エレクトロポレーションとイオン導入は美容成分を肌の奥に浸透させる点が同じですが、仕組みや特徴、効果が異なります。
当ページでは、エレクトロポレーションとイオン導入の仕組みや効果の違い、料金や併用の有無について皮膚科専門医が解説しています。
安全性や副作用リスク、併用する際の注意点もまとめていますので、エレクトロポレーションとイオン導入が気になっている方はぜひ参考にしてください。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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エレクトロポレーションとイオン導入の基本原理
エレクトロポレーションとイオン導入は、どちらも電気の力で美容成分を浸透させるのが共通点ではありますが、基本原理が大きく違います。

従来エレクトロポレーション(電気穿孔法)は遺伝子の実験に利用されてきましたが、現在は美容医療、がん治療としても行われています。
エレクトロポレーションは美容成分の通り道をつくる

エレクトロポレーションは、電気パルスを肌に当てて細胞膜に一時的な孔(あな)を開け、美容成分を浸透させる施術です。
肌に塗っただけでは細胞膜がバリアとなって浸透しない成分も、通り道がつくられるので効率的に肌に浸透していきます。
針やレーザーで皮膚に微細な孔を開ける施術とは異なり、電気の力で分子の再配置を起こすものです。細胞膜にできた孔はすぐに修復されますので、肌を傷つけずに行えるのが魅力といえます。
イオン導入は美容成分を押し込む

イオン導入は、肌に微弱な電気を流して美容成分を肌の内部に浸透させる施術です。
エレクトロポレーションでは細胞膜に孔を開けて美容液を浸透させやすくするのに対し、イオン導入はイオンの特徴を利用して肌の内部に美容成分を押し込みます。
イオンとは原子がプラス(正)またはマイナス(負)の電気を帯びた状態で、プラスイオン同士、マイナスイオン同士は磁石の同極のように反発しあう特徴があります。
エレクトロポレーションとイオン導入の特徴と適用範囲の違い
エレクトロポレーションとイオン導入は1回でも肌の変化がみられますが、継続することでより治療効果を実感していただけます。
エレクトロポレーションの特徴と導入できる成分
エレクトロポレーションには、どのような成分でも肌に浸透させられる特徴があります。
そのため適応となる症状も幅広く、しみ・そばかす、ニキビ跡、肝斑、赤ら顔・酒さ、しわ、毛穴に効果的です。
エレクトロポレーションでよく使用される美容成分
美容成分 | 効果 |
---|---|
プラセンタ | 保湿 メラニン生成を抑える ターンオーバーの促進 肌荒れ防止(表皮細胞の活性化) コラーゲン産生の促進 |
ヒアルロン酸 | 保湿 |
ビタミンC | 美白 抗酸化 ターンオーバーの促進 抗炎症 過剰皮脂の分泌抑制 コラーゲン産生の促進 血行促進 |
トラネキサム酸 | メラニン生成を抑える 抗炎症 抗アレルギー |
グリシルグリシン | 保湿 抗炎症 毛穴の開きを改善(角化正常化) |
ナイアシンアミド | ターンオーバーの促進 セラミド生成の促進(バリア機能のアップ) コラーゲン産生の促進 血行促進 |
アセチルヘキサペプチド・ボトックス | しわ改善(筋肉の動きを弱める) |
エクソソーム | ターンオーバーの促進 抗炎症 コラーゲン産生の促進 |
肌のくすみやしみ、肝斑などの肌の色調が気になる場合はビタミンCやトラネキサム酸、酒さや赤ら顔が気になる場合はナイアシンアミドが適しています。
また、毛穴の開きや詰まりにはビタミンCやグリシルグリシン、乾燥が原因の小じわにはヒアルロン酸やプラセンタ、表情じわにはアセチルヘキサペプチドやボトックスが適しています。
単一成分だけの導入もありますが、数種類の成分が配合された「レナトス」や「ペップビュー」といった専用美容液もあり、クリニックによってはオリジナルの美容液を扱うところもあります。

持続期間は数週間から1カ月程度で、目周りや唇のような皮膚の薄い部分にも施術可能です。
イオン導入の特徴と使用できる成分
イオン導入は肌に浸透させられる成分が限られていて、「水溶性、分子量が小さい、イオン化できる」といった3つの条件に当てはまるものが使用されます。
導入する成分によって、しみ、くすみ、ニキビ、ニキビ跡、小じわ、毛穴などに効果が期待できます。
イオン導入で使用できる主な成分
美容成分 | 効果 |
---|---|
ビタミンC | 美白 抗酸化 ターンオーバーの促進 抗炎症 過剰皮脂の分泌抑制 コラーゲン産生の促進 血行促進 |
トラネキサム酸 | メラニン生成を抑える 抗炎症 抗アレルギー |
プラセンタ | 保湿 メラニン生成を抑える ターンオーバーの促進 肌荒れ防止(表皮細胞の活性化) コラーゲン産生の促進 |
グリシルグリシン | 保湿 抗炎症 毛穴の開きを改善(角化正常化) |
塗布した場合に肌に浸透しやすいのは脂溶性の成分です。イオン導入では肌に浸透しにくい水溶性の成分を肌の奥に届けられるのが特徴で、例えば水溶性ビタミンCは脂溶性ビタミンCよりも即効性があるために効果を実感しやすいです。
ビタミンCはイオン導入で扱われる代表格の成分で、しみやくすみ、ニキビや毛穴などの肌悩みを改善する効果があります。

イオン導入の持続期間は1~2週間です。エレクトロポレーションに比べて持続期間が短いものの、定期的に受けると肌状態を良いままで保てます。
効果の比較(浸透深度と吸収効率)

エレクトロポレーションとイオン導入を比べると、エレクトロポレーションのほうが肌の深くまで浸透し、吸収効率も高いと言われます。
塗布でも量を増やせば増やしただけ浸透する量が増えるのかというと、そういう訳ではありません。塗っただけでは肌に吸収できる量には限りがありますので、通常よりも吸収効率を上げたい場合は美容施術を検討しましょう。
浸透深度
皮膚は表面から「表皮、真皮、真皮下層(皮下組織)」といった3つの層になっていて、その下に表情筋があります。
イオン導入で美容成分が浸透する深さは表皮までです。表皮は肌の水分保持や感染からのバリア機能を果たしていて、肌の生まれ変わり(ターンオーバー)が行われる層です。
一方、エレクトロポレーションでは真皮下層まで美容成分を浸透させられます。真皮の約70%を占めているのがコラーゲンで、肌のハリや弾力を保つ役割をしています。
さらに、その下にある真皮下層(皮下組織)は脂肪をつくり蓄える層で、体全体のクッションの役割をしている部分です。
乾燥やくすみ、キメの乱れやツヤ感のなさが気になる方は表皮に作用するイオン導入でも十分に効果を実感できますが、シワや毛穴、ニキビ跡のような真皮にアプローチする必要のある肌悩みを改善したい方はエレクトロポレーションがおすすめです。
吸収効率
ふだんのスキンケアで化粧水や美容液などを肌に塗布したときは、自然に肌に馴染むのを待つような状態かと思います。浸透するまでには時間が必要で、塗った量に対してわずかな量しか吸収されません。
一方、クリニックによる美容施術の吸収効率は、塗布に比べて非常に高いです。
イオン導入では塗布の約30~100倍といわれ、エレクトロポレーションではイオン導入の約20倍の吸収効率となります。
安全性と副作用のリスク評価
「肌に電気を流す」と聞くと危険ではないかと心配になる方もいるかと思いますが、エレクトロポレーションとイオン導入はどちらも安全な施術です。ただし、ある程度の副作用が存在します。

どのような施術を受けるとしても同じですが、事前に安全性や副作用についてもしっかりと理解しておきましょう。
どちらも安全性の高い施術
エレクトロポレーションやイオン導入で扱う電気の強さは、感電を起こすような強さではなく微弱なものです。
肌を傷つける強さではないため、安全性が高いため安心して受けられます。
ただ、導入する美容液が粗悪なものであった場合は、肌トラブルが起きる場合もあります。導入する美容液はクリニックごとに取り扱いが異なり、防腐剤や香料などが肌トラブルにつながってしまう、美容液の保存状態が悪くて性質が変化したために肌が荒れてしまう、といった可能性もゼロではありません。
また、過度な使用・不適切な使用は肌の炎症や過敏症を引き起こすことも考えられますので、適切な間隔を守って信頼できるクリニックで受けるようにしましょう。
副作用やダウンタイム
エレクトロポレーションとイオン導入は、どちらも直後から赤みや腫れ、かゆみやヒリヒリ感が生じる場合があります。
ただ、数時間以内に治まるケースがほとんどで、長い場合でも1~3日ほどで改善しますのでダウンタイムを心配せずに気軽に受けられる施術です。
シャワーや洗顔、メイクも当日から行っていただけて、とくに制限はありません。

万が一、ダウンタイムが3日以上続くときは美容成分に対するアレルギーの可能性がありますので、施術を行ったクリニックに相談するようにしてください。
施術時間と痛みの程度の違い
エレクトロポレーションとイオン導入は、施術時間や痛みといった点ではどちらを選んでも大きな差がありません。
ただし、痛みに関しては、その日の体調やその人の体質によって感じ方が異なることは覚えておきましょう。
施術時間は5~15分
施術自体の時間目安は、エレクトロポレーションが5~15分、イオン導入が10~15分程度です。
実際には、施術前の洗顔を合わせるともう少し時間が増えます。また、イオン導入の施術後に冷却を行う場合はトータルで30分ほど時間を見ておくと良いかと思います。
短い時間で終わるため、他の施術のついでに受ける、空いた時間にサクッと受けるなども可能です。

他の施術との相性が良く、レーザーやIPLとセットで受けるとダウンタイムを軽減する効果も期待できます。
どちらも痛みはほぼない
エレクトロポレーションとイオン導入は、ほとんど痛みを感じずに受けられます。
ただ、エレクトロポレーションは電流を流す際に筋肉がピクピク動くこともあり、皮膚が薄い部分はピリピリといった刺激を感じるケースがあります。
一方、イオン導入は美容成分のイオン化によって肌のpHが変わるため、ピリピリ感が生じる人もいます。
痛みに対して過度な心配はいりませんが、機械でのお手入れに慣れていない方や不安な方は事前にクリニックに相談しておくと安心です。
いくらかかる?コスト面での比較
エレクトロポレーションとイオン導入を比較すると、イオン導入のほうが安い傾向があります。

施術を選択する際は、かかるコストだけでなく効果や持続期間なども総合して検討すると良いでしょう。
値段相場
施術 | 値段相場 |
---|---|
エレクトロポレーション | 1万1000~2万円 |
イオン導入 | 5000~1万5000円 |
エレクトロポレーションもイオン導入も自由診療にあたります。そのため、クリニックごとに価格の幅が広いです。また、導入美容液によっても料金が異なります。
目安としては、エレクトロポレーションが1回1万1000~2万円、イオン導入が5000~1万5000円です。
なかには回数コースのあるクリニックもありますので、上手に利用するとさらにお得に施術が受けられます。
エレクトロポレーションとイオン導入は併用できる?
エレクトロポレーションとイオン導入は併用が可能ですが、浸透深度や吸収効率、効果などを総合的に考えると併用するメリットは少ないかと思います。

料金面や通いやすさなど面からエレクトロポレーションとイオン導入を併用したい場合は、間隔に注意するようにしましょう。
併用する際は間隔に注意が必要
エレクトロポレーションは4週間ごと、イオン導入は2~4週間ごとの施術が目安です。
併用する際には、エレクトロポレーション後のイオン導入は4週間、イオン導入後のエレクトロポレーションは2~4週間空けるようにしましょう。
短い間隔で併用すると良くない理由
短い間隔で施術を受ければより肌がきれいになる訳ではなく、肌に良い成分を浸透させるにしても肌を休める時間は必要です。
肌は自己修復能力によってバリア機能を保ったり代謝を行ったりしています。頻繁に施術を受けると肌本来の防御メカニズムが崩れてしまい、赤みや腫れ、かゆみなどの炎症反応が起こりやすくなります。
肌へ過度な負担をかけてバリア機能を低下させてしまうのを避けるためにも、正しい施術間隔を守るようにしてください。
まとめ
エレクトロポレーションとイオン導入は美容成分を肌に効率的に浸透させる治療法ですが、浸透する肌の深さや吸収効率、導入できる美容液には大きな違いがあります。
正直に言ってしまえば、肌悩みを本格的に改善したい場合はエレクトロポレーションのほうがおすすめです。ただ、扱うクリニックが限られている点はデメリットといえるでしょう。
イオン導入は導入できる成分が限られて表皮までしか浸透しないものの、ふだんのスキンケアに比べて十分な効果が得られます。

エレクトロポレーションとイオン導入のどっちが良いか選べない、自分に合った方法を相談したい、といった方は、ぜひ一度クリニックに足を運んでみてください。
参考文献
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