離断性骨軟骨炎(OCD)

離断性骨軟骨炎(Osteochondritis Dissecans:OCD)とは、骨の表面を覆う軟骨と、その下層の骨が血流の低下などによって局所的に損傷し、軟骨片や骨片が分離する病気です。

関節内の摩擦や炎症が起きると、関節を動かすたびに痛みや違和感を覚える症状が出現します。

成長期の子どもやスポーツ活動が活発な若年層だけでなく、成人でも比較的少ない傾向が見られます(年齢分布として10歳未満や50歳以上はまれ)。

原因や病型、症状は多岐にわたり、治療には保存療法と手術療法があります。

早期発見と適切な治療が、関節の機能維持と将来の障害リスク低減につながります。

この記事の執筆者

臼井 大記(日本整形外科学会認定専門医)

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

離断性骨軟骨炎(OCD)の病型

離断性骨軟骨炎では、進行度によって段階が分けられます。レントゲンやMRI画像を基に、軟骨下の骨が剥がれかけているのか、完全に分離しているのかを評価します。

進行度が高いほど、関節の動きに制限が出たり、痛みが強まったりしやすくなります。

近年ではICRS(国際軟骨修復学会)の分類(2003年)が国際的な標準として用いられる場合が多く、関節鏡所見に基づき分類します。

分類時のポイント
  • 軟骨表面のわずかな変化
  • 軟骨下骨に及ぶ変化
  • 亀裂の形成と軟骨・骨片の不安定化
  • 剥離片が関節内に遊離

組織の状態を細かく見ると、治療方針をより具体的に決定しやすくなります。

病変進行度の簡易比較表

進行度状態主な特徴
軟骨のみがわずかに変化痛みが少なく、軽い違和感
軟骨下骨が影響を受け、部分的に剥離傾向運動時の軽度痛、重度の運動時は違和感増強
剥離片が関節面で不安定、亀裂あり関節のロッキング症状※1や休息時の痛み
完全に剥離し、関節内を遊離関節可動域の制限や強い痛みが出やすい

それぞれのステージで骨欠損の深さが10mm未満の場合はA、10mm以上はBと細分類します。

※1ロッキング症状:関節が特定の角度で動かなくなり、激しい痛みをともなう状態

好発部位による分類

離断性骨軟骨炎が起こりやすい部位はいくつかあります。特に膝関節の大腿骨顆部、肘関節の上腕骨小頭、足関節の距骨ドームなどが代表的です。

好発部位によっては日常生活やスポーツ動作で痛みが増したり、ケガを繰り返したりしやすいです。

膝に負担をかけるランニングやジャンプ、肘を酷使する投球、足関節への高い負荷がかかる競技などで症状が表面化しやすくなります。

好発部位の例(症状が発生しやすい体の部位)
  • 膝(特に内側大腿骨顆で、OCDの70%~85%と圧倒的に多い)
  • 肘(上腕骨小頭の外側部~中央部)
  • 足関節(距骨の後内側)
  • まれに股関節や肩関節

各部位の特徴を踏まえたうえで、どのような動作や生活習慣が悪化因子になるかを意識することが大切です。

患者の年齢層による分類

離断性骨軟骨炎は成長期の子どもや思春期の運動好きな学生から、成人まで幅広い年齢層に生じます。

小児や思春期の患者のうち、骨端線※2がまだ閉じていないときに発症すると自然治癒の可能性もあります。

一方、骨端線が閉じた成人では治癒しにくく、剥離片が大きくずれてしまうケースもあり、手術を検討する必要が高まります。

※2骨端線:成長期の子供の骨に見られる軟骨層。骨の長さを伸ばす役割を担っている。

若年型OCD(juvenile OCD)

成長期で骨端線が閉鎖していない時期に発症したものです。

成熟型OCD(adult OCD)

骨成熟後(骨端線閉鎖後)に発症したもの。多くが若年期から治癒せず持ち越された病変と考えられますが、一部には成人になってから新たに発生する例も報告されています。

一般に若年型の方が骨の治癒能力が高く予後良好であるとされ、治療方針でもこの区別は重要です。

病型を判断する意義

病型を明確にすることで、保存的に対応するか、それとも手術を検討するかの判断材料になります。

特にスポーツ選手は競技復帰の時期をシビアに考えるため、自分の病型の把握は重要です。

また、進行度が低い段階での治療開始は、その後の合併症リスクを下げるうえでも大切です。

  • 進行度に応じた適切な治療選択
  • 発症部位に応じた日常生活や競技での注意点
  • 年齢層に合わせた回復目安や予後の見通し

離断性骨軟骨炎(OCD)の症状

離断性骨軟骨炎の症状は、初期の軽い違和感から、進行すると強い痛みや関節のロッキングなど多様です。

早期の段階で気づくことができれば保存療法で十分に改善する可能性がありますが、遅れると手術が必要になるケースもあります。

初期症状

初期段階では、症状が軽微で見逃されやすいです。

痛みは軽度で、運動時にわずかな違和感やこわばりを覚える程度です。

安静にすると消失し日常生活にはほとんど支障がない場合もあります。このため「成長痛」と片付けられて発見が遅れるケースもあります。

痛みの部位は患部の関節により異なりますが、膝であれば漠然と膝関節内の痛みや大腿骨内側顆部※3の圧痛、肘であれば外側の圧痛や可動域終末での痛みなどがみられます。

また多くの患者様は、「明らかな外傷の既往を思い出せない」と報告されるため、徐々に進行するオーバーユース障害的なケースも少なくないと考えられます。

※3大腿骨内側顆部:太ももの骨(大腿骨)の膝に近い部分に位置する骨の隆起部分。

運動時に見られる症状例
  • 運動後の軽い鈍痛
  • 動かし始めの違和感
  • 関節を深く曲げたときの軽いひっかかり感
初期症状チェック
  • 長時間動いた後の鈍い痛みがある
  • 一定の角度で膝や肘を動かしたときに引っかかりを感じる
  • 痛みが休息で軽減する

中期症状

中期に入ると、軟骨下骨が剥がれかけている状態で痛みや可動域制限が徐々に強まります。階段の昇降や立ち上がりなど、日常生活の中で痛みをはっきり自覚するようになります。

スポーツ活動の継続が難しくなるケースもあり、自然に受診するタイミングになりやすいです。

  • 関節のこわばりと痛み
  • 可動域が狭くなる
  • 重い荷重や強い外力で痛みが増す

中期の身体所見の特徴

症状例身体所見のポイント代表的な日常生活への影響
関節のこわばり関節を動かすときにゴリゴリ音を感じる歩行や階段昇降がつらい
軽いロッキング膝や肘を動かしたときに一瞬引っかかるスポーツ時に動きが鈍る
深い痛み関節深部の痛みが長引く仕事中の動作が制限される

進行した症状

病変が進行して剥離片が大きくなると、完全に遊離した軟骨・骨片が関節内で引っかかるロッキングが起こります。

痛みも強くなり、歩行困難や日常生活の動作すら辛くなる可能性があります。

  • 関節が途中で動かなくなる強いロッキング
  • 激しい痛みと炎症
  • 関節の腫れや水がたまる症状
進行期に多い合併症
  • 関節軟骨のさらなる損傷
  • 二次的な変形性関節症への移行
  • 痛みによる運動不足から筋力低下

症状悪化のサインを見逃さないために

症状が軽いうちは放置しがちですが、悪化すると治療も長期化しがちです。特にスポーツ選手や運動量の多い方は、小さな痛みや違和感の段階で専門家の意見を聞きましょう。

自力で改善すると思い込むと、結果的に手術が必要になったり長期休養を強いられたりするリスクが高まります。

症状だけでOCDと確定診断することは難しく、画像検査が不可欠です。

こんな時は医師に相談
  • 痛みが数日経っても軽減しない
  • 運動量を減らしても痛みが消えない
  • 関節の引っかかり感や音が増えてきた

離断性骨軟骨炎(OCD)の原因

離断性骨軟骨炎の明確な原因は未解明ですが、生物学的因子と機械的因子の双方が関与し、外傷性要因や成長期特有の骨構造の変化、過度なスポーツ負荷などさまざまな要素が関係しています。

古くから提唱されている“虚血障害説”と“外傷説”

古くは「骨端軟骨板の一部に生じた血行障害(虚血)が初発病変である」とする仮説(osteochondrosis説)が獣医学分野で支持されており、家畜や動物モデルで軟骨管血流の途絶によりOCD様の軟骨壊死が生じると確認されています。

ヒトの研究でも、病理組織で軟骨下骨の無菌性壊死が見られた報告があり、この虚血性壊死説が支持されています。

一方で、反復する微小外傷(オーバーユース)や一回の大きな外傷が軟骨下骨に骨折様のダメージを与え発症するという「外傷説」も古くから提唱されています​。

現在有力なのは、「まず虚血性の骨軟骨壊死が起こり、その弱くなった部分にスポーツなどの反復荷重が加わり病変が顕在化する」という両者の融合仮説です。

2018年の系統的レビューでも、OCDの病因は生物学的要因と機械的要因の両方による可能性が高いと結論づけられています​。

ここでは主な原因と、症状の発現に影響を与える要因を取り上げます。

外傷や繰り返しの衝撃

強い外力や繰り返し加わる微小外傷が、軟骨下骨への血流障害や微細な損傷をもたらします。

スポーツ活動では、ジャンプやダッシュ、急停止・急加速などで関節に高い負担がかかりやすいです。

  • 急性外傷(転倒や衝撃など)
  • 慢性的な小さな外力(長期的なランニング負荷など)
  • 同一部位への繰り返しの打撲

衝撃負荷と関節トラブルの関連

スポーツ例衝撃負荷のポイント発症リスク
バスケットボールジャンプの反復と着地の衝撃膝や足関節に負担が集中
野球やソフトボール投球動作の繰り返しによる肘への負荷肘関節の骨軟骨炎リスク
サッカースプリントと急停止で膝を捻る可能性半月板や軟骨への負荷増大
陸上競技(長距離)長時間にわたり同じ動作を繰り返す膝や足関節へストレス蓄積

成長期の骨端線への影響

成長期では骨端線が未熟で柔軟性がある一方、過度な負荷で血行障害を起こしやすいです。

大人の骨のような強度がないため、急激な運動量増加や過密な練習計画を続けると、離断性骨軟骨炎※4が生じるリスクが高まります。

※4離断性骨軟骨炎:関節の軟骨とその下の骨(軟骨下骨)が部分的に壊死し、剥がれ落ちてしまう疾患

特に12歳から15歳が好発年齢で成長期の終わりに近づくほどOCD発症リスクが高まると報告されています。

成長期でのOCD発症で考えられる要因
  • 骨端線閉鎖前の不安定な骨構造
  • 身長の急激な伸びで筋力バランスが崩れる
  • 学校の部活動やクラブチームでの過度な練習

個人の体質や遺伝的要因

骨や軟骨の強度には個人差があります。遺伝的に軟骨が弱い家系では、離断性骨軟骨炎のリスクが高まります。

また、体重過多(肥満)は関節に大きな荷重がかかるため、軽度の負荷でも炎症や損傷が生じやすいです。

  • 遺伝的に軟骨、骨が弱い
  • 体重過多で関節への負荷が増大
  • ビタミンやカルシウム不足
  • 肘と膝は男性に多く、足関節は女性にやや多い
  • 半月板の形態異常
個人要因のチェックリスト
  • 両親や兄弟に関節の病気歴がある
  • BMIが高く、運動習慣が少ない
  • カルシウムやビタミンDを十分に摂取していない

環境要因とケア不足

運動時の環境も原因の一つです。硬いコートや路面でプレーを続けると衝撃が大きくなり、シューズのクッション性不足や適切でないサポーターの使用なども悪影響を及ぼします。

練習後のアイシングやストレッチなどのケアを怠ると、関節の疲労が抜けにくくなり症状が進行しやすいです。

  • シューズ選びやインソールの不適合
  • 運動後のストレッチやアイシング不足
  • ハードグラウンドでの激しい練習

以上より、発育期の血流障害を背景にスポーツ等の負荷が引き金となるのが代表的な発症メカニズムであり、そのほか肥満や解剖学的要因がリスクを高め、稀に遺伝要因も関与しうるというのが最新の理解です。

離断性骨軟骨炎(OCD)の検査・チェック方法

離断性骨軟骨炎かどうかを判断するとき、視診や触診、画像検査など多面的に情報を集めます。早期発見に役立つチェック方法は幅広く、症状や年齢に応じた検査が大切です。

問診と視診・触診

まず行うのが問診です。痛みの種類や部位、発症時期、運動量などを詳しく聞き取り、次に視診や触診で腫れや熱感の有無、可動域制限を把握します。

軟骨の剥離が進んでいれば、動きの中で引っかかる感触(キャッチング)を触診で確認する場合があります。

  • 運動の頻度や内容を聞き取る
  • 関節の腫れや熱感をチェック
  • 触診で引っかかり感を確認
  • Wilsonテスト(脛骨内旋位での膝伸展時に疼痛出現)
  • 肘を完全伸展した状態で回内、回外で痛みを誘発

画像検査(レントゲン、MRI、CT)

画像検査では、レントゲンで骨の状態や骨端線の閉鎖具合を確認したり、骨輪郭のわずかな不整や軟骨下に淡い透亮像※5が見られるケースもあります。

※5透亮像:画像上で周囲よりも薄く写る部分

レントゲンは病変の大きさと部位を把握するのに有用ですが、初期病変や骨片の安定性評価には限界があります。

MRIでは軟骨や骨の微妙な損傷や剥離状態を評価できるOCD診断の標準的な検査です。

MRIは放射線被曝がなく軟部組織描出に優れるため、早期病変の発見や安定病変と不安定病変の識別に有用で、治療方針決定にも大いに役立ちます。

CTは骨の詳細な3次元構造を把握するのに有用です。

特に進行度合いの判断や手術の検討時に高精度の画像情報は重宝します。エコー検査は肘OCDのスクリーニングに有用です。

ただし、装置や見る人の熟練度によって精度が変わるため、現状ではあくまで補助的な検査の位置付けとなっています。

検査方法特徴得られる情報
レントゲン骨の概略を把握しやすい大まかな進行度、骨端線の状態
MRI軟骨や軟部組織の観察が可能早期病変や軽度の剥離を確認、骨髄浮腫の有無など
CT骨構造の詳細を3次元で把握剥離片の位置や形状、手術の計画

関節鏡検査

保存療法か手術療法か迷う場合や、画像検査だけでは判断が難しいケースでは関節鏡検査を行う場合があります。

小さな内視鏡を関節内部に挿入して、軟骨や骨の損傷具合を直接目視で確認します。

この検査中に剥離片を除去したり、ドリリング※6などの簡単な処置を行う場合もあります。

※6ドリリング:損傷した軟骨の下の骨に小さな穴(骨孔)を開けけ、骨髄からの出血を促し、軟骨の修復を促進する処置

関節鏡検査は、診断と治療を最終的に確定する手段となるゴールドスタンダードな検査です。

関節鏡所見により前述のICRS分類やROCK分類でステージを評価し、それに応じて治療方針(ドリリングのみで良いか、固定が必要か、骨片除去と軟骨再建を行うか等)が決定されます。

関節鏡検査の特徴
  • 内視鏡を使って関節内を直接観察
  • 軟骨表面の亀裂や剥離片を確認
  • 同時に治療も可能

セルフチェックのポイント

自己判断でも、「普段より関節の動きが悪い」「軽い運動でも痛みを感じる」などの変化に気づいたら早めに整形外科を受診してください。

無理をして運動を続けると症状が急激に悪化する可能性があります。

セルフチェックの例
  • 朝起きたとき、関節の動きが固く痛みを伴う
  • 以前は平気だった運動で痛みが出るようになった
  • 伸展、屈曲の際に音や引っかかりを感じる

離断性骨軟骨炎(OCD)の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間

離断性骨軟骨炎(OCD)の治療は、保存療法から手術療法まで幅広く、患者の病期や年齢、症状に応じて選びます。

治療に併せて適切なリハビリテーションを行い、再発や悪化予防が大切です。

ここでは、主な治療方法や使用される薬、リハビリの流れと治療期間の目安を詳しく解説します。

保存療法(安静・装具・投薬など)

保存療法は若年者の安定病変※7に対する第一選択肢です。

※7安定病変:医学的な画像診断(CT、MRI、X線など)において、以前の検査結果と比較して、大きさや性状に変化が見られない病変を指す

骨端線が開いている小中学生のOCDでは骨の治癒力が高いため、病変が安定している(骨片が剥離していない)限り、まずは手術をせず自然治癒を促すのが一般的です。

ただし、具体的な保存療法の内容や期間については一定のコンセンサスが無いのが現状なので、各症例の状況(年齢、症状の程度、病変部位、競技レベルなど)に応じて総合的に判断されます。

運動制限・関節への負担軽減

治療の柱となるのは、運動制限と関節への負担軽減です。

具体的には痛みが出る動作や競技を中止し(安静・活動制限)、必要に応じて関節の免荷(体重のかかる関節では部分荷重や免荷の指示。松葉杖や車椅子の使用など)を行います。

リハビリテーション

大腿四頭筋やハムストリングなど関節を支える筋力の維持・強化、柔軟性の改善を目的としたリハビリテーション(理学療法)も重要です。

特に周辺筋力の強化は関節への衝撃緩和につながるため、痛みが許す範囲で適切な運動療法を並行します。

物理療法(※統一した推奨ではない)

物理療法(低周波治療、超音波治療、体外衝撃波治療〔ESWT〕、パルス電磁場療法〔PEMF〕など)を併用する報告もありますが、これらの有効性については十分なエビデンスがなく統一した推奨には至っていません。

全身的なアプローチ

近年では集中的な体幹・股関節トレーニングにより投球フォームを改善し肘OCDの進行を防ぐ試みなど、全身的なアプローチも行われています。

保存療法の治療機関について

治療期間としては、少なくとも3~6ヶ月の継続が一般的です。

一方、3~4か月経っても骨癒合が得られない、痛みが長引く、ロッキングなど不安定兆候が出てくる場合は、保存療法の継続が困難と判断されます。

文献によれば、保存療法で最終的に病変治癒(骨癒合)に至る率はおよそ61.4%と報告されています。

ただしその数字には幅があり(報告により10.4%から95.8%とばらつく)、また保存療法成功例の多くは病変が小さい・初期といった条件を満たす症例です。

手術療法(関節鏡下手術など)

剥離片が大きく変位している場合や、保存療法で改善が見込めないと判断した場合は手術を検討します。

関節鏡を用いた手術が多く、剥離片の摘出や内固定、骨へのドリリング(血流を促す目的)などを行います。

場合によっては、骨移植や軟骨再建術を組み合わせる場合もあります。

手術法目的・概要適用するケース
関節鏡下デブリードメント剥離片を除去し、軟骨表面を滑らかに整える中~進行期で部分的剥離が見られる場合
内固定術ネジやピンなどで剥離片を元の骨に固定剥離片が完全に分離する前、再固定可能な場合
ドリリング骨に小さな穴を開けて血液や骨髄液を誘導し、修復を促す軟骨下骨が傷んでおり、回復を促進したい場合
骨軟骨移植他部位から採取した骨軟骨を移植し、欠損を補う大きな欠損や進行した症例

治療薬とリハビリテーション

手術後は、痛みのコントロールと組織の回復を目的に薬物療法やリハビリを行います。

膝関節の場合、術後4~6週間程度は免荷(松葉杖歩行)とし、徐々に部分荷重を経て8週間前後で全荷重歩行に移行するプロトコルが用いられています。

肘関節では術後約3週間の固定(ギプスまたはシーネ)を行い、その間は肘を動かさず筋収縮訓練のみ行います。

固定除去後に可動域訓練を開始し、徐々に筋力トレーニングを追加していきます。

ドリリングのみの場合は固定期間が短縮され、痛みの範囲で早期から可動域訓練を開始するケースも多いです。

抗炎症薬や鎮痛薬を使用しながら、医師や理学療法士の指導下で筋力回復や可動域訓練に取り組みます。

  • 消炎鎮痛剤(NSAIDs、アセトアミノフェンなど)
  • 筋力強化やストレッチを中心としたリハビリ
  • 関節の安定性を高めるトレーニング
リハビリにおける主なポイント
  • 痛みの程度を見ながら段階的に運動量を増やす
  • 軟部組織や筋肉の柔軟性アップに注力する
  • コア・バランストレーニングで関節への負担を軽減

治療期間の目安

治療期間は、保存療法の場合、軽度であれば数か月程度で日常生活に支障がなくなるケースもあります。

しかし、進行度が高く手術になった場合は、リハビリも含めて半年以上かかるケースも少なくありません。

再発予防や術後の機能回復を考えると、焦らず十分な期間リハビリ継続が重要です。

治療内容治療期間の目安
保存療法3~6か月程度で痛みが軽減
手術療法術後3か月ほどで基本的な日常動作に復帰、完全なスポーツ復帰は6か月以上。軟骨移植などでは2~12か月以上かかる場合もある
成長期の子ども骨の回復が早いが、注意深い経過観察が必要

薬の副作用や治療のデメリット

離断性骨軟骨炎の治療で使う薬や手術方法には、一定の副作用やデメリットがあります。

薬物療法の副作用

消炎鎮痛剤(NSAIDs)は一般的な痛み止めとして処方されますが、長期使用や大量使用では胃腸障害や腎機能への影響が起こる可能性があります。

ステロイド注射を関節内に打つ場合は、感染症リスクや軟骨への影響に配慮しながら行う必要があります。

  • NSAIDsによる胃の不快感や胃潰瘍
  • ステロイド注射による感染リスク
  • 稀にアレルギー反応(発疹、かゆみなど)
副作用への対処の例
  • 胃薬の併用で胃腸への負担を減らす
  • 処方された薬の容量、回数を守る
  • 異常を感じたら早めに医師に相談

手術のリスク

手術では麻酔のリスクや、術後の感染症、血栓など一般的な手術合併症を考慮します。

また、関節鏡手術とはいえ、軟骨や骨に対して外科的操作を行うため、術後に一時的な可動域制限や痛みが続く場合もあります。

  • 麻酔でのアレルギーや副作用
  • 術後感染症や血栓症
  • 軟骨や骨の回復が遅れる可能性

保存療法の限界

保存療法では症状が長引く、もしくは改善が限定的な場合があります。痛みや不安感から運動を避けすぎると筋力低下が進み、関節を支える力が落ちることもデメリットです。

保存療法中に症状が悪化して、最終的には手術を選択するケースもあります。

保存療法で起こりうる問題点

リスク・問題点詳細回避策
筋力低下運動制限で筋肉が衰え、関節が不安定になりやすい軽い筋トレやリハビリを継続
症状の長期化回復が遅れ、日常生活に影響が出る定期検査で治療方針を見直す
重症化での手術移行保存療法では限界があり、時間を失う可能性早期に方向転換を検討する

リスクとメリットのバランス

リスクゼロの治療は存在しませんが、痛みや機能制限を長期的に放置すると、関節に不可逆的なダメージを与える危険性が高まります。

リハビリや装具の活用などを含めて総合的にリスクとメリットを検討し、医師と相談しながら治療方針を決めましょう。

  • 副作用や合併症を防ぎながら早期治療を行う
  • 症状や生活スタイルに合った治療法を選ぶ
  • 医師との情報共有と定期的な経過観察

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

離断性骨軟骨炎(OCD)は通常、健康保険の適用対象です。

保存療法や手術療法、リハビリテーションなどにかかる費用は、公的医療保険の負担割合に沿って支払います。

ここでは、代表的な費用の目安を紹介しますが、実際の金額は選択する治療法や医療機関、個々の保険制度(国民健康保険・社会保険など)によって変動します。

保存療法の費用目安

装具の費用や通院頻度によって変わりますが、保存療法では手術費用がかからない分、総額は抑えられる場合が多いです。

消炎鎮痛剤や湿布などの薬代に加え、装具(サポーターなど)や定期検査の費用が発生します。装具は5000円~1万円程度で保険適用外の場合もあるため注意が必要です。

内容費用の目安
通院1回あたりの自己負担1000円~3000円程度(検査内容による)
薬代1か月あたり数百円~1000円程度(3割負担の場合)
装具数千円~1万円前後(保険適用の可否を確認)
保存療法での主な支出項目
  • 診察料、検査料
  • 装具やサポーターの購入費
  • 処方薬代

手術療法の費用目安

関節鏡手術の場合、公的医療保険の3割負担を想定すると、入院期間や手術の複雑さにもよりますが、自己負担額は10万円~20万円程度が目安になるケースが多いです。

入院が短期の場合はもう少し費用が下がることもありますが、術後のリハビリ費用も考慮する必要があります。

項目自己負担額目安(3割負担)備考
手術費(関節鏡)5万円~10万円程度剥離片の固定や移植を行うと上乗せあり
入院費1日あたり数千円~1万円程度個室利用だとさらに費用が高くなる
検査費用(術前・術後)数千円~1万円程度MRI・CT・レントゲンの回数次第
リハビリ費1回あたり数百円~数千円程度週2~3回で数週間~数か月続く場合あり

高額療養費制度の活用

手術や入院で医療費が高額になった場合は、高額療養費制度が適用されます。

自己負担が一定額を超えた分が後から払い戻されるため、経済的負担を軽減できます。

事前に限度額適用認定証を取得しておけば、医療機関への支払い時点で負担を抑えられます。

高額療養費制度を利用する際のポイント
  • 所得区分による自己負担限度額の違い
  • 手術や長期入院時に利用が増える
  • 事前に認定証を用意しておくとスムーズ
事前にチェックしておくべきポイント
  • 所得区分の確認
  • 入院や手術前に限度額適用認定証を申請
  • 後日、健康保険組合や協会けんぽから差額が支給される

自由診療や先進医療の可能性

特殊なインプラントや移植手術などで保険適用外の治療法を選択するケースがあります。

その場合は全額自己負担となり、費用が非常に高額になる場合があります。

主治医と十分に相談し、メリット・デメリットを比較したうえで治療方針を決定してください。

  • 一部の特殊な人工骨移植や培養軟骨移植など
  • 治療効果や術後リスクに留意
  • 自費診療費用は数十万円~100万円以上になることもある

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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