ジギタリス中毒(Digitalis toxicity)とは、心臓病の治療に使用されるジギタリス製剤を過剰に摂取することで起こる症状です。
ジギタリスは心不全や不整脈の治療に使われている薬剤で、有効濃度と中毒濃度の差が非常に小さいため、わずかな過剰摂取でも中毒症状を引き起こします。
中毒症状としては、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢などの消化器症状や、頭痛、めまい、視覚異常(物が黄色や緑色に見える等)などの神経症状が代表的です。
重症化すると不整脈や心停止など、生命に関わる危険な状態に陥ることもあるため、早期発見と早期対応が重要となります。
ジギタリス中毒の症状
ジギタリス中毒の症状は、不整脈、消化器症状(吐き気、嘔吐など)、視覚異常(黄視症など)、精神神経症状(めまい、頭痛など)など多岐にわたり、個々の症状の出方や重症度は患者さんによって異なります。
心臓への影響
ジギタリス中毒になると、不整脈(心拍数の変化や不規則な心拍など)が中毒症状として現れます。
徐脈や頻脈が交互に現れる場合もあり、動悸や息切れ、めまいなどを伴います。
心臓症状 | 特徴 | 患者さんの体験 |
徐脈 | 心拍数が通常より遅くなる | 疲労感や息切れを感じる |
頻脈 | 心拍数が通常より速くなる | 動悸や胸の不快感を感じる |
不整脈 | 心拍のリズムが乱れる | めまいや失神を経験する |
消化器系への影響
吐き気や嘔吐、食欲不振などの症状のほか、腹痛や下痢が現れることもあり、ジギタリス中毒の早期発見のきっかけとなります。
視覚への影響
ジギタリス中毒の多くのケースで、黄色や緑色の視覚が強調されたり、物がぼやけて見えたりするなど、色覚異常や視野の変化が報告されています。
視覚症状 | 説明 | 日常生活への影響 |
色覚異常 | 特定の色が強調されて見える | 交通信号の識別が困難になる |
視野の変化 | 物がぼやけたり歪んで見える | 読書や運転に支障をきたす |
神経系への影響
頭痛や疲労感、めまいといった神経系の症状のほか、より深刻な状況では錯乱や幻覚といった精神症状が現れることもあります。
その他の全身症状
- 倦怠感や脱力感
- 食欲不振
- 体重減少
- 筋肉痛や関節痛
- 発熱(まれに)
電解質異常による腎機能への影響
ジギタリス中毒になると血中のカリウム濃度が変動することがあり、低カリウム血症や高カリウム血症につながる可能性があります。
電解質異常 | 特徴 | 潜在的なリスク |
低カリウム血症 | 血中カリウム濃度の低下 | 不整脈の悪化 |
高カリウム血症 | 血中カリウム濃度の上昇 | 心停止のリスク増加 |
ジギタリス中毒の原因
ジギタリス中毒は、心不全治療薬であるジギタリス製剤の過剰摂取や体内蓄積によって起こります。
ジギタリス中毒の主な要因
心不全や心房細動の治療に用いられるジギタリス製剤は、治療に必要な量と中毒を引き起こす量が非常に近いため、わずかな投与量の増加でも中毒症状を引き起こします。
高齢の方や腎臓の機能が低下している場合はジギタリスが体内に蓄積しやすく、中毒のリスクが高まります。
また、低カリウム血症や、低マグネシウム血症などの電解質異常もジギタリス中毒の発症リスクを上げる要因となります。
ジギタリスと相互作用を起こす可能性のある主な薬剤
特に、カルシウムチャネル遮断薬(高血圧や狭心症の治療薬)や利尿薬(尿の量を増やす薬)との併用には注意が必要です。
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 |
カルシウムチャネル遮断薬 | ベラパミル、ジルチアゼム |
利尿薬 | フロセミド、ブメタニド |
抗不整脈薬 | アミオダロン、キニジン |
抗生物質 | エリスロマイシン、クラリスロマイシン |
ジギタリス中毒の検査・チェック方法
ジギタリス中毒の診断では、血中ジギタリス濃度の測定、心電図検査、電解質の確認などを行い、症状との関連性を評価します。
血液検査による評価
血液検査ではジギタリスの血中濃度測定が最も直接的な指標となりますが、それ以外にも以下のような項目を確認します。
検査項目 | 確認ポイント | 意義 |
電解質 | カリウム、マグネシウム、カルシウムの異常 | 心臓のリズム異常との関連 |
腎機能 | クレアチニン、eGFR(推算糸球体濾過量)の低下 | 薬物の排泄能力の評価 |
甲状腺機能 | TSH(甲状腺刺激ホルモン)、fT3、fT4の異常 | 代謝への影響の確認 |
心電図検査
心電図検査では心臓の電気的活動を観察し、ジギタリス中毒に特徴的な変化を捉えていきます。
特徴的な所見
- ST部分の下降
- T波の平低化や陰性化
- QT間隔の短縮
- 不整脈
ジギタリス中毒の治療方法と治療薬について
ジギタリス中毒の治療では、原因薬剤の中止と血中濃度の低下を図る対症療法が基本となり、重症度に応じて解毒剤の投与や透析療法を行います。
ジギタリス中毒治療の基本方針
ジギタリス中毒の治療において、原因となる薬剤の投与中止が最も重要となります。
血中ジギタリス濃度の低下を待つ期間中が心電図モニタリングを続け、不整脈の出現や悪化に備えることが必要です。
血中濃度低下のための対策
ジギタリス製剤の血中濃度を下げるため、活性炭の経口投与、下剤の使用、輸液療法による尿量増加などを試み、体内からのジギタリスの排出を促進します。
特に活性炭は服用後早期であれば効果的で、複数回の投与が推奨されます。
対策 | 目的 |
活性炭投与 | 薬物の吸着と排出促進 |
下剤使用 | 腸管からの排出促進 |
輸液療法 | 尿量増加による排出促進 |
重症例に対する治療
重度のジギタリス中毒では、より積極的な治療介入が必要です。ジギタリス特異抗体(血中のジギタリスと結合して無毒化する薬剤)は、致死的不整脈や高度徐脈の場合に使用されます。
また、腎機能が低下している場合には血液透析が効果的です。
不整脈に対する対症療法
不整脈の種類 | 主な症状 | 治療薬 |
心室性不整脈 | 動悸、めまい | リドカイン、フェニトイン |
徐脈性不整脈 | 脈が遅い、失神 | アトロピン |
電解質異常の是正
ジギタリス中毒では、電解質異常(体内のミネラルバランスの乱れ)を伴う場合があります。カリウムやマグネシウムの補充、高カルシウム血症の是正などを行い、電解質バランスの回復を図ります。
特に低カリウム血症はジギタリスの毒性を増強させるため、補正が大切となります。
電解質 | 異常 | 対策 |
カリウム | 低下 | 経口または静脈内補充 |
マグネシウム | 低下 | 静脈内補充 |
カルシウム | 上昇 | 輸液療法、利尿剤投与 |
ジギタリス中毒の治療期間
ジギタリス中毒の治療期間は数日から数週間程度が目安で、中毒の重症度や個々の患者さんの状態によって異なります。
軽い中毒では数日で良くなることもありますが、重い場合は数週間から数か月の治療が必要です。
治療期間に影響を与える要因
要因 | 影響 |
中毒の重症度 | 重症度が高いほど、治療期間が長くなります |
腎機能 | 腎臓の働きが低下していると、薬物排泄に時間がかかり、治療期間が延びます |
年齢 | 高齢の方は一般的に回復に時間がかかり、治療期間が長くなる傾向があります |
併存疾患 | 他の病気がある場合、治療が複雑になり、期間が延長します |
治療後の経過観察
治療が終了した後も、再発のリスクを最小限に抑えるため、定期的な検査と経過観察を行います。通常3〜6か月程度ですが、患者さんの状態によって調整します。
フォローアップ項目 | 目的 |
定期的な血液検査 | 薬物濃度や電解質バランスの確認 |
心電図検査 | 不整脈の有無や心臓の状態確認 |
腎機能検査 | 薬物排泄能力の評価 |
症状の聞き取り | 自覚症状の変化や生活の質の確認 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
ジギタリス中毒の治療では、ジギタリスが体内に蓄積されやすいという特性のため、治療中に予期せぬ副作用が突如として現れる場合があります。
ジギタリス中毒の治療における主な副作用
- 消化器症状(吐き気、嘔吐、食欲不振)
- 中枢神経系症状(頭痛、めまい、錯乱)
- 視覚異常(黄色く見える症状、かすみ目)
- 心臓関連症状(不整脈の悪化、脈が遅くなる症状)
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
ジギタリス中毒の治療費は、症状の重症度や入院期間によって大きく変動します。保険適用により負担は軽減されますが、長期入院や高度な治療が必要な場合は高額になります。
治療費の概要
項目 | 概算費用(円) |
血液検査 | 6,000~12,000 |
心電図検査 | 4,000~6,000 |
薬剤費(解毒剤) | 15,000~35,000 |
入院治療の費用
重症のジギタリス中毒では入院治療が必要となり、治療費が高額になります。入院期間や必要な処置によって費用は変動しますが、一般的な入院費用の目安は以下の通りです。
入院期間 | 概算費用(円) |
3日間 | 180,000~230,000 |
1週間 | 350,000~450,000 |
2週間以上 | 600,000~ |
以上
参考文献
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