休息をとることが大切です。

市販の風邪薬を飲んでも大丈夫ですか。

自己判断で市販薬を服用するのは避けてください。市販薬の中には、腎臓に負担をかける成分や、透析患者さんが注意すべき成分が含まれていることがあります。

また、薬の成分が体内に蓄積し、予期せぬ副作用を起こす可能性もあります。発熱や咳などの症状がある場合は、まずかかりつけの透析施設に連絡し、医師の指示に従ってください。

歯科治療を受ける際に気をつけることはありますか。

歯科治療、特に抜歯などの出血を伴う処置を受ける前には、必ず透析の主治医と歯科医師の両方に相談してください。

口腔内の細菌が血流に入り、シャントや心臓に感染を起こす(感染性心内膜炎)リスクがあるため、処置の前に予防的に抗菌薬を内服することがあります。

また、透析後は出血が止まりにくい傾向があるため、治療を受けるタイミングも重要になります。歯科を受診する際は、透析治療中であることを必ず伝え、連携して治療を進めてもらうことが大切です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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