高齢者高血圧

高齢者高血圧

高齢者高血圧とは、加齢によって血管や心臓に負担がかかりやすい状態で血圧が高くなり、種々の合併症リスクが上昇する病気です。一般的な高血圧よりも脳卒中や心不全など深刻な合併症に結びつきやすいと考えられています。

血管の弾力低下、動脈硬化の進行、腎機能低下など、年齢を重ねるにつれて避けにくい変化が原因となることが多く、日頃の生活習慣を見直す必要があります。

加齢による変化は誰しもが直面しやすいですが、正しい知識を身につけることで適切に対応することができます。ここでは高齢者高血圧に関するさまざまな情報を順にご説明します。

目次

病型

加齢によって動脈が硬くなり、血圧の調節が難しくなると、高齢者特有の高血圧が生じやすくなります。若年者の高血圧とは異なる特徴を持つため、病型を理解することが重要です。ここでは主な病型や特徴をまとめます。

収縮期高血圧と拡張期高血圧

高齢者高血圧の多くは「収縮期高血圧」に分類されることが多いです。収縮期血圧は心臓が収縮して血液を送り出すときに測定する血圧で、年齢を重ねると動脈が硬化しやすくなるため、収縮期血圧の値が高くなります。

一方で拡張期血圧は心臓が拡張しているときに測定する血圧で、加齢とともにそれほど顕著に高くならない場合があります。
収縮期高血圧の主な特徴は以下のとおりです。

  • 脳出血や脳梗塞などのリスクが増す
  • 心肥大や動脈硬化が進行しやすい
  • 心不全のリスクが高まる

白衣高血圧と仮面高血圧

高齢者に限らず、高血圧の判断では診察室だけでなく家庭でも血圧を測定することが大切です。診察室で測定すると高くなりやすい「白衣高血圧」、逆に診察室では正常だが家庭では高くなる「仮面高血圧」という現象があります。

高齢者はストレスや外出時の緊張感から白衣高血圧が顕著になることが多く、正しい病型の把握には家庭血圧の記録が欠かせません。

夜間高血圧と早朝高血圧

夜間睡眠時の血圧が十分に下がらず、朝方に高い血圧が続くのが夜間高血圧や早朝高血圧です。高齢者は睡眠の質が下がりやすく、夜間の交感神経活動が高まりやすいため、夜間や早朝の血圧が高くなりがちです。

このような場合、自己測定による記録だけでなく、医療機関での24時間血圧測定などを用いて詳細を把握することが大切です。

高齢者特有の合併症に伴う高血圧

糖尿病や慢性腎臓病、心不全など、ほかの疾患があると高血圧がさらに悪化することがあります。高齢者では複数の疾患を同時に患いやすいため、合併症に応じた管理が求められます。薬の相互作用も含めて慎重に考える必要があります。

以下の表では、高齢者高血圧の主な病型と特徴をまとめます。

病型主な特徴注意点
収縮期高血圧上の血圧が高めになりやすい心臓や血管への負荷が大きく、脳卒中リスクも高まる
拡張期高血圧下の血圧も高くなることがある高齢者で少ないが、若年者には多くみられる場合もある
白衣高血圧診察室で測定すると高くなる緊張やストレスに左右されやすい
仮面高血圧家庭測定では高いが、診察室では正常実態を見逃しやすく、日常の血圧管理に注意が必要
夜間・早朝高血圧夜間・早朝に血圧が十分に下がらない不眠や睡眠障害があると悪化しやすい
合併症関連の高血圧糖尿病・腎疾患など他疾患に伴う血圧上昇他の疾患の治療とも密接に関係し、薬の相互作用に配慮要

収縮期高血圧の管理を怠ると脳卒中や心不全が進行しやすくなるため、高齢者にとって病型を理解することは大切です。

以下のポイントに気をつけて日常生活を見直すと、高齢者高血圧の病型に合わせた予防やケアがしやすくなります。

  • 家庭血圧をこまめに記録する
  • 夜間や早朝の血圧変動も意識して計測してみる
  • 合併症をチェックしながら医師と相談して治療方針を検討する

病型によって血圧管理のアプローチが変わります。定期的な医療機関受診と日々の血圧測定が予後に大きく影響します。

高齢者高血圧の症状

高齢者高血圧は初期段階では無症状のことが多く、異変を感じたときにはすでに合併症が進行している場合があります。一方で軽度のめまいや動悸、肩こりなどを感じるケースも存在します。

血管や心臓だけでなく、脳や腎臓への影響も大きいため、気づきにくい症状でも油断は禁物です。

自覚症状の乏しさ

高齢者高血圧の厄介な点は、自覚症状がはっきりしないことです。若い頃から血圧が高かった人は慣れてしまい、異常を感じにくい傾向があります。

やや頭痛が多い、朝起きたときに少し身体が重いなどの微妙なサインを見逃さないことが重要です。

めまいや動悸、息切れ

血圧が上昇すると心拍出量の変動や脳の血流変化により、めまいや動悸を感じることがあります。心臓への負担が大きい場合は軽い運動でも息切れしやすくなります。

高齢になると運動習慣が減りやすいため、動悸や息切れは気づきにくい症状のひとつです。

頭痛と肩こり

長時間、高血圧状態が続くと血管が収縮しやすくなり、首から肩にかけて血流が滞りがちです。その結果、肩こりや後頭部の頭痛が慢性化することがあります。

ただし、頭痛や肩こりには他の要因もあるため、高血圧との関連を考えるときは血圧測定が欠かせません。

そのほかのサイン

倦怠感や頻尿、視界のチラつきなども高血圧が原因のひとつである可能性があります。特に腎機能が低下している人は、血圧がさらに上がりやすくなるため注意が必要です。

以下の表は、高齢者高血圧で見られやすい症状と、その背景をまとめたものです。

症状背景・原因備考
めまい脳血流の不安定化過度なストレスや睡眠不足で悪化しやすい
動悸心拍出量の変化運動の不足や肥満があると起こりやすい
息切れ心臓のポンプ機能に負担がかかる貧血や心臓病との見分けも大切
頭痛・肩こり血管収縮や血流停滞長期化すると頸部や肩甲骨まわりが慢性的にこりやすい
倦怠感血圧上昇に伴う全身疲労加齢による体力低下や睡眠の質悪化と重なりやすい
視界異常眼底血管のダメージ網膜症のリスクがあり、定期的な眼科検査が重要

軽い症状でも放置すると合併症につながるリスクが高まります。少しでも体調変化を感じたら血圧を測定し、必要があれば医療機関を受診すると安心です。

高齢者高血圧の症状を早期に捉えるには、次のようなポイントを意識するとよいでしょう。

  • 朝晩の血圧をチェックして変化を記録する
  • いつもと違う体調不良を感じたら早めに血圧を測る
  • 日頃から軽い運動やストレッチを行い、身体のこりやすさを把握する

症状が軽微であっても放置しないことが、合併症の予防につながります。

高齢者高血圧の原因

高齢者の血圧上昇は、加齢に伴う血管の変化や多くの生活習慣因子が組み合わさって起こります。原因を見直すことで、より効果的な予防と治療の選択が可能になります。

加齢による血管の弾力低下

大きな原因として血管の弾力が失われることが挙げられます。動脈硬化が進むと血管壁が厚く硬くなり、血液が流れる際の抵抗が増します。その結果、血圧が上昇しやすくなります。特に収縮期血圧が高くなりやすい傾向があります。

塩分過多や栄養バランスの乱れ

塩分(ナトリウム)を過剰に摂取すると血液中のナトリウム濃度が上昇し、血管内に水分が引き込まれて血圧が上がります。さらに高齢になると腎機能が低下しやすいため、余分な塩分を排出しにくくなります。

肥満や蛋白質不足、ミネラルの摂りすぎなどの栄養バランスの乱れも血圧に影響を及ぼすことがあります。

運動不足と生活リズムの乱れ

高齢になると活動量が減るため、基礎代謝が下がり体重増加を招きやすくなります。また睡眠不足や昼夜逆転などの生活リズムの乱れも、自律神経の働きを乱して血圧を上げる要因となります。

以下のリストは、高齢者に多い運動不足と生活リズムの乱れが血圧に与える影響の一例です。

  • 筋力低下による血流の悪化
  • 体重増加にともなう心拍出量の増加
  • ストレス増加による交感神経の亢進
  • 就寝時間の不安定化によるホルモンバランスの変調

運動不足を解消し、適度な活動量を確保することは、血圧管理において重要です。

ストレスと喫煙・飲酒

強いストレスは交感神経を緊張させて血管を収縮させ、血圧を上げます。喫煙ではニコチンが血管収縮を引き起こし、飲酒の過多は心拍数増加や血管へのダメージを増大させるので、いずれも血圧をさらに引き上げる可能性があります。

過度な喫煙や飲酒習慣は、生活習慣病を複合的に悪化させるリスクを高めます。

遺伝的要因と既存の疾患

遺伝的に高血圧を発症しやすい体質を持つ方は、高齢期になるとさらに血圧が上がりやすくなります。また糖尿病や脂質異常症、腎疾患などが既にある場合、高血圧と相互に悪影響を与え合い、重症化リスクが増します。

以下の表は、高齢者高血圧においてよく見られる原因を大まかに整理したものです。

原因詳細対策の例
血管の弾力低下動脈硬化の進行有酸素運動を日課にし、バランスのよい食事を心がける
塩分過多外食や加工食品、漬物の多用だしや香辛料を活用し、薄味に慣れる
運動不足筋力低下・体脂肪増加ウォーキングや軽い筋トレを継続する
ストレス過多交感神経の過度な亢進趣味やリラクゼーションで気分転換を図る
遺伝的要因家族に高血圧が多い家庭血圧の管理や早期受診を徹底する
既存疾患糖尿病・脂質異常症・腎疾患など原因疾患のコントロールを優先し、合併症を防ぐ

原因を明確にしておくと、生活習慣の改善や薬物療法を行う際の方向性がわかりやすくなります。加齢は誰にも止められませんが、生活の中で調整できる要因を上手にコントロールすることで血圧を適正に保つことが期待できます。

検査・チェック方法

高齢者高血圧を正しく把握するには、日々の血圧測定だけでなく、医療機関での詳細な検査も必要です。血圧の測定タイミングや手順を守ることで、より正確な数値が得られます。

家庭血圧測定の重要性

高齢者は通院のたびに血圧を測るだけではなく、家庭での血圧測定も欠かせません。家ではリラックスして測定できるため、より普段に近い血圧を確認できます。朝起きてすぐと就寝前の、1日2回以上の測定が推奨されます。
家庭血圧を測定する際の主なポイントは以下のとおりです。

  • 同じ時間帯、同じ腕で測定する
  • できるだけトイレを済ませ、安静にしてから測定する
  • 上腕式の血圧計を使用し、姿勢を整えてから測定する

診察室血圧との比較

診察室血圧はどうしても緊張などの影響を受けやすいです。家庭血圧との誤差を確認し、医師と相談して総合的に判断することが大切です。

診察室血圧だけが高い「白衣高血圧」や、診察室では正常だが家では高い「仮面高血圧」の可能性を見逃さないよう、家庭血圧のデータをきちんと記録しておくと有益です。

24時間血圧モニタリング

夜間や早朝に血圧が高くなる人は、24時間血圧モニタリングが有用です。小型の血圧計を24時間装着して日常生活を送りながら随時記録することで、昼夜の血圧変動を客観的に把握できます。

高齢者では日内変動が大きいことも多いので、これにより適切な治療方針を立てられる可能性が高まります。

以下の表は、24時間血圧モニタリングによって分かる主な情報とメリットを示したものです。

分かる情報メリット用途
日中の活動時の血圧変動外出・仕事など通常生活での血圧把握に役立つ白衣高血圧か実際の高血圧かを判別
夜間・睡眠中の血圧水準夜間高血圧や早朝高血圧の確認ができる就寝時の降圧効果を評価
早朝の急激な血圧上昇パターン脳卒中や心筋梗塞などのリスク評価に有効治療の時間帯や薬剤の調整に応用
平均血圧レベル全体的な血圧負荷の度合いが把握できる長期の合併症リスクを推定

血液検査や尿検査

血圧の評価だけでなく、合併症の有無を確認するために血液検査や尿検査も大切です。腎機能や脂質異常の有無、糖尿病の指標などを調べ、高齢者の場合は総合的に評価します。

特に腎機能が低下すると、高血圧が重症化しやすいため注意が必要です。

検査・チェックに際しては以下のような点に注意するとよいでしょう。

  • 健診や人間ドックだけでなく、定期的な血液・尿検査を受ける
  • 家庭血圧の測定結果を医師に伝え、必要に応じて追加検査を検討する
  • 既存の持病や服薬状況と関連づけて検査結果を評価する

高齢者は複数の疾患を抱えることが珍しくないため、包括的な検査が血圧管理に影響を与えます。

高齢者高血圧の治療方法と治療薬について

高齢者高血圧の治療は、生活習慣の改善と薬物療法の組み合わせが基本です。加齢による身体的な特徴を考慮しながら、目標血圧をどの程度に設定するかを医師と相談して決定します。

生活習慣の改善

高齢者でも無理なく継続できる方法を見つけることが大切です。食生活や塩分制限、適度な運動習慣の確立、禁煙・節酒、ストレスマネジメントなどが主な取り組みになります。

具体的には、以下のような取り組みが効果的です。

  • 野菜中心の食事に加え、豆類・魚介類を積極的に摂取する
  • 塩分摂取量を1日6g未満を目安に抑える
  • ウォーキングや体操を毎日続ける
  • 趣味や仲間との交流でストレス解消を図る

降圧薬の選択

高齢者では、併存疾患が多いケースが珍しくありません。そのため、個々の病状に合わせて降圧薬を選びます。代表的な薬の種類には次のようなものがあります。

薬の種類代表例主な作用注意点
利尿薬サイアザイド系利尿薬など体内の余分な水分やナトリウムを排出脱水や電解質異常に注意
β遮断薬ビソプロロールなど心拍数や心収縮力を抑えて血圧を下げる気管支喘息や心不全との併用に留意
Ca拮抗薬アムロジピンなど血管の収縮を抑えて血圧を下げる低血圧やむくみに注意
ACE阻害薬エナラプリルなどアンジオテンシン変換酵素を阻害空咳や高カリウム血症に注意
ARBロサルタンなどアンジオテンシンⅡ受容体をブロック妊娠中には禁忌

高齢者では腎機能や肝機能の低下に加えて、ほかの薬を多く服用している場合があるため、薬同士の相互作用を考慮します。一度に降圧効果を強く狙うのではなく、ゆっくりと目標血圧を目指すことが多いです。

薬物療法の進め方

医師は患者の症状や基礎疾患の有無、血圧の変動状況に合わせて薬物療法を行います。降圧薬を開始する場合は、低用量から始め、徐々に調整していくことが一般的です。また、複数の薬を組み合わせる「併用療法」をとる場合もあります。

以下の表は、降圧薬の併用療法の一例です。

併用療法の組み合わせメリットデメリット
利尿薬+ARB降圧効果を高めつつ、カリウム保持にも配慮可能電解質異常や腎機能の変動が起こる可能性あり
Ca拮抗薬+ACE阻害薬血管拡張とRAA系ブロックの相乗効果重複して作用すると極端な低血圧が起こる恐れ
β遮断薬+利尿薬心拍数抑制と余分な水分排出で血圧を安定化めまい・脱力感などが出る場合がある
ARB+Ca拮抗薬心血管イベントの予防効果が期待できる組み合わせむくみや咳など、副作用が増える可能性あり

血圧目標の設定

高齢者の場合、一律に「上の血圧○○mmHg以下」とは定めにくいです。併存疾患の有無や体力、認知機能などを考慮して医師が総合的に判断します。

過度に血圧を下げると転倒などのリスクが高まる場合もあるため、安心・安全なレベルで調整することが重要です。

治療期間

高齢者高血圧の治療は基本的に長期にわたり、場合によっては一生継続することがあります。生活習慣の改善や薬剤の効果を実感するまでに時間がかかる場合もあり、短期間で完了することは少ないです。

長期管理の重要性

加齢による血管の劣化は進行形であり、高血圧を完全に「治す」というよりは「コントロールする」考え方が大切です。定期的に医療機関を受診して血圧を測定し、薬の効果や副作用をチェックしながら治療を続ける必要があります。

体調や合併症の状態に応じて治療計画を適宜修正することで、より安定した血圧管理が期待できます。

以下のリストは、長期管理で心がけたいポイントです。

  • 定期受診と自宅での血圧測定を両立する
  • 生活習慣の改善(食事・運動・睡眠など)を継続する
  • 急な血圧変動が生じたら早めに医師に相談する
  • 体調不良や副作用の可能性を感じたら自己判断せず受診する

治療効果の評価

治療期間中は、血圧値が安定しているかどうかだけでなく、生活の質や合併症の進行具合にも注意を払います。医師は定期的に血液検査や尿検査、心電図検査などを行い、腎機能や心機能の状態を評価します。
以下の表は、治療効果の評価に使用される指標の例です。

評価指標内容目的
血圧値上(収縮期)と下(拡張期)の平均値や変動幅治療が有効かどうか、さらなる調整が必要かを検討するため
腎機能(eGFRなど)血清クレアチニン値や推定GFRを測定降圧薬の副作用や腎障害の進行を把握するため
心電図検査不整脈や心肥大の有無を確認心臓への負担を早期に見つけるため
眼底検査眼底血管の状態や網膜病変の有無高血圧性網膜症や動脈硬化の進行度を評価するため

途中で薬をやめないことの大切さ

「血圧が下がった」と感じると自己判断で薬をやめる方が少なくありません。薬を突然やめるとリバウンドで急激に血圧が上昇するリスクがあります。

高齢者では脳卒中や心不全など、重大な合併症を引き起こす可能性が高まるため、主治医の指示なしに中断しないことが大切です。

生活環境の変化や体調変化への対応

季節の変化や転居、同居人の変化など生活環境の変化が起こると、血圧に影響が及ぶケースもあります。また、加齢に伴う体調変化で血圧値が大きく揺れ動くこともあります。

その都度医療機関を受診し、治療方針を見直す姿勢が高齢者高血圧の管理には求められます。

高齢者高血圧薬の副作用や治療のデメリットについて

薬物療法を行ううえで、副作用のリスクやデメリットを把握しておくと安心して治療を続けやすくなります。高齢者は複数の薬を併用することが多いため、特に相互作用に注意が必要です。

代表的な副作用

高齢者高血圧の治療薬には以下のような副作用が見られることがあります。

  • 利尿薬:脱水や低カリウム血症、尿酸値の上昇
  • β遮断薬:脈拍が遅くなる、めまい、倦怠感
  • Ca拮抗薬:ふくらはぎのむくみ、顔面紅潮、動悸
  • ACE阻害薬:空咳、高カリウム血症
  • ARB:めまい、疲労感、高カリウム血症

いずれの薬も用量や個人差によって副作用の出方が変わります。主治医は副作用を最小限に抑えながら血圧を管理できるように、薬の種類や量を調整します。

降圧しすぎのリスク

高齢者で極端に血圧を下げると、立ちくらみや転倒リスクが高くなることがあります。また、脳や腎臓への血流が不足して機能が低下するケースも考えられます。そのため治療では、安全圏の血圧値をどこに設定するかが重要です。

薬剤相互作用

高齢者は降圧薬以外にも、血糖降下薬や脂質異常症薬、睡眠薬、整形外科系の痛み止めなど多種類の薬を服用していることが多いです。薬剤同士が相互作用を起こして副作用が増幅する危険性も否定できません。

以下の表は、一部の薬剤相互作用の例を挙げたものです。

相互作用する薬剤の組み合わせ起こりうる影響対策
利尿薬+NSAIDs利尿効果の減弱、腎機能の悪化NSAIDsの使用頻度・量を必要最小限にする
β遮断薬+気管支拡張薬気管支拡張薬の効果が減る可能性がある必要に応じて別の降圧薬へ切り替えを検討
Ca拮抗薬+グレープフルーツジュースCa拮抗薬の血中濃度が高くなるグレープフルーツの摂取を控える
ACE阻害薬+ARBレニン-アンジオテンシン系の過度抑制慎重に併用し、腎機能やカリウム値をチェック

メリットとデメリットのバランス

血圧をコントロールすることのメリットは脳卒中や心不全、腎障害など多くの合併症リスクを下げる点にあります。一方で、副作用によるQOL(生活の質)の低下や医療費負担の増加というデメリットも考慮が必要です。

主治医とよく相談しながら、最適な治療バランスを探ることが重要です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

高齢者高血圧は生活習慣病の一種として、医療保険の対象になります。多くの場合は健康保険が適用されるため、一定の負担割合で治療費を支払うことになります。

検査や治療を続ける場合の費用

血圧管理は長期的になるため、月ごとの診察費や検査費、薬剤費が累積します。高額療養費制度を利用すると、一定額を超えた医療費の自己負担が軽減される場合もあるので、健康保険組合や市区町村の窓口で確認すると安心です。

以下の表は、高齢者が利用しやすい医療費負担軽減制度の例を示します。

制度名対象者内容
後期高齢者医療制度75歳以上、または一定の障害がある65歳以上保険料と自己負担割合(1割~3割)
高額療養費制度所得区分ごとに決まる自己負担が高額になった場合、超過分を払い戻し
介護保険制度要介護認定を受けた人リハビリや訪問看護など、一部介護サービスを低負担で利用可能

ジェネリック医薬品の活用

薬剤費を抑える方法として、ジェネリック医薬品を活用する選択肢があります。先発薬と同一の有効成分を含む薬ですが、価格が比較的安価です。ただし、効果や副作用には個人差があるので、主治医と相談のうえで切り替えを検討します。

経済面のサポート

経済的な理由で治療が途切れると、高血圧が悪化して医療費がかえって増えるケースがあります。地域の福祉サービスや助成制度を活用すると安心です。相談が必要な場合は、かかりつけ医や市区町村の相談窓口に問い合わせてみることが大切です。

以上、高齢者高血圧にまつわる保険適用と治療費の概略をご説明しました。費用面に不安がある場合は、主治医や地域の保健センター、介護支援専門員などに早めに相談すると適切な案内を受けられます。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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