深部静脈血栓症(DVT)とは、主に下肢の深部静脈に血栓(血のかたまり)が形成され、血流を阻害してしまう病気です。
ときに肺へと血栓が移動し、肺塞栓症を引き起こすこともあり、適切な治療をしないと生命に関わる危険性もはらんでいます。
近年は、長時間のデスクワークやフライトなどによる「エコノミークラス症候群」が注目され、DVTへの理解がさらに進んでいます。
しかしながら、初期症状が乏しい場合も少なくないため、早期発見と早期治療を目指すためには、病型や原因、治療方法などの全体像をよく知っていただくことが大切です。
深部静脈血栓症(DVT)の病型
急性DVTと慢性DVT
深部静脈血栓症は血栓ができてからの経過時間や病態によって「急性」と「慢性」に大きく区分されることがあります。急性DVTでは、比較的短期間のうちに下肢の腫脹・痛みなどの症状が強く現れるのが特徴です。
一方で、慢性DVTでは血栓が生じてから長期間にわたって下肢の血流障害が続き、皮膚の色素沈着や静脈瘤など長期的な変化をともなうことがあります。
近位性と遠位性の違い
深部静脈血栓症を患う部位も、その後の経過や重症度に影響する要素の一つです。
たとえば、大腿静脈や腸骨静脈など体幹部に近い箇所に生じる近位性DVTの方が、ヒラメ筋静脈など下肢の末梢に近い箇所に生じる遠位性DVTよりも肺塞栓へ移行しやすく、重症化のリスクが高いとされています。
下肢が突然パンパンに腫れたように感じたり、痛みが急激に増した場合には、近位性DVTを疑う必要が高まります。
危険度の分類
深部静脈血栓症の危険度は、臨床的にさまざまな要因を考慮して分類されます。患者さんの既往歴や基礎疾患、血栓ができている部位や広がりなどを踏まえて、高リスク・中リスク・低リスクといった形で治療方針や管理体制が検討されます。
治療戦略を立てるうえでこのリスク分類は非常に重要で、場合によっては入院による強力な抗凝固療法が必要と判断されることもあります。
特殊な病型
一部には、生まれつき血液凝固にかかわるタンパク質の遺伝的異常を持っているケースや、悪性腫瘍に伴うTrousseau症候群と呼ばれる特殊な病態で深部静脈血栓症を発症するケースもあります。
これらの場合、通常の治療に加えて基礎疾患へのアプローチが欠かせません。特に悪性腫瘍が根底にある場合は、血栓が再発しやすい傾向があるため、長期的な見通しをもって慎重に治療計画を立てることが大切です。
- 病型の把握が重要な理由
- 治療方針が異なる
- 重症化リスクの差が大きい
- 長期合併症の可能性が変動
下記の表は、深部静脈血栓症の主な病型をまとめたものです。急性期・慢性期や近位性・遠位性による特徴を対比することで、病態を整理する一助となります。
病型 | 特徴 | 代表的な症状 | 重症度傾向 |
---|---|---|---|
急性DVT | 血栓形成後短期間で発症 | 急な下肢痛・腫脹 | 肺塞栓への移行が懸念 |
慢性DVT | 血栓が長期間残存 | 色素沈着・皮膚変化 | 長期的合併症に注意 |
近位性DVT | 大腿・腸骨静脈など体幹側 | 痛み・腫れが強い | 肺塞栓リスクが高い |
遠位性DVT | ヒラメ筋静脈など抹消側 | 時に症状が軽微 | 軽度の場合もあるが要注意 |
特殊病型 | 遺伝性素因・悪性腫瘍関連等 | 繰り返す血栓症など | 合併症・再発リスクが高い |
深部静脈血栓症(DVT)の症状
下肢の腫脹
下肢が急激にむくんだり、左右差を伴って大きく腫れ上がることはDVTを示唆する重要なサインの一つです。とくに片脚だけ極端に腫れる場合は注意が必要です。腫脹に加えて熱感や皮膚の色の変化などがあれば、さらに疑いが高まります。
足首からふくらはぎの痛み
DVTで特に多いのが、足首やふくらはぎ付近に痛みを感じるという症状です。歩行時や下肢に圧力をかけたときに、筋肉痛や引きつるような痛みが生じやすくなります。
痛みの程度は個人差がありますが、普段の筋肉痛とは明らかに異なる場合も多いとされます。
皮膚の色調変化
皮膚が赤紫色になったり、青黒く変色することがあります。血流が阻害されてうっ血を起こすため、このように色調変化が表面化するのです。特に急性期には、腫脹とあわせて皮膚の色の変化を確認することが有用です。
呼吸困難(肺塞栓を疑う場合)
深部静脈血栓症は、下肢の血栓が肺の血管に飛ぶことで肺塞栓症を引き起こす危険があります。その際、突然の呼吸困難や胸痛、意識レベルの低下といった深刻な症状が現れることがあります。
少しでも呼吸の苦しさや動悸などが急激に悪化した場合は、緊急性が高いと考えられます。
- 典型的な症状のキーポイント
- 片脚に限局した腫脹
- 歩行時のふくらはぎ痛
- 皮膚変色(紅斑、色素沈着など)
- 急な呼吸困難(肺塞栓の可能性)
次の表は、深部静脈血栓症の症状を部位ごとにまとめたものです。症状の出方は個人差がありますが、おおまかな傾向をつかむためにご活用ください。
症状・部位 | 主な症状の特徴 | 注意点 |
---|---|---|
ふくらはぎ~足首 | 痛み・張り感、圧痛 | 歩行や足首の曲げ伸ばしで痛みが増すことあり |
大腿部 | 腫脹・重さ | 触診時の圧痛や熱感 |
皮膚の変化 | 赤紫色~青黒色の変色、皮膚が熱くなる | 血流障害が顕著になると色調変化が顕著 |
呼吸困難・胸痛 | 肺塞栓を疑う重篤症状 | 速やかな救急対応が必要 |
深部静脈血栓症(DVT)の原因
血液凝固機能の亢進
人間の体には、出血したときに血液を固める凝固機構が備わっていますが、この機能が何らかの要因で過度に働くと深部静脈に血栓が形成されやすくなります。
たとえば、遺伝的に凝固因子のバランスが崩れやすい人や、悪性腫瘍に伴う凝固亢進状態などが該当します。
血流の停滞
長時間座りっぱなしの姿勢や、ケガや手術後の安静などで下肢の血流が停滞すると、DVTのリスクが大きく高まります。筋肉の収縮運動が不足して静脈還流が悪くなり、結果的に血液の粘度が高まり血栓形成につながるのです。
飛行機や新幹線などでの長距離移動が多い方には特に注意が促されています。
静脈壁のダメージ
静脈の内壁が損傷すると、血小板などが集まりやすくなり血栓が形成されるリスクが高まります。外傷や手術、カテーテル挿入などが原因になることもあります。
血管壁は非常に繊細な組織であり、一度ダメージを受けると回復まで時間がかかります。
生活習慣・環境要因
喫煙、肥満、過度なアルコール摂取、運動不足など、生活習慣の乱れもDVTの重要なリスクファクターです。また、妊娠中はホルモンバランスの変化や下大静脈の圧迫などが影響して血栓ができやすくなります。
さらに、高齢化によって血流や血管の弾力性が低下し、DVTのリスクが高まることも見逃せません。
- 主なリスク要因一覧
- 長時間の座位(フライト、デスクワーク等)
- 肥満・喫煙・アルコール過多
- 妊娠・経口避妊薬の使用
- 外傷・手術・カテーテル挿入
以下の表に、主な原因やリスク因子をカテゴリーごとにまとめました。どこに注意すればよいかを知るうえで有用です。
カテゴリー | 具体例 | 注意点 |
---|---|---|
凝固亢進状態 | 遺伝性(Factor V Leidenなど)、悪性腫瘍 | 遺伝カウンセリングや腫瘍の精査が必要 |
血流停滞 | 長期安静、長距離移動、デスクワーク | 適度なストレッチやウォーキングを心がける |
静脈壁損傷 | 外傷、手術、カテーテル挿入 | 医療行為後はこまめに経過観察を行う |
生活習慣要因 | 肥満、喫煙、運動不足、妊娠、ホルモン療法 | 生活習慣の改善や専門家への相談が重要 |
深部静脈血栓症(DVT)の検査・チェック方法
血液検査(Dダイマー検査など)
DVTを疑ったら、まず血液検査のDダイマー測定がよく行われます。Dダイマーとは、血栓が分解された際に生じるタンパク質の断片で、これが高値であれば血栓ができている可能性が高まります。
ただし、Dダイマーは他の病気でも上昇する可能性があるため、精密検査の前段階のスクリーニングとして活用されることが多いです。
画像診断(エコー・超音波検査)
下肢の静脈を視覚化し、血栓の存在を確認するうえで超音波検査(エコー)は非常に有用です。非侵襲的かつ簡便に行えるため、DVTの診断の第一選択となることが一般的です。
血管を圧迫したときの反応や血流の有無、血栓らしき陰影をチェックすることで診断に近づけます。
造影検査(静脈造影、CT・MRI造影)
超音波検査だけでははっきりしない場合や、より正確な位置や大きさを知りたい場合には造影検査が行われます。静脈造影やCT、MRIで血管内に造影剤を注入し、血流の途絶部位や血栓の大きさを詳細に把握することが可能です。
特に肺塞栓が疑われるケースでは、胸部CTなどの画像検査が重要になります。
リスク評価スコア
臨床の現場では、患者さんの症状や既往歴、検査結果などを総合的に評価するリスクスコアを用いることもあります。
ウェルズスコアなどが代表例で、項目ごとに点数を加算して総合評価することで、DVTの可能性の高さを推定します。このスコアは診断の補助として役立ちますが、最終的には画像検査などの客観的な検証が必要です。
- 検査時の注意点
- Dダイマー検査のみでは確定診断にならない
- 超音波検査はオペレーターの熟練度が診断精度に影響
- リスクスコアは補助的ツールとして利用
下記の表では、DVTの診断に用いられる主な検査方法を一覧にしています。各検査の特徴や利点・注意点を理解していただくと、実際に受診する際の不安軽減につながるでしょう。
検査名 | 特徴 | 利点 | 注意点 |
---|---|---|---|
Dダイマー検査 | 血栓分解生成物を測定 | スクリーニングに有用 | 高値でも他疾患で上昇する可能性がある |
超音波検査(エコー) | 非侵襲的で簡便 | 繰り返し行いやすい | 技術や経験が診断精度に影響 |
静脈造影 | 血管に造影剤を注入し、血栓の位置を確認 | 正確な部位と大きさが把握できる | 侵襲的であり造影剤アレルギーのリスクあり |
CT/MRI造影 | 全身状態や肺塞栓の有無も評価可能 | 多面的な情報が得られる | 放射線被曝(CT)や検査費用が高額 |
深部静脈血栓症(DVT)の治療方法と治療薬について
抗凝固療法(ワルファリン、DOACなど)
DVTの治療において最も中心的な位置を占めるのが抗凝固療法です。血液を固まりにくくする薬を投与し、新たな血栓形成や既存血栓の拡大を防ぎます。
従来より使用されてきたワルファリンは、ビタミンKと拮抗することで凝固因子の産生を抑制する薬ですが、近年はDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)と呼ばれる薬剤も広く普及しています。
DOACはワルファリンに比べて食事制限が少なく、効果発現が安定しているなどのメリットがあります。
血栓溶解療法
血栓を直接溶解させるための薬剤(血栓溶解薬)を使用する治療法です。急性期で重症のDVTや肺塞栓を合併しているケースでは、血行動態を早急に改善するために選択されることがあります。
ただし、出血リスクが高まるため、十分なモニタリングが必要です。
下大静脈フィルター留置
肺塞栓のリスクが極めて高いと判断された場合や、抗凝固療法ができない(出血リスクが大きいなどの理由)場合には、下大静脈フィルターと呼ばれるデバイスを血管内に置くことがあります。
このフィルターが血栓を一時的に捕捉し、肺に到達するのを防ぐ仕組みです。ただし、フィルターそのものの合併症リスクや、長期間留置した場合の問題などもあるため、慎重に検討されます。
弾性ストッキング・圧迫療法
下肢への圧迫を利用して静脈還流を促進し、血栓の形成や進展を抑える目的で、弾性ストッキングなどの着用が推奨されます。血行動態を改善することで、腫脹や痛みの軽減につながることが期待できます。
また、日常生活で適度に足を動かすことも血栓予防には有効です。
- 治療のポイントまとめ
- 抗凝固療法はDVT治療の根幹
- 重症例には血栓溶解療法や下大静脈フィルター留置も検討
- 弾性ストッキングは日常的に取り入れる
下記に、主なDVT治療薬の概要をまとめた表を示します。服薬管理や食事制限など、患者さん自身が気をつけるポイントを把握しておきましょう。
治療薬 | 作用機序 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
ワルファリン | ビタミンKを阻害し凝固因子産生を抑制 | 長い実績、安価 | 食事制限が必要、定期的な血液検査が必須 |
DOAC(直接経口抗凝固薬) | 第Xa因子やトロンビンを直接阻害 | 食事制限が少なく、効果が安定 | 保険適用範囲が限定される場合がある、出血時の対処に注意 |
低分子ヘパリン | トロンビンなどを可逆的に阻害 | 即効性に優れ、モニタリングが簡便 | 注射剤のため外来での自己注射が必要な場合あり |
血栓溶解薬 | 血栓を直接分解 | 血流を早急に改善できる場合がある | 出血リスクが高いため適応に制限あり |
深部静脈血栓症(DVT)の治療期間
急性期の治療
急性期には抗凝固療法を中心とした治療を開始し、血栓の拡大や肺塞栓を防ぐことを最優先に行います。この段階では、入院や頻回な検査・モニタリングが必要になるケースが多いです。
急性期治療は数日から数週間をめどに集中的に進められ、その間に治療効果や患者さんの出血リスクを考慮しながら薬剤の種類や投与量を調整します。
抗凝固療法の維持期
急性期を乗り越えた後は、再発予防を目的とした維持期の抗凝固療法が続きます。維持期は症状や基礎疾患、リスク因子の強さなどにより、数か月から1年以上におよぶことも珍しくありません。
特に、がんや遺伝的要因で血栓ができやすい人は、長期にわたり治療が必要な場合があります。
弾性ストッキング着用の期間
弾性ストッキングをどれくらいの期間着用するかは個別に異なりますが、急性期から維持期、さらに完治後もしばらくの間は継続した方がよい場合があります。
これは下肢の血流を改善し、再発やポストサイロティック症候群(血栓後症候群)を予防するためです。
治療終了の判断
治療をいつ終わらせるかは、医師が再発リスク、出血リスク、患者さんのQOLなどを総合的に評価して決定します。
最終的な血栓の消失や症状の改善を確認したうえで治療終了となる場合が多いですが、慢性DVTで血栓が完全には消えないケースもあります。その際には引き続き血栓が大きくならないようコントロールを続けます。
- 治療期間に影響する要素
- 血栓の大きさや部位
- 患者さんの基礎疾患(がんなど)
- 出血リスクと再発リスクのバランス
- 医師と患者さんの協力による経過観察
以下の表は、一般的な治療期間の目安を示したものです。あくまで参考ですが、実際には患者さん個々の状態や合併症によって大きく異なることがあるため、主治医としっかり相談されることをおすすめします。
状況・背景 | 治療期間の目安 | 主な治療内容 |
---|---|---|
初回発症・明確なリスクあり | 3~6か月程度の抗凝固療法 | ワルファリンまたはDOACなど |
慢性DVT・繰り返し再発 | 6か月~長期(1年以上) | 長期的な抗凝固療法・継続的なモニタリング |
がんや遺伝的要因あり | 原因疾患の状態が続く限り | 抗凝固・基礎疾患への治療を並行 |
手術後の予防投与 | 数日~数週間 | 低分子ヘパリンや弾性ストッキング着用など |
深部静脈血栓症(DVT)薬の副作用や治療のデメリットについて
出血リスク
抗凝固療法で最も懸念される副作用が出血リスクの増大です。ワルファリンやDOACなどの抗凝固薬は血液を固まりにくくするため、ケガによる出血や内出血が起こりやすくなります。
特に脳出血や消化管出血といった重大な出血を起こす可能性もゼロではありません。
ワルファリンの食事制限
ワルファリンを使用する場合、ビタミンKを多く含む食品(例えば緑黄色野菜など)の摂取に制限がかかることがあります。
ビタミンKは凝固因子の生成に関与しているため、ワルファリンの効果に影響を与えかねません。食事指導を受けながら摂取量を管理する必要があります。
DOACの課題
近年はDOACが広く使用されるようになり、食事制限の少なさや定期的な血液検査が不要などメリットもありますが、重大な出血が生じた場合の解毒薬が十分に普及していなかったり、疾患や併用薬によっては使用制限があるなどの課題もあります。
保険適用範囲が薬剤によって異なる場合もあるため、処方される際は主治医としっかり相談することが大切です。
フィルター留置に伴う合併症
下大静脈フィルターを留置するケースでは、フィルター自体が血栓の原因になったり、フィルター周辺で血流障害が起きるリスクが指摘されています。
また、長期間の留置によるカテーテル関連合併症も報告されており、メリット・デメリットのバランスを検討する必要があります。
- 治療デメリットのまとめ
- 出血リスクが避けられない
- 薬剤による食事・生活への制限
- フィルター留置などは手技リスクもある
次の表では、抗凝固療法の主な副作用と対応策を示しています。症状が出たときにどのように対処すべきか、あらかじめ理解しておくと安心です。
副作用・リスク | 具体例 | 対応策 |
---|---|---|
軽度の出血 | 歯茎からの出血、皮下出血(あざ)など | 症状が続く場合は医療機関に相談 |
重度の出血 | 脳出血、消化管出血、血尿など | 速やかに救急外来を受診。解毒薬や輸血が検討される |
ワルファリンの食事制限 | 緑黄色野菜の摂取量管理 | 管理栄養士や主治医の指導のもとで調整 |
DOACの使用制限 | 透析患者など適応外の場合がある | 代替薬を検討し、併用薬との相互作用を確認 |
深部静脈血栓症(DVT)の保険適用と治療費
保険適用の範囲
日本国内の医療保険制度では、深部静脈血栓症の治療に用いる抗凝固薬や血栓溶解薬、関連する検査や入院費などが保険適用となるのが一般的です。
ただし、新薬や特殊な治療デバイス(下大静脈フィルターなど)は保険適用外の場合や一部制限が設けられていることもあります。
自己負担額
保険が適用される治療でも、患者さんの年齢や収入、保険の種類によって自己負担割合が異なります。一般的に、現役世代であれば3割負担、高齢者医療制度などを利用している場合は1~2割負担となる場合が多いです。
さらに、高額療養費制度を活用することで、一定の金額以上の医療費については負担が軽減されます。
治療費の目安
DVTの治療費は、入院の有無や治療内容によって大きく異なります。
たとえば、軽症の場合は外来通院で済むこともありますが、重症で下大静脈フィルター留置などの高額な医療処置が必要となる場合は、数十万円以上の費用がかかるケースもあります。
継続的な抗凝固療法で使用される薬剤の薬価も様々で、毎月の薬剤費が数千円から数万円と幅広いです。
公的支援制度の活用
経済的な負担が大きい場合には、高額療養費制度のほかにも、介護保険や障害者手帳の交付を受けられる場合があるなど、公的支援制度を検討することが重要です。
たとえば、重い合併症を持つ患者さんで就労が困難になった場合には、自治体の福祉制度を活用できる可能性があります。
- 保険・費用で知っておきたいポイント
- 保険適用範囲を事前に確認
- 高額療養費制度の活用で自己負担軽減
- 新薬・特殊デバイスは適用外のケースも
- 公的支援制度の情報収集が重要
下記の表は、保険適用と治療費の関係をおおまかに示したものです。実際の金額は個々の状況によりますので、医療機関や保険者、自治体の窓口などへご相談ください。
項目 | 内容 | 自己負担割合の目安 |
---|---|---|
抗凝固薬(ワルファリン/DOAC) | 保険適用あり。ただしDOACによっては適応条件に制限がある | 1~3割負担 |
血栓溶解療法 | 病状に応じて保険適用 | 1~3割負担 |
下大静脈フィルター留置 | 保険適用外となるケースや特定の条件下のみ適用の場合あり | 条件次第で3割または全額負担 |
検査費用(エコー、CT等) | 基本的に保険適用 | 1~3割負担 |
入院費 | 病棟の種類や食事代、個室利用によって変動 | 高額療養費制度の利用可能 |
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
深部静脈血栓症(DVT)は、時に生命を脅かす肺塞栓につながる深刻な病気です。しかし、近年の医療の進歩により、早期発見と適切な治療で予後を良好に保つことが十分に期待できます。
本記事が、深部静脈血栓症の病型や症状、検査や治療、そして費用面に至るまで包括的に把握する一助となれば幸いです。治療期間や治療薬の選択は患者さん一人ひとりの状況に合わせて柔軟に変化するため、主治医とのコミュニケーションを大切にしていただければと思います。
本記事を通じて、より安心して医療を受けられるようになり、深部静脈血栓症を正しく理解して日々の生活に役立てていただけたら幸いです。どうか異変に気づいた時には早めに受診し、正しい対応を取るよう心がけてください。
以上
参考文献
FUJITA, Satoru, et al. Deep venous thrombosis after total hip or total knee arthroplasty in patients in Japan. Clinical Orthopaedics and Related Research®, 2000, 375: 168-174.
SAKUMA, Masahito, et al. Venous Thromboembolism Deep Vein Thrombosis with Pulmonary Embolism, Deep Vein Thrombosis Alone, and Pulmonary Embolism Alone. Circulation Journal, 2009, 73.2: 305-309.
MIYATA, Toshiyuki, et al. Genetic risk factors for deep vein thrombosis among Japanese: importance of protein S K196E mutation. International journal of hematology, 2006, 83: 217-223.
NAKAMURA, Mashio, et al. Current venous thromboembolism management and outcomes in Japan–nationwide the japan venous thromboembolism treatment registry observational study–. Circulation Journal, 2014, 78.3: 708-717.
KIMURA, Rina, et al. Protein S–K196E mutation as a genetic risk factor for deep vein thrombosis in Japanese patients. Blood, 2006, 107.4: 1737-1738.
INADA, Kiyoshi, et al. Postoperative deep venous thrombosis in Japan: incidence and prophylaxis. The American Journal of Surgery, 1983, 145.6: 775-779.
KINOSHITA, Sachiko, et al. Protein S and protein C gene mutations in Japanese deep vein thrombosis patients. Clinical biochemistry, 2005, 38.10: 908-915.
KAWASE, Kayoko, et al. Sex difference in the prevalence of deep-vein thrombosis in Japanese patients with acute intracerebral hemorrhage. Cerebrovascular diseases, 2009, 27.4: 313-319.
SUDO, A., et al. The incidence of deep vein thrombosis after hip and knee arthroplasties in Japanese patients: a prospective study. Journal of orthopaedic surgery, 2003, 11.2: 174-177.
MIYATA, Toshiyuki, et al. Prevalence of genetic mutations in protein S, protein C and antithrombin genes in Japanese patients with deep vein thrombosis. Thrombosis research, 2009, 124.1: 14-18.