グロムス腫瘍

グロムス腫瘍（Glomus tumor）とは、主に指先などに存在する「グロムス小体」という、末梢循環や体温調整に関わる細胞に発生する軟部腫瘍を指します。

多くは良性で、小さくても激しい痛みや圧痛を伴いやすい特徴があります。

指先の痛みの原因がわからないまま長引いている場合、グロムス腫瘍の可能性も考えられます。

周囲から理解されにくい痛みが続いて日常生活に支障をきたすこともあり、早期に整形外科や手の外科など専門的な診察を受けることが大切です。

本記事では、グロムス腫瘍の病型や症状、原因、検査・チェック方法、治療方法、薬の副作用やデメリット、そして保険適用や治療費について詳しく解説します。

なお、「グロムス腫瘍」という名称は耳や頭蓋内に発生する傍神経節腫瘍（パラガングリオーマ）にも用いられます。

グロムス腫瘍の病型

発生部位による分類

生物学的挙動に基づくWHO分類

• 良性グロムス腫瘍、悪性の可能性不明（uncertain malignant potential）、悪性グロムス腫瘍に大別
• 悪性の基準は、深部組織に発生し2cmを超えている大きさである点、顕微鏡下で核異型や分裂像を認める点など

グロムス腫瘍の症状

以下ではグロムス腫瘍に特徴的な症状や、痛みの特徴、また症状により日常生活で困る場面などを詳しく解説します。

グロムス腫瘍が引き起こす痛みは、ほかの腫瘍性疾患や炎症性疾患とは異なる性質があります。

痛みの原因がわからず悩んでいる方にとって、症状の詳細を知ることは早期受診のきっかけとなるでしょう。

鋭い痛み（発作性の疼痛）

グロムス腫瘍に最も多い訴えは、「針で刺されるような鋭い痛み」です。特に指先のように神経密度が高い部分に発生した場合、微小でも強烈な痛みを生じます。

軽く指をぶつけただけでも激痛が走り、日常の動作がストレスになる方も少なくありません。

温度変化に対する過敏性（冷感過敏）

グロムス腫瘍は温度変化に対して過敏に反応する傾向があります。

冷たい水に触れたときや、寒い場所に出たときに痛みが増幅すると訴える方が多くみられます。冷え性と勘違いして適切な処置を先延ばしにしてしまうと、症状が慢性化するリスクが高まります。

圧痛や触れられたときの不快感（圧痛点の明瞭な局所の圧痛）

指先にできた場合は、指をわずかに圧迫するだけでも強い痛み（圧痛）を感じます。

軽いタッチでも不快感を覚えるほど敏感になり、外部からの刺激を避けるために指をかばった動作が続くと、手の使い方に偏りが出て関節や筋に影響を及ぼすケースもあります。

爪の変形や変色

爪甲下にグロムス腫瘍がある場合、爪の表面が盛り上がったり、爪の色が青紫色や赤紫色に変化したりします。

見た目の変化に伴い、痛みも常に意識してしまうため、日常的に不便を感じる機会が増えます。指先だけでなく足の爪下に発生するケースもあり、靴を履いたときの圧迫が苦痛になる場合も珍しくありません。

症状の特徴のまとめ

症状	内容
鋭い痛み	針で刺されたような痛み、軽い刺激でも強い反応
温度変化で増悪	冷たい水に触れる、寒い環境下で痛みが強まる
圧痛・触痛	わずかな圧迫や接触で不快感や激痛が走る
爪の変形・変色	爪が盛り上がる、爪色が青紫色や赤紫色になる
長期放置による機能低下	指や手をかばいすぎて他の関節や筋力に影響が出るケース

強い痛みだけでなく、見た目にも変化が現れ、異常に気づいたら医療機関への受診をおすすめします。

グロムス腫瘍の症状は、普段の生活で避けがたい動作に支障をきたすケースが多いです。

痛みを我慢して過ごし続けると、心理的負担も大きくなる可能性があるので、気になる症状がある場合は早めに専門医へ相談した方が良いでしょう。

非典型例として痛みをほとんど感じないグロムス腫瘍も稀ながら存在します。

グロムス腫瘍の原因

グロムス腫瘍は多くの場合において良性腫瘍ですが、その発生には血管や神経などの複雑な因子が絡んでいます。

グロムス小体の異常増殖

グロムス腫瘍は、血管平滑筋を含むグロムス小体という組織の異常増殖によって生じます。

グロムス小体は血管の血流調整に関わる器官で、特に指先のように温度や圧力の変化が大きい部位に集中しています。

この小体自体に何らかの刺激や遺伝的素因が加わるち、腫瘍化する可能性があります。

外傷との関連

指を扉に挟む、爪を強く打ちつけるなどの外傷がきっかけでグロムス小体にダメージが生じ、その修復過程で異常増殖が誘発される可能性があります。

特に爪下部分は、過去に同部位を挫傷していた例が散見されるとの指摘もあります。

遺伝的要因

多発型グロムス腫瘍では、家族歴があるケースが報告されています。

遺伝子変異が影響して、複数の部位にわたってグロムス小体が腫瘍化しやすくなると考えられます。

これは常染色体遺伝であり、グロムリン遺伝子の不活化変異が原因であると判明しています。家族内に同様の指先痛やグロムス腫瘍の既往がある場合は、本人も注意深く経過をみる必要があります。

グロムス腫瘍の発生要因のまとめ

要因	詳細
グロムス小体の異常増殖	血流調整に関わる組織が何らかの刺激や遺伝的素因で腫瘍化
外傷	指や爪を強くぶつけるなどの物理的衝撃が原因となる
遺伝的要因	多発型グロムス腫瘍で家族内発症例がみられるケース

グロムス腫瘍の原因は一つではなく、複数の要因が組み合わさって発生すると考えられています。

外傷や遺伝要因など予防が難しいケースもありますが、リスクとなる習慣や環境を知れば、早期発見・早期受診につなげられます。

グロムス腫瘍の検査・チェック方法

ここではグロムス腫瘍の診断を行うために、どのような検査や自己チェックが可能かを紹介します。

強い痛みに悩んでいても、画像上では小さく見えたり、触診だけでははっきりしない場合があります。複数の検査は、正確な診断につながります。

触診と視診

まず患部の視診や触診を行い、爪の変色や微小な膨らみの有無を確認します。

痛みが強い場合は、患者様が痛みを感じるポイントを特定するように圧迫テストなどを行います。

単純な方法ですが、グロムス腫瘍特有の鋭い痛みがあるかどうかは診断の一助となります。

画像診断（X線・MRIなど）

X線撮影では骨の変化を確認しますが、小さいグロムス腫瘍では写りにくい場合も多いです。

MRI検査は軟部組織を鮮明に映し出すため、腫瘍の存在や大きさ、周囲との境界などの把握に有用です。

特に爪甲下グロムス腫瘍ではMRIによる診断精度が高いと報告されており、確定診断のためにしばしば実施されます。

ラブ・ピンテスト（Love’s pin test）

グロムス腫瘍特有の痛みを確認するために用いられる簡易的なテストです。皮膚表面をピンで刺激し、痛みの種類や程度を評価します。

爪甲下にあるグロムス腫瘍の場合、針を極軽く当てただけでも激痛を感じやすいです。

他の疾患でも痛みを感じはしますが、鋭さや持続時間が特徴的なため、診断の参考にします。

Hildreth徴候

患部より近位に駆血帯を巻いて、一時的に血流を遮断すると痛みが和らぐことを確認します。

駆血※1を解除して再度血流が通るようになると病変部を圧迫した際の疼痛が再現されます。

※1駆血：体の一部（主に四肢）をゴム紐や帯などで締め付けて血流を一時的に遮断または滞留させる医療行為

病理検査

手術などで摘出した組織を病理検査に出し、グロムス腫瘍であるかどうかを確定します。

患部の状態からほぼ間違いないと考えられていても、他の腫瘍や悪性疾患との区別を明確にするために行います。

病理検査によって細胞の増殖状況や悪性化の有無を確かめられます。

自己チェックについて

観察ポイント	具体例
痛みの種類、強度	針やナイフで刺されたような鋭い痛み
痛みの増悪因子	冷たい水、強い光刺激、軽い接触など
見た目の変化	爪の変色、軽度の盛り上がり、点状出血など
痛みの持続期間	2週間以上続く激痛や慢性的な痛み

画像診断や病理検査を行うと、痛みの原因がグロムス腫瘍かどうかを比較的正確に判断できます。

触診や簡易テストだけでは確定できない場合も多く、総合的な検査が欠かせません。

早期診断によって日常生活への影響を最小限に抑えられる可能性があります。

グロムス腫瘍の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間

グロムス腫瘍は良性であるケースが多いため、腫瘍自体を取り除けば根本的な痛みの解消が期待できます。

症状や腫瘍の大きさ、発生部位に応じて様々な治療戦略が用いられます。

手術療法（外科的切除）

グロムス腫瘍の基本的な治療方法は手術による外科的切除です。

腫瘍を摘出し、痛みの原因そのものを取り除きます。

特に爪甲下グロムス腫瘍では、爪を一部または全て剥離して腫瘍を露出し、摘出するのが一般的です。

手術療法のメリット 

手術療法のデメリット

非手術的治療（薬物療法・放射線療法など）

グロムス腫瘍は一般的に手術での摘出が主流ですが、患者様の状態によっては手術が難しい場合もあります。

こうしたケースでは、痛みの緩和を目的に以下のような手段が検討されます。

痛み止め（鎮痛薬）の処方

NSAIDs（非ステロイド性抗炎症薬）などを服用して痛みをコントロールします。ただし腫瘍そのものを消失させるわけではなく、一時的な対症療法です。

放射線療法

ごく稀に、手術困難な部位や再発例などで検討されますが、グロムス腫瘍は放射線治療の適応として広く行われるわけではありません。

痛みの緩和をサポートする薬の例

薬剤カテゴリー	代表的な薬剤	主な効果	注意点
NSAIDs（非ステロイド性抗炎症薬）	ロキソプロフェン、イブプロフェン等	鎮痛、抗炎症	胃腸障害や腎機能への影響がある場合がある
アセトアミノフェン系	カロナール等	鎮痛、解熱	比較的副作用が少ないが、高用量時は肝臓への負担あり
局所麻酔薬	リドカイン等	一時的な痛みの遮断	効果が切れれば痛みが戻る

リハビリテーション

手術後、特に指先の手術では腱や関節の可動域や筋力が低下しやすいです。

リハビリで指の曲げ伸ばしや握力の回復を図ることで、日常生活に早期復帰できる可能性が高まります。

爪を剥がした場合は爪床の保護や再生過程のケアを行いながら、徐々に通常の生活動作を回復することが目標となります。

このような軽い運動を継続すると、指先の血行が良くなり、痛みの早期回復にもつながります。

治療期間

グロムス腫瘍の手術は、単純なケースであれば日帰り手術や短期入院で対応できる場合もあります。

ただし爪を大きく剥がす手術や、再発例で複雑な切除が必要な場合は入院期間が数日〜1週間ほどになる場合もあります。

術後の経過としては、傷の治癒に2〜4週間程度かかり、その後リハビリを含めて1〜2カ月ほどで日常生活への制限がほぼなくなるケースが多いです。

方法	治療期間の目安
外来での検査・診断	数日〜数週間
手術	日帰り〜1週間程度の入院
術後リハビリ	2〜6週間ほど
完全復帰	2～3ヶ月程度

あくまでも一般的な目安であり、腫瘍の大きさや部位、患者の回復力によって個人差があります。主治医の指示に沿って適切にケアを続けましょう。

薬の副作用や治療のデメリット

治療を検討する際は、治療効果だけでなくリスクやデメリットも理解しておく必要があります。

鎮痛薬の副作用

NSAIDs（非ステロイド性抗炎症薬）やアセトアミノフェン系の鎮痛薬を長期的に使用すると、胃腸障害や肝臓・腎臓への負担が懸念されます。

特にNSAIDsは、胃潰瘍や胃酸過多、腎機能障害を引き起こすリスクがあります。

慢性的な痛みで長期服用が予想される場合、定期的な血液検査や胃腸の検査が推奨される場合があります。

ステロイド注射のリスク

ステロイド製剤は炎症を強力に抑える一方で、連続投与すると感染リスクや血糖値上昇、骨粗鬆症などの副作用を引き起こす可能性があります。

局所注射であっても、回数が増えると周辺組織への影響が懸念される場合があります。医師と相談の上、必要最小限の範囲での使用にとどめると良いでしょう。

手術後の合併症

手術による外科的切除には、以下のようなリスクがあります。

手術でのデメリット	詳細
傷跡の残存	縫合線や切除範囲が大きい場合に傷跡が残る可能性がある
爪の変形	爪甲下の場合は爪が再生しても以前と形状が変わる可能性
神経障害	手術中に小さな神経を損傷して感覚が鈍くなる場合がある
出血・感染リスク	術後管理が不十分だと傷口から感染するリスクがある

腫瘍をしっかり取り切るために広めに切除する場合がありますが、その分周囲組織への影響が大きくなる可能性があります。

術後、痛みが一時的に強くなるケースもあるので、痛み止めの使用や適切な創傷管理が不可欠です。

再発の可能性

グロムス腫瘍は良性腫瘍ですが、切除範囲が不十分だった場合や多発型の背景がある場合などでは再発する場合があります。

再発腫瘍は小さくても激しい痛みを伴うため、再度手術が必要になる可能性があります。特に多発型で遺伝的要因があるケースでは、定期的なフォローアップが必要です。

保険適用と治療費

日本の公的医療保険制度が適用される場合は、治療費の自己負担が大きく軽減されますが、検査内容や選択する治療法によって費用の総額は異なります。

健康保険の適用範囲

グロムス腫瘍に対する診察、検査、手術は、基本的に健康保険の適用となります。

MRI検査、CT検査、手術費用などは、公的医療保険に基づく自己負担割合（1割〜3割）によって支払います。

診察内容	保険適用について
外来診察や画像検査	健康保険が適用される
手術や入院費	保険適用内であれば自己負担割合に応じて支払い

具体的な費用の目安

治療方法や病院の規模、患者の健康保険の種類（国民健康保険・社会保険など）、自己負担割合によって金額は変わりますが、一般的な目安を示します。

項目	内容	費用の目安 (3割負担)
初診・再診	診察料、処方箋料など	約1000〜3000円
画像検査（MRIなど）	部位・撮影範囲により変動	5000〜1万5000円程度
手術（局所麻酔）	日帰り手術の場合	1万5000〜3万円程度
手術（全身麻酔）	入院が必要な場合、入院費含む	5万〜10万円程度またはそれ以上
病理検査	切除した組織の病理診断	2000〜5000円程度
リハビリ（通院）	定期的にリハビリを受ける場合	1回あたり数百円〜1000円程度

※上記はあくまで概算です。実際には医療機関や治療内容によって変動します

高額療養費制度

入院や手術で医療費が高額になる場合、１カ月間の自己負担額が一定以上になると、高額療養費制度を利用できます。

年齢や所得区分によって限度額が異なりますが、この制度を活用すれば支払った医療費の一部が後日払い戻されるか、もしくは事前に限度額適用認定証を利用して窓口負担を軽減することが可能です。

自費診療になる場合

保険診療では対応が難しい治療法（先進医療や自由診療）が選択された場合、自費診療となり全額自己負担になります。

グロムス腫瘍治療では、通常の切除手術で対応するケースがほとんどのため、自費診療になるケースは少ないです。

しかし、痛みを緩和するための特殊なデバイス使用や、再発予防のための自由診療などを希望する場合は保険適用外になる場合があります。

以上

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