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手のひらの湿疹・皮むけの原因は?考えられる皮膚疾患と効果的なケア

手のひらの湿疹・皮むけの原因は?考えられる皮膚疾患と効果的なケア

ふとした時に、手のひらにかゆみや赤み、小さな水ぶくれができて悩んでいませんか。症状がひどくなると皮がむけたり、ひび割れて痛みを伴ったりすることもあり、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。

ペンを握る、スマートホンを操作する、誰かと握手をするといった何気ない動作でさえ、苦痛に感じることがあります。手のひらの皮膚トラブルは、単なる手荒れと思われがちですが、背後にはさまざまな皮膚疾患が隠れている可能性があります。

この記事では、手のひらの湿疹や皮むけを起こす原因を、外的・内的な側面から詳しく掘り下げ、考えられる代表的な皮膚疾患について解説します。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

手のひらの湿疹・皮むけの主な症状

手のひらに現れる皮膚の異常は、見た目も不快なうえ、かゆみや痛みを伴うことが多くつらいものです。症状の現れ方は人それぞれで、複数の症状が同時に出ることもあります。

赤みとかゆみ

手のひらの湿疹で最も多くみられる初期症状が、赤み(紅斑)とかゆみです。

皮膚の表面にある角質層は、外部の刺激から体を守り、内部の水分蒸発を防ぐバリアの役割を担っていますが、さまざまな原因でこのバリア機能が低下すると、外部からの刺激物が容易に侵入し、皮膚内部で炎症が起こります。

この炎症反応により血管が拡張し、皮膚が赤く見え、同時に、炎症によってかゆみを起こすヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されるため、強いかゆみを感じます。

特に、入浴や飲酒などで体が温まり血行が良くなると、かゆみは増す傾向にあります。

かゆいからといって掻きむしると、バリア機能がさらに破壊され、炎症が悪化する「イッチ・スクラッチ・サイクル」という悪循環に陥りやすいため、掻かないように意識することが重要です。

小さな水ぶくれ(水疱)

指の側面や手のひらに、強いかゆみを伴う1〜2mm程度の小さな水ぶくれ(水疱)が多発することがあり、これは、皮膚内部の炎症によって、血管から血漿(けっしょう)と呼ばれる液体成分が漏れ出し、表皮内に溜まることで形成されます。

最初は透明な液体が入っていますが、時間が経つと炎症細胞などが混じり、黄色っぽく濁ることもあります。

水疱が破れると、じゅくじゅくとした状態(びらん)になり、そこから黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入して二次感染を起こすリスクも高まります。

二次感染を起こすと、とびひ(伝染性膿痂疹)のように周囲に広がったり、痛みを伴ったりすることがあるため、無理に潰したりせず、清潔を保つことが大切です。

皮むけとひび割れ

炎症が続くと、皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)のサイクルが乱れ、正常な角質層が作られなくなります。未熟な角質細胞が表面に押し上げられることで、皮膚の密着性が失われ、ポロポロとむけてくるのが皮むけ(落屑)です。

さらに乾燥が進むと、皮膚の柔軟性が失われます。特に、指の関節など日常的によく動かす部分は皮膚の伸縮についていけず、亀裂が入ってしまいます。これがひび割れ(亀裂)です。

浅いひび割れでも痛みを伴いますが、亀裂が真皮にまで達すると出血し、水に触みるだけで激しい痛みを感じるため、日常生活に大きな支障をきたします。

症状の進行段階

段階主な症状皮膚の状態と注意点
急性期(初期)赤み、かゆみ、小さなブツブツや水疱炎症が活発な時期。掻き壊しによる悪化と二次感染に注意が必要です。
亜急性期(進行期)じゅくじゅく、びらん、皮むけ、かさぶた急性期の炎症が少し落ち着き、皮膚の修復が始まるが、まだ不安定な状態。
慢性期ごわつき、厚み(角化)、ひび割れ長引く炎症で皮膚が厚く硬くなる。保湿と保護を徹底し、根気強い治療が大事です。

ごわつきと厚み(角化)

慢性的な炎症が何か月、何年と続くと、皮膚は防御反応として角質層を異常に厚くしていき、この状態を苔癬化(たいせんか)や角化(かくか)と呼びます。

手のひらの皮膚がまるで象の皮膚のように硬く、ごわごわとした手触りになり、普段は目立たない皮膚のしわ(皮溝)が深く刻まれて目立つようになります。

厚くなった角質層は、塗り薬の成分が深部まで浸透するのを妨げるため、治療効果が現れにくくなります。また、皮膚の柔軟性が著しく低下するため、少し手を曲げただけでもひび割れが生じやすくなり、治療がさらに難しくなる傾向があります。

なぜ起こる?手のひらの湿疹・皮むけの外的要因

手の皮膚は、顔や体と比べて皮脂腺が少なく、皮脂膜による保護機能が元々弱い部位です。それに加え、日常生活でさまざまな刺激に直接さらされるため、バリア機能が破壊されやすい環境にあります。

洗剤や薬品などの化学的刺激

身の回りには、皮膚への刺激となる化学物質が多くあります。

食器用洗剤や洗濯用洗剤、シャンプー、ハンドソープなどに含まれる界面活性剤は、汚れを落とす強力な作用を持つ一方で、皮膚を保護している皮脂膜や角質細胞間脂質まで洗い流してしまいます。

皮膚の水分保持能力が低下し、乾燥が進み、バリア機能が低下します。美容師、医療従事者、飲食店員、清掃業、花屋など、水や薬剤、植物のアクなどに触れる機会の多い職業の方は、特に発症のリスクが高まります。

また、昨今では感染対策として頻繁に行うアルコール消毒も、アルコールが蒸発する際に皮膚の水分を一緒に奪っていくため、皮膚の乾燥を招き、湿疹を悪化させる大きな一因です。

物理的な摩擦や圧力

手は物をつかんだり、作業をしたりと、常に物理的な刺激を受けていてます。

運送業での段ボールの頻繁な扱いや、長時間のパソコン作業によるマウス・キーボード操作、楽器の演奏、野球の素振りやゴルフ、テニスなどで道具を強く握ることなどは、特定の部位に継続的な摩擦や圧力をかけます。

物理的な刺激が繰り返されると、角質層がすり減ってダメージを受け、バリア機能が低下して炎症が起こりやすくなります。

また、土いじりや、仕事で紙幣や書類を多く触ることも、紙が皮膚の水分や油分を吸収してしまうため、乾燥と摩擦の両面から皮膚に大きな負担をかけます。

日常生活に潜む物理的刺激

刺激の種類具体例皮膚への影響
摩擦段ボールの運搬、タオルでのゴシゴシ拭き、素手での雑巾がけ角質層が剥がれ、バリア機能が直接的に損傷する。
圧力工具の使用、ペンだこ、重い荷物を長時間持つ血行不良や角質の硬化を招き、皮膚の防御反応として炎症を誘発する。
水分・油分の吸収土いじり、紙幣や書類の扱い、チョークの使用皮膚表面の天然保湿因子や皮脂が奪われ、深刻な乾燥を引き起こす。

乾燥と汗

皮膚の健康を保つためには、適度な水分と油分のバランスが重要で、特に空気が乾燥する秋から冬にかけては、外気の湿度の低下に伴い、皮膚の水分が奪われやすく、バリア機能が低下しがちです。

汗も湿疹の大きな原因となります。汗そのものは弱酸性ですが、汗に含まれる塩分やアンモニア、尿素などの成分が皮膚への刺激となるほか、汗が蒸発する際に皮膚の水分を一緒に奪っていくため、結果的に乾燥を招くことがあります。

また、汗によって皮膚が長時間湿った状態にあると、皮膚がふやけて角質層が傷つきやすくなり、汗が関与する湿疹を汗疱状湿疹(異汗性湿疹)と呼び、特に夏場に症状が悪化する方に多くみられます。

金属アレルギー

特定の金属に触れることでアレルギー反応が起こり、湿疹ができることがあり、アレルギー性接触皮膚炎と呼びます。原因となりやすい金属は、アクセサリーや腕時計、硬貨に含まれるニッケル、コバルト、クロムなどです。

また、直接触れるだけでなく、チョコレートやナッツ類、香辛料などの食品や、歯科治療で使われる金属に含まれる金属が体内に吸収され、汗として排出された際に、汗腺の多い手のひらや足の裏でアレルギー反応を起こす「全身性金属皮膚炎」という病態もあります。

原因不明の難治性の湿疹が続く場合は、金属アレルギーの可能性も視野に入れる必要があります。

体の内側も関係?考えられる内的要因

手のひらの湿疹は、外からの刺激だけで起こるわけではありません。ご自身の体質や健康状態といった、体の内側にある要因も大きく影響します。

アトピー素因と体質

アトピー素因とは、アレルギー性の病気を本人または家族が持っており、ダニやホコリ、花粉といったアレルギーの原因物質(アレルゲン)に対して、IgE抗体というタンパク質を作りやすい体質のことを指します。

アトピー素因のある方は、もともと皮膚のバリア機能が遺伝的に弱い傾向にあり、角質層の水分を保つ天然保湿因子(NMF)や、角質細胞の間を埋めるセラミドなどが不足しがちです。

そのため、健康な人では問題にならないようなわずかな刺激でも炎症を起こしやすく、手の湿疹を発症・悪化させやすいと考えられています。

アトピー素因のチェックポイント

  • 本人または血縁関係のある家族にアレルギー疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など)の経験がある
  • 子供の頃、肘や膝の裏などがカサカサしやすかった
  • 皮膚が全体的に乾燥しやすく、冬場は特に粉をふきやすい
  • 特定の物質(金属、化粧品など)に触れるとかゆみや赤みが出やすい

ストレスと生活習慣の乱れ

過度な精神的ストレスは、自律神経やホルモンバランスの乱れを起こし、免疫機能が影響を受け、皮膚の炎症を悪化させたり、かゆみを過敏に感じさせたりすることが知られています。

また、睡眠不足や不規則な食生活、栄養バランスの偏りといった生活習慣の乱れも、皮膚の健康に直結します。

皮膚の細胞が生まれ変わる夜間の睡眠が不足すると、成長ホルモンの分泌が減少し、日中に受けた皮膚ダメージの修復が追いつかなくなります。

仕事の多忙や人間関係の悩み、環境の変化などがきっかけで、手の湿疹が急に悪化するケースは少なくありません。

免疫力の変動

体の免疫システムが正常に機能しなくなると、皮膚にもさまざまな影響が出ることがあります。

掌蹠膿疱症という病気は、手のひらや足の裏に膿のたまった小さな水ぶくれ(膿疱)が多発する病気ですが、発症には免疫の異常が関与していると考えられています。特に、喫煙は免疫のバランスを崩す大きな引き金となることが指摘されています。

その他にも、扁桃炎や虫歯、歯周病といった体内の慢性的な感染巣(病巣感染)が、免疫システムを異常に刺激し、皮膚症状を起こすこともあります。

風邪をひいた後や、疲労がたまっている時など、体全体の免疫力が落ちている時に症状が出やすいです。

手のひらの症状から考えられる皮膚疾患

手のひらの湿疹や皮むけは、さまざまな皮膚疾患の一症状として現れます。見た目が似ていても、原因や治療法が異なるため、自己判断で市販薬を使い続けるのは危険な場合もあります。

手湿疹(主婦湿疹)

手湿疹は、水や洗剤、紙などに頻繁に触れることで、手の皮膚のバリア機能が低下して起こる湿疹の総称です。かつては水仕事の多い主婦によく見られたことから主婦湿疹とも呼ばれていましたが、現在では職業や性別を問わず誰にでも発症します。

進行度によって症状が異なり、初期は指先のカサつきや赤み、かゆみ程度ですが、進行すると手のひら全体に広がり、乾燥、皮むけ、ひび割れなどが現れます。

さらに悪化すると、小さな水ぶくれやじゅくじゅくとした状態になり、強い痛みを伴うこともあり、利き手の、よく使う指先から症状が出始めることが多いのが特徴です。

汗疱状湿疹(異汗性湿疹)

手のひらや指の側面、足の裏に、強いかゆみを伴う小さな水ぶくれ(水疱)がたくさんできる病気です。汗をかきやすい春から夏にかけて症状が現れたり、悪化したりする傾向があります。

汗の排出がうまくいかない汗管の詰まりや、金属アレルギー、ストレスなどが関与していると考えられていますが、はっきりとした原因はまだわかっていません。

水疱は1〜2週間ほどで自然に吸収されて乾燥し、その後、リング状に皮がむけて治っていきますが、季節の変わり目などに再発を繰り返すことが多いのが特徴です。

手湿疹と汗疱状湿疹の主な違い

項目手湿疹(主婦湿疹)汗疱状湿疹(異汗性湿疹)
主な症状乾燥、皮むけ、ひび割れが主体。進行すると水疱も。かゆみの強い小さな水疱が多発。その後、皮むけ。
好発部位指先、指の腹、手のひら全体。指の側面、手のひら、足の裏。
好発時期秋から冬(空気が乾燥する季節)に悪化しやすい。春から夏(汗をかく季節)に悪化しやすい。

接触皮膚炎(かぶれ)

特定の物質が皮膚に触れることで起こる炎症で、一般的に「かぶれ」と呼ばれます。

原因物質そのものの毒性や刺激によって誰にでも起こる刺激性接触皮膚炎と、原因物質に対してアレルギー反応を起こす体質の人だけに起こるアレルギー性接触皮膚炎の2種類があります。

原因としては、植物(ウルシ、ハゼなど)、金属(ニッケルなど)、ゴム手袋、化粧品、消毒薬、湿布薬など多岐にわたります。原因物質に触れた部分に、境界がはっきりとした赤み、かゆみ、水ぶくれなどの症状が現れるのが特徴です。

掌蹠膿疱症

手のひら(手掌)や足の裏(足蹠)に、膿がたまった小さな水ぶくれ(膿疱)が次々とできる難治性の皮膚疾患です。膿疱は無菌性であり、中に細菌はいないため、他人にうつることはありません。

しばらくすると膿疱は乾燥して黄色いかさぶたになり、はがれ落ちますが、良くなったり悪くなったりを周期的に繰り返します。かゆみや痛みを伴うこともあります。

喫煙、病巣感染(扁桃炎、虫歯など)、歯科金属アレルギーなどが悪化要因として知られています。また、約10〜30%の患者さんに関節の痛みを伴うことがあります(掌蹠膿疱症性骨関節炎)。

湿疹と間違いやすい他の皮膚疾患

手のひらの皮がむけたり、赤くなったりする症状は、湿疹以外の病気でも見られます。治療法が全く異なるため、病気と正しく見分けることが非常に重要です。

手白癬(水虫)

白癬菌というカビ(真菌)が、手の皮膚の角質層に感染して起こる病気で、足の水虫(足白癬)にかかっている人からうつることがほとんどで、自分の足の水虫を無意識に触った手で発症するケースが非常に多いです。

症状のタイプはいくつかありますが、手のひら全体の皮膚が厚く硬くなり、皮膚のしわに沿って白い粉をふいたように皮がむける角質増殖型が多くみられます。

かゆみは軽いか、全くないことも多いため、単なる手荒れと勘違いされやすいのが特徴です。多くの場合、片手だけに症状が出ますが、利き手で患部の足を掻くことが多いためと言われます。

湿疹と手白癬の見分け方のポイント

項目一般的な湿疹手白癬(水虫)
原因外的刺激、アレルギー、体質など(炎症)白癬菌というカビ(真菌)の感染
かゆみ強いことが多いないか、あっても軽いことが多い
両側性両手に対称的に出ることが多い片手だけの場合が多い(One Hand, Two Feet Disease)

乾癬

乾癬は、皮膚に赤い発疹(紅斑)ができ、その上に銀白色のフケのようなもの(鱗屑)が付着し、ポロポロとはがれ落ちる病気です。免疫システムの異常が関与していると考えられており、感染する病気ではありません。

手のひらにできた場合、境界がはっきりした赤い局面となり、皮膚が厚くなり、ひび割れを伴うこともあり、手湿疹や掌蹠膿疱症と見た目が似ていることがあります。

爪が厚くなったり、凹んだりといった爪の変形や、関節の痛みや腫れを伴うこともあります(関節症性乾癬)。

疥癬

ヒゼンダニという非常に小さなダニが皮膚の角質層に寄生して起こる感染症です。指の間や手首、手のひらに赤いブツブツ(丘疹)や、ヒゼンダニが皮膚に潜って移動した跡である線状の皮疹(疥癬トンネル)が見られます。

特に夜間に布団に入って体が温まると強くなる、耐えがたいほどの激しいかゆみが特徴です。高齢者施設などで集団発生することがあります。

人から人へ、肌の接触や寝具などを介して感染するため、診断がついた場合は、本人だけでなく周囲の人も同時に治療することが必要です。

症状を和げるセルフケア

手のひらの湿疹や皮むけの症状を改善し、再発を防ぐためには、皮膚科での治療と並行して、日々のセルフケアを丁寧に行うことがとても大事です。

正しい手洗いと保湿

手洗いは感染予防の基本ですが、洗いすぎや間違った洗い方は皮膚のバリア機能を損なう最大の原因にもなります。手洗いをする際は、皮脂を奪いすぎる熱いお湯は避け、32〜34℃程度のぬるま湯で洗いましょう。

石鹸やハンドソープは洗浄力の強すぎない低刺激性のものを選び、よく泡立ててから、手のひらをゴシゴシこすらず、泡で汚れを包み込むように優しくなでるように洗います。

すすぎ残しは刺激になるため、手首まで丁寧に、十分に洗い流してください。洗った後は、清潔で柔らかいタオルで、押さえるように優しく水分を拭き取ります。そして、手が乾かないうちに、5分以内にすぐに保湿剤を塗ることが最も重要です。

保湿剤は、手のひらだけでなく、指一本一本、指の間や爪の周りまで丁寧に塗り込みましょう。

保湿剤の種類と特徴

種類特徴おすすめの場面
ローションタイプ水分が多く、伸びが良くさっぱりした使用感。日中、べたつきが気になる時や、広範囲に塗る時。
クリームタイプ油分と水分がバランス良く配合され、しっとり感が持続。最も汎用性が高く、日常的な保湿ケア全般に適している。
軟膏タイプ(ワセリンなど)油分が主成分で、皮膚表面に膜を作り、水分の蒸発を防ぎ保護する力が最も高い。水仕事の前や、特に乾燥のひどい部位、ひび割れ部分の保護、就寝前。

水仕事や作業時の手袋活用法

洗剤や水、物理的な刺激から手を守るために、手袋の活用は非常に効果的です。水仕事やシャンプーをする際は、必ずゴム手袋やビニール手袋を着用しましょう。

ただし、ゴム製品(ラテックス)でかぶれる方もいるため、その場合は下に木綿の手袋を着用する「二重履き」がおすすめです。内側の木綿の手袋が汗を吸収し、むれによる刺激や、ゴムによるかぶれも軽減できます。

また、段ボールを扱う作業やガーデニング、掃除など、乾燥や摩擦が気になる場面でも、作業用の手袋を着用する習慣をつけましょう。手袋は使用後に裏返してよく洗い、完全に乾燥させて清潔に保つことも大切です。

手袋活用のポイント

  • 水に触れる作業では短時間でも必ず着用する
  • 刺激を減らすため、ゴム手袋の下に木綿の手袋を履く
  • 手袋は裏返して洗い、風通しの良い場所でよく乾かす
  • 長時間の着用は避け、30分に一度は外して手汗を乾かすなど、むれを防ぐ

生活習慣の見直しとストレス管理

皮膚の健康は、体全体の健康状態を映す鏡です。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、体の内側から皮膚の再生能力を高めましょう。

皮膚の材料となるタンパク質や、皮膚のバリア機能に関わる必須脂肪酸、抗酸化作用や皮膚の健康を保つビタミン類(ビタミンA、B群、C、Eなど)、ミネラル(亜鉛など)を意識して摂取することが大切です。

また、ストレスはかゆみを増強させ、無意識に掻いてしまう原因にもなります。自分に合ったリラックス法を見つけ、趣味の時間を持つ、ゆっくり入浴する、軽い運動をするなどして、上手にストレスを発散することも、症状の改善につながります。

専門医に相談するタイミングと皮膚科での治療法

セルフケアを続けても症状が改善しない、あるいは悪化していく場合は、ためらわずに皮膚科を受診しましょう。専門医による正確な診断と、症状に合った適切な治療を受けることが、早期改善への近道です。

皮膚科を受診すべきサイン

市販薬を1週間程度使用しても改善が見られない場合や、症状の範囲が広がってきた場合は、受診をおすすめします。

強いかゆみで夜眠れない、ひび割れて痛みが強く日常生活に支障が出ている、じゅくじゅくして液体が出てくる、透明ではない膿を持った水ぶくれがたくさんできるといった症状がある場合は、早めに専門医に相談してください。

受診の目安

  • かゆみや痛みが我慢できない
  • 症状が手のひら全体や手首、腕にまで広がっている
  • 市販薬を1週間以上使っても良くならない、または悪化した
  • じゅくじゅくしたり、膿が出たりしている(二次感染の疑い)
  • 良くなったり悪くなったりを何度も繰り返している

皮膚科で行う主な検査

正しい診断を下すために、いくつかの検査を行うことがあり、最も一般的なのは、皮むけ部分の皮膚の角質を少量こすり取り、顕微鏡で調べる真菌検査(直接鏡検)です。

手白癬(水虫)の原因である白癬菌の有無をその場で確認できます。アレルギー性接触皮膚炎が疑われる場合は、原因物質を特定するためにパッチテストを行います。

疑われる物質を少量つけたシールを背中などに48時間貼り、剥がした後の皮膚の反応を見る検査です。また、掌蹠膿疱症が疑われる場合は、全身の炎症反応を見るための血液検査や、扁桃や歯のチェックを他の科に依頼することもあります。

代表的な治療薬(外用薬・内服薬)

治療の基本は、炎症を抑えるステロイド外用薬です。ステロイド外用薬には強さにランクがあり、皮膚の厚い手のひらには比較的強めのものが処方されることが多いですが、症状の強さや部位に合わせて医師が適切な強さの薬を選択します。

角質が厚くごわごわしている場合は、角質を柔らかくして薬の浸透を助けるサリチル酸ワセリンや尿素クリームを併用することもあり、かゆみが非常に強い場合は、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服薬が処方されます。

薬は、かゆみを抑えて掻きむしるのを防ぎ、症状の悪化サイクルを断ち切る目的で用います。細菌感染を併発している場合は、抗生物質の内服薬や外用薬が必要です。

治療薬に関する注意点

薬の種類主な役割使用上のポイント
ステロイド外用薬皮膚の過剰な免疫反応(炎症)を強力に抑える。医師の指示通りに適切な量を適切な期間使用することが重要。自己判断で中断しない。
保湿剤低下した皮膚のバリア機能を補い、外的刺激から守る。症状が良い時も継続して使用する。薬ではなくスキンケアの一環として習慣化する。
抗ヒスタミン薬(内服)かゆみの原因となるヒスタミンの働きをブロックする。眠気が出ることがあるため、車の運転などには注意が必要。眠気の少ないタイプもある。

光線療法(紫外線治療)

外用薬や内服薬で十分な効果が得られない難治性の手湿疹や掌蹠膿疱症、乾癬などに対しては、光線療法(紫外線治療)が選択肢となります。

治療効果のある特定の波長(ナローバンドUVBやエキシマライトなど)の紫外線を患部に照射することで、皮膚の免疫反応を調整し、炎症を鎮める治療法です。

週に1〜2回の通院が必要となりますが、痛みはなく、副作用も比較的少ない安全性の高い治療法の一つで、ステロイド外用薬の使用量を減らせる可能性があるなどのメリットもあります。

よくある質問

最後に、手のひらの湿疹に関して患者さんからよくいただくご質問と回答をまとめました。

市販薬を使っても大丈夫ですか?

軽度の手荒れや初期の乾燥であれば、市販の保湿剤やビタミン系のクリームでこまめにケアをすることで改善することもあり、かゆみや赤み、水ぶくれなどの明らかな炎症症状がある場合は注意が必要です。

市販の湿疹薬にはステロイドが含まれているものもありますが、最大の落とし穴は、原因が手白癬(水虫)だった場合です。

水虫にステロイド薬を使うと、白癬菌の増殖を抑える免疫反応まで抑制してしまい、かえって症状を急激に悪化させてしまいます。

原則として、市販薬の使用は1週間までとし、改善しない場合は自己判断を続けずに皮膚科を受診してください。

他の人にうつりますか?

多くの方が心配されますが、手湿疹、汗疱状湿疹、接触皮膚炎、掌蹠膿疱症、乾癬といった、手のひらの皮膚トラブルのほとんどは、免疫の反応や体質、外的刺激による「炎症」が原因であり、感染症ではありません。

ただし、手白癬(水虫)と疥癬は、それぞれ真菌(カビ)とダニによる感染症なので、人から人へうつる可能性があります。

家族内に足の水虫の人がいる場合は、スリッパや足ふきマットの共用を避けるなどの注意が必要です。

ステロイドには副作用があると聞き、使うのが怖いです。

不適切な強さの薬を長期間、広範囲に使い続けると、皮膚が薄くなる、血管が浮き出る、にきびができやすくなるなどの局所的な副作用や、非常に稀ですが全身的な副作用の可能性があります。

しかし、皮膚科専門医の指導のもと、症状に合った適切な強さの薬を、適切な量、適切な期間使用する限り、非常に効果的で安全性の高い薬です。

医師の指示をよく守って正しく使うことが、最も早く、安全に治すための鍵になります。

食べ物で気をつけることはありますか?

特定の食べ物が直接的に一般的な手湿疹の原因となることは稀ですが、全身性金属皮膚炎が疑われる場合は、原因となりうる金属(ニッケル、コバルト、クロムなど)を多く含む食品を控える食事指導を行うことがあります。

また、アトピー素因のある方で、特定の食物アレルギーが関与している場合は、原因食物を避けることが必要です。

一般的な観点からは、香辛料などの刺激物、アクの強い食べ物、脂質の多い食事、過度のアルコール摂取は、かゆみを増強させたり、腸内環境を乱して皮膚の状態を不安定にさせたりする可能性があります。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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