全身性エリテマトーデス(SLE)(systemic lupus erythematosus)とは、自己免疫疾患の一つで、体内の免疫システムが誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう疾患です。
全身のさまざまな臓器に炎症を起こし、皮膚、関節、腎臓に症状が現れやすい特徴があります。
患者さんの約9割が女性で、発症のピークは20代から30代です。
遺伝的な要因や環境因子が関係していて、典型的な症状は、蝶形紅斑と呼ばれる顔の両頬にかかる発疹や、関節痛、発熱、全身倦怠感などです。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
全身性エリテマトーデス(SLE)の症状
全身性エリテマトーデス(SLE)は、皮膚症状をはじめとして、関節、腎臓、心臓、肺など、全身のさまざまな部位に症状を起こすます。
初期症状の特徴
初期症状として最も多いのが、顔の両頬にかかる蝶形紅斑と呼ばれる特徴的な発疹で、日光に反応して悪化することが多く、紫外線対策が重要です。
全身の倦怠感や発熱も初期から現れやすく、38度前後の微熱が続くことがあり、季節や時間帯を問わず発症します。
初期症状 | 発症頻度 | 特徴 |
蝶形紅斑 | 約60% | 両頬に対称的に出現 |
全身倦怠感 | 約80% | 長期間持続する |
発熱 | 約70% | 微熱が継続 |
関節痛 | 約90% | 複数の関節に出現 |
皮膚症状
皮膚症状は、蝶形紅斑以外にもさまざまな形で現れます。
- 円板状エリテマトーデス(円形の赤い発疹)
- 光線過敏症(日光によって悪化する発疹)
- 口腔内潰瘍(痛みを伴う粘膜の傷)
- 脱毛(まだら状に髪が抜ける)
- 爪周囲の発赤や腫れ
皮膚症状は、季節や環境因子によって症状が変動し、紫外線への曝露は症状を悪化させます。
内臓症状
全身性エリテマトーデス(SLE)は、腎臓、心臓、肺など、様々な臓器に影響を及ぼします。
影響を受ける臓器 | 症状 | 注意すべき点 |
腎臓 | 浮腫、尿異常 | 早期発見が必須 |
心臓 | 動悸、胸痛 | 定期的な検査が必要 |
肺 | 息切れ、胸痛 | 感染症に注意 |
血液 | 貧血、出血傾向 | 定期的な血液検査で確認 |
全身症状
全身症状として、以下のような症状が見られます。
- 疲労感や倦怠感の持続
- 寝汗や微熱の継続
- 食欲不振や体重減少
- 筋力の低下
- 集中力の低下や記憶力の減退
若年層の女性に多く見られ、20代から30代での発症がピークです。症状の進行は一様ではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返します。
多くの患者さんが経験する関節症状は、複数の関節に同時に痛みや腫れが現れ、手指の関節や膝関節に症状が出やすいく、朝方に症状が強くなり、関節のこわばりを感じることもあります。
疲労感や倦怠感は、環境因子やストレスによって増悪するので、定期的な自己観察と体調管理が大切です。
また、紫外線による皮膚症状の悪化を防ぐため、日常的な紫外線対策が重要となります。
全身性エリテマトーデス(SLE)の原因
全身性エリテマトーデス(SLE)は、遺伝的要因と環境因子が関連し合う自己免疫疾患で、免疫システムが自身の細胞や組織を誤って攻撃することにより発症します。
遺伝的要因の関与
全身性エリテマトーデス(SLE)は、HLA(ヒト白血球抗原)遺伝子群の特定の型を持つ人で、発症リスクが高まります。
双子の研究では、一卵性双生児の場合片方が発症すると、もう片方も発症する確率は25~50%です。
一方、二卵性双生児では、確率が5%程度まで低下することから、遺伝的要因の存在が強く示唆されています。
双生児の種類 | 片方発症時の同時発症率 |
一卵性双生児 | 25~50% |
二卵性双生児 | 約5% |
環境因子による誘発
環境因子は発症の引き金として作用することが分かっています。
紫外線への過度の曝露は皮膚細胞のDNAを損傷させ免疫反応を起こし、ウイルスや細菌などの感染症は、免疫系を活性化させ、自己免疫反応を促進させます。
ホルモンバランスの変化も関与し、女性ホルモンであるエストロゲンが発症の一因です。
免疫システムの異常
正常な免疫システムは、体内に侵入した病原体を認識し排除し、自己の細胞は攻撃しないよう制御されています。
ところが、SLEでは制御機構が正常に機能せず自己抗体が産生され、自己抗体が、核内成分や細胞膜などの正常な体の構成要素を標的として攻撃するのです。
自己抗体の種類 | 標的となる自己抗原 |
抗DNA抗体 | DNA |
抗Sm抗体 | スプライセオソーム |
抗リン脂質抗体 | リン脂質 |
抗核抗体 | 核内成分 |
性差による発症傾向
性別による発症頻度の違いは顕著で、女性は男性と比較して発症リスクが9倍以上高く、特に生殖年齢(15~45歳)の女性に多く見られます。
エストロゲンには免疫反応を強める作用があり、自己免疫疾患の発症に関与している可能性があります。
女性の発症リスクを高める因子
- エストロゲンレベルの変動
- 妊娠による免疫系の変化
- X染色体関連遺伝子の影響
- ホルモン補充療法
- 経口避妊薬の使用
全身性エリテマトーデス(SLE)の検査・チェック方法
全身性エリテマトーデス(SLE)の診断は、特徴的な症状の確認と共に、複数の血液検査や画像診断を組み合わせて行います。
診断基準と主要な検査項目
診断基準には、アメリカリウマチ学会(ACR)の分類基準が広く用いられており、11項目の診断項目のうち4項目以上を満たすことで分類されます。
その際、自己抗体の有無や炎症の程度を確認できる、血液検査を行うことが重要です。
検査項目 | 検査内容 | 確認ポイント |
抗核抗体 | 血液検査 | 免疫異常の有無 |
補体価 | 血液検査 | 免疫系の活性度 |
血算 | 血液検査 | 貧血や炎症の程度 |
CRP | 血液検査 | 炎症の有無 |
初回の診察では問診により、症状の経過や家族歴、服用中の薬剤などについて聞き取ります。
自己抗体検査
SLEの診断には、自己抗体検査も実施します。
抗DNA抗体はSLEに特異性の高い検査で、活動期に数値が上昇し、抗Sm抗体は陽性率は30%程度ですが、SLEに極めて特異的な抗体です。
- 抗DNA抗体検査
- 抗Sm抗体検査
- 抗リン脂質抗体検査
- 抗SS-A抗体検査
- 抗SS-B抗体検査
抗体検査は、診断時のみならず経過観察においても重要な指標です。
定期的な検査により、病勢の変化を早期に察知することができ、抗体の種類によって、関連する症状や合併症が異なることもわかっています。
尿検査と腎機能評価
腎臓の状態を確認するため定期的な尿検査を実施し、腎症の早期発見が大切です。
尿検査では、蛋白尿の有無や程度、血尿の有無、尿沈渣の所見など、様々な角度から評価を行います。
検査項目 | 異常所見 | 評価内容 |
尿蛋白 | 蛋白尿 | 腎障害の程度 |
尿潜血 | 血尿 | 腎炎の有無 |
尿沈渣 | 円柱 | 腎機能障害 |
クレアチニン | 数値上昇 | 腎機能低下 |
24時間蓄尿検査により正確な腎機能の評価を行い、腎機能の低下が疑われる場合には、より詳細な検査や腎生検を検討します。
腎生検は腎臓の組織を直接観察することで、病変の種類や程度を知ることが可能です。
画像診断と特殊検査
画像検査は、内臓病変の有無や程度を確認する上で欠かせません。
胸部X線検査では肺炎や胸水貯留などの肺病変を評価し、心臓超音波検査により、心膜炎や弁膜症などの心臓合併症を詳しく観察できます。
- 胸部X線検査
- 心臓超音波検査
- 腹部超音波検査
- MRI検査
- CT検査
MRI検査は、特に中枢神経系の病変評価に有用で、頭痛や意識障害などの症状がある場合に実施します。
CT検査ではリンパ節腫大や内臓病変詳細な評価ができ、必要に応じて、骨密度検査や関節X線検査を行うことも。
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療法と治療薬について
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療では、症状の重症度に応じて、ステロイド薬を中心とした免疫抑制療法を行い、寛解導入から維持療法まで、数か月から数年の長期にわたる継続的な投薬が必要です。
ステロイド療法の基本
ステロイド薬は炎症を抑制し、免疫系の過剰な反応を抑える作用があるため、多くの患者さんの第一選択薬です。
重症例では大量投与から開始し、症状の改善に従って段階的に減量していきます。
ステロイド投与量 | 使用状況 |
大量療法(≧1mg/kg/日) | 重症例・臓器障害 |
中等量(0.5~1mg/kg/日) | 中等症例 |
少量(<0.5mg/kg/日) | 軽症例・維持療法 |
免疫抑制薬による治療
免疫抑制薬は、ステロイド薬と併用することで、より効果的な治療効果を期待できます。
シクロホスファミドやミコフェノール酸モフェチルなどの薬剤は、腎症を伴うSLEの治療に有効性を示しています。
アザチオプリンは、維持療法期における再燃予防に使用されることが多く、長期投与が可能です。
主に使用される免疫抑制薬
- シクロホスファミド
- ミコフェノール酸モフェチル
- アザチオプリン
- タクロリムス
- シクロスポリン
生物学的製剤による治療
生物学的製剤は、従来の治療に抵抗性を示す場合の新たな選択肢です。
ベリムマブはB細胞を標的とする抗体薬で、自己抗体の産生を抑制する効果があり、リツキシマブは、難治性のSLEに対して使用を検討され、特にループス腎炎への効果が期待できます。
生物学的製剤 | 作用機序 | 投与間隔 |
ベリムマブ | 抗BLyS抗体 | 4週間毎 |
リツキシマブ | 抗CD20抗体 | 半年~1年毎 |
抗マラリア薬の活用
抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンはSLEの治療薬として使用されていて、皮膚症状や関節症状に対して効果を示し、他の治療薬の減量ができることがあります。
長期使用による網膜障害には注意が必要ですが、定期的な眼科検査を行うことで安全に使用できます。
対症療法の併用
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は関節痛や筋肉痛などの症状緩和に用い、降圧薬や抗血小板薬は、合併症の予防や治療のために併用する薬です。
抗凝固薬は、抗リン脂質抗体症候群を合併している際に検討します。
補助的な治療薬の使用例
- 解熱鎮痛薬
- 抗血小板薬
- 抗凝固薬
- 降圧薬
- 骨粗鬆症予防薬
薬の副作用や治療のデメリットについて
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療で用いられるステロイド薬や免疫抑制薬は、骨粗鬆症、日和見感染症、血栓症などの副作用があります。
ステロイド薬の副作用
ステロイド薬を長期に使用すると、内分泌系や代謝系に大きな影響を及ぼすことから、体型変化や臓器における機能異常が現れることがあります。
症状は、クッシング症候群様として知られる満月様顔貌(ムーンフェイス)や体幹部の脂肪沈着といった体型の変化に加え、皮膚の菲薄化や紫斑、多毛症などです。
骨密度の低下は若年者でも発生し、特に閉経後の女性では骨粗鬆症の進行が加速することから、定期的な骨密度測定と予防的な治療介入を考慮する必要があります。
副作用の種類 | 発現頻度 | 好発時期 | 予防・対策方法 |
骨粗鬆症 | 30-50% | 3-6ヶ月以降 | ビスホスホネート製剤 |
満月様顔貌 | 40-60% | 2-4週間以降 | 食事制限・運動療法 |
高血糖 | 20-30% | 1-2ヶ月以降 | 血糖値モニタリング |
消化性潰瘍 | 10-20% | 使用開始直後から | 胃粘膜保護薬併用 |
免疫抑制薬による合併症
免疫抑制薬の使用により、通常では問題とならない程度の病原体であっても重篤な感染症を起こすことがあるため、ニューモシスチス肺炎や帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症などの日和見感染症に対する予防と早期発見が重要です。
肝機能や腎機能への負担増加は、薬剤の代謝や排泄に直接影響を与えることから、投与量の調整や中止を検討する場合もあり、定期的な血液検査による臓器機能のモニタリングが欠かせません。
シクロホスファミドなどのアルキル化薬では、若年女性における卵巣機能の低下や不妊、また出血性膀胱炎などの重篤な副作用が知られています。
免疫抑制薬の主な副作用
- 骨髄抑制による白血球減少や貧血、血小板減少
- 肝酵素上昇や黄疸などの肝機能障害
- クレアチニン上昇を伴う腎機能障害
- 持続的な悪心や食欲不振、嘔吐
- 脱毛や皮膚障害
生物学的製剤のリスク
生物学的製剤の投与では点滴時の重篤なアレルギー反応や注入時の反応に備えて、バイタルサインのモニタリングと緊急時の対応準備が必要です。
潜在的な感染症、特に結核や肝炎ウイルスの再活性化リスクが高まることから、投与開始前のスクリーニング検査と定期的な感染症マーカーの確認が必須となります。
製剤名 | 主な副作用 | 注意すべき感染症 | モニタリング項目 |
ベリムマブ | 注入時反応、頭痛、関節痛 | 結核、帯状疱疹、肺炎 | 感染症マーカー、血球数 |
リツキシマブ | B型肝炎再活性化、間質性肺炎、血球減少 | ニューモシスチス肺炎、進行性多巣性白質脳症 | 肝炎ウイルス、KL-6 |
抗マラリア薬による眼科的合併症
抗マラリア薬の長期使用による網膜症は、早期発見が遅れた場合に視力障害が起こる可能性があることから、投与開始前と定期的な眼科検査による経過観察が必要です。
血栓症のリスク
抗リン脂質抗体陽性の患者さんでは、深部静脈血栓症や肺塞栓症、脳梗塞などの血栓症発症リスクが上昇するので、予防的な抗凝固療法の実施を含めた血栓予防が重要です。
骨密度への影響と対策
ステロイド薬による骨密度低下は投与開始後比較的早期から進行し、閉経後女性や高齢者では、骨折リスクが上がることから、予防的な骨粗鬆症治療の導入をする必要があります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
治療費の内訳
診療内容 | 患者負担額(3割) |
血液検査一式 | 1,680円 |
尿検査 | 360円 |
胸部レントゲン | 810円 |
腹部エコー | 1,590円 |
心電図 | 390円 |
主な治療薬の費用
一般的な治療薬の月額費用(3割負担の場合)
- プレドニゾロン(5mg/日) 約2,000円
- タクロリムス(3mg/日) 約8,000円
- ミコフェノール酸モフェチル(2g/日) 約12,000円
- ヒドロキシクロロキン(200mg/日) 約6,000円
- シクロホスファミド(パルス療法) 約15,000円/回
入院時の費用
入院内容 | 1日あたりの費用 | 平均入院期間 |
一般病床(急性期) | 18,000円~25,000円 | 14~21日 |
回復期病床 | 12,000円~18,000円 | 30~60日 |
以上
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