腎臓は全身の状態を安定させるうえで大切な役割を担います。しかし、生活習慣や加齢、さまざまな原因疾患などの影響によって腎機能低下が起こり、やがて腎機能障害に至るケースがあります。
症状が出にくい反面、気づかないまま進行すると透析が必要になる可能性もあります。日常的なチェックと早期発見は、より豊かな生活を長く維持するために重要です。
この記事では腎機能障害の主な種類や原因、早期発見のために気をつけるべき点などをわかりやすくまとめました。
腎機能障害の基礎知識
腎臓は、体内における老廃物の排出や体液のバランス調整など多彩な働きを担い、健康を維持するうえで重要な臓器です。腎機能障害が起こると老廃物をうまく排せつできなくなり、体のバランスが崩れる可能性があります。
早い段階で腎臓の働きを正しく理解しておくと、自分の体のサインを見逃さない助けになります。
腎臓の役割
腎臓は左右に1つずつ存在し、以下のような機能を担います。塩分や水分、電解質などの濃度を調整し、血圧を調節するうえでも重要です。さらにホルモンの産生や骨の健康にも深く関わります。
- 血液中の老廃物と余分な水分を尿として排出する
- 体内の水分量や電解質のバランスを保つ
- 血圧を調整する
- 骨の形成や赤血球の産生を助けるホルモンをつくる
こうした働きが損なわれると、日常生活に大きな影響が及ぶことがあります。
腎臓が担う代表的な役割
機能 | 主な役割 |
---|---|
老廃物の排出 | 尿を生成し、老廃物や毒素を体外に出す |
体液バランスの調整 | 塩分や水分、電解質の濃度を調節し血圧を保つ |
ホルモンの産生 | 赤血球生成を促すエリスロポエチンなどを分泌 |
骨の維持 | ビタミンDを活性化して骨の健康を支える |
腎機能障害とは何か
腎機能障害とは、腎臓の働きの一部または大部分が低下してしまい、体内の老廃物や水分を十分にコントロールできなくなる状態です。
腎機能低下が進行すると疲労感やむくみ、血圧上昇などの症状を引き起こし、末期になると透析などの治療を視野に入れる必要があります。
生活に及ぼす影響
腎機能障害が起こると、余分な塩分や水分を排出しにくくなります。むくみや血圧の上昇、さらには体内に毒素が蓄積することで倦怠感や食欲不振が続くこともあります。生活の質が低下しやすく、日常的な活動にも支障が出やすくなります。
腎機能障害と腎機能低下の関連
軽度の腎機能低下であれば自覚症状が乏しい場合が多いですが、その状態のまま放置すると腎機能障害へ移行するリスクが高まります。段階的に進行し、最終的に透析が必要な状態に至る人もいます。
定期的な血液検査や尿検査で腎機能を調べることが大切です。
腎機能障害の原因
腎機能障害の原因には生活習慣に関連するものから、慢性的な原因疾患をもつケースまで幅広いものがあります。自分の生活環境や体質に合わない習慣が継続すると、少しずつ腎臓に負担がかかってしまいます。
大きく分けた分類
腎機能障害の主な原因をまとめると、一次的な腎臓自体の異常と、他の臓器や全身性の病気に由来する二次的な原因に大きく分けられます。食事や飲酒、喫煙などの生活習慣が要因となるケースも多いです。
原因を大まかに分けた分類
分類 | 内容 |
---|---|
一次的 | 糖尿病性腎症や糸球体腎炎など腎臓そのものに問題が生じる |
二次的 | 高血圧など他の病気が原因となり腎臓に負担がかかる |
生活習慣 | 塩分過多の食事、過度なアルコール摂取、喫煙などで腎臓が疲弊する |
日常生活と関連する要因
日常的な要因としては、塩分の多い食事や水分不足、慢性的な睡眠不足、過度のストレスなどが挙げられます。これらの要因が続くと血流や血圧のコントロールが乱れ、腎臓に負担をかける場合があります。
塩分やタンパク質を過剰に摂ることも腎機能低下のリスクを高めます。
家族歴や遺伝的素因
家族の中に腎臓病の人がいる場合、同じ原因疾患を発症する確率が上がることがあります。ポリシスティック腎疾患のように遺伝性の要因をもつ病気もあるため、家族歴がある人は早い段階から定期的な検査を心がけることが重要です。
職場環境や薬剤の影響
腎臓に影響を与える薬剤を長期にわたって使用すると腎機能障害を引き起こすことがあります。また、体に大きな負荷がかかる職場環境や激しい肉体労働も、適切な水分補給が不十分だと腎臓を酷使してしまう原因になり得ます。
症状と進行度の目安
腎機能障害は症状が出にくいことが特徴です。しかし、進行度によって身体に現れるサインがあります。初期の段階で自分の体調変化を見極めることが、腎機能を守るうえで重要です。
初期症状
初期段階では自覚症状がほとんどありません。血液検査や尿検査でわずかな数値の変化が見られる程度のため、健康診断を受けない人は気づかずに過ごすことが多いです。
軽い疲れや尿量の増加・減少程度では、日常の変化と区別しにくいことが特徴です。
腎機能低下の進行度の目安
進行度 | 主な特徴 |
---|---|
早期 | 自覚症状なし。検査で少し数値が変化している場合 |
中期 | むくみや高血圧などの症状があらわれやすい |
末期 | 尿毒症状や倦怠感、透析などを検討する段階 |
中期以降の特徴
腎機能障害が中期に入ると、以下のような症状が出ることがあります。
- 血圧の上昇
- むくみや体重増加
- 尿が泡立ちやすくなる
- 疲れやすさや倦怠感
これらの症状は腎臓が老廃物をうまく排出できなくなることで起こり、放置すると生活の質がさらに下がる可能性があります。
重症化時のリスク
重症化すると、血液中に老廃物が蓄積して吐き気や貧血、食欲不振などが顕著になる場合があります。さらに心臓や血管にも影響が及び、心不全や脳血管障害につながる可能性があります。
末期になり透析が必要になる状態では、専門的な医療が不可欠です。
早めの対処が大切な理由
腎機能障害は急激に悪化する場合と、徐々に進行する場合があります。いずれの場合も、早めに対処すると腎機能をより長く保てる可能性が高まります。
健康診断や症状の有無にかかわらず定期的に医療機関を受診し、検査を受けることが大切です。
早期発見のポイント
腎機能低下が疑われるときは、まずは医療機関で検査を受ける必要があります。早期発見によって、適切な生活改善や薬物治療を行いやすくなります。
健康診断での検査項目
血液検査では血清クレアチニンや推算GFR(eGFR)などをチェックします。尿検査ではタンパク尿や潜血の有無を調べ、腎機能障害の有無を推定します。定期的な健康診断に加えて、必要に応じて専門科の受診を考慮してください。
検査時によく見る指標とその意義
指標 | 意義 |
---|---|
血清クレアチニン | 筋肉代謝物の排出能力を確認する指標。腎機能が低下すると数値が上がりやすい |
eGFR | 腎臓が老廃物をろ過する能力の推定値。数値が低いほど腎機能低下が疑われる |
尿蛋白 | 糸球体や尿細管に異常がある場合に増加。腎障害の進行度を推測できる |
変化を見逃さない工夫
血液検査と尿検査で異常がなくても、以下のような身体のサインに注意してください。
- いつもより疲れやすい
- トイレの回数や尿量に変化がある
- 目や足などのむくみが続く
- 体重の増加速度が急に早くなった
小さな変化を見逃さず、早めにかかりつけ医や専門医に相談することが腎機能障害の悪化を防ぐカギになります。
日常生活からの気づき
日常で気づく変化として、食欲不振や睡眠の質の低下が続く場合があります。これらの症状はストレスや他の体調不良でも起こりやすいため、複合的に観察することが重要です。
水分の取りすぎや塩分の多い食生活を続けると、少しずつ腎機能が疲弊していく可能性があります。
日常生活での注意点
項目 | ポイント |
---|---|
塩分の摂取量 | 味の濃い調味料を控えたり、加工食品を減らす工夫が大切 |
水分補給 | 汗をかいた分だけしっかり摂取。過不足なく行うこと |
休養 | 睡眠時間を十分に確保し、疲労をためない |
ストレス管理 | 軽い運動や趣味を取り入れて心身の負担を軽減 |
定期的な受診の重要性
腎機能障害は初期症状が乏しいため、定期的な受診で数値の変化を早期に捉えることが肝心です。
生活習慣を見直しても数値が改善しない場合や、むしろ悪化している場合は、早めに腎臓内科などの専門科へ相談することで治療の選択肢を広げることができます。
主な原因疾患との関連
腎機能障害の背後には、ほかの臓器や全身に関わる原因疾患が隠れているケースが少なくありません。特に糖尿病や高血圧などは腎臓に大きな負荷をかける代表的な病気です。
糖尿病と腎機能低下
糖尿病が長期にわたって続くと血糖値のコントロールが乱れ、全身の血管にダメージが及びます。腎臓の糸球体も高血糖の影響を受け、タンパクが漏れ出すなどの変化が進むことで腎機能障害が進行しやすくなります。
食事療法や薬物療法で血糖値を適正に保つことが大切です。
高血圧と慢性腎臓病
高血圧が持続すると腎臓の血管に強い負荷がかかり、やがて腎機能低下を起こしやすくなります。
逆に、腎機能障害が進むことで血圧がさらに上がりやすくなるという悪循環に陥ることもあるため、早期から血圧のコントロールを意識する必要があります。
主な原因疾患の特徴
原因疾患 | 特徴 |
---|---|
糖尿病 | 高血糖状態が続くことで全身の細小血管がダメージを受ける |
高血圧 | 血管壁に高い圧力がかかり、腎臓などの臓器機能が低下しやすい |
糸球体腎炎 | 免疫の異常や感染が引き金となり腎臓のろ過機能が損なわれる |
自己免疫疾患とのつながり
ループス腎炎のように自己免疫系が過剰反応して腎臓を傷つけることがあります。自己免疫疾患の場合、複数の臓器に影響が及びやすく、腎機能障害だけでなく皮膚や関節、神経系にも症状が見られます。
専門的な検査や投薬調整が必要なことが多いため、早めの診断が重要です。
感染症と腎臓の負担
細菌感染やウイルス感染などが全身に広がった場合、腎臓にも悪影響を与えます。特に急性期には十分な水分補給や薬物治療を行わないと腎機能にダメージが残り、慢性の腎機能障害につながるリスクがあります。
腎機能低下がもたらす合併症
腎機能障害が進むと、全身の他の部位にも影響が及ぶ可能性があります。腎臓は血液やホルモンのバランスに深く関わっているため、生活の質を保つうえで特に気を配る必要があります。
骨や血液への影響
腎臓が正常に働いていると、ビタミンDを活性化して骨の形成をサポートします。しかし腎機能低下が進むと骨がもろくなりやすく、骨折のリスクが上がります。
さらに、腎機能障害によってエリスロポエチンの分泌が減ると貧血を起こしやすくなります。
心臓や血管へのリスク
腎臓と心臓は血圧や血液量を通じて互いに強い影響を及ぼします。腎機能障害がある状態で心不全や動脈硬化が進むと、重篤な状態に陥りやすくなります。
また、血圧の変動が大きくなる傾向があり、心臓や血管への負担が大きくなる点にも注意が必要です。
合併症の例と対策
合併症 | 状態 | 対策 |
---|---|---|
骨ミネラル代謝異常 | 腎機能障害でビタミンDが活性化できず、骨がもろくなる | 適切な栄養と薬物治療 |
貧血 | エリスロポエチン減少により赤血球の産生が低下 | 投薬で赤血球生成を補う |
心不全 | 体液バランスが崩れ、血圧や循環機能に大きな負担がかかる | 血圧管理や利尿薬の使用を検討 |
動脈硬化 | 血液中の老廃物蓄積や高血圧が原因で血管にダメージが蓄積する | 食事制限や運動療法を取り入れる |
生活の質の低下
むくみやだるさ、貧血による疲れなど、慢性的な体調不良が生活の質を下げます。仕事や家事のパフォーマンスが落ち、気力の低下を招くことが多いため、日頃のケアや適度な休養が大切です。
- 日々の体調を客観的にメモする
- 水分や塩分の管理を徹底する
- 体調に合わせた運動を検討する
- 定期的に医療機関で血液や尿の検査を受ける
治療のタイミング
腎機能障害はゆっくりと進む場合が多いため、軽度~中等度であれば薬物療法や食事療法で進行を遅らせることが可能です。しかし、重度の腎機能低下になると、透析や腎移植を含む治療を検討しなければならない段階に移行します。
定期的に専門医と相談しながら治療方針を決めることが重要です。
透析が必要になるケースと治療の流れ
腎機能障害が末期になると、自力で老廃物を十分に排出できなくなります。その段階になると、体内の老廃物や余分な水分を人工的に取り除く手段として透析が役立ちます。
透析には血液透析と腹膜透析があり、それぞれ特徴や生活上の注意点が異なります。
腎機能障害の終末期
腎機能が重度に低下すると、血清クレアチニンやeGFRの値がさらに悪化し、自覚症状として以下のようなものが出ることがあります。
- 尿量が極端に減る
- 全身の倦怠感や吐き気が続く
- 息切れや胸の圧迫感が強くなる
- 足や顔のむくみが顕著になる
こうした症状が見られた場合、透析導入のタイミングを検討する時期に来ている可能性があります。
血液透析と腹膜透析の違い
血液透析は、体外に血液を循環させながら老廃物を専用の装置で取り除く方法です。一方、腹膜透析は、自分の腹膜を利用して透析液と血液中の老廃物を交換します。
それぞれの特徴を知り、医師や看護師と相談しながら自分の生活に合った方法を選ぶと良いでしょう。
透析治療を始める流れ
手順 | 内容 |
---|---|
検査と診断 | 血液検査や超音波検査などで腎臓の状態を正確に評価する |
手術準備 | 血液透析の場合はシャントを作成し、腹膜透析の場合はカテーテルを挿入する |
透析導入 | 透析の頻度や時間を調整しながら徐々に治療に慣らしていく |
定期フォロー | 血液検査や問診で状態を確認し、食事や運動面の指導を継続する |
透析導入前後の生活管理
透析を始める前から、食事制限や水分管理、血圧管理などを徹底する必要があります。透析導入後も同様の注意が求められ、さらに感染予防や透析器具の管理など、生活全般にわたって細かなケアが必要になります。
周囲の支えや適切な知識があることで、透析生活を負担少なく送ることができます。
- 食事指導に基づき塩分やカリウム、リンの摂取を調整
- 適度な運動で筋力を維持し、血液循環を改善
- 透析前後の体重変動を細かくチェック
- 血圧や体温を毎日確認して体調管理に努める
総合病院で受けられるサポート
総合病院では、腎臓内科だけでなく循環器内科や内分泌内科などの専門医と連携しながら治療プランを決められます。
必要に応じて管理栄養士やリハビリスタッフのサポートも受けやすく、患者や家族の負担を軽減しながら透析を継続できる点も大きなメリットです。
よくある質問
腎機能障害や透析に関しては、日常生活での制限や注意点など不安を感じる人が多いです。以下によく尋ねられる疑問をまとめました。
- 食事と水分摂取について
-
腎機能障害がある人は水分の摂りすぎや塩分・タンパク質の過剰摂取を避ける必要があります。医師や管理栄養士の指導を受けながら、血液検査の結果に応じて摂取量を調整すると、腎機能低下の進行リスクを抑えやすくなります。
飲み物の種類や飲むタイミングにも注意してください。
- 運動の可否について
-
軽度~中等度の腎機能障害であれば、ウォーキングや軽い筋トレなどの運動を行うと血液循環の改善や体力維持に役立ちます。
ただし激しい運動は脱水症状や血圧の乱れを引き起こす場合があるため、医師と相談しながら運動強度を決めることが大切です。
- 生活リズムに関して
-
規則正しい生活習慣は腎機能を守るうえで重要です。睡眠不足や夜更かしが続くと血圧コントロールや血糖値の管理が乱れ、腎臓への負担が大きくなることがあります。
適度な運動やバランスの良い食生活、十分な休養が腎機能障害の進行を遅らせるポイントになります。
- 受診の目安
-
次のような症状や変化が続いたら、医療機関で相談することをおすすめします。
- 血圧が高めで安定しない
- 尿検査や血液検査で異常を指摘された
- 足や顔にむくみが出やすくなった
- 全身的な疲れが取れにくくなった
定期的な健康診断の結果と合わせて、少しでも不安を感じる場合は早めに受診するほうが安心です。
以上
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