微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)(minimal change nephrotic syndrome)とは、腎臓のろ過装置である糸球体に異常が起こり、本来尿中に排出されないはずのタンパク質が漏れ出してしまう疾患です。

この病気は、腎臓の構造に目立った変化が観察されず、糸球体の足突起と呼ばれる微細な構造に変化が見られます。

代表的な症状として、尿中への大量のタンパク質排出、血液中のタンパク質濃度低下、そして体のむくみなどが挙げられ、小児に発症が多いのが特徴です。

目次

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の症状

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の症状は、突然の浮腫の出現とタンパク尿です。

急激に進行する浮腫

MCNSの最もよく見られる症状は、急速に現れる浮腫です。

浮腫は、体内の水分調節機能が乱れることによって起き、多くの患者さんでは、初めにまぶたや顔面に現れ、その後、下肢や腹部へと拡大していきます。

浮腫の特性説明
発症速度急激
初発部位まぶた、顔面
進展部位下肢、腹部

タンパク尿の出現

MCNSのもう一つよく見られる症状は、大量のタンパク尿です。

通常、健常な腎臓はタンパク質を尿中に漏出させませんが、MCNSでは腎臓のろ過機能に障害が生じるため、多量のタンパク質が尿中に排泄されます。

  • 泡立ちの目立つ尿
  • 色調の濃い尿
  • 頻繁な排尿

低タンパク血症と関連する症状

体内のタンパク質が尿中に喪失されることで血中のタンパク質濃度が低下し、様々な症状が現れます。

低タンパク血症による症状

症状解説
倦怠感全身のだるさ
食欲減退食事への意欲低下
筋力低下筋肉の力が減弱

随伴する他の症状

MCNSには、上記以外にもいくつかの症状が伴います。

  1. 体重増加:浮腫によって体液がたまるため
  2. 息苦しさ:重度の浮腫が肺機能に影響する場合
  3. 血圧上昇:体液量増加に伴う循環動態の変化
  4. 感染しやすさ:免疫機能の低下による

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の原因

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)は、免疫系の異常反応によって起こる糸球体上皮細胞(ポドサイト)の障害が原因です。

免疫系の不調和

MCNSの発症には免疫系の乱れ、特に、T細胞と呼ばれる免疫細胞の機能異常が関係しています。

通常とは異なる状態で活性化したT細胞が炎症を起こす物質を放出し、糸球体上皮細胞(ポドサイト)にダメージを与えることに。

遺伝子の影響

特定の遺伝子に変化が生じると、MCNSを発症するリスクが高まります。

遺伝子名役割
NPHS1濾過の要となるスリット膜の形成
NPHS2ポドサイトの形を保つ
CD2AP細胞の骨組みを調整する

遺伝子に何らかの変異が起こると、ポドサイトの働きや構造に影響を及ぼし、MCNSの発症につながるのです。

環境要因の関与

環境要因も、MCNSの発症に関与しています。

関係している環境因子

  • ウイルスの感染
  • アレルギー反応
  • 特定の薬物に触れる
  • 心理的なストレス

環境要因がきっかけとなり免疫系の異常な反応を起こし、MCNSの発症へとつながります。

ポドサイトの傷つき方

MCNSの中心となる病態は、糸球体上皮細胞(ポドサイト)の損傷です。

ポドサイトが傷つく原因影響
細胞の骨組みが変形する足突起が溶けて一体化する
スリット膜のタンパク質が減る濾過の機能が低下
細胞同士をつなぐ分子に異常が生じる基底膜から剥がれやすくなる

このような変化によって糸球体の濾過機能が崩れ、本来なら尿中に出ない大量のタンパク質が漏れ出してしまいます。

炎症を起こす物質の働き

T細胞から放出される炎症を起こす物質(炎症性メディエーター)が、ポドサイトを傷つける重要な要因です。

炎症を起こす物質働き
インターロイキン13 (IL-13)ポドサイトの透過性を高める
腫瘍壊死因子α (TNF-α)細胞の自然死を促す
血管内皮増殖因子 (VEGF)血管の透過性を高める

炎症を起こす物質がポドサイトに作用することで、MCNSに特徴的な病態が作られていきます。

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の検査・チェック方法

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の診断には、尿検査、血液検査、そして腎生検を含む複数の検査を行います。

尿検査

尿検査は、MCNSの診断で最初に行われる重要な検査です。

尿検査で尿中のタンパク質量を測定し、MCNSの患者さんでは、1日あたり3.5g以上の多量のタンパク尿が見られます。

検査項目健康な方の値微小変化型ネフローゼ症候群で見られる値
尿蛋白150mg未満/日3.5g以上/日
尿比重1.005-1.030高め

また、尿沈渣(尿の中に含まれる固形成分)の顕微鏡検査も実施し、赤血球や白血球の有無を確認しますが、MCNSではわずかしか見られないのが特徴です。

血液検査

血液検査は、MCNSが体全体に与える影響を評価するために行われます。

検査項目

  • 血清アルブミン値:通常3.0g/dL未満まで低下
  • 総コレステロール値:上昇する傾向
  • 血清クレアチニン値:多くの場合、正常範囲内
  • 血清電解質:ナトリウムやカリウムのバランスを確認

腎生検

腎生検は、MCNSの確定診断に大切な検査です。

腎生検では腎臓の組織を小さく採取し、さまざまな顕微鏡を使って観察します。

顕微鏡の種類観察する点
光学顕微鏡糸球体(腎臓の濾過装置)の形
電子顕微鏡足突起(糸球体の細かい構造)の変化
蛍光顕微鏡免疫複合体(病気の原因となる物質)の付着

MCNSの特徴として、光学顕微鏡では目立った異常が見られないのに、電子顕微鏡で足突起が広範囲に消失している(足突起癒合)様子が観察されます。

画像検査

超音波検査やCTスキャンなどの画像検査も行われ、腎臓の大きさや形を評価し、他の腎臓の疾患との鑑別に役立ちます。

画像検査の種類観察できること
超音波検査腎臓の大きさ、形状
CTスキャン腎臓の内部構造

経過観察

MCNSと診断された後も、定期的な検査が行われます。

経過観察の項目

  1. 尿タンパク量の変化
  2. 血清アルブミン値の回復具合
  3. 体重や浮腫(むくみ)の変化

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の治療方法と治療薬、治療期間

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の治療はステロイドホルモン療法を中心に行われ、免疫抑制剤や対症療法を組み合わせて実施します。

ステロイド療法

ステロイドホルモンを用いる治療はMCNSに対して最も効果が高い方法で、プレドニゾロンが第一選択肢です。

飲み方期間目的
毎日4-8週間症状を良くする
1日おき2-5カ月良くなった状態を保つ

ステロイド療法を始めてから1-2週間で、症状が良くなり始めます。

免疫抑制剤

ステロイド治療があまり効果を示さない場合や、症状が繰り返し現れる患者さんには、免疫抑制剤を検討します。

使われる免疫抑制剤

  • シクロスポリン(免疫細胞の働きを抑える薬)
  • タクロリムス(免疫細胞の活性化を抑える薬)
  • ミコフェノール酸モフェチル(免疫細胞の増殖を抑える薬)
  • リツキシマブ(特定の免疫細胞を減らす薬)

対症療法

MCNSの症状や合併しやすい問題に対しては、対処療法が行われます。

症状・問題対処法
むくみ水分を出す薬、塩分を控えめにする
血中の脂質が高くなるコレステロールを下げる薬
血液が固まりやすくなる血液を固まりにくくする薬

薬の副作用や治療のデメリットについて

微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の治療では主にステロイド薬を使用しますが、多様な副作用があります。

ステロイド薬の影響

ステロイド薬はMCNSの治療の中心となる薬で、長期間服用すると体にさまざまな影響を及ぼします。

副作用症状
骨粗鬆症骨がもろくなり、骨折しやすくなる
胃腸の問題胃潰瘍や胃炎になりやすい
糖尿病血液中の糖分が増える
高血圧血圧が高くなる

また、ステロイド薬を使うと、体重が増えたり、顔が丸くなったりするなど、見た目が変わることも。

免疫抑制剤の注意点

ステロイド薬が効かなかったり病気が何度も繰り返す場合には、免疫抑制剤を使うことがありますが、副作用があります。

  • 感染症にかかりやすくなる
  • 肝臓の働きが悪くなる
  • 腎臓の働きが悪くなる
  • 血液の成分(特に白血球)が減る

長期治療で生じる問題

MCNSの治療は長い間行われ、長期治療に特有の問題が現れます。

問題点影響
薬が効きにくくなる治療の効果が弱くなる
再発のリスク治療をやめると症状が再び出てくる
成長への影響子どもの場合、身長が伸びにくくなる

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

MCNSの保険適用範囲

MCNSの治療に関しては、健康保険が広範囲にわたって適用されます。

保険適用の対象となる項目

  • 診断のための検査(血液検査、尿検査、腎生検など)
  • 入院費用(個室料金を除く)
  • 外来での治療費用
  • 薬剤費(ステロイド、免疫抑制剤など)
  • 合併症の治療費用

治療費の内訳

MCNSの治療費の内訳

項目費用(概算)
腎生検5万円〜10万円
入院費(1日あたり)1万5千円〜3万円
ステロイド薬(1ヶ月分)5千円〜1万円
免疫抑制剤(1ヶ月分)1万円〜5万円
定期検査(1回あたり)5千円〜1万5千円

費用は保険適用前の金額で、実際の自己負担額はこれよりも少なくなります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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