不安定狭心症(UAP)

不安定狭心症(Unstable angina pectoris:UAP)とは、冠動脈が急激に狭くなったり詰まったりすることで、心臓の筋肉への血流が突然減少する危険な状態を指します。通常の狭心症よりも深刻で、心筋梗塞直前の段階と考えられています。

じっとしていても、あるいは少し体を動かしただけでも胸の痛みを感じ、症状は予測できず長く続くのが特徴です。

迅速な診断と対応が極めて重要であり、放置すると生命に関わる危険性があります。

目次

不安定狭心症(UAP)の病型

不安定狭心症(UAP)は、重症度と臨床状況に基づいて複数の病型に分類されており、各タイプによって対応が異なります。

Braunwald分類による不安定狭心症の病型

不安定狭心症の分類方法として広く用いられているのがBraunwald分類です。この分類法では、重症度(クラスI〜III)と臨床状況(A〜C)を組み合わせ、状態を9つのカテゴリーに分類します。

各カテゴリーによって必要な検査や治療の緊急性が異なります。

重症度クラスIクラスIIクラスIII
新規発症狭心症ABC
増悪型狭心症ABC
安静時狭心症ABC

重症度による分類

不安定狭心症の重症度は、主に症状の頻度や持続時間、安静時の発症の有無などによって判断します。クラスIは比較的軽症で、クラスIIIは最も重症度が高いとされています。

  • クラスI 労作時のみに狭心症状(胸の痛みや圧迫感)が出現する状態です
  • クラスII 安静時や軽い運動時に狭心症状が出現しますが、48時間以内に症状が消えます
  • クラスIII 安静時に狭心症状が出現し、48時間以内に1回以上の発作が起こります

重症度が高くなるほど、心筋梗塞へ移行するリスクが高まります。

臨床状況による分類

分類臨床状況説明
A二次性不安定狭心症貧血や発熱など、明らかな誘因がある場合
B原発性不安定狭心症明らかな誘因がない場合
C心筋梗塞後不安定狭心症急性心筋梗塞後2週間以内に発症した場合

例えば、「クラスIII-B」と分類された場合、安静時に頻繁に狭心症状が出現し、明らかな誘因がない重症の不安定狭心症であることを示しています。

Canadian Cardiovascular Society(CCS)分類

不安定狭心症の評価には、Canadian Cardiovascular Society(CCS)分類も使用されることがあります。この分類は、主に労作時の症状の程度に基づいて狭心症を評価するものですが、不安定狭心症の重症度評価にも応用されています。

CCS分類症状の程度
クラスI通常の身体活動では狭心症状は出現しない
クラスII通常の身体活動で軽度の制限がある
クラスIII通常の身体活動で著明な制限がある
クラスIV安静時にも狭心症状が出現する、またはわずかな身体活動でも症状が誘発される

不安定狭心症の患者さんは、通常CCSクラスIIIまたはIVに該当することが多く、早急な精査と治療が必要です。

不安定狭心症(UAP)の症状

不安定狭心症(UAP)の主な症状は安静時や軽い労作でも生じる胸痛や胸部圧迫感であり、持続時間や頻度が増加傾向を示す特徴があります。

胸痛の性質と特徴

不安定狭心症(UAP)における胸痛は通常の狭心症とは異なり、安静にしていても、胸の中央部や左胸部に強い圧迫感や締め付けられるような痛みが起こります。左腕や首、顎にまで痛みが広がることもあります。

痛みの持続時間は通常5分から30分程度ですが、1時間以上続くこともあります。

特徴詳細
部位胸の中央部や左胸部
性質圧迫感、締め付け感
放散左腕、首、顎など
持続時間5〜30分(時に1時間以上)

よく見られる随伴症状

胸痛と同時に、あるいは胸痛の前後に、以下のような症状が起こることがあります。

  • 呼吸困難
  • 冷や汗
  • 吐き気
  • めまい
  • 失神(まれ)

症状の変化と注意点

不安定狭心症の症状は、時間とともに変化する可能性があります。症状が悪化する場合、急性心筋梗塞へ移行するリスクが上昇します。

特に、以下のような変化が見られた場合は冠動脈の狭窄がさらに進行している可能性があるため、速やかに医療機関を受診することが大切です。

  1. 症状の頻度が急激に増加した時
  2. 痛みの強さが増した時
  3. 症状の持続時間が長くなった時
  4. 従来の対処法(例:ニトログリセリンの舌下)で症状が改善しなくなった時
注意すべき変化対応
症状頻度の増加医療機関に相談
痛みの強さの増加緊急受診を検討
持続時間の延長速やかに受診
従来の対処法が無効救急車の利用を考慮

不安定狭心症(UAP)の原因

不安定狭心症(UAP)は、主に動脈硬化による冠動脈の狭窄や血栓形成が原因で心筋への血流が不足し、胸痛などの症状が現れる病気です。

冠動脈プラークの特徴と役割

冠動脈プラークは動脈硬化の進行によって形成される脂質やコレステロールの蓄積物で、心臓の血管壁に付着します。通常、安定したプラークは心筋への血流を徐々に制限しますが、急激な変化を引き起こすことは珍しいです。

一方、不安定プラークは薄い線維性被膜に覆われており、内部に脂質コア(脂肪の塊)を含んでいます。このような構造が、プラークの破裂リスクを高める要因となっているのです。

プラークの種類特徴破裂リスク
安定プラーク厚い線維性被膜低い
不安定プラーク薄い線維性被膜高い

プラーク破裂のメカニズムと血栓形成

プラークが破裂すると、その内容物が血管内に露出し、血小板が活性化して血栓形成が始まります。形成された血栓は冠動脈の内腔を狭くしたり、完全に塞いだりして、心筋への血流を急激に減少させます。

この過程が、不安定狭心症の典型的な症状である、安静時や軽度の労作時に生じる胸痛の原因となります。

血栓の大きさや位置によって不安定狭心症の重症度が決まり、小さな血栓は一時的な狭窄、大きな血栓は完全閉塞につながります。

主なリスク因子

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 高コレステロール血症
  • 肥満
  • ストレス

冠攣縮の関与

冠動脈の攣縮(けいれん)も不安定狭心症の原因となることがあります。冠攣縮は、冠動脈の一時的な収縮であり、心筋への血流を急激に減少させます。

攣縮はプラークがある部位で起こりやすく、プラークの破裂を誘発します。また、攣縮自体が血栓形成を促進することもあります。

冠攣縮の特徴不安定狭心症への影響
一時的な収縮急激な血流減少
プラーク部位での発生破裂リスク上昇
血栓形成促進症状の悪化

不安定狭心症(UAP)の検査・チェック方法

不安定狭心症(UAP)の診断では、心電図や血液検査、心臓超音波検査、冠動脈CT検査、冠動脈造影検査などを実施し、冠動脈の狭窄や血栓の有無を調べます。

心電図検査

心電図検査は不安定狭心症の診断に欠かせない検査です。安静にしている時の心電図だけでなく、体を動かした時の心電図も記録します。

心電図所見意味
ST低下心筋虚血(心臓の筋肉に血液が十分に行き渡っていない状態)の可能性
T波の陰転化心筋障害の疑い
Q波心筋梗塞(心臓の筋肉の一部が壊死している状態)の既往

このような所見が認められた際は、不安定狭心症を強く疑います。

血液検査

血液検査では、心筋逸脱酵素や心筋トロポニンなどの心筋マーカーを測定します。また、コレステロールなどの脂質プロファイルや血糖値、炎症を示す指標なども確認し、心臓病のリスク評価に役立てていきます。

検査項目意義
心筋トロポニン心筋障害の早期発見
CK-MB心筋梗塞の診断
BNP心不全の評価

画像診断

冠動脈造影検査は心臓を栄養する冠動脈の狭窄や閉塞の程度を直接評価できるため、診断精度が高いです。

検査法特徴
冠動脈造影冠動脈の狭窄度を直接評価
心臓CT非侵襲的に冠動脈の状態を確認
心臓MRI心筋の虚血や瘢痕を評価
心エコー心臓の動きや構造を評価

不安定狭心症(UAP)の治療方法と治療薬について

不安定狭心症(UAP)の治療は、薬物療法(硝酸薬、β遮断薬、抗血小板薬など)による症状の緩和と、冠動脈造影検査による診断に基づいたカテーテル治療やバイパス手術などの血行再建術が中心となり、心筋梗塞の予防と心機能の改善を目指します。

急性期の治療

不安定狭心症の急性期治療では、速やかな症状緩和と心筋梗塞への進展防止が主な目標となります。まずは状態を評価し、心電図モニタリングや血液検査を実施し、検査結果を基に状況に応じた薬物療法を開始します。

薬剤分類主な効果代表的な薬剤名
硝酸薬冠動脈拡張ニトログリセリン
β遮断薬心拍数低下、心筋酸素消費量減少メトプロロール
抗血小板薬血栓形成抑制アスピリン
抗凝固薬血液凝固阻害ヘパリン

長期的な薬物療法

急性期を脱した後も、再発予防のため継続的な薬物療法が必要です。長期的な治療では、以下の薬剤を中心に管理を行います。

• アスピリンなどの抗血小板薬
• スタチン系薬剤(コレステロール低下薬)
• ACE阻害薬またはARB(血圧管理薬)
• β遮断薬(心拍数をコントロールする薬)

侵襲的治療

薬物療法だけでは症状のコントロールが難しい場合や、冠動脈の狭窄が高度な場合には、侵襲的治療を検討します。主な侵襲的治療には以下のようなものがあります。

治療法適応治療の概要
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)局所的な冠動脈狭窄カテーテルを用いて狭窄部位を拡張
冠動脈バイパス術(CABG)多枝病変や左主幹部病変狭窄部位を迂回する新しい血管を作成

不安定狭心症(UAP)の治療期間

不安定狭心症(UAP)の治療期間は通常4〜8週間程度必要ですが、個々の状態や合併症の有無によって個別に調整します。

初期治療と安定化

不安定狭心症(UAP)の治療では、まず急性期の管理が重要です。症状の安定化と再発予防に焦点を当て、状態を24時間体制で監視し治療を行います。

初期治療は1〜2週間が目安となり、薬物療法や必要に応じて侵襲的治療(カテーテル治療や手術など)を行います。

初期治療の主な内容目的
薬物療法症状の緩和と再発予防
侵襲的治療狭窄した冠動脈の拡張
継続的モニタリング状態の把握と早期対応

回復期の管理

急性期を脱した後は回復期(約2〜4週間)に入ります。回復期では、患者さんの体力や心臓の状態に応じて、徐々に活動量を増やしていきます。同時に、生活習慣の改善や再発予防のための指導も行います。

回復期の主な目標期間の目安具体的な内容
活動量の増加1〜2週間歩行練習、軽い運動
生活習慣の改善2〜3週間食事療法、ストレス管理
再発予防の指導1〜2週間服薬指導、自己管理法

段階的な社会復帰

治療の最終段階では、患者さんの社会復帰を支援します。4〜8週間をかけて段階的に進め、回復状況や職業、生活環境に応じて徐々に活動範囲を広げていきます。

社会復帰の段階期間の目安主な活動内容
軽作業の開始2〜3週間デスクワーク、短時間勤務
通常業務の再開3〜4週間通常の仕事内容、時間制限あり
フルタイム勤務4〜8週間通常勤務、残業制限あり

各段階の移行は、患者さんの回復状況を評価しながら決定します。無理をせず、体調の変化に注意を払いながら、徐々に活動量を増やしていくことが重要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

不安定狭心症(UAP)の治療には、薬物療法や侵襲的処置に伴う副作用やリスクがあります。

薬物療法における副作用

薬物療法では、抗血小板薬や抗凝固薬による出血リスクに特に注意が必要です。

また、β遮断薬(心臓の拍動を抑える薬)やカルシウム拮抗薬(血管を広げる薬)などの抗狭心症薬も、血圧低下や徐脈といった副作用が起こる可能性があります。特に高齢者や心機能低下患者の場合には、慎重な投与が必要です。

薬剤分類主な副作用注意点
抗血小板薬出血、胃腸障害定期的な血液検査が必要
抗凝固薬出血、肝機能障害出血傾向に注意
β遮断薬徐脈、低血圧、気管支収縮喘息患者には慎重投与
カルシウム拮抗薬浮腫、頭痛、便秘高齢者では転倒に注意

侵襲的治療に伴うリスク

冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)などの侵襲的治療には、一定のリスクが伴います。

PCIでは造影剤による腎機能障害やステント留置後の再狭窄、血栓症などが問題となり。稀ではありますが、冠動脈穿孔(血管に穴が開くこと)や解離(血管の層が剥がれること)といった重大な合併症も報告されています。

CABGは開胸手術を要するため、感染症や出血、術後の心房細動など、より広範囲な合併症のリスクがあります。

治療法主なリスク発生頻度
PCI再狭窄、血栓症5-10%
CABG感染症、出血、不整脈2-5%

薬物相互作用と併存疾患の影響

不安定狭心症の方は、多くの場合、高血圧や糖尿病などの併存疾患を有しています。そのため、併存疾患に対する治療薬と、不安定狭心症の治療薬との相互作用に注意が必要です。

併存疾患注意すべき薬物相互作用潜在的な問題
高血圧ACE阻害薬とカリウム保持性利尿薬高カリウム血症
糖尿病インスリンとβ遮断薬低血糖の症状マスク
慢性腎臓病メトホルミンと造影剤乳酸アシドーシス
気管支喘息β遮断薬と気管支拡張薬喘息発作の誘発

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

不安定狭心症(UAP)の治療は、一般的に入院治療が必要となり、高額な医療費がかかります。保険が適用されるため、自己負担額は軽減されます。

入院治療にかかる費用の目安

項目概算費用
入院費(1日あたり)25,000円〜35,000円
薬剤費(1日あたり)7,000円〜12,000円
PCI(1回あたり)180万円〜230万円

外来治療の費用

項目概算費用
心臓超音波検査8,000円〜12,000円
負荷心電図検査6,000円〜9,000円
処方薬(1ヶ月分)15,000円〜25,000円

高額療養費制度

高額な治療費がかかる場合、高額療養費制度により経済的負担を軽減できます。この制度では、月ごとの医療費の自己負担額に上限が設けられており、それを超えた分は後日払い戻されます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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