抜け毛が増え、「もしかして薄毛が進行しているのでは?」と不安を感じる女性は少なくありません。特に、全体的に髪のボリュームが減る「休止期脱毛症」は、多くの女性が経験しうる脱毛症です。

この記事では、休止期脱毛症と診断された方、またはその疑いがある方に向けて、皮膚科で行う治療法とご自身でできる予防策について、誘因分析から心理的支援、予防指導まで詳しく解説します。
適切な対処法を知り、健やかな髪を取り戻しましょう。
本記事をより深く理解するために、先に休止期脱毛症の概要を読むことをお勧めします。
休止期脱毛症の診断の流れ
休止期脱毛症の治療を始める前に、まず正確な診断が必要です。他の脱毛症と見分けるための診察や検査について説明します。
詳細な問診と視診
医師はまず、患者さんの抜け毛が始まった時期、進行の速さ、量、生活習慣の変化、既往歴、服用中の薬、最近のストレス状況などを詳しく伺います。

頭皮や毛髪の状態を直接観察する視診も重要で、毛髪の密度や太さ、頭皮の色や炎症の有無などを確認します。
誘因の特定に向けた検査
休止期脱毛症は、何らかの誘因があってから数ヶ月後に発症することが多いです。
誘因分析のため、必要に応じて血液検査を行い、甲状腺機能、鉄欠乏、亜鉛欠乏、膠原病など、脱毛を引き起こす可能性のある全身性の病気や栄養状態を確認します。
血液検査で確認する主な項目

検査項目 | 確認する内容 | 脱毛との関連 |
---|---|---|
甲状腺ホルモン | 甲状腺機能亢進症/低下症 | ホルモンバランスの乱れが影響 |
血清鉄・フェリチン | 鉄欠乏性貧血 | 毛髪の成長に必要な鉄分の不足 |
亜鉛 | 亜鉛欠乏 | 毛髪の主成分ケラチンの合成に関与 |
他の脱毛症との鑑別診断
女性の薄毛には、休止期脱毛症以外にも、女性型脱毛症(FAGA)や円形脱毛症などがあります。これらの脱毛症は原因や治療法が異なるため、鑑別診断が重要です。
ダーモスコピー(頭皮の拡大鏡検査)や、場合によっては頭皮生検(皮膚組織を少量採取して調べる検査)を行い、他の脱毛症の可能性を慎重に評価します。
診断確定までの流れ
問診、視診、各種検査の結果を総合的に評価し、休止期脱毛症の診断を確定します。誘因が特定できた場合は、その情報も診断の重要な要素となります。
診断結果と今後の治療方針について、医師から丁寧な説明があります。
原因の特定と除去・治療
休止期脱毛症の治療の基本は、脱毛の引き金となった原因(誘因)を特定し、可能であればそれを取り除く、あるいは治療することです。原因治療・除去について解説します。
誘因分析に基づくアプローチ
診断プロセスで明らかになった誘因に対して、個別のアプローチを行います。例えば、鉄欠乏が原因であれば鉄剤の補充、薬剤性が疑われれば原因薬剤の中止や変更を検討します。

誘因が明確でない場合もありますが、考えられる要因を一つずつ検討していきます。
内科的疾患が原因の場合
甲状腺機能異常や膠原病などの内科的疾患が脱毛の原因である場合、まずはその疾患自体の治療を優先します。皮膚科医は関連する診療科の医師と連携し、患者さんの全身状態を考慮しながら治療を進めます。
薬剤性が疑われる場合
特定の薬剤の副作用として脱毛が起こることがあります。原因として疑われる薬剤がある場合、処方医と相談の上、可能であれば薬剤の中止や変更を検討します。自己判断で服用を中止することは危険ですので、必ず医師に相談してください。
休止期脱毛症の誘因となりうる薬剤の例
薬剤の種類 | 代表的な薬剤(例) |
---|---|
抗凝固薬 | ワルファリン、ヘパリン |
高血圧治療薬 | β遮断薬、ACE阻害薬 |
精神神経系薬剤 | 抗うつ薬、気分安定薬 |
産後や手術後の脱毛への対応
出産や大きな手術は、身体への負担が大きく、休止期脱毛症の誘因となることがあります。これらの場合は、多くが一過性であり、身体状態の回復とともに自然に改善することが期待できます。
しかし、回復を早めるための栄養サポートや生活習慣の改善は有効です。
栄養面からのアプローチ 栄養サポート
健やかな髪の成長には、バランスの取れた栄養が欠かせません。栄養サポートは、休止期脱毛症の治療と予防において重要な役割を果たします。
髪の成長に必要な栄養素
毛髪は主にケラチンというタンパク質でできています。そのため、良質なタンパク質の摂取は基本です。
また、タンパク質の代謝や毛母細胞の分裂を助けるビタミンやミネラルも重要です。
毛髪の健康に関わる主な栄養素

栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食品 |
---|---|---|
タンパク質 | 毛髪の主成分 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | ケラチン合成の補助 | 牡蠣、レバー、牛肉 |
鉄 | 毛母細胞への酸素供給 | レバー、赤身肉、ほうれん草 |
ビタミンB群 | 代謝促進、頭皮環境維持 | 豚肉、レバー、うなぎ、納豆 |
食事バランスの見直し
特定の食品に偏らず、多様な食品から栄養を摂取することが大切です。主食・主菜・副菜をそろえ、特にタンパク質、ビタミン、ミネラルを意識的に摂るように心がけましょう。
過度なダイエットは栄養不足を招き、脱毛の原因となるため避けるべきです。
サプリメント活用の注意点
食事だけで十分な栄養を摂るのが難しい場合、サプリメントの活用も選択肢の一つです。しかし、過剰摂取はかえって健康を害することもあります。特に、亜鉛や鉄などのミネラルは、自己判断で過剰に摂取しないよう注意が必要です。
利用する際は、医師や管理栄養士に相談することをお勧めします。
血液検査による栄養状態の評価
血液検査によって、鉄、亜鉛、ビタミンなどの栄養素が不足していないか客観的に評価できます。不足が認められる場合は、食事指導や、必要に応じてサプリメントの処方を行います。
ストレス管理と心身のケア
過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、休止期脱毛症の誘因となることがあります。ストレス管理は、治療と予防の両面で重要です。
ストレスが毛髪に与える影響
ストレスは血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させることがあります。これにより、毛母細胞への栄養供給が滞り、毛髪の成長が妨げられる可能性があります。
また、ホルモンバランスの乱れを引き起こし、ヘアサイクルに影響を与えることも考えられます。
日常でできるストレス軽減法
自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。

軽い運動、趣味の時間、リラックスできる入浴、友人との会話など、日常生活の中で意識的にリフレッシュする時間を取り入れましょう。
ストレス軽減法の例
カテゴリー | 具体的な方法 |
---|---|
運動 | ウォーキング、ヨガ、ストレッチ |
リラクゼーション | 深呼吸、瞑想、アロマテラピー、音楽鑑賞 |
趣味・娯楽 | 読書、映画鑑賞、旅行、ガーデニング |
専門家による心理的支援の重要性
脱毛という悩み自体が大きなストレスとなることも少なくありません。一人で抱え込まず、家族や友人に相談するほか、必要であれば臨床心理士やカウンセラーなどの専門家による心理的支援を受けることも有効です。
当クリニックでも、患者さんの心のケアを重視しています。
睡眠の質を高める工夫
睡眠不足はストレス耐性を低下させ、身体の回復を妨げます。質の高い睡眠を確保するために、寝る前のカフェインやアルコールの摂取を控え、スマートフォンやパソコンの使用を避けるなど、睡眠環境を整えることが大切です。
生活習慣の改善による予防と対策
日々の生活習慣を見直すことは、休止期脱毛症の治療効果を高め、再発を予防するために重要です。生活習慣改善について解説します。

バランスの取れた食生活
前述の栄養サポートでも触れたように、タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取することが基本です。
インスタント食品や偏った食事を避け、規則正しい時間に食事をとるよう心がけましょう。
質の高い睡眠の確保
毛髪の成長に必要な成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌されます。毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい睡眠習慣を身につけ、十分な睡眠時間を確保することが重要です。
質の高い睡眠のためのポイント
- 就寝・起床時間を一定にする
- 寝る前にリラックスする時間を作る
- 寝室の温度・湿度・明るさを調整する
適切なヘアケア方法
頭皮環境を清潔に保つことは大切ですが、過度な洗髪や洗浄力の強すぎるシャンプーは、頭皮を乾燥させたり、刺激を与えたりする可能性があります。
自分の頭皮タイプに合ったシャンプーを選び、優しく洗い、しっかりとすすぎましょう。ドライヤーの熱風を当てすぎないことも大切です。
ヘアケアの注意点
項目 | ポイント |
---|---|
シャンプー選び | 頭皮タイプに合ったもの(乾燥肌用、脂性肌用など) |
洗い方 | 指の腹で優しくマッサージするように洗う |
ドライヤー | 頭皮から20cm以上離し、長時間同じ場所に当てない |
禁煙と節度ある飲酒
喫煙は血管を収縮させ、頭皮の血行を悪化させます。また、過度の飲酒は、髪の成長に必要な栄養素の吸収を妨げる可能性があります。禁煙し、飲酒は適量にとどめることが、健やかな髪のために推奨されます。
発毛を促す治療法 発毛促進治療

原因の除去や生活習慣の改善と並行して、発毛を促すための治療(発毛促進治療)を行うことがあります。皮膚科で提供される主な治療法を紹介します。
外用薬による治療
ミノキシジル配合の外用薬は、毛包に直接作用し、発毛を促進する効果が認められています。
女性用として低濃度の製品があり、医師の指示のもとで使用します。効果が現れるまでには数ヶ月以上かかることが一般的です。
内服薬による治療
主に男性型脱毛症(AGA)で使用されるフィナステリドやデュタステリドは、原則として女性への適用はありません。しかし、鉄欠乏や亜鉛欠乏が確認された場合には、それらを補う内服薬が処方されることがあります。
また、血行を促進する内服薬などが補助的に用いられることもあります。
低出力レーザー治療など
頭皮に低出力のレーザーを照射することで、毛母細胞の活性化や血行促進を図る治療法です。痛みはなく、副作用のリスクも低いとされています。
この他にも、クリニックによっては発毛メソセラピー(成長因子などを頭皮に直接注入する方法)などを提供している場合があります。
主な発毛促進治療の比較
治療法 | 主な作用 | 特徴 |
---|---|---|
ミノキシジル外用薬 | 毛包活性化、血行促進 | 自宅で使用可能、効果発現に時間 |
低出力レーザー治療 | 毛母細胞活性化、血行促進 | 通院が必要、痛みが少ない |
栄養療法(内服) | 不足栄養素の補充 | 血液検査に基づき処方 |
治療選択における注意点
どの治療法が適しているかは、脱毛の状態、原因、患者さんの希望やライフスタイルによって異なります。
医師とよく相談し、それぞれの治療法の効果やメリット、デメリット、費用などを理解した上で、納得のいく治療を選択することが大切です。
治療効果の確認と継続的なケア 経過モニタリング
休止期脱毛症の治療は、効果が現れるまでに時間がかかることがあります。焦らず、根気強く治療を続けるために、定期的な経過モニタリングが重要です。
定期的な診察の必要性
治療効果を評価し、必要に応じて治療方針を調整するために、医師が指示する間隔で定期的に通院することが必要です。通常、1〜3ヶ月ごとの診察が目安となります。

診察時には、頭皮や毛髪の状態の変化を確認し、副作用の有無などもチェックします。
治療効果の評価方法
医師による視診や、写真撮影による比較が一般的な評価方法です。マイクロスコープで毛髪の太さや密度を測定したり、抜け毛の本数を記録したりすることもあります。
患者さん自身の自覚症状(抜け毛の量、髪のボリューム感など)の変化も重要な評価指標となります。
治療効果の評価指標
- 抜け毛の本数の変化
- 頭皮の透け感の変化
- 毛髪の太さやハリ・コシの変化
- 写真による比較
治療計画の見直し
一定期間治療を続けても効果が見られない場合や、副作用が出た場合には、治療計画の見直しが必要です。薬の種類や用量の変更、他の治療法の追加などを検討します。
生活習慣やストレス状況の変化なども考慮に入れ、総合的に判断します。
長期的な視点でのケア
休止期脱毛症は、原因が取り除かれれば改善することが多いですが、体質や生活習慣によっては再発する可能性もあります。
治療によって症状が改善した後も、良好な状態を維持するために、バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理、適切なヘアケアなどのセルフケアを継続することが大切です。
予防指導に基づいた生活を心がけましょう。
セルフケア継続のポイント
項目 | 具体的な内容 |
---|---|
食事 | タンパク質・ビタミン・ミネラルを意識 |
睡眠 | 規則正しい生活、十分な睡眠時間 |
ストレス | 自分なりの解消法を見つける |
ヘアケア | 頭皮に優しい洗髪、洗いすぎない |
よくある質問
休止期脱毛症の治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- 治療期間はどのくらいですか?
-
原因や重症度、選択する治療法によって異なりますが、一般的に効果を実感するまでに最低でも3ヶ月から6ヶ月程度かかります。原因が明確で、それを取り除くことができれば、比較的短期間で改善することもあります。
発毛促進治療を行う場合は、さらに長期間の継続が必要になることもあります。
- 保険は適用されますか?
-
休止期脱毛症の原因となっている内科的疾患(甲状腺機能異常、鉄欠乏性貧血など)の検査や治療、およびそれに関連する診察には健康保険が適用されます。
しかし、ミノキシジル外用薬や低出力レーザー治療などの発毛促進治療は、多くの場合、保険適用外(自費診療)となります。詳細については、診察時に医師にご確認ください。
保険適用と自費診療の例
項目 保険適用/自費 原因疾患の検査・治療 保険適用 ミノキシジル外用薬 自費診療 低出力レーザー治療 自費診療 - 日常生活で気をつけることは?
-
バランスの取れた食事、質の高い睡眠、ストレスを溜めない工夫、適切なヘアケアが基本です。過度なダイエット、喫煙、不規則な生活は避けましょう。
また、自己判断でサプリメントを過剰に摂取したり、効果の不明な育毛剤を使用したりすることは控えてください。
- 治療をやめると再発しますか?
-
休止期脱毛症の誘因が完全に取り除かれていれば、治療を終了しても再発しないことが多いです。しかし、誘因が持続している場合や、生活習慣の乱れ、新たなストレスなどが加わると再発する可能性があります。
症状が改善した後も、良好な頭皮環境と生活習慣を維持するよう努めることが、再発予防につながります。
以上
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