健康診断の結果表には、様々な血液検査の項目が並んでいます。その中でも「BUN(尿素窒素)」や「クレアチニン」という項目を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
これらの数値は、私たちの体にとって非常に重要な臓器である「腎臓」の働きを知るための手がかりとなります。
この記事では、血液中のBUNとクレアチニン値、そしてそれらから計算されるeGFRが何を示しているのか、そして腎臓の健康を維持するために腎機能検査がいかに重要であるかを解説します。
腎臓の働きと健康診断でのチェック項目
私たちの腎臓は、日々黙々と体内の環境を整えるために働いています。その重要な役割を理解することは、健康診断で行われる腎機能に関連する検査の意義を深く知ることにつながります。
腎臓が担う重要な役割
腎臓は、単に尿を作るだけの臓器ではありません。生命維持に欠かせない多様な機能を担っています。主な役割としては、血液をろ過して体内の老廃物(尿素やクレアチニンなど)や余分な塩分を尿として排泄することが挙げられます。
それだけでなく、体内の水分量や電解質(ナトリウム、カリウムなど)のバランスを一定に保つ調整機能も持っています。
さらに、血圧をコントロールするホルモン(レニン)の分泌、赤血球の産生を促すホルモン(エリスロポエチン)の生成、そして骨の健康に必要なビタミンDの活性化など、その働きは全身に及んでいます。
このように、腎臓は体内の恒常性を維持するために、複数の重要なシステムに関与しているのです。腎機能の低下は、老廃物の蓄積だけでなく、血圧異常、貧血、骨のもろさなど、全身的な問題を引き起こす可能性があることを意味します。
腎臓の主な働き
機能 | 説明 |
老廃物のろ過・排泄 | 血液中の尿素、クレアチニンなどの不要物を尿として体外へ排出します。 |
水分バランスの調整 | 体内の水分量を適切に保ち、むくみや脱水を防ぎます。 |
電解質バランスの調整 | ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの濃度を一定範囲内に維持します。 |
血圧の調節 | レニンというホルモンを分泌し、血圧をコントロールします。 |
ホルモンの産生 | 赤血球を作るエリスロポエチンや、ビタミンDを活性化させます。 |
ビタミンDの活性化 | カルシウムの吸収を助け、骨の健康を維持します。 |
健康診断で注目すべき腎機能の指標
健康診断や血液検査では、腎臓の働き具合を評価するためにいくつかの項目を測定します。中心となるのが、血液中のBUNとクレアチニンの濃度です。
これらは腎臓のろ過機能によって排泄される老廃物であり、その血中濃度を見ることで腎機能の状態を推測します。
さらに、これらの値と年齢、性別などから計算されるeGFR(推算糸球体濾過量)は、腎臓が1分間にどれくらいの血液をろ過できるかを示す推定値であり、腎機能のより直接的な指標として重視されます。
これらの血液検査項目に加えて、尿検査におけるタンパク尿や血尿の有無も、腎臓の状態を知る上で重要な情報となりますが、この記事では主に血液検査の項目に焦点を当てて解説します。
なぜ定期的な検査が大切なのか
腎臓の機能は、初期の段階では自覚症状がないまま、ゆっくりと低下していくことが少なくありません。
体が明らかな不調を感じる頃には、腎機能が相当程度悪化しているケースも見られます。そのため、症状がないからといって安心せず、定期的に健康診断などで腎機能の検査を受けることが非常に大切です。
定期的な検査によって、もし腎機能に低下の兆候が見られた場合でも、早期に発見することができます。
早期発見は、腎機能低下の原因に対する治療や、生活習慣の改善などを通じて、病気の進行を遅らせるための対策を早期に開始できることを意味します。
これにより、将来的な腎不全や透析治療への移行リスクを低減できる可能性があります。
症状が出てから対応するのではなく、検査によって早期に問題を発見し、先手を打って管理していくという積極的な姿勢が、腎臓の健康を守る上で重要となります。
血液検査の項目:BUN(尿素窒素)とは
血液検査の結果に含まれる「BUN」は、腎機能を知るための指標の一つです。この数値が何を意味し、どのように解釈されるのかを見ていきましょう。
BUNが示す体の状態
BUNはBlood Urea Nitrogenの略で、血液中の尿素に含まれる窒素の量を示します。尿素は、私たちが食事から摂取したタンパク質が体内で利用された後、最終的に肝臓で分解されて作られる老廃物です。
健康な腎臓は、この尿素を血液中から効率よくろ過し、尿として体外へ排泄します。したがって、血液中のBUN値が高い場合、腎臓のろ過機能が低下して尿素を十分に排泄できていない可能性が考えられます。
ただし、後述するようにBUN値は腎機能以外の要因でも変動するため、その解釈には注意が必要です。
BUNの基準値とその見方
BUNの基準値は検査機関によって多少異なりますが、一般的には8~20 mg/dLの範囲内とされています。検査結果を受け取った際は、ご自身の数値と、その検査機関が設定している基準範囲を照らし合わせて確認することが大切です。
BUN値が基準値よりも高い(高窒素血症)場合、腎機能の低下が疑われるほか、脱水状態、タンパク質の過剰摂取、消化管出血なども原因として考えられます。
逆に、BUN値が基準値よりも低い場合は、肝臓の機能障害(尿素の産生低下)、栄養不良、過剰な水分摂取などが影響している可能性があります。
BUNの基準値と解釈の目安
BUN値の状態 | 基準値の目安 (mg/dL) | 考えられる主な要因 |
低い | 8未満 | 肝機能障害、栄養不良、妊娠、過剰な水分摂取 |
基準範囲内 | 8~20 | 一般的に正常な腎機能と体内の状態を示唆 |
高い | 20超 | 腎機能低下、脱水、高タンパク食、消化管出血、心不全、一部の薬剤の影響 |
BUN値が変動する他の要因
BUN値は腎臓のろ過能力を反映しますが、それ以外にも様々な要因によって変動しやすいという特徴があります。
例えば、体内の水分が不足する脱水状態では、血液が濃縮されるためBUN値は上昇します。逆に、水分を過剰に摂取すると血液が希釈され、BUN値は低下することがあります。
食事内容も影響し、タンパク質を多く摂取すると、その分解産物である尿素が増えるためBUN値は上がります。また、胃や腸で出血があると、血液中のタンパク質が消化・吸収されて尿素の産生が増加し、BUN値が上昇します。
その他、特定の薬剤(ステロイド、一部の抗生物質など)の使用や、重度の肝臓病(尿素合成能力の低下によりBUN値が低下)などもBUN値に影響を与えます。
このように、BUN値は体の水分バランスや食事、他の病態など、腎機能以外の要因にも敏感に反応します。そのため、BUN値だけで腎機能を判断することは難しく、他の検査結果と合わせて総合的に評価する必要があります。
腎機能との関連性
前述の通り、BUN値に影響する要因は多岐にわたりますが、腎臓のろ過機能が低下することがBUN値上昇の主要な原因であることに変わりはありません。
腎臓の働きが悪くなると、血液中から尿素を効率的に除去できなくなり、結果として血中のBUN濃度が上昇します。しかし、BUN値は他の要因でも変動しやすいため、腎機能の評価においては、次に解説するクレアチニン値と合わせて見ることが一般的です。
医師はしばしばBUNとクレアチニンの比率(BUN/Cr比)なども参考にしながら、腎機能の状態をより正確に把握しようとします。
血液検査の項目:クレアチニン(Cr)とは
BUNと並んで、腎機能評価に用いられる重要な血液検査項目がクレアチニン(Cr)です。クレアチニンが何を示し、どのように腎機能と関連しているのかを理解しましょう。
クレアチニンが示す体の状態
クレアチニンは、筋肉がエネルギーを使う際に、筋肉細胞に含まれるクレアチンリン酸という物質が分解されてできる老廃物です。クレアチニンは筋肉量に応じてほぼ一定の割合で産生され、血液中に入ります。
健康な腎臓は、このクレアチニンを血液からろ過し、尿として体外へ排泄します。したがって、血液中のクレアチニン濃度が高いということは、腎臓のろ過機能が低下し、クレアチニンを十分に排泄できていない状態を示唆します。
クレアチニンの基準値とその見方
クレアチニンの基準値も検査機関や測定方法によって若干異なりますが、一般的に男性で約0.6~1.1 mg/dL、女性で約0.4~0.8 mg/dL程度とされています。女性の方が男性よりも基準値が低い傾向にあるのは、一般的に筋肉量が少ないためです。
基準値よりも高いクレアチニン値は、腎臓のろ過能力が低下していることを強く示唆します。
クレアチニンの基準値と解釈の目安
性別 | 基準値の目安 (mg/dL) | 一般的な解釈 |
男性 | 約0.6~1.1 | 基準範囲内であれば、筋肉量に応じた正常なろ過機能を示唆。高値はろ過機能低下を示唆。 |
女性 | 約0.4~0.8 | 基準範囲内であれば、筋肉量に応じた正常なろ過機能を示唆。高値はろ過機能低下を示唆。 |
クレアチニン値に影響する要因(筋肉量など)
クレアチニン値に最も大きく影響するのは、体内の筋肉量です。筋肉量が多い人(例えばアスリートなど)は、クレアチニンの産生量が多いため、腎機能が正常であってもクレアチニン値は基準範囲内でもやや高めになる傾向があります。
逆に、筋肉量が少ない高齢者や長期臥床の方では、クレアチニン値は低めに出ることがあります。BUNと比較すると、クレアチニン値は食事内容(大量の肉食でわずかに上昇する可能性はある)や脱水状態の影響を受けにくいとされています。
このため、クレアチニンはBUNよりも腎臓の「ろ過機能」そのものをより安定して反映する指標と考えられています。ただし、筋肉量という個人差要因があるため、クレアチニン値の解釈には、その人の体格や年齢などを考慮することが重要です。
単一の測定値だけでなく、時間経過に伴う変化を見ていくことが、腎機能の変動を捉える上でより有益です。
腎機能低下との直接的な関係
クレアチニン値と腎臓のろ過機能の間には、強い逆相関の関係があります。つまり、腎臓のろ過機能が低下すればするほど、血液からクレアチニンを除去する能力が落ちるため、血中のクレアチニン値は上昇します。
この関係は比較的明確であるため、血清クレアチニン値は腎機能低下の程度を把握するための重要なマーカーとして広く用いられています。
特に、定期的な検査でクレアチニン値が持続的に上昇傾向を示す場合は、腎機能が悪化している明確なサインと捉えられます。
腎機能の評価指標:eGFR(推算糸球体濾過量)
BUNやクレアチニンは腎機能の間接的な情報を提供しますが、eGFRは腎臓のろ過能力をより直接的に評価するための指標です。この計算値が腎臓の健康状態を理解する上でなぜ重要なのかを解説します。
eGFRで何がわかるのか
eGFRはestimated Glomerular Filtration Rateの略で、「推算糸球体濾過量」と訳されます。これは、腎臓の中にある血液をろ過するフィルター(糸球体)が、1分間にどれくらいの量の血液をきれいにできるか(ろ過量)を推定した値です。
体格による差を補正するため、通常は体表面積1.73 m²あたりで示されます(単位:mL/分/1.73 m²)。
eGFRは、腎臓全体のろ過能力を客観的に評価するための標準的な指標であり、腎臓病の早期発見、重症度の判定(ステージ分類)、そして病気の進行具合を監視するために用いられます。
eGFRの計算方法と基準値
eGFRは、血液検査で直接測定される値ではなく、計算によって求められます。計算には、血清クレアチニン値、年齢、性別を用いるのが一般的です(日本で広く使われているのは日本人のデータに基づいた計算式)。
人種による係数も以前は考慮されていましたが、生物学的な根拠の乏しさや公平性の観点から、現在は使用しない方向になっています。健康な人のeGFRは通常90 mL/分/1.73 m²以上です。
eGFRが60 mL/分/1.73 m²未満の状態が3ヶ月以上続く場合、またはeGFRが60以上であってもタンパク尿などの腎障害を示す所見がある場合は、慢性腎臓病(CKD)と診断される可能性があります。
血液検査 egfr 低い
場合に考えられること
健康診断などの血液検査結果でという指摘を受けた場合、それは腎臓の血液をろ過する能力が、期待されるレベルよりも低下していることを意味します。
eGFRが低いということは、腎臓に何らかの障害や病気が存在し、その結果として機能が低下している可能性を示唆します。ただし、一度の検査でeGFRが低かったからといって、すぐに回復不能な腎臓病であると決まるわけではありません。
体調(例えば脱水)など一過性の要因で低下することもあります。しかし、低いeGFRは注意すべきサインであり、その原因と重要性を評価するために、医師による確定診断とさらなる調査が必要です。
CKD(慢性腎臓病)のステージ分類
慢性腎臓病(CKD)と診断された場合、その重症度を評価するためにeGFRの値に基づいたステージ分類が行われます。
CKDは、腎障害を示す所見(タンパク尿など)があるか、eGFRが60 mL/分/1.73 m²未満の状態が3ヶ月以上持続する場合に診断されます。
ステージは1から5まであり、数字が大きいほど腎機能が低下していることを示します。
eGFRに基づくCKD(慢性腎臓病)のステージ分類
ステージ | eGFR (mL/分/1.73 m²) | 説明 |
G1 | 90以上 | 正常または高値(ただし、タンパク尿などの腎障害がある場合) |
G2 | 60~89 | 軽度低下(ただし、タンパク尿などの腎障害がある場合) |
G3a | 45~59 | 軽度~中等度低下 |
G3b | 30~44 | 中等度~高度低下 |
G4 | 15~29 | 高度低下 |
G5 | 15未満 | 末期腎不全(透析や移植が必要となる段階) |
この分類により、患者さんの状態に応じた治療方針の決定や、将来的なリスクの評価が行われます。
BUN・クレアチニン・eGFRから腎機能低下が疑われる場合
検査結果でBUNやクレアチニンが高値であったり、eGFRが低かったりすると、心配になるかもしれません。そのような結果を受け取った場合に、どのように考え、行動すべきかについて説明します。
検査結果を受け取ったらまず確認すること
まず、一度の検査結果だけで過度に心配する必要はありません。検査値は体調などによって変動することもあります。
結果を受け取ったら、ご自身の数値が、検査を実施した医療機関や検査センターが示している基準範囲から外れているかどうかを確認しましょう。
基準範囲から外れている項目があれば、その時の体調(脱水気味だった、前日に激しい運動をしたなど)や食事内容、服用中の薬など、結果に影響を与えた可能性のある要因を思い出してみることも役立ちます。
最も重要なのは、検査結果を自己判断せず、検査を依頼した医師に相談することです。医師は、あなたの健康状態全体や過去の検査結果、診察所見などを踏まえて、結果を正しく解釈し、必要な対応を判断します。
検査結果を受け取った際の確認ステップ
- ご自身の検査値と、検査機関が示す基準範囲を比較する。
- 基準範囲から外れている項目(高い/低い)を確認する。
- 結果に影響した可能性のある要因(体調、食事、運動、薬剤など)を思い出す。
- 検査結果について、担当医との相談予約を入れる。
- 医師に質問したいことを事前にまとめておく。
腎機能低下のサインや自覚症状
腎機能低下は、初期の段階ではほとんど自覚症状が現れないことが多いのが特徴です。しかし、腎機能がある程度低下してくると、以下のようなサインや症状が現れることがあります。
ただし、これらの症状は他の病気でも見られることがあるため、症状だけで腎機能低下を断定することはできません。
腎機能低下が疑われるサイン・自覚症状
- 体がだるい、疲れやすい(貧血によるもの)
- 足や顔のむくみ(体内の余分な水分や塩分の蓄積)
- 尿の変化(夜間の頻尿、尿量の減少、泡立ちが目立つ、色が濃い、血尿)
- 息切れ(貧血や、肺に水がたまることによる)
- 食欲不振、吐き気、嘔吐(老廃物の蓄積による)
- 皮膚のかゆみ(老廃物の蓄積による)
- 筋肉のけいれん、こむら返り(電解質バランスの乱れ)
これらの症状に気づいた場合は、特に血液検査で異常を指摘されている方は、早めに医療機関を受診することが重要です。
腎機能が低下する主な原因
腎機能が低下する原因は様々ですが、日本において最も多い原因は糖尿病(糖尿病性腎症)と高血圧(腎硬化症)です。これら生活習慣病が、腎臓の細い血管にダメージを与え、徐々にろ過機能を低下させます。
その他にも、以下のような原因が考えられます。
腎機能低下の主な原因
原因 | 簡単な説明 |
糖尿病(糖尿病性腎症) | 高血糖が長期間続くことで、腎臓のフィルター(糸球体)が障害を受けます。 |
高血圧(腎硬化症) | 高い血圧が腎臓の血管に負担をかけ、動脈硬化を引き起こし、機能を低下させます。 |
慢性糸球体腎炎 | 腎臓のフィルター(糸球体)に免疫系の異常などによる炎症が起こる病気です。 |
多発性のう胞腎 | 腎臓に多数の「のう胞」(液体がたまった袋)ができ、徐々に腎機能が低下します。 |
尿路の閉塞 | 腎結石、前立腺肥大症、腫瘍などで尿の流れが妨げられると、腎臓に負担がかかります。 |
薬剤・毒物 | 一部の鎮痛薬(NSAIDsの長期・大量使用)、抗生物質、造影剤などが原因となることも。 |
自己免疫疾患 | 全身性エリテマトーデス(SLE)などが腎臓に炎症を起こすことがあります。 |
繰り返す腎盂腎炎 | 腎臓への細菌感染が繰り返されることで、機能が低下することがあります。 |
原因を特定することは、適切な治療方針を立てる上で非常に重要です。
専門医への相談の重要性
健康診断やかかりつけ医での検査で腎機能の低下が疑われた場合、腎臓病の専門医(腎臓内科医)への紹介を受けることが勧められます。
腎臓専門医は、より詳細な検査(血液検査、尿検査、画像検査、場合によっては腎生検など)を行い、腎機能低下の正確な原因を突き止め、病気の進行度(ステージ)や進行速度を評価します。
そして、個々の患者さんの状態に合わせた、最適な治療計画(薬物療法、食事療法、生活指導など)を立案・実行します。腎臓病は早期に専門的な管理を開始することが、進行を抑制し、将来的な合併症を防ぐ上で極めて重要です。
もし検査結果に異常があったり、糖尿病や高血圧などのリスク因子をお持ちで腎臓のことが心配な場合は、積極的に専門医への相談を検討しましょう。当院でも腎臓内科の専門外来を設けておりますので、お気軽にご相談ください。
腎臓を守るために日常生活でできること
腎臓の健康を維持するためには、日々の生活習慣を見直すことが大切です。少しの心がけが、長期的に腎臓を守ることにつながります。
食生活で気をつけるポイント(塩分・タンパク質など)
食生活は腎臓の負担に直結します。特に注意したいのが塩分です。塩分の過剰摂取は血圧を上昇させ、腎臓に負担をかけます。加工食品や外食を控え、家庭での調理ではだしや香辛料を活用して薄味を心がけることが推奨されます。
タンパク質の摂取量も重要です。過剰なタンパク質摂取は、その老廃物である尿素などを増やすため、腎機能が低下している場合には腎臓の負担を増大させることがあります。
ただし、自己判断で極端なタンパク質制限を行うと栄養不足になる恐れもあるため、特に腎機能が低下している方は、医師や管理栄養士の指導のもとで、適切な摂取量を守ることが大切です。
進行した慢性腎臓病では、血液検査の結果に応じて、カリウムやリンの摂取制限が必要になることもあります。
食生活で注意すべき点
栄養素 | 一般的な注意点 | 制限が必要な場合の食品例 |
塩分 | 摂取を控える(1日6g未満目標)。加工食品、インスタント食品、漬物、干物など。 | 減塩を心がける。 |
タンパク質 | 過剰摂取を避ける。腎機能低下時は医師・管理栄養士の指示に従う。 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品など。 |
カリウム | 腎機能低下が進んだ場合、制限が必要なことがある。医師の指示に従う。 | 生野菜、果物(特にバナナ、メロン)、いも類、海藻類など。 |
リン | 腎機能低下が進んだ場合、制限が必要なことがある。医師の指示に従う。 | 乳製品、加工食品、レバー、魚卵、ナッツ類など。 |
適度な水分補給の重要性
一般的に、十分な水分を摂ることは、体内の老廃物を尿として排泄しやすくするため、腎臓の健康維持に役立ちます。脱水状態は腎臓への血流を減少させ、負担をかける可能性があります。
ただし、「たくさん飲めば飲むほど良い」というわけではありません。
特に、すでに腎機能が低下している方や心不全のある方では、水分を過剰に摂取すると体内に水分が溜まりすぎてしまい(体液過剰)、むくみや心臓への負担増加につながる危険があります。
このような場合は、医師から水分摂取量の制限指示が出されることがあります。ご自身の状況に合わせて、医師の指示に従い、適切な水分量を摂取することが重要です。
のどの渇きに応じて、尿の色が薄い黄色を保つ程度を目安にするのが一般的ですが、具体的な指示がある場合はそれを優先してください。
血圧と血糖値の管理
高血圧と糖尿病は、腎機能低下の二大原因です。したがって、これらの病気をお持ちの方は、血圧と血糖値を良好にコントロールすることが、腎臓を守る上で最も重要となります。
医師から処方された薬をきちんと服用し、食事療法(減塩、適切なカロリー摂取など)や運動療法を継続することが必要です。
定期的に血圧や血糖値(またはHbA1c)を測定し、目標値(一般的に血圧は130/80 mmHg未満、HbA1cは7.0%未満とされることが多いですが、個々の患者さんで目標値は異なります)を維持できているかを確認しましょう。
良好なコントロールを続けることが、腎臓への負担を軽減し、腎機能の悪化を防ぐ鍵となります。
腎臓に負担をかける薬や習慣
日常生活で何気なく使用している薬や習慣の中にも、腎臓に負担をかけるものがあります。代表的なのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる種類の痛み止めや解熱剤(市販薬にも多く含まれます)です。
これらの長期・大量使用は、腎臓への血流を減少させたり、腎障害を引き起こしたりする可能性があります。必要な場合を除き、漫然とした使用は避け、痛みが続く場合は医師に相談しましょう。
また、一部の抗生物質や、検査で使用される造影剤なども腎臓に影響を与えることがあります。他の病気で治療を受ける際や検査を受ける前には、ご自身の腎機能の状態を医師に伝えることが大切です。
喫煙も腎臓の血管を傷つけ、腎機能低下のリスクを高めるため、禁煙が強く推奨されます。その他、肥満の解消や適度な運動習慣も、血圧や血糖の管理を通じて腎臓の保護につながります。
腎臓を守るための生活習慣のポイント
- 血圧を適切に管理する(定期測定、服薬、減塩)
- 血糖値を適切に管理する(定期測定、服薬、食事・運動療法)
- 腎臓に配慮した食生活を心がける(減塩、適正なタンパク質摂取)
- 適度な水分補給を心がける(ただし医師の指示がある場合はそれに従う)
- 鎮痛薬(NSAIDs)の長期・大量使用を避ける
- 禁煙する
- 適正体重を維持する
- 定期的に運動する
腎臓に負担をかける可能性のある薬剤・習慣
項目 | 腎臓への影響の可能性 | 推奨される対応 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 腎血流低下、急性・慢性腎障害 | 必要な場合のみ短期間使用。長期使用は医師に相談。 |
一部の抗生物質 | 薬剤の種類により腎毒性がある場合がある | 医師の指示通りに服用。腎機能に応じた用量調整が必要な場合も。 |
造影剤(ヨード系など) | 造影剤腎症(一時的な腎機能悪化)のリスクがある | 検査前に医師とリスクについて相談。予防策(水分補給など)を行うことがある。 |
喫煙 | 腎臓の血管を傷つけ、腎機能低下を促進する | 禁煙する。 |
過度のアルコール摂取 | 間接的に血圧上昇などを介して腎臓に影響する可能性がある | 適量を守る。 |
高塩分食 | 血圧上昇を介して腎臓に負担をかける | 減塩を心がける(1日6g未満目標)。 |
腎機能がさらに低下した場合の治療について
生活習慣の改善や薬物療法を行っても、残念ながら腎機能の低下が進行してしまう場合があります。腎機能がさらに低下した場合に必要となる治療法について理解しておくことは大切です。
腎機能低下が進行するとどうなるか
慢性腎臓病(CKD)が進行し、eGFRが低下していくと(例えばCKDステージG4以降)、体には様々な変化が現れます。老廃物(BUN、クレアチニンなど)の蓄積がさらに進み、尿毒症と呼ばれる状態に近づきます。
体内の水分や塩分の調節がうまくできなくなり、むくみがひどくなったり、血圧のコントロールが難しくなったりします。カリウムなどの電解質のバランスが崩れると、不整脈などのリスクが高まります。
腎臓でのエリスロポエチン産生が低下するため貧血が進行し、だるさや息切れが強くなります。また、ビタミンDの活性化が障害されるため、骨がもろくなる(腎性骨症)こともあります。
食欲不振、吐き気、かゆみなどの自覚症状も、より顕著になる傾向があります。最終的に、腎臓の機能が生命を維持できないレベルまで低下した状態を末期腎不全(ESRD、CKDステージG5)と呼びます。
保存的腎臓療法とは
末期腎不Failに至った場合、通常は腎代替療法(透析や腎移植)が検討されますが、すべての患者さんがこれらの治療を選択するわけではありません。
保存的腎臓療法(Conservative Kidney Management, CKM)は、透析や移植を行わずに、現在の腎機能をできるだけ維持し、尿毒症に伴う様々な症状を緩和することに焦点を当てた治療法です。
特に高齢の方や、多くの併存疾患を持つ方などで、透析導入による生活の質(QOL)への影響や負担を考慮し、患者さんやご家族の意向に基づいて選択されることがあります。
保存的腎臓療法の主な内容
- 症状緩和:痛み、吐き気、かゆみ、息苦しさなど、尿毒症に伴う苦痛な症状を和らげるための薬物療法やケア。
- 食事療法:体調に合わせて、可能な範囲での塩分、水分、タンパク質、カリウム、リンなどの制限。
- 薬物療法:血圧管理、貧血治療、電解質異常の補正、骨代謝異常の管理など。
- 精神的・社会的サポート:患者さんやご家族の不安や悩みに寄り添う支援。
- 事前ケア計画(ACP):終末期の医療やケアに関する希望を話し合い、共有するプロセス。
保存的腎臓療法は、単に治療を諦めるのではなく、患者さんの価値観や人生の目標に沿った、積極的なケアを提供するアプローチです。
腎代替療法(透析・腎移植)の概要
腎臓の機能が著しく低下し、保存的な治療だけでは生命の維持が困難になった場合(末期腎不全、CKDステージG5)、失われた腎臓の機能を代替するための治療(腎代替療法:Renal Replacement Therapy, RRT)が必要となります。
主な腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植があります。
- 血液透析: 体外に血液を取り出し、「ダイアライザー」と呼ばれる人工のフィルターを通して血液中の老廃物や余分な水分を除去し、きれいになった血液を体内に戻す治療法です。通常、週に2~3回、1回あたり4時間程度、医療機関に通院して行います。自宅で行う在宅血液透析もあります。
- 腹膜透析: 患者さん自身のお腹の中にある腹膜をフィルターとして利用する治療法です。お腹に埋め込んだカテーテルから透析液を腹腔内に入れ、一定時間溜めておくことで、腹膜を介して血液中の老廃物や余分な水分が透析液に移動します。その後、透析液を体外に排出し、新しい透析液と交換します。通常、自宅で毎日、自分自身または家族が行います。
- 腎移植: 手術によって、ドナー(生体または脳死・心停止後)から提供された健康な腎臓を移植する方法です。移植が成功すれば、透析療法から離脱でき、食事制限なども大幅に緩和されます。ただし、拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤を生涯服用する必要があります。
どの治療法を選択するかは、患者さんの医学的な状態、ライフスタイル、価値観などを総合的に考慮し、医師と十分に相談して決定します。
腎代替療法の種類
治療法 | 簡単な説明 | 実施場所 | 頻度・時間 | 主な特徴・考慮点 |
血液透析 | 機械で血液を浄化する | 主に医療機関 | 週2~3回、1回4時間程度 | 通院が必要、シャント手術が必要、厳格な水分・食事管理が必要な場合が多い。 |
腹膜透析 | 自身の腹膜を利用して透析液を交換する | 主に自宅 | 毎日、1日数回(手動)または夜間(自動装置) | 通院回数が少ない、比較的自由な生活が可能、自己管理が重要、腹膜炎のリスク。 |
腎移植 | 健康な腎臓を移植する | 手術は病院 | 手術は1回、その後は定期的な通院 | 透析不要、食事制限緩和、免疫抑制剤の生涯服用が必要、ドナーが必要、手術リスク。 |
早期発見・早期治療の意義
ここまで腎機能低下が進行した場合の治療について説明しましたが、最も重要なことは、できる限りそのような状態に至らないようにすることです。そのためには、やはり腎臓病の早期発見と早期治療が極めて重要となります。
健康診断などで血液bunや血液クレアチニンの異常、あるいは血液検査 egfr 低い
といった結果が出た段階で適切な対応を開始すれば、腎機能低下の進行を大幅に遅らせることが可能です。
生活習慣の改善(減塩、血圧・血糖管理、禁煙など)や、原因疾患に対する治療、腎保護作用のある薬剤の使用などにより、末期腎不全への移行を遅らせたり、場合によっては回避したりできる可能性があります。
これにより、透析や腎移植といった腎代替療法が必要になる時期を遅らせ、より長く、より質の高い生活を送ることが期待できます。腎機能は一度失われると回復が難しい場合が多いからこそ、早期からの取り組みが自身の未来の健康を左右するのです。
よくある質問
腎機能検査や腎臓の健康に関して、多くの方が疑問に思われる点をまとめました。
- 検査前日に注意することはありますか?
-
BUN、クレアチニン、eGFRの検査自体には、通常、特別な食事制限(絶食など)は必要ありません。しかし、これらの検査は、血糖値や脂質など、絶食が必要な他の検査項目と同時に行われることが多いため、検査を依頼した医師や医療機関からの指示に従ってください。
検査直前の大量のタンパク質摂取は、BUN値にわずかに影響する可能性があるので避けた方が無難かもしれません。水分は、特に指示がない限り、普段通りに摂取していただいて構いません。
- 一度悪くなった腎機能は元に戻りますか?
-
原因や悪化の程度によります。脱水や特定の薬剤の影響など、一時的な原因による急性の腎機能障害(急性腎障害、AKI)の場合は、原因を速やかに取り除けば、腎機能が完全に回復する可能性があります。
しかし、糖尿病や高血圧、慢性糸球体腎炎などが原因で長期間にわたって腎臓がダメージを受けている慢性腎臓病(CKD)の場合、失われた腎機能が完全に元に戻ることは通常ありません。
ただし、適切な治療や生活習慣の管理によって、病気の進行を大幅に遅らせることは可能です。
- BUNとクレアチニンのどちらがより重要ですか?
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どちらも腎機能を知る上で重要な指標であり、それぞれ異なる情報を提供します。
クレアチニン(およびそれから計算されるeGFR)は、食事や脱水の影響を受けにくいため、腎臓の「ろ過能力」をより安定して反映する指標と考えられています。
一方、BUNは腎機能以外の要因でも変動しやすいですが、体全体の代謝状態や水分バランスなども反映します。
医師は、BUNとクレアチニンの両方の値、eGFR、さらには両者の比率(BUN/Cr比)や他の臨床情報(尿検査、血圧、症状など)を総合的に見て、腎臓の状態を判断します。
- 腎臓のために水をたくさん飲んだ方が良いですか?
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一般的には、適度な水分補給は脱水を防ぎ、腎臓への負担を減らす上で大切です。尿の色が薄い黄色になる程度を目安に水分を摂るのが良いでしょう。しかし、「飲めば飲むほど良い」わけではありません。
特に、腎機能がかなり低下している方や心不全のある方では、水分の過剰摂取は体に水分が溜まりすぎる「水中毒」やむくみ、心臓への負担増加につながるため、医師から水分摂取量の制限を指示されることがあります。
ご自身の健康状態に合わせて、医師の指示に従うことが最も重要です。
以上
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