洞結節リエントリー頻脈(Sinus Node Reentrant Tachycardia:SNRT)とは、心臓のリズムを司る洞結節内で、異常な電気信号の循環が発生する不整脈です。
心拍数が突如として急激に上昇し、動悸や息切れといった症状が起こります。
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の症状
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の主な症状は、突然の動悸や息切れ、めまい、胸部不快感などです。
動悸
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の典型的な症状は、突然の動悸や心拍数の上昇です。胸がドキドキする感覚や、心臓が激しく鼓動しているような感覚が起こります。
症状は数分~数時間続くこともあるため、不安や恐怖を感じる患者さんも多くなります。
息切れ・めまい
SNRTの発作中、多くの場合で息切れやめまいも同時に起こります。
心拍数の急激な上昇によって体内の血液循環が十分に行われなくなるため、酸素供給が一時的に低下し、息苦しさや軽い頭痛がみられることもあります。
症状 | 特徴 | 具体的な様子 |
息切れ | 突然の呼吸困難感 | 階段を上るだけで息が切れる |
めまい | 立ちくらみや回転性のめまい | 急に立ち上がると目の前が暗くなる |
胸部不快感・疲労感
SNRTの発作中や発作後に、胸の締め付けや圧迫感といった胸部不快感が現れる場合も多いです。また、発作が長引くと全身の疲労感や脱力感がみられます。
発作の頻度・持続時間
SNRTの発作の頻度や持続時間は、患者さんによって差があります。発作の持続時間も様々で、数分で収まる場合もあれば、数時間続くこともあります。
発作の予測が不可能なため、心理的なストレスの原因となってしまう場合もあります。
発作の特徴 | 頻度 | 持続時間 | 日常生活への影響 |
軽度 | 週1-2回 | 数分 | 軽度の不快感 |
中等度 | 月2-3回 | 30分-1時間 | 日常活動の一時中断 |
重度 | 月1回以下 | 数時間 | 長時間の休養が必要 |
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の原因
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の原因は、洞結節およびその周囲の心房組織に広範な病理組織学的変化が生じ、電気信号が異常な経路を巡回することです。
洞結節の構造と機能
洞結節は、心臓のリズムを制御する自然なペースメーカーとして機能する組織です。通常、洞結節は規則正しい電気信号を発生させ、心臓の拍動を正しく調整します。
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)はこの洞結節において電気信号が本来の経路をたどらず、異常な経路を巡回することで起こる不整脈です。
SNRTの発症要因
内因性要因 | 外因性要因 |
加齢 | ストレス |
遺伝的素因 | 薬物使用 |
心臓の構造異常 | 電解質異常 |
自律神経系の不均衡 | 過度の運動 |
加齢
年齢とともに洞結節の機能が低下すると、洞結節が異常な電気的活動を起こしやすくなり、SNRTの発症リスクが高くなります。
加齢に伴う主な変化には、洞結節細胞の減少、結合組織の増加、イオンチャネル(細胞膜にある特殊なタンパク質)の機能変化などがあります。
自律神経系の影響
自律神経系の乱れもSNRTの発症に関係していることが分かっています。
自律神経系がSNRTに与える影響
神経系 | SNRTへの影響 |
交感神経優位 | 心拍数上昇、不整脈誘発 |
副交感神経優位 | 伝導遅延、リエントリー形成 |
自律神経系の活動はストレスや運動、睡眠などの日常的な要因によっても変動するため、生活習慣の改善がSNRTの予防に役立つ場合があります。
環境要因・生活習慣
過度のストレス、不規則な生活リズム、過剰なアルコール摂取などが、洞結節の機能に悪影響を与えてしまうことがあります。
また、特定の薬物や電解質異常もSNRTの誘因となります。
SNRTの発症に関連する主な環境要因と生活習慣
環境要因 | 生活習慣 |
大気汚染 | 喫煙 |
騒音 | 過度の飲酒 |
電磁波 | 不規則な睡眠 |
高温・低温環境 | 過度の運動 |
SNRTと他の心臓疾患との関連
SNRTは単独で発症することもありますが、他の心臓疾患と併発する場合もあります。
SNRTと関連性が高い心臓疾患
関連疾患 | SNRTとの関係 |
心房細動 | 共通のリスク要因を持つ |
心不全 | SNRTの合併症として発症する可能性がある |
冠動脈疾患 | 心筋虚血がSNRTを誘発する可能性がある |
弁膜症 | 心臓の構造変化がSNRTのリスクを高める |
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の検査・チェック方法
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の診断では、心電図検査、ホルター心電図モニタリング、電気生理学的検査などを実施します。
身体所見のポイント
身体所見を取る際には、頸部の静脈拍動の観察から始め、心臓や肺の聴診や循環動態の全体像を把握していきます。
診察項目 | 確認ポイント | 注意事項 |
脈拍 | 規則性、頻度 | 突然の変動 |
血圧 | 収縮期、拡張期 | 体位変換時 |
呼吸 | 整、不整の有無 | 運動時変化 |
非侵襲的検査
心電図検査では、P波の形状変化と出現パターンを分析します。
また、ホルター心電図モニタリングを用いることで、終日の心電図記録から発作性頻脈の発生状況を把握できます。通常の心電図検査では見逃されがちな軽微な変化であっても、ホルター心電図であれば発見できる可能性があります。
SNRTの発作が頻繁に起こる場合や、症状と心電図の変化が一致しない場合に有用です。
検査方法 | 評価項目 | 特記事項 |
12誘導心電図 | P波形態変化 | 即時判定可 |
ホルター心電図 | 頻脈持続時間 | 長期観察型 |
運動負荷試験 | 誘発の有無 | 安全管理必須 |
電気生理学的検査
カテーテルと呼ばれる細い管を心臓内に挿入し、心臓の電気活動を直接記録・刺激することで、SNRTの診断を確定させ、治療法を決定します。
診断だけでなく、カテーテルアブレーション治療も同時に行うことができます。
確定診断のための基準
診断要素 | 判定基準 | 補足説明 |
頻脈周期 | 180-220/分 | 安静時比較 |
P波形態 | 洞調律と同一 | 軸偏位なし |
誘発試験 | 再現性あり | 複数回確認 |
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の治療方法と治療薬について
不整脈疾患の一種である洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の根本的な治療方法として、カテーテルアブレーション治療を第一選択として実施します。
状況に応じて、薬物療法を併用し心拍数のコントロールを行います。
カテーテルアブレーション治療
カテーテルアブレーション治療では、心臓内に細い管(カテーテル)を挿入して異常な電気信号の発生源を特定します。
高周波電流によって該当部位を焼灼し、不整脈の発生を抑制するため、多くの患者様で良好な治療成績が得られています。
治療方法 | 期待される効果 | 治療期間 |
カテーテルアブレーション | 根治的治療 | 1-2日入院 |
抗不整脈薬 | 症状の軽減と予防 | 継続的な服用 |
薬物療法
薬物療法では、主に以下の薬剤を組み合わせて治療を進めていきます。
- ベラパミル(Ca拮抗薬):心拍数の調整に効果的
- プロプラノロール(β遮断薬):自律神経の安定化
- ジソピラミド(Na遮断薬):不整脈の予防
- ピルジカイニド(Na遮断薬):発作時の治療
薬剤分類 | 主な作用 | 使用タイミング |
Ca拮抗薬 | 心拍数低下 | 毎日定期的 |
β遮断薬 | 交感神経抑制 | 毎日定期的 |
Na遮断薬 | 不整脈抑制 | 状況に応じて |
長期的な経過観察
定期的な経過観察を通じて心電図所見と自覚症状の確認を継続しながら、必要に応じて投薬内容の調整を実施していきます。
フォローアップ項目 | 実施頻度 | 確認内容 |
一般診察 | 1-3ヶ月毎 | 全身状態 |
心電図検査 | 毎回の診察時 | 不整脈評価 |
血液検査 | 3-6ヶ月毎 | 薬剤の影響 |
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の治療期間
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の治療には、患者様の状態や生活環境に応じて3か月から6か月の期間が必要となります。
治療期間の目安
患者様の年齢や基礎疾患の有無、日常生活における活動量などの要因によって、治療に必要な期間は個々に大きく異なります。
年齢層 | 平均治療期間 | 特記事項 |
20-40代 | 3-4か月 | 回復が早い傾向 |
50-70代 | 4-6か月 | 個人差が大きい |
80代以上 | 6-12か月 | 慎重な経過観察が必要 |
生活習慣の見直し
治療効果を最大限に高めるために、生活習慣の見直しを継続して実施します。
生活習慣項目 | 目標達成期間 | 達成指標 |
睡眠リズム | 2-3週間 | 定時就寝の習慣化 |
運動習慣 | 1-2か月 | 週3回30分以上 |
食事管理 | 2-4週間 | 減塩・規則的な食事 |
治療効果の評価期間
心臓の状態や自覚症状の変化を観察するため、3か月を一つの目安として治療効果を評価します。
薬の副作用や治療のデメリットについて
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の治療では、抗不整脈薬による自律神経系への悪影響や、カテーテルアブレーション手技に伴う洞機能低下などの合併症が発生する可能性があります。
薬物療法の副作用
抗不整脈薬による治療においては、心機能や自律神経系への影響を観察しながら、個々の患者様の状態に応じた投薬調整を行う必要があります。
薬剤分類 | 発現しやすい副作用 |
Naチャネル遮断薬 | 刺激伝導障害、めまい |
β遮断薬 | 徐脈性不整脈、低血圧 |
カテーテルアブレーション実施時の注意点
高周波カテーテルアブレーション治療では、以下のような合併症が起こるリスクがあります。
- 洞結節機能の一時的もしくは永続的な低下
- 心タンポナーデ(心臓を取り囲む心膜に液体が貯まる状態)
- 血管穿刺部位における重度の出血
- 術後感染症の併発
術後管理における重点項目
モニタリング項目 | 警戒すべき症候 |
心拍数変動 | 著しい徐脈や頻脈 |
血圧推移 | 急激な低下傾向 |
穿刺部位状態 | 出血性合併症 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
洞結節リエントリー頻脈(SNRT)の治療費は健康保険が適用され、自己負担は通常3割です。
検査費用の内訳
検査項目 | 概算費用 |
心電図検査 | 1,300円 |
心臓超音波検査 | 8,800円 |
ホルター心電図 | 4,500円 |
薬物療法による治療費
抗不整脈薬による治療では外来診療を中心に進めていくため、経済的な負担を抑えながら治療を継続します。
薬剤の種類や処方量によって費用は変動しますが、一般的な抗不整脈薬を処方した際の月額費用は5,000円から15,000円です。
カテーテルアブレーション治療の費用目安
治療内容 | 概算費用 |
入院費(7日間) | 210,000円 |
手術費用 | 980,000円 |
術後管理費 | 150,000円 |
以上
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