透析治療と共に歩む毎日は、ご本人にしか分からないさまざまな変化や戸惑いがあることでしょう。水分や食事の管理、週に数回の通院、そして体調の変化。
このページでは、多くの透析患者さんが経験する「あるある」な体験談を集め、日々の生活を少しでも快適に送るための工夫やヒントをご紹介します。
同じように頑張っている仲間の声に触れることで、共感したり、新しい発見があったりするかもしれません。一人で抱え込まず、一緒に乗り越える知恵を見つけていきましょう。
透析治療と生活リズムの大きな変化
透析治療を始めると、生活は一変します。特に、週に数回の通院は生活の中心となり、これまでのリズムを大きく変える必要があります。
この変化は、透析患者の誰もが経験する最初の大きな壁であり、特徴的なライフスタイルを形作ります。
週3回の通院という新しい日常
多くの場合、透析治療は週に3回、1回あたり4時間から5時間を要します。これは、生活の中に大きな時間的・身体的な制約が生まれることを意味します。これまで自由に設定できたスケジュールは、透析中心に再構築しなくてはなりません。
「月・水・金」や「火・木・土」といったサイクルが、新しいカレンダーの基準になります。
治療日はほぼ一日がかりとなり、残りの4日間で仕事や家事、プライベートな用事をこなすという生活パターンに慣れるまで、多くの人が試行錯誤を重ねます。
透析日のスケジュール管理
透析日は、単に通院するだけではありません。通院の準備、移動時間、治療時間、そして治療後の休息時間を考えると、一日がかりのイベントです。
朝からの透析であれば午後は休息に充て、午後からの透析であれば午前中に用事を済ませるなど、効率的な時間の使い方が重要になります。
多くの患者さんが、自分なりのタイムスケジュールを確立し、心身の負担を軽減する工夫をしています。
透析日のタイムスケジュール例
時間帯 | 午前透析の場合 | 午後透析の場合 |
---|---|---|
午前 | 通院・透析治療 | 家事・買い物・通院準備 |
午後 | 帰宅・昼食・休息 | 通院・透析治療 |
夕方以降 | 体調を整えながら過ごす | 帰宅・夕食・休息 |
家族や職場との調整
生活リズムの変化は、ご本人だけでなく、家族や職場の理解と協力があって初めて乗り越えられます。透析日は食事の時間が不規則になったり、帰宅後に疲労で動けなかったりすることもあります。
そのため、家事の分担やサポートについて家族とよく話し合うことが大切です。また、職場には治療スケジュールを正確に伝え、勤務時間や業務内容の調整を相談する必要があります。
周囲の理解を得ることは、精神的な安定にもつながります。
食事制限は透析患者の永遠のテーマ
透析治療と切っても切れないのが、厳しい食事制限です。水分、塩分、カリウム、リンなど、管理すべき項目が多く、日々の食生活に大きな影響を与えます。
これは多くの透析患者さんが直面する「あるある」な悩みであり、日々の工夫が求められる大きな課題です。
水分制限との上手な付き合い方
透析間の体重増加を防ぐため、水分摂取量の管理はとても重要です。特に夏場や乾燥する季節は、喉の渇きとの戦いになります。「がぶ飲み」はできなくなり、「少しずつ口を潤す」という飲み方が基本になります。
氷をなめたり、うがいをしたり、小さいコップを使ったりと、皆さん様々な工夫を凝らしてこの制限を乗り越えています。
喉の渇きを和らげる工夫
- 氷をゆっくりとなめる
- シュガーレスのガムや飴を利用する
- レモンを絞った炭酸水で口の中をさっぱりさせる
- こまめなうがいで口内を潤す
塩分・カリウム・リンの管理
塩分の摂り過ぎは、喉の渇きを誘発し、水分過多や高血圧の原因になります。だしを効かせたり、香辛料や酸味を利用したりして、薄味でも美味しく食べられる調理法が役立ちます。
また、カリウムは生野菜や果物に、リンは乳製品や加工食品に多く含まれるため、食材選びや調理法に注意が必要です。野菜は茹でこぼしたり、水にさらしたりする「ひと手間」が、カリウムを減らす上で効果的です。
注意したい栄養素と多く含まれる食品
栄養素 | 多く含まれる食品の例 | 調理の工夫 |
---|---|---|
カリウム | 生野菜、果物、いも類、豆類 | 茹でこぼす、水にさらす |
リン | 乳製品、レバー、魚卵、加工食品 | 加工食品を避け、食材から選ぶ |
塩分 | 漬物、干物、練り製品、汁物 | 香辛料や酸味を活用、汁は飲まない |
外食時のメニュー選びのコツ
外食は気分転換になりますが、メニュー選びには頭を悩ませます。丼ものや麺類は塩分や水分が多くなりがちなので、定食スタイルのメニューを選ぶと、主菜・副菜を調整しやすくなります。
注文時に「お漬物はなしで」「ソースは別添えで」といったリクエストをすることも、塩分コントロールに繋がります。お店選びの段階で、メニューの栄養成分表示を確認する習慣をつけると、より安心して外食を楽しめます。
体に現れるさまざまな変化と「あるある」症状
透析治療を続けていくと、身体にはさまざまな変化が現れます。これらは透析患者に特有の特徴とも言え、多くの人が同じような経験をします。
シャントの管理から、透析後の体調変化、皮膚トラブルまで、日々のケアが重要になります。
シャント側の腕への気遣い
「命綱」とも呼ばれるシャントは、日々の生活で細心の注意を払う必要があります。シャント側の腕で重いものを持たない、腕時計をしない、血圧を測らない、といったことは基本中の基本です。
また、無意識に腕枕をして寝てしまわないようにクッションを置くなど、睡眠中の工夫をしている人も少なくありません。シャントの状態(スリルの音や振動)を毎日確認する習慣は、異常の早期発見に繋がります。
シャントを守るための日常の注意点
項目 | 注意点 | 理由 |
---|---|---|
圧迫しない | 腕時計、きつい袖の衣類を避ける | 血流を妨げ、閉塞の原因になるため |
ケガを防ぐ | ぶつけない、掻きむしらない | 感染や出血のリスクを避けるため |
清潔に保つ | 毎日洗浄し、清潔な状態を保つ | 感染を予防するため |
透析後のだるさと回復法
透析治療で体内の余分な水分や老廃物を除去すると、血圧の低下などが原因で、治療後に強いだるさや倦怠感を感じることがあります。これは多くの透析患者さんが経験する「あるある」です。
帰宅後は無理をせず、30分から1時間程度の仮眠をとることで、体力が回復しやすくなります。また、透析日は激しい運動を避け、静かに過ごすことが翌日の体調を整える上で大切です。
皮膚のかゆみと乾燥対策
透析患者さんの多くが、皮膚の乾燥やかゆみに悩まされます。これは、体内のリンの蓄積や、汗腺の働きの低下などが関係していると言われます。対策の基本は保湿です。入浴後はもちろん、日中もこまめに保湿剤を塗ることが効果的です。
また、衣類は肌触りの良い綿素材を選び、体を洗う際もナイロンタオルなどでゴシゴシこすらず、手で優しく洗うように心がけましょう。
かゆみと乾燥への対策
対策 | 具体的な方法 | ポイント |
---|---|---|
保湿ケア | 入浴後5分以内に保湿剤を塗る | 皮膚の水分が蒸発する前に蓋をする |
衣類の選択 | 綿やシルクなど天然素材を選ぶ | 化学繊維による刺激を避ける |
入浴方法 | ぬるめのお湯に浸かり、優しく洗う | 熱いお湯や強い摩擦は皮脂を奪う |
透析生活における心の持ち方
身体的な負担だけでなく、精神的な側面も透析生活の重要な要素です。治療による制約や将来への不安など、さまざまな感情と向き合う必要があります。
しかし、考え方や視点を少し変えることで、心の負担を軽くすることもできます。
周囲の理解と自分の気持ち
透析をしていない人にとって、その生活は想像が難しいものです。「大変だね」という言葉に、どう返していいか戸惑うこともあるでしょう。自分の状態を無理に隠す必要はありませんが、かといって全てを理解してもらう必要もありません。
家族や親しい友人など、本当に信頼できる人にだけ、自分の気持ちや大変さを話すだけでも、心は軽くなります。
「できないこと」より「できること」へ
食事や旅行、運動など、透析によって制限されることは確かにあります。
しかし、「あれもできない、これもできない」と失ったものを数えるのではなく、「制限の範囲内で何ができるか」に目を向けることが、前向きな気持ちを保つ秘訣です。
例えば、カリウムの少ない果物を選んで楽しんだり、日帰りで近場の名所を訪れたりと、工夫次第で楽しみは見つかります。
発想の転換例
- 海外旅行は難しい → 国内で臨時透析を利用して旅行する
- 好きなものを好きなだけ食べられない → 調理法を工夫して美味しく食べる
- 激しい運動はできない → ウォーキングやストレッチで体を動かす
趣味や楽しみを見つける大切さ
透析以外の時間を充実させることは、生活の質を高める上で非常に重要です。読書や映画鑑賞、手芸、園芸など、自宅で楽しめる趣味を見つけるのも良いでしょう。
また、体調の良い日には、友人と会ってお茶をしたり、近所を散歩したりするだけでも、良い気分転換になります。何かに没頭する時間は、治療の辛さを忘れさせてくれる貴重なひとときです。
旅行やイベント参加の計画と準備
「透析をしているから旅行は無理」と諦めていませんか。しっかり計画と準備をすれば、旅行やイベント参加も十分に可能です。多くの透析患者さんが、旅行を楽しみ、生活に彩りを加えています。
ここではそのための準備について解説します。
事前の情報収集と医療機関との連携
旅行計画の第一歩は、旅行先で透析が受けられる「臨時透析」の施設を探すことです。インターネットで検索したり、かかりつけの医療機関に相談したりして、候補を見つけましょう。
候補が決まったら、電話で受け入れが可能か、必要な書類は何かなどを確認します。かかりつけの医療機関には、旅行の計画を早めに伝え、紹介状や透析データの準備を依頼することが大切です。
臨時透析の依頼に必要な情報
項目 | 内容 | なぜ必要か |
---|---|---|
紹介状(診療情報提供書) | 現在の治療内容や健康状態 | 安全で適切な透析治療のため |
透析データ | 最近の透析条件や検査結果 | 普段通りの治療を再現するため |
健康保険証・特定疾病療養受療証 | 医療費の支払いや公費負担のため | 自己負担額の計算に必要 |
持ち物リストと注意点
旅行の荷物には、普段の持ち物に加えて、透析関連のものを忘れないように準備します。お薬手帳や健康保険証はもちろん、常用している薬は旅行日数分より少し多めに持っていくと安心です。
また、シャント部分を保護するためのサポーターや、万が一の出血に備えて止血バンドなども携帯すると良いでしょう。
旅行時の持ち物チェックリスト
分類 | 持ち物 | ポイント |
---|---|---|
必須書類 | 保険証、受療証、紹介状、お薬手帳 | コピーも一部持っておくと安心 |
医薬品 | 常用薬、予備の薬、絆創膏など | 手荷物として機内に持ち込む |
シャントケア用品 | 止血バンド、保護用サポーター | 万が一の事態に備える |
無理のないスケジュール作り
旅行中は、ついあれもこれもと欲張りたくなりますが、体調管理が最優先です。移動日や透析日は予定を詰め込みすぎず、ゆったりとしたスケジュールを組みましょう。特に透析当日は、治療後に休息する時間を確保することが重要です。
観光地を巡る際も、こまめに休憩を取り、水分補給(制限の範囲内で)を忘れないようにしてください。
日常生活で役立つちょっとした工夫集
日々の生活の中で、少し意識を変えたり、便利なグッズを取り入れたりすることで、透析生活の負担を軽減できます。ここでは、多くの患者さんが実践している、簡単ですぐに真似できる工夫を紹介します。
衣類の選び方とシャント保護
シャント側の腕を締め付けないよう、袖口がゆったりした服を選ぶのが基本です。特に透析日は、穿刺しやすいように腕をまくりやすい服装が便利です。
七分袖や半袖の服の上に、カーディガンやパーカーなどを羽織るスタイルは、体温調節もしやすくおすすめです。また、シャントを保護するためのアームカバーやリストバンドを活用する人もいます。
体重管理を楽にするアイデア
透析間の体重増加(ドライウェイトからの増え幅)の管理は、自己管理の基本です。毎日同じ時間、同じ条件で体重を測り、記録する習慣をつけましょう。
スマートフォンのアプリや簡単なノートに記録することで、体重の増減が可視化され、水分や食事の管理意識が高まります。グラフ化できるアプリを使うと、モチベーション維持にも繋がります。
体重記録のポイント
項目 | 具体的な方法 | 目的 |
---|---|---|
測定のタイミング | 毎朝、起床後、排尿後、着衣前 | 測定条件を一定に保つため |
記録する内容 | 日付、体重、前日比、気づいたこと | 体調変化との関連性を把握するため |
ツールの活用 | 記録ノート、スマートフォンのアプリ | 継続しやすく、傾向を把握しやすくするため |
口の渇きを和らげる方法
水分制限中に辛いのが口の渇きです。これは透析患者さん共通の「あるある」な悩みです。うがいは手軽にできる対策ですが、その他にも様々な工夫があります。
例えば、レモン風味の氷や、キシリトール入りのガムは唾液の分泌を促す効果が期待できます。また、スプレータイプの保湿剤を携帯し、口の中が乾いたときにシュッと一吹きするのも良い方法です。
緊急時の備えと連絡体制
万が一の事態に備えておくことも、安心して生活を送るために重要です。シャントからの出血や、著しい体調不良など、緊急時にどう行動すべきかを、あらかじめ家族やかかりつけの医療機関と確認しておきましょう。
緊急連絡先や自分の病状、服用している薬などをまとめたカードを財布などに入れて携帯しておくと、自分自身が話せない状況でも、周囲の人が迅速に対応できます。
よくある質問(Q&A)
最後に、透析患者さんやそのご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。日々の疑問や不安の解消にお役立てください。
- シャント側の腕で重いものを持っても大丈夫?
-
いいえ、避けるべきです。シャントは透析治療のための大切な血管です。重いものを持つと、シャントの血管に圧力がかかり、狭くなったり詰まったりする(閉塞)原因になる可能性があります。
買い物袋やカバンなども、シャントのない方の腕で持つように習慣づけてください。
- 風邪をひいたときはどうすればいい?
-
まずは、かかりつけの透析施設に連絡して指示を仰いでください。自己判断で市販の風邪薬を飲むのは避けるべきです。薬の成分には、腎臓に負担をかけるものや、透析で除去されずに体内に蓄積してしまうものがあります。
医師の処方に基づいた、安全な薬を服用することが大切です。
- 災害時、透析はどうなりますか?
-
大規模な災害が発生した場合に備えて、日頃から準備をしておくことが重要です。かかりつけの透析施設では、災害時の対応マニュアルが用意されているはずです。
連絡方法や避難場所、代替施設の有無などを事前に確認しておきましょう。また、数日分の薬や、緊急連絡先カード、災害用伝言ダイヤルの使い方などを家族と共有しておくことも大切です。
災害への備え
備えの種類 具体的な内容 情報の確認 施設の災害時連絡網、避難場所の確認 物品の準備 非常用持ち出し袋(薬、お薬手帳、小銭など) 家族との連携 安否確認方法(災害用伝言ダイヤルなど)の共有 - 透析中でも仕事は続けられますか?
-
はい、多くの人が仕事を続けています。透析治療と仕事を両立するためには、職場の理解と協力が重要です。夜間透析や在宅透析など、ライフスタイルに合わせた治療の選択肢もあります。
体力的な負担を考慮し、勤務時間や業務内容を調整することも必要になるかもしれません。まずはかかりつけの医療機関のスタッフや、職場の産業医、上司に相談してみましょう。
以上
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