腎臓の機能が低下した際に行う治療法の一つに腹膜透析(PD)があります。
この記事では、腹膜透析がどのような治療法で、どのような仕組みで行われるのか、そしてその利点について解説します。また、治療を続ける上で非常に重要なカテーテル管理と、感染を予防するための具体的な方法についても詳しく説明します。
腹膜透析を検討している方や、ご家族にとって、正しい知識を得る一助となれば幸いです。
腹膜透析(PD)の基本的な理解
腹膜透析(PD)は、ご自身の体の一部である「腹膜」を利用して血液を浄化する透析療法です。腎臓の働きが著しく低下した末期腎不全の患者さんにとって、生命を維持するための重要な治療選択肢となります。
ここでは、腹膜透析の基本的な概念、腹膜の役割、他の透析療法との違い、そしてどのような方に適しているかについて説明します。
腹膜透析とは何か
腹膜透析(Peritoneal Dialysis、略してPD)は、患者さん自身のお腹の中にある「腹膜」という薄い膜をフィルターとして利用し、血液中の老廃物や余分な水分を取り除く治療法です。
お腹の中にカテーテルという細い管を留置し、そこから透析液を注入します。一定時間透析液を貯留することで、腹膜を介して血液中の老廃物などが透析液側に移動します。
その後、老廃物を含んだ透析液を体外に排出することで血液を浄化します。この操作を1日に数回、患者さん自身やご家族が自宅や職場などで行います。
腹膜の構造と働き
腹膜は、お腹の中(腹腔)の臓器の表面や腹壁の内側を覆っている半透明の薄い膜です。腹膜には毛細血管が豊富に分布しており、これが透析のフィルターとしての役割を果たします。
腹膜の表面積は、成人の場合、体表面積とほぼ同じ約1~2平方メートルにもなります。この広い面積と豊富な毛細血管が、効率的な物質交換を可能にしています。
透析液を腹腔内に注入すると、腹膜を介して血液中の尿素やクレアチニンといった老廃物、カリウムやリンなどの電解質、そして余分な水分が、濃度勾配や浸透圧の原理によって透析液側に移動します。
透析療法の種類とPDの位置づけ
末期腎不全の治療法には、主に血液透析(HD)、腹膜透析(PD)、そして腎移植の3つの選択肢があります。血液透析は、週に2~3回医療機関に通院し、機械を使って血液を体外循環させて浄化する方法です。
腎移植は、ドナーから提供された腎臓を移植する根治療法ですが、ドナーの確保や拒絶反応などの課題があります。腹膜透析は、これらの治療法の中で、在宅で行えるという大きな特徴を持っています。
患者さんのライフスタイルや身体状況、価値観などを考慮し、医師と相談しながら最適な治療法を選択します。
透析療法の主な選択肢
治療法 | 治療場所 | 特徴 |
---|---|---|
血液透析(HD) | 医療機関 | 週2~3回の通院が必要。機械で血液を浄化。 |
腹膜透析(PD) | 自宅、職場など | 在宅で実施可能。腹膜を利用して浄化。 |
腎移植 | 医療機関(手術) | 根治療法。ドナーが必要。 |
PDが適している方・適していない方
腹膜透析は、通院の負担を減らしたい方、自己管理能力がある方、残存腎機能(自分の腎臓がまだ持っている尿を作る力)を長く保ちたい方などに適していると考えられます。
また、心血管系への負担が比較的少ないため、高齢の方や心臓に合併症のある方にも選択されることがあります。
一方で、過去に広範囲な腹部の手術を受けたことがある方、腹膜の機能が著しく低い方、自己管理や衛生管理が難しい方、介護者の協力が得られない場合などには、腹膜透析が適さないこともあります。
個々の状況に応じて医師が総合的に判断します。
腹膜透析(PD)の仕組みと種類
腹膜透析は、腹膜を介した物質移動の原理を利用しています。具体的には「拡散」と「浸透」という現象により、血液中の老廃物や余分な水分が透析液に移動します。
腹膜透析には、患者さんの生活スタイルに合わせていくつかの種類があります。
PDの透析原理 拡散と浸透
腹膜透析における血液浄化は、主に「拡散」と「浸透」という二つの物理現象によって行われます。
拡散とは、濃度の高い方から低い方へ物質が移動する現象です。血液中には尿素やクレアチニンなどの老廃物が高濃度で含まれていますが、透析液にはこれらがほとんど含まれていません。
そのため、腹膜を介して血液中の老廃物が透析液側へ移動します。
浸透とは、半透膜を介して水が濃度の低い方から高い方へ移動する現象です。腹膜透析で用いる透析液にはブドウ糖などの浸透圧物質が含まれており、血液よりも浸透圧が高くなっています。
この浸透圧差によって、血液中の余分な水分が腹膜を介して透析液側へ引き寄せられ、除去されます。これを「除水」と呼びます。
CAPD(連続携行式腹膜透析)とは
CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:連続携行式腹膜透析)は、最も一般的な腹膜透析の方法です。患者さん自身が、1日に3~5回程度、透析液の交換(バッグ交換)を手動で行います。
1回の透析液交換にかかる時間は約30分です。透析液は腹腔内に4~8時間程度貯留し、その間に血液浄化が行われます。日中は活動しながら透析を行うことができ、特別な機械は必要ありません。そのため、比較的自由な生活を送ることが可能です。
APD(自動腹膜透析)とは
APD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)は、就寝中に専用の機械(自動腹膜灌流装置)が自動的に透析液の交換を行う方法です。患者さんは夜寝る前に機械にカテーテルを接続し、朝起きたら取り外します。
機械がプログラムに従って、夜間に数回透析液の注入、貯留、排出を繰り返します。日中の透析液交換が不要になるため、学業や仕事などで日中の拘束時間を減らしたい方に適しています。ただし、機械の操作を覚える必要があります。
CAPDとAPDの比較
CAPDとAPDは、それぞれに利点と考慮すべき点があります。どちらの方法が適しているかは、患者さんのライフスタイル、身体状況、好みなどによって異なります。
医師や医療スタッフと十分に相談し、ご自身に合った方法を選択することが大切です。
CAPDとAPDの主な違い
項目 | CAPD(連続携行式腹膜透析) | APD(自動腹膜透析) |
---|---|---|
透析液交換 | 手動で1日3~5回 | 夜間、機械が自動で実施 |
所要時間 | 1回約30分 | 夜間8~10時間程度 |
日中の生活 | 交換時以外は自由 | 基本的に交換不要で自由 |
腹膜透析(PD)のメリットと生活への影響
腹膜透析は、血液透析と比較して、身体への負担が少なく、通院回数も少ないなど、患者さんの生活の質(QOL)を維持しやすいというメリットがあります。
ここでは、腹膜透析がもたらす具体的な利点と、日常生活への影響について解説します。
身体への負担が少ない
腹膜透析は、血液透析のように血液を体外に大量に取り出して浄化するわけではなく、腹膜を介してゆっくりと時間をかけて老廃物や水分を除去します。
そのため、血圧の急激な変動が起こりにくく、心臓や血管への負担が比較的少ないとされています。これは、特に高齢の患者さんや心血管系の合併症を持つ患者さんにとって大きな利点となります。
また、透析導入初期の残存腎機能(自分の腎臓に残っている機能)を比較的長く保てる傾向があることも報告されています。
通院回数が少ない
腹膜透析は基本的に在宅で行う治療法であるため、血液透析のように週に何度も医療機関へ通院する必要がありません。通常、月に1~2回程度の定期的な外来受診で、医師の診察や検査、指導を受けます。
これにより、通院に伴う時間的・身体的な負担が大幅に軽減され、患者さんは自宅での時間をより多く持つことができます。仕事や趣味、家族との時間を大切にしたい方にとって、これは大きな魅力となるでしょう。
食事制限が比較的緩やか
腹膜透析は、血液透析と比較して、食事制限が比較的緩やかであると言われています。
これは、腹膜透析が持続的に透析を行うため、カリウムなどの物質が体内に蓄積しにくいことや、透析液に含まれるブドウ糖からエネルギーが補給されることなどが理由として挙げられます。
ただし、塩分や水分の摂取制限は引き続き重要ですし、リンの管理も必要です。個々の状態によって制限の内容は異なりますので、医師や管理栄養士の指導のもと、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
一般的な食事管理のポイント(PDとHDの比較例)
栄養素 | 腹膜透析(PD)での注意点 | 血液透析(HD)での注意点 |
---|---|---|
カリウム | 比較的制限は緩やかだが、摂りすぎに注意 | 厳格な制限が必要な場合が多い |
水分 | 除水量に応じて調整。過度な摂取は避ける | 体重増加量に基づき厳しく管理 |
タンパク質 | 透析液への喪失があるため、適量摂取が必要 | 制限が必要な場合がある |
注意:上記の表は一般的な傾向であり、実際の食事指導は個々の患者さんの状態によって異なります。必ず医師や管理栄養士の指示に従ってください。
社会復帰や旅行のしやすさ
腹膜透析は、日中の透析液交換が不要なAPDを選択したり、CAPDであっても交換時間を調整したりすることで、仕事や学業との両立がしやすい治療法です。
また、透析液や関連物品を旅行先に送ることで、国内旅行はもちろん、海外旅行も可能です。事前に医療機関と相談し、必要な準備を行うことで、活動的な生活を送ることができます。
社会とのつながりを維持し、趣味や余暇を楽しむことは、精神的な安定にもつながり、治療を継続する上での大きな支えとなります。
腹膜透析(PD)カテーテルの留置と管理
腹膜透析を行うためには、腹腔内に透析液を出し入れするためのカテーテルという細い管を留置する手術が必要です。カテーテルは治療の生命線であり、その適切な管理は感染予防と治療の継続にとって非常に重要です。
カテーテル留置手術について
腹膜透析用カテーテルの留置手術は、通常、局所麻酔または全身麻酔下で行われます。おへその下あたりを小さく切開し、カテーテルを腹腔内に挿入・固定します。
手術時間は1時間程度が一般的です。カテーテルは、皮膚の下を通って体外に出る部分(出口部)が作られます。手術後は、創部の治癒とカテーテルの固定を待つため、通常数週間から1ヶ月程度の安静期間をおいてから腹膜透析を開始します。
手術方法や術後の経過には個人差がありますので、担当医から詳しい説明を受けましょう。
カテーテル出口部のケア方法
カテーテル出口部は、細菌が体内に侵入する経路となりやすいため、毎日の清潔ケアが欠かせません。ケアの方法は医療機関によって多少異なる場合がありますが、基本的な手順は以下の通りです。
- 手洗いを徹底する。
- 出口部周囲を観察し、発赤、腫れ、痛み、浸出液などがないか確認する。
- 消毒液(例:ポビドンヨードやクロルヘキシジンなど)を用いて、出口部を中心に外側に向かって円を描くように消毒する。
- 清潔なガーゼやドレッシング材で保護する。
ケアの頻度や具体的な手技については、必ず医療スタッフの指導を受け、正しく実践することが大切です。疑問点があれば遠慮なく質問しましょう。
カテーテル関連の合併症とその兆候
カテーテル管理を適切に行っていても、合併症が起こる可能性があります。早期発見・早期対応が重要ですので、以下のような兆候に注意しましょう。
主なカテーテル関連合併症と注意すべき兆候
合併症 | 主な兆候 | 対処のポイント |
---|---|---|
出口部感染 | 出口部の発赤、腫れ、痛み、膿や浸出液 | 速やかに医療機関に連絡 |
トンネル感染 | カテーテルの皮下トンネルに沿った発赤、腫れ、痛み | 速やかに医療機関に連絡 |
カテーテル機能不全 | 透析液の注入・排出がスムーズにいかない、腹痛 | 自己判断せず医療機関に相談 |
これらの兆候に気づいたら、自己判断せずに速やかに医療機関に連絡し、指示を仰ぐことが重要です。早期の対応が、合併症の重症化を防ぎます。
日常生活でのカテーテル保護のポイント
日常生活では、カテーテルを誤って引っ張ったり、傷つけたりしないように注意が必要です。カテーテルは専用のベルトやテープで腹部にしっかりと固定し、衣服の下に保護します。
入浴時には、出口部を防水性のフィルムで覆うなど、濡らさないように工夫します。激しい運動や、カテーテルに負担がかかるような動作は避けるようにしましょう。
また、ペットを飼っている場合は、カテーテルやチューブを噛まれたりしないように注意が必要です。日常生活での具体的な注意点については、医療スタッフに確認しましょう。
腹膜透析(PD)における感染予防の重要性
腹膜透析において最も注意すべき合併症の一つが感染症です。特に腹膜炎やカテーテル関連感染は、治療の継続を困難にする可能性があるため、日々の予防策が非常に重要になります。
ここでは、主な感染症のリスクと症状、そしてその予防策について詳しく解説します。
腹膜炎のリスクと症状
腹膜炎は、腹腔内に細菌が侵入し、腹膜が炎症を起こす病態です。腹膜透析患者さんにとって最も頻度が高く、重篤化しやすい合併症の一つです。
主な原因は、透析液交換時の操作ミスによる細菌汚染や、カテーテル出口部・トンネル感染からの波及などです。腹膜炎を発症すると、治療のために入院が必要になることもあり、場合によっては腹膜透析の継続が困難になることもあります。
腹膜炎の主な症状
症状の種類 | 具体的な症状 |
---|---|
腹部の症状 | 腹痛(持続的な痛み、圧痛)、お腹の張り |
排液の異常 | 排液の混濁(白く濁る、浮遊物がある) |
全身症状 | 発熱、悪寒、吐き気、嘔吐、倦怠感 |
これらの症状が一つでも現れた場合は、すぐに医療機関に連絡し、指示を受ける必要があります。早期診断と適切な抗菌薬治療が、重症化を防ぐ鍵となります。
出口部感染・トンネル感染のリスクと症状
カテーテル出口部感染は、カテーテルが皮膚から体外に出る部分(出口部)に細菌が感染して炎症を起こす状態です。また、トンネル感染は、出口部から腹腔内に至るまでの皮下トンネル部分に感染が広がる状態を指します。
これらの感染は、腹膜炎の原因となることがあるため、早期の発見と治療が重要です。
出口部・トンネル感染の主な症状
感染部位 | 主な症状 |
---|---|
出口部 | 出口部の発赤、腫れ、痛み、硬結(しこり)、膿や浸出液の排出 |
トンネル部 | カテーテルの皮下トンネルに沿った発赤、腫れ、痛み、圧痛 |
出口部のケアを毎日行い、異常がないか観察することが予防と早期発見につながります。異常を感じたら、すぐに医療機関に相談してください。
感染予防のための基本的な対策
腹膜炎やカテーテル関連感染を予防するためには、日々の基本的な対策を徹底することが何よりも大切です。医療スタッフから指導される内容を正しく理解し、確実に実践しましょう。
- 手洗いと手指消毒の徹底:透析液交換操作の前や、カテーテル出口部のケアを行う前には、石けんと流水による丁寧な手洗い、またはアルコール手指消毒剤による消毒を必ず行います。
- マスクの着用:透析液交換操作中は、マスクを正しく着用し、咳やくしゃみによる汚染を防ぎます。
- 清潔な環境での操作:透析液交換は、清潔で乾燥した、埃の少ない場所で行います。窓を閉め、扇風機やエアコンの風が直接当たらないように注意します。
- 正しい操作手順の遵守:透析液バッグや接続チューブの取り扱い、接続・切断操作など、指導された手順を正確に守ります。
- カテーテル出口部の毎日のケア:指導された方法で、毎日欠かさず出口部の観察と消毒、保護を行います。
これらの基本的な対策を習慣化することが、感染リスクを大幅に低減させることにつながります。
環境整備と衛生管理
透析操作を行う部屋の環境整備も感染予防には重要です。部屋は定期的に清掃し、埃がたまらないようにします。床や操作を行うテーブルの上は、水拭きなどで清潔に保ちましょう。
ペットを飼っている場合は、操作中にペットが部屋に入らないようにする、動物の毛が舞わないようにするなどの配慮が必要です。また、透析液や関連物品は、清潔で乾燥した、直射日光の当たらない場所に保管します。
使用期限を確認し、期限切れのものは使用しないようにしましょう。湿度が高い場所や不潔な場所での保管は、物品の汚染につながる可能性があります。
腹膜透析(PD)中の自己管理と注意点
腹膜透析は在宅で行う治療法であるため、患者さん自身による日々の自己管理が非常に重要です。体調の変化に気を配り、異常があれば早期に対処することで、合併症を予防し、より良い治療効果を得ることができます。
透析液交換の手順と清潔操作
透析液の交換は、腹膜透析治療の中心となる操作です。CAPDの場合は1日に数回、APDの場合は就寝前と起床時に行います。この操作は、細菌感染を防ぐために、徹底した清潔操作が求められます。
操作前には必ず石けんで丁寧に手洗いを行い、マスクを着用します。透析液バッグやチューブの接続・切断は、医療スタッフから指導された正しい手順に従って慎重に行います。
操作中に誤って不潔にしてしまった場合は、自己判断せずに医療機関に連絡し、指示を仰ぐことが大切です。手順に慣れるまでは不安を感じるかもしれませんが、繰り返し練習することで確実に習得できます。
体重・血圧・体液量の記録と管理
腹膜透析では、体液量のコントロールが重要です。毎日同じ時間に体重を測定し、記録する習慣をつけましょう。体重の急激な増減は、体液量のバランスが崩れているサインかもしれません。
また、血圧も定期的に測定し、記録します。透析液の排液量や尿量(残存腎機能がある場合)も記録することで、体内の水分バランスを把握するのに役立ちます。
これらの記録は、定期受診の際に医師が治療方針を決定するための重要な情報となります。
自己管理のための主な記録項目
項目 | 測定タイミング・頻度 | 記録する内容 |
---|---|---|
体重 | 毎日(朝、排液後など一定の条件で) | 測定値、前日との差 |
血圧・脈拍 | 毎日(朝・夕など) | 最高血圧、最低血圧、脈拍数 |
透析関連記録 | 毎交換時 | 注入液量、排液量、除水量、排液の色・混濁の有無 |
定期的な受診と検査の重要性
腹膜透析を行っている患者さんは、通常、月に1~2回程度の定期的な外来受診が必要です。受診時には、医師による診察、血液検査、腹膜機能検査などが行われ、透析が適切に行われているか、合併症の兆候がないかなどを確認します。
また、栄養状態の評価や、カテーテル出口部のチェックも行われます。
自己管理の記録(体重、血圧、透析記録など)を持参し、医師や看護師、管理栄養士などの医療スタッフと情報を共有することで、よりきめ細やかな治療計画を立てることができます。疑問や不安なことがあれば、遠慮なく相談しましょう。
異常を感じたときの対処法
腹膜透析中に体調の変化や何らかの異常を感じた場合は、自己判断せずに速やかに医療機関に連絡し、指示を受けることが基本です。特に、以下のような症状が現れた場合は注意が必要です。
- 持続する腹痛
- 排液の混濁
- 発熱、悪寒
- カテーテル出口部の発赤、腫れ、痛み、膿
- 急激な体重増加や息切れ、むくみ
- 透析液の注入や排出が困難
これらの症状は、腹膜炎やカテーテル関連感染、体液量のコントロール不良など、何らかの問題が起きているサインである可能性があります。早期に適切な対応をすることで、重症化を防ぐことができます。
緊急時の連絡先や対処方法については、あらかじめ医療機関から説明を受けておきましょう。
腹膜透析(PD)に関するよくある質問(FAQ)
腹膜透析を始めるにあたって、多くの患者さんやご家族が様々な疑問や不安を抱かれます。ここでは、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
ただし、個々の状況によって対応が異なる場合があるため、詳細は必ず主治医にご確認ください。
- 腹膜透析は痛いですか?
-
カテーテル留置手術の際には麻酔を使用するため、手術中の痛みはほとんどありません。術後は創部の痛みを感じることがありますが、痛み止めで対応できます。
透析液の注入・排出時に、お腹の張りや軽い違和感を覚える方もいますが、通常は強い痛みを伴うものではありません。
もし持続する腹痛がある場合は、腹膜炎などの合併症の可能性も考えられるため、速やかに医療機関に相談してください。
- 入浴はできますか?
-
はい、カテーテル出口部が安定すれば入浴は可能です。ただし、出口部を清潔に保ち、感染を防ぐための工夫が必要です。一般的には、出口部を防水性のフィルムやドレッシング材でしっかりと保護し、湯船のお湯で濡らさないようにします。
シャワー浴が推奨されることが多いですが、入浴方法については主治医や看護師の指示に従ってください。入浴後は、出口部をよく乾燥させ、必要に応じて消毒と保護を行います。
- 仕事や学業との両立は可能ですか?
-
はい、多くの方が仕事や学業を続けながら腹膜透析を行っています。CAPDの場合、透析液の交換は1日に数回必要ですが、職場や学校の休憩時間などを利用して行うことができます。
APD(自動腹膜透析)を選択すれば、日中の交換が不要になるため、より活動の自由度が高まります。
職種や学業の内容によっては配慮が必要な場合もありますので、主治医や医療ソーシャルワーカーに相談し、職場や学校の理解と協力を得ながら調整していくことが大切です。
- 旅行に行くことはできますか?
-
はい、腹膜透析を行っていても旅行は可能です。事前に計画を立て、準備をすれば、国内旅行だけでなく海外旅行も楽しむことができます。透析液や関連物品は、旅行先に配送してもらうことができます。
旅行中の注意点や、万が一の際の対応について、事前に主治医や医療スタッフとよく相談しておくことが重要です。
旅行時の主な準備と注意点
準備・注意点 具体的な内容 医療機関との相談 旅行計画、期間、行き先を伝え、指示を仰ぐ。紹介状や英文の診断書が必要な場合も。 透析物品の手配 必要な量の透析液や関連物品を事前に旅行先へ配送手配。 緊急連絡先の確認 旅行先の提携医療機関や、緊急時の連絡体制を確認しておく。 - 災害時の備えはどうすればよいですか?
-
災害時にも腹膜透析を継続できるよう、事前の備えが重要です。以下の点を参考に、ご自身の状況に合わせて準備しておきましょう。
- 透析液・関連物品の備蓄:最低でも1~2週間分の透析液や衛生材料などを備蓄しておくことが推奨されます。
- 非常用持ち出し袋の準備:薬、消毒薬、ガーゼ、テープ、懐中電灯、ラジオ、電池、飲料水、非常食などをまとめておきます。
- 連絡体制の確認:緊急時の連絡先(医療機関、家族など)をリストアップし、常に携帯します。
- 避難場所の確認:地域のハザードマップなどを確認し、安全な避難場所や避難経路を把握しておきます。
災害発生時は、まずご自身の安全を確保し、落ち着いて行動することが大切です。医療機関との連絡が取れる場合は指示を仰ぎ、連絡が取れない場合でも、備蓄品を活用して透析を継続できるように努めます。
自治体や関連学会などからも災害時の情報が提供されることがあるので、平時から情報を収集しておくことも役立ちます。
以上
透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )
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