リンパ浮腫とは、リンパ管の流れが停滞し、リンパ液が体内の一部にたまってしまう状態です。特に下肢や上肢がむくみやすいことで知られ、循環器系のトラブルと密接な関係があります。
リンパ循環の滞りが進むと、むくみだけでなく皮膚の変化や感染リスクの増加などの問題につながることがあります。
リンパ浮腫の種類や原因、治療の選択肢などを知っておくと、症状が出たときに早めに対処するきっかけになります。
この記事では病型や症状、検査方法、治療内容に加え、保険適用や治療費の目安など、受診を検討する上で考慮しておきたい情報を幅広く解説します。
病型
リンパ浮腫には大きく分けていくつかの病型があります。リンパ管の発育異常によるタイプや、手術や外傷が原因でリンパの流れが変化するタイプなど、原因や発症時期によって特徴が異なります。
以下では、代表的な病型に関する特徴や発生要因に触れ、それぞれに適した管理やケアの方向性について考察します。
先天性リンパ浮腫
先天性リンパ浮腫は、リンパ管やリンパ節の形成が生まれつき不十分なために生じる病型です。発達段階でリンパ管の数が少なかったり、リンパ節の構造が機能的に未成熟だったりすることでむくみが生じやすくなります。
- 母体の胎生期におけるリンパ管発生の異常
- 生後まもなくむくみが顕在化する場合が多い
- まれに思春期以降に発症することもある
先天性リンパ浮腫は気づきにくい場合があり、適切なタイミングで専門医の診察を受けるかどうかが、症状の進行をおさえるうえで大切です。
二次性リンパ浮腫(手術や外傷によるもの)
二次性リンパ浮腫とは、何らかの外的要因によってリンパ管が損傷し、リンパの流れが阻害されて発生するタイプです。たとえば、がん手術に伴うリンパ節切除や放射線治療によるリンパ管のダメージが挙げられます。
また、外傷によるリンパ管損傷も原因の一つです。
以下のような場合に起こることが多いです。
- がん手術でリンパ節を切除した後
- 放射線治療でリンパ管がダメージを受けた後
- 大きな傷や事故によるリンパ管の物理的な損傷
- 感染症がもとでリンパ節に障害が及んだ場合
リンパ節を切除した部位の周囲はリンパ液の排出経路が制限され、日常生活の中でむくみを自覚することがあります。
特定感染症によるリンパ浮腫
フィラリア症など、特定の寄生虫や細菌感染によるリンパ節・リンパ管の炎症がきっかけでリンパ浮腫を起こすことがあります。世界的には熱帯地域などで多くみられ、国内ではまれではありますが、海外滞在歴のある方は注意が必要です。
下記のような特徴があります。
- 特定の寄生虫がリンパ管に寄生して炎症や詰まりを引き起こす
- 血液検査や寄生虫の検出によって診断できる
- 感染を治療してもリンパ管のダメージが残ると、後遺症として浮腫が長期化する場合がある
両側性と片側性の違い
リンパ浮腫は両側性(両足または両腕)と片側性(片足または片腕)の場合があります。先天性リンパ浮腫は両側性に現れるケースも少なくありません。
一方、二次性リンパ浮腫はがん手術など特定の部位への処置が関わるため、片側性になることが多いです。
次の表ではリンパ浮腫の病型と特徴の概要をまとめます。
病型 | 特徴 | 代表的な要因 |
---|---|---|
先天性リンパ浮腫 | 生来のリンパ管やリンパ節の形成不全 | 遺伝的要因、発生異常など |
二次性リンパ浮腫 | 手術・外傷・放射線治療などによるリンパ損傷 | がん手術、外傷、感染症など |
感染症起因 | 寄生虫や細菌感染によりリンパ管が炎症 | フィラリア症や細菌感染 |
両側性・片側性 | 両脚/両腕または片側のみでむくみが進行 | 原因に応じて両側・片側が異なる |
二次性リンパ浮腫は予防の観点が重要で、先天性の場合も早い段階での管理が必要です。特に循環器系の負担を軽減するためにも、気になる症状があれば専門家の診察を検討しましょう。
- 遺伝性の可能性がある場合は親族の既往歴をチェック
- 手術や放射線治療の経験がある方はリンパ浮腫の兆候に注意
- 両足のむくみや片足だけのむくみなど部位特性を考える
リンパ浮腫の症状
リンパ浮腫の症状は「むくみ」の一言で片付けられがちですが、その進行度や症状の現れ方には段階があります。初期段階で適切なケアをすると合併症のリスクを減らせるため、症状の変化をよく見極めることが大切です。
初期症状と軽度のむくみ
リンパ浮腫の初期には、夕方になると手足が重たく感じたり、靴下の跡が消えにくいなどの軽度のむくみがみられます。起床時にはむくみがひいていることが多く、「休めばよくなるだろう」と軽視してしまうケースもあります。
- 長時間立ち仕事や座り仕事をした後に足がパンパンに感じる
- 腕の場合は指輪や腕時計がきつくなる
- 一晩寝ればある程度むくみが改善する
この段階からリンパ浮腫の疑いを考慮し、むやみに放置しないよう気をつけましょう。
進行したむくみと皮膚の変化
症状が進むと、むくみが慢性化し、皮膚が硬くなったり色合いが変化したりする場合があります。皮膚のキメが荒くなり、象皮病と呼ばれるような非常に硬い皮膚症状へつながることもあります。
次の表は進行度による代表的な皮膚変化です。
症状レベル | 皮膚の変化 | 感じやすい不快感 |
---|---|---|
軽度 | 軽いむくみ | だるさ、重さ |
中等度 | 押すとへこむ、皮膚が乾燥 | しびれ、疲れやすさ |
重度 | 皮膚の硬化や色素沈着 | 皮膚の割れ、感染リスク増 |
皮膚が硬くなると、マッサージや圧迫療法の効果が実感しにくくなり、治療にも時間がかかることがあります。
痛みやしびれ、かゆみ
リンパ浮腫が進むと、むくみ自体の圧迫によって神経が刺激され、しびれや痛みが出ることがあります。さらに、皮膚の乾燥や炎症でかゆみを伴うケースもあります。そうした症状が長く続くと、日常生活の動作に支障をきたすかもしれません。
- しびれが強くなると握力や足の筋力が低下する恐れ
- 皮膚炎を起こすとただれや湿疹が引き起こりやすい
- 傷口から菌が入り込みやすく、化膿を起こすリスクがある
合併症のリスク
リンパ浮腫は適切なケアを行わないと感染症やセルライト炎、慢性的な炎症を引き起こすリスクが高まります。傷口が治りにくくなり、むくみ以外の合併症が長引くことで生活の質が下がる恐れがあります。
- 蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの感染症にかかりやすくなる
- 関節の動きが制限される
- 皮膚潰瘍ができる
症状を早めにキャッチし、適切な治療を始めることが何よりも重要です。
次の表はリンパ浮腫に伴う主な合併症を整理したものです。
合併症名 | 特徴 | 対策 |
---|---|---|
蜂窩織炎 | 細菌感染による急性の炎症 | 早期治療、抗菌薬の使用 |
皮膚潰瘍 | むくみによる血流障害で傷が慢性化 | 皮膚ケア、適切な圧迫療法 |
象皮症 | 皮膚の肥厚や硬化が進行 | 進行を抑える定期ケア |
むくみだけでなく、皮膚の状態や痛みの変化にも注意して生活を管理すると合併症の防止につながります。
- 早期発見・早期対処で症状の悪化を防ぎやすい
- むくみの度合いによって治療法を変える必要がある
- 感染症の予防に衛生管理と乾燥対策が重要
リンパ浮腫の原因
リンパ浮腫の原因は、リンパ管の流れを妨げる要因やリンパ節・リンパ管の数や形状、機能に関する問題など多岐にわたります。ここでは、遺伝的要因や手術、生活習慣などを含めて詳しく見ていきます。
遺伝的要因
先天性リンパ浮腫の場合、遺伝要因が関係することがあります。両親や兄弟など近親者にリンパ浮腫の既往歴があれば、自分もリンパ浮腫のリスクを抱えている可能性があります。
- 遺伝子異常によるリンパ管形成不全
- 親族の中に若い頃からむくみを訴えていた人がいる
- 発症年齢や症状の程度に個人差がある
遺伝的な背景を持つ方は、成長過程でむくみの兆候が少しでもあれば循環器内科などで相談するとよいでしょう。
手術や放射線治療の影響
がん手術やリンパ節切除などでリンパ管が物理的に断裂すると、リンパ液の流れが滞りやすくなります。特に乳がんや子宮がんなど、リンパ節切除の範囲が広い場合には二次性リンパ浮腫のリスクが高くなります。
また、放射線治療の照射エリアがリンパ管を含む場合も、組織がダメージを受けてリンパ浮腫が発生しやすくなります。
以下のリストは手術や放射線治療に関連する主な要因です。
- 乳がん手術で腋窩リンパ節を切除
- 子宮がんや卵巣がんの術後で骨盤内リンパ節を切除
- 放射線治療によりリンパ管の線維化が起こる
- 手術後のリハビリや圧迫ケアの不足
外科手術では腫瘍の切除と同時にリンパ節郭清を行うことが多く、手術前後の患者さんはむくみ対策を意識する必要があります。
外傷や感染
事故やスポーツなどによる外傷でリンパ管を傷めると、リンパ浮腫に発展する場合があります。また、細菌感染や寄生虫感染が原因でリンパ管内に炎症を起こし、その後リンパ浮腫になることもあります。
特に熱帯地域に多いフィラリア感染は、リンパ節やリンパ管の閉塞を引き起こす代表的な要因です。
次の表は外傷や感染がリンパ浮腫に及ぼす影響をまとめたものです。
原因 | 具体例 | リンパ浮腫への影響 |
---|---|---|
外傷 | 骨折や大けが | リンパ管切断や圧迫による流れの阻害 |
細菌感染 | 蜂窩織炎、皮膚感染 | 炎症によりリンパの排泄が滞る |
寄生虫感染 | フィラリア症など | リンパ管や節の閉塞、機能低下 |
外傷が原因の場合、早期にリハビリとリンパドレナージを始めると悪化を防ぐことにつながります。
生活習慣と循環不全
運動不足や長時間の同一姿勢、肥満などもリンパ浮腫のリスクを高める一因となります。リンパ管は筋肉の動きによってリンパ液を押し上げる仕組みを活用しているため、日常的に脚を動かさないとむくみやすくなります。
さらに、肥満によって余分な脂肪組織がリンパ管を圧迫し、流れを阻害するケースもあります。
- デスクワークが続き、座りっぱなしの時間が長い
- ウォーキングや筋力トレーニングの習慣がない
- 食生活の乱れで体重が増加しリンパ管に負荷がかかる
こうした生活習慣の見直しは、リンパ浮腫だけでなく他の循環器疾患の予防にも役立ちます。
リンパ浮腫の検査・チェック方法
リンパ浮腫を早期に見つけるためには、定期的な自己チェックや医療機関での精密検査が役立ちます。見た目のむくみだけでなく、細かな身体の変化を把握することで適切な治療につなげることができます。
ここでは検査やチェック方法について解説します。
自己チェックのポイント
まずは日常生活の中で手軽にできる自己チェックが第一歩です。朝と夕方の脚や腕の状態を比べたり、皮膚の乾燥や軽いかゆみなどを観察したりすると、初期段階の異変に気づくことがあります。
- 朝と夕方の脚周りや腕周りの寸法を測る
- 靴下や下着のゴム痕が残りやすいか確認する
- 指輪や腕時計のフィット感に変化はないか
気になる症状があれば、早めに専門医に相談してみると良いでしょう。
触診と視診
医療機関では、問診とあわせて患部の触診や視診を行います。リンパ浮腫が疑われる場合、皮膚の硬さや弾力、色素沈着の有無などを詳細にチェックします。
軽度の段階では、押すと跡が残る「ペコペコ感」がある場合が多いです。中等度以上では、皮膚が硬くなる「硬化」を認めます。
次の表は触診や視診でチェックする主な項目です。
チェック項目 | 確認内容 |
---|---|
皮膚の柔軟性 | 指で押したときの戻り具合 |
皮膚の色 | 変色やくすみ、赤みの度合い |
皮膚温 | 熱感や冷感があるかどうか |
むくみの程度 | 圧迫後の凹みやすさ |
触診や視診はシンプルですが、リンパ浮腫の進行度を把握するうえで重要な手がかりとなります。
画像検査(リンパ管シンチグラフィなど)
リンパ浮腫を本格的に評価するとき、リンパ管シンチグラフィと呼ばれる画像検査を行うことがあります。体に微量の放射性物質を注射して、リンパ液の流れを可視化する方法です。
- リンパ液の停滞部位や流れの異常を客観的に把握できる
- 病型診断や手術前後の比較にも有効
- 病院によって検査設備が限られる場合がある
その他の検査
エコー(超音波)やMRIなどを使って皮下組織の厚みやリンパ液の貯留状態を調べるケースもあります。血液検査や尿検査では、感染症の合併や他の循環器疾患との鑑別に役立ちます。
- MRIで軟部組織の状態を把握する
- 血液検査で炎症マーカーなどをチェック
- 感染が疑われる場合は培養検査を行う
検査結果を総合的に判断し、リンパ浮腫かどうか、あるいは他の病気が関与していないかを見極めることが必要です。
- 他の病気が隠れている可能性を否定できなければ精査を行う
- 自己判断ではむくみの原因が特定しづらい場合が多い
- 早期に検査をすれば治療の選択肢が広がりやすい
リンパ浮腫の治療方法と治療薬について
リンパ浮腫の治療は、進行度に応じてさまざまなアプローチがあります。基本的にはリンパ液の還流を促す「複合的治療」をベースに、症状に合わせて薬剤の使用や外科的アプローチを検討する流れです。
圧迫療法(弾性ストッキング・スリーブ)
リンパ浮腫の治療・管理において代表的な手段です。専用の弾性ストッキングや弾性スリーブを着用し、リンパ液を心臓方向へ押し戻す力をサポートします。
- 血流だけでなくリンパ液の流れを助ける
- サイズ選びと着圧の強度が重要
- 日常生活での着用時間を確保することがポイント
着用時間の目安は人によって異なりますが、日中の活動時間帯はほぼ着けっぱなしにするなど、医師の指示に従いましょう。
リンパドレナージ(マッサージ)
リンパ浮腫の改善を図るために、専門の技術を用いたリンパドレナージを行うことがあります。やさしく皮膚をさすり、リンパ液をたまりにくい方向へ促すイメージです。
- 軽い力で皮膚表面を動かす手技
- 自己流ではなく専門的な指導を受けることが大切
- 自宅で行うセルフマッサージと併用することも多い
次の表はリンパドレナージを行う際に意識したいポイントです。
ポイント | 内容 |
---|---|
マッサージの方向 | 心臓へ向かって、より正常なリンパ管へ流す |
力加減 | 強く押しすぎないで皮膚表面を動かす |
頻度と時間 | 1日10~20分程度を複数回行うのが一般的 |
注意すべき症状 | 皮膚トラブルや痛みがある場合は専門家へ |
リンパドレナージを習慣化することで、むくみの軽減だけでなく皮膚の代謝向上も期待できます。
薬物療法
リンパ浮腫に対して直接の「むくみ改善薬」は限られますが、利尿薬や血管拡張薬などを併用することがあります。ただし、リンパ液の問題に対して利尿薬が常に効果的とは限りません。
感染症を伴う場合には抗生物質を使用し、炎症や痛みが強い場合に鎮痛薬や抗炎症薬を処方するケースもあります。
- 合併症予防を目的とした抗生物質
- 血液循環の改善を図る薬剤
- 炎症を抑えるステロイドやNSAIDs系の薬
薬剤選択は患者さんの状態や合併症の有無で変わるため、医師との相談が欠かせません。
外科的治療(リンパ管バイパス、吸引術など)
重症化したリンパ浮腫や、従来の保存的治療だけでは十分な効果が得られない場合、外科的治療を検討することがあります。
リンパ管バイパス術やリンパ節移植などの方法があり、リンパ液の排泄を直接改善する狙いがあります。また、末期のリンパ浮腫で脂肪や線維化組織が過剰にたまっている場合、脂肪吸引術を行うこともあります。
- 手術後も圧迫療法やリンパドレナージなどのケアが必要
- 大がかりな手術になるケースもある
- 術後はむくみの改善度合いを継続して観察
こうした外科的アプローチは専門性が高いため、経験豊富な医療機関で受けることが望ましいです。
- 保存的治療で効果を感じられない場合に検討
- 術後の回復期間中もしっかりケアを続ける
- リスクとメリットを踏まえて決断する
リンパ浮腫の治療期間
リンパ浮腫は慢性的に経過することが多く、数日や数週間で完治させることは困難です。むくみの進行度や原因、個々の身体状況によって治療期間は大きく異なります。以下では治療期間に影響を与える主な要素をまとめます。
病型と進行度による違い
先天性リンパ浮腫は、早い段階から生涯にわたって継続的なケアを行う場合があります。一方、二次性リンパ浮腫は手術や放射線治療後の発症時期や重症度によって治療期間が変動します。
- 先天性の場合は軽度でも長期的な対策が必要なことが多い
- 二次性でも、術後早期にケアを始めると治療期間を短縮しやすい
- 進行度が高くなるほど、硬化した組織のケアが長引く
治療方法による期間の違い
圧迫療法やリンパドレナージを中心とした保存的治療では、症状が落ち着くまでに数カ月から数年単位での継続が必要となります。
外科的治療を行った場合も、術後のリハビリや圧迫管理が欠かせないため、短期間で完全に終了できるケースは少ないです。
次の表は主な治療方法と目安となる治療期間です。
治療方法 | 期間の目安 | 特徴 |
---|---|---|
圧迫療法 | 半年~年単位で継続 | 日常生活の一部としての管理 |
リンパドレナージ(マッサージ) | 定期的に通院・セルフケアを長期で行う | 継続的なケアが必要 |
外科的治療 | 術後の経過観察を含め半年~数年 | 術後管理に時間がかかる |
薬物療法 | 症状のコントロール期間中は継続処方 | 補助的役割が中心 |
治療が一時的にうまくいっても、再発や症状のぶり返しが起こることもあるため、治療を続けるだけでなく、日常生活の過ごし方も見直す必要があります。
日常生活でのケアとの両立
長期治療の場合、日常生活と治療を両立する工夫が欠かせません。仕事や育児、家事などの合間にマッサージや圧迫療法を行うための時間や環境を整える必要があります。
- 仕事中でも弾性ストッキングを着用できるか
- 入浴や運動との兼ね合いをどうするか
- 自宅でのセルフケア方法を習得し、習慣化する
リンパ浮腫と向き合う上で、ライフスタイル全体の調整が欠かせないことを理解すると、治療の継続がしやすくなります。
定期的な通院とメンテナンスの重要性
症状が安定してきても、定期的な通院を続け、状態をチェックすることが大切です。少しでも再びむくみがひどくなる兆候があれば、早めの対処が必要です。
- 数カ月に1回、専門外来で検査を受ける
- ケア用品のサイズや圧迫力が合っているか見直す
- シーズンによるむくみの変化に注意する
治療期間は人それぞれですが、長く付き合う病気であるからこそ、焦らず計画的に対策を進めていきましょう。
副作用や治療のデメリットについて
リンパ浮腫の治療では、薬物療法や圧迫療法など複数の方法を組み合わせる場合が多いです。
それぞれメリットがある一方で、副作用や負担も存在します。治療前にデメリットを把握しておくことは、納得のいく治療を続けるうえで大切です。
利尿薬や血管拡張薬の副作用
リンパ浮腫に直接の効果を期待しにくい利尿薬ですが、一部の患者さんには血流や体液バランスの調整目的で処方されることもあります。
しかし、利尿薬の使用で脱水傾向になったり電解質バランスが乱れたりするリスクもあります。血管拡張薬を使用する場合も、血圧の急激な低下や頭痛などが起こる可能性があります。
- 脱水や電解質異常に注意が必要
- 血圧コントロールが乱れることもある
- 定期的な血液検査や医師のフォローアップが重要
圧迫療法の負担
弾性ストッキングやスリーブを長時間着用することにストレスを感じる方もいます。特に夏場は蒸れやすく、かゆみや汗疹が発生するケースもあります。
次のリストは圧迫療法で起こりうる負担です。
- 締め付け感による不快感
- 皮膚トラブル(かゆみ、発疹)
- 着脱が面倒に感じる
- ストッキングのコスト負担
正しいサイズを選び、使用方法を徹底することである程度は対策できますが、適応が難しい場合には医師と相談して別の方法を検討することもあります。
手術のリスク
リンパ管バイパスなどの外科的手術は、麻酔リスクや術後の感染リスク、傷跡が残る可能性など、一般的な手術と同様のデメリットを伴います。
術後にリンパ液が漏れ出す「リンパろう」や新たな血管障害が発生するリスクもあるため、慎重な検討が必要です。
次の表は外科的治療の主なリスクをまとめたものです。
リスク | 内容 |
---|---|
麻酔合併症 | 麻酔薬への反応、呼吸器や循環器のトラブルなど |
術後感染 | 傷口の化膿や炎症、蜂窩織炎など |
リンパろう | リンパ管の損傷からリンパ液が漏れ続ける |
瘢痕や血管障害 | 傷跡や周辺組織の血行障害などが起こる可能性 |
外科的治療が適応となるのは重症例や保存的治療で効果が見られないケースが多く、医師との十分な話し合いが鍵になります。
治療の継続負担
リンパ浮腫は慢性疾患であるため、治療を続ける期間が長くなることが多いです。通院の費用や、弾性ストッキングの更新コスト、マッサージ器具の購入など、経済的な負担を感じる方もいます。
また、日常的にケアを続ける精神的負担も無視できません。
- 定期的な通院費用や交通費
- 消耗品(弾性ストッキングなど)の買い替え
- 家族や周囲の理解を得る必要
これらのデメリットを理解した上で、医師や看護師、リハビリスタッフと相談しながら自分に合ったペースで治療を進めることが大切です。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
リンパ浮腫の治療には長期的な費用がかかりやすいです。保険適用の範囲や制度を理解し、経済面でもできるだけ負担を軽減しながら治療を続ける工夫が求められます。
保険適用対象となる治療
リンパ浮腫の治療においては、医師が診察を行い、必要と判断した医療行為や薬剤に関しては保険適用となる場合が多いです。
たとえば、医療用弾性ストッキングの一部やリンパドレナージなどのリハビリテーションが該当することがあります。ただし、すべてが保険でカバーされるわけではありません。
- 医師の診察や検査
- 必要と認められた弾性ストッキング(条件あり)
- リハビリテーションとしてのリンパドレナージ
保険適用の基準は国や地域によって変わるため、自身が加入している保険制度の詳細を確認する必要があります。
自費診療になるケース
症状の程度や病院の方針、治療メニューによっては保険適用外となり、自費で支払う必要があることもあります。
特に美容目的と見なされるようなマッサージやスパ施設でのケア、自由診療メニューの一部手術などは保険対象外となるケースが多いです。
次のリストは自費診療になりやすい例です。
- 個別に追加のマッサージを受ける
- 特注の弾性ストッキングやスリーブ(医療的必要性が認められない場合)
- サプリメントや健康食品によるケア
- 保険適用外の外科的治療
自費診療の金額は施設によって異なるため、事前に費用を確認することが重要です。
高額療養費制度などの活用
長期にわたって治療を行う場合、月々の医療費が高額になる可能性があります。そのようなときには高額療養費制度を利用すると、一定額を超えた部分について還付を受けられる場合があります。
これは国民健康保険や社会保険など、大多数の公的保険制度で用意されている仕組みです。
次の表は代表的な医療費軽減制度です。
制度名 | 内容 |
---|---|
高額療養費制度 | 月の自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される |
医療費控除 | 年間の医療費が一定額を超えると確定申告で所得税の一部が還付される |
障害者手帳の活用 | 病状によっては障害者認定を受け、医療費補助の対象になるケースがある |
こうした制度をうまく利用することで、経済的な負担を抑えながら治療を続けられる可能性があります。
治療費を見積もるうえでのポイント
治療費を考える際には、単に受診の費用だけでなく、弾性ストッキングやマッサージクリームなどの日常的なケア用品、通院の交通費なども含めて検討するとよいでしょう。
- 弾性ストッキングは消耗品で定期的に買い換える必要がある
- 交通費や付き添いの家族の負担も考慮する
- 手術の場合は入院費や検査費なども加算される
治療開始前に大まかな費用感や保険の適用範囲を把握し、無理のない治療計画を立てましょう。
- 事前の見積りで不安を減らす
- 国や自治体の公的補助制度をチェック
- 社会保険労務士や専門の相談窓口に問い合わせる
長期にわたり治療を続ける場合、こうした制度や仕組みをうまく活用することで負担の軽減が望めます。経済的な側面もふまえながら、自分に合った治療を選択してください。
以上
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