洞不全症候群(SSS)

洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome:SSS)とは、心臓のペースメーカーである洞結節の機能低下により、心拍数が異常に遅くなったり、速くなったりする不整脈です。

徐脈や心停止、時には頻脈を伴い、めまいや失神、けいれんなどの症状が現れますが、中には全く自覚症状がない方もいらっしゃいます。

目次

洞不全症候群(SSS)の病型

洞不全症候群(SSS)は、Rubenstein分類により、I型、II型、III型の3つの病型に分類されています。

I型:洞徐脈

洞結節の興奮が、50回/分以下に低下する病態を指します。

病型心拍数症状
正常60~100回/分なし
I型SSS50回/分以下めまい、倦怠感など

II型:洞停止または洞房ブロック

II型は、洞結節からの刺激が突然休止する洞停止と、洞結節から心房筋への刺激伝導がブロックされる洞房ブロックを含む病型です。

病型特徴症状
洞停止数秒間の心拍停止めまい、失神など
洞房ブロック洞結節の刺激が心房に伝わらない動悸、息切れなど

III型:徐脈頻脈症候群

心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍などの頻脈性不整脈と、徐脈が合併する病態を指します。頻拍発作が停止した際に洞結節の機能回復が遅れるため、一過性の徐脈や心停止を引き起こします。

病型合併する不整脈症状
III型SSS心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍など動悸、めまい、失神など

重症例では心停止により意識消失発作(Adams-Stokes発作)を起こすリスクがあるため、治療介入が必要とされる病態であると言えるでしょう。

重症度リスク
軽症日常生活に支障なし
中等症失神、外傷のリスク
重症意識消失発作、突然死のリスク

洞不全症候群(SSS)の症状

洞不全症候群(SSS)では、動悸や息切れ、めまい、失神などの症状が起こります。

動悸・息切れ

洞不全症候群(SSS)では、心拍数の異常により動悸や息切れが症状として現れます。安静時においても症状が出現することがあり、日常生活に影響が出る場合もあります。

症状特徴
動悸突然の心拍数の上昇や不規則な心拍を自覚する
息切れ軽い運動でも呼吸困難を感じる

めまい・失神

心拍数の低下により脳への血流が減少し、めまいや失神を引き起こすことがあります。

症状特徴
めまい立ちくらみや回転性のめまいを感じる
失神突然の意識消失により転倒する

胸部不快感・胸痛

心拍数の変動により、胸の締め付け感・圧迫感などの胸部不快感や、胸痛を感じることがあります。

洞不全症候群(SSS)の原因

洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome:SSS)は、心臓の右心房にある洞結節(洞房結節とも呼ばれます)の機能異常により、心拍数の調節が適切に行われなくなってしまう不整脈疾患です。

洞結節の機能心拍数への影響
正常60〜100拍/分
機能低下徐脈(脈が遅くなること)、不整脈

その原因は多岐にわたりますが、主なものとして、加齢による洞結節の変性、虚血性心疾患による洞結節の障害、自律神経系の異常などが挙げられます。

洞結節の役割

洞結節とは、心臓の右心房に位置しており、心臓の拍動のリズムを司るペースメーカー細胞(心臓のリズムを作り出す特殊な細胞)の集まりのことを指します。

洞結節が正常に機能していれば、心拍数は安静時で1分間に60〜100拍程度に保たれます。ところが、何らかの原因で洞結節の機能が低下してしまうと、心拍数が異常に遅くなったり、不規則になったりしてしまうのです。

加齢に伴う洞結節の変性が原因となるケース

加齢に伴い、洞結節の細胞は徐々に変性していきます。これが原因となって、洞結節のペースメーカー機能が低下し、SSSを発症するリスクが上昇します。

80歳を超える高齢者の方には、特に明らかな心臓の病気がないにもかかわらず、著明な徐脈を呈する方が少なくありません。
こうした患者さんの多くは、加齢による洞結節の変性が原因であると考えられます。

虚血性心疾患による影響

虚血性心疾患、特に心筋梗塞は、洞結節への血流を低下させ、その機能を障害してしまう可能性があります。

心筋梗塞の発生部位や範囲によっては、洞結節への血流が著しく減少してしまい、重篤なSSSを引き起こしてしまうこともあり得ます。

虚血性心疾患の種類洞結節への影響
心筋梗塞血流低下、機能障害
狭心症一過性の血流低下

自律神経系の異常による影響

洞結節の機能は、自律神経系(体の活動を無意識に調節する神経系)によって調節されています。そのため、自律神経系の異常、特に副交感神経の緊張が高まり過ぎてしまうと、徐脈を引き起こしてしまうことがあります。

SSSを発症する可能性のある自律神経系の異常

  • 甲状腺機能低下症
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 迷走神経反射の亢進

洞不全症候群(SSS)の検査・チェック方法

洞不全症候群(SSS)の診察では、心電図検査やホルター心電図検査、運動負荷心電図検査、心エコー検査、電気生理学的検査などを実施していきます。

病歴聴取・身体所見

洞不全症候群(SSS)が疑われる患者さんに対しては、まず、動悸、息切れ、胸部不快感、めまい、失神などの症状について、その有無や持続時間、頻度、誘因などを確認していきます。

また、身体所見では、脈拍数や脈の不整、心雑音の有無などを調べます。

心電図検査・ホルター心電図検査

安静時心電図では、洞徐脈、洞停止、洞房ブロック、心房細動などの不整脈が見られることがあります。

心電図所見特徴
洞徐脈心拍数が1分間に60回未満の状態
洞停止洞結節からの興奮が一時的に停止する現象

ホルター心電図検査は、日常生活中の不整脈の有無や頻度、持続時間などを評価できる検査です。洞不全症候群(SSS)の患者さんでは、日内変動が大きく、夜間の徐脈と日中の頻脈を認めることが多いのが特徴です。

検査評価項目
ホルター心電図検査日常生活中の不整脈の有無、頻度、持続時間など
運動負荷心電図検査運動時の心拍数の変化、不整脈の出現など

運動負荷心電図検査と心エコー検査

運動負荷心電図検査では、運動時の心拍数の変化や不整脈の出現について評価を行います。

洞不全症候群(SSS)の場合、運動時の心拍数増加が不十分であったり、運動中に心房細動などの不整脈が出現したりすることがあります。

また、心エコー検査では、心臓の構造や機能を評価します。洞不全症候群(SSS)の患者さんでは、心機能自体は保たれていることが多いですが、心房や心室の拡大が見られることもあります。

検査評価項目
心エコー検査心臓の構造、心機能など
電気生理学的検査洞結節機能、房室伝導機能など

電気生理学的検査

電気生理学的検査では、洞結節回復時間や修正洞結節回復時間の延長、房室ブロックの有無などを詳しく評価します。

電気生理学的所見特徴
洞結節回復時間の延長洞結節の自動能が低下している状態
修正洞結節回復時間の延長洞結節の自動能と房室伝導能がともに低下している状態

洞不全症候群(SSS)の治療方法と治療薬について

洞不全症候群(SSS)の治療では、薬物療法やペースメーカー植え込み術が主な選択肢となります。

薬物療法

薬物療法では、洞結節の機能を改善する薬剤や、心拍数を調整する薬剤を使用します。

代表的な薬剤

薬剤名効果
アトロピン洞結節の機能改善
イソプレナリン心拍数の増加
β遮断薬心拍数の調整と不整脈の抑制
カルシウム拮抗薬心拍数の調整と不整脈の抑制

ペースメーカー植え込み術

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重症の洞不全症候群の患者さんに対しては、ペースメーカー植え込み術が検討されます。

ペースメーカーは、洞結節の機能を補助し、適切な心拍数を維持するための医療機器です。ペースメーカー植え込み術には、以下のような種類があります。

  • 単腔ペースメーカー(心房または心室のどちらかにリードを留置)
  • 二腔ペースメーカー(心房と心室の両方にリードを留置)
  • 三腔ペースメーカー(心房、心室、左室にリードを留置)
ペースメーカーの種類適応
単腔ペースメーカー洞不全症候群(軽症〜中等症)
二腔ペースメーカー洞不全症候群(中等症〜重症)、房室ブロックを合併
三腔ペースメーカー重症心不全を合併する洞不全症候群

ペースメーカー植え込み後の管理

ペースメーカー植え込み後は、定期的な管理が必要です。ペースメーカーの設定や電池の状態などを確認し、必要に応じて調整を行います。

管理項目頻度
ペースメーカーの設定確認3〜6ヶ月ごと
電池の状態確認6〜12ヶ月ごと
リードの状態確認6〜12ヶ月ごと
ペースメーカーポケットの確認3〜6ヶ月ごと

洞不全症候群(SSS)の治療期間

洞不全症候群(SSS)の治療にかかる期間は、お体の状態や選択された治療法によってさまざまですが、おおむね数週間から数ヶ月程度を要することが一般的です。

薬物療法における治療期間の目安

薬の種類服用期間
抗不整脈薬数週間~数ヶ月程度
抗凝固薬長期間(ケースによっては一生涯)

薬物療法の効果が十分でない場合や、副作用が生じた場合には、治療期間が当初の予定よりも延長してしまうことがあります。

ペースメーカー治療に要する治療期間

治療の段階所要期間
手術数時間
入院数日間
術後管理数週間~数ヶ月

薬の副作用や治療のデメリットについて

洞不全症候群(SSS)の治療薬は、めまい、動悸、頭痛などの副作用を起こす可能性があります。また、ペースメーカー手術には、感染症やリード線のトラブルなどのリスクが伴います。

ペースメーカー植え込み術に伴う合併症のリスク

ペースメーカー植え込み術には、感染、リード(ペースメーカーと心臓をつなぐ電極)の位置ずれ、血腫、気胸などが発生する可能性があります。

合併症の種類発生率
感染1-2%
リードの位置ずれ1-3%
血腫2-5%
気胸1%未満

薬物療法に伴う副作用

薬剤の種類主な副作用
β遮断薬気管支喘息、低血圧、徐脈、疲労感
カルシウム拮抗薬便秘、浮腫、頭痛、めまい
ジギタリス製剤食欲不振、吐き気、視覚障害、不整脈

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

洞不全症候群(SSS)の治療は、公的医療保険の適用対象となります。

項目自己負担割合
70歳未満30%
70歳以上75歳未満(現役並み所得者を除く)20%
75歳以上(現役並み所得者を除く)10%

ペースメーカー植込み術の費用の目安

  • 手術費用:約120万円~180万円
  • ペースメーカー本体:約60万円~120万円
  • 入院費用:約25万円~35万円(1週間程度の入院を想定)

総費用は約200万円~300万円程度となりますが、公的医療保険の適用により、自己負担額は減額されます。

ペースメーカー交換の費用

ペースメーカーは電池切れなどにより、一定期間ごとに交換する必要があります。

項目費用
ペースメーカー本体約60万円~120万円
手術費用約35万円~60万円
入院費用約12万円~25万円(2~3日程度の入院を想定)

その他の治療法の費用

  • 薬物療法:月額5,000円~15,000円程度
  • カテーテルアブレーション:約120万円~250万円

上記の治療法も、公的医療保険の適用対象となります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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