急性心筋梗塞(AMI)

急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction:AMI)とは、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る冠動脈が突然詰まり、心筋が酸素不足に陥る危険な状態です。

激しい胸痛や胸部圧迫感、息苦しさ、冷や汗などの症状が起こり、即座の医療介入が必要です。

迅速な診断と適切な初期対応が生命予後を大きく左右するため、このような症状が現れた際には、一刻も早く医療機関を受診することが重要となります。

目次

急性心筋梗塞(AMI)の病型

急性心筋梗塞(AMI)は、心電図変化や臨床所見、発症機序に基づいて複数の種類や病型に分類されます。

ST上昇型と非ST上昇型心筋梗塞

心筋梗塞(AMI)による心電図変化は主に2つのタイプに分けられ、それぞれ「ST上昇型心筋梗塞(STEMI)」と「非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)」と呼びます。

STEMIは、心電図上でST部分(心臓の収縮期を示す波形の一部)の明らかな上昇が見られるのが特徴です。一方、NSTEMIではST部分の上昇が見られず、他の心電図変化や血液検査結果から診断を行います。

STEMIの場合は緊急の冠動脈再開通療法(詰まった血管を再び開通させる治療)が必要となる場合が多く、救急外来では心電図を見て一瞬でSTEMIかNSTEMIかを判断し、即座に治療方針を決定しなければなりません。

Killip分類による重症度評価

急性心筋梗塞の重症度を評価する方法としてKillip分類があり、身体所見に基づいて4つのクラスに分類します。

Killip分類臨床所見死亡率
Ⅰ群うっ血性心不全の徴候なし6%
Ⅱ群軽度〜中等度のうっ血性心不全17%
Ⅲ群重度のうっ血性心不全(肺水腫)38%
Ⅳ群心原性ショック81%

クラスが上がるにつれて死亡率は増加し、Ⅲ群やⅣ群に分類される患者さんには、より集中的な治療や監視が必要となります。

Universal Definition による分類

2018年に発表されたUniversal Definitionでは、心筋梗塞をその発症機序に基づいて5つのタイプに分類しています。

タイプ特徴
Type 1冠動脈プラーク(動脈硬化による塊)の破綻や解離による自然発症
Type 2需要と供給の不均衡による二次的な心筋障害
Type 3心臓突然死を伴う心筋梗塞
Type 4経皮的冠動脈インターベンション(カテーテル治療)関連
Type 5冠動脈バイパス術関連

Type 1の場合は急性期の再灌流療法(血流を回復させる治療)が中心となり、Type 2の場合は原因となっている不均衡を是正することが治療の主眼となります。

急性心筋梗塞(AMI)の症状

急性心筋梗塞(AMI)の主な症状は、突然の胸部の激しい痛みや圧迫感、息切れ、冷や汗、吐き気などです。

胸部の痛み・圧迫感

急性心筋梗塞では、胸の中心部や左側に胸部の痛みや圧迫感が起こります。言葉で表すと、「締め付けられるような」「重いものを乗せられたような」感覚となります。

多くの場合、これまで経験したことのないような激しい痛みであり、持続的で安静にしても改善しません。

放散痛・関連症状

急性心筋梗塞の痛みは胸部にとどまらず、他の部位に広がることがあります。この現象を医学用語で放散痛と呼びます。

放散痛の部位頻度特徴
左腕高い肩から指先まで広がる
中程度のどの違和感として感じる場合も
あご中程度歯痛と間違えることも
背中低い肩甲骨の間の痛みとして現れることも

放散痛以外にも、心臓への血流が制限されることで以下のような関連症状が現れる場合があります。

  • 息切れや呼吸困難
  • 冷や汗
  • 吐き気や嘔吐
  • めまいや失神
  • 不整脈

非典型的な症状

急性心筋梗塞の症状は、必ずしも典型的なものばかりではありません。特に高齢者、女性、糖尿病患者では、非典型的な症状を呈することがあります。

一見すると心臓の問題とは関係ないように見えるため、診断が遅れる原因となる場合があります。

非典型的な症状特徴注意点
上腹部の不快感消化器系の問題と誤認されやすい胃痛や胸焼けと間違えないよう注意
軽度の胸部不快感重症度を過小評価しやすい「様子を見よう」と放置しない
全身の倦怠感単なる疲労と誤解されやすい急に体が重くなったら要注意

特に、高血圧、糖尿病、喫煙歴などを持つ場合は、軽微な症状でも慎重に評価することが大切です。

急性心筋梗塞(AMI)の原因

急性心筋梗塞(AMI)の主な原因は、冠動脈が突然閉塞し、心筋への血液供給が遮断されることです。長年にわたる動脈硬化の進行と、それに伴うさまざまな要因が絡み合って発症すると考えられています。

冠動脈閉塞の主要因

冠動脈閉塞の主な要因は、動脈硬化プラーク(血管内壁に蓄積した脂質や炎症細胞の塊)の破綻と、それに続く血栓形成です。

動脈硬化は長い年月をかけて進行し、冠動脈の内壁にコレステロールや脂肪、炎症細胞などが徐々に蓄積していきます。このプラークが不安定化して突然破裂すると、血小板が集まり始め、血栓(血の塊)を形成します。

血栓が成長して大きくなると冠動脈を完全に閉塞し、心筋への血流を遮断することで急性心筋梗塞を引き起こすのです。

動脈硬化の進行段階特徴
初期血管内皮の機能障害
中期プラークの形成と成長
後期プラークの不安定化
最終段階プラーク破綻と血栓形成

冠攣縮の役割

冠動脈の攣縮も急性心筋梗塞の原因となります。冠攣縮は冠動脈が一時的に異常な収縮を起こす現象で、血流を著しく制限または遮断します。

この状態が持続すると、心筋虚血(心筋への血流不足)から心筋梗塞へと進展します。冠攣縮の誘因には、ストレス、寒冷刺激、アルコール、喫煙などがあります。

冠攣縮の誘因影響
ストレス自律神経系の乱れ
寒冷刺激血管収縮の促進
アルコール血管拡張後の反跳性収縮
喫煙血管内皮機能の低下

急性心筋梗塞(AMI)の検査・チェック方法

急性心筋梗塞(AMI)の診断では、心電図によるST上昇やQ波の有無、血液検査による心筋マーカーの上昇、心臓超音波検査による壁運動異常の確認などを総合的に判断し、必要に応じて冠動脈造影検査を行います。

早期診断と迅速な治療開始が予後改善につながるため、素早い判断力が必要となります。

初期評価

AMIを疑う場合、胸痛の特徴や継続時間、他の部位への痛みの広がり、随伴する症状などを確認するほか、冠動脈疾患のリスク要因や過去の病歴についても把握が必要です。

速やかに全身状態の評価と心臓の聴診を実施し、血圧測定、脈拍数・リズムの確認、呼吸音の聴取なども行います。

心電図検査

12誘導心電図検査では、特徴的なST部分の上昇や異常Q波の出現などを確認します。

ST部分の変化Q波の特徴
上昇(凸型)幅広い
水平型深い
下降持続的

ただし、心電図変化が明確でない場合もあるため、時間を追って観察することが必要です。

血液検査による心筋逸脱酵素の評価

血液検査では、心筋逸脱酵素(心筋細胞が壊れた時に血液中に放出される物質)の測定を行います。主な検査項目は以下の通りです。

  • トロポニンT・I(心筋細胞に特異的なタンパク質)
  • CK-MB(心筋に多く含まれる酵素)
  • ミオグロビン(筋肉タンパク質)
  • LDH(様々な組織に存在する酵素)

特にトロポニンは感度・特異度が高く、診断に有用となります。

画像診断

心エコーでは、心臓の壁の動きの異常や心機能の低下を確認していきます。冠動脈CTは、体への負担が少なく冠動脈の狭窄や閉塞を評価できます。

検査法長所短所
心エコーベッドサイドで実施可能術者の技術に依存
冠動脈CT体への負担が少ない放射線被曝がある
心臓カテーテル治療も同時に可能体への負担がある

確定診断

典型的な胸痛症状、特徴的な心電図変化、心筋逸脱酵素の上昇の3つがそろえば、診断の確実性が高まります。ただし、一般的でない症状や検査所見を示す例もあるため、慎重な評価が必要です。

診断基準特徴
胸痛圧迫感、絞扼感
心電図変化ST上昇、異常Q波
心筋逸脱酵素上昇トロポニン、CK-MB上昇

急性心筋梗塞(AMI)の治療方法と治療薬について

急性心筋梗塞(AMI)の治療は、梗塞拡大の防止、再梗塞の防止、合併症の予防が中心となります。素早い再灌流療法と薬物療法を組み合わせ、生存率向上を目指していきます。

再灌流療法(血行再建術)

AMIの治療で最も重要なのは、詰まった冠動脈をできるだけ早く再開通させることです。再灌流療法には主に二つの方法があります。

治療法特徴適応
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)カテーテルを用いた直接的な血管拡張発症から12時間以内が理想的
血栓溶解療法強力な薬剤による血栓(血の塊)の溶解PCI実施が困難な場合や発症直後

PCIは細い管(カテーテル)を用いて直接冠動脈の狭くなった部分を広げる方法で、現在の標準的な治療法となっています。一方、血栓溶解療法は、血栓を溶かす強い薬を静脈から投与して血流を回復させる方法です。

薬物療法

AMIの急性期には、再灌流療法と並行して様々な薬物療法を行います。主な目的は、痛みの軽減、血栓の進行防止、心筋(心臓の筋肉)の保護などです。

主な使用薬

  • アスピリン:血小板(血液の成分の一つ)が固まるのを抑える
  • ヘパリン:血液が固まるのを防ぐ
  • β遮断薬:心臓の酸素消費量を減らす
  • 硝酸薬:冠動脈を広げて心筋への酸素供給を改善する
  • モルヒネ:痛みを和らげ、不安を軽減する

二次予防

急性期を乗り越えた後も、再発を防ぐための薬物療法を続けることが大切です。二次予防では、以下のような薬剤を用います。

薬剤分類主な効果代表的な薬剤名
抗血小板薬血栓ができるのを抑えるアスピリン、クロピドグレル
スタチンコレステロール値を下げるアトルバスタチン、ロスバスタチン
ACE阻害薬/ARB心臓を保護するエナラプリル、カンデサルタン
β遮断薬心臓への負担を軽くするカルベジロール、ビソプロロール

リハビリテーション~日常生活への復帰

心臓リハビリテーションは体の機能を回復させるだけでなく、再発を防いだり生活習慣を改善したりする効果もあります。徐々に運動の強さを増やしていくことで、心臓の機能を改善し、日常生活に戻れるよう支援します。

リハビリの段階主な内容目標
急性期ベッド上での軽い運動合併症の予防
回復期歩行訓練、軽い有酸素運動体力の回復
維持期個別プログラムによる運動療法心機能の改善と再発予防

継続的な管理

退院後も、継続的な経過観察が必要です。心エコー検査や運動負荷試験などを通じて、心臓の機能がどれだけ回復したか、治療の効果はどうかを評価していきます。

フォローアップの内容頻度目的
外来診察1-3ヶ月ごと全身状態の確認、薬の調整
心エコー検査3-6ヶ月ごと心機能の評価
血液検査3-6ヶ月ごと薬の副作用チェック、脂質管理
運動負荷試験年1-2回運動耐容能の評価

急性心筋梗塞(AMI)の治療期間

急性心筋梗塞(AMI)の治療期間は、個々の状態や合併症の有無によって大きく異なりますが、一般的には数日から数週間の入院が必要です。その後は外来での通院治療に移行し、長期的な薬物療法や生活習慣の改善を行います。

入院期間と初期治療

急性心筋梗塞を発症された患者さんは、一般的に1週間から2週間程度の入院が必要となります。初期治療では心臓の血流を回復させるための緊急処置を行い、状態を24時間体制で監視します。

治療段階主な目的期間の目安
急性期生命維持1〜3日
回復期機能回復1〜2週間
維持期再発予防退院後継続

退院後の回復期間

退院後は心臓の機能回復と再発予防のため、3〜6か月程度の回復期間が必要です。徐々に日常生活や仕事への復帰を進めていきますが、無理のない範囲で活動量を増やすことが大切です。

回復期の活動開始時期の目安
軽い家事2〜4週間後
通常の仕事4〜8週間後
運動再開6〜12週間後

薬の副作用や治療のデメリットについて

急性心筋梗塞(AMI)の治療には、使用する薬の副作用や治療に伴うリスクがあります。

薬物療法に伴う副作用

抗血小板薬は出血のリスクが高まり、特に胃腸出血や脳出血などの重篤な合併症に注意が必要です。また、抗血小板薬の中には、まれに血小板減少症(血液中の血小板が減少する病気)を引き起こすものもあります。

薬剤分類主な副作用
抗血小板薬出血、胃腸障害、血小板減少症
抗凝固薬出血、肝機能障害、脱毛
β遮断薬徐脈、低血圧、気管支収縮
ACE阻害薬空咳、低血圧、腎機能障害

カテーテル治療に関連するリスク

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)では、カテーテル挿入部位の出血や血腫形成といった合併症が起こることがあります。また、まれではありますが、冠動脈解離や穿孔といった重大な合併症が起こる可能性もあります。

造影剤を使用するため、腎機能障害のある場合は造影剤腎症のリスクに注意が必要です。

リスク発生頻度対策
出血・血腫比較的高い圧迫止血、安静
冠動脈解離まれ緊急ステント留置
造影剤腎症腎機能低下者で高い十分な水分補給

ステント留置後のリスク

冠動脈ステント留置後は、再狭窄や血栓症のリスクがあります。特に、ステント血栓症は致命的な合併症となる可能性があるため、抗血小板薬の長期服用が必要となります。

リスク対策
再狭窄定期的な経過観察、生活習慣の改善
ステント血栓症抗血小板薬の確実な服用、禁煙
出血性合併症適切な薬剤管理、出血症状の早期発見

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

急性心筋梗塞(AMI)の治療費は、患者さんの状態や必要な処置によって大きく変わります。一般的に、入院期間や実施する検査・治療の内容に応じて費用が決まりますが、健康保険の適用により自己負担は軽減されます。

検査・治療にかかる費用

検査・治療項目概算費用(保険適用前)
心電図検査5,000円〜10,000円
血液検査5,000円〜15,000円
心臓カテーテル200,000円〜400,000円
PCI1,000,000円〜2,000,000円

薬剤費

薬剤種類月額概算費用(保険適用前)
抗血小板薬10,000円〜30,000円
β遮断薬3,000円〜8,000円
ACE阻害薬5,000円〜15,000円

追加費用・長期的な医療費

項目頻度概算費用(保険適用前)
外来診療月1〜2回5,000円〜10,000円/回
心エコー検査3〜6ヶ月毎15,000円〜30,000円
血液検査1〜3ヶ月毎5,000円〜15,000円

また、心臓リハビリテーションも重要な治療の一環です。通常は入院中から開始し、退院後も継続していきます。

リハビリ種類頻度概算費用(保険適用前)
入院中リハビリ毎日5,000円〜10,000円/日
外来リハビリ週1〜3回3,000円〜7,000円/回

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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