休止期脱毛症は、男女問わず起こりうる脱毛症の一つで、毛髪の成長サイクル(毛周期)が一時的に乱れることで発生します。

この記事では、休止期脱毛症の具体的な症状と、ご自身でできる簡単なセルフチェックの方法について詳しく解説します。
本記事をより深く理解するために、先に休止期脱毛症の概要を読むことをお勧めします。
休止期脱毛症とは?髪の変化に気づくサイン
休止期脱毛症は、何らかの誘因によって多くの毛髪が一斉に成長を止め、休止期に移行することで起こる脱毛症です。特徴的な症状を知ることが早期発見につながります。
急に増える抜け毛

最も分かりやすい症状は、抜け毛の急激な増加です。通常、1日の抜け毛は50本から100本程度ですが、休止期脱毛症では200本、300本、あるいはそれ以上に増えることがあります。
洗髪時、ドライヤー使用時、朝起きた時の枕元などで、以前より明らかに抜け毛が増えたと感じる場合が多いです。
髪全体のボリュームダウン(びまん性脱毛)
休止期脱毛症の多くは、頭部全体で均一に毛髪が抜ける「びまん性脱毛」という特徴を示します。特定の部位だけが薄くなるのではなく、全体的に髪の密度が低下し、ボリュームが減ったように感じます。
髪をかき上げた時に地肌が透けて見えやすくなったり、髪のセットがしにくくなったりすることで気づくこともあります。
頭皮が見えやすくなる変化
びまん性脱毛が進行すると、特に頭頂部や分け目を中心に頭皮が以前よりも目立つようになります。

髪全体の量が減るため、光が当たると地肌が透けて見える範囲が広がります。ただし、完全に毛髪がなくなることは稀です。
毛髪周期と休止期の関係
毛髪には「成長期」「退行期」「休止期」という毛髪周期があります。通常、頭髪の約85~90%は成長期にあり、数年間成長を続けます。残りの約10~15%が休止期にあり、3ヶ月ほどで自然に抜け落ち、新しい毛髪が生えてきます。
休止期脱毛症では、ストレスや栄養不足などの誘因により、通常よりも多くの毛髪(20~50%程度)が休止期に入ってしまいます。
これらの毛髪が約3ヶ月後に一斉に抜け落ちるため、急激な抜け毛増加として現れます。
毛髪周期の各段階

段階 | 期間(目安) | 特徴 |
---|---|---|
成長期 | 2~6年 | 毛髪が活発に成長する期間 |
退行期 | 約2週間 | 毛髪の成長が止まり、毛球部が縮小する期間 |
休止期 | 約3ヶ月 | 毛髪の成長が完全に停止し、脱毛を待つ期間 |
抜け毛の特徴と毛根の状態を確認する
抜け毛が増えたと感じたら、その毛髪の状態を観察することが、原因を探る手がかりになります。特に毛根部分に注目してみましょう。
抜け毛の毛根を観察する方法
自然に抜け落ちた毛髪を数本集め、毛根(毛の根元の膨らんだ部分)を観察します。白い紙の上に置いたり、可能であれば拡大鏡を使ったりすると見やすいでしょう。
洗髪時の抜け毛は、水気を軽く拭き取ってから観察します。
休止期脱毛の毛根の特徴
休止期脱毛症で抜ける毛髪(休止期毛)の毛根は、先端が丸みを帯びた棍棒(こんぼう)状になっているのが特徴です。

毛根部分に黒い色素や、毛根を包む「毛根鞘(もうこんしょう)」と呼ばれる半透明の組織が付着していないか、あるいは非常に少ない状態です。
休止期毛根の特徴まとめ
観察ポイント | 休止期毛の特徴 | 備考 |
---|---|---|
毛根の形状 | 棍棒状(先端が丸い) | マッチ棒の先に似ている |
毛根の色 | 白い、または色素がない | メラニン色素が少ない |
毛根鞘の付着 | ほとんどない、または少量 | 自然な脱毛サイクルを経たため |
成長期脱毛との違い
一方、抗がん剤治療などで見られる「成長期脱毛」では、成長途中の毛髪がダメージを受けて抜けるため、毛根の形状が異なります。
成長期脱毛の毛根は、先端が尖っていたり、いびつな形をしていたり、毛根鞘が多く付着していたりします。毛根の観察は、脱毛の種類を推測する上で重要な情報となります。
毛根の状態比較
項目 | 休止期脱毛(Telogen Effluvium) | 成長期脱毛(Anagen Effluvium) |
---|---|---|
毛根の形状 | 棍棒状(丸い) | 尖っている、いびつ、途中で折れている |
毛根鞘の付着 | 少ない、または無い | 多く付着していることが多い |
主な原因 | ストレス、出産、栄養不足、薬剤など | 抗がん剤、放射線治療など |
自宅でできるセルフチェック「プルテスト」
抜け毛の増加が気になる場合、自宅で簡単にできる「プルテスト(毛髪牽引試験)」を試してみるのも一つの方法です。
これは、現在抜けている毛髪がどの程度多いかを簡易的に調べるテストです。
プルテスト(毛髪牽引試験)のやり方

清潔な指(親指と人差し指)で、頭皮近くから毛髪を50~60本程度、軽くつまみます。そして、毛先に向かって、強すぎない一定の力でゆっくりと引っ張ります。
これを頭部の数箇所(例 前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部)で行います。
プルテストの結果をどう見るか
各箇所で引っ張った際に抜けた毛髪の本数を数えます。
通常、1回のプルテストで抜ける毛髪は1~3本程度です。もし、毎回5本以上の毛髪が簡単に抜けるようであれば、活動性の高い脱毛症(休止期脱毛症など)の可能性があります。

プルテスト結果の目安
抜けた本数(1回あたり) | 考えられる状態 | 対応 |
---|---|---|
1~3本 | 正常範囲の可能性が高い | 過度な心配は不要、様子を見る |
5本以上 | 活動性の脱毛症の可能性 | 皮膚科専門医への相談を推奨 |
10本以上 | 活動性の脱毛症の可能性が高い | 早めに皮膚科専門医へ相談 |
セルフチェックの限界と注意点
プルテストはあくまで簡易的な目安です。力の入れ具合や毛髪の状態によって結果は変動します。また、このテストだけで休止期脱毛症と確定診断することはできません。
抜け毛が多い状態が続く場合や、他の症状(頭皮の赤み、かゆみ、フケなど)がある場合は、自己判断せずに皮膚科専門医に相談することが重要です。
休止期脱毛症の主な症状パターン
休止期脱毛症の症状の現れ方にはいくつかのパターンがありますが、最も一般的なのは頭部全体のびまん性脱毛です。
頭部全体のびまん性脱毛
前述の通り、休止期脱毛症では頭部全体で均一に毛髪密度が低下する「びまん性脱毛」が最も典型的な症状です。

特定の部位だけが円形に抜けたり、生え際が後退したりするパターンとは異なります。
特定部位に偏らない抜け毛
抜け毛は前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部など、特定の部位に偏ることなく、頭部全体で見られます。そのため、初期段階では自分自身で気づきにくいこともあります。
脱毛範囲の比較
脱毛症の種類 | 主な脱毛パターン | 境界 |
---|---|---|
休止期脱毛症 | 頭部全体のびまん性脱毛 | 不明瞭 |
男性型脱毛症(AGA) | 生え際の後退、頭頂部の菲薄化 | 比較的パターン化 |
円形脱毛症 | 円形・楕円形の脱毛斑 | 明瞭 |
脱毛以外の自覚症状は少ない
休止期脱毛症では、通常、脱毛以外の自覚症状(頭皮のかゆみ、痛み、赤み、湿疹など)を伴うことは少ないです。もし、これらの症状がある場合は、他の皮膚疾患の可能性も考える必要があります。
急性と慢性の休止期脱毛症
休止期脱毛症は、症状の持続期間によって「急性」と「慢性」に分類されます。それぞれ特徴や考えられる誘因が異なります。

急性休止期脱毛症の特徴と誘因
急性休止期脱毛症は、比較的はっきりとした誘因から2~3ヶ月後に発症し、通常は6ヶ月以内に自然に回復します。誘因としては、精神的ストレス、高熱、外科手術、急激なダイエット、出産などが挙げられます。
急性型の主な誘因
- 精神的ストレス(強いショック、環境変化など)
- 身体的ストレス(高熱、感染症、外科手術、事故など)
- 出産(分娩後脱毛症)
- 急激な栄養状態の変化(過度なダイエット、栄養失調)
- 特定の薬剤(内服開始・中止)
慢性休止期脱毛症の特徴と誘因
慢性休止期脱毛症は、抜け毛が6ヶ月以上持続する状態を指します。誘因が特定しにくい場合や、複数の要因が関与している場合があります。
甲状腺機能異常、鉄欠乏性貧血、膠原病などの基礎疾患、慢性的な栄養不足、薬剤の長期使用などが考えられます。
慢性型の主な誘因
- 内分泌疾患(甲状腺機能異常など)
- 栄養障害(鉄欠乏、亜鉛欠乏、タンパク質不足など)
- 自己免疫疾患(膠原病など)
- 慢性的な精神的ストレス
- 特定の薬剤の長期使用
急性・慢性休止期脱毛症の比較
項目 | 急性休止期脱毛症 | 慢性休止期脱毛症 |
---|---|---|
発症 | 誘因から2~3ヶ月後 | 誘因が不明確な場合も多い |
期間 | 通常6ヶ月以内に回復 | 6ヶ月以上持続 |
主な誘因 | ストレス、出産、高熱、急激なダイエット等 | 基礎疾患、栄養不足、薬剤、原因不明等 |
症状の持続期間による違い
急性は一時的な抜け毛増加で、誘因が除去されれば自然に回復することが多いのに対し、慢性は抜け毛が長く続き、原因の特定と対処が必要になる場合があります。
抜け毛が長引く場合は、医療機関での鑑別診断が重要です。
回復過程で見られる変化
休止期脱毛症は、原因が取り除かれれば自然に回復に向かうことが多い脱毛症です。回復過程では、いくつかの特徴的な変化が見られます。
抜け毛が減少し始める時期
誘因が解消されてから、通常は数ヶ月(多くは3~6ヶ月)で抜け毛の量が徐々に減少し始めます。洗髪時やブラッシング時の抜け毛が明らかに減ってきたと感じたら、回復が始まっているサインと考えられます。
新しい毛髪の再生(産毛の発生)
抜け毛が減少すると同時に、頭皮から新しい毛髪が生え始めます。初期には短く細い産毛のような毛髪(vellus hair様の毛髪)が見られるようになり、これらが徐々に太く長く成長していきます。
特に生え際や分け目などで、短い毛がツンツンと立っているのが確認できることがあります。
回復のサイン

サイン | 具体的な変化 | 時期(目安) |
---|---|---|
抜け毛の減少 | 洗髪時・ブラッシング時の抜け毛が減る | 誘因除去後 3~6ヶ月 |
新しい毛髪の出現 | 短く細い毛(産毛様)が生えてくる | 抜け毛減少と同時期~ |
髪のボリューム感回復 | 新しい毛が成長し、全体的な密度が戻る | 発症後 6ヶ月~1年以上 |
回復期間の目安と個人差
髪の毛が元の状態に戻るまでの回復過程には時間がかかります。毛髪は1ヶ月に約1cmしか伸びないため、全体のボリューム感が回復したと実感できるまでには、発症から半年~1年以上かかることも少なくありません。
回復のスピードには個人差があります。
休止期脱毛症と他の脱毛症との見分け方(鑑別診断)
抜け毛や薄毛の原因は様々です。休止期脱毛症と他の脱毛症との違いを知っておくことは大切ですが、正確な診断は専門医が行う必要があります。
男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA/FPHL)との違い
AGAやFAGA/FPHLは、主に遺伝やホルモンの影響により、ゆっくりと進行する脱毛症です。
特定のパターン(生え際の後退、頭頂部の菲薄化など)で薄毛が進行する点が、頭部全体のびまん性脱毛が特徴の休止期脱毛症とは異なります。
円形脱毛症との違い

円形脱毛症は、自己免疫反応が関与していると考えられ、境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑が突然現れるのが特徴です。
通常、脱毛斑以外の部位の毛髪は正常です。これも、びまん性に脱毛する休止期脱毛症とは異なります。
主な脱毛症との比較
項目 | 休止期脱毛症 | AGA/FAGA | 円形脱毛症 |
---|---|---|---|
脱毛パターン | びまん性(全体的) | パターン性(生え際・頭頂部など) | 円形・楕円形の脱毛斑 |
進行速度 | 急激な発症が多い | 緩やかに進行 | 突然発症 |
主な原因 | ストレス、栄養、出産、薬剤など | 遺伝、ホルモン | 自己免疫、ストレスなど |
自己判断せず専門医への相談が重要
これらの情報はあくまで一般的な違いであり、症状の現れ方には個人差があります。また、複数の脱毛症が合併している可能性もあります。
抜け毛や薄毛で悩んでいる場合は、自己判断せずに皮膚科専門医を受診し、正確な鑑別診断を受けることが、適切な対処への第一歩です。
よくある質問(FAQ)
休止期脱毛症に関して、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。
- 抜け毛が増えたらすぐ休止期脱毛症?
-
抜け毛の増加は休止期脱毛症の代表的な症状ですが、それだけで確定はできません。季節の変わり目など、一時的に抜け毛が増えることもあります。
しかし、明らかに量が多い状態が続く場合や、髪全体のボリュームダウンを感じる場合は、休止期脱毛症の可能性を考え、プルテストなどのセルフチェックを試したり、専門医に相談したりすることをお勧めします。
- セルフチェックだけで診断できる?
-
毛根観察やプルテストなどのセルフチェックは、あくまで自身の状態を知るための補助的な手段です。これらの結果だけで休止期脱毛症と診断することはできません。
正確な診断には、医師による問診、視診、必要に応じて血液検査などが行われます。自己判断はせず、気になる症状があれば必ず医療機関を受診してください。
- 回復にはどれくらいかかる?
-
急性休止期脱毛症の場合、誘因が取り除かれれば、通常3~6ヶ月で抜け毛は減少し始め、半年から1年程度で元の毛量に回復することが多いです。ただし、これは目安であり、個人差があります。
慢性休止期脱毛症の場合は、原因の特定と治療が必要となり、回復までの期間は原因や治療への反応によって異なります。
休止期脱毛症に関する疑問点
スクロールできます疑問点 簡単な回答 補足 遺伝しますか? 直接的な遺伝はないと考えられています ただし、体質的な要因が関わる可能性はあります 完全に治りますか? 多くの場合、原因がなくなれば回復します 慢性型や原因不明の場合は長引くこともあります 予防できますか? バランスの取れた食事やストレス管理が大切です 全ての誘因を避けることは困難です - 生活習慣で気をつけることは?
-
バランスの取れた食事(特にタンパク質、鉄、亜鉛など)、十分な睡眠、ストレスを溜め込まない工夫(適度な運動、リラックスできる時間を持つなど)が、毛髪の健康維持に役立ちます。
過度なダイエットは避け、規則正しい生活を心がけることが大切です。
この記事では休止期脱毛症の症状とセルフチェックについて解説しました。
抜け毛の原因は多岐にわたり、背景に病気が隠れている可能性もあります。より詳しい原因や医療機関での検査については、「休止期脱毛症の原因と医療機関での検査」の記事で解説していますので、合わせてご覧ください。
以上
参考文献
telogen effluvium symptoms women self check methods early signs telogen effluvium diagnosis assessment women
MALKUD, Shashikant. Telogen effluvium: a review. Journal of clinical and diagnostic research: JCDR, 2015, 9.9: WE01.
YORULMAZ, Ahu, et al. Telogen effluvium in daily practice: Patient characteristics, laboratory parameters, and treatment modalities of 3028 patients with telogen effluvium. Journal of Cosmetic Dermatology, 2022, 21.6: 2610-2617.
OLSEN, Elise A., et al. Iron deficiency in female pattern hair loss, chronic telogen effluvium, and control groups. Journal of the American Academy of Dermatology, 2010, 63.6: 991-999.
BLUME‐PEYTAVI, Ulrike, et al. S1 guideline for diagnostic evaluation in androgenetic alopecia in men, women and adolescents. British Journal of Dermatology, 2011, 164.1: 5-15.
SHRIVASTAVA, Shyam Behari. Diffuse hair loss in an adult female: approach to diagnosis and management. Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology, 2009, 75: 20.
ALOTAIBI, Moteb Khalaf. Telogen effluvium: a review. Int. J. Med. Dev. Cties, 2019, 3: 797-801.
LIYANAGE, Deepa; SINCLAIR, Rodney. Telogen effluvium. Cosmetics, 2016, 3.2: 13.
RAKOWSKA, Adriana, et al. Dermoscopy in female androgenic alopecia: method standardization and diagnostic criteria. International journal of trichology, 2009, 1.2: 123-130.
TRÜEB, Ralph M. Systematic approach to hair loss in women. JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft, 2010, 8.4: 284-297.