ある日突然、肌に現れる赤いブツブツと耐えがたいかゆみ。もしかしてダニに刺されたのかもしれない、あるいは蕁麻疹だろうかと、不安に思う方は少なくないでしょう。見た目が似ていることもあるため、自分で判断するのは難しいものです。
このような症状は、原因が異なれば当然治療法も変わってくるので、間違った対処をしてしまうと、症状を悪化させたり、跡が残ってしまったりすることもあります。
この記事では、ダニ刺されと蕁麻疹の見分け方から、皮膚科で処方される薬の種類、効果を最大限に引き出すための使い方まで、詳しく解説していきます。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
これってダニ刺され?蕁麻疹との見分け方
強いかゆみを伴う皮膚のトラブルは、日常生活にも影響を及ぼすつらいものです。その原因がダニ刺されなのか、それとも蕁麻疹なのかを正しく見極めることが、適切なケアへの第一歩となります。
ダニ刺されの症状と特徴的なサイン
ダニ刺されによる皮膚炎は、主にイエダニやツメダニなどが原因で起こり、寝具やカーペット、ソファなどに潜んでおり、夜間に人を刺して吸血することが多いのが特徴です。
朝起きた時にかゆみや発疹に気づくケースがよく見られ、ダニに刺された場合、刺された箇所が中心となって赤い発疹が現れます。
よく見ると、発疹の中心にダニが刺した痕(刺し口)が二つ並んでいたり、一つだけ確認できたりすることがあり、これはダニ刺されの有力なサインです。かゆみは刺されてから数時間後~2日後に強くなる傾向があり、しつこく続くことが多いです。
発疹は、蚊に刺されたときのような膨らみ(丘疹)や、内部に液体が溜まった水ぶくれ(水疱)になることもあります。
特に、肌の柔らかい部分が狙われやすく、一つのエリアに複数の発疹が集中して現れることも、ダニ刺されでよく見られるパターンです。
ダニ刺されで観察される主な皮膚症状
症状の種類 | 見た目の特徴 | かゆみの強さ |
---|---|---|
紅斑(こうはん) | 赤い斑点や盛り上がり | 強い |
丘疹(きゅうしん) | 小さく盛り上がった発疹 | 非常に強い |
水疱(すいほう) | 内部に液体が溜まった水ぶくれ | 強い、痛みを伴うことも |
蕁麻疹の症状と主な原因
蕁麻疹は、蚊に刺されたときのように、皮膚の一部が赤く盛り上がる膨疹(ぼうしん)が特徴的な皮膚の病気です。膨疹は、数十分から数時間以内に跡形もなく消えることがほとんどですが、場所を変えて繰り返し現れることも少なくありません。
大きさや形はさまざまで、円形のものから地図のように広がるものまであります。
蕁麻疹の原因は多岐にわたり、特定の食べ物や薬剤、植物、虫刺されなどが引き金となるアレルギー性のものと、原因がはっきりしない非アレルギー性のものに大別されます。
ストレスや疲労、物理的な刺激(圧迫、寒冷、温熱など)、発汗なども蕁麻疹を誘発する要因となることがあります。
ダニ刺されと異なり、蕁麻疹には刺し口が見られず、また、発疹が短時間で現れたり消えたりを繰り返す点も、重要な見分けるポイントです。
蕁麻疹の主な誘因
- 食物(サバ、エビ、カニなど)
- 薬剤(抗菌薬、解熱鎮痛薬など)
- 物理的刺激(摩擦、圧迫、寒暖差)
- ストレス、疲労
- 感染症
症状が出やすい体の部位の違い
ダニ刺されと蕁麻疹では、症状が現れやすい体の部位にも違いが見られます。ダニは、衣類で覆われていない、あるいは衣類と肌の間に隙間ができやすい場所を好んで刺す傾向があります。
特に、お腹や腰回り、太ももの内側、二の腕の内側など、皮膚が柔らかく、湿気がこもりやすい部分が被害に遭いやすいです。寝ている間に露出している顔や首、手足が刺されることもあります。
一方、蕁麻疹は体のどこにでも現れる可能性があり、特定の部位に限定されず、お腹や背中、腕、足など、広範囲に出現したり、体のあちこちに移動したりするのが特徴です。
原因となる物質に触れた部分だけに現れる接触蕁麻疹などを除き、基本的には部位を問いません。この全身性、移動性の特徴が、ダニ刺されとの大きな違いです。
症状が現れやすい部位の比較
症状 | 主な好発部位 | 特徴 |
---|---|---|
ダニ刺され | 腹部、腰、脇、太もも、二の腕の内側 | 衣服に隠れ、皮膚が柔らかい部分に集中しやすい |
蕁麻疹 | 全身のあらゆる部位 | 部位を問わず、出現と消退を繰り返す(移動性) |
自分で判断する際の注意点
ある程度はダニ刺されか蕁麻疹かの見当をつけることができますが、中には判断が難しい非典型的な症状もあります。
虫刺されがきっかけでアレルギー反応が広がり、全身に蕁麻疹のような発疹が出ること(虫刺されアレルギー)もあり、また、複数の原因が重なっている可能性も否定できません。
自己判断で市販薬を使用しても症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、速やかに皮膚科を受診することが重要です。
かゆみが非常に強い、発疹が広範囲に及んでいる、水ぶくれが破れてしまった、発熱や倦怠感など全身の症状を伴うといった場合には、専門的な治療が必要です。
ダニ刺されと蕁麻疹の皮膚の反応
多くの人を悩ませる、しつこいかゆみ。なぜダニに刺されたり、蕁麻疹が出たりすると、これほどまでにかゆくなるのでしょうか。背景には、体内で起こっている防御反応が関わっています。
ダニの唾液成分によるアレルギー反応
ダニが人を刺すとき、吸血をスムーズに行うために唾液を皮膚に注入し、唾液には、血液の凝固を防ぐ成分や麻酔作用のある成分など、さまざまなタンパク質が含まれています。
体は唾液成分を異物(アレルゲン)と認識し、体を守るために免疫システムを作動させ、この免疫反応の一つが、アレルギー反応です。
体がアレルゲンを感知すると、マスト細胞(肥満細胞)という細胞から、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。
ヒスタミンが、知覚神経を刺激して強いかゆみを起こしたり、血管を拡張させて皮膚に赤みや腫れをもたらしたりするのです。
ダニ刺されのかゆみや赤みは、ダニの唾液に対するアレルギー反応によって引き起こされる症状で、反応の強さには個人差があり、アレルギー体質の方は強い症状が出やすい傾向があります。
蕁麻疹を引き起こすヒスタミンの働き
蕁麻疹もまた、ヒスタミンが深く関わっています。何らかの刺激によって皮膚のマスト細胞が活性化されると、ヒスタミンが大量に放出されます。
このヒスタミンの作用で、皮膚の毛細血管が拡張し、血液中の水分(血漿成分)が血管の外に漏れ出し、漏れ出た水分が皮膚の組織に溜まることで、みみず腫れのような膨疹が形成されます。
同時に、ヒスタミンが知覚神経を刺激することで、激しいかゆみが生じます。血管の拡張は皮膚の赤みとして現れ、血漿の漏出は盛り上がり(浮腫)となり、一連の反応が、蕁麻疹の典型的な症状を作り出しています。
数時間で症状が消えるのは、放出されたヒスタミンが分解されたり、血管の状態が元に戻ったりするためです。ダニ刺されと蕁麻疹は、かゆみの原因物質が同じヒスタミンであることが多いため、症状の対処法にも共通点が見られます。
かゆみを引き起こす主な化学伝達物質
物質名 | 主な働き | 関連する症状 |
---|---|---|
ヒスタミン | 知覚神経刺激、血管拡張 | かゆみ、赤み、腫れ(膨疹) |
ロイコトリエン | 血管透過性の亢進 | 腫れ、炎症の持続 |
サブスタンスP | 神経末端からのヒスタミン遊離促進 | かゆみの増強 |
かきむしりが症状を悪化させる理由
かゆいと、つい無意識に掻いてしまうものですが、掻くという行為は、症状をさらに悪化させる悪循環を生み出してしまいます。
皮膚を掻きむしると、物理的な刺激によって、マスト細胞がさらに活性化され、ヒスタミンなどの化学伝達物質が追加で放出され、かゆみが一層強くなり、さらに掻いてしまうという悪循環に陥るのです。
また、掻くことで皮膚のバリア機能が破壊されます。健康な皮膚は、外部からの刺激や細菌の侵入を防ぐ役割を担っていますが、掻き壊してしまうとその機能が低下します。
傷口から細菌が侵入すると、化膿して「とびひ(伝染性膿痂疹)」などの二次感染を引き起こすリスクが高まり、さらに、炎症が長引くと、皮膚に色素沈着が起こり、茶色いシミのような跡が残ってしまう原因にもなります。
かゆくても掻かないように我慢し、早期に薬で炎症とかゆみを抑えることが、きれいに治すための重要なポイントです。
皮膚科での診断の流れ
自己判断でのケアに限界を感じたり、症状がひどかったりする場合には、皮膚科を受診してください。ここでは、皮膚科を受診した際に、どのような診察が行われるのか、一般的な流れを紹介します。
医師が行う問診の内容
まず医師による問診が行われ、問診は、診断を下す上で非常に重要な情報源となります。
いつから症状が始まったか、どのような状況で症状に気づいたか(例 朝起きたら、屋外活動の後など)、かゆみの強さや種類(チクチク、ムズムズなど)、発疹の経過(ずっと同じ場所にあるか、出たり消えたりするか)。
また、アレルギー歴の有無、最近食べたものや服用した薬、生活環境の変化(旅行、引っ越し、新しいペットなど)についても詳しく質問します。思い当たることがあれば、些細なことでも正直に伝えることが大切です。
問診でよく尋ねられる項目
- 症状の開始時期
- 症状の具体的な内容(かゆみ、赤み、腫れ)
- 症状の変化(場所、時間帯)
- アレルギー歴、既往歴
- 生活環境(ペット、旅行、寝具)
視診でチェックするポイント
問診の次に行われるのが、発疹の状態を直接目で見て確認する視診です。医師は、皮膚の症状を詳細に観察することで、病気の種類を判断します。
必要に応じて、ダーモスコープという拡大鏡を用いて、発疹の中心部などを詳しく調べることもあります。
視診では、発疹の形、色、大きさ、分布範囲、配列などを注意深くチェックし、ダニ刺されであれば、刺し口の有無や、発疹が体の柔らかい部分に集中しているかなどを確認します。
蕁麻疹であれば、膨疹の形状や、短時間で消退する特徴が見られるかどうかがポイントになります。
また、皮膚を掻いた跡(掻破痕)や、二次感染の兆候(じゅくじゅくした浸出液や黄色いかさぶた)、色素沈着の有無なども診断や治療方針の決定に役立つ情報です。
必要に応じて行う検査の種類
多くの場合、問診と視診で診断がつきますが、症状が非典型的であったり、他の病気との鑑別が必要であったりする場合には、追加で検査を行うことがあります。
アレルギー性の蕁麻疹が疑われる場合は、原因アレルゲンを特定するために血液検査(特異的IgE抗体検査)を実施することがあり、特定の花粉や食物、ハウスダストなど、何に対してアレルギー反応を起こしているかを知ることができます。
また、皮膚の一部を小さく採取して顕微鏡で調べる皮膚生検は、他の皮膚疾患との鑑別が難しい場合に行われることがあります。
ダニ刺されが強く疑われるものの、確定診断が難しい場合には、寝具のホコリなどを採取してダニの有無を調べる環境調査を勧めることもあります。
皮膚科で行われることがある主な検査
検査名 | 目的 | どのような場合に行うか |
---|---|---|
血液検査(特異的IgE抗体) | アレルギーの原因物質の特定 | アレルギー性蕁麻疹が疑われる場合 |
皮膚生検 | 病理組織学的な診断 | 他の皮膚疾患との鑑別が難しい場合 |
ダーモスコピー | 皮膚表面の拡大視 | 刺し口の確認や色素性病変の鑑別 |
皮膚科で処方される主な治療薬(塗り薬)
皮膚科での治療の中心となるのが、炎症やかゆみを直接抑えるための塗り薬(外用薬)です。症状の強さや範囲、部位に応じて、さまざまな種類の薬が使い分けられます。
ステロイド外用薬の強さと役割
ダニ刺されなど、炎症が強くかゆみが激しい症状に対して、最も効果的な治療薬の一つがステロイド外用薬です。ステロイドには、炎症を引き起こす細胞の働きを強力に抑え、赤み、腫れ、かゆみを速やかに鎮める作用があります。
ステロイド外用薬は、その効果の強さによって5つのランクに分類されていて、患者さんの年齢、症状の重症度、塗る部位の皮膚の厚さなどを総合的に考慮して、最も適切な強さの薬を選択します。
顔や首などの皮膚が薄い部位には比較的マイルドなランクのものを、手足などの皮膚が厚い部位にはより強力なランクのものを用いるのが一般的です。
副作用を心配する方もいますが、医師の指導のもとで適切な期間、適切な量を使用すれば、非常に安全で効果の高い薬です。
ステロイド外用薬の強さのランク
ランク | 強さ | 主な使用部位の例 |
---|---|---|
I群 (Strongest) | 最も強い | 手足の厚い皮膚、重度の症状 |
II群 (Very Strong) | かなり強い | 体幹、四肢 |
III群 (Strong) | 強い | 体幹、四肢(比較的軽度) |
IV群 (Medium) | 普通 | 顔、首、陰部などのデリケートな部位 |
V群 (Weak) | 弱い | 乳幼児、顔などの特にデリケートな部位 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、ステロイドを含まない塗り薬で、比較的軽度の炎症を抑える目的で使用されます。ステロイドほどの強力な作用はありませんが、その分、副作用の心配が少なく、長期的に使用しやすいのが特徴です。
ダニ刺されの症状が非常に軽い場合や、ステロイド治療によって炎症が治まった後の維持療法、あるいはステロイドの使用を避けたいデリケートな部位などに用いられることがあります。
ただし、強いかゆみや腫れを伴う急性期の症状に対しては、効果が不十分な場合が多いです。
また、接触皮膚炎(かぶれ)を起こすことがあるため、塗った部分に赤みやかゆみの悪化が見られた場合は、使用を中止して医師に相談する必要があります。
かゆみを抑える抗ヒスタミン外用薬
かゆみの原因物質であるヒスタミンの働きをブロックすることで、かゆみを鎮める効果を持つのが抗ヒスタミン外用薬です。炎症を抑える作用はほとんどありませんが、局所的なかゆみを和らげるのに役立ちます。
蕁麻疹のように、炎症よりもかゆみが主体の症状に対して用いられることがあり、また、ダニ刺されにおいても、ステロイド外用薬と併用して、かゆみを抑える目的で処方されることもあります。
清涼感のある成分が配合されている製品もあり、塗ることでスーッとした感覚が得られ、一時的にかゆみを紛らわす効果も期待できます。
症状が強い場合に処方される治療薬(飲み薬)
塗り薬だけでは症状のコントロールが難しい場合、例えばかゆみが非常に強くて眠れない、発疹が全身に広がっている、といったケースでは、体の中から作用する飲み薬(内服薬)が処方されます。
抗ヒスタミン薬の役割と効果
ダニ刺されや蕁麻疹の治療で最も一般的に用いられる飲み薬が、抗ヒスタミン薬で、かゆみや膨疹の原因となるヒスタミンが、体内の受容体と結合するのをブロックする働きがあります。
ヒスタミンの作用を根本から抑えるため、かゆみや赤み、腫れに対して高い効果を発揮し、次々と新しい発疹が現れる蕁麻疹の治療においては、中心的な薬剤です。
抗ヒスタミン薬を服用することで、新たな膨疹の出現を抑え、既存の膨疹の消退を早めることができます。ダニ刺されにおいても、広範囲に多数刺された場合や、かゆみが激しい場合に処方され、つらいかゆみを和らげてくれます。
初期の抗ヒスタミン薬には眠気の副作用が強く出るものがありましたが、近年開発された第二世代の薬は、眠気が出にくく、日中の活動に影響を与えにくいものが主流です。
抗ヒスタミン薬の世代による特徴
世代 | 主な特徴 | 副作用(眠気) |
---|---|---|
第一世代 | 効果発現が速いが、持続時間が短い | 比較的出やすい |
第二世代 | 効果の持続時間が長く、1日1回の服用で済むものが多い | 出にくい、あるいは出ないものが多い |
抗アレルギー薬の種類と特徴
抗アレルギー薬は、抗ヒスタミン作用に加えて、アレルギー反応に関わる他のさまざまな化学伝達物質(ロイコトリエンなど)の放出を抑える働きも併せ持つ薬の総称です。
広い意味では、第二世代抗ヒスタミン薬の多くがこのカテゴリーに含まれ、ヒスタミン以外の物質が関与する複雑なアレルギー反応を多角的に抑えることができます。
慢性的な蕁麻疹の管理や、アトピー性皮膚炎など、他のアレルギー疾患を合併している場合の症状コントロールにも用いられる薬剤です。
即効性だけでなく、アレルギー反応自体を起こしにくくする体質改善のような効果も期待できるため、症状を繰り返す場合に継続的に服用することがあります。
短期間で炎症を抑えるステロイド内服薬
塗り薬や抗ヒスタミン薬を使用しても症状が全く改善しない、非常に重症な蕁麻疹や、激しいアレルギー反応を伴う虫刺されなど、限定的なケースではステロイドの内服薬が処方されることがあります。
ステロイド内服薬は、極めて強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を持ち、劇的に症状を改善させる効果がありますが、強力さゆえに、長期的に使用すると全身性の副作用のリスクも伴います。
皮膚科での使用は、症状が最もひどい時期に限定し、短期間(数日~1週間程度)に限るのが原則です。症状が改善したら、速やかに減量し、中止します。
医師の厳密な管理下で使用される薬であり、自己判断で服用量を変更したり、中止したりすることは絶対に避けてください。
薬の効果を最大限に引き出す正しい使い方
皮膚科で適切な薬を処方されても、使い方を間違えてしまうと、期待した効果が得られないばかりか、かえって症状を長引かせてしまうこともあります。
塗り薬の適切な量と塗り方
塗り薬は、量が少なすぎると十分な効果が得られず、多すぎても副作用のリスクが高まる可能性があり、適切な量を知ることが大切です。
チューブタイプの軟膏やクリームの場合、大人の人差し指の第一関節から指先まで薬を出した量(約0.5g)が、大人の手のひら2枚分の面積に塗る量の目安となり、これをフィンガーチップユニット(FTU)と呼びます。
塗る際は、患部に薬を点々と置き、擦り込まずに優しく、皮膚のシワに沿って均一に広げます。テカテカと光るくらい、あるいはティッシュペーパーが貼りつくくらいの量が適量です。
掻き壊してじゅくじゅくしている部位は避け、その周りの赤い部分に塗るようにしましょう。入浴後の皮膚が清潔で柔らかくなっているタイミングで塗ると、薬の浸透が良くなり効果的です。
フィンガーチップユニット(1FTU)で塗れる範囲の目安
- 顔全体 約2.5 FTU
- 片腕 約3 FTU
- 片足 約6 FTU
飲み薬を服用するタイミングと注意点
飲み薬は、医師の指示通りに決められた用法・用量を守ることが最も重要で、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬は、血中濃度を一定に保つことで効果を発揮するため、毎日決まった時間に服用することが望ましいです。
飲み忘れたからといって、次に2回分をまとめて飲むようなことは避けてください。眠気の副作用が出る可能性がある薬については、車の運転や危険な機械の操作は控える必要があります。
また、他の薬を服用している場合や、持病がある場合、妊娠中・授乳中である場合は、必ず診察時に医師に伝えることが大事です。
治療中のスキンケアと生活上の工夫
薬による治療と並行して、日々のスキンケアや生活習慣を見直すことも、症状の改善を早める上で役立ちます。皮膚のバリア機能が低下している状態なので、肌を優しくいたわることが基本です。
入浴時は、熱いお湯や長時間の入浴は避け、ぬるめのお湯で優しく洗い、石鹸やボディソープは低刺激性のものを選び、ナイロンタオルなどでゴシゴシこすらず、手で泡立ててなでるように洗います。
入浴後は、すぐに保湿剤を塗って皮膚の乾燥を防ぎます。保湿は、症状が出ている部位だけでなく、全身に行うのが理想です。また、衣類は肌触りの良い綿素材のものを選び、締め付けの強い服装は避けましょう。
アルコールや香辛料の多い食事は、体を温めてかゆみを増強させることがあるため、症状が強い時期は控えるのが無難です。
治療中の生活で心がけたいこと
- ぬるめのお湯での入浴
- 低刺激性の洗浄料の使用
- 入浴後すぐの保湿ケア
- 肌に優しい衣類の選択
- 刺激の強い食事を避ける
薬を使っても改善しない場合の対処法
指示通りに薬を使用していても、数日間全く症状が改善しない、あるいはかえって悪化しているように感じる場合は、ためらわずに再度皮膚科を受診してください。
考えられる可能性として、診断が違っている、処方された薬の強さや種類が合っていない、薬によるかぶれ(接触皮膚炎)を起こしている、あるいは二次感染を併発している、などが挙げられます。
再診察により、医師は改めて症状を評価し、治療方針を見直します。薬の変更や追加、あるいは別の治療法の提案など、新たなアプローチを検討します。
ダニ刺されと蕁麻疹の再発を防ぐために
つらい症状が治まった後、多くの方が願うのは再発の防止でしょう。ダニ刺されも蕁麻疹も、原因となる要因を生活の中から取り除くことで、再発のリスクを大幅に減らすことが可能です。
ダニの発生源と効果的な駆除方法
家庭内に生息するダニの多くは、人のフケやアカ、食べこぼしなどをエサにしています。そして、高温多湿の環境を好むため、寝具(布団、マットレス、枕)、カーペット、布製のソファ、ぬいぐるみなどが、ダニの温床となりやすい場所です。
ダニ対策の基本は、エサとなるゴミを取り除き、ダニが生息しにくい環境を作ることで、最も効果的なのは、こまめな掃除と換気です。掃除機は、1平方メートルあたり20秒以上かけてゆっくりと動かし、ダニの死骸やフンを吸い取ります。
寝具は、定期的に天日干しや布団乾燥機にかけることで、湿気を取り除き、ダニの繁殖を抑制できます。シーツや布団カバー、枕カバーは、週に1回以上洗濯するのが理想的で、ダニは50℃以上の熱で死滅するため、乾燥機の使用も有効です。
ダニが潜みやすい場所と対策
場所 | 主な対策 | 頻度の目安 |
---|---|---|
寝具 | 掃除機がけ、天日干し、布団乾燥機、カバー類の洗濯 | 週に1~2回 |
カーペット・ラグ | 掃除機がけ(念入りに)、定期的な洗浄 | 毎日~2日に1回 |
布製ソファ | 掃除機がけ、カバーの洗濯 | 週に1回 |
室内環境を清潔に保つポイント
ダニだけでなく、カビなどのアレルゲンを減らすためにも、室内の環境整備は重要です。ダニが繁殖しやすい条件は、温度20~30℃、湿度60%以上と言われているため、室内の風通しを良くし、湿度をコントロールすることが予防につながります。
天気の良い日には窓を開けて空気を入れ替え、湿気を外に逃がし、寝室やリビングなど、長時間過ごす部屋は意識的に換気することが大切です。除湿機やエアコンのドライ機能を活用して、室内の湿度を50%前後に保ってください。
また、家具の配置を工夫して、空気の流れを妨げないようにすることもポイントです。部屋の隅や家具の裏側はホコリが溜まりやすく、ダニの隠れ家になりがちなので、定期的に動かして掃除しましょう。
蕁麻疹の原因を特定し避ける生活
蕁麻疹の再発を防ぐためには、自分の症状の引き金となる原因(誘因)を知り、日常生活で避ける工夫が必要で、原因が特定の食物や薬剤である場合は、摂取しないことが基本となります。
原因がはっきりしない場合でも、疲労やストレスが溜まると症状が出やすいと感じる方は、十分な休息と睡眠をとり、リラックスできる時間を作ることが大切です。
また、衣類の締め付けやカバンの摩擦など、物理的な刺激が原因となる場合は、ゆったりとした服装を心がけたり、荷物を軽くしたりする工夫が有効です。寒さや暖かさが刺激になる場合は、急激な温度変化を避けましょう。
よくある質問
ダニ刺されや蕁麻疹に関して、患者さんから寄せられることの多い質問と回答をまとめました。
- 市販薬と処方薬の違いは何ですか?
-
市販薬と皮膚科で処方される薬の最も大きな違いは、有効成分の種類と含有量です。
特にステロイド外用薬において、市販薬に含まれる成分は、医師の処方箋がなくても安全に使用できるよう、比較的効果がマイルドなものに限られているため、炎症が強い症状に対しては、効果が不十分なことがあります。
一方、処方薬は、医師が患者さんの症状を直接診断した上で、最適な強さと種類の薬を選択します。市販薬よりも強力なステロイド外用薬や、新しい世代の抗ヒスタミン内服薬など、治療の選択肢が格段に多いです。 - 跡を残さずに治す方法はありますか?
-
ダニ刺されの跡(炎症後色素沈着)は、炎症が長引くことや、掻き壊しによって皮膚の深い部分までダメージが及ぶことが主な原因です。
跡を残さずに治すための最大のポイントは、初期段階で炎症と痒みを強力に抑え、掻かないようにすることで、症状が出たら早めに皮膚科を受診し、適切な強さのステロイド外用薬で治療を開始することが重要になります。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬の飲み薬を併用して、掻いてしまうのを防ぎます。治療中は、患部を刺激しないように注意し、紫外線対策も行いましょう。
万が一、跡が残ってしまった場合でも、保湿ケアを続け、肌のターンオーバーを促すことで、数ヶ月から1年ほどで徐々に薄くなっていくことがほとんどです。
- 子どもが刺された場合、どうすれば良いですか?
-
お子さん、特に乳幼児は、大人に比べて皮膚のバリア機能が未熟で、虫刺されに対して強い反応が出やすい傾向があります。赤く腫れ上がったり、水ぶくれになったりすることも珍しくありません。
また、かゆみを我慢できずに掻き壊してしまい、そこから細菌が入って「とびひ」になってしまうケースも多いです。
子どもがダニに刺された場合、まずは患部を冷やしてかゆみを和らげ、掻かないように爪を短く切っておきましょう。市販の薬もありますが、お子さんの年齢や症状に適しているかどうかの判断は難しいものです。発疹が広範囲に及んでいたり、腫れがひどかったり、掻き壊してじゅくじゅくしていたりする場合には、早めに小児科か皮膚科を受診してください。
以上
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