健康診断で腎臓の機能低下を指摘されたり、体にむくみやだるさなどの不調を感じたりしたとき、「腎臓の検査」が必要になることがあります。
腎臓の検査には様々な種類がありますが、中でも「超音波（エコー）検査」は、体に負担をかけずに行える基本的な検査です。さらに詳しい情報が必要な場合には、「腎生検」という組織を採取する検査を行うこともあります。
この記事では、腎臓の超音波検査や腎生検がどのような検査で、何がわかるのか、そしてどのような流れで進むのかを、専門的な内容をわかりやすく解説します。
腎臓の超音波（エコー）検査の基本
腎臓の超音波検査は、腎臓の状態を調べるための入り口となる重要な画像検査です。痛みや放射線被ばくの心配がなく、多くの情報を得られるため、腎臓疾患が疑われる場合に広く行われます。
超音波検査とはどのような検査か
超音波検査は、人の耳には聞こえない高い周波数の音波（超音波）を体の表面から当て、臓器から跳ね返ってくる反射波（エコー）を画像として映し出す検査です。
ゼリーを塗った探触子（プローブ）という装置を皮膚に当てるだけで、体の中の様子をリアルタイムで観察できます。腎臓の位置や大きさ、形、内部の状態などを視覚的に評価するために非常に有用です。
検査が推奨される症状や状態
医師が腎臓の超音波検査を勧めるのは、特定の症状や検査結果が見られる場合です。例えば、健康診断の尿検査でタンパク尿や血尿が指摘された場合、血液検査で腎機能の低下を示すクレアチニンの数値が高い場合などです。
また、背中や腰の痛み、原因不明の高血圧、足や顔のむくみが続くといった自覚症状があるときも、腎臓に原因がないか調べるために検査を行います。
超音波検査が考慮される主な所見
| 検査項目 | 所見 | 考えられること |
|---|---|---|
| 尿検査 | タンパク尿・血尿 | 腎炎、腎結石、腫瘍など |
| 血液検査 | クレアチニン値の上昇 | 腎機能の低下 |
| 自覚症状 | むくみ・高血圧・腰痛 | 腎臓由来の体液貯留や疾患 |
超音波検査の利点と限界
この検査の大きな利点は、その安全性と手軽さです。放射線を使用しないため、妊娠中の方や繰り返し検査が必要な方でも安心して受けられます。検査中の痛みもほとんどなく、短時間で終わるため、患者さんの身体的な負担が非常に少ないです。
しかし、万能ではありません。機能そのものを数値で評価することはできず、ごく小さな病変や、肥満度が高い方では画像が不鮮明になることがあります。
あくまで形態的な評価が中心となるため、機能の評価には血液検査や尿検査などを組み合わせることが重要です。
超音波検査の主な利点
- 非侵襲的で痛みが少ない
- 放射線被ばくがない
- リアルタイムで臓器を観察できる
- 比較的安価で広く普及している
超音波検査でわかること
超音波検査は、腎臓の「見た目」を詳細に観察することで、多くの病気のサインを捉えることができます。ここでは、具体的にどのような情報が得られるのかを解説します。
腎臓の大きさと形の評価
健康な成人の腎臓は、長さが約10～12cm、幅が約5～6cmのそら豆のような形をしています。超音波検査では、まずこの大きさと形を測定します。腎臓が通常より小さい「萎縮腎」は、慢性的な腎臓病が長期間続いた結果であることが多いです。
逆に、急性の腎障害や炎症では腎臓が腫れて大きくなることがあります。形の異常も重要で、表面が凸凹している場合は、過去の炎症の痕跡や血流障害などが考えられます。
腎結石や水腎症の発見
腎結石は、腎臓内にできた石のことで、超音波検査では白く輝く点（高エコー輝度）として映し出されます。多くの場合、その後ろに音波が通らないことによる影（音響陰影）を伴うため、診断は比較的容易です。
また、尿の通り道である尿管が結石や腫瘍などで塞がれると、腎臓で作られた尿が排出されずに溜まってしまい、腎臓内部の腎盂・腎杯という部分が拡張します。この状態を「水腎症」といい、超音波検査で容易に確認できます。
超音波で観察する腎臓の主要なポイント
| 観察項目 | 正常な所見 | 異常な所見の例 |
|---|---|---|
| 大きさ | 長さ10-12cm程度 | 萎縮（小さい）、腫大（大きい） |
| 内部構造 | 皮質と髄質が明瞭 | 境界が不明瞭、嚢胞、結石、腫瘍 |
| 腎盂 | 拡張していない | 拡張している（水腎症） |
嚢胞や腫瘍の有無
腎嚢胞は、腎臓にできる液体のたまった袋状の構造物です。超音波では、黒く抜けた円形（無エコー）として描出されます。
多くは良性で無症状の単純性嚢胞ですが、多発する場合や形がいびつな場合は、多発性嚢胞腎という遺伝性疾患や、悪性腫瘍との鑑別が必要になります。
腎臓の腫瘍も超音波検査で発見されることがあります。良性の場合も悪性（腎臓がん）の場合もあり、超音波の画像だけでは判断が難しいことも少なくありません。
腫瘍が疑われる場合は、CTやMRIなどのより精密な画像検査や、後述する腎生検を追加で行うことがあります。
血流の評価（ドプラ法）
ドプラ法は、超音波検査の特殊な機能で、血流の向きや速さを色や音で表現することができます。腎臓に血液を送る腎動脈や、腎臓から血液を戻す腎静脈の血流を評価します。
腎動脈が狭くなっている「腎動脈狭窄症」は高血圧の原因となることがあり、ドプラ法で血流の異常な加速を捉えることで診断の手がかりを得ます。また、移植腎の血流評価などにも重要な役割を果たします。
超音波検査の流れと準備
検査当日はどのような流れで進むのでしょうか。安心して検査を受けられるように、事前の準備から検査後の注意点までを説明します。
検査前の食事や水分の制限
腎臓の超音波検査では、通常、特別な食事制限は必要ありません。ただし、腎臓だけでなく腹部全体を観察する場合には、数時間前から食事を控えるよう指示されることがあります。
これは、食事によって腸内にガスが発生すると、そのガスが邪魔をして腎臓が見えにくくなることがあるためです。水分については、
適度に尿が溜まっている方が腎臓や膀胱が観察しやすくなるため、検査直前の排尿を我慢するようお願いすることがあります。詳細は検査を受ける施設の指示に従ってください。
検査当日の具体的な手順
検査室に入ると、まずベッドに仰向け、またはうつ伏せになってもらいます。腎臓は背中側にあるため、うつ伏せの姿勢が基本です。検査する部分の皮膚に、ひんやりとしたゼリーを塗ります。
このゼリーは、超音波がスムーズに体内へ伝わるようにするためのもので、体に害はありません。その後、技師や医師がプローブを皮膚に当て、少しずつ動かしながら腎臓を様々な角度から観察します。
画面を見やすくするために、時々息を吸ったり吐いたり、止めてもらったりすることがあります。検査時間は通常15分から20分程度です。
腎臓超音波検査の一般的な流れ
| 手順 | 内容 | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| 受付・準備 | 検査着への着替え（必要な場合） | 5分 |
| 検査開始 | ベッドに横になり、皮膚にゼリーを塗布 | 5分 |
| 観察・記録 | プローブを当てて腎臓を観察、画像を記録 | 10-15分 |
検査後の注意点と結果の説明
検査終了後は、体に塗ったゼリーを拭き取って終了です。体に負担のかかる検査ではないため、すぐに普段通りの生活に戻れます。食事や運動の制限もありません。
検査結果については、担当した医師が画像を解析し、後日、外来で説明するのが一般的です。緊急性のある所見が見つかった場合は、その日のうちに説明があることもあります。
腎生検が必要となる場合
超音波検査などの画像検査や血液・尿検査だけでは診断が確定しないとき、または治療方針を決めるために、より詳細な情報が必要な場合に腎生検を検討します。
診断確定のための組織検査
腎生検は、腎臓の組織の一部を特殊な針で採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。画像検査が腎臓の「形」を見るのに対し、腎生検は「細胞レベル」での変化を直接観察します。
これにより、どのような種類の腎臓病が、どのくらいの勢いで進行しているのか、といった質的な評価が可能になります。確定診断や、病気の活動性の評価、治療効果の予測に非常に重要です。
腎生検の主な目的
腎生検を行う目的は多岐にわたります。最も多いのは、学校や職場の検尿で発見された無症状のタンパク尿や血尿の原因を特定するためです。
また、急激に腎機能が悪化する「急速進行性腎炎」や、全身の病気（膠原病など）に伴う腎障害（ループス腎炎など）の診断と重症度判定にも行います。
治療方針の決定、特に免疫を抑制するような強力な治療（ステロイドや免疫抑制薬）を開始するかどうかを判断する上で、腎生検から得られる情報は大きな根拠となります。
腎生検を検討する主な疾患や状態
| 分類 | 具体的な疾患・状態 | 腎生検で知りたいこと |
|---|---|---|
| 検尿異常 | 持続的なタンパク尿・血尿 | 原因となる腎炎の種類（IgA腎症など）の特定 |
| ネフローゼ症候群 | 高度なタンパク尿とむくみ | 病型（微小変化型、巣状分節性糸球体硬化症など）の診断 |
| 急性腎障害 | 原因不明の急激な腎機能悪化 | 急性尿細管壊死、急速進行性腎炎などの鑑別 |
腎生検を行わない、あるいは慎重になるケース
腎生検は有用な検査ですが、全ての患者さんに行えるわけではありません。出血のリスクがあるため、血液を固まりにくくする薬（抗血小板薬や抗凝固薬）を内服している場合は、一定期間休薬する必要があります。
また、コントロールが難しい高血圧がある方、腎臓が極端に萎縮してしまっている方、腎臓に多数の嚢胞がある方、活動性の感染症がある方も、出血などの合併症のリスクが高いため、原則として行いません。
個々の患者さんの状態を総合的に判断して、検査の利益がリスクを上回る場合にのみ実施します。
腎生検の実際 検査方法と流れ
腎生検は入院が必要な検査です。ここでは、一般的な腎生検がどのように行われるのか、その具体的な手順や準備について詳しく見ていきます。
入院から検査までの準備
腎生検は、通常、数日間の入院が必要です。入院後は、まず出血のリスクを評価するために血液検査や尿検査を再度行います。前述の通り、血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合は、医師の指示に従って入院前から休薬します。
検査前日の夜からは食事の制限があり、当日の朝からは水分も制限されることが一般的です。
入院中の準備事項
- 血液検査・尿検査による再評価
- 常用薬の確認と調整（特に抗血栓薬）
- 検査に関する詳細な説明と同意書の作成
- 検査前からの食事・飲水制限
検査の手順（経皮的腎生検）
最も一般的に行われるのは「経皮的腎生検」です。検査室でうつ伏せになり、超音波で腎臓の位置を確認しながら、採取する場所を決定します。背中の皮膚を消毒し、局所麻酔を行います。
麻酔が効いてきたら、皮膚を数ミリ小さく切開し、そこから生検針を腎臓まで進めます。医師が「息を吸って、止めてください」と合図をしますので、そのタイミングで呼吸を止めます。
その瞬間に、「バチン」という音とともに自動式の生検針で組織が一瞬で採取されます。正確な診断のために、通常2～3回組織を採取します。検査全体の所要時間は30分から1時間程度です。
腎生検の方法ごとの特徴
| 検査方法 | 特徴 | 対象となる患者さん |
|---|---|---|
| 経皮的腎生検 | 背中から針を刺して採取。最も一般的。 | 多くの腎疾患の診断 |
| 開放腎生検 | 全身麻酔下で手術により直接腎臓から採取。 | 出血リスクが高い、片方の腎臓しかない場合など |
| 経静脈的腎生検 | 首や足の付け根の静脈からカテーテルで採取。 | 出血傾向が極めて強い場合など |
その他の腎生検の方法
経皮的腎生検が難しい場合には、他の方法を選択することもあります。「開放腎生検」は、全身麻酔をかけて背中を小さく切開し、腎臓を目で直接見ながら組織を採取する方法です。
出血を確実に止められるため、出血のリスクが非常に高い患者さんに行われます。
「経静脈的腎生検」は、首や足の付け根の太い静脈からカテーテルを腎臓まで進めて組織を採取する特殊な方法で、出血傾向が著しい患者さんに適応されることがあります。
腎生検後の注意点と合併症
腎生検で最も注意すべき合併症は出血です。そのため、検査後は慎重な管理が重要になります。安全に検査を終えるために知っておくべきことを解説します。
検査直後の安静と管理
検査終了後、最も重要なのは安静です。検査室から病室のベッドに戻ったら、針を刺した側を下にして圧迫止血を図り、その後は仰向けの状態で最低でも6時間程度は体を動かさずに安静を保ちます。
この間は、ベッド上での寝返りも制限されます。看護師が定期的に血圧や脈拍を測定し、気分不快や痛みの有無を確認します。尿の色も重要で、出血がないかをチェックします。
検査後の安静期間の過ごし方
| 時間 | 状態 | 注意点 |
|---|---|---|
| 検査後0～6時間 | 絶対安静 | ベッド上で仰向けのまま動かない。飲食は不可または制限。 |
| 検査後6～24時間 | ベッド上安静 | ベッド上での体位変換が可能になる。食事も再開。 |
| 検査翌日以降 | 歩行開始 | 状態が安定していればトイレ歩行などから開始。 |
退院後の生活での注意
無事に出血なく経過すれば、検査の翌日か翌々日には退院となります。しかし、退院後もすぐにもとの生活に戻れるわけではありません。
腎臓内部の傷が完全に治るまでには時間がかかるため、退院後1～2週間は、重い物を持ったり、激しい運動をしたり、長時間の運転をしたりすることは避ける必要があります。
血圧が上がるような行動は、再出血のリスクを高めるためです。仕事への復帰時期などは、医師とよく相談して決めてください。
起こりうる合併症とその対応
最も多い合併症は出血です。多くは尿に血が混じる「肉眼的血尿」で、ほとんどは安静にすることで自然に止まります。しかし、まれに腎臓の周りに血の塊（血腫）ができることがあります。
血腫が大きくなると、強い痛みや貧血、血圧低下を引き起こし、輸血やカテーテルによる止血術（血管内治療）が必要になることもあります。極めてまれですが、緊急手術が必要になる可能性もゼロではありません。
退院後に強い背部痛や腹痛、持続する血尿、発熱などがあった場合は、すぐに検査を受けた医療機関に連絡することが大切です。
注意すべき合併症のサイン
| 合併症 | 主なサイン | 対応 |
|---|---|---|
| 腎周囲血腫 | 持続する強い背部痛、腹痛、めまい | 速やかに医療機関に連絡 |
| 肉眼的血尿 | 目で見て赤いとわかる尿 | 安静にし、続く場合は医療機関に相談 |
| 感染症 | 発熱、悪寒、穿刺部の痛みや腫れ | 速やかに医療機関に連絡 |
よくある質問
最後に、腎臓の超音波検査や腎生検に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- 検査に伴う痛みはどのくらいですか
-
超音波検査は、ゼリーの冷たさを感じる程度で、痛みはほとんどありません。プローブで少し圧迫される感覚があるだけです。一方、腎生検は局所麻酔を行いますが、麻酔の注射の際にチクッとした痛みがあります。
麻酔が効けば検査中の痛みはあまりありませんが、組織を採取する瞬間に、体の奥で押されるような、あるいは鈍い響くような感覚を覚えることがあります。
検査後の痛みは個人差がありますが、痛み止めで対応できる範囲がほとんどです。
- 検査にはどのくらいの時間がかかりますか
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超音波検査自体の所要時間は、15分から20分程度です。受付から着替え、検査終了まで含めても30分から1時間もあれば完了します。
腎生検は、検査室に入ってから出るまで30分から1時間程度ですが、検査後の安静時間が長く、入院期間は一般的に2泊3日から4泊5日程度となります。
- 検査の費用はどのくらいかかりますか
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費用は、加入している健康保険の種類や医療機関の設定によって異なります。あくまで目安ですが、3割負担の場合、超音波検査は数千円程度です。
腎生検は入院と検査を合わせて、10万円から15万円程度になることが多いですが、高額療養費制度を利用することで自己負担額を抑えることができます。事前に医療機関の相談窓口などで確認することをお勧めします。
検査に関する概要
項目 超音波検査 腎生検 痛み ほとんどない 局所麻酔の注射時と、検査後の鈍痛の可能性 所要時間 検査自体は15-20分 検査自体は30-60分（数日間の入院が必要） 費用（3割負担目安） 数千円 10万円～15万円程度（高額療養費制度の対象） - 腎生検の後、いつから仕事や運動ができますか
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退院後、デスクワークなどの事務的な仕事であれば1週間程度の自宅療養後から復帰できることが多いです。しかし、力仕事や立ち仕事が多い職種の場合は、2週間から1ヶ月程度の休養を推奨することもあります。
ジョギングなどの軽い運動は退院後2週間程度から、腹圧のかかる激しいスポーツは最低でも1ヶ月は控えるのが安全です。最終的な判断は、腎生検の結果や検査後の経過をふまえて、主治医と相談して決めることが重要です。
自己判断で無理をすると、再出血のリスクがあります。
以上
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