脊椎手術後の痛みが続く?原因と対処法、受診の目安を解説

脊椎の手術を受けた後、痛みがなかなか引かずに不安を感じていませんか。手術後の痛みは多くの人が経験しますが、長引く場合や痛みの性質が変わってきた場合には注意が必要です。

この記事では、脊椎手術後の痛みの主な原因、ご自身でできる対処法、そしてどのような場合に医療機関を受診すべきかの目安について詳しく解説します。痛みの不安を解消し、より良い回復を目指すための一助となれば幸いです。

この記事の執筆者

臼井 大記(日本整形外科学会認定専門医)

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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脊椎手術後の痛み いつまで続くのが一般的か

脊椎手術後の痛みの期間は、手術の種類や範囲、患者さん個人の状態によって大きく異なります。

手術直後の急性期痛

手術直後は、切開による組織の損傷や炎症により強い痛み(急性期痛)が生じます。この痛みは通常、数日から数週間で徐々に軽減していきます。

痛み止めを使用しながら、無理のない範囲で体を動かすことが回復を助けます。

回復期の痛み

急性期を過ぎると、リハビリテーションなどを通じて身体機能の回復を目指す時期に入ります。

この時期には、動かすことによる痛みや、手術部位周辺の鈍い痛みを感じることがあります。通常、これらの痛みは数ヶ月単位で改善していきます。

痛みのピークと軽減の目安

期間痛みの特徴一般的な経過
手術直後~数週間急性期の強い痛み(切開痛、炎症)痛み止めで管理。徐々に軽減。
数週間~数ヶ月回復期の痛み(動作時痛、鈍痛)リハビリ等で改善。波があることも。
数ヶ月以降軽微な痛みや違和感日常生活に支障ないレベルへ。痛みが続く場合は要注意。

痛みが長引くケース

通常、手術後3ヶ月から6ヶ月程度で痛みはかなり落ち着きますが、一部の患者さんでは痛みが長引くことがあります。

半年以上経過しても強い痛みが続く場合や、一度治まった痛みが再び強くなる場合は他の原因が隠れている可能性も考えられます。

手術後の痛みの主な原因

脊椎手術後に痛みが続く場合、いくつかの原因が考えられます。原因を特定することが適切な対処法を見つける第一歩となります。

手術による組織の治癒過程

手術では皮膚、筋肉、骨などを切開したり操作したりするため、その治癒過程で痛みが生じるのは自然なことです。

瘢痕組織(はんこんそしき:きずあと)が硬くなったり、神経に触れたりすることで痛みを感じる場合があります。

神経への影響

脊椎手術は神経の近くで行われることが多いため、手術操作によって神経が刺激されたり、術後の腫れによって神経が圧迫されたりして、痛みやしびれ(神経障害性疼痛)が生じることがあります。

考えられる痛みの原因

原因の種類具体的な内容主な症状
治癒過程切開創、瘢痕組織、筋肉の回復動作時痛、鈍痛、つっぱり感
神経への影響神経の刺激、圧迫、損傷電気が走るような痛み、しびれ、灼熱感
固定具の問題インプラントの緩み、破損、周囲の炎症持続的な痛み、動作時の不安定感

インプラント(固定具)の問題

脊椎を固定するために金属製のインプラント(スクリューやロッドなど)を使用した場合、まれに緩みや破損、周囲の炎症などが痛みの原因となることがあります。

その他の原因

手術部位の感染、血腫(血のかたまり)、あるいは手術前から存在していた他の部位の問題(例えば股関節や膝の問題)が、術後の痛みに影響している可能性も考えられます。

痛みの種類と特徴を理解する

手術後の痛みを正確に把握するためには、痛みの種類や特徴を知ることが役立ちます。どのような痛みが、いつ、どのように感じるかを観察してみましょう。

侵害受容性疼痛

切開した部位や炎症を起こしている組織からの信号によって生じる痛みです。

「ズキズキ」「ジンジン」といった表現がされることが多く、痛み止め(鎮痛薬)が比較的効きやすい傾向があります。手術直後の痛みの多くはこのタイプです。

神経障害性疼痛

神経自体が傷ついたり、圧迫されたりすることで生じる痛みです。「ビリビリ」「チクチク」「焼けるような」といった表現が多く、しびれを伴うこともあります。

通常の痛み止めが効きにくい場合があります。

痛みの種類別特徴

痛みの種類主な原因感じ方の例
侵害受容性疼痛組織の損傷、炎症ズキズキ、ジンジン、重い痛み
神経障害性疼痛神経の損傷、圧迫ビリビリ、チクチク、焼けるよう、しびれ
関連痛痛みの原因部位とは違う場所に感じる痛み腰の手術後にお尻や脚が痛むなど

痛みの性質の変化に注意

手術直後の痛みから、時間の経過とともに痛みの性質が変わることがあります。

例えば、ズキズキする痛みが減ってきた代わりに、ビリビリするしびれが出てきた、などです。痛みの変化は、原因を探る上で重要な手がかりとなります。

痛みを記録する

いつ、どのような時に、どんな種類の痛みが、どのくらいの強さで出るのかを記録しておくと、医師に症状を伝える際に役立ちます。

痛みの強さを10段階で評価するなどの方法も有効です。

自分でできる痛みの対処法とセルフケア

医師の指示に従うことが大前提ですが、日常生活の中でご自身でできる痛みの管理方法やセルフケアもあります。無理のない範囲で試してみましょう。

安静と活動のバランス

痛みが強いときは無理せず安静にすることが大切ですが、過度な安静はかえって回復を遅らせることもあります。

医師や理学療法士の指示に従い、可能な範囲で体を動かすようにしましょう。

正しい姿勢と動作

日常生活での姿勢や動作も痛みに影響します。

前かがみや中腰の姿勢、重いものを持つ動作などは腰への負担が大きいため、できるだけ避けるように心がけましょう。

日常生活での注意点

  • 長時間の同じ姿勢を避ける
  • 急な動作やひねる動作を避ける
  • 物を持ち上げる際は膝を使う
  • コルセットを使用する場合は医師の指示に従う

温熱療法と寒冷療法

痛みの種類や時期によって、温める(温熱療法)または冷やす(寒冷療法)ことが有効な場合があります。

一般的に、慢性的な鈍い痛みには温熱療法、急な強い痛みや腫れがある場合には寒冷療法が用いられますが、自己判断せず医師に相談しましょう。

温める?冷やす?判断の目安

療法適応(例)注意点
温熱療法(温める)慢性的な鈍痛、筋肉のこわばり炎症が強い時期は避ける。低温やけどに注意。
寒冷療法(冷やす)急性期の強い痛み、腫れ、熱感冷やしすぎに注意。血行不良の部位は避ける。

ストレス管理とリラクゼーション

痛みは精神的なストレスにもつながり、ストレスが痛みを増強させることもあります。深呼吸、軽いストレッチ、趣味の時間を持つなど、リラックスできる方法を見つけることも大切です。

「手術は成功した」はずなのに痛みが続く心理

医師から「手術はうまくいきました」と説明を受けても、痛みが続くと「本当に治っているのだろうか」「何か見落としがあるのではないか」と不安になるのは自然なことです。

期待と現実のギャップ

手術を受ければ痛みから解放される、と大きな期待を抱くのは当然です。しかし、実際には回復に時間がかかったり、ある程度の痛みが残ったりすることもあります。

この期待と現実のギャップが、精神的な負担となることがあります。

痛みの慢性化と脳の変化

痛みが長期間続くと、単なる身体的な問題だけでなく、脳の痛みの感じ方自体が変化してしまうことがあります(中枢感作)。

こうなると、わずかな刺激でも強い痛みを感じたり、原因がはっきりしない痛みが続いたりすることがあります。

痛みが心理面に与える影響

影響具体例
不安感の増大「治らないのでは」「悪化するのでは」という心配
抑うつ気分気分の落ち込み、意欲の低下、不眠
社会的孤立痛みのために外出や交流を避ける

周囲の理解不足

見た目には分からない痛みを、家族や友人に理解してもらえないことも、つらさを増幅させる一因です。

「気の持ちよう」「怠けている」などと思われてしまうと、孤独感を深めてしまいます。

痛みの悪循環を断ち切るために

「痛みがある→不安になる→活動を避ける→筋力が低下する・気分が落ち込む→さらに痛みを感じやすくなる」という悪循環に陥らないことが重要です。

痛みを完全に取り去ることだけを目指すのではなく、痛みと上手に付き合いながら、できることを少しずつ増やしていくという視点も大切になります。

整形外科での検査と診断

痛みが長引く場合や悪化する場合には、原因を特定するために整形外科で詳しい検査を行います。

問診と身体診察

まずは、いつから、どのような痛みが、どの程度の強さで、どんな時に悪化するかなどを詳しく伺います(問診)。

その後、実際に体を動かしたり、触ったりして、痛みの部位や原因を探ります(身体診察)。手術創の状態も確認します。

画像検査

痛みの原因をより詳しく調べるために、画像検査を行います。

主な画像検査

検査名主な目的分かること(例)
レントゲン(X線)検査骨の状態、インプラントの位置確認骨折、脱臼、骨の変形、インプラントの緩み・破損
CT検査骨の詳細な構造、インプラント周囲の評価微細な骨折、骨癒合の状態、脊柱管の狭窄
MRI検査神経、椎間板、筋肉など軟部組織の評価神経の圧迫、椎間板ヘルニア、炎症、感染、血腫

神経学的検査

ハンマーで膝などを叩いて反射を見たり、感覚(触覚、痛覚など)を調べたり、筋力を評価したりすることで、神経のどこに問題があるかを探ります。

血液検査など

感染や炎症が疑われる場合には、血液検査で炎症反応(CRP、白血球数など)を確認します。必要に応じて、他の検査(骨シンチグラフィーなど)を追加することもあります。

痛みが続く場合の治療法

検査の結果、痛みの原因が特定されれば、それに応じた治療を行います。原因がはっきりしない場合でも、痛みを和らげるための治療を検討します。

薬物療法

痛みの種類や強さに応じて、様々な種類の薬を使い分けます。

主な痛み止めの種類

  • 非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)
  • アセトアミノフェン
  • 神経障害性疼痛治療薬
  • 弱オピオイド
  • 外用薬(湿布、塗り薬)

特に神経障害性疼痛に対しては、通常の痛み止めが効きにくいことがあるため、専用の治療薬(プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチンなど)を使用することがあります。

神経ブロック療法

痛みの原因となっている神経やその周辺に局所麻酔薬やステロイド薬を注射することで、痛みの伝達を遮断する治療法です。痛みを一時的に抑えるだけでなく、痛みの悪循環を断ち切る効果も期待できます。

神経ブロックの例

ブロックの種類対象となる痛み(例)
硬膜外ブロック腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアによる神経痛
神経根ブロック特定の神経根が原因の痛み(診断的意味合いも)
椎間関節ブロック椎間関節が原因の腰痛

リハビリテーション

理学療法士の指導のもと、ストレッチや筋力トレーニング、動作指導などを行います。身体機能の改善だけでなく、痛みの軽減や再発予防にもつながります。

痛みの状態に合わせて、無理のないプログラムを進めることが重要です。

再手術の検討

インプラントの不具合、神経圧迫の再発、感染など、明らかな原因があり、保存的な治療(薬物療法、ブロック、リハビリ)で改善が見られない場合には再手術が必要となることもあります。

再手術は慎重に判断する必要があります。

医療機関を受診すべきサイン

手術後の痛みは経過観察が必要な場合が多いですが、中には早めに医療機関を受診した方が良いケースもあります。以下のようなサインが見られたら、自己判断せずに主治医またはお近くの整形外科に相談しましょう。

痛みの悪化や性質の変化

一度落ち着いていた痛みが急に強くなった、痛みの種類が変わった(例:ズキズキからビリビリへ)、安静にしていても痛みが続く、夜間に痛みで目が覚めるなどの場合は注意が必要です。

神経症状の出現・悪化

脚や腕のしびれが広がってきた、感覚が鈍くなってきた、力が入らなくなってきた(脱力)、排尿や排便に異常が出た(膀胱直腸障害)などの神経症状は、緊急性が高い場合があります。

受診を検討すべき症状

  • 痛みが徐々にではなく急激に悪化する
  • 足や手のしびれ、麻痺が新たに出現または悪化する
  • 排尿・排便のコントロールが難しい
  • 手術した部分が赤く腫れて熱を持っている
  • 発熱が続く

感染の兆候

手術した部位が赤く腫れる、熱感がある、膿が出る、原因不明の発熱が続くなどの症状は、感染の可能性があります。早期の対応が必要です。

日常生活への支障

痛みのために、仕事や家事、睡眠など、日常生活に大きな支障が出ている場合も、我慢せずに相談することが大切です。痛みをコントロールする方法が見つかるかもしれません。

注意: 特に、足の麻痺が進行する場合や、排尿・排便の異常(膀胱直腸障害)が見られる場合は、緊急を要する可能性があります。 すぐに医療機関を受診してください。

よくある質問 (FAQ)

脊椎手術後の痛みに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

手術後、どのくらいで仕事に復帰できますか

仕事の内容(デスクワークか、体を動かす仕事かなど)や手術の種類、回復の程度によって大きく異なります。

一般的には、デスクワークであれば術後1ヶ月~3ヶ月、肉体労働であれば3ヶ月~6ヶ月以上かかることが多いですが、個人差が大きいため、主治医とよく相談して判断することが重要です。

焦らず、体の状態に合わせて復帰時期を決めましょう。

痛み止めはいつまで飲み続ける必要がありますか

痛みの程度に合わせて、徐々に減らしていくのが一般的です。痛みが落ち着いてくれば、頓服(痛いときだけ飲む)に切り替えたり、種類を変更したりします。

自己判断で急に中止せず、必ず医師の指示に従ってください。長期間服用が必要な場合もあります。

手術した部分をかばってしまい、他の部分が痛くなりました

手術部位を無意識にかばうことで、体の他の部分(腰の反対側、股関節、膝など)に負担がかかり、痛みが出ることがあります。これは「代償性疼痛」と呼ばれることもあります。

リハビリテーションで正しい体の使い方を学ぶことや、負担がかかっている部位のケアが有効な場合があります。この痛みについても主治医に相談しましょう。

痛みの相談先

相談相手相談できる内容(例)
主治医(執刀医)手術に関連する痛み、再発・合併症の可能性、今後の治療方針
かかりつけの整形外科医一般的な術後痛の管理、セカンドオピニオン
理学療法士日常生活での注意点、運動療法、ストレッチ
痛みが完全にゼロにならないと、手術は失敗だったのでしょうか

手術の目的は、痛みの原因を取り除き、症状を改善することですが、痛みが完全にゼロになるとは限りません。特に長期間痛みに悩まされていた場合、ある程度の痛みが残存することもあります。

痛みが軽減し、日常生活の質(QOL)が向上したのであれば、手術は成功と考えることができます。残った痛みとどう向き合い、コントロールしていくかが大切になります。

不安な場合は、遠慮なく主治医に気持ちを伝えましょう。

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参考文献

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