「血液の入れ替え」や「血液の値段」という言葉で治療法を探していませんか?腎臓の機能が低下した場合、体内の老廃物や余分な水分を取り除くために人工透析という治療が必要になることがあります。
これは俗に「血液の入れ替え」と表現されることがありますが、実際には血液を体外できれいにして体内に戻す治療です。
この記事では、人工透析(主に血液透析)の仕組み、目的、そして気になる費用について、医療費の観点から詳しく解説します。
人工透析とは 血液の入れ替えと呼ばれる治療の正体
腎臓は血液をろ過し、体内の老廃物や余分な塩分・水分を尿として排出する重要な役割を担っています。
しかし、腎不全などで腎臓の機能が著しく低下すると、これらの有害物質が体内に蓄積し、様々な健康問題を引き起こします。
人工透析は、この腎臓の機能を機械などで代替する治療法です。
「血液の入れ替え」という表現は、血液を体外に取り出してきれいにする様子から生まれた俗称と考えられますが、医学的には他人の血液と入れ替えるわけではありません。
腎臓の役割と機能低下の影響
腎臓は、単に尿を作るだけでなく、体液のバランス(水分量、ミネラル濃度)を調整したり、血圧をコントロールするホルモンや赤血球を作るホルモンを分泌したりするなど、生命維持に欠かせない多くの働きをしています。
腎機能が低下すると、老廃物が溜まる(尿毒症)、体液のバランスが崩れる(むくみ、高血圧)、貧血になる、骨がもろくなるなどの症状が現れます。
腎臓の主な働き
働き | 内容 | 機能低下時の影響例 |
---|---|---|
老廃物の排泄 | 血液中の不要物を尿として捨てる | 尿毒症(吐き気、食欲不振など) |
水分・電解質の調整 | 体液量やミネラルバランスを保つ | むくみ、高血圧、不整脈 |
ホルモンの分泌 | 血圧調整、造血、骨代謝に関わるホルモンを作る | 高血圧、貧血、骨粗しょう症 |
人工透析が必要になる状態
腎機能がある程度まで低下し、保存的な治療(食事療法や薬物療法)だけでは生命維持が困難になった場合に、人工透析の導入を検討します。
一般的には、腎機能の指標であるeGFR(推算糸球体ろ過量)が15 mL/分/1.73m² 未満(末期腎不全)となり、尿毒症の症状が現れたり、体液管理が困難になったりした場合が目安となります。
ただし、導入時期は年齢や合併症の有無なども考慮して、医師が総合的に判断します。
人工透析の種類 主に血液透析と腹膜透析
人工透析には、大きく分けて「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2種類があります。
血液透析は、血液を体外のダイアライザー(人工腎臓)に通して浄化する方法で、週に2~3回、医療機関に通院して行います。
一方、腹膜透析は、自分のお腹の中(腹腔)に透析液を入れ、腹膜を利用して血液を浄化する方法で、自宅や職場で行うことが可能です。
どちらの治療法を選択するかは、医学的な条件や患者さんのライフスタイルなどを考慮して決定します。
血液透析と腹膜透析の比較
項目 | 血液透析 (HD) | 腹膜透析 (PD) |
---|---|---|
治療場所 | 医療機関 | 自宅・職場など |
治療時間・頻度 | 1回4~5時間程度を週2~3回 | 毎日(透析液交換を1日数回) |
血液浄化の方法 | ダイアライザー(人工腎臓) | 自身の腹膜 |
血液透析の具体的な流れ
血液透析は、専門の医療機関で、訓練を受けたスタッフ(医師、看護師、臨床工学技士)によって行われます。安全かつ効果的に治療を進めるために、いくつかの準備と手順があります。
シャントの作成と管理
血液透析では、1分間に200mL程度の血液を体外に循環させる必要があります。
通常の血管では十分な血液量を確保できないため、多くの場合、利き手と反対側の腕の動脈と静脈をつなぎ合わせる手術(内シャント造設術)を行います。
これにより、静脈が太くなり、十分な血液量を確保できる「シャント」と呼ばれる血管ができます。シャントは透析治療の生命線であり、日頃から閉塞や感染に注意し、大切に管理する必要があります。
シャント管理の注意点
- シャント側の腕で重い物を持たない
- シャント側の腕で血圧を測定しない、腕時計をしない
- シャント部分を清潔に保つ
- シャント音(スリル)を毎日確認する
透析治療当日の手順
透析治療を受ける日は、まず体重測定を行います。
これは、前回の透析終了時からどれだけ体重(主に水分)が増えたかを確認し、今回の透析で除去する水分量(除水量)を決めるためです。
その後、血圧測定や体調確認を行い、問題がなければ透析室のベッドに移動します。
看護師または臨床工学技士がシャント部分を消毒し、2本の針を刺します(穿刺)。1本の針から血液を体外に取り出し、もう1本の針から浄化された血液を体内に戻します。
透析中の過ごし方と注意点
血液透析は、通常1回あたり4~5時間かかります。この間、ベッドで安静にしている必要がありますが、読書やテレビ鑑賞、睡眠など比較的自由に過ごせます。
透析中は血圧が変動したり、気分が悪くなったりすることがあります。何か変化を感じたら、すぐにスタッフに知らせてください。
また、透析中に食事をとることも可能ですが、医療機関の方針や個々の状態によって異なりますので、事前に確認しましょう。
透析中の一般的な合併症
合併症 | 主な症状 | 対処 |
---|---|---|
血圧低下 | めまい、吐き気、冷や汗 | 除水速度の調整、生理食塩水の補充など |
筋痙攣(こむら返り) | 足などの筋肉がつる | 除水量の調整、マッサージ、薬剤投与など |
不均衡症候群 | 頭痛、吐き気 | 透析効率の調整(初回導入時に多い) |
血液透析にかかる費用は?
人工透析は継続的な治療が必要であり医療費も高額になりますが、日本では様々な公的助成制度が整備されており、患者さんの自己負担は大幅に軽減されます。
医療保険の適用と自己負担割合
人工透析は、公的医療保険(国民健康保険、社会保険など)の適用対象です。通常の病気やけがと同様に、医療費の一部(通常1割~3割、年齢や所得による)を自己負担します。
しかし、透析医療は非常に高額なため、この自己負担割合だけでも大きな金額になります。
一般的な医療費自己負担割合(例)
年齢 | 自己負担割合 |
---|---|
70歳未満 | 3割 |
70歳~74歳 | 2割(一定以上所得者は3割) |
75歳以上(後期高齢者医療制度) | 1割(一定以上所得者は3割) |
高額療養費制度による負担軽減
医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の限度額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」があります。
自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。人工透析の場合、医療費が毎月高額になるため、この制度の利用が前提となります。
特定疾病療養受療制度の活用
人工透析を受けている患者さんは、「特定疾病療養受療制度」を利用できます。
この制度を利用すると、同一月の同一医療機関での透析治療にかかる自己負担限度額が、原則として1万円(上位所得者は2万円)になります。
「特定疾病療養受療証」を申請し、医療機関の窓口で提示する必要があります。これにより高額療養費制度をさらに上回る手厚い助成が受けられます。
特定疾病療養受療制度の自己負担限度額
所得区分 | 自己負担限度額(月額) |
---|---|
上位所得者(※) | 2万円 |
一般 | 1万円 |
※標準報酬月額や課税所得などにより区分されます。詳細は加入する保険者にご確認ください。 |
その他の助成制度(重度障害者医療費助成など)
お住まいの自治体によっては、独自の医療費助成制度(例:重度心身障害者医療費助成制度など)を設けている場合があります。
これらの制度を利用することで、特定疾病療養受療制度の自己負担額(1万円または2万円)がさらに軽減されたり、無料になったりすることもあります。
対象となる条件や申請方法は自治体によって異なるため、市区町村の担当窓口や医療機関のソーシャルワーカーに相談してみましょう。
透析治療費用の内訳
人工透析の医療費は、様々な要素から構成されています。公的制度により自己負担は軽減されますが、どのような項目に費用がかかっているのかを知っておくことは大切です。
透析技術料と薬剤費
医療費の中心となるのは、透析手技そのものにかかる費用(技術料)です。これには、ダイアライザーや血液回路などの医療材料費、人件費、設備維持費などが含まれます。
また、透析治療と併せて、貧血を改善する薬(ESA製剤)、リンの吸収を抑える薬、血圧を下げる薬など様々な薬剤が処方されることがあり、これらの薬剤費も医療費に含まれます。
検査費用
透析患者さんは、定期的に血液検査や画像検査(レントゲン、心電図など)を受け、全身の状態や透析の効果、合併症の有無などを確認する必要があります。
これらの検査費用も医療費の一部です。検査の頻度や種類は、患者さんの状態によって異なります。
主な定期検査項目例
検査の種類 | 目的 | 頻度の目安 |
---|---|---|
血液検査 | 貧血、電解質、老廃物、栄養状態などの確認 | 月1~2回 |
胸部レントゲン | 心臓の大きさ、肺の状態(うっ血など)の確認 | 月1回程度 |
心電図 | 不整脈、心臓への負担の確認 | 月1回程度 |
その他の費用(交通費など)
血液透析の場合、週に数回、医療機関に通院する必要があります。自宅から医療機関までの交通費は、原則として自己負担となります。
ただし、条件によっては、通院にかかる交通費の一部が助成される制度(福祉タクシー券など)を利用できる場合もあります。お住まいの自治体の福祉担当窓口に確認してみましょう。
透析治療と日常生活の両立
人工透析は長期にわたる治療であり、生活の一部となります。治療を受けながらできる限り自分らしい生活を送るためには、いくつかの点に注意し、工夫することが大切です。
食事制限の重要性
透析患者さんにとって、食事管理は治療効果を高め、合併症を防ぐ上で非常に重要です。主に、水分、塩分、カリウム、リンの摂取制限が必要になります。
制限の内容は個々の患者さんの状態や透析条件によって異なりますので、医師や管理栄養士の指導を必ず守りましょう。厳しい制限と感じるかもしれませんが、工夫次第で食事を楽しむことは可能です。
食事管理のポイント
- 水分:飲み水だけでなく、食事に含まれる水分量も考慮する。
- 塩分:むくみや高血圧を防ぐため、薄味を心がける。
- カリウム:不整脈の原因となるため、生野菜や果物、イモ類などの摂取量に注意する。
- リン:骨がもろくなるのを防ぐため、乳製品や加工食品、魚卵などの摂取量に注意する。
水分管理のポイント
透析と透析の間に増える体重は、主に摂取した水分によるものです。体重増加が多いと、透析で多くの水分を除去する必要があり、血圧低下などのリスクが高まります。
1日の水分摂取量の目安を守り、体重を適切にコントロールすることが重要です。喉の渇きを感じにくいように、塩分摂取を控えることも効果的です。
体重増加量の目安
透析間隔 | 体重増加量の目安 |
---|---|
中1日(月→水など) | ドライウェイトの3%以内 |
中2日(金→月など) | ドライウェイトの5%以内 |
※ドライウェイト(DW):透析後の目標体重。個々の患者さんごとに設定されます。 |
社会生活(仕事・学業)とのバランス
透析治療を受けながら、仕事や学業を続けることは可能です。多くの患者さんが社会生活を送っています。治療スケジュール(夜間透析や土曜透析など)や職場・学校の理解と協力、体調管理が重要になります。
無理のない範囲で活動できるよう、主治医や医療ソーシャルワーカー、職場の上司や同僚、学校の先生などとよく相談しましょう。
精神的なサポートと情報収集
長期にわたる治療は精神的な負担を感じることもあります。不安や悩みを一人で抱え込まず、家族や友人、医療スタッフ、同じ透析を受けている患者さんなどに相談することが大切です。
患者会などの情報交換の場に参加することも、精神的な支えや有用な情報を得る助けになります。
透析治療に関する医療機関の選び方
血液透析は長期間にわたって通院が必要な治療です。そのため、信頼でき、安心して治療を受けられる医療機関を選ぶことが重要になります。
専門医やスタッフの体制
腎臓内科や透析治療を専門とする医師が在籍しているか、経験豊富な看護師や臨床工学技士が配置されているかを確認しましょう。
緊急時の対応体制が整っているかも重要なポイントです。
また、質の高いチーム医療を提供できる体制があるかどうかが、安心して治療を任せられるかの判断基準の一つとなります。
設備や治療環境
透析装置の種類や性能、水処理システム(透析液の清浄度を保つための設備)なども確認しておきたい点です。
また、透析室の明るさや清潔さ、ベッドの間隔、空調など、長時間過ごす治療環境が快適かどうかも治療を継続する上で意外と重要です。
感染対策がしっかり行われているかも確認しましょう。
通院の利便性とサポート体制
自宅からの距離や交通手段、駐車場の有無など、通院のしやすさは非常に重要です。週に数回の通院が必要なため、無理なく通える範囲にある医療機関を選びましょう。
また、管理栄養士による栄養指導や、医療ソーシャルワーカーによる社会福祉制度の案内、心理的な相談など、治療以外のサポート体制が充実しているかも確認すると良いでしょう。
医療機関選びのチェックポイント例
- 専門医・経験豊富なスタッフの有無
- 緊急時対応体制
- 透析設備・水処理システムの質
- 清潔で快適な治療環境
- 通院のしやすさ(距離、交通手段)
- 栄養指導や相談体制の充実度
よくある質問(FAQ)
人工透析に関して、患者さんやご家族から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。
- 透析を始めたら一生続けなければならない?
-
基本的には、低下した腎機能が回復することはまれなため、透析治療は生涯にわたって継続する必要があります。ただし、腎移植という選択肢もあります。
腎移植が成功すれば、透析治療から離脱することが可能です。腎移植には生体腎移植と献腎移植があり、それぞれにメリット・デメリット、条件がありますので、希望される場合は主治医によく相談してください。
- 透析治療中の食事で気をつけることは?
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水分、塩分、カリウム、リンの制限が中心となります。特にカリウムとリンは摂りすぎると体に悪影響を及ぼすため注意が必要です。
ただし、制限内容は個々の状態によって異なります。自己判断せず、必ず医師や管理栄養士の指導を受けてください。制限の中でも、調理法を工夫するなどして食事を楽しむことは可能です。
- 旅行や外出はできますか?
-
体調が安定していれば、旅行や外出は可能です。事前に主治医に相談し、許可を得てください。旅行先で透析を受ける「臨時透析」という方法があります。
旅行先の透析施設に事前に連絡を取り、予約をする必要があります。当クリニックでも臨時透析の受け入れや、患者さんの旅行時の臨時透析手配のサポートを行っていますので、ご相談ください。
臨時透析の手続き(一般的な流れ)
ステップ 内容 1. 主治医に相談 旅行の許可、紹介状(診療情報提供書)の依頼 2. 旅行先の施設探し・予約 自分で探すか、通院中の施設に相談 3. 書類の送付 紹介状などを旅行先の施設へ送付 4. 旅行先での透析 予約日時に施設へ行き、透析を受ける - 費用負担が心配です。
-
人工透析の医療費は高額ですが、日本では医療保険、高額療養費制度、特定疾病療養受療制度などにより、自己負担は大幅に軽減されます。
原則として月額1万円(または2万円)が上限となります。さらに自治体によっては独自の助成制度もあります。
詳しい制度の内容や申請方法については、医療機関のソーシャルワーカーや市区町村の担当窓口、加入している保険者にご相談ください。
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