イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)とは、水虫やたむし、カンジダ症といった皮膚や膣の真菌症の治療に用いられる抗真菌薬です。
これらのトラブルは、カビの一種である真菌が皮膚の角質層や膣の粘膜に感染することで発症し、イソコナゾール硝酸塩は、原因となる真菌の増殖を抑えることで、不快なかゆみや赤み、おりものの変化などの症状を改善に導きます。
この記事では、イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)の効果や正しい使い方、治療期間の目安、副作用などについて、詳しく解説していきます。
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)の有効成分と効果、作用機序
薬がなぜ効くのか仕組みを理解することは、治療を正しく続ける上でとても重要です。ここでは、イソコナゾール硝酸塩がどのようにして真菌に作用し、どのような病気に効果を示すのか、基本となる部分を解説します。
有効成分イソコナゾール硝酸塩とは
イソコナゾール硝酸塩は、イミダゾール系抗真菌薬に分類される成分です。イミダゾール系の薬は、幅広い種類の真菌に対して効果を示します。
水虫の原因となる白癬菌や、皮膚・膣カンジダ症の原因となるカンジダ菌、でんぷうの原因となるマラセチア菌など、日常で遭遇する機会の多い真菌症の原因菌に対して、優れた抗菌活性を発揮します。
効果を発揮する真菌症の種類
イソコナゾール硝酸塩は、真菌が原因で起こる様々な病気に効果があります。皮膚に発症する白癬、皮膚カンジダ症、癜風のほか、膣内に発症する膣カンジダ症が代表的な適応疾患です。
これらの病気は症状が似ていることもありますが、原因となる菌の種類や感染部位が異なります。イソコナゾール硝酸塩は、主要な原因菌に対応できるのが強みです。
イソコナゾール硝酸塩が有効な主な真菌症
疾患群 | 具体的な疾患名 | 主な原因菌 |
---|---|---|
白癬(皮膚) | 足白癬(水虫)、手白癬 | 白癬菌(トリコフィトン属など) |
体部白癬(ぜにたむし) | ||
股部白癬(いんきんたむし) | ||
カンジダ症 | 皮膚カンジダ症(指間びらんなど) | カンジダ・アルビカンスなど |
膣カンジダ症 | ||
その他(皮膚) | 癜風(でんぷう) | マラセチア属菌 |
真菌の増殖を止める作用機序
イソコナゾール硝酸塩は、真菌の細胞膜を構成するのに必要不可欠なエルゴステロールという物質の合成を妨げることで効果を発揮します。
真菌はエルゴステロールを使って自身の細胞膜を作り体の構造を維持していますが、イソコナゾール硝酸塩は、エルゴステロールが作られる過程で働く特定の酵素の働きを阻害します。
この働きにより真菌は正常な細胞膜を作ることができなくなり、膜の構造に異常が生じ、真菌はそれ以上増殖できずやがて死滅に至ります。
人間の細胞膜にはエルゴステロールが存在しないため、人の体への影響は少なく、真菌に対して選択的に作用できるのです。
利用可能な剤形とその特徴
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)には、主に皮膚に塗布するクリームと膣内に挿入する膣錠の2種類の剤形があります。それぞれの用途や特性が異なるため、正しく使い分けることが大切です。
剤形ごとの特徴と主な用途
剤形 | 主な用途 | 特徴・使用方法 |
---|---|---|
クリーム | 皮膚真菌症(水虫、たむし、皮膚カンジダ症など) | しっとりとしており、皮膚への刺激が少ない。患部に直接塗布して使用する。 |
膣錠 | 膣カンジダ症 | 膣内に直接挿入して使用する。有効成分が直接、膣粘膜の患部に作用する。 |
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)の使用方法と注意点
処方された薬の効果を最大限に引き出すためには、指示された通りに正しく使用することが何よりも重要です。ここでは、剤形ごとの基本的な使い方から、安全に治療を続けるための注意点までを詳しく解説します。
基本的な使用方法(クリーム・膣錠)
クリーム剤は通常、1日数回(2〜3回)清潔な手で患部に塗布します。塗る前には、患部を石鹸などで優しく洗い、タオルで水分をしっかり拭き取って清潔な状態にすることが大切です。
薬を塗る際は症状が出ている部分だけでなく、周囲にも少し広めに指の腹で優しく伸ばすように塗ってください。強くすり込む必要はありません。
膣錠は通常1日1回就寝前に、指示された錠数を膣の奥深くに挿入します。手指を清潔にしてから使用し、詳しい挿入方法は処方された医療機関(主に婦人科)で説明を受けてください。
使用時に守るべき注意点
安全かつ効果的に治療を進めるため、以下の点に注意してください。
- クリーム剤は、目やその周辺、唇などの粘膜には使用しない。膣錠を誤って飲んだり、皮膚に塗ったりしない。
- ただれや亀裂がひどい皮膚へのクリームの使用は、刺激を感じることがある。
- 自己判断で薬の使用回数を変えたり、使用期間を短縮したりしない。
- 月経期間中でも、医師の指示があれば膣錠の使用は継続。
適応対象となる患者さん
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)は、皮膚科や婦人科で真菌感染症と正しく診断された方に処方されます。症状だけで自己判断せず専門医による診断を受けることが、適切な治療への第一歩です。
白癬(水虫・たむし)と診断された方
イソコナゾール硝酸塩クリームの主な適応疾患の一つが、白癬菌によって起きる足白癬(水虫)や体部白癬(ぜにたむし)、股部白癬(いんきんたむし)です。
このような疾患では皮膚の一部を採取して顕微鏡で観察し、白癬菌の存在を確認することで確定診断します。かゆみ、皮むけ、赤み、水ぶくれなどの症状が見られ、検査で菌が陽性となった方が治療の対象です。
皮膚カンジダ症と診断された方
皮膚カンジダ症も、クリーム剤の良い適応となります。カンジダ菌は健康な人の皮膚にも存在する常在菌ですが、汗で蒸れたり体の抵抗力が落ちると異常に増殖し、皮膚炎を起こします。
指の間、脇の下、陰部など、湿りやすく擦れやすい部位に好発し、白癬と症状が似ていることもあるため、顕微鏡での検査による鑑別診断が重要です。
膣カンジダ症と診断された方
膣カンジダ症は、イソコナゾール硝酸塩膣錠の適応疾患です。
おりものの変化(白く濁った、カッテージチーズ状のおりもの)、外陰部や膣の強いかゆみ、熱感、痛みなどが主な症状で、おりものの一部を採取して顕微鏡でカンジダ菌を確認することで診断します。
主に婦人科で診断・治療が行われますが、再発を繰り返す方も少なくありません。
適応疾患の概要
疾患名 | 主な症状 | 担当する主な診療科 |
---|---|---|
足白癬、体部白癬など | 皮膚のかゆみ、赤み、皮むけ、水疱 | 皮膚科 |
皮膚カンジダ症 | 皮膚のじくじくした赤み、びらん | 皮膚科 |
膣カンジダ症 | おりものの異常、陰部のかゆみ・痛み | 婦人科 |
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)の治療期間
皮膚や膣の真菌症の治療で最も大切なことの一つは、症状が良くなってもすぐに薬をやめないことです。ここでは、なぜ治療を続ける必要があるのか、そして疾患ごとの一般的な治療期間の目安について解説します。
症状改善後も治療継続が重要な理由
かゆみなどの自覚症状がなくなると、治ったと思って薬の使用をやめてしまう方が少なくありません。
しかし、その時点では、症状を起こしていた活発な真菌がいなくなっただけで、皮膚の角質層の奥深くや膣の粘膜には、まだしぶとく真菌が生き残っています。ここで治療を中断すると、残っていた真菌が再び増殖し、症状が再発してしまいます。
医師から指示された期間きちんと薬を使い切ることが、再発を防ぎ完治を目指す上で非常に大切です。
疾患別の一般的な治療期間
治療に必要な期間は、感染した部位や症状の程度によって異なります。皮膚の角質が厚い場所ほど、クリーム剤の治療に時間がかかる傾向があり、膣錠は、決められた日数をきっちり使い切ることが大切です。
疾患ごとの治療期間の目安
疾患名 | 使用する剤形 | 一般的な治療期間 |
---|---|---|
体部白癬、股部白癬 | クリーム | 最低でも4週間 |
足白癬(水虫) | クリーム | 最低でも4週間〜8週間以上 |
膣カンジダ症 | 膣錠 | 通常、連続して6日間 |
副作用やデメリット
イソコナゾール硝酸塩は適切に使用すれば安全性の高い薬ですが、すべての人に副作用が全く出ないわけではありません。
局所的に起こる可能性のある副作用
副作用のほとんどは、薬を使用した部分に現れる局所的な症状です。クリーム剤の場合は、接触皮膚炎(かぶれ)、発赤、かゆみ、刺激感(ヒリヒリ感)、水疱などが報告されています。
膣錠の場合は膣や外陰部の局所的な刺激感、かゆみ、発赤、痛みなどが現れることがあります。クリーム剤も錠剤も、副作用の発生頻度はそれほど高くはありません。
副作用と思われる症状が出た場合の対処
もし薬を使用した後に元の症状とは異なる強いかゆみや痛み、腫れなどが現れたり、症状が明らかに悪化した場合は、副作用の可能性があります。
その際は、まず薬の使用を中止し、できるだけ早く薬を処方された医療機関を受診し、医師に相談することが大切です。自己判断で様子を見続けたり別の薬を使用したりすると、診断がつきにくくなることがあるため避けてください。
主な副作用と初期対応
剤形 | 主な副作用の症状 | 初期対応 |
---|---|---|
クリーム | 塗布部位のかぶれ、発赤、かゆみ、刺激感 | 使用を中止し、速やかに医師に相談する。 |
膣錠 | 膣や外陰部のかゆみ、痛み、発赤、刺激感 |
全身への影響について
イソコナゾール硝酸塩は外用薬(クリーム・膣錠)であり、体内に吸収される量はごくわずかで、内臓などに影響を及ぼすような全身性の副作用が起こる心配は、通常ありません。
この点が、内服薬(飲み薬)と比較した場合の大きな利点の一つです。
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)で効果がなかった場合
医師の指示通りに真面目に薬を使用しても、症状が一向に改善しない、あるいは悪化するというケースも残念ながらあります。その場合は、いくつかの原因が考えられ、諦めずに医師と相談し原因を追求することが重要です。
診断が間違っている可能性
真菌感染症と非常によく似た症状を示す疾患は数多くあります。
皮膚の症状であれば湿疹や細菌感染症、膣の症状であれば細菌性膣症やトリコモナス膣炎など、専門医でなければ鑑別が難しい病気が隠れていることがあり、抗真菌薬は効果がありません。
症状が改善しない場合は再度、検査を行ったり、別の病気の可能性を考えたりして、診断を見直す必要があります。
薬の使用方法が不適切である可能性
効果が見られない原因として、薬の使い方が正しくないというケースが考えられます。
クリーム剤の塗る回数や量が不十分であったり、症状が少し良くなると塗るのをやめてしまったり、膣錠を指示された日数使い続けなかったり、といったことが挙げられます。
もう一度、医師や薬剤師から受けた説明を思い出し、正しい使用方法が守れているかを確認することが大切です。
他の治療薬との併用禁忌
他の病気の治療のために薬を使用している方や、皮膚の別の症状で他の塗り薬を使用している方もいるでしょう。ここでは、イソコナゾール硝酸塩と他の薬との併用について解説します。
他の外用薬や膣剤との併用
クリーム剤の場合、他の塗り薬との併用については医師の指示に従ってください。自己判断で複数の薬を同じ場所に塗ることは避けましょう。
膣錠を使用している期間中は、他の膣剤や殺精子剤の使用について必ず事前に医師や薬剤師に相談してください。相互に影響を及ぼす可能性があります。
内服薬との相互作用について
イソコナゾール硝酸塩は皮膚や膣の局所で作用する薬であり、全身への吸収は非常に少ないため、飲み薬との間で相互作用が問題になることは基本的にありません。
高血圧や糖尿病などの持病で内服治療中の方でも、通常は問題なく使用できます。ただし、診察時には、使用している薬をすべて医師に伝えることが、安全な治療の大前提です。
イソコナゾール硝酸塩(アデスタン)の保険適用と薬価について
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
保険が適用される条件
医師が診察し、白癬、皮膚カンジダ症、膣カンジダ症といった保険診療の対象となる疾患であると診断した場合に、イソコナゾール硝酸塩の処方は保険適用となります。
薬価の目安と自己負担額
患者さんが窓口で支払う自己負担額は、薬価にご自身の保険の負担割合(通常は3割)を掛けた金額になり、加えて診察料や処方料などがかかります。
薬価と自己負担額の例(3割負担の場合)
医薬品名・剤形 | 薬価 | 自己負担額の目安 |
---|---|---|
アデスタンクリーム1% (10g) | 約150円 | 約45円 + 診察料など |
アデスタン膣錠300mg (1錠) | 約230円 | 約69円/錠 + 診察料など |
以上
参考文献
Veraldi S. Isoconazole nitrate: a unique broad‐spectrum antimicrobial azole effective in the treatment of dermatomycoses, both as monotherapy and in combination with corticosteroids. Mycoses. 2013 May;56:3-15.
Gülüstan F, Abakay MA, Demir E. Efficacy of topical isoconazole nitrate in the treatment of otomycosis. American Journal of Otolaryngology. 2021 Jul 1;42(4):102961.
Czaika VA, Siebenbrock J, Czekalla F, Zuberbier T, Sieber MA. Reactive oxygen species and the bacteriostatic and bactericidal effects of isoconazole nitrate. Mycoses. 2013 May;56:16-22.
Gugnani HC, Akpata LE, Gugnani MK, Srivastava R. Isoconazole nitrate in the treatment of tropical dermatomycoses: Isoconazolnitrat‐Behandlung tropischer Dermatomykosen. Mycoses. 1994 Jan;37(1‐2):39-41.
Dykes PJ, Marks R, Täuber U. The retention of isoconazole in the skin after once or twice daily application of 1% isoconazole nitrate cream (Travogen®) over a 14‐day period. Clinical and experimental dermatology. 1986 Jul;11(4):365-70.
Ghareeb MM, Mohammed MS. Topical nanoemulsion-based gel of isoconazole nitrate. Al Mustansiriyah Journal of Pharmaceutical Sciences. 2023 Oct 9;23(4):378-96.
Karacan E, Çaġlayan MG, Palabiyik İM, Onur F. Liquid chromatographic and spectrophotometric determination of diflucortolone valerate and isoconazole nitrate in creams. Journal of AOAC International. 2011 Jan 1;94(1):128-35.
Oyeka CA, Gugnani HC. Isoconazole nitrate versus clotrimazole in foot and nail infections due to Hendersonula toruloidea, Scytalidium hyalinum and dermatophytes: Isoconazolnitrat versus Clotrimazol bei Fu‐und Nagelinfektionen durch Hendersonula toruloidea, Scytalidium hyalinum und Dermatophyten. Mycoses. 1992 Nov;35(11‐12):357-61.
Veraldi S, Persico MC, Schianchi R. Isoconazole nitrate vs isoconazole nitrate and diflucortolone valerate in the treatment of tinea inguinalis: results of a multicenter retrospective study. Journal of Drugs in Dermatology: JDD. 2012 Nov 1;11(11):e70-3.
Dyas AM, Delargy H. Econazole nitrate. InAnalytical Profiles of Drug Substances and Excipients 1994 Jan 1 (Vol. 23, pp. 125-151). Academic Press.