有料老人ホームへの入居を検討する際、ご自身やご家族の健康状態に合わせた医療ケアが受けられるかどうかは、とても重要な判断基準です。
特に、持病の管理や専門的な医療処置が必要な方にとって、施設のサービスだけで十分なのか、あるいは外部の訪問看護を利用できるのかという点は、大きな関心事でしょう。
施設で提供されるケアには限りがあり、個別の医療ニーズに完全に対応できない場合もあります。
この記事では、有料老人ホームにおける訪問看護の利用可否から、具体的なサービス内容、費用、手続きの流れに至るまで、解説します。
有料老人ホームと訪問看護の基本的な関係
有料老人ホームでの生活において、医療ニーズが高まった際に重要な選択肢となるのが訪問看護です。施設の種類によって訪問看護との関わり方が異なるため、まずは基本的な知識を整理しておくことが大切です。
有料老人ホームの種類と特徴
有料老人ホームは、提供されるサービスの内容によって主に3つの種類に分けられ、それぞれの特徴を理解することが、適切な施設選びの第一歩です。
入居後の生活や受けられるケアが大きく異なるため、ご自身の心身の状態や希望するライフスタイルに合わせて検討する必要があります。単に施設の綺麗さや立地だけでなく、サービスの質や体制をしっかり見極めることが重要です。
有料老人ホームの主な種類
種類 | 主な特徴 | 向いている方 |
---|---|---|
介護付き有料老人ホーム | 食事、清掃、健康管理に加え、施設スタッフによる24時間体制の介護サービス(入浴、排泄、食事介助など)を提供します。「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、ケアプラン作成からサービス提供まで施設内で完結します。 | 常に介護が必要な方や、将来的な介護への不安が大きく、包括的なケアを一つの場所で受けたい方。 |
住宅型有料老人ホーム | 食事や清掃などの生活支援サービスが中心です。介護が必要な場合は、外部の訪問介護やデイサービスなどの事業者と個別に契約します。必要なサービスを自分で選んで組み合わせる「アラカルト方式」が特徴です。 | 現在は自立しているが将来に備えたい方、または必要なサービスを自分で柔軟に選びたい方。 |
健康型有料老人ホーム | 自立して生活できる高齢者が対象です。食事などのサービスはありますが、介護が必要になると退去が原則となります。レクリエーションやサークル活動が充実している施設が多いです。 | アクティブなシニアライフを楽しみ、家事の負担を軽減したいと考えている、健康で自立した方。 |
訪問看護とはどのようなサービスか
訪問看護は、病気や障がいを持つ方が住み慣れた場所でその人らしい療養生活を送れるように、看護師などが生活の場へ訪問し、ケアを提供するサービスです。
主治医の指示に基づき、専門的な視点で利用者の状態を観察し、必要な医療処置や助言を行います。
単に病気の治療を補助するだけでなく、利用者のQOL(生活の質)を維持・向上させることを目的とし、身体的なケアから精神的なサポートまで、包括的に関わります。
なぜ有料老人ホームで訪問看護が必要になるのか
有料老人ホームには多くの場合、日中に看護師が常駐していますが、役割は入居者全体の健康管理が主であり、夜間は不在であったり、実施できる医療行為に制限があったりします。
そのため、施設内のケアだけでは対応しきれない専門的な医療ニーズが生じた際に、訪問看護の利用が検討されます。
退院直後で集中的なケアが必要な場合、管理が複雑な医療機器を使用している場合、あるいは終末期を穏やかに過ごしたいと希望する場合など、個別の状況に応じた専門的な介入が求められるのです。
訪問看護の利用が検討される状況
- 点滴やインスリン注射などの継続的な医療処置
- 専門的な知識を要する褥瘡(床ずれ)の処置
- 在宅酸素療法や人工呼吸器などの医療機器管理
- がんの疼痛管理や看取りなどの緩和ケア
- 機能回復・維持を目指す専門的なリハビリテーション
施設と訪問看護の連携の重要性
有料老人ホームで訪問看護を利用する場合、施設スタッフと訪問看護ステーションのスタッフが密に連携することが、質の高いケアを提供する上でとても重要です。
日々の健康状態やケアの内容に関する情報を共有し、それぞれの専門性を活かして役割分担することで、一貫性のあるケアが実現します。
定期的なカンファレンス(担当者会議)を開いたり、連絡ノートを活用したりして、利用者のわずかな変化も見逃さない体制を築きます。
有料老人ホームでの訪問看護利用可否
有料老人ホームと一言でいっても、種類によって訪問看護の利用ルールは大きく異なります。「介護付きだから安心」、「住宅型だから不便」、と一概には言えません。
ここでは、それぞれの施設形態における訪問看護の利用可否と、背景にある制度について詳しく解説します。
介護付き有料老人ホームの場合
介護付き有料老人ホームは、特定施設入居者生活介護の指定を受けており、施設自身が包括的な介護サービスを提供します。このため、原則として施設に所属する看護師や介護職員がケアを担当し、外部の訪問看護は介護保険では利用できません。
ただし、法律で定められた特定の条件下では、外部の訪問看護ステーションを医療保険で利用することが可能です。
介護付き有料老人ホームで外部の訪問看護を利用できる条件
条件 | 具体的な内容 | 根拠 |
---|---|---|
主治医の特別指示 | 急性増悪期や退院直後など、主治医が一時的に頻回な訪問看護が必要と判断した場合に発行される「特別訪問看護指示書」がある場合。(通常、月14日間が上限) | 医療保険 |
末期の悪性腫瘍など | 厚生労働大臣が定める特定の疾患(末期がん、多発性硬化症、パーキンソン病関連疾患など)を持つ方。回数制限なく利用可能です。 | 医療保険 |
精神科訪問看護 | 精神疾患を持つ方への専門的なケアとして、主治医が「精神科訪問看護指示書」を発行した場合。 | 医療保険 |
住宅型有料老人ホームの場合
住宅型有料老人ホームは、生活支援サービスを提供する住まいとしての側面が強い施設です。
介護サービスは含まれていないため、入居者は自身の必要に応じて、外部の訪問介護やデイサービス、そして訪問看護といった介護保険サービスを自由に選択し、個別に契約します。この自由度の高さが住宅型の大きな特徴です。
ケアマネジャーと相談しながら、自分だけのケアプランを組み立て、必要な医療ケアを柔軟に組み合わせたい方にとっては有利な選択肢となります。
健康型有料老人ホームの場合
健康型有料老人ホームは、自立した生活が送れる高齢者を対象としているため、基本的に介護や医療ケアを前提としていません。もし入居後に常時介護が必要な状態になった場合は、原則として契約を解除し、住み替えを検討する必要があります。
健康型有料老人ホームで訪問看護を継続的に利用する、という選択肢は一般的ではないので、入居を検討する際は、将来介護が必要になった場合の対応について、事前に確認しておくことが大事です。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)との違い
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、有料老人ホームとは異なり、主に自立から軽度の要介護状態の高齢者を対象とした賃貸借契約が基本の住宅です。
安否確認と生活相談サービスが義務付けられていますが、介護や医療サービスは住宅型有料老人ホームと同様に、外部の事業者と個別に契約します。
訪問看護の利用に関しても、住宅型有料老人ホームとほぼ同じ考え方で、自由に事業者を選んで利用できます。法的な位置づけが異なる点を理解しておきましょう。
施設形態と訪問看護利用の自由度
施設形態 | 介護サービスの提供形態 | 訪問看護の利用 |
---|---|---|
介護付き有料老人ホーム | 施設が包括的に提供(介護保険) | 原則として施設が対応(医療保険での例外利用あり) |
住宅型有料老人ホーム | 外部サービスと個別契約 | 介護保険・医療保険で自由に選択・契約可能 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 外部サービスと個別契約 | 介護保険・医療保険で自由に選択・契約可能 |
訪問看護で受けられる医療ケア
訪問看護師は主治医の指示のもと、多岐にわたる専門的なケアを提供します。単なるお世話ではなく、利用者の病状や生活に合わせた医療的なアプローチで、在宅での療養生活を力強く支えます。
日常的な健康管理とバイタルチェック
訪問看護の基本は、利用者の日々の健康状態を注意深く観察することです。血圧、体温、脈拍、呼吸などのバイタルサインを定期的に測定し、全身の状態を評価します。
客観的なデータと、利用者との対話から得られる「いつもと違う」という主観的な情報を総合的に判断し、異常の早期発見に努め、病状の悪化を未然に防ぎ、安定した生活を維持することにつなげます。
測定したデータは記録し、主治医や施設スタッフと共有します。
医療処置(点滴、褥瘡ケア、インスリン注射など)
看護師は、医師の指示に基づいてさまざまな医療処置を実施し、これには、在宅での療養生活を支える上で大事なケアが多く含まれます。専門的な知識と技術を要するため、家族だけでは対応が難しい処置も安心して任せることができます。
訪問看護で対応可能な主な医療処置
- 点滴、静脈注射、筋肉注射(脱水予防、抗生剤投与など)
- 血糖測定、インスリン自己注射の管理・指導
- 褥瘡(床ずれ)の予防、悪化防止、専門的な処置
- ストーマ(人工肛門・人工膀胱)の皮膚ケアと装具交換
- 在宅酸素療法、吸引、人工呼吸器などの医療機器管理
- 胃ろう、腸ろう、尿道カテーテルなどの管理とケア
リハビリテーション
訪問看護では、病気やけがによって低下した身体機能の回復・維持を目的としたリハビリテーションも行います。
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士と連携することもありますが、看護師自身も日常生活動作(ADL)の維持・向上を目指したリハビリを提供します。
関節が硬くなるのを防ぐ運動や、寝返り・起き上がり・歩行などの基本的な動作訓練、安全に食事を摂るための嚥下(飲み込み)機能の訓練など、利用者の状態と目標に合わせて計画的に実施します。
精神的なケアと家族への支援
病気や障がいを抱えながらの生活は、身体的な負担だけでなく、孤独感や将来への不安といった精神的なストレスも大きくなりがちです。訪問看護師は、利用者やその家族との対話を大切にし、不安な気持ちに寄り添い、精神的な支えとなります。
また、介護に関する悩みや相談に応じ、介護者の負担を軽減するための助言や、介護方法の指導、社会資源の紹介なども行います。利用者本人だけでなく、家族を含めた生活全体をサポートする視点が重要です。
訪問看護を利用する際の手続きと流れ
有料老人ホームで訪問看護を利用したいと思っても、何から始めればよいか分からない方も多いでしょう。サービスをスムーズに開始するためには、正しい手順を踏むことが大切です。
主治医への相談と指示書の依頼
訪問看護は医療サービスであるため、必ず主治医の指示が必要です。まずは、かかりつけの主治医(施設の協力医療機関の医師など)に、訪問看護を利用したい旨を相談します。
その際、現在の困りごとや訪問看護に期待することを伝えると、医師も判断しやすくなります。医師が必要性を認めた場合、訪問看護ステーション宛ての「訪問看護指示書」を作成してもらいます。
指示書がなければ、訪問看護サービスは開始できません。
訪問看護ステーションの選定
次に、利用する訪問看護ステーションを選びます。住宅型有料老人ホームなどでは、施設が提携しているステーションを紹介されることもありますが、基本的には自分で選ぶことができます。
ケアマネジャーに相談して、地域のステーションの情報を集め、複数の事業所から話を聞くことをお勧めします。
訪問看護ステーション選びの比較ポイント
比較項目 | 確認する内容 | 重要度 |
---|---|---|
専門性・実績 | 希望するケア(緩和ケア、リハビリ、精神科など)の実績が豊富か。 | 高 |
24時間対応 | 緊急時に24時間365日電話相談や訪問を依頼できる体制があるか。 | 高 |
スタッフ体制 | 看護師の人数や経験年数、理学療法士などの専門職が在籍しているか。 | 中 |
施設側との調整と契約
利用する訪問看護ステーションが決まったら、有料老人ホームの施設長やケアマネジャーに報告し、調整を行います。
訪問看護師が施設に出入りする時間や、ケアを行う場所(居室など)、情報共有の方法(連絡ノートや定期的な面談)などを取り決めます。施設との良好な連携体制を築くための重要な段階です。
その後、利用者(または家族)と訪問看護ステーションとの間で正式な利用契約を結びます。
ケアプランの作成とサービス開始
契約後、訪問看護ステーションの担当者が利用者や家族、施設スタッフと面談(初回訪問)し、ケアプラン(訪問看護計画書)を作成します。主治医の指示書と利用者の希望に基づき、訪問の頻度や時間、ケアの内容を決定します。
計画は一方的に決められるものではなく、利用者の意向を最大限尊重し、計画に全員が合意したら、いよいよ訪問看護サービスの開始です。
費用について知っておくべきこと
訪問看護を利用する上で、費用がどのくらいかかるのかは誰もが気になるところです。利用できる保険の種類や自己負担の割合は、個人の状況によって異なります。
訪問看護にかかる費用の内訳
訪問看護の費用は、主に「基本療養費」と「加算料金」で構成されます。基本療養費は、訪問1回あたりの基本的な料金で、滞在時間によって異なります。
加算料金は、24時間対応体制(緊急時訪問看護加算など)や専門的な管理、緊急訪問、深夜・早朝の訪問など、特別なサービスを提供した場合に追加される料金です。その他、交通費や特別な衛生材料費などの実費が必要になる場合もあります。
利用できる保険(医療保険と介護保険)
訪問看護は、医療保険と介護保険のどちらかを利用して受けることができます。どちらの保険が適用されるかは、利用者の年齢や病状、要介護認定の有無によって決まります。
原則として、要介護・要支援認定を受けている方は介護保険が優先されますが、厚生労働大臣が定める特定の疾患の方や、主治医から特別訪問看護指示書が交付された場合は医療保険が適用されます。
医療保険と介護保険の適用分け
保険の種類 | 主な対象者 | 特徴 |
---|---|---|
介護保険 | 65歳以上で要支援・要介護認定を受けている方。40~64歳で特定疾病により認定を受けている方。 | ケアプランに位置づけられ、支給限度額の範囲内で利用。自己負担は1~3割。 |
医療保険 | 要介護認定を受けていない方、特定の疾患の方、主治医の特別指示がある方など。 | 年齢に関わらず利用可能。訪問回数は原則週3回までだが、病状により例外あり。自己負担は1~3割。 |
自己負担額の目安
自己負担額は、利用する保険の種類と所得に応じた負担割合(通常1割〜3割)によって決まります。例えば、介護保険を利用して週に1回(60分)の訪問看護を受けた場合、1割負担の方で月に約3,000円〜5,000円程度が目安です。
ただし、これはあくまで一例であり、利用するサービス内容や加算、訪問回数によって大きく変動します。契約前に必ず見積もりを出してもらい、詳細を確認することが大切です。
介護保険利用時の自己負担額(目安)
- 訪問看護Ⅰ(20分未満): 約318円/回
- 訪問看護Ⅲ(30分以上60分未満): 約844円/回
- 訪問看護Ⅳ(60分以上90分未満): 約1,155円/回
※上記は1割負担の場合の基本料金の目安です。緊急時訪問看護加算などの各種加算や、事業所の所在地による地域区分(人件費の地域差を調整するもの)により金額は異なります。
公的な助成制度の活用
医療費の自己負担額が高額になった場合、負担を軽減するための制度があります。
「高額療養費制度(医療保険)」や「高額介護サービス費制度(介護保険)」は、1ヶ月の自己負担額が所得に応じた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
また、特定の疾患や障がいを持つ方は、国や自治体の医療費助成制度を利用できる場合があります。お住まいの市区町村の窓口やケアマネジャー、病院の相談員などに相談してみましょう。
訪問看護ステーション選びのポイント
質の高い訪問看護を受けるためには、自分に合ったステーションを選ぶことが非常に重要です。特に住宅型有料老人ホームなど、自分で事業者を選べる場合には、いくつかのポイントを押さえて慎重に検討する必要があります。
施設の提携先か外部の事業者か
多くの住宅型有料老人ホームには、提携している訪問看護ステーションがあります。提携先を選ぶメリットは、施設との連携がスムーズである点や、手続きが簡便な場合がある点です。
ただし、必ずしも提携先を選ばなければならないわけではありません。外部の事業者も含めて比較検討し、自分のニーズに最も合うところを選ぶ権利があり、選択肢を狭めず、広い視野で探すことが大切です。
提携先と外部事業者の比較
提携ステーション | 外部ステーション | |
---|---|---|
メリット | 施設との連携が円滑。情報共有が密で、手続きが簡単な場合がある。 | 幅広い選択肢から、より専門性の高い事業者や相性の良い事業者を選べる。 |
デメリット | 選択肢が限られる。他の事業者との比較がしにくい場合がある。 | 自分で情報を集め、施設との調整を行う手間がかかることがある。 |
専門性や実績の確認
訪問看護ステーションによって、得意とする分野は異なります。がんの緩和ケアに力を入れている、リハビリ専門のスタッフが充実している、小児や精神疾患のケア実績が豊富であるなど、それぞれに特徴があります。
ご自身が必要とするケアの分野で、高い専門性と豊富な実績を持つステーションを選ぶことが、満足度の高いサービスにつながります。
ステーションのウェブサイトやパンフレットを確認したり、ケアマネジャーに評判を聞いたりするのも良い方法です。
24時間対応体制の有無
日中のケアだけでなく、夜間や休日に容体が急変する可能性も考慮しなければなりません。
24時間365日、いつでも電話で相談でき、必要に応じて緊急訪問してくれる体制が整っているかどうかは、安心して在宅療養を続けるための大事なポイントです。
契約前に、緊急時の連絡方法や、電話相談・緊急訪問の料金体系について具体的に確認しておきましょう。
スタッフとの相性や説明の分かりやすさ
訪問看護は、看護師がプライベートな空間である居室に入り、デリケートなケアを行う、非常にパーソナルなサービスです。そのため、技術や知識はもちろん、スタッフの人柄や自分との相性も無視できません。
契約前の面談や説明の場で、担当者の対応をよく見て、信頼できる相手かどうかを判断することが大切です。質問に対して丁寧に、専門用語を多用せず分かりやすく説明してくれるかどうかも、良い事業者を見極めるための重要な指標となります。
ステーション選びの最終チェックリスト
- 希望する医療ケア(専門分野)に対応できるか
- 緊急時の24時間対応は万全か、料金はどうか
- 施設との連携は問題なく行えそうか
- 説明は丁寧で分かりやすいか、質問しやすい雰囲気か
- スタッフの雰囲気が自分や家族に合っているか
よくある質問(Q&A)
ここでは、有料老人ホームでの訪問看護利用に関して、多くの方から寄せられる質問と回答をまとめました。
- 施設常駐の看護師との役割分担はどうなりますか
-
介護付き有料老人ホームなどで施設常駐の看護師がいる場合、役割分担は非常に重要です。施設看護師は複数の入居者を対象に、日常的な健康管理(バイタル測定、配薬など)や軽微な処置、健康相談などを担当します。
訪問看護師は特定の利用者個人を対象に、主治医の指示に基づく専門的な処置や管理、集中的なリハビリ、看取りのケアなど、より専門性の高い領域を担当します。
両者がそれぞれの役割を理解し、カンファレンスや連絡ノートで密に情報を共有することで、切れ目のない質の高いケアを提供します。
- 訪問看護の利用を施設に断られることはありますか
-
住宅型有料老人ホームの場合、外部サービスの利用は入居者の権利であるため、正当な理由なく施設側が一方的に拒否することはできません。
しかし、施設によっては「提携先以外の事業者の出入りは管理が煩雑になる」「情報共有が難しい」といった理由で、難色を示すケースも稀にあります。
そのような場合は、まず理由をよく聞き、ケアマネジャーに相談して間に入ってもらい、施設側と話し合いの場を設けることが有効です。
介護付き有料老人ホームの場合は、原則として外部の訪問看護は利用できないため、医療保険が適用される条件に合致しているかどうかがポイントになります。
- 家族が付き添う必要はありますか
-
訪問看護師がケアを行う際に、必ずしも毎回家族が付き添う必要はありません。ご本人の同意があれば、もちろんお一人でサービスを受けることができます。
ただし、病状の説明や今後のケア方針の相談など、重要な話し合いの際には、ご家族に同席をお願いすることがあります。
- 看取りのケアもお願いできますか
-
多くの訪問看護ステーションでは、人生の最期を住み慣れた場所で穏やかに迎えたいと希望する方のために、看取り(ターミナルケア)の支援を行っています。
主治医や施設スタッフと連携し、痛みや息苦しさなどの身体的な苦痛を和らげるケアはもちろん、ご本人やご家族の不安な気持ちに寄り添う精神的なサポートも行います。
ご本人らしい最期を迎えられるよう、意思決定を支援し、希望を尊重したケアを提供します。看取りを希望する場合は、早い段階からその旨をステーションや主治医、施設に伝えておくことが大切です。
以上
参考文献
Yamada M, Arai H. Long-term care system in Japan. Annals of geriatric medicine and research. 2020 Aug 24;24(3):174.
Konishi T, Inokuchi H, Yasunaga H. Services in public long-term care insurance in Japan. Annals of Clinical Epidemiology. 2024;6(1):1-4.
Tsutsui T, Muramatsu N. Care‐needs certification in the long‐term care insurance system of Japan. Journal of the American geriatrics society. 2005 Mar;53(3):522-7.
Iwagami M, Tamiya N. The long-term care insurance system in Japan: past, present, and future. JMA journal. 2019 Mar 4;2(1):67-9.
Nakanishi M, Hattori K, Nakashima T, Sawamura K. Health care and personal care needs among residents in nursing homes, group homes, and congregate housing in Japan: why does transition occur, and where can the frail elderly establish a permanent residence?. Journal of the American Medical Directors Association. 2014 Jan 1;15(1):76-e1.
Sawamura K, Nakashima T, Nakanishi M. Provision of individualized care and built environment of nursing homes in Japan. Archives of gerontology and geriatrics. 2013 May 1;56(3):416-24.
Takezako Y, Ishikawa S, Kajii E. Advance directives in Japanese nursing homes. Journal of pain and symptom management. 2013 Jan 1;45(1):63-70.
Nishino T, Tsukuda H, Matsubara S, Ishii S, Inoue Y, Tachibana H, Yamaguchi K, Sima L, Mimasaku U. A scoping review of studies for senior nursing home planning in Japan—Trajectory of introducing private rooms and unit care system in nursing home. Japan Architectural Review. 2024 Jan;7(1):e12457.
Sawamura K, Nakashima T, Nakanishi M. Provision of individualized care and built environment of nursing homes in Japan. Archives of gerontology and geriatrics. 2013 May 1;56(3):416-24.
Tamiya N, Noguchi H, Nishi A, Reich MR, Ikegami N, Hashimoto H, Shibuya K, Kawachi I, Campbell JC. Population ageing and wellbeing: lessons from Japan’s long-term care insurance policy. The lancet. 2011 Sep 24;378(9797):1183-92.