グループホームは、認知症の方が家庭的な環境で共同生活を送るための心強い施設ですが、入居後に医療的なケアの必要性が高まった場合、施設スタッフだけでの対応には限界があります。
そのような状況で、入居者の穏やかな生活を支える重要な役割を担うのが、外部の訪問看護サービスです。
この記事では、グループホームで訪問看護を利用するための条件やサービス内容、費用、そして利用する上での注意点などを詳しく解説します。
グループホームと訪問看護の基本的な関係
グループホームでの生活と外部の医療サービスである訪問看護がどのように関わるのか、基本的な関係性を理解することが第一歩です。施設の役割と訪問看護の専門性を知ることで、なぜこの二つの連携が重要になるのかが見えてきます。
グループホームの役割とケアの範囲
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症の高齢者が5人から9人程度の少人数単位で、専門的な知識を持つ介護スタッフの支援を受けながら共同生活を送る施設です。
食事の支度や掃除などをスタッフと共に行うことで、残された能力を活かし、認知症の進行を緩やかにすることを目指します。
施設スタッフの主な役割は、日常生活上の支援(食事、入浴、排泄などの介助)や、レクリエーション、機能訓練などです。
体温測定や血圧測定といった基本的な健康管理は行いますが、褥瘡の処置やインスリン注射などの医療行為は原則として行えません。
訪問看護が補う専門的な医療ケア
訪問看護は看護師などの医療専門職が生活の場へ訪問し、主治医の指示に基づいて医療的なケアや療養上のサポートを提供するサービスです。
グループホームのスタッフでは対応できない専門的な医療ケアを補うのが、訪問看護の大きな役割で、入居者が医療ニーズを抱えても、住み慣れたグループホームでの生活を継続できる可能性が広がります。
グループホームと訪問看護の主な役割分担
担い手 | 主な役割 | 具体例 |
---|---|---|
グループホームの介護職員 | 日常生活の支援と見守り | 食事・入浴・排泄の介助、洗濯、掃除、レクリエーション |
訪問看護の看護師等 | 専門的な医療ケアと療養支援 | 褥瘡の処置、経管栄養、喀痰吸引、服薬管理、精神的支援 |
なぜ外部の訪問看護が必要になるのか
グループホームは医療機関ではないため、配置されているのは主に介護職員です。入居当初は健康であっても、加齢や病気の進行により、徐々に医療的なケアが必要になるケースは少なくありません。
糖尿病によるインスリン注射、寝たきりによる褥瘡(床ずれ)の処置、嚥下機能低下による経管栄養や喀痰吸引などが必要になった場合、グループホームのスタッフだけでは対応が困難です。
このような状況で訪問看護を利用しなければ、施設を退去して病院や他の施設へ移らざるを得なくなる可能性があるので、外部の訪問看護サービスとの連携が重要になります。
グループホームで訪問看護を利用するための条件
グループホームで暮らす方が訪問看護を利用するには、いくつかの条件を満たす必要があります。利用を検討する上で、まずクリアすべき条件について正確に理解しておきましょう。
原則として医療保険の利用となる
訪問看護は通常介護保険か医療保険のどちらかを利用しますが、グループホームの入居者が利用する場合は、原則として医療保険の適用となります。
グループホームのサービス自体が介護保険を利用しているので、他の介護保険サービスを併用することに制限があるため、グループホームの入居者は、介護保険ではなく医療保険を使って訪問看護を利用するのが基本ルールです。
医師による訪問看護指示書の必要性
医療保険で訪問看護を利用するためには、主治医が訪問看護の必要性を認め、訪問看護指示書を発行することが絶対条件です。
指示書には、対象者の病名、必要な医療処置、注意点などが記載されており、訪問看護師は指示に基づいてケアを行います。
医師が必要と判断しなければ訪問看護サービスは開始できないので、まずはかかりつけの主治医に、訪問看護の利用について相談することがスタートラインです。
訪問看護指示書に関する基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
発行者 | 主治医(かかりつけ医) |
主な記載内容 | 病名、利用者の状態、必要な医療処置、療養上の注意点など |
有効期間 | 最長6ヶ月(期間が過ぎる場合は、再度発行が必要) |
医療保険適用の対象となる方
医療保険で訪問看護を利用できるのは主治医が必要と認めた方ですが、特に厚生労働大臣が定める疾病等に該当する方は利用回数の制限が緩和されるなど、手厚いサポートを受けられます。
末期がん、パーキンソン病関連疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが含まれ、また、急性増悪期や退院直後で、一時的に頻回な訪問が必要と医師が判断した場合も、週4回以上の訪問が可能です。
グループホーム側の受け入れ体制の確認
訪問看護は外部のサービスであるため、利用を開始する前に、入居しているグループホーム側が訪問看護の受け入れに対応しているかを確認することも重要です。
ほとんどの施設では連携に前向きですが、施設の方針や他の入居者との兼ね合いなどから、受け入れに際していくつかのルールを設けている場合があります。
円滑な連携のためにも、施設の管理者やケアマネジャーに事前に相談し、協力体制を築いておくことが大切です。
訪問看護が提供する具体的なサービス内容
訪問看護師のサービス内容は多岐にわたり、利用者の身体的な健康維持から、精神的な安定、そしてご家族の支援までを含みます。ここでは、代表的なサービス内容を紹介します。
健康状態の観察と病状管理
訪問看護師の基本的な役割として、利用者の日々の健康状態を専門的な視点で観察し、管理することが挙げられます。
血圧、体温、脈拍、呼吸状態といったバイタルサインの測定はもちろん、顔色や皮膚の状態、食事や水分の摂取量、排泄の状況などを細かくチェックします。
病状の小さな変化を早期に発見し悪化を防ぐための対応を取り、観察した内容は主治医に定期的に報告し、治療方針の検討にも役立てます。
主治医の指示に基づく医療的ケア
グループホームのスタッフでは行えない、専門的な医療的ケアを提供することが訪問看護の核心的なサービスです。
行われる医療ケア
- 褥瘡(床ずれ)やその他の創傷の処置
- インスリン注射や血糖測定
- 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻)の管理と実施
- 在宅酸素療法の管理
- 気管カニューレの管理、喀痰吸引
- 人工肛門(ストーマ)や人工膀胱のケア
- 中心静脈栄養(IVH)の管理
- 点滴や注射の実施
- 服薬管理と指導
日常生活の援助とリハビリテーション
訪問看護は医療処置だけでなく、利用者の状態に合わせた日常生活の援助も行います。
安全な入浴方法の指導や、身体の清潔を保つための清拭、口腔ケアなどで、また、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリ専門職が在籍するステーションであれば、訪問によるリハビリテーションも可能です。
関節が硬くなるのを防ぐ運動や、日常生活動作の訓練、嚥下(飲み込み)機能の訓練などを行い、利用者の身体機能の維持・向上を目指します。
訪問看護で受けられるケアの例
ケアの種類 | 具体的なサービス内容 |
---|---|
健康チェック | バイタルサイン測定、病状の観察、精神状態の確認 |
医療処置 | 褥瘡処置、インスリン注射、経管栄養、点滴、服薬管理 |
リハビリ | 関節可動域訓練、歩行訓練、日常生活動作訓練、嚥下訓練 |
精神的ケアと家族への支援
病気や障がいを抱えながらの生活は、ご本人にとって大きな不安やストレスを伴います。訪問看護師は、そうした利用者の気持ちに寄り添い、じっくりと話を聞くことで精神的なサポートを行います。
また、認知症の周辺症状(不安、興奮など)に対するケアや、ご家族からの介護に関する相談に応じることも重要な役割です。
訪問看護の利用料金と費用負担
グループホームで訪問看護を利用する際の費用は医療保険が適用されるため、全額自己負担ではありません。ここでは、料金の仕組みと自己負担額の目安について解説します。
医療保険の自己負担割合
医療保険を利用した場合の自己負担額は、利用者の年齢や所得によって定められた割合に応じて決まります。
- 75歳以上の方:原則1割(現役並み所得者は3割)
- 70歳~74歳の方:原則2割(現役並み所得者は3割)
- 70歳未満の方:原則3割
年齢別の自己負担割合
年齢 | 自己負担割合 |
---|---|
75歳以上 | 原則1割 |
70歳~74歳 | 原則2割 |
70歳未満 | 原則3割 |
訪問看護の基本的な料金体系
訪問看護の料金は、国が定めた診療報酬に基づいて計算します。基本料金となるのは、訪問看護基本療養費です。
これに加えて、24時間対応体制をとっている場合の緊急時訪問看護加算や、看取りの時期に関わるターミナルケア療養費など、提供するサービス内容に応じた様々な加算があります。
また、訪問にかかる交通費は、原則として実費を別途請求する事業所が多いです。
自己負担額のシミュレーション
実際にどのくらいの費用になるのか、モデルケースで見てみましょう。以下のシミュレーションはあくまで目安であり、加算の有無や交通費などによって変動します。
費用シミュレーション(週1回・30分~90分の訪問・1割負担の場合)
項目 | 料金目安(1回あたり) | 月額目安(月4回) |
---|---|---|
訪問看護基本療養費 | 約555円 | 約2,220円 |
その他加算・交通費 | 変動 | 別途加算 |
公費負担医療制度の活用
特定の疾患や状態にある方は、国や自治体の公費負担医療制度を利用することで、自己負担がさらに軽減される場合があり、指定難病や、精神疾患による通院医療(自立支援医療)などが該当します。
ご自身が何らかの公費負担医療制度の対象になっていないか、不明な場合は市町村の窓口やケアマネジャー、医療機関の相談員などに確認してください。
グループホームで訪問看護を利用する流れ
実際に訪問看護の利用を開始するにはいくつかの手順を踏む必要があり、関係各所との連携が重要になるため、全体の流れを把握し、計画的に進めていきましょう。
主治医とケアマネジャーへの相談
最初のステップは、主治医と、グループホームのケアプランを作成しているケアマネジャーに相談することです。主治医には、現在の病状から訪問看護による医療的ケアが必要であることを相談し、利用の同意を得ます。
ケアマネジャーには、グループホームでの生活の中で訪問看護をどのように位置づけ、活用していくかを相談します。ケアマネジャーは地域の様々なサービスに詳しいため、訪問看護ステーション選びのアドバイスをもらえることもあります。
訪問看護ステーションの選定と面談
次に、利用する訪問看護ステーションを選び、候補のステーションが決まったら連絡を取って事前面談を申し込みましょう。
面談では、ステーションの担当者がグループホームを訪問し、利用者本人の状態や希望、家族の意向などを詳しく聞き取ります。この時、サービス内容や料金、緊急時の対応など、疑問点はすべて確認することが大切です。
ステーション選定時の確認ポイント
確認項目 | 具体的な内容 |
---|---|
専門性・実績 | 認知症ケアや希望する医療処置の経験は豊富か。 |
連携体制 | 主治医やグループホームとの連携はスムーズか。 |
緊急時対応 | 24時間対応可能か、緊急時の連絡体制はどうか。 |
人柄・相性 | スタッフの雰囲気や対応が、本人や家族と合いそうか。 |
関係者間での情報共有と契約
利用するステーションが決まったら、主治医、訪問看護ステーション、グループホーム、ケアマネジャーなど、関わる全ての関係者が集まりサービス担当者会議を開くことがあります。
それぞれの役割分担や情報共有の方法などを確認し、統一した支援計画を立て、その後、利用者(または家族)と訪問看護ステーションとの間で、サービス内容や料金、利用規約などを定めた契約を正式に結びます。
訪問看護を利用する際の注意点
グループホームで訪問看護を円滑に利用するためには、いくつか注意しておくべき点があります。施設、医療機関、そして利用者・家族が良好な関係を築き、最善のケアを実現するためのポイントを解説します。
グループホームとの密な情報共有
最も重要なのは、訪問看護ステーションとグループホームのスタッフとの間で、常に密に情報を共有することです。
訪問看護師は、訪問時の利用者の様子や実施したケアの内容、気づいた変化などを連絡ノートや申し送りで確実に施設スタッフに伝えます。
施設スタッフも、訪問看護師がいない間の利用者の様子(食事量や活動量、気分の変化など)を伝えることが大切です。
介護保険サービスとの役割分担
グループホームでの生活は介護保険サービスが基盤となっていて、そこに医療保険の訪問看護が入るため、両者の役割分担を明確にしておくことが重要です。
例えば、入浴介助はグループホームの介護職員が行うが、入浴後の軟膏塗布や創傷処置は訪問看護師が行う、といった線引きです。
役割分担が曖昧だと、サービスの重複や抜け漏れが生じることがあるので、ケアマネジャーを中心にあらかじめ明確に取り決めておきましょう。
看取り(ターミナルケア)における連携
多くのグループホームでは人生の最期までその人らしく過ごせるように、看取りのケアにも対応しています。利用者が終末期を迎えた際には、訪問看護の役割はさらに重要です。
痛みや苦痛を和らげる緩和ケア、精神的な安寧を保つための支援、そしてご家族へのグリーフケアなど医療的な視点から看取りを支えます。
よくある質問
グループホームでの訪問看護利用に関して、多くの方から寄せられる質問と答えをまとめました。疑問や不安の解消にお役立てください。
- グループホームのスタッフに医療行為は頼めないのですか
-
原則として、グループホームの介護職員は医療行為を行えません。これは医師法や保健師助産師看護師法で定められています。
ただし、体温測定や血圧測定、湿布の貼付、簡単な切り傷の処置など、日常生活における基本的なケアは行います。
また、一定の研修を受けることで、喀痰吸引や経管栄養などの特定の医療的ケアを実施できる介護職員もいますが、全ての施設に配置されているわけではありません。
専門的な医療処置は、看護師の資格を持つ訪問看護師の役割です。
- 急に体調が悪くなった時も訪問看護は来てくれますか
-
24時間対応体制をとっている訪問看護ステーションと契約している場合は、夜間や休日でも電話で相談でき、主治医と連携の上で必要と判断されれば緊急訪問を行い、緊急時対応は訪問看護の大きな強みの一つです。
ただし、この体制を維持するためには、月々の利用料に緊急時訪問看護加算などが上乗せされます。契約時に、緊急時の連絡方法や対応の流れ、追加料金の有無などを必ず確認しておきましょう。
- 認知症の症状が重くても利用できますか
-
訪問看護師は、認知症ケアに関する専門的な知識や技術も持っています。認知症の周辺症状である、不安、焦燥、興奮、幻覚、妄想などに対して、ご本人の気持ちに寄り添いながら、穏やかに過ごせるような関わり方をします。
また、症状を和らげるための環境調整や、薬物療法に関する主治医との連携、ご家族や施設スタッフへのアドバイスなども行います。
- 訪問看護の利用を断られることはありますか
-
基本的には、主治医が必要性を認めて指示書を発行すれば、利用を断られることはありません。しかし、いくつかのケースで利用が難しいことがあります。
暴力行為などにより看護師の安全が確保できないと判断されたり、事業所の対応可能なエリア外である場合などです。
また、特定の高度な医療処置に対して、そのステーションが対応できるスタッフや経験を持っていないときも、他のステーションを紹介されることがあります。
以上
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