色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum)とは、紫外線を浴びることによる皮膚症状や発がんリスクが高まる先天的な遺伝性疾患を指し、皮膚の色素沈着や紫外線に対する過敏性などが大きな特徴です。
DNAの修復機構に問題があるため、紫外線の影響を受けやすく、皮膚が乾燥しやすいだけではなく、メラニンの沈着や皮膚がんの発症を引き起こしやすいというリスクがあります。
幼少期からわずかな日差しでも炎症やシミが生じることがあり、成長とともに症状が重くなるケースもあり、医療機関での診断や治療には、専門医による定期的なスクリーニングや、皮膚を保護するための対策が重要です。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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病型
色素性乾皮症は、紫外線によるDNA損傷を修復する酵素に異常が生じることで発症し、皮膚や目、神経系など広範囲に影響が及ぶ疾患です。
遺伝子的な分類について
色素性乾皮症は複数の補因子や酵素群に関わる遺伝子変異が原因になり、いくつかの補修経路の異常パターンによって分類が試みられてきました。
A群からG群までの細かい分類や、バリアント型の存在など、遺伝子的な基盤が多様です。
主な群 | 関連する遺伝子 | 特徴 |
---|---|---|
A群 | XPA遺伝子 | 最も重篤な症状を示すケースが多い |
B群 | XPB遺伝子 | DNAヘリカーゼの異常 |
C群 | XPC遺伝子 | 細胞の生存率や皮膚がんリスクに影響 |
D群 | XPD遺伝子 | 一部の症例で神経症状を合併 |
E群 | XPE遺伝子 | 症状は比較的軽度な場合もある |
F群 | XPF遺伝子 | DNA切断に関わる酵素の働きが阻害 |
G群 | XPG遺伝子 | DNA修復タンパク質の機能低下 |
バリアント型 | ポリメラーゼηに関連した変異 | 日常生活でのUV感受性や発がんリスクの多様性 |
重症度の違い
遺伝子型によって重症度や症状の現れ方が異なるため、同じ色素性乾皮症であっても早期から顕著な皮膚障害を示す方と、比較的症状が緩やかに進行する方に分かれ、神経症状の有無も重症度を左右します。
神経症状の有無による分類
神経症状がみられるタイプでは、知的能力の発達遅延や運動機能の低下、聴力や嗅覚の異常などが随伴するケースがあります。
以下のような症状を伴う場合は、皮膚科だけではなく神経内科やリハビリテーション科など多角的なフォローが大切です。
群名 | 主な神経症状例 | フォローの必要性 |
---|---|---|
A群 | 小脳失調、精神発達の遅れなど | 定期的な神経内科の診察が望ましい |
D群 | 聴覚障害、筋力低下など | 早期の療育やリハビリが必要な場合あり |
予後や合併症との関連
遺伝子型や症状の表現型によっては、皮膚がん以外にも角膜障害や白内障、神経変性、聴覚障害などの多彩な合併症を引き起こす可能性があるので、適切な病型の判別を行い、症状の経過に合わせた対応を計画することが重要です。
色素性乾皮症の症状
色素性乾皮症は紫外線感受性が高まるため、皮膚や目、神経系に多様な症状が現れます。
皮膚における症状
皮膚症状が最も特徴的で、幼少期から紫外線を浴びた部分に激しい日焼けやシミ、そばかす、色素沈着などが現れることが多いです。
わずかな日光暴露でも赤みや水疱が形成され、回復後に色素沈着や萎縮性の変化が生じる場合があります。
典型的な皮膚症状
- 日焼け後の強い赤みとヒリヒリ感
- シミやそばかすの増加
- 皮膚が乾燥し、かさつきが強くなる
- 創傷治癒が遅れやすい
症状 | 進行パターン |
---|---|
そばかす様の色素沈着 | 幼少期から複数箇所に急速に出現し色が濃くなる |
光線過敏による紅斑や水疱 | 日光に当たると短時間で水疱やただれが生じる |
萎縮性変化・乾燥 | 長期間紫外線暴露が続くと皮膚が硬く薄くなる |
皮膚がん(基底細胞がんなど) | 思春期以降にリスクが急増しやすい |
眼における症状
紫外線に対する修復機構の脆弱性は、角膜や結膜といった眼球の表面にも影響し、角膜混濁や潰瘍、瞼の皮膚がんなどが挙げられ、痛みや視力の低下を伴うことがあります。
- 結膜炎や角膜炎が起こりやすい
- 角膜の混濁により視力低下
- 光に対する強いまぶしさ(羞明)
- 眼瞼の皮膚に腫瘍が発生
神経系の症状
病型や遺伝子異常のタイプによっては、中枢神経系や末梢神経系に障害をきたし、運動機能や知的機能に影響が及ぶ場合があります。
初期には軽度の発達の遅れや歩行困難などがみられ、進行すると重い運動機能障害やけいれん、聴力障害を併発することがあります。
よくみられる神経症状
- 運動失調(バランスや歩行が不安定)
- 聴力低下や難聴
- 意識レベルの低下、けいれん発作
- 知的発達の遅れ
進行パターンと時期
色素性乾皮症の症状は、乳幼児期に紫外線を浴び始めると同時に早期に出現するケースが多く、皮膚症状が先行し、その後眼や神経系の症状が加わってくることが一般的です。
合併症のリスクが年齢とともに高まるため、若いほど早期に診断と対策を進めることが望まれます。
色素性乾皮症の原因
色素性乾皮症の根本的な原因は、紫外線によって生じるDNA損傷を修復する仕組みに異常が起こるためです。
DNA修復機構の異常
ヒトの体内には、紫外線が引き起こすピリミジン二量体などのDNA損傷を修復する多段階の仕組み(ヌクレオチド除去修復など)があります。
色素性乾皮症では、この修復過程のいずれかに関わる酵素がうまく働かなくなり、損傷が蓄積することで細胞死やがん化を誘導しやすくなります。
DNA損傷と修復の過程
過程 | 内容 |
---|---|
損傷認識 | ピリミジン二量体などの異常塩基をセンサー分子が検出 |
エクシジョン(切除) | 変異した部分を特異的なエンドヌクレアーゼが切り取る |
修復合成 | DNAポリメラーゼが切除箇所を正常塩基配列で埋める |
リガーゼによる結合 | 最終的にDNA鎖が結合され、正しい配列が復元される |
遺伝子変異の形式
通常、DNA修復に関わる遺伝子(XPA~XPGなど)に、両親から受け継がれた劣性遺伝的変異がある場合に発症することが多く、常染色体劣性遺伝の形式をとります。
そのため、両親が保因者であるにもかかわらず自覚症状がないことがあります。
環境因子との関連
根本原因は遺伝子変異ですが、紫外線にさらされる環境因子が発症や症状の進行に大きく影響し、強い日差しの下で生活を続けると、損傷がさらに蓄積しやすくなり、皮膚症状やがんリスクが高まります。
屋外活動や日光曝露を減らすことが重要です。
予防的観点
既に遺伝子変異を保有している場合、紫外線を完全に避けることは難しいものの、適切な日焼け止めや保護服の着用、屋外活動の時間帯の工夫などによって、大幅に症状悪化のリスクを下げられます。
このような予防策がないと、過度な紫外線曝露が細胞レベルの損傷を加速させるので注意が必要です。
検査・チェック方法
色素性乾皮症の疑いがある場合、医療機関での早期診断がカギとなります。
臨床所見の確認
紫外線暴露後の強い反応(皮膚炎や水疱など)や多数のシミ・そばかすが幼少期から現れているかどうかは、診断の重要なヒントになり、また、家族歴や日常生活での紫外線曝露状況を医師がヒアリングすることで、ある程度の推定が可能です。
医師による問診でチェックされる項目
- 日焼けした後の反応(赤みや水疱、痛みなど)の程度
- 幼少期からの皮膚の状態(シミ、そばかすの分布)
- 家族に似た症状の方がいるか
- 目のトラブル(角膜炎、羞明)や神経症状の有無
遺伝子検査
疑いが強い場合は、血液を採取して遺伝子変異を特定する検査が行われ、特にXPの原因となる遺伝子群(XPA~XPGなど)に変異があるかを解析し、病型や予後に関する情報が得られることがあります。
遺伝子検査
検査内容 | 意義 |
---|---|
DNAシークエンシング | 各遺伝子配列の変異部位を直接読み取る |
PCR法 | 変異の有無を特定の領域でスクリーニングする |
細胞レベルの修復能評価
遺伝子検査だけでなく、患者の細胞を培養して実際に紫外線を照射し、その後の生存率やDNA損傷修復能を評価する方法もあり、研究的な手法として行われることも多いですが、診断を補強する参考データになる場合があります。
皮膚・眼科・神経科など多角的アプローチ
色素性乾皮症は多臓器にわたるため、皮膚科専門医に加え、場合によっては眼科や神経内科など各専門医の協力のもと、総合的な診断が行われ、視力障害や神経症状が疑われる場合は、連携した検査が重要です。
色素性乾皮症の治療方法と治療薬について
色素性乾皮症の治療は、根本的な遺伝子異常を修復する手段が確立されていないこともあり、主に症状の進行を防ぎ、皮膚や目の状態を保護することを目的とします。
皮膚保護と外用薬
紫外線に対する最大限の保護は、病状悪化を防ぐうえで最も基本的な治療です。高いSPF・PA値をもつ日焼け止めのこまめな塗布や、帽子、長袖、サングラスなどを使った徹底した光対策が欠かせません。
さらに、皮膚の乾燥や炎症を抑える外用薬(保湿剤、ステロイド外用など)が処方されることがあります。
主な皮膚ケア製品
種類 | 目的 | 製品例 |
---|---|---|
日焼け止め | UV-B・UV-Aを遮断し光傷害を軽減 | SPF50+、PA++++の製品 |
保湿剤 | 乾燥や角化を抑え、皮膚バリア維持 | ヒルドイドクリームなど |
ステロイド外用薬 | 急性の炎症を和らげる | 中程度~弱めランクを状況に応じて |
内服薬やビタミン剤
色素性乾皮症そのものを根本的に治す内服薬は現時点ではありませんが、皮膚状態や免疫機能の調節を目的としてビタミンDやE、抗酸化物質などが補助的に処方される場合があります。
遺伝子修復を補う薬の研究も行われていますが、臨床応用には至っていません。
皮膚がんへの外科的対処
皮膚に悪性腫瘍(基底細胞がんや扁平上皮がんなど)が発生した場合は、外科的に切除することが基本治療となります。
早期に発見できれば小規模な切除で済む場合もあるため、こまめに皮膚をチェックし、異常を感じたら医療機関へ相談してください。
皮膚がん切除の術式
術式 | 特徴 |
---|---|
外科的切除 | 病巣周囲を十分なマージンを取って切除 |
モーズ手術 | 病巣周辺組織を逐次切除し、必要最小限に留める |
レーザー・冷凍凝固など | 一部の早期病変や小病巣に対応 |
眼科・神経症状への治療
角膜炎や結膜炎などの眼症状に対しては、専用の保湿点眼薬やステロイド点眼、特定の外科的処置が行われることもあります。
神経症状がある場合は、リハビリテーションや対症療法(けいれんに対する抗てんかん薬など)を適宜使用します。
色素性乾皮症の治療期間
色素性乾皮症は遺伝子の修復異常に起因し、慢性的な経過をたどるため、一般的に生涯にわたってケアやフォローアップが必要となるケースが多いです。
早期からのケアが重要
病気の特性上、幼少期から日焼け止めや衣類などで紫外線をシャットアウトし、皮膚障害やがんリスクを最小限に抑える対策を取らなければなりません。保護が不十分だと、思春期以降に皮膚がんを高頻度で発症する可能性があります。
継続ケアのポイント
- 日焼け止めの定期塗布を1年中意識する
- 長袖や帽子、サングラスなどでUV防御を徹底
- 学校や職場などで日光を避ける工夫をする
- 定期的に皮膚科を受診し、皮膚がんや前がん病変を早期発見
定期的な通院スケジュール
色素性乾皮症では、年に数回のペースで皮膚科の診察を受け、小さな病変や異常を見逃さないようにすることが推奨され、眼科や神経内科についても、症状の有無や進行度に応じて受診回数を調整します。
診察の大まかな頻度
診療科 | 受診頻度 | 主な目的 |
---|---|---|
皮膚科 | 2~3か月ごと | 皮膚病変の早期発見、切除時期確認 |
眼科 | 半年~1年ごと | 角膜・結膜の状態チェック |
神経内科 | 症状に応じて適宜 | 発達や運動機能の評価、指導 |
外科的処置後の経過観察
皮膚がんの切除を行った場合、再発リスクの管理や新たな腫瘍が出ていないかを確認するために、しばらく短いスパンで経過を観察し、創部のケアや術後の痛みへの対処など、きめ細かなフォローアップが必要です。
生涯管理の視点
この病気は根本治療が確立されておらず、遺伝子レベルでの治療が実用化されない限り、基本的に生涯にわたって紫外線対策と定期的検査を続けることになります。
個々の症状や生活環境に合わせて、医療スタッフや家族が協力してサポートする体制を築くことが大切です。
色素性乾皮症薬の副作用や治療のデメリットについて
色素性乾皮症の治療では、症状を抑えたり皮膚を保護したりするために多様な薬や外科的処置、そして生活上の制限が加わります。
日焼け止めなどの外用剤による肌負担
SPFやPA値が高い日焼け止めは紫外線をブロックする反面、肌にとっては刺激やかゆみを引き起こす成分が含まれる場合もあります。
長期的に塗り続けると接触皮膚炎を起こすリスクがあり、敏感肌の方は低刺激タイプや処方日焼け止めの使用を検討することが必要です。
眼科的処置のリスク
紫外線で傷ついた角膜や結膜を治療する点眼薬や、手術的処置による合併症として、感染や視力の低下などが起こる場合があり、定期的なチェックと早期の対応で予後を大きく改善できるため、眼に異常を感じた際は早めの受診が大切です。
眼に関する主な合併症と対処法
合併症 | 対処法 | 予防 |
---|---|---|
角膜潰瘍 | 早期に抗生剤点眼・保湿を徹底 | 紫外線回避と保護メガネ着用 |
視力低下 | 炎症や白内障など原因を特定し治療 | 定期検診で初期段階を確認 |
神経症状への治療の難しさ
神経症状がある場合、日常生活のサポートやリハビリが必要となりますが、根本的に神経変性を食い止める薬は確立されていません。
そのため、患者さんや家族には長期的なケアの負担がのしかかる可能性が高く、医療・福祉・教育が一体となった支援体制が大切です。
色素性乾皮症の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
治療費の目安
項目 | 保険適用後の自己負担目安(円) |
---|---|
皮膚科受診(処方含む) | 1,000~3,000程度/回 |
眼科受診(点眼薬含む) | 1,000~3,000程度/回 |
皮膚がん切除(小規模病変) | 10,000~20,000程度 |
遺伝子検査 | 数万円程度(施設により異なる) |
外用薬や日焼け止めのコスト
市販の日焼け止めでも優れた製品が多く出ていますが、肌に合わない場合やより高いUVブロック力が必要な場合、皮膚科での処方日焼け止めを使う方もいます。
これらのコストは基本的に保険適用外となる製品が多いため、毎月2,000~5,000円程度かかることが一般的です。
以上
参考文献
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