健康診断の結果で「eGFR」という項目を目にしたことはありませんか。「腎機能の指標」と説明されても、その数値が具体的に何を意味し、どのように解釈すれば良いのか、戸惑う方も少なくないでしょう。
eGFRは、私たちの体を支える重要な臓器である腎臓の働き具合を、血液検査から推定する数値です。
この記事では、eGFRの基本的な知識から、数値の見方、年齢による違い、そして腎臓の健康を維持するためのポイントまで、専門用語を避けながら分かりやすく解説します。
eGFRの基本を理解する
まず、eGFRがどのような指標なのか、その基本から見ていきましょう。腎臓の働きとeGFRの関係性を知ることが、健康管理の第一歩です。
腎臓の働きと健康の重要性
腎臓は、腰のあたりに左右一対ある、握りこぶしほどの大きさの臓器です。その主な働きは、血液をろ過して体内の老廃物や余分な水分、塩分を尿として排泄することです。
このほかにも、血圧の調整、赤血球を作るホルモンの分泌、骨を丈夫にするビタミンDの活性化など、生命維持に欠かせない多様な役割を担っています。
腎臓の機能が低下すると、体に老廃物が溜まったり、血圧が上がったり、貧血になったりと、さまざまな不調が現れます。しかし、腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状が出にくい特徴があります。
そのため、定期的な検査でその働きをチェックすることが非常に重要です。
eGFRが示すもの – 腎臓のろ過能力
eGFRは「推算糸球体ろ過量(estimated Glomerular Filtration Rate)」の略で、腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示します。
具体的には、腎臓の中にある「糸球体(しきゅうたい)」というフィルターが、1分間にどれくらいの血液をろ過してきれいにできるかを、血清クレアチニン値や年齢、性別から計算して推定した値です。
eGFRの数値が高いほど腎臓のろ過能力が高く、低いほど能力が低下していることを意味します。健康な人のeGFRは100mL/分/1.73m²前後ですが、加齢とともに自然に低下していきます。
eGFRが示す腎臓の状態
eGFRの値 (mL/分/1.73m²) | 腎臓の働きの目安 | 一般的な状態 |
---|---|---|
90以上 | 正常または高値 | 腎機能は正常と考えます。 |
60~89 | 正常または軽度低下 | 多くの場合、心配はいりません。 |
60未満 | 低下 | 腎機能が低下している状態です。 |
なぜeGFRで腎機能を評価するのか
かつては、血清クレアチニン値が腎機能の指標として広く用いられていました。クレアチニンは筋肉で作られる老廃物で、腎臓から排泄されます。
しかし、クレアチニン値は筋肉量に影響されるため、同じ腎機能でも筋肉質な若者と筋肉の少ない高齢者とでは数値が異なり、正確な評価が難しいという側面がありました。
そこで、年齢、性別、血清クレアチニン値を考慮して、より正確に腎臓のろ過能力を推定するために開発されたのがeGFRです。この指標の導入により、性別や年齢に関わらず、腎機能の低下を早期に発見しやすくなりました。
クレアチニンとの関係性
eGFRを計算する上で基本となるのが、血液検査で測定する「血清クレアチニン(Cr)」の値です。クレアチニンは、筋肉を動かすためのエネルギー源であるクレアチンが代謝された後の老廃物です。
通常、その産生量は一定で、腎臓の糸球体でろ過されて尿中に排泄されます。腎機能が低下すると、クレアチニンを十分に排泄できなくなり、血液中に溜まっていきます。
その結果、血清クレアチニン値が高くなります。eGFRの計算式では、この血清クレアチニン値が高いほど、eGFRの値は低くなるように設計されています。
つまり、血清クレアチニン値はeGFRと密接な関係にあり、腎機能評価の両輪と言えるでしょう。
eGFRの数値が持つ意味
健康診断などで示されたeGFRの数値が、具体的にどのような健康状態を示すのかを詳しく解説します。基準値との比較や、数値が低い場合、高い場合の解釈について見ていきましょう。
eGFRの基準値と正常範囲
eGFRの一般的な基準値は、60mL/分/1.73m²以上とされています。この数値を下回ると、腎機能が健康な人の60%未満に低下している可能性を示唆し、「慢性腎臓病(CKD)」が疑われます。
ただし、eGFRは年齢と共に低下するため、高齢者では60を下回っても必ずしも異常とは限りません。反対に、90以上は「正常または高値」とされますが、極端に高い場合は過剰ろ過の状態を示していることもあり、注意が必要です。
eGFR値による腎機能の評価
eGFR (mL/分/1.73m²) | 評価 | 解説 |
---|---|---|
90以上 | 正常または高値 | 腎機能は正常と考えます。ただし、尿蛋白など他の異常がある場合は腎障害の可能性があります。 |
60以上90未満 | 正常または軽度低下 | 加齢による自然な低下の場合が多いですが、他の検査所見と合わせて評価します。 |
60未満 | 低下 | 慢性腎臓病(CKD)の可能性があります。専門医への相談を検討する段階です。 |
数値が低い場合に考えられること
eGFRが60mL/分/1.73m²未満を示す場合、腎機能が低下している状態と考えます。この状態が3ヶ月以上続くと、慢性腎臓病(CKD)と診断されます。腎機能が低下する原因はさまざまです。
- 糖尿病性腎症
- 高血圧による腎硬化症
- 慢性糸球体腎炎
- 多発性のう胞腎
これらの疾患が背景にあることが多いです。腎機能の低下が進行すると、体内に老廃物や余分な水分が溜まり、むくみ、貧血、倦怠感などの症状が現れます。
さらに進行すると、末期腎不全に至り、透析治療や腎移植が必要になることもあります。eGFRの低下は、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患のリスクを高めることも知られており、早期の対策が重要です。
数値が高い場合の解釈
eGFRが90mL/分/1.73m²以上、特に120や130といった高い値を示す場合、多くは心配のない健康な状態です。しかし、一部のケースでは注意が必要です。
例えば、糖尿病の初期段階では、腎臓が過剰に働く「過剰ろ過」という状態が起こり、eGFRが高値を示すことがあります。この状態が続くと、やがて腎臓が疲弊して機能が低下していく可能性があるため、血糖コントロールが重要です。
また、妊娠中もeGFRは高くなる傾向があります。単に数値が高いからと安心するのではなく、糖尿病や高血圧などの基礎疾患がないか、尿検査で異常がないかなどを併せて確認することが大切です。
eGFRだけでは判断しない – 総合的な評価の重要性
eGFRは腎機能を評価する上で非常に有用な指標ですが、これだけで腎臓の状態を完全に判断することはできません。
例えば、eGFRが正常範囲内でも、尿検査で蛋白尿や血尿が認められる場合は、腎臓に何らかの障害が隠れている可能性があります。これを「腎障害」と呼びます。
腎臓病の正確な診断と重症度の判断には、eGFRの値と、この腎障害の原因を示す尿検査(蛋白尿など)の結果を組み合わせて評価することが国際的な基準となっています。
健康診断でeGFRの項目だけでなく、尿検査の結果にもしっかりと目を向ける習慣をつけましょう。
年齢で変わるeGFRの基準値
eGFRは年齢の影響を大きく受ける指標です。加齢とともに腎機能が自然に低下するため、年代によって基準となる値の考え方が異なります。
加齢と腎機能の自然な変化
腎臓の機能は、一般的に30〜40歳代をピークに、その後は年齢を重ねるごとに少しずつ低下していきます。これは、加齢に伴い腎臓の血管が硬くなったり(動脈硬化)、ろ過装置である糸球体の数が減少したりするためです。
病気がなくても、1年間に約0.5〜1.0mL/分/1.73m²ずつeGFRが低下すると言われています。したがって、高齢になるほどeGFRの値が若者より低くなるのは、ある程度は生理的な変化と捉えることができます。
この自然な低下を理解しておくことが、ご自身の数値を正しく評価する上で助けになります。
年齢別のeGFR基準値の目安
全ての年齢で一律に「60未満は異常」と判断するのではなく、年齢を考慮した上で数値を解釈することが重要です。以下に、日本人における健康な人のeGFRの平均値の目安を示します。ご自身の数値と見比べる際の参考にしてください。
ただし、これはあくまで平均値であり、個人差があることを理解しておく必要があります。
年代別eGFR平均値の目安
年齢 | eGFR平均値 (mL/分/1.73m²) |
---|---|
30代 | 約100 |
40代 | 約90 |
50代 | 約80 |
60代 | 約75 |
70歳以上 | 約65 |
子どもや若年層におけるeGFRの考え方
子どもの場合、成人と体格が大きく異なるため、通常はeGFRを計算する際に身長のデータを加味した小児用の計算式を用います。小児の腎機能は年齢と共に発達し、2歳頃には成人と同等のレベルに達します。
若年層(20代〜30代)では、eGFRは通常90以上を示すことが期待されます。もしこの年代でeGFRが60を下回るような場合は、何らかの腎疾患が隠れている可能性を考え、より詳しい検査が必要です。
若いから大丈夫と過信せず、健康診断の結果で異常を指摘された場合は、その意味を軽視しないようにしましょう。
高齢者の腎機能評価で注意する点
70歳以上の高齢者では、eGFRが60mL/分/1.73m²を下回ることは珍しくありません。
加齢による自然な低下の場合も多いですが、一方で高齢者は高血圧や糖尿病などの生活習慣病を合併していることも多く、それが腎機能低下の原因となっている可能性もあります。
高齢者の場合、eGFRの数値だけでなく、尿蛋白の有無、基礎疾患の状態、服用している薬の内容、むくみや倦怠感といった自覚症状などを総合的に評価し、治療介入が必要かどうかを慎重に判断します。
特に複数の薬を服用している方は、腎機能の低下によって薬の副作用が出やすくなることがあるため、定期的なeGFRのチェックが重要です。
慢性腎臓病(CKD)とeGFRの関係
eGFRは、慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)の診断と重症度分類において中心的な役割を果たします。CKDとeGFRの関係を深く理解することで、病気の進行を防ぐための対策が見えてきます。
慢性腎臓病(CKD)とは何か
慢性腎臓病(CKD)とは、腎臓の障害(蛋白尿など)や、eGFRが60mL/分/1.73m²未満の腎機能低下が、3ヶ月以上続く状態を指す包括的な診断名です。特定の病気の名前ではなく、腎臓の働きが慢性的に悪くなっている状態そのものを示します。
初期には自覚症状がほとんどなく、静かに進行していくのが特徴です。放置すると末期腎不全に至るだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを大幅に高めるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
現在、日本の成人のおよそ8人に1人がCKDに該当すると推計されており、新たな国民病とも言われています。
eGFRによるCKDの重症度分類
CKDの重症度は、eGFRの値に基づいてステージG1からG5までの5段階に分類されます。この分類を「Gステージ分類」と呼びます。ステージが進むほど腎機能が低下していることを意味し、G3以降は腎機能低下が明確な状態です。
このステージ分類は、治療方針を決定する上で重要な指標となります。
CKD重症度分類(Gステージ)
ステージ | eGFR (mL/分/1.73m²) | 腎機能の状態 |
---|---|---|
G1 | 90以上 | 正常または高値(ただし腎障害あり) |
G2 | 60~89 | 正常または軽度低下(ただし腎障害あり) |
G3a | 45~59 | 軽度~中等度低下 |
G3b | 30~44 | 中等度~高度低下 |
G4 | 15~29 | 高度低下 |
G5 | 15未満 | 末期腎不全(ESKD) |
尿蛋白検査と組み合わせた評価
CKDの正確なリスク評価には、eGFR(腎機能)に加えて尿蛋白(腎障害)の評価が欠かせません。
尿蛋白は、腎臓がダメージを受けているサインであり、その量が多いほど腎機能が将来的に悪化しやすく、心血管疾患のリスクも高まります。尿蛋白の量はA1からA3の3段階で評価します。
尿蛋白区分(Aステージ)
ステージ | 尿アルブミン値 / 尿蛋白値 | 評価 |
---|---|---|
A1 | 30mg/gCr 未満 / 0.15g/gCr 未満 | 正常範囲 |
A2 | 30~299mg/gCr / 0.15~0.49g/gCr | 微量アルブミン尿 / 軽度蛋白尿 |
A3 | 300mg/gCr 以上 / 0.50g/gCr 以上 | 顕性アルブミン尿 / 高度蛋白尿 |
このGステージとAステージを組み合わせることで、腎不全や心血管疾患のリスクをより詳細に評価できます。緑、黄、オレンジ、赤の順にリスクが高まります。
CKD重症度(リスク評価のヒートマップ)
尿蛋白区分 → | A1 (正常) | A2 (軽度) | A3 (高度) |
---|---|---|---|
eGFR区分 ↓ | 死亡・末期腎不全・心血管疾患のリスク | ||
G1 (≧90) | 低リスク | 中等リスク | 高リスク |
G2 (60-89) | 低リスク | 中等リスク | 高リスク |
G3a (45-59) | 中等リスク | 高リスク | 超高リスク |
G3b (30-44) | 高リスク | 超高リスク | 超高リスク |
G4 (15-29) | 超高リスク | 超高リスク | 超高リスク |
G5 (<15) | 超高リスク | 超高リスク | 超高リスク |
CKDの進行と自覚症状
CKDの怖いところは、かなり進行するまで自覚症状がほとんど現れない点です。
eGFRが30を下回るような高度な腎機能低下(ステージG4)になって、ようやく夜間の尿の増加、むくみ、貧血、息切れ、だるさといった症状を自覚することが多いです。症状がないからといって安心はできません。
症状が出てからでは、元の腎機能に戻すことは難しくなります。だからこそ、症状のないうちから健康診断などでeGFRや尿蛋白をチェックし、異常があれば早期に対処を始めることが何よりも大切です。
eGFRの計算方法と検査の流れ
eGFRがどのように計算され、どのような検査を経て私たちに知らされるのか。その具体的な流れを解説します。
eGFRの計算に必要な項目
eGFRは直接測定するのではなく、計算式によって推定する値です。その計算には、以下の3つの情報が必要です。
- 性別
- 年齢
- 血清クレアチニン(Cr)値
これらは、特別な検査を追加することなく、通常の健康診断や血液検査で得られる情報です。この手軽さが、eGFRが広く普及した理由の一つでもあります。
日本人のためのeGFR計算式
eGFRの計算式は人種によって差があるため、日本人向けに作られた以下の式を用います。
eGFR (mL/分/1.73m²) = 194 × 血清クレアチニン値^(-1.094) × 年齢^(-0.287)
女性の場合は、この計算結果にさらに「× 0.739」を乗じます。この計算は複雑ですが、医療機関や検査機関では自動的に計算されるため、自分で計算する必要は通常ありません。
インターネット上には自動計算ツールもありますので、血清クレアチニン値が分かれば自分で推定値を算出することも可能です。
血液検査でクレアチニンを測定する
eGFRを知るための第一歩は、血液検査で血清クレアチニン値を測定することです。これは一般的な健康診断に含まれていることが多い項目です。腕の静脈から少量の血液を採血するだけで済み、食事制限なども特に必要ありません。
ただし、検査前に激しい運動をするとクレアチニン値が一時的に上昇することがあるため、検査当日は安静を心がけるとより正確な値が得られます。
血液検査の一般的な流れ
- 受付・問診
- 採血(通常は腕の静脈から)
- 止血(5分程度採血部位をしっかり押さえる)
- 検査終了
検査結果の受け取りと確認
検査結果は、数日から1週間程度で出ることが一般的です。健康診断の結果報告書などには、血清クレアチニン値(Cr)と共に、計算されたeGFRの値が記載されています。結果を受け取ったら、まずeGFRの値が60以上あるかを確認しましょう。
そして、年齢別の平均値と比べてどうか、尿検査の結果(特に尿蛋白)に異常はないか、という視点で総合的にチェックすることが大切です。もし異常値や気になる点があれば、結果報告書の指示に従うか、かかりつけ医に相談しましょう。
eGFRの数値を改善・維持するための生活習慣
腎機能は一度失われると回復が難しいですが、進行を緩やかにしたり、健康な状態を維持したりするために、日々の生活習慣が非常に重要です。ここでは、腎臓をいたわる生活のポイントを紹介します。
食生活で気をつけること
腎機能の維持には、食生活の見直しが基本となります。特に重要なのは「減塩」です。塩分の過剰摂取は高血圧を招き、腎臓に大きな負担をかけます。また、腎機能が低下している場合は、タンパク質の摂りすぎにも注意が必要です。
タンパク質は体内で老廃物を生み出すため、その制限が腎臓を休ませることにつながります。ただし、極端な制限は栄養不良を招くため、管理栄養士などの専門家と相談しながら進めることが大切です。
腎機能に配慮した食事のポイント
- 減塩を心がける(1日6g未満が目標)
- カリウムやリンの摂取量に注意する(腎機能低下時)
- 適切なエネルギーを確保する
- タンパク質を摂りすぎない
塩分摂取量の目安
食品 | 一般的な塩分量(目安) |
---|---|
梅干し1個 | 約2g |
ラーメン1杯(汁込み) | 約5~6g |
味噌汁1杯 | 約1.5g |
適度な運動のすすめ
ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、血圧を下げ、血糖値を改善し、肥満を解消する助けとなります。これらはすべて、腎臓への負担を軽減することにつながります。
息が軽く弾む程度の運動を、1回30分以上、週に3回程度続けることが推奨されます。ただし、すでに腎機能が大きく低下している場合は、運動が体に負担となることもあります。
運動を始める前には、主治医にどの程度の運動が適切か相談しましょう。
生活習慣病(高血圧・糖尿病)の管理
高血圧と糖尿病は、CKDの二大原因です。これらの病気を持っている場合、その管理を徹底することが、腎臓を守る上で最も重要です。医師の指導のもとで薬物治療や食事療法を続け、血圧や血糖値を良好な状態にコントロールしましょう。
家庭で血圧を測定する習慣をつけ、自分の体の状態を把握することも役立ちます。
生活習慣病管理の目標値例
項目 | 一般的な目標値 | CKD患者の目標値(目安) |
---|---|---|
血圧 | 130/80 mmHg 未満 | 130/80 mmHg 未満 |
血糖(HbA1c) | 7.0% 未満 | 7.0% 未満 |
LDLコレステロール | 140 mg/dL 未満 | 120 mg/dL 未満 |
腎臓に負担をかける薬やサプリメントへの注意
一部の解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)の長期的な使用や過剰な使用は、腎機能に悪影響を与えることがあります。痛み止めなどを市販薬で常用している場合は注意が必要です。
また、成分が不明な健康食品やサプリメントの中にも、腎臓に負担をかけるものが存在する可能性があります。良かれと思って使用したものが、かえって腎臓を傷つけることもあり得ます。
薬やサプリメントを使用する際は、自己判断せず、必ず医師や薬剤師に相談する習慣をつけましょう。
eGFRに関するよくある質問(Q&A)
最後に、eGFRに関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式で回答します。
- eGFRの数値は一度下がると元に戻らないのですか?
-
残念ながら、慢性的に低下した腎機能(CKD)を完全に元通りに回復させることは、現在の医療では困難です。
しかし、脱水や特定の薬剤の影響などで一時的にeGFRが低下している「急性腎障害」の場合は、原因を取り除くことで数値が回復する可能性があります。
CKDと診断された場合でも、食事療法や薬物治療によって、機能低下のスピードを緩やかにし、現状を維持することは十分に可能です。早期発見と早期治療が鍵となります。
- 健康診断でeGFRが低いと指摘されました。すぐに病院に行くべきですか?
-
まずは落ち着いて、結果報告書全体を確認してください。eGFRが60をわずかに下回っている程度で、尿検査などに異常がなければ、次回の健康診断で再確認するという選択肢もあります。
特に高齢者の場合は加齢による影響も考えられます。しかし、eGFRが50未満の場合や、40代以下の若年層で60未満の場合、あるいはeGFRの値に関わらず尿蛋白が陽性(+)の場合は、腎臓専門医の受診を強く推奨します。
自己判断せずに、かかりつけ医や専門医に相談することが大切です。
- 食事や運動でeGFRの数値はどのくらい改善しますか?
-
食事療法や運動療法は、直接的にeGFRの数値を大幅に上昇させるものではありません。
これらの生活習慣改善の主な目的は、血圧や血糖を良好にコントロールし、腎臓へのさらなる負担を防ぐことで、eGFRの低下速度を緩やかにすることにあります。
生活習慣を見直すことで、年間1ずつ低下していたeGFRが、0.5の低下で済むようになる、といったイメージです。地道な努力が、将来の腎臓を守る上で大きな差となって現れます。
- eGFRの検査はどのくらいの頻度で受けるのが良いですか?
-
健康な成人の場合は、年に1回の健康診断でチェックすれば十分です。CKDと診断されている場合は、その重症度によって推奨される検査頻度が異なります。
一般的に、ステージG3aであれば半年に1回、G3bであれば3〜4ヶ月に1回、G4以降は1〜3ヶ月に1回程度の定期的な検査が必要です。個々の状態によって最適な頻度は異なりますので、主治医の指示に従ってください。
以上
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