冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう, Coronary spastic angina)とは、心臓を養う冠動脈が突然異常に縮むことで起こる病気です。この急激な収縮により心臓への血液供給が一時的に滞り、胸の痛みや締め付けられるような不快感を引き起こします。

症状は体を休めているときや夜中に出現しやすく、多くの場合、数分間で自然と和らぎます。通常の狭心症と違い、冠動脈に目立った狭窄がなくても症状が現れることが特徴です。

目次

冠攣縮性狭心症の症状

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の主な症状は、胸部の痛みや圧迫感、息苦しさなどで、安静時や夜間に突然現れるのが特徴です。

代表的な症状

冠攣縮性狭心症では、胸の中央部や左側に強い痛みや圧迫感が起こり、喉や顎、左腕にまで症状が広がることがあります。

また、息苦しさや冷や汗、吐き気といった随伴症状を伴う場合もあります。

一般的に症状は5〜15分程度続き、その後自然に消失することが多いです。

症状の傾向

  • 持続時間:数分から15分程度
  • 頻度:週に数回から毎日
  • 発作の間隔:不規則

症状の出現時間帯

冠攣縮性狭心症の症状が現れる時間帯には、特徴的な傾向があります。多くは夜間から早朝にかけて症状が起こり、特に深夜0時から午前8時までの間に発作が起こりやすくなります。

これは通常の労作性狭心症(運動時に症状が出やすい狭心症)とは対照的であり、冠攣縮性狭心症の診断において重要な指標となります。

時間帯症状の特徴
夜間〜早朝最も発作が起こりやすい
日中比較的発作が少ない
安静時症状が出やすい
運動時症状が出にくい

見逃してはならない危険な症状

冠攣縮性狭心症の症状の中には、早急な医療介入が必要なものがあります。以下のような症状が現れた場合、直ちに医療機関を受診するようにしてください。

  • 20分以上続く激しい胸痛 →即時受診
  • 呼吸困難や冷や汗を伴う重度の胸痛 →救急要請
  • 失神や意識消失 →緊急搬送

冠攣縮性狭心症の原因

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の原因は、冠動脈(心臓に血液を供給する動脈)の異常な収縮により、一時的に血流が減少することです。

血流が減少すると心臓の筋肉に十分な酸素が行き渡らなくなり、胸痛などの症状が起こります。

冠動脈の異常収縮のメカニズム

冠攣縮性狭心症は、冠動脈の壁にある平滑筋(血管を収縮させる筋肉)が過剰に収縮することで発症します。

通常、血管内皮は血管を拡張させる物質を分泌していますが、その機能が低下すると血管が収縮しやすくなり、冠攣縮性狭心症の発症リスクが上昇します。

この過剰収縮の原因は、血管内皮の機能障害や自律神経系のバランスの乱れによるものだと考えられています。

冠攣縮性狭心症のリスク要因

リスクファクター影響
喫煙血管内皮機能の低下と酸化ストレスの増加
精神的ストレス自律神経系のバランスの乱れと血管収縮
過度のアルコール摂取血管収縮作用と自律神経系への悪影響
寒冷刺激血管収縮の誘発と交感神経系の活性化

炎症と酸化ストレス

近年の研究では、慢性的な炎症や酸化ストレス(体内で発生する有害な活性酸素による障害)が冠攣縮性狭心症の発症に関係していることが分かってきました。

関連因子影響
慢性炎症血管内皮機能の低下と血管壁の変性
酸化ストレス一酸化窒素の不活性化と血管収縮
活性酸素種血管平滑筋の過剰収縮と組織障害
抗酸化物質の不足血管保護機能の低下と炎症の促進

抗酸化作用のある食品を積極的に摂取したり、規則正しい生活リズムを保つことで炎症や酸化ストレスは軽減できます。

冠攣縮性狭心症の検査・チェック方法

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の診断では、24時間心電図検査や薬剤による負荷試験のほか、心臓カテーテル検査を用いた発作誘発試験などを実施します。

代表的な検査

検査名何がわかるか
24時間ホルター心電図1日中の心電図の変化
運動負荷心電図運動で心臓に負担をかけた時の変化
心エコー検査心臓の動きや壁の異常

発作が起きている時の心電図では、ST部分(心電図の波形の一部)が一時的に上昇しますが、発作と発作の間の時期には普通の心電図になることが多いです。

冠動脈造影検査

冠動脈造影検査では、カテーテルを血管の中に入れて、造影剤を冠動脈に流し込み、レントゲンで撮影します。

普通の冠動脈造影では、血管が狭くなっているところがあまり見つからないことが多いので、薬を使って冠攣縮を起こす検査も一緒に行います。

冠攣縮が起きた時の変化内容
冠動脈の様子一部分が狭くなったり詰まったりする
心電図の変化ST部分が変化する
患者さんの症状胸の痛みが再現される

上記のような変化が見られれば、冠攣縮性狭心症と診断できます。

また、冠攣縮性狭心症と似た症状を示す危険な病気(急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症など)がないかどうかについても、確認することが重要です。

冠攣縮性狭心症の治療方法と治療薬について

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の治療は、主にカルシウム拮抗薬などの薬物治療により冠攣縮を抑え発作を予防することが中心で、手術は通常必要ありません。

薬による治療の基本

冠攣縮性狭心症の薬による治療では、カルシウム拮抗薬(冠動脈を広げる薬)と硝酸薬(狭心症の発作を抑える薬)を主に使用します。

カルシウム拮抗薬は冠動脈の攣縮を和らげ、血管を広げる効果があります。硝酸薬は即座に効果が現れるため、発作時の症状を和らげるのに有効です。

薬の種類主な働き
カルシウム拮抗薬冠動脈の攣縮を予防
硝酸薬発作時の症状を即座に緩和

日々の生活習慣の見直し

薬による治療と並行し、生活習慣を見直すことも治療の一環として欠かせません。特に以下の点に気をつけることが大切です。

  • たばこを吸わない
  • 適度に体を動かす
  • ストレスをためないようにする
  • バランスの良い食事を心がける

冠攣縮性狭心症の治療期間

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)は、治療開始から症状が落ち着くまで数週間から数か月かかり、その後も一生涯にわたって継続的な管理が必要となります。

治療期間の目安

初期治療では薬による治療を中心に行い、症状を安定させることを目指します。2〜3か月程度の期間がかかることが多いですが、症状が完全になくなるまでにはさらに長い時間がかかります。

治療段階期間主な目標
初期治療2〜3か月症状の安定化
継続治療数か月〜数年症状の消失と再発予防

長期的な管理の必要性

冠攣縮性狭心症は、完全に治すことが難しい病気です。そのため、症状が落ち着いた後も長期的な管理が必要です。

管理項目頻度目的
通院1〜3か月ごと症状の確認と治療調整
検査6か月〜1年ごと心臓の状態評価
生活習慣改善毎日再発リスクの低減

治療を始めてからは、定期的に効果を確認し、必要に応じて治療内容を見直します。

一度症状が落ち着いても再び悪化するリスクがあるため、再発を防ぐためには、薬による治療を続けながら生活習慣の改善を維持することが大切です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の治療薬は、血圧低下や頭痛などの副作用が出ることがあります。また、全ての患者さんに効果があるとは限りません。

カルシウム拮抗薬の副作用

カルシウム拮抗薬には、頭痛や顔面紅潮、めまいなどの副作用があります。また、足のむくみや便秘といった症状が起こる可能性もあります。

副作用症状対処法
頭痛拍動性の痛み用量調整、鎮痛剤の使用
顔面紅潮顔が赤くなる経過観察、必要に応じて用量調整
めまいふらつき感起立時の注意、症状持続時は医師に相談
足のむくみ足首や足の甲の腫れ足を高くして休む、塩分制限

硝酸薬使用時のリスク

硝酸薬には急激な血圧低下や失神のリスクがあるため、特に高齢者や血圧が低めの方は慎重に投与します。また、長期使用による耐性の発現にも注意が必要です。

β遮断薬の使用における留意点

β遮断薬には、気管支喘息の悪化、末梢循環障害、徐脈(心拍数が遅くなること)、うつ症状の誘発などの副作用があります。

副作用症状注意点
気管支喘息の悪化呼吸困難、喘鳴喘息の既往がある場合は使用を避ける
末梢循環障害手足の冷え、しびれ四肢の状態を定期的に確認
徐脈脈が遅くなる脈拍数を定期的に測定
うつ症状気分の落ち込み、意欲低下精神状態の変化に注意

抗血小板薬のリスク

抗血小板薬は血栓形成を予防する効果がありますが、出血のリスクが高まります。特に高齢者や消化器疾患の既往がある方は、出血リスクが上昇する傾向があります。

• 消化管出血のリスク増加
• 脳出血の可能性
• 皮下出血が起こりやすくなる
• 手術時の出血量増加 など

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の治療は健康保険が適用されます。通常は医療費の3割が自己負担となりますが、高額療養費制度の利用により一定額以上の負担を軽減できます。

外来診療にかかる費用

外来診療では主に以下の項目で費用が発生します。

  • 血液検査費用
  • 心電図検査費用
  • 薬剤費

月に1〜2回の通院の場合、おおよそ5,000円から15,000円程度になります。

検査費用の内訳

検査項目概算費用(3割負担の場合)
心電図検査1,500円〜2,500円
血液検査2,000円〜5,000円
胸部レントゲン1,000円〜2,000円
心臓超音波検査3,000円〜6,000円

入院が必要な場合の費用

症状が重い場合や、精密検査が必要な際には入院が必要になります。入院費用は病院や入院期間によって大きく異なりますが、一般的な費用は次のとおりです。

項目概算費用(3割負担の場合)
入院料(1日あたり)3,000円〜6,000円
食事療養費(1日3食)1,000円前後
各種検査費用10,000円〜50,000円

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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