ベキサロテン(タルグレチン)とは、レチノイドX受容体(RXR)に選択的に結合する内服薬で、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)や皮膚病変を有する成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)に対して用いられる抗悪性腫瘍薬です。
がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導し、細胞周期を停止させることで腫瘍の増殖を抑制する働きが特徴ですが、高トリグリセリド血症や甲状腺機能低下症などの特有の副作用があるため、専門医の管理下での使用が必須です。
催奇形性があるため、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方には投与できません。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ベキサロテン(タルグレチン)の有効成分と効果、作用機序
ベキサロテンは第3世代の合成レチノイドで、レチノイドX受容体(RXR)に選択的に結合してがん細胞のアポトーシスと細胞周期停止を誘導し、CTCLやATLの腫瘍増殖を抑制します。
RXR選択的レチノイドとしての特性
ベキサロテン(タルグレチン)は、第3世代の合成レチノイドに分類される薬剤です。従来のレチノイド(レチノイン酸受容体=RARに作用するもの)とは異なり、レチノイドX受容体(RXR)に選択的に結合する点が大きな特徴です。
RXRはRXRα、RXRβ、RXRγの3つのサブタイプがあり、ベキサロテンはこれら全てに結合します。
| 分類 | 第3世代合成レチノイド(RXR選択的アゴニスト) |
|---|---|
| 一般名 | ベキサロテン(Bexarotene) |
| 商品名 | タルグレチンカプセル75mg |
| 作用標的 | レチノイドX受容体(RXRα、RXRβ、RXRγ) |
| 製造販売元 | ミノファーゲン製薬株式会社 |
| 日本での承認 | 2016年1月(CTCL)、2024年追加承認(ATL) |
作用機序の概要
ベキサロテン(タルグレチン)は、細胞核内のレチノイドX受容体(RXR)と結合して転写を活性化し、腫瘍性T細胞に対してアポトーシス(プログラムされた細胞死)の誘導と細胞周期の停止を引き起こします。
この作用により、腫瘍の増殖を抑制すると推測されています。
| 作用の流れ | 主な内容 |
|---|---|
| 1. ベキサロテンの服用 | 食後に内服し、消化管から吸収される |
| 2. RXRへの結合 | 細胞核内のRXRα/β/γに選択的に結合する |
| 3. 転写の活性化 | 遺伝子発現を変化させ、細胞増殖を抑制する方向へ誘導する |
| 4. 腫瘍抑制効果 | アポトーシスの誘導と細胞周期の停止により腫瘍増殖を抑える |
効果が期待できる疾患
ベキサロテン(タルグレチン)の日本での承認適応は以下の2つです。
- 皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL):菌状息肉症やセザリー症候群など
- 皮膚病変を有する成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)
国内臨床試験では、CTCL患者に対する300mg/m²投与群でのmSWATに基づく奏効率は61.5%、菌状息肉症に限ると66.7%と報告されています。また、皮膚病変を有するATL患者を対象とした国内第Ⅱ相試験では、奏効率70.6%が確認されています。
なお、皮膚以外の病変(内臓等)を対象とした有効性・安全性を指標とした臨床試験は実施されていません。
ベキサロテン(タルグレチン)の使用方法と注意点
1日1回300mg/m²(体表面積)を食後に経口投与し、体表面積に応じて4〜10カプセルを服用します。副作用発現時は段階的に減量し、定期的な血液検査による管理が欠かせません。
用法用量の基本
通常、成人にはベキサロテンとして1日1回300mg/m²(体表面積)を食後に経口投与します。患者の状態により適宜減量します。1カプセルあたりベキサロテン75mgを含有しており、体表面積から換算してカプセル数が決まります。
| 体表面積(m²) | カプセル数(300mg/m²投与時) |
|---|---|
| 0.88〜1.12 | 4カプセル |
| 1.13〜1.37 | 5カプセル |
| 1.38〜1.62 | 6カプセル |
| 1.63〜1.87 | 7カプセル |
| 1.88〜2.12 | 8カプセル |
| 2.13〜2.37 | 9カプセル |
| 2.38〜2.62 | 10カプセル |
減量・休薬の基準
Grade3以上の副作用が発現した場合や、高トリグリセリド血症が認められた場合は、段階的な減量が行われます。
- 300mg/m² → 休薬後200mg/m²で再開
- 200mg/m² → 休薬後100mg/m²で再開
- 100mg/m² → 休薬後100mg/m²で再開
4週間休薬しても副作用がGrade1以下に回復しない場合は、投与を中止します。
日常生活上の注意
- 必ず食後に服用してください(空腹時は吸収が低下します)
- 保湿ケアを日常的に行い、皮膚や粘膜の乾燥に対処してください
- 日焼け止めや帽子で紫外線対策を心がけてください
- 過度な飲酒は肝機能への負担を増やすため控えてください
- グレープフルーツジュースはCYP3Aに影響するため避けてください
妊娠・授乳中の注意
ベキサロテンには催奇形性があるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与できません。
| 注意事項 | 対応策 |
|---|---|
| 催奇形性 | 妊婦・妊娠の可能性がある女性には投与禁忌 |
| 女性の避妊 | 投与中および最終投与後少なくとも1か月間、避妊を徹底する。経口避妊薬の血中濃度が低下する可能性があるため、他の避妊法も併用する |
| 男性の避妊 | 投与中および最終投与後3か月間、バリア法(コンドーム)を使用する |
| 授乳 | 母乳への移行の可能性があるため、授乳の継続または中止を検討する |
服用時のモニタリング
本剤は副作用の発現頻度が高いため、定期的な検査が欠かせません。
- 血中脂質(中性脂肪、コレステロール):投与前、投与後1〜2週間ごと、安定後も月1回
- 甲状腺機能(遊離T4、TSH):投与前および定期的に
- 肝機能(AST、ALT、γ-GTP):定期的に
- 血算(白血球数、好中球数、血小板数):定期的に
- 血糖値:低血糖のリスクがあるため注意
ベキサロテン(タルグレチン)の適応対象となる患者さん
主にCTCL(菌状息肉症・セザリー症候群など)で少なくとも1つの全身療法に治療抵抗性を示した患者、および皮膚病変を有するATL患者が適応対象で、がん化学療法の経験を持つ医師のもとで投与します。
皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)
CTCLは悪性リンパ腫の一種で、皮膚にT細胞由来の腫瘍細胞が浸潤する疾患です。代表的な病型に菌状息肉症やセザリー症候群があります。
ベキサロテンは、少なくとも1つ以上の全身療法に治療抵抗性を示したCTCL患者に対して使用が検討されます。
- 菌状息肉症の紅斑期〜腫瘍期
- セザリー症候群
- 他の全身療法(ボリノスタットなど)で効果不十分な場合
なお、未治療のCTCLを対象とした有効性・安全性の臨床試験は実施されておらず、初回治療としての使用は想定されていません。
皮膚病変を有する成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)
2021年に追加承認された適応で、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)によるATLのうち、皮膚病変を有する患者に対して使用します。国内第Ⅱ相試験での奏効率は70.6%(17例中12例)と報告されています。
投与施設の要件
ベキサロテンの投与にあたっては、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで実施する必要があります。
治療期間
治療開始後1〜3か月で効果と副作用のバランスを評価し、CTCLの慢性的な経過に合わせて長期的な維持療法を行う場合があります。中止のタイミングは主治医と総合的に判断します。
初期治療期間
治療開始後は、1〜3か月程度かけて効果と副作用のバランスを評価し、用量を調整します。
- 投与開始後1〜2週間ごとに血中脂質と甲状腺機能をチェック
- 2〜4週間で最初の皮膚症状の評価を行う
- 効果判定にはmSWAT(modified Severity-Weighted Assessment Tool)を用いることが多い
| フェーズ | 期間の目安 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 初期治療 | 約1〜3か月 | 効果と副作用の評価、用量調整 |
| 中期フォロー | 約3〜6か月 | 症状の安定化と副作用モニタリング |
| 長期維持 | 半年〜1年以上 | 寛解維持と再燃予防 |
中長期的な治療方針
症状が安定した段階でも、再燃予防のために投与を継続する場合があります。CTCLは慢性的に経過する疾患であるため、長期的な管理が必要です。
中止のタイミングは、治療効果・副作用の程度・患者さんのQOLを総合的に判断して、主治医と相談のうえ決定します。
ベキサロテン(タルグレチン)の副作用やデメリット
国内臨床試験では全例(100%)に副作用が認められ、特に高トリグリセリド血症(75%)と甲状腺機能低下症(全例)がベキサロテンに特徴的です。膵炎や肝機能障害など重篤な副作用にも注意が必要です。
高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)
ベキサロテンに特徴的な副作用で、国内臨床試験では75%の被験者に認められ、Grade3の事象も31.3%に報告されています。血清トリグリセリド値が1,000mg/dLを超えた場合は膵炎のリスクがあるため、休薬が必要です。
- 投与前から脂質コントロールを行う
- 脂質異常症治療薬(フィブラート系など)の併用を検討する
- 食事療法・生活習慣の改善を並行して行う
甲状腺機能低下症
国内臨床試験では甲状腺機能検査異常が全例で認められました。中枢性(下垂体性)の甲状腺機能低下症を引き起こします。
- 定期的に遊離T4を測定する
- 必要に応じてレボチロキシン(チラージン)を補充することで、タルグレチンの減量なくコントロールできることが多い
その他の主な副作用
| 副作用 | 内容 |
|---|---|
| 白血球減少症・好中球減少症 | 感染症のリスクが高まるため、血球数を定期的にモニタリングする |
| 肝機能障害 | AST、ALTの上昇に注意し、重篤な場合は投与中止を検討する |
| 皮膚・粘膜の乾燥 | 保湿ケアやリップクリームの使用で対処する |
| 低血糖 | インスリン分泌に影響を与えることがあり、糖尿病治療中の患者は注意が必要 |
| 間質性肺疾患 | まれだが重篤な副作用。咳や呼吸困難が出現した場合は速やかに受診する |
| 血栓塞栓症 | 深部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクに注意する |
催奇形性
合成レチノイドであるため催奇形性のリスクがあり、動物実験では口蓋裂、小眼球、骨格異常などが報告されています。妊婦への投与は禁忌です。
効果がなかった場合
効果判定は8〜12週間を目安に行い、不十分な場合はHDAC阻害薬(ゾリンザ)や抗体薬(ポテリジオ)、光線療法など他の治療選択肢への切り替えを検討します。
効果判定のタイミング
効果の評価には一定期間の服用が必要です。少なくとも8〜12週間程度を目安にmSWATや臨床写真で皮膚症状の変化を評価します。
他の治療薬への切り替え
効果不十分な場合や副作用で継続が困難な場合は、以下のような代替治療が検討されます。
| 治療法 | 例 | 特徴 |
|---|---|---|
| HDAC阻害薬 | ボリノスタット(ゾリンザ)など | CTCLに対する別の経口薬 |
| 抗体薬 | モガムリズマブ(ポテリジオ)など | CCR4陽性のATL/CTCLに使用 |
| 光線療法 | PUVA、ナローバンドUVBなど | 早期CTCLの皮膚病変に有効 |
| 放射線療法 | 局所照射、全身電子線照射 | 限局性病変や腫瘤型に検討 |
| 化学療法 | 多剤併用療法 | 進行例に検討されるが副作用も多い |
他の治療薬との併用禁忌
ビタミンA製剤との併用は禁忌です。またベキサロテンはCYP3Aを誘導するため、経口避妊薬の効果減弱やインスリン感受性の増強による低血糖など、複数の薬剤で相互作用に注意が必要です。
ビタミンA製剤(併用禁忌)
ベキサロテンは合成レチノイドであるため、ビタミンA製剤(チョコラAなど)との併用は禁忌です。ビタミンA過剰症と類似した副作用が増強されるおそれがあります。
ビタミンA含有サプリメントや、レバーなどビタミンAを多く含む食品の過剰摂取にも注意が必要です。
CYP3Aに影響する薬剤
ベキサロテンはCYP3Aを誘導するため、CYP3Aで代謝される薬剤の血中濃度が低下する可能性があります。
| 併用に注意すべき薬剤 | リスク・対策 |
|---|---|
| ビタミンA製剤 | 併用禁忌。ビタミンA過剰症状の悪化 |
| 経口避妊薬 | 血中濃度が低下し避妊効果が減弱する可能性がある。他の避妊法を併用する |
| CYP3A基質薬 | 併用薬の効果が減弱する可能性がある |
| CYP3A阻害薬(イトラコナゾールなど) | ベキサロテンの血中濃度が上昇する可能性がある |
| ゲムフィブロジル | 併用注意。ベキサロテンの血中濃度が上昇する可能性がある |
インスリン・血糖降下薬
ベキサロテンがインスリン感受性を増強する場合があり、インスリンや経口血糖降下薬と併用すると低血糖を起こすおそれがあります。糖尿病治療中の患者は血糖値のモニタリングを強化してください。
ベキサロテン(タルグレチン)の保険適用と薬価について
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
CTCLおよび皮膚病変を有するATLに対して保険適用され、タルグレチンカプセル75mgの薬価は1カプセルあたり約1,962.5円です。体表面積に応じて1日4〜10カプセル服用するため、高額療養費制度の利用が一般的です。
保険適用の対象疾患
- 皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)
- 皮膚病変を有する成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)
本剤は抗悪性腫瘍薬であり、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで使用する必要があります。
薬価の目安
| 製品名 | 含有量 | 1カプセルあたりの薬価 | コメント |
|---|---|---|---|
| タルグレチンカプセル75mg | 75mg | 約2,846.7円 | 体表面積に応じて1日4〜10カプセル服用。1日あたりの薬剤費は約11,387〜28,467円程度 |
※薬価は改定により変動する可能性があります。高額療養費制度の対象となりますので、医療費の自己負担額については医療機関の相談窓口にお問い合わせください。
以上
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