肺血栓塞栓症(PTE)

肺血栓塞栓症(PTE)

肺血栓塞栓症(PTE)とは、肺の血管に血のかたまり(血栓)が詰まり、呼吸障害や血液循環への支障を生じる病気です。

血栓が肺の大きな動脈をふさぐと急激に重症化するリスクがあり、日常生活のちょっとしたサインに気づけるかどうかが重要です。

近年は治療の選択肢が広がり、早期診断によって回復を図ることが可能になりましたが、病気の経過や治療について正しく理解し、適切に対応することが大切です。

肺血栓塞栓症が疑われる方や、循環器内科の受診を考えている方にとって少しでも役立つ情報になれば幸いです。

目次

肺血栓塞栓症(PTE)の病型

肺血栓塞栓症は血栓が肺動脈を詰まらせることで起こり、詰まる範囲や症状の強さによっていくつかのタイプに分類できます。ここでは代表的な病型を取り上げて特徴をまとめます。

急性肺血栓塞栓症

急性肺血栓塞栓症は突発的に発症し、突然の胸の痛みや呼吸困難などの急激な症状を引き起こします。大きな血栓が肺の中心部や太い動脈を塞ぎ込むと、命に関わるリスクが高まります。

下肢の深部静脈に血栓が生じ、それがはがれて肺に移動するケースが典型的です。

亜急性肺血栓塞栓症

急性ほど激しい症状は出ず、ある程度の期間をかけて血栓が進行する形です。最初は軽度の呼吸苦や倦怠感などで始まり、徐々に症状が増していきます。急性に比べると軽度の発作を繰り返すような経過をたどる場合も多いです。

慢性肺血栓塞栓症

肺の小さな血管に血栓がこつこつと詰まり、長い期間にわたって呼吸障害が進行するタイプです。慢性化すると、労作時の呼吸困難や疲れやすさが続き、右心不全などの合併症を引き起こす恐れがあります。

症状がゆっくりと進むため、発見が遅れることもあります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)

肺血栓塞栓症が長期化すると、肺の血管抵抗が上昇して肺高血圧へ発展することがあります。右心負荷が強まると心不全のような症状が出現します。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は長期の経過をたどるため、治療も継続的に行う必要があります。

ここで病型の特徴をまとめた表を示します。

病型特徴注意点
急性肺血栓塞栓症突然の呼吸困難、胸痛、頻脈など血栓の大きさや部位によっては生命の危険が高まる
亜急性肺血栓塞栓症比較的ゆるやかに症状が進行し、軽症で始まることも症状が漠然としていて診断が遅れることがある
慢性肺血栓塞栓症長期間かけて小さな血栓が蓄積し、息切れが徐々に進む初期症状が軽度なため見逃しやすい
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)血栓の影響が長期化し、肺高血圧状態になる心不全など合併症のリスクが高まる

肺血栓塞栓症の病型によって治療方針や経過観察の頻度に違いがあります。以下のリストでは病型ごとの一般的な注意点を挙げます。

  • 急性型か慢性型かを早期に見極めること
  • 下肢などの深部静脈血栓症の有無を調べること
  • 再発予防のため、生活習慣や投薬を継続的に見直すこと
  • 亜急性から慢性へ移行する可能性を意識すること

病型を正しく理解し、医師と相談しながら自身の症状や生活の状況に合わせた検査と治療計画を立てることが大切です。

肺血栓塞栓症(PTE)の症状

肺血栓塞栓症は血栓が肺動脈を塞ぐ病気であるため、呼吸に関する症状が主に現れます。ただし、その症状は人によって強弱があり、必ずしも典型的とは限りません。ここでは代表的な症状や、日常生活で気づきやすい変化を解説します。

呼吸困難・息切れ

肺血栓塞栓症で最も多く見られるのが呼吸困難です。特に階段を上るなど、軽い運動でも息切れが起こりやすくなるのが特徴です。血栓が大きいと、安静時でも苦しさを感じることがあります。

胸の痛み

鋭い胸痛や胸を締めつけられるような痛みを伴うケースがあります。呼吸を深くすると痛みが増す場合は、肺や胸膜に負荷がかかっている可能性があります。

動悸やめまい

血液循環がうまくいかないことで、心拍数が上昇して動悸を感じたり、酸素不足によってめまいや意識が遠のくような感覚を自覚したりする人もいます。急性の発作では脈がとても速くなることがあります。

発熱や倦怠感

激しい発熱はまれですが、体内の炎症反応やストレスが原因で微熱や倦怠感を感じることがあります。軽度の風邪程度の症状と誤解し、放置してしまう人もいるため注意が必要です。

以下の表では肺血栓塞栓症の症状と特徴的なポイントをまとめています。

主な症状特徴備考
呼吸困難・息切れ軽い運動や日常動作でも呼吸が苦しくなる急性の場合は安静時にも起こり得る
胸の痛み鋭い痛みから締めつけ感まで幅広く、呼吸で増強することも胸膜刺激による痛みのことが多い
動悸・めまい心拍数の増加や低酸素状態から生じる血圧低下に伴う失神のリスクもあり
発熱・倦怠感微熱や全身のだるさなど非特異的症状他の病気との区別が難しい場合も

肺血栓塞栓症は上記のような症状が複数同時に起こる場合が多いですが、1つだけ顕著に現れるケースもあります。

もし次のようなリストに当てはまる症状が続いている、あるいは突発的に起こった場合は、循環器内科など専門医への受診を検討すると安心です。

  • 少し動いただけで異常に息切れが起こる
  • 呼吸を深くすると胸が強く痛む
  • 動悸やめまいを頻繁に感じるようになった
  • 微熱や倦怠感が長引いている

肺血栓塞栓症の症状は、他の肺疾患や心疾患と似通っており見分けにくいことがあります。早めに医療機関で検査を受けることが、合併症の予防や早期治療につながります。

肺血栓塞栓症(PTE)の原因

肺血栓塞栓症の主な原因は、血栓が肺動脈へ流れ込むことです。深部静脈血栓症など、血栓を形成しやすい状態にある人ほどリスクが高まります。ここでは原因のポイントと、その背景にある生活習慣・疾患について解説します。

深部静脈血栓症との関係

多くの場合、血栓は下肢の深部静脈に形成され、血流によって肺へ運ばれます。下肢の静脈がうっ血しやすい状態が長く続くと血栓ができやすくなります。

長時間のデスクワークや航空機の移動で座りっぱなしになる人、術後で体を動かせない人などが深部静脈血栓症を起こしやすい傾向にあります。

血液凝固異常

先天的に血液が固まりやすい体質の人や、自己免疫疾患の一部では血液凝固に関わる因子に異常が生じ、血栓形成リスクが高まります。特に抗リン脂質抗体症候群などの免疫異常は、若い世代でも血栓を起こすことがあります。

手術や外傷後のリハビリ不足

大きな手術を受けた後や骨折などの外傷後に、体を動かす機会が極端に減ると血液循環が悪化し、血栓を形成しやすくなります。術後は可能な範囲でリハビリや足のマッサージを行い、血流を促進することが大切です。

生活習慣上の要因

喫煙や肥満、過度の飲酒、慢性的な運動不足は血流の滞りや血小板機能の異常に関係し、血栓ができやすくなる要因とされます。以下の表では、肺血栓塞栓症に関連する主な生活習慣リスクとその具体的な影響を示します。

生活習慣リスク具体的な影響血栓形成への関係
喫煙血管内皮機能の悪化、血管収縮血流の乱れや凝固亢進を招く
肥満血管周囲への圧迫、脂質代謝異常血液粘度の上昇や血管圧迫が生じる
過度の飲酒肝機能障害や脱水傾向凝固因子や血小板の異常を引き起こす
運動不足下肢の筋力低下と血流低下静脈に血栓が溜まりやすい

これらに加え、高齢、がん治療中、ホルモン療法(特にエストロゲン系薬剤)なども、血栓形成リスクを高める要因として知られています。

肺血栓塞栓症の発症を防ぐためには、以下のようなポイントを日常的に意識することが重要です。

  • 長時間の座りっぱなしを避け、適宜足を動かす
  • 十分な水分補給を心がける
  • 運動習慣を取り入れて下肢の筋力を維持する
  • 過度の喫煙・飲酒を控え、栄養バランスのよい食事をとる

原因の多くは生活習慣や身体の状態と関連しています。自分がどのようなリスク要因を持っているかを理解し、医師と相談しながら対策を講じることが大切です。

肺血栓塞栓症(PTE)の検査・チェック方法

肺血栓塞栓症は多様な症状を示し、他の病気と間違われることも少なくありません。そのため、複数の検査を組み合わせて総合的に評価します。ここでは代表的な検査や日常的にできるチェック方法を説明します。

Dダイマー検査

血液に含まれるフィブリン分解産物の1つであるDダイマーを測定します。血栓が形成・分解された際に増加する傾向があり、値が高いほど血栓リスクが高い可能性があります。

ただし、Dダイマーは炎症や外傷など他の要因でも上昇するため、あくまでもスクリーニングの一環として用います。

画像検査(CT肺動脈造影、肺血流シンチグラフィ)

CT肺動脈造影は肺の血管を造影剤で映し出し、血栓の有無や部位を確認します。

肺血流シンチグラフィは放射性同位元素を用いて肺の血流状態を可視化し、正常な部分との血流差から血栓の位置を推定します。特にCTは正確性が高く、重症度を把握する手がかりになります。

エコー検査(下肢静脈エコー)

肺血栓塞栓症は多くの場合、下肢の深部静脈血栓が元になります。そこで下肢静脈エコーによって血栓の存在を直接確認します。血栓が見つかった場合は、血栓が形成されやすい要因や、再発予防策を検討する材料になります。

日常的にできるセルフチェック

軽度の症状が持続している場合や、リスク要因がある方は日常生活の中で以下の項目を定期的に確認するとよいでしょう。

  • 少し歩いただけで疲れる、息苦しいと感じる
  • 足のむくみや痛みがいつもより強い
  • ふくらはぎを触ったとき、硬さや熱感を感じる
  • いつもより脈が早い、もしくは不整脈を感じる

これらのセルフチェックと並行して、医療機関で専門的な検査を受けることが大切です。検査内容の選択や頻度は患者ごとに異なるため、医師と相談しながら適切な検査スケジュールを組み立てます。

以下に肺血栓塞栓症を疑った際に行われる主な検査項目を一覧にしています。

検査名概要特徴
Dダイマー検査血栓形成・分解の指標となるDダイマーを測定値が高いと血栓リスクが高い可能性がある
CT肺動脈造影造影剤を使い肺動脈を撮影血栓の位置や範囲を直接把握できる
肺血流シンチグラフィ放射性物質を用いて肺血流を画像化CTが使えない場合や複数回検査時に検討される
下肢静脈エコー下肢の静脈に血栓がないかを超音波で確認血栓の形状や血流の状態をリアルタイムに把握できる

検査結果をもとに最終的な診断を下すことが多く、検査を組み合わせることで精度を高められます。自覚症状が気になる場合は、早めに専門医へ相談するようにしましょう。

治療方法と治療薬について

肺血栓塞栓症の治療は血栓を溶かしたり広がりを防いだりすることを目標に進められます。急性期と慢性期、あるいは重症度によって治療戦略が異なり、複数の薬剤や方法を併用するケースもあります。

ここでは主な治療方法と治療薬を説明します。

抗凝固療法

肺血栓塞栓症の基本は抗凝固薬の投与です。血液が固まりにくくなるよう作用し、新たな血栓形成や既存血栓の拡大を抑制します。

代表的な薬にはワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)などがあり、患者の状態や背景疾患によって選択が行われます。

以下に抗凝固薬の特徴をまとめた表を示します。

種類主な例特徴
ビタミンK拮抗薬ワルファリンPT-INRのモニタリングが必要、食事制限の留意点がある
直接経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバン、エドキサバンなど定期的な血液検査が少なくて済み、相互作用が比較的少ない

血栓溶解療法

重症例や急性期で、生命に影響があると判断された場合に行います。血栓溶解薬を使い、既にできた血栓を急速に溶かして血流を回復させます。ただし出血リスクが高まるため、慎重な適応判断が欠かせません。

カテーテル治療

カテーテルを血管内に挿入し、血栓に直接アプローチして除去する方法です。機械的に血栓を吸引する手術的な処置や、カテーテルを通して血栓溶解薬を局所に注入する局所療法があります。

侵襲度を考慮しながら、重症で薬物療法だけでは十分な効果が得られないケースで検討します。

IVCフィルター(下大静脈フィルター)

下大静脈にフィルターを挿入し、深部静脈血栓が肺へ流れるのを防ぐ方法です。抗凝固療法が使えない場合や再発を繰り返す場合、緊急時などに検討されることがあります。

フィルターは永久設置のものと、一時的に設置して後で回収するタイプがあります。

肺血栓塞栓症の治療では、薬物療法と併行して以下のようなリストも重要です。

  • 下肢マッサージや弾性ストッキングの着用
  • 術後や長時間移動時にこまめに動く
  • 定期的に水分を摂る

これらは血流促進や新たな血栓の形成を防ぐのに役立ちます。医師の指導のもと、個々の病態や生活習慣に合わせた治療計画を立てることが重要です。

肺血栓塞栓症(PTE)の治療期間

肺血栓塞栓症の治療期間は、発症時の重症度や血栓の大きさ、合併症の有無などによって大きく異なります。一般に急性期治療が終わったあとも、再発予防と症状改善のために抗凝固薬などを継続的に使用するケースが多いです。

ここでは治療期間の目安や注意点について詳しく解説します。

急性期と安定期

急性期は発症直後から数日~数週間程度を指し、この期間に入院加療を行うことが一般的です。抗凝固療法や血栓溶解療法などで血流を回復させ、再発リスクを抑えます。

安定期に移行すると、入院治療から外来フォローアップへシフトしていきます。血液検査や画像検査の結果を見ながら、薬の調整や生活習慣指導を受けます。

抗凝固薬の継続期間

肺血栓塞栓症が初めて発症した場合でも、少なくとも3~6カ月は抗凝固薬による再発予防を続けることが一般的です。重症例や再発歴がある場合は1年以上、あるいは一生涯の投薬が必要になることもあります。

表に治療期間の一般的な目安を示します。

状況治療期間の目安備考
初回発症かつ軽症3~6カ月程度血栓が完全に溶解し、リスク因子が除去されたら終了を検討
重症例または再発例6カ月~1年以上再発防止のため長期の抗凝固療法を選択する
特殊な基礎疾患を伴う場合(CTEPHなど)1年~長期基礎疾患のコントロール状況によって異なる

リハビリとフォローアップ

急性期を過ぎて安定してからも、リハビリや定期的なフォローアップが欠かせません。運動療法や呼吸訓練を通じて、心肺機能の改善と体力向上を目指します。

医師は血液検査で凝固状態や内臓機能をチェックし、副作用の有無を随時確認します。

日常生活への復帰

多くの患者は急性期を乗り越えれば、ある程度普通の生活に戻ることができます。ただし、以下のようなリストについては慎重な対応が求められます。

  • 激しい運動や長時間の移動の計画
  • 海外旅行など、時差や体への負担が大きい活動
  • 他の疾患や薬との相互作用がある場合の対処
  • 治療期間中や退院後の血液検査、診察のスケジュール調整

治療期間や回復状況は個人差が大きいため、必ず担当医と相談しながら方針を決めると安心です。無理をして再発を招くリスクを高めるよりも、じっくりと経過をみながら回復を図ることが大切です。

肺血栓塞栓症(PTE)薬の副作用や治療のデメリットについて

薬による治療は血栓の予防や除去に有効ですが、その一方で副作用やデメリットも存在します。治療に取り組む際には、これらのリスクと効果を正しく理解しておくことが大切です。

抗凝固薬による出血リスク

抗凝固薬は血液を固まりにくくするため、出血リスクが高まります。鼻血や歯茎からの出血が止まりにくくなる程度から、消化管出血、脳出血など重大な出血に至る場合もあります。特にワルファリン服用中はPT-INRの管理が重要です。

以下に代表的な抗凝固薬と主な副作用をまとめます。

薬剤名主な副作用モニタリングの要点
ワルファリン出血リスク増大PT-INRの定期検査が必要
DOAC各種出血リスク増大腎機能・肝機能にも注意

血栓溶解薬の適応とリスク

血栓溶解薬は強力に血栓を溶かしますが、出血性合併症のリスクも同時に高まります。大動脈瘤や脳出血歴など特定の合併症を持つ人には使えない場合があります。

そのため、使用場面が厳密に限られており、治療と安全面のバランスをとる必要があります。

カテーテル治療の侵襲性と合併症

カテーテル治療は侵襲的な処置を伴うため、血管損傷や感染症などの合併症リスクがゼロではありません。術後の管理が不十分だと再狭窄や再血栓の可能性が高まる場合もあります。ただし、重症例に対しては有効な手段となり得るため、適応の判断が重要です。

IVCフィルターの長期合併症

下大静脈フィルターを挿入すると、血栓の肺への移動を防げるメリットがありますが、フィルター周辺に血栓が蓄積しやすくなるというデメリットが存在します。

また長期留置タイプの場合、フィルター自体が血管に癒着して取り外しが難しくなることも報告されています。

これらの治療上のリスクを考慮するにあたっては、次のリストの点を押さえると理解が深まります。

  • 自分の血液検査結果や基礎疾患を把握しておく
  • 服用中の薬との相互作用について医師や薬剤師に確認する
  • 異常な出血や倦怠感など、いつもと違う症状を感じたら早めに受診する
  • 適応や治療方針について十分な説明を受け、納得の上で治療を選択する

副作用や合併症のリスクを理解しつつ、必要性が高い治療を避けるわけにもいきません。医師や医療チームの指示を守り、こまめに体調を報告しながらリスクを最小限にする工夫が大切です。

肺血栓塞栓症(PTE)の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

肺血栓塞栓症の治療は保険診療の対象となるケースが多く、抗凝固薬や検査費用などは公的保険で一部負担されます。ただし、治療内容や個人の収入・年齢などによって自己負担額に差があります。

ここでは保険適用範囲と治療費の考え方を解説します。

公的医療保険の適用範囲

日本の公的医療保険制度(健康保険や国民健康保険など)では、肺血栓塞栓症に関連する多くの検査や治療が保険適用内となります。

抗凝固薬、カテーテル治療、IVCフィルター挿入手術といった侵襲的な治療も、基本的には保険給付対象です。

ただし、保険診療で認められない先進的な検査や特殊なデバイスを用いる場合は、自由診療扱いになることがあります。

高額療養費制度

入院や手術などで治療費が高額になった場合、一定額を超えた費用が後から払い戻される高額療養費制度を利用できます。

患者の年齢や所得区分によって負担限度額が異なるため、長期入院や高額な治療が必要な際は制度を活用すると負担軽減が期待できます。

以下の表では収入と高額療養費制度の一般的な限度額例をまとめています(大まかな参考例です)。

所得区分月額負担限度額の目安備考
標準報酬月額83万円以上約250,000円前後収入が高いほど限度額は高くなる
標準報酬月額53万円~79万円約170,000円前後
標準報酬月額28万円~50万円約80,000円~90,000円前後
標準報酬月額26万円以下約57,000円前後低所得者ほど限度額が低い

自己負担割合

保険診療の場合、自己負担割合は原則3割です(年齢や収入により1~3割)。ただし、70歳以上や一定の障害認定を受けている人の場合は1~2割負担となります。

治療内容によっては入院費や手術費、投薬費が大きな金額になることもあるため、担当医やソーシャルワーカーに相談して入院前後の費用目安を把握すると安心です。

民間保険や特約の活用

公的保険に加えて、民間の医療保険や特約を利用している場合は給付金を受け取れる可能性があります。入院給付金や手術給付金、特定疾病の追加保障など、契約内容に応じて適用を受けられます。

次のリストに民間保険でチェックすべき項目を挙げます。

  • 入院日額給付金の条件と支給期間
  • 手術給付金が対象となる手術の範囲
  • 特定疾病保障の対象に肺血栓塞栓症が含まれるか
  • 先進医療特約の内容

保険適用や治療費の負担が大きいと感じた場合は、市町村の福祉サービスや医療費助成制度についても調べておくとよいでしょう。

医療費負担の面で不安を抱えずに治療へ専念するためにも、あらかじめ制度や保険内容を知っておくことが大切です。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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